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ガンジーの「7つの社会の大罪」

がきっかけであったか忘れましたが、ガンジーの「7つの社会の大罪」という言葉を思い出しました。この言葉はかなり深い記憶の底に沈みこんでいて、ほとんど大脳から除去されかけていました。というのは、このマハトマ・ガンディー(1869〜1948)の名前はもう10年以上も中学の歴史の教科書に載っていません。それ故、歴史の対策授業などで彼の名前を思い出すこともなく、 Out of sight, out of mind. で、すっかり思い出さないでいました。
 第1次世界大戦後のアジア民族運動の中で、「非暴力・不服従」を提唱し、インド独立の父と言われているくらいのことは、昔の教科書には載っていました。解放運動や人権運動において、マーティン・ルーサー・キング・ジュニアやダライ・ラマ14世にも、その平和的手法の影響を強く与えたと言われている政治指導者です。あのジョン・レノンが平和運動に傾倒していったのも、ガンジーの影響であるという話を読んだ記憶もあります。
 前置きはこのくらいにして、彼の言葉を紹介します。この言葉はすべて A Without B の形で表現されています。Aには生きていく上で必要なものが、Bには生きていく上で忘れてはいけないものが書かれています。翻訳者によってその日本語はいろいろですが、原文がWithout で統一されているので、私もsimpleに「〜なき」に統一して訳しました。そのほうがあなたの感性で上手な訳に解釈し直せると思います。原文も添えておきます。

7つの社会の大罪 (Seven Social Sins) とプラス3
 理念なき政治 (Politics Without Principles)
 労働なき財貨 (Wealth Without Work)
 良心なき快楽 (Pleasure Without Conscience)
 人格なき知識 (Knowledge Without Character)
 道徳なき商業 (Commerce Without Morality)
 人間性なき科学 (Science Without Humanity)
 献身なき尊敬 (Worship Without Sacrifice)
  以上がガンジー originalの Seven Social Sins です
  次の1文は、この7つ言葉に孫のアラン・ガンジーが加えたものです
 責任なき権利 (Rights Without Responsibility)
  さらに次の2文は、僭越ながら私の作です
 躾なき家庭 (Home Without Discipline)
 情熱なき教育 (Education Without Enthusiasm)
    
 この言葉を20〜30年ぶりに思い出し、彼の偉大さを再認識しました。彼は私の生まれるちょうど2ヶ月前に亡くなっています。だから、この言葉はおそらく70〜80年前の言葉でしょう。人間社会が今日のように堕落していくことを見通しています。ガンジーの慧眼には驚くばかりです。Bを忘れている人が、Aに夢中になったり、Aに携わったりすると、社会は荒んでいくことを警告しています。 
 ガンジーのこの言葉に関連して、オーストリアの動物学者、コンラート・ローレンツ(1903〜1989)著の「文明化した人間の8つの大罪」という本を読んだことを思い出しました。彼はノーベル医学・生理学分野の受賞者ですが、彼の名前を知る人は少ないと思います。医学、哲学、動物学を学び、動物の行動メカニズムを研究し、インプリンティング(刻印付け・刷り込み)の概念を唱えた比較行動学者です。ガチョウの卵をあなたの目の前で孵化させると、あなたを親鳥と認識して追いかけるという、あの有名な話の学者と言えばわかるでしょう。教授はその「文明化した人間の8つの大罪」の中でこう言っています。(  )内は軽佻な私の付加説明です。

 1. 人口過剩 (非人間的な手段で自己防衛したり、攻撃的になる)
 2. 生活空間の破壊 (自然の創造美や畏敬の念が薄れていく)
 3. 人間同士の競争 (攻撃、破壊のための技術が発達していく)
 4. 感性の退化 (虚弱化により、豊かな感性や情熱は萎縮していく)
 5. 遺伝の衰弱 (行動規範の維持や進化の淘汰が弱くなる)
 6. 伝統の破壞 (若い世代は古い文化的伝統とうまく融合できなくなる)
 7. 教化されやすさ (巧みな宣伝、流行、支配に感化されやすくなる)
 8. 核兵器 (現時点での文明化した人類の最悪の破滅兵器)
 
 1.〜7.の項目に添って、ローレンスは人間性喪失の過程は文化的環境からくる「条件づけ」によって左右されると説いています。現代人は狭い空間の中で時間と欲望に追われ、社会的行動、道徳的行為とは何かを考えないで生活しています。真の人間らしい生き方をできないでいます。知性による文明化が自滅への傾向性を内在させていることに気付かずにいます。しかしながら、文明の恩恵を十分に浴びている人類は、この「知性を持つ存在」であることから抜けられません。だから、忙しく走りつづけるだけでなく、時に「人為的滅亡」を回避するために「知性を持つ人間にとっての文明化」とは何かを考えるよう警鐘しています。観点は違っていても、言っていることはガンジーと同じだと考えます。

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