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お灸の痕

ルフのハーフラウンドが終わった昼食の時の話です。
 その日は10歳年下の親しいメンバー二人とプレーをしました。二人は同じ小・中学校の同級生のHさんとNさんです。念のためJ中ではありません。MPSの卒業生でもありません。Hさんはゴルフの師と仰いでいる人です。しかし、Hさんからは「三宅先生を弟子にした覚えはありません。」と、一蹴されています。Nさんとは時々一杯やりながら、人生を熱く語る間柄です。
 この二人、小学生の頃はトンガリ合っていたようで、小・中学生時代の二人を知る同級生には、HさんとNさんが仲良くラウンドしている姿を想像できないそうです。Nさんは今でも熱血漢で、ガキの頃の様子を容易に想像できます。Hさんは一見(?)温厚なgentle風に変わっています。そして、相も変わらず我がままオヤジの私。この三人のゴルフ場のレストランでの話です。
 テーブルに着くと、Hさんから息子の指導のことで相談を持ちかけられました。息子が生意気になり、奥さんも困り果て、「先生、どうしたものでしょう。」と言うのです。私には子育てのアカデミックな理論は持ち合わせていませんので、Hさんには1000人の子供たちと接してきた経験からの持論を述べました。
 幼い頃の子供には自分と家族の世界しかありません。自己中心の世界です。向こう見ずで、生意気で、我がままなものです。子供の頃は、それくらいのがいいと考えています。そのような子供には生きるエネルギーが、生来備わっているとも言えるからです。ただ、そこのところを子供の成長に合わせて、上手く指導するのが親の務めになります。自分の欲望通りには生きていけないことを教えながら、子供の視野を広げていきます。目に余る言動や、悪い習慣、欠点に気付いたら、柔軟な若いうちに、その子供に合った教育や躾をしなくてはいけません。放置と一時的感情の処理は、子供をとんでもない方向に暴走させることがあります。「矯めるなら若木のうちに」です。
 「俺なんて、どれだけ親に心配をかけ、母親を泣かせてきたか。H、子育てに父親の影響は大きいと思うよ。日常の細かなことは嫁さんがしてくれているんだから、嫁さんが困っている時は、助けてあげなければ。」最後は父親の厳しさが必要になります。子育て成功の秘訣はバランスの取れた夫婦の分担にあると考えています。そして、こう続けました。
 「HもNも悪ガキだったんだろう?俺もひどいガキだったから、ここにお灸をすえられたよ。」と、左手甲の親指と人差し指の付け根にあるお灸の痕を見せました。そうしたらHさんも
 「俺も、同じところにあります。」と、右手を出しました。二人の話を聞いていたNさんも
 「俺なんて、両手にありますよ。」と、両手のお灸の痕を見せました。何と三人とも甲側の親指と人差し指の付け根にお灸の痕があるのです。案の定、私たち三人は腕白坊主だったということです。
 我の強い子供には、それから先の人生、我の抑止のために、昔の親は一番目立つ親指と人差し指の付け根によくお灸をしたと言います。親の責任、義務として子育てをしていたからでしょう。それに比べると、今の親は自己チューの延長としての子育てしかできません。子供は親の宝であっても、親の分身ではありません。子育てとは、まず社会の一員としての義務を果たすことであるという認識が不足しているのではないかと考えています。子が宝であると言うなら、厳しい躾をしてこそ、親の宝にもなり、子供のためにもなるのではないでしょうか。
 父親がもぐさと線香を手に構えています。逃げようとする私の手を母親がしっかり抑えつけています。その光景を50年以上経った今もよく覚えています。自分の腹を痛めた子供の手の甲に傷をつける母親の心の痛みは、きっとこの上なく悲しいものだったと思います。あれから折に触れ、何百、何千とこの痕を見てきました。そのお陰で今日の自分があります。このようにHさん、Nさんと楽しくゴルフもできます。親に感謝しています。HさんもNさんもお灸の痕を見るたびに、親心に感謝しながら大きくなってきたのだと思います。

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