遡行徘徊

スカイオーディオのイヤフォンを耳に当てる　
チャンネルを青春歌謡グラフィティに合わせる
それが機内でのルーティーン　
機体が離陸する
暫く下界を眺める
機体が雲の上に出る
窓の向こうは白と紺青の世界

耳にはガロの「学生街の喫茶店」
♪君とよくこの店に来たものさ　訳もなくお茶を飲み話したよ･･･
前頭葉が反応し　検索信号を大脳皮質の連合野に送る
眠っていた過去が蘇る
白と青のスクリーンに思い出の映像が流れる

曲が中村雅俊の「俺たちの旅」に変わる
♪夢の坂道は木の葉模様の石畳　まばゆく白い長い壁･･･
映像も変わる
選択しなかったもうひとつの道に思いを馳せる
前頭葉の戯れは何を映し出すかわからない
｢心もよう｣｢あの日に帰りたい｣｢虹とスニーカーの頃｣｢落陽｣･･･
曲とともに４分間のセピア色のオムニバス映画は続く

過去の呼びかけに振り向かず　未来の問いかけに答えもせず
刹那の呪縛から開放されない旅人がいる
欲心を満たし　大切なものをなくしていることに気付かず
若さを弄び老いの裁きを受けることになる若者がいる
人生を教えてくれた人　想い出を残してくれた人
その時の情景も浮かんでくる
過ぎ去りし日々の光と影
青春の軌跡

エンドレステープが一回りすると慕情と追憶の幕は下りる
機体は雲の中にもぐり　過去がフェードアウトしていく
下界が見えてくる
機体が滑走路を滑る
気分一新
これから始まる風と緑の世界に頭は切り替わる