1976年  「Grey Skies」 (1976/9/25発売)の頃
Niagara Triangle Vol.1 伊藤銀次/山下達郎/大瀧詠一 (1976) Niagara (Columbia) 






1. ドリーミング・デイ [作詞 大貫妙子 作曲 山下達郎] A面1曲目

山下達郎: Vocal, Back Vocal, Guitar, Arranger, Producer
吉田美奈子: Back Vocal
坂本龍一: Keyboards
寺尾次郎: Bass
上原裕: Drums
稲垣 Section: Horns
岡崎資夫: Alto Sax

1976年3月25日発売

写真上: LP表紙
写真下: シングル「幸せにさよなら」 1976年4月1日発売(B面に「ドリーミングデイ」収録)

1. Dreaming Day [Words: Taeko Onuki, Music & Arr: Tatsuro Yamashita] by Tatsuro Yamashita from "Niagara Triangle Vol.1", March 25, 1976

1975年5月発売の大瀧詠一「Niagara Moon」に続くナイアガラ・レーベル第2弾。「Niagara Moon」の販売元エレック・レコードが倒産したため、本作はコロンビア・レコードから販売された。レーベル傘下にあった山下達郎、伊藤銀次が今後独自の道を歩むことになった事から、3人の足跡を残すため、1963年の米国アルバム「Teenage Triangle」(シェリー・ファブレス、ジェームス・ダーレン、ポール・ピーターソン)の企画アイデアをヒントにして制作したもの。3人が各自プロデュースした曲を集めたオムニバスであって「共演盤」ではない(「幸せにさよなら」のシングル盤バージョンのみ3人のボーカルによる共演作と言える)。そういう背景を知らなかったため、発売日に購入して聴いた際は「散漫だな」という印象を持ったんだよね.....。

過去のレパートリーの再録音や未発表曲が多い中で、大貫さんが詩を提供した1.「ドリーミングデイ」は本作のために書きおろしたもので、山下は「Dedicated to: Clyde Mcphatter, Dion, Dells。 僕が3年間大瀧詠一氏とつき合って色々影響を受けた事を僕なりに表現したつもり。だから本当の意味でのDedicationはTo Eiichi Ohtaki となります」とライナーノーツでコメントしている。1950~1960年代のソウル、ドゥワップ・ミュージックをルーツに山下独自のポップソングを創り上げていて、サウンド的にはシュガーベイブと山下のソロアルバムのいずれとも異なる過渡期的な存在といえよう。大瀧好みの深めのエコーと音の壁によるフィル・スペクター・サウンドに染め上げられた、爽やかさ明るさに満ちた名曲。なおこの曲は上述のシングル「幸せにさよなら」のB面に収録されたが、シングル版はイントロとエンディングが編集でカットされ短めになっている。

他の曲について。山下の「パレード」A面2曲目はシュガーベイブのレパートリーで、後年デモ録音が「Songs」にボーナストラックとして収録された。伊藤の「幸せにさよなら」B面1曲目はシングル版と異なり、ここでは伊藤が一人で歌っている。布谷文夫が歌う「ナイアガラ音頭」(作詞作曲編曲 大瀧詠一)は日本古来の音頭と米国のソウル音楽をフュージョンさせた歴史的名曲。伊藤の「日射病」A面4曲目、「新無頼横丁」はトリオレコードから発売されたライブ盤「ショーボート素晴らしき船出」1973に収録されていたココナツ・バンクの演奏がオリジナル。また伊藤の「ココナツ・ホリデー」も同日録音の「ライブ!!はっぴいえんど」1974収録のライブ演奏がオリジナルだ。。演奏面では、当時まだ無名の存在だった坂本龍一のキーボード・プレイが光っている。ちなみに大貫さんは「ココナツ・ホリデー」にバックボーカルとして参加している

シュガーベイブ解散後 (ただし解散コンサートは1976年3月31日と4月1日だったので厳密には「解散状態」)、大貫さんが他アーティストに提供した初めての曲。

[2024年3月作成]


  
1977年  「Sunshower」 (1977/7/25発売)の頃 
Deadly Drive 伊藤銀次 (1977)  Asylum (Warner Pioneer)  
 



1. 風になれるなら [作詞 伊藤銀次、大貫妙子 作曲編曲 伊藤銀次 コーラス編曲 大貫妙子 ストリングス編曲 坂本龍一] A面1曲目 4:07
2. 風になれるなら [ 1.に同じ ] シングルA面 3:34

伊藤銀次: Vocal, Guitar
緒方泰男: Piano
田中章弘: Bass
上原裕: Drums
斉藤ノブ: Percussion
高橋知己: Soprano Sax
大貫妙子: Windy Chorus


写真上: アルバム表紙 1977年5月25日発売
写真下: シングル表紙  アルバムと同日発売

1. Kaze Ni Narerunara (If I Could Become The Wind) [Words: Ginji Ito, Taeko Onuki, Music & Arr: Ginji Ito, Chorus Arr: Taeko Onuki, Strings Arr: Ryuichi Sakamoto] by Ginji Ito from the album "Deadly Drive" A-1 4:07, May 25, 1977

