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心 その19・日本国の足跡と日本人の性格  ESPECIAL ! 

§1 ユヴァル・ノア・ハラリ

ヴァル・ノア・ハラリというイスラエル人の歴史学者の名前を耳にしたことがありますか。年齢も現在45歳(2019年現在)と若く、2年半前の2016年9月に「サピエンス全史(上)(下)」を初版発行し、1年半後の2018年9月には続編「ホモ・デウス(上)(下)」を発行し、この4部作の売り上げ部数が全世界で1000万部を超えようかという勢いのベストセラー本を書いた人物です。ちなみに、「サピエンス全史」は2017年の「ビジネス書大賞」を受賞しています。
 ハラリ氏は歴史学者として、有史の人類の進化を振り返り、21世紀のこれからと、近未来に於ける人類はどのようになるのかを、人類の科学技術の進化、政治、経済(資本)、社会情勢、人心の変遷などを推測しながら、彼なりの理論を展開しています。その内容を掻い摘まんで説明しますと、「サピエンス全史」では、人類が文明を築き、世界を征服した鍵は「虚構」を集団で信じるホモ・サピエンスの能力にあったことを説き、「ホモ・デウス」では、未来においてこれらの「虚構」が人工知能や遺伝子工学といったテクノロジーと合体した時、人類は何を求め、何のために生き、そして未来の世界に何が起きるのかを示唆している書物です。
 私が本編「心」の構想を考え始めた2017年初頭の頃に、この4冊の本が出版されましたので、彼の着想や理論を参考にしてきました。特に、人類の未来予測をしている「ホモ・デウス」により興味を持ちました。人類は健全に進化していくために、21世紀初頭の世界をもっと綿密に眺め、その上で、今後数十年間に人類が取り組むべき事柄を考えることが必要であるということが書かれているのですが、その内容には考えるヒントが沢山ありました。「虚構」の対義語は「真実」ですが、確かにホモ・サピエンスの進化は虚構の上に成り立っているのかもしれません。
 約20〜10万年前、地球上には、アウストラロピテクスを先祖に持つ、少なくても6種類のホモ属の人種がいました。半世紀前の中学校の歴史の授業では、ネアンデルタール人からホモ・サピエンスは進化したと教わったような気がするのですが、ホモ・ネアンデルターレンシスとホモ・サピエンスは異なる種であったことが、現在では証明されています。火を使うことを覚え、強い武器を作り出すことによって、ホモ・サピエンスは他の5種のヒトよりもひ弱な身体能力で、アフリカ大陸サバンナ地帯の負け組の立場だったのですが、地球の各地に進出し、現在では地球の生死(運命)を決定付ける程の影響力を持つようになったということが、小説よりスリルに満ち溢れた物語りとして書かれています。
 ホモ・サピエンスの今日までの人口は77億人超となり、地球の生物界の独裁者までになった要因を3つ上げています。1つ目が、前述した「虚構」です。すなわち、架空の事物について語る能力を身に付け、大規模な協力体制を築き、急速に変化していく環境に対応できるようになったということです。これを「認知革命」と名付けています。2つ目は、「農業革命」です。それまでは、人類にとって単純に肯定的な技術革新と捉えられていましたが、一般的な農耕民にとっては、むしろ狩猟採集よりも苦労したのではないかと筆者は述べ、結果として農業による収穫が爆発的な人口増加をもたらされたことは、紛れもない事実であるとしています。最後の3つ目は、約500年前に始まった「科学革命」です。科学は研究室の中だけで完結するものではなく、現在ではあらゆる社会の営みから切り離せない存在になっていて、帝国社義と資本主義こそが、今日の科学を作り上げたと主張しています。詳細は後述するつもりでいますが、科学の進化、取り分け、電子分野でのA I(人工頭脳)と I T(情報技術)は日進月歩の速さで新開発が続いています。しかし、個人的には、将来に向けての人類の「心」・「知性」・「健康」にとっては、負の影響のが大きくなるだろうと危惧しています。
 近世からの世紀ごとに、歴史学者がその特色を示す「時代名称」を、『心・その10』で書きました。それは、
  14世紀は、ルネサンス、宗教改革の時代
  15世紀は、大航海の時代
  16世紀は、絶対主義の時代
  17世紀は、民主化革命の時代
