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心 その12・知脳と心象(心理・心相) ESPECIAL !

年('17年)の正月、元気なうちに自分の所有物や塾の整理をしなくてはいけないという意識を強く持ちました。背後から忍び寄る「死」に追いつかれないうちに、それらのことをしておきたいと考えました。「立つ鳥跡を濁さず」という故事がありますが、命を閉じる時には、自分の心の中と生活してきた空間の整理はしたいという思いは、漠然とではありますが、ありました。私の場合、両親が3年半の間に母、父と続けて亡くなりましたので、遺品の整理が大変でした。特に父親は収集の趣味があり、妹と二人で相談しながら、捨てる物、残しておく物などを相談しながら、合意の上で片付けをしていくのにかなりの時間を要しました。
 そして、もう一つ父親の死後に、妹から父親がエンディング・メッセージを書き記していたことを知らされました。妹には生前に知らせていたようですが、私は初耳でした。父が文章、絵画、工芸が好きであることは知っていましたが、死の前日、父から病室で直接口頭で5項目の遺言を聞かされていて、その中にエンディング・メッセージことはありませんでしたので、多少の驚きがありました。何と10万字に上るボリュームでした。あれから20数年たち、この「心」シリーズを書きあげたら、もう一度読んでみたいと思っています。そして自分も、そのようなものを書き記しておきたいという思いが湧き上がりました。
 2017年11月に最後の塾生の指導を終了し、その際、最初に頭を過ぎったことは、半世紀という時間の長さと、MPSを創立した際に掲げた「心・知・体」と「The spirit of Morality, Pleasure and Sincerity」という言葉でした。若気の至りとはいえ、とんでもない高尚な言葉をキャッチフレーズにしたものだと恥じ入る思いです(笑)。
 両親からの遺伝子、就学するまでの家族の躾や愛情、血族、地域などの環境を土台に、性格の萌芽が形成され、就学後からは学生時代の環境、交友、恋愛などを中心にした経験が加味されて、20歳くらいまでに各人の個性は大まかに出来上がります。人格、品格、人間性などと呼ばれている言葉は、その人の経験、知能、心象などが連携して出来上がったものだと考えています。その頃になると、私のような人間でも何となく人生や将来を考えるようになり、それまでの自分の人生を顧みて、生徒と一緒に自分自身も成長できたらと思い、そのような言葉を考え付いたのかもしれません。半世紀前のことなのではっきり覚えていませんが、おそらくこれから先の人生を充実させるにはどうしたよいか考察した時、勉強だけでなく、「心」すなわち人格形成と、人生を享受することも人生には必須だと気付いたのかもしれません。
 そこで、「心」についてのエッセイを書くことが、これまでの家族、友人、塾卒業生への感謝の気持ちとして一番と考えました。生命の誕生、遺伝子、家族構成、幼児期の躾、青春期あるいは成人になってからの邂逅など、「心」に影響を与えるであろう、あらゆる分野の専門書を読みました。また、「幸福論」「人生論」の類のエッセイを読むのは好きでしたので、本棚からその種の本も何冊か引っ張り出して読み直しました。
 内容について、要約的、かつ具体的にどの部分を掘り下げた内容にしようか、私なりに折に触れ、考え続けてきました。書きたいことの青写真は大まかに決まっていたのですが、それらのことを文字化すると、「心」について述べることがいかに多く、どんなに深く語っても、次から次へと考察しなければいけないことが増えていってしまいました。増えていくと、その度に構成を組み立て直さなくてはいけない状況を繰り返しました。
 65歳を過ぎてからの自分自身の日常を顧みると、もうそれ程長い余生は残されていないなと感じています。それから5年経ってしまったので、その余生の1/3位は使ってしまったかもしれません。体の衰退は累進的に加速し続けています。特に古希を迎えてから、その症状は重度化しています。その反面、心と脳と体が人並みに動く間に、前述したようないくつかのしておかなければいけない非日常的仕事が残っているのではないかという、脅迫概念にも似た不安感もあります。
 それらは誰もがしなければいけないというものではないのですが、「自分の人生は幸せだった」という感謝の気持ちのひとつとして、整理しておきたいこと、書き残しておきたいことがあるのです。また、健康であるうちはできる限り長く続けたいゴルフや旅のような趣味もあります。今でも定期的に会っている卒業生とも耄碌しないように努め、少しでも長く美味しい酒を酌み交わしたいと思っています。これらのことはボケ防止にもなります。「心・知・体」の退化に少しでも抗うためにも、日常生活の中で感動、駆動、運動を意識的に働かせるように意識しています。
 私が本格的に人生を考え出したのは、大学生になってからで、小説、随筆など、関心のある分野の専門書などを多少は読むようになってからです。しかし、漫画だけは現在まで好きになれませんでした(笑)。大学受験の際、苦手科目「国語」克服のため、当時の大学入試問題出典の多い作家の作品を多く読みました。伊藤整、大岡信、亀井勝一郎、外山滋比古、志賀直哉、島崎藤村、芥川龍之介、そして夏目漱石などです。小林秀雄も入試問題頻出作家の一人でしたが、彼の文体は難解で、後年、全集まで購入したのですが、挫折しました(笑)。
 前述した小林秀雄以外の作家たちの本は、大学生時代に好んで読みました。他にも、日本の三大随筆と言われている清少納言の「枕草子」、鴨長明の「方丈記」、兼好法師(卜部兼好)の「徒然草」、そして、世界の三大幸福論と言われているヒルティの「幸福論」、アランの「幸福論」、ラッセルの「幸福論」も読みました。今、振り返ってみると、特に「徒然草」とラッセルの「幸福論」は、その後の私の人生観、価値観の礎になったように思っています。
 バートランド・ラッセルは1950年にノーベル文学賞を受賞している、イギリスの哲学者、論理学者、数学者で、社会批評家、政治活動家としても活躍しました。MPSの高校の部に在籍していた人にとっては、「英文解釈」の教科書に、彼の文章は頻繁に引用されていて、何となく記憶している人もいるかもしれません。私自身にとっては、大学受験勉強だけでなく、大学の授業でもラッセルの原書 "Has man a future ?"がゼミの輪読の教材になるという奇遇もありました。
 書物からでも運が良いと、このようにその後の人生に少なからず影響を与えてくれるようなことがあります。しかし、基本は20歳前後からの人との交わりです。「類は友を呼ぶ」、「似た者夫婦(or同士)」、「同じ穴のムジナ」などという諺があるように、似たような性格の人間は引き合うように、親しい間柄になっていくものです。人生観、価値観、美意識、趣味によって、親しく、且つ永く付き合う関係は自然に決定されていくようです。男女の関係はこの定義から逸脱することが多々ありますが…(笑)。

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