三宅学習塾OB会 > トップ > GREEN放言 > ボタンひとつで

ボタンひとつで

後60年。この間の技術革新は凄まじい。私が小学生低学年の頃の50年前と比べたら、まさにsurprisingの進歩である。飛行機ができたのは100年前。コンピーターができたのはほんの60年前のことである。衛星中継で‘63にケネディー大統領暗殺、‘69にアポロ11号月面着陸の瞬間を、白黒画面のTVで見たとき、「何なんだ、人間はこんなことができるのか!」と、驚いたものだ。あの頃、これほどまでに科学技術が飛躍的に進歩するとは夢にも思わなかった。
 特に電子工学の進歩は留まることを知らない。半導体の微細化がマイクロ・コンピューターの高性能化を生み、私たちの日常生活のほとんど全ての製品にはマイコンが組み込まれている。パソコンは勿論、家電製品、オフィス機器、車、ロボット、数え上げたら切りがない。今日の快適な日常生活はマイコンのお陰である。その上、日本の製造業は優秀ときている。製品は安全、正確、頑丈で、簡単操作。至れり尽せりである。ボタンひとつで人間は何もしなくてもいいようになった。仮に操作を間違えても、リセットボタンがある。失敗しても、ご破算にしてくれる。このまま科学技術が進歩を続けていったら、あと10年か20年で、ナイフや包丁を使えない人ばかりか、火を起こせない人、ご飯の炊けない人、洗濯のできない人もかなり多くなるだろう。また、不快や不便な生活に我慢できない人も多くなるだろう。まあ、その辛さは大災害でライフラインがカットされたときに味わってもらおう。否、そんな心配もいらないかな。道具の使えない人、あるいは不便に耐えられない人用の諸々の便利グッズやレトルト食品ができているであろうから。
 近年の三大発明は一連の家電製品、車、携帯電話であると考えている。これらは社会構造や個人の生活スタイルを大きく変えた。ボタンひとつでの快適生活、マイカーによる瞬間移動、携帯電話による思考停止。このことによって、我々日本人は、面倒臭いことを一切しない1億2000万人総白痴化になってしまった。科学技術のお陰で、多くの時間を持てるようになったが、その余った時間を現代人は何に使うようになったのだろう?好きなこと、気の向くことだけしかしない人間になってしまったような気がする。安楽、容易になった分、自分の欲求を満たすことだけが過激になり、自分を見つめる時間をなくし、以前より忙しい生活をするようになってしまった。感情、欲望に支配され、嫌なことはしない。だから、配慮に欠け、すべきことはしなくなり、行動力も低下してきた。
 このように、ボタンを押せば、キーをたたけば、カードを入れれば、何でも欲求が満たされるようになってから、片付けられない、周りのことを気にかけない、考えない、工夫できない、行動を起こせない人間が多くなってきた。これは子供たちだけではない。家電製品が普及しだした‘60年以降生まれの大人たちにも多くいる。科学技術の進歩の恩恵を享受しながら、心の退廃に気付かず『面倒臭い症候群』に陥ってしまった。『知のマイナス・スパイラル』という言葉があるが、むしろ科学技術の進化による人の思考、行動の退化、すなわち『心のマイナス・スパイラル』のことを、私は心配している。便利になって、ボタンひとつで何でもでるようになったことが、こんなところにも大きな影響を与えているように思えて仕方ない。

〒250-0034 小田原市板橋647番地 三宅学習塾OB会事務局
info-mps@dance.ocn.ne.jp
mr.golf@amber.plala.or.jp