2. Kaze Ni Narerunara (If I Could Become The Wind) [ Same as 1. ] by Ginji Ito from the single A side 3:34, same date as the album
 
 伊藤銀次の作品発表は、これまでシングル盤 ① 「留子ちゃん/のぞきからくり」1972、(「ごまのはえ」名義)と、オムニバス盤 ② 「春一番コンサート・ライブ '72」 (「留子ちゃん」、「ごまのはえ」名義)、③ 「1973/9/21 ショーボート・ライブ」(「日射病」、「無頼横丁」、「ココナツ・バンク」名義)、④ 「Niagara Triangle」 1976 のみだったが、大瀧詠一や山下達郎との活動で知名度を上げて発表した初ソロアルバムが本作だ。

大貫さんが伊藤と歌詞を共作した1.「風になれるなら」は、歌詞とメロディーが爽やかな名曲で、シュガーベイブの延長戦上にある瑞々しさがたまらない。本人のインタビューによると、友達と話している時に「風になれるなら」というフレーズが頭に浮かんだそうで、当時全盛期だったボズ・スキャッグスの「Lowdown」1976 全米3位にインスパイアされたとのこと。グルーヴ感溢れる演奏が最高で、間奏・エンディングにおける高橋知己のソプラノ・サックス・ソロが自由な雰囲気を振りまいている。風を思わせる大貫さんアレンジによるコーラスも素晴らしい。

2.「風になれるなら」は同日に発売されたシングル盤バージョンで、録音自体は同じであるが、編集により以下の点が異なっている。①セカンド・ヴァースとブリッジが終わった後、1.は約45秒のサックスソロが入るが 2.はカットされて、その代わりに「風になれるなら 君に届けたい いつも日記にかわる 書きかけの手紙 君を追いかけて」というサード・ヴァースが入る。②セカンド・ブリッジの後、エンディングのサックスソロになるが、1.が約50秒続くのに対し、2.は20秒位でフェイドアウトする。その結果シングル・バージョンは演奏時間が30秒ほど短かくなっている。なお当該シングル・バージョンは2008年のリマスター版CDにボーナス・トラックとして収録された。

その他の曲では 「こぬか雨」(作詞作曲編曲 伊藤銀次 コーラス編曲 大貫妙子)A面5曲目が断然の傑作。もともと「ごまのはえ」時代に作られ、シュガーベイブ時代に山下達郎が作詞を手伝い完成させたというが、本作の録音にあたり伊藤が歌詞を書き直している。シュガーベイブでの正式録音はないが、山下のボーカルによる解散間近のライブ、または山下が後にシュガーベイブの曲を歌ったライブ音源が残っていて、再発CD等にボーナス・トラックとして収録されている。坂本龍一のしとしと降る雨を思わせるフェンダー・ローズピアノの揺れる音、ホーンとストリングスのアレンジ、そして大貫さんのコーラスがとても美しい逸品だ。その他ではドゥービー・ブラザースのような「Deadly Drive」(作曲 伊藤銀次、村松邦夫)A面3曲目、クルセイダーズばりの「Sweet Daddy」(作曲 伊藤銀次)B面3曲目のインスト曲が面白い。

シュガーベイブの香りが残る名曲を聴くことができる。

[2024年4月作成]


夢で逢えたら  シリア・ポール (1977)  Niagara (Columbia)  
 

1. ドリーミング・デイ [作詞 大貫妙子 作曲 山下達郎] A面3曲目

シリア・ポール: Vocal
井上鑑: Keybords
村松 "カンテラ星人" 邦夫: Guitar
田中章弘: Bass
上原 "ウラオカス" 裕: Drums, Percussion
浜口茂外也: Flute
シンガーズ・スリー: Chorus

多羅尾伴内: Arranger
山下達郎: Strings Arranger
大瀧詠一: Producer

1977年6月25日発売

1. Dreaming Day [Words: Taeko Onuki, Music: Tatsuro Yamashita] by Celia Paul from the album "Yume De Aetara (If We Meet In The Dream)" June 25, 1977

 
シリア・ポールはこのアルバムでは大瀧詠一のアバターだった.....

