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少子化を考える

年の出生率が、過去最低であった平成17年の1.26から3年連続で上昇し1.37になった。しかし、その数字は微増で少子化に歯止めがかかったと言えるほどではない。現に、今年4月1日現在の人口推計によると、15歳未満の子供は昨年より11万人少ない1714万人で、昭和57年から28年連続で減少して過去最少を更新している。総人口に占める子供の割合も13.4%で世界最低水準にあり、1年間の出生児数は死亡者数より5万人少なく、日本は完全に人口減少国に突入した。
 数字に甘い総務省の楽観的予測であるが、日本の人口は5年後には年間50万人の減少になり、年々加速していき2050年には7500万人に、2100年には5000万人になるという。実際には、この数字より減少幅は大きくなることが予測され、最悪の場合、総人口ピーク時の1/3以下にあたる4000万人前後になるという低位データもある。
 経済面・生産面において、人口の減少は消費や流通の縮小から社会活力を失わせ、デフレにもなりやすくなる。世代間の支えを基盤とする社会保障制度維持もより一層厳しくなる。そのため政府は少子化の歯止めに躍起になり、少子化担当大臣まで作っている。赤字国債を多発している政府は、経済活動が収縮することによる税収の落ち込みと貨幣価値の下落を何よりも懸念している。1950年代後半から70年代前半の高度成長期のインフレの再現を期待し、赤字国債の目減りを当て込んでいる。
 果たして、現行のような小手先の政策や付け焼き刃の支援で少子化は防げるのだろうか。財政逼迫の中、長期にわたり施行されなければ効果の上がらないこの問題を、予算のばら撒きだけで続けていけるのだろうか。私はもっと大きな視野での発想が必要であると考えている。動物行動学、心理学、さらには社会規範、組織、あるいは少子化対策とは一見かけ離れていると思える法制度など広汎な再構築や改革が必要である。現代では結婚・子育ての社会的意識も大きく変わってきている。結婚するとか、子供を生むとかということは、個々の人生観を基に社会情勢や国の将来を加味して決める人間が多くなっている。
 そもそもが、この地球上に平均体重60〜70Kgで70億を数える動物は人類の他にいない。人類は「地球の王様は我々だ」と位置づけ、自らの幸せ、欲望のために経済、産業、科学を発展させてきた。多くの動植物を殺し、地球を汚してきた。そして、科学の恩恵、権利の獲得、頭脳の進化の副作用から、心と体の退化を始めた。
 「諸行無常」「盛者必衰」は平家物語の有名な言葉であるが、一部の富める者の投資、投機による日本のバブル景気やアメリカのサブプライムローン過熱の繁栄は、その崩壊によってツケがちゃんと我々庶民に降りかかってきた。人類の欲の行動が許容範囲を超えると後遺症を残す。少子化問題も同じで、政治家の無策、役人の体質からここまで進むと、次世代へとそのツケは回ってくる。少子高齢化社会の来ることは、少なくても30年前からわかっていたことであるし、保険・年金問題もそのまま行けば破綻することはわかっていたはずである。
 人は具体的な誰かの視線ではなく、「公平な観察者」の視線を意識して行動し、他者の行動の適宜性を判断することにより、社会はある種の秩序を持ってまとまっている。このように社会は「同感」を基にして成り立ち、「慈善」をはじめとした相互の愛情がなくとも成り立ちうる。これはアダム・スミスの言葉である。
 1980年代のバブル期の前までは他人の内側に「世間」というカテゴリーが残っていた。親戚にも地域にも、口煩いおばさん、おっかないおじさん、あることないことを喋り回るスピーカーがいた。そのような人は大方嫌われてはいたが、そのような周りの目を意識して生きることが、自分を律することにもなった。人様に迷惑を掛けてはいけないという生きていく上での基本を学んだような気がする。反面教師としての必要悪の存在があった。
 時を経るごとに、世の中には黒に近い灰色の心の持ち主が増えてきた。個人だけでなく、政府も、自治体も、会社も、自分さえよければいいという風潮の中で、愚直に清廉に生きている人、理不尽な法の下で懸命に耐えて生きている人が報われない世の中になってきた。このことは遠因ではあるが、少子化の根源であると考えている。このような忍耐やモラルの低下が社会を住み難くしている。
 さらに日本国の借金(国債及び借入金債務)は1000兆円あり、毎秒35万円ずつ増えている。今回の補正予算の14兆円は、1年の日本国の借金の利子とそれほど変わらないという事実を突きつけられたら、どんなoptimistも心が凍るはずである。このように日本国の借金は異常な規模にまで膨れ上がっている。返すメドすら立たぬこの借金は、すべて我々の子孫に付け回される。「お金万能」の社会はますますギスギスしたものになり、犯罪は増え、嘘も多くなり、人を信じられなくなり、人の心は荒んでいくばかりとなる。