  18世紀は、産業革命の時代
  19世紀は、帝国、植民地の時代
  20世紀は、世界大戦、資本主義の時代というものでした。これらの名称からも、各世紀に、人類の心(本意)が垣間見える気がします。
 21世紀は、科学革命、地球大転換の時代となるであろうと言われています。「地球温暖化」、「資本主義崩壊」、「格差の拡大」、「知性、品位の低下」の世紀になるであろうという言葉が、それぞれの分野の専門家たちの間で唱えられています。程度の差こそあれ、そのような将来が訪れるということは、時事問題、世界情勢、社会の風潮、時代の変遷をある程度注視していれば、私のような素人でも、人類の将来はキナ臭い方向に動いているという危惧を感じてしまいます。「これからは進化し続けるであろうA I と人類との葛藤の世紀」になると推察してしまいます。
 ハラリ氏は1976年にイスラエルで生まれ、東欧にルーツを持つユダヤ人の家庭で育ちました。1993年〜98年の間、ヘブライ大学で地中海史と軍事史を学び、その後オックスフォード大学のジーザス・カレッジに進み、Steven J. Gunnに師事して2002年に博士の学位を取得しました。2000年、オックスフォード在住中にヴィパッサナー瞑想を始め、そのことが「人生を変えた」と語っています。2003〜05年にかけてヤド・ハナディヴのフェローとして、博士研究員の立場で歴史学を研究し、その頃から主として軍事に関する多くの著書や記事を執筆するようになります。現在の専門は世界史とマクロ・ヒストリー(歴史の究極的な法則性を探求し、長期的・巨視的な傾向を見いだそうとする学問)です。
 彼のルーツがユダヤ人であったことが、歴史への関心に繋がったのかもしれないと、個人的且つ勝手な考えをしています。第2次世界大戦のヒットラーの「白人は世界で一番優秀な人種であり、ユダヤ人との混血で汚してはならない。」という発想から、アウシュビッツなどの強制収容所に入れられたユダヤ人が大量虐殺されたという悲惨な歴史があります。しかし、そこにはユダヤ人を殺害しなくてはいけないという根拠は何もありません。むしろ、歴史に残るユダヤ系人物には、マルクス(経済学)・アインシュタイン(物理学)・ハイネ(詩人)・メンデルスゾーン(音楽家)などがいます。ノーベル賞を受賞したユダヤ人は70名近くいて、他の民族と比較しても、圧倒的多数を占めています。「ユダヤ人は悪魔の子」という古くからの反ユダヤ人感情が、現代社会まで根深く残っています。彼は有志以来の人類の歴史に関する膨大な書物を読んだことの一つに、自分のルーツを知りたかったことがあったのでしょう。それを補強するために、人類の進化に大きな影響を与えた道具、宗教、政治、経済、科学などの書物も数多く読んだに違いありません。それらを有機的に結びつけ、「サピエンス全史(上)(下)」、続編の「ホモ・デウス(上)(下)」の4部作を書き上げたのでしょう。
 ハラリ氏はホモ・サピエンス有史以来の多数の歴史書だけでなく、歴史を動かしてきた哲学、宗教、政治、経済、科学などの書物も、骨組みを補強するために読破し、それを考察し、土台として、人類の進化は、「虚構」、「農業革命」、「科学革命」が土台にあり、善悪は別として帝国社義と資本主義こそが、今日の科学を作り上げたと主張しているのだと思っています。一方、私は田舎塾の塾長を細々と50年余続けて生きてきた一介の小市民です。彼のように地球全体を考察するのは無理です。彼の手法を参考に、日本人(あるいは日本国)に限定して、縄文時代、すなわち現在の日本列島がユーラシア大陸から分離した6,000〜7,000年ほど前から(正しくは、分裂したわけではなく、氷河が溶けて大陸と何度か切り離されたのですが)、その辺りから今日までの時代ごとの風土、環境、体制を顧みながら、今日までの日本人(倭人)の性格形成を考察してみます。参考までに、我が国が倭から日本になったのは、国内の資料からはいつなのかはっきりと記されたものがありません。中国の王朝「唐」時代に「倭」と「日本」を併記したものが、歴史書「旧唐書」に出てきます。そのことから唐代に「倭」が「日本」になったということが定説になっているようです。それは西暦701年頃から(8世紀初頭、あるいは奈良時代から)のことです。

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