シリア・ポール(1947- ) は大阪市出身で父親はインド人貿易商だった。小学生で子役としてテレビ・映画に出演。高校生の時に女優、司会者として活動し、1969年にニッポン放送のラジオ番組「ザ・パンチ・パンチ・パンチ」の3人組DJ、モコ・ビーバー・オリーブのオリーブとして採用され人気を博し、3枚のシングル盤を出す。1971年の解散以降は単独でラジオ番組のパーソナリティーを務めていた。そんな彼女が大瀧詠一のプロデュースで歌うことになったのは、モコ・ビーバー・オリーブの時代の制作スタッフとのコネだったという。何よりも大瀧さんが彼女を採用したのは、ガールズ・ポップス向けの声質と十分な歌唱力に加えて、彼女が歌手としての自我を出さずに彼が望むように歌ってくれたからだと思う。

「夢で逢えたら」はもともとアン・ルイスのために作られた曲だったが、彼女の当時の路線に合わず企画が没になる(彼女は後の1982年に英語詩でカバーしている)。その後は風吹じゅんが歌うという話もあったが実現せず、当時RVCで売り出しを図っていた吉田美奈子のアルバム「Flapper」1976に収録され大評判となった。かくいう私も当時この曲に夢中になったのだが、アルバムの他の曲と毛色が全く異なっていたことは明らかで、アルバムを売るためにスタッフが強引に入れたもので、吉田本人が望んだものではなかったことが後日談でわかった。名曲と呼ぶに相応しい本当に素晴らしい出来だったのにシングルカットされなかったのは、自分の音楽でない曲で売れたくないという吉田の強い意思があったためという。大瀧さんとしても録音に際して吉田の意見との相違で相当揉めたらしい。そこで彼としては自分で好きなように作ってみたい気持ちがあり、歌手として吉田のような自己主張をしない人を招いて、彼なりのガールズ・ポップのアルバムを作ろうとしたのだろう。という意味で、このアルバムは実質的には大瀧が彼女の声を借りて歌っているのと同じで、「シリアは大瀧のアバターだった」という所以である(アルバム発表当時は「アバター」という言葉はこういう意味では存在していなかったけどね)。

大貫さんが作詞した「ドリーミングデイ」(作曲 山下達郎)は1976年の「Niagara Triangle Vol.1」のカバー。オリジナルは山下達郎のアレンジとボーカルで、大瀧さんお気に入りの曲だったそうだ。ここでは上原の裏拍のドラミング、パーカッションとストリングス、シンガーズ・スリー(伊集加代子、和田夏代子、鈴木宏子)にたっぷりエコーをかけた大瀧さん好みのスペクター・ウォール・サウンドに仕立て上げている。シリアはこの手のからっとした曲にぴったりの爽やかな歌唱をみせている。

他の曲について。「恋はメレンゲ」(作詞作曲 大瀧詠一 編曲 多羅尾伴内 =大瀧さんの変名 以下全曲同じ)A面2曲目は「Niagara Moon」1975のカバーで、イディー・ゴーメの「恋はボサノバ(Blame It In The Bosa Nova)」1963 (作詞 Cynthia Weil 作曲 Barry Mann) 全米7位をもじったもの。「夢で逢えたら」とのカップリングでシングル発売された。「One Fine Day」(作詞 Gerry Goffin 作曲 Carole King) A面4曲目は、ザ・シフォンズ1963年のヒット曲(全米5位)の名曲で、作者のキャロルはアルバム「Pearls」1980でセルフカバーしている。ここでは原曲のアレンジを尊重しながら、リズムで新しい風を吹き込んでいる。バックで跳ねまわる井上鑑のピアノが凄いね!「Walk With Me」(作詞 Howard Greenfield 作曲 Neil Sedaka) A面5曲目は1962年のニール・セダカのシングル「King Of Clown」のB面だった曲で、邦題は「二人の並木道」。駒沢裕城のペダル・スティール・ギターが切ないメロディーを奏でている。「こんな時」(作詞作曲 大瀧詠一)A面6曲目は「GO Go Niagara!」1976 収録の「こんな時、あの娘がいてくれたらナァ」のカバー。雨の効果音を入れて「女の子にこういう風に歌わせたいなあ」という夢を実現させた感じ。

「The Very Thought Of You」(作詞作曲 Ray Noble)B面1曲目はレイ・ノーブル・オーケストラ1934年が初出で数多くのカバーがある。ここではリズムを効かせたアレンジで、シリアと大瀧さんのデュエット。1977年6月20日の「The First Niagara Tour」での二人のライブ映像が残っている。「Whispering」(作詞 Richard Coburn 作曲 John Shonberger, Vincent Rose)B面2曲目は、ポール・ホワイトマンのインストルメンタル1920が最初で多くのカバーがあるが、ポップス畑ではニノ・テンポ・アンド・エイプリル・スティーヴンス 1963全米11位が有名で、本曲はこのバージョンに基づいた制作。ここも二人のデュエットで駒沢のペダル・スティール・ギターが大活躍。大瀧さんのようなファルセットが歌えるといいなあ~。「You Belong To Me」(作詞 Billy Rose 作曲 Lee David)B面3曲目は、1927年のジーン・オースチンがオリジナルだが、ここでは1964年のジョージ・マハリスのデュエット・アレンジをベースとしている。「Oh Why」(作詞作曲 Harvey Phillip Spector)B面4曲目は1959年にザ・テディー・ベアーズ全米91位が原曲。「Cha Cha Charming」(作詞作曲 Ellie Greenwich)B面4曲目は後に作曲家として大成する17歳のエリー・グリーンウィッチがEllie Gayeという芸名で1958年に出したシングル盤。大瀧のアレンジ、シリアのボーカルともに原曲を凌ぐ面白さに仕上がっている。「夢であえたら、もう一度」B面5曲目は最後を飾るインストルメンタル・カバー。

以上のように本アルバムが出た当時、20歳前後の若造だった私にとっては、現在のような音楽知識の背景やインターネットによる情報源がない状況で、このオールディーズ上級講座に対応できるわけもなく、オリジナル曲が用意できないための埋め合わせ的な選曲位にしか感じられなかった。今聴くとニヤニヤしながら十分楽しめるけどね。

ちなみに大瀧さんの音楽については、後年リミックスや未発表バージョンなど数多くの発掘アイテムが発売され、本作についても2018年に40周年記念として「夢で逢えたらVox」が発売され、そこには「ドリーミングデイ」のアウトテイク(Take 2)が収められていて期待して聴いたが、アレンジ違いのバッキングトラックのみでボーカルは入っていなかった。なおシリア・ポールは、後の1989年にMAIというアルバムを出したが話題にならず(今聴くととても良い出来だと思うけど....)、その後芸能界を引退して現在はアメリカ在住とのこと。

大瀧さんがすなるガールズ・ポップスが楽しめる。

[2024年5月作成]


1978年  「Mignonne」 (1978/9/21発売)の頃
ロフト・セッションズ Vol.1  竹内マリヤ  (1978)  Victor 

 

 
1. ハリウッド・カフェ [作詞 大貫妙子 作曲 竹内マリヤ 編曲 岡田徹]  A面5曲目

竹内マリヤ: Vocal
岡田徹: Keyboards, Arranger
白井良明: Guitar
鈴木博文: Bass
かしぶち哲郎: Drums, Percussion

牧村憲一: Producer

1978年3月発売

写真上: アルバム「ロフト・セッションズ Vol.1」
写真下: 特別プロモートシングル盤

1. Hollywood Cafe [Words: Taeko Onuki, Music: Maria Takeuchi, Arr: Toru Okada] A-5 by Mariya Takeuchi from the Album "Loft Sessions Vol.1" Compilation,  March, 1978

竹内まりや(1955- )は、大学時代の音楽サークルで杉真理等と活動、その関係でムーンライダースとの交流が生まれたらしい。私は当時ムーンライダースのコンサートを最前列で観たことがあったが、その際彼女がゲストで登場した。その時点では全く無名だったが、アロハシャツを着たつぶらな瞳の女性が、緊張しまくりながら一生懸命歌っていたのをはっきり覚えている。その後1978年3月に、シュガーベイブやセンチメンタル・シティ・ロマンスのマネジメントをしていた牧村憲一のプロデュースにより、当時全盛期のライブハウス「ロフト」で歌っていた若い女性シンガーを集めたコンピレーション盤「Loft Sessions Vol.1」が出て、その中の2曲に彼女の名前があったので喜んで購入した。そのうちの1曲が「ハリウッド・カフェ」だ。そしてしばらく後の11月にデビュー・アルバム「Beginning」が発売になるので、本作が実質的なレコード・デビュー作ということになる。ちなみに本作では「マリヤ」と名乗っていたが、「Beginning」以降はひらがなの「まりや」という名前になった。

大貫さんにとっては「Sunshower」1977年7月と「Mignonne」1978年9月の間の時期にあたる。前者が売れなかったので(今から考えるとおかしな話であるが、当時は「歌い手とバックの間にギャップがある」というネガティブな評価だった。私は大好きだったけど.....)。キャリアの危機に面し、彼女は今後どう打開してゆくかの暗中模索の最中にあったはず。後者で小倉エージ氏をプロデューサーに迎え、彼との製作方針の相違で苦労したという話を聞いたことがある。彼女は他人への作品提供については、これまで山下達郎や伊藤銀次など内輪の仲間のみだったので、本作が作家としての初めての作品提供となる。私が聞いた話では、曲が最初にあり、それに大貫さんが歌詞つけたものと思われる。都会で暮らす者の孤独を歌ったもので、明るめイメージの強いまりやさんにとってはアンニュイな雰囲気の曲だ。伴奏は当時彼女と親交があったムーンライダースの連中。

本アルバムに収録されたもう1曲「8分音符の詩」は、松本隆作詞、鈴木茂作曲で、鈴木のアルバム「Lagoon」1976に収録された名曲のカバー。センチメンタル・シティ・ロマンスのメンバーがバックを担当し、こちらも秀逸。なおこれら2曲を収めたプロモーション用シングルが制作され関係者に配布された。現在それは中古市場で大変な高値を呼んでいる。

アルバム「ロフト・セッションズ Vol.1」は、他の曲では上村かおるの「星くず」(オリジナルは久保田真琴と夕焼け楽団のアルバム「ディキシー・フィーバー」1977収録)や、高崎昌子(後の紀の国屋バンドのボーカリスト)の「こぬか雨」(オリジナルは伊藤銀次の「Deadly Drive」1977収録、シュガーベイブのライブのレパートリーでもあった)のカバーが素晴らしい。

[2024年2月作成]


  
Beginnings  竹内まりや  (1978)  RCA  

 

1. 突然の贈りもの [作詞作曲 大貫妙子、編曲 告井延隆] B面2曲目

竹内まりや: Vocal
告井延隆: Acoustic Guitar, Keyboards, Arranger
中野督夫: Electric Guitar
細井豊: Keyboards
久田潔: Bass
野口明彦: Drums

1978年11月25日発売

1. Totsuzen No Okurimono (A Sudden Gift) [Words & Music: Taeko Onuki, Arr: Nobutaka Tsugei] B-2 by Maria Takeuchi from the album "Beginnings", November 25, 1976

 

「ロフト・セッションズ Vol.1」の8ヵ月後に発売されたデビューアルバム。本作から名前をカタカナから平仮名に変更している。プロデューサーは牧村憲一で、彼は同時期の大貫さんの「Mignonne」1978のディレクター、「Romantique」1980、「Aventure」1981のプロデューサーだった人。全11曲中4曲がアメリカ西海岸での録音という豪華な制作になっており、彼女への期待が大きかったことを示している。

大貫さんの曲は1.「突然の贈りもの」で、オリジナルが収録された「Mignonne」の発売が1978年9月21日なので、カバーとはいえほぼ同時期の発売になっている。オリジナルが坂本龍一(キーボード、アレンジ)と松木恒秀(エレキギター)によるニューヨーク・サウンドであったのに対し、ここでは告井延隆(アコースティック・ギター、キーボード、アレンジ)、細井豊(キーボード)、中野督夫(エレキギター)のセンチメンタル・シティ・ロマンスによるウエストコースト・サウンドになっているのが大変面白い。坂本のクールな必殺アレンジとエリック・ゲイル顔負けのコクのあるギタープレイの松木に対し、告井のアコースティック・ギターを前面に出し、中野が海風を感じさせる伸びのあるギターソロを展開する対照的な音作りになっている。そしてどこかひんやりした感じの大貫の歌声に対し、日差しの暖かさがある竹内のボーカルも陰と陽と言える違いで、両者聴き比べはもう最高!

米国録音は、シェール、アンディ・ウィリアムス、ヘレン・レディ、ライザ・ミネリなどと仕事したアリ・キャップがアレンジを担当、リー・リトナー(ギター)、ジョン・バーンズ(キーボード)、トム・スコット(サックス)、マイク・ポーカロ(Totoのベーシスト、ドラマーのジェフ・ポーカロの弟)、ジム・ケルトナー等の著名セッションマンが参加している。最初の曲 「Goodbye Summer Breeze」(作詞:竜真知子、作曲:林哲司)から、まりやの癒し感のあるボーカルに引き込まれる。彼女の声にはコニー・フランシスやレスリー・ゴーアなどのアメリカの女性ポップシンガーと同じノスタルジックな味わいがあり、本曲はその魅力をフルに引き出している。「夏の恋人」(作詞作曲: 山下達郎)A面3曲目は、後に夫となる山下とのレコード上の初顔合わせとなった。ビーチボーイズのスローナンバーを思わせる素晴らしい曲で、西海岸の夏の空気感に満ちている。「輝くスターリー・ナイト」(作詞: 高橋ユキヒロ 作曲: 細野晴臣)はドゥワップ調のガールズ・ポップソングで、当時の彼女のイメージにぴったりの歌だ。

日本録音は、上述の「突然の贈りもの」を含む告井延隆アレンジ、センチメンタル・シティ・ロマンスのバックが5曲、瀬尾一三アレンジが1曲、そして鈴木茂アレンジが1曲となっている。「戻っておいで・私の時間」(作詞: 安井かずみ 作曲: 加藤和彦 編曲 瀬尾一三)はハリウッド・スタンダード風のアレンジによる軽快な曲で、シングルカットされた。歌詞の日本語から英語への切り替えも全く違和感なくこなすところはさすがだ。「ムーンライト・ホールド・ミー・タイト」(作詞: 有馬美恵子 作曲: 杉真理)B面4曲目は、大学時代の音楽サークル仲間だった杉の提供曲。告井が弾くマンドリンがいい雰囲気を出している。最後の曲「すてきなヒットソング」(作詞作曲: 竹内まりや 編曲: 告井延隆)B面6曲目は本作唯一の自作曲。後に日本を代表する女性シンガー・アンド・ソングライターになる彼女としては意外であるが、当時は提供された曲を歌うリンダ・ロンシュタットのようなシンガーだったのだ。アメリカン・ヒットソングへの思い入れが込められた曲で、歌詞の中に「Hey Paula」 ポール・アンド・ポーラ 1962、「Lonely Soldier Boy」 ジョニー・ディアフィールド 1959、「Kissin' On The Phone」 ポール・アンカ 1961、「Navy Blue」 ダイアン・リネイ 1963、「Love Me Tender」 エルヴィス・プレスリー 1956、「Happy Birthday Sweet Sixteen」 ニール・セダカ   1961、「Be My Baby」 ザ・ロネッツ 1963、「Johnny Angel」 シュリー・フェブレー 1962といった曲名が出てくる。

実は私、本作の発売当時は竹内さんのアルバムを聴かなかった。バタ臭い感じが気になったのが理由であるが、今偏見のない純な耳で聴くと、とても心地よく楽しむことができた。現在の竹内とは音楽的な佇まいがかなり異なるが、初期の彼女もいい感じだね。

「突然の贈りもの」の聴き比べ大会の開催をお勧めします。

[2024年3月作成]


Love Heart  ラジ (1978)  CBS Sony 
 

1. たびだち [作詞 大貫妙子 作曲 坂本龍一、高橋幸宏] B面1曲目

坂本龍一 : Piano, Synthesizer
高中正義 : Electric Guitar
吉川忠英 : Acoustic Guitar
細野晴臣 : Bass
高橋ユキヒロ : Drums
浜口茂外也 : Congas, Synth. Drums
数原晋、中川喜弘、岸義和 : Trumpet
新井英治、三田治美、岡田澄雄、橋爪智明、平内保夫 : Trombone

高久光雄 : Executive Producer
坂本龍一、高橋ユキヒロ : Co-Producer

録音 : 1978年9月6日~11月10日
発売 : 1978年12月21日

1. Tabidachi (Departure)[Words: Taeko Onuki, Music: Ryuichi Skamoto, Yukihiro Takahashi] B-1 by Rajie from the album "Love Heart" December 21, 1978

 
みなさんは、聴いていると生理的快感を覚える歌声は誰ですか?私の場合、カレン・カーペンター、ジュリー・ロンドン、そしてラジになります。カレン、ジュリーほど低くはないが、よく伸びる声には透明感があって、聴くものに癒しを与える魔法があると思います。その声を初めて意識したのは日産スカイラインのCMでした。当時私はケンメリに乗っていたこともあり、特別な愛着を持ったのでしょうね。

声の持ち主である相馬淳子は、Row(後にポニーテールに改名)というフォーク・グループのメンバーだった人で、1973年に「失われた者たち」というシングルを出し、脱退後はCMソングを歌っていた。その後二人組になったポニーテールは、1976年に「Greeting Cards」というアルバムを出し、相馬淳子はラジという名前(1960年代のアメリカのTVドラマ「巨象マヤ」に出ていたインド人の少年の名前からとったそうだ)で、1977年「Heart To Heart」でソロデビューした。私は当時のシティ・ポップスの最先端をゆくサウンドに夢中になって聴いたものだ。彼女はCMやスタジオ・セッションに特化した人で、テレビやコンサートに一切出なかったので、素晴らしい音楽を作っていたにもかかわらず地味な存在だった。そのため現在YouTubeで検索しても彼女が歌う動画は一切ない。

本作は2枚目のアルバムで、坂本龍一と高橋幸宏がプロデュースを担当している。本作発売当時は、坂本が10月25日「千のナイフ」、高橋が8月21日「サラヴァ!」、そしてイエロー・マジック・オーケストラが11月25日に初アルバムを出したばかりの時期で、彼らの人気が急上昇する直前にあたる。ここではお得意のテクノサウンドは目立たないが、シンセサイザーを大胆に使用した最先端のサウンド作りをしている。

大貫さんが歌詞を提供した曲「たびだち」は、作曲が坂本・高橋の共作という珍しい取り合わせで、シンセサイザーに加えてトランペット3本、トロンボーン5本という分厚いブラスセクションとストリングスを使っている。心地よいテンポで、都会の生活風景が伸びのある綺麗な声で歌われる。イントロにおける坂本のシンセサイザーと浜口によるドラム・シンセイサイザーの「ピョーン」という音がいかにも当時のサウンド。細野のベースが時折見せるチョッパーの音が効果的。

他の曲は、作詞が高橋幸宏、来生えつこ、竜真知子、作曲が後藤次利、坂本龍一、高橋幸宏、南佳孝といった豪華な人たちで、ラジ本人の自作曲「ラブ・ハート」もある(これもまたいい曲!)。演奏面では松原正樹、鈴木茂、高中正義、水谷公生といった当時ベストのギタリストが各持ち味を生かしたプレイを展開しているのが聴きどころ。曲では、ラジと南佳孝のデュエット「クール・ダウン」(作詞 来生えつこ、作曲 南佳孝)A面3曲目が素晴らしい。南にとってもベストトラックと言える。高橋作詞作曲の「ラストチャンス」B面3曲目は、クールな歌詞・メロディーで、坂本のプレイ全開の快演。大貫さんの「Sunshower」を連想させる音作りだ。ラストの曲「ジャスト・イン・ザ・レイン」高橋作 B面4曲目は本作の中ではフィラデルフィア・ソウルを感じさせる曲。山下達郎がコーラスを担当していて、コーラスパートではラジとユニゾンで歌う場面もある。

シンセサイザーが多用されているが、ストリングスやブラスセクションもしっかり入っているので、今聴いても古臭さはあまり感じられない。彼女がこのような作品を作ることができたのは、美しい声と抜群の歌唱力を持ちながら、音楽的に自己主張せず、周囲の指示に素直に従ったこと。それによってプロデューサー、作詞・作曲者達が、彼らが理想とする音楽を自由に創り上げることができたからだろう。

美しい声と芳醇な音楽に満ちた逸品。

[2024年2月作成]


 
1979年  「Mignonne」 (1978/9/21発売)、 「Romantique」 (1980/7/21)の頃 
Sweet Sensation  紀の国屋バンド  (1979)  Polydor  

 


1. AM 4:00 [作詞作曲 大貫妙子 編曲 紀の国屋バンド] A面3曲目

高崎昌子 : Vocal
川辺ハルト : Guitar (左チャンネル), Back Vocal
市崎元輝 : Guitar (右チャンネル), Back Vocal
清水信之 : Keyboards
盛山浩 (キンタ) : Bass
横沢龍太郎 : Drums
マック清水 : Percussion

国分茂博 : Pruducer

1978年12月~1979年1月録音
1979年発売

アルバム「Mignonne」(1978/9/21発売) 収録の「4:00A.M.」のカバー

写真上: アルバム表紙
写真下: シングル表紙(B面に「AM 4:00」収録)

1. AM 4:00 [Words & Music: Taeko Onuki, Arr: Kinokuniya Band] A-3
by Kinokuniya Band from the album "Sweet Sensation" 1979

 
紀の国屋バンドは和光大学の学生が結成したグループ。マック清水(パーカッション奏者として現在も活躍中)の弟ということで、当時高校生だった清水信之がメンバーに加わっており、後に編曲家として大成する彼のプロデビュー作となった。関東の金子マリとバックスバーニー、関西のソー・バッド・レビュー、上田正樹とサウス・トゥ・サウス、大神瑠璃子とスターキング・デリシャスと同系列のソウルバンドであるが、少し後の作品ということもあり、サウンド的により洗練された感じ。1979年に本アルバムを出した後、リーダーの川辺ハルトが家業を継ぐために解散したため、活動期間は短い。彼が継いだ「家業」とは、箱根芦ノ湖の近くにある老舗温泉旅館「きのくにや」(バンドの名前はここから由来。アルバムジャケット裏面に旅館の広告まで入っている!)で、その後彼は十二代目の当主として芦之湯温泉の振興と発展に貢献した。ボーカルの高崎昌子は、本作に先立ち、1978年のアルバム「ロフト・セッションズ Vol.1」(本コーナー「ハリウッド・カフェ」参照)に伊藤銀次と山下達郎の作品「こぬか雨」のカバーや自作の「気楽にいくわ」の2曲で参加。後者には川辺、横沢、市崎がバックに入っている。

本作のA面全部とB面最後の曲はスタジオ録音で、それ以外のB面が当時渋谷にあったライブハウス、エピキュラスでのライブ録音という構成からなり、大貫さんの「AM 4:00」のカバー(「Mignonne」1978のオリジナルと異なり、タイトルで「AM」が先に来ているのが面白い)はスタジオ録音。当時高校生で年下だった清水信之のオルガン、シンセサイザーが曲を形作っていて、才能を感じさせる。ソウルフルな高崎のボーカル、川辺のギターソロも最高。清水は解散後、竹内マリアのバンドに加わりアルバム「University Street」1979や、エポのデビューアルバム「Down Town」1980、大貫さんが曲を提供した岡崎友紀のアルバム「Do You Remember Me」(本コーナー「雨の街」、「恋のジャック&クィーン」参照)に関わり、その縁で大貫さんのアルバム「Aventure」1981の3曲(「Samba de Mar」、「チャンス」、「ブリーカー・ストリートの青春」)に参加することになったのだろう。

他の曲では、シングルカットされたA面1曲目の「Crystal Magic」(B面に「AM 4:00」がカップリングされた)が乗りの良いカッコイイ曲。特にB面のライブ録音のグルーヴ感が凄い!スローな曲ではサム・クック1957年のヒット曲「You Send Me」を演っている。

解散後も、1995年の再開ライブなど、たまに集まって演奏していたようであるが、川辺ナオトは2019年に死去。またベーシストの盛山キンタは、カルメン・マキのバンドや5Xというメタルバンドで活躍したが、2020年に亡くなっている。

後に大貫さんと数多くの仕事をすることになる清水信之のレコード・デビュー作であり、後に名曲として多くのアーティストがカバーする「AM 4:00」をいち早くカバーするなど、センスの良さが光るアルバムだ。


 
University Street  竹内まりや  (1979)  RCA   
 

1. ブルー・ホライズン [作詞 大貫妙子 作曲編曲 山下達郎] B面2曲目
2. かえらぬ面影 [作詞作曲 大貫妙子 編曲 細井豊Band] B面4曲目


竹内まりや: Vocal
吉田美奈子: Back Vocal (1)
山下達郎: Keyboards (1), Percussion (1), Back Vocal (1)
佐藤博: Keyboards (1)
細井豊、清水信之: Keyboards (2)
松木恒秀: Electric Guitar (1)
土岐英史: Alto Sax
小原礼: Bass (1)
久保田潔: Bass (2)
村上秀一: Drums (1)
野口明彦: Drums (2)
マック清水: Percussion (2)
淡野保昌: Strings Arrangement (2)

1979年5月21日発売

1. Blue Horizon [Words: Taeko Onuki, Music & Arr. Tatsuro Yamashita] B-2
2. Kaeranu Omokage (Face That Never Returns) [Words & Music : Taeko Onuki, Arr: Yutaka Hosoi Band]
by Maria Takeuchi ftom the album "University Street" May 21, 1979
 

竹内まりや(1955年3月20日生まれ)は本アルバム発売時は24歳。本作は大学卒業記念として学生生活に基づいたトータル・アルバムとして企画されたが、得意の英語科目で単位が取れず留年になってしまったと中袋のライナーノーツで告白している。そしてその後は音楽活動が忙し過ぎて、結局は大学中退になってしまうという落ちになってしまった。

大貫さんは2曲提供。1.「ブルー・ホライズン」は別れを描いた歌詞であるが、竹内のボーカルは湿っぽさのない淡々とした感じで、それが彼女の個性になっている。メロディーは初期の山下達郎そのもの。バックは当時彼が伊藤広規、青山純の鉄壁リズム隊と組む前のバンドメンバーが中心。吉田美奈子のコーラスがちょっとだけ入るが、山下が彼女と一緒に活動していた時期で、吉田が山下の曲の歌詞を書いたり、互いのコンサートにゲスト参加していた。ラストのスキャットに入る前に、山下の「オー」という声が入るのが面白い。なお2018年にデビュー40周年を記念して本作のリマスターCDが発売され、そこに同曲のライブ(1981年12月22日厚生年金ホール)がボーナス・トラックとして収録された。また本曲に大貫さんが異なる歌詞を付け、1980年山下のボーカルで録音したが没になったトラックがあり、ずっと後の2002年に「夜のシルエット」というタイトルで「The RCA/Air Years LP Box Set 1976-1982」に収められた。2.「かえらぬ面影」は、大貫さんが書いた作品の中では最もアメリカン・ポップス風の曲で、竹内のボーカルがピッタリはまっている。ここでバックを担当しているのは、センチメンタル・シティ・ロマンスの連中で、前曲と同様土岐英史のサックス・ソロがいい感じを出している。

その他の曲について。
1.「オン・ザ・ユニヴァーシティー・ストリート」 [作詞作曲 竹内まりや 編曲 杉真理]
2.「涙のワンサイデッド・ラヴ」 [作詞作曲 竹内まりや 編曲 山下達郎]
3.「想い出のサマーデイズ」 [作詞 竜真知子、作曲編曲 林哲司]
4.「イズント・イット・オールウェイズ・ラヴ」 [作詞作曲 Karla Bonoff 編曲 Don Grolnick]
5.「ホールド・オン」 [作詞作曲編曲 杉真理]

6.「J-Boy」 [作詞作曲編曲 杉真理]
7.「ブルー・ホライズン」 [作詞 大貫妙子 作曲編曲 山下達郎]
8.「ドリーム・オブ・ユー ~レモンライムの青い風~」 [作詞 竜真知子 作曲 加藤和彦 編曲 山下達郎]
9.「かえらぬ面影」 [作詞作曲 大貫妙子 編曲 細井豊Band]

10.「グッドバイ・ユニヴァーシティ」 [作詞 竹内まりや 作曲編曲 梅垣達志]

1.「オン・ザ・ユニヴァーシティー・ストリート」で歌われるキャンパスライフは、アメリカのドラマや映画のイメージで、最後に入る「試験どうだった?」という会話の相手は、芸能界で最初の友達というアン・ルイス。 2.「涙のワンサイデッド・ラヴ」はビーチボーイズなどの60年代アメリカンポップス全開サウンドで、山下のアレンジワークの傑作。竹内が山下と本格的に付き合い始めるのは、本作のしばらく後と思われるが、当時から彼は竹内に相当入れ込んでいたことがよく判る。3.「想い出のサマーデイズ」は、ドゥービー・ブラザース、キャプテン・アンド・テニール風のサウンド。4.「イズント・イット・オールウェイズ・ラヴ」はカーラ・ボノフのデビューアルバム1977に入っていた曲で、リン・アンダーソンのカバーがカントリー・