 年収400万円のアラサー夫婦がいる。幸せなことに、親からの支援もあって一応土地付きの一戸建てを所有しているが、借金は5000万円あり、年間支払い利子は250万円を超える。日本国をこのように一家庭に置き換えたなら、このような数字になる。そのような生活状況の中で何人もの子供を産む気になれるだろうか、という話である。さらに厳しくなることが予測される中、人は安心して子供を産み、育てることができるだろうか。
 日本の国・自治体の借金地獄は消費税を100%に引き上げても解消されないと言われている。これだけの借金をしたにもかかわらず私たちの生活は苦しくなるばかりである。エコーカー減税も高速道路割引も省エネ家電のエコポイントも借金でしていることであり、結局は一部の金持ちや大企業が恩恵を受け、そのツケは全て国民に回ってくる。この危機に率先して立ち向かうべき国と地方の議員や役人は我関せずで、彼らは税金を自分たちの金と思い込み、無駄遣いも一向になくならない。庶民には考えられないような無責任、無神経が横行し、役人だけが太っていく。自分たちの小遣い(予算)が不足したら、伝家の宝刀、税改正と赤字国債発行がある。
 国民は政治家の無能、官僚主義、税金の無駄遣い、公務員法の弊害に呆れ果てている。マスコミの煽動、企業のコンプライアンスの欠如などの不満も数え挙げたらキリがない。しかも資源のない貿易立国日本は国際競争にも勝たなくてはいけない。地球の危機も救わなければいけない。考えれば考えるほど、日本の未来は暗く、まさに八方塞の袋小路である。
 社会全体のモラルばかりでなく、親世代の人間性が低ければ、その子供たちの未来社会は不幸になる。まず、親世代がそのことに気付いて、立ち上がらなくてはいけない。私たちのような年寄りに任せるのではなく、もっと見識を深め、社会を変えていくのだという気概が欲しい。それなのに、言動に問題がある大人が多い。参政権の唯一の命綱と言ってよい選挙に行かない成人も多い。生みっぱなしの無責任な親、親バカを通り越したバカ親も多くなっている。
 このような社会になると、義務不履行の罰則化、刑法の強化、公務員の大胆な削減と規律、消費税20%、健常者への優遇、保険・年金制度の抜本的改革、不正受給の多い生活保護の厳格化、人道的見地という大義名分の見直しなど逆転の発想も必要になってくる。このようなことを言うと、全体主義だ、個の画一化だ、弱者への差別だ、と言う不平分子の声が聞こえてくるが、日本人の心はここまでしなくては治せない末期症状にきている。まずは国民一人一人の1割増の気配り、1割増の我慢、1割増の実行である。その意識が地域を、日本を住みやい社会にすると考えている。(本当は3割増あたりから始めないと、日本はよくならないと考えているが、とりあえずは第1歩から…。)それを次世代に引き継がせることも親の責務である。
 60年生きてきて、人生にとって大切なものは何であったか振り返ってみると、個においては健康と自由、公においては安全(安心ではない)と公正(平等ではない)という言葉が上位に浮かぶ。長々と御託を並べてきたが、要するに「わが子にもこの地球上で人生を謳歌して欲しい。」と思える社会なら、子供の数は自然に増えていくということである。潤いのある未来のある平和な社会こそ、子供たちの渇望する日本であり、地球である。出生率は現状と未来社会に対する親世代の心の数値である。
 
【付記】
 日本の国土は狭く、しかも平地が少ない割には人口過多で、この機会に人口密度の適正化を計る必要もあると考えている。人口減少移行期には社会保障や経済などの危機や世代間格差が懸念されるが、都市部の過密、食糧問題、地価、住環境や自然環境などは改善される。オーストリアの動物学者、コンラート・ローレンツは「文明化した人間の8つの大罪」という本の中で、人口過剩と生活空間の破壊は日常生活に大きなマイナス作用を与えると指摘している。
 日本のこの急激な人口減少を食い止めるには、数十年以上かかるだろう。なぜなら、現在10歳の女の子が20年後に30歳になったとき、その年齢の女性が増えていることは物理的にありえないわけで、来年から出生率が仮に2.0になったとしても、数年間の横ばいから先は、出産年齢層の女性の減少で出生児数より死亡者数のが多くなってしまう。それだけ日本の少子化問題は深刻ということである。もはや薬では治療できず、手術を必要とする。深く負った傷はなかなか治らない。自覚して、耐えて行動する。このメスがないと手術はできない。人口減少の幅を極力抑え、日本の総人口が限りなく遠い未来に8000万〜1億人になるまで少しずつ減少していくことが理想と考えている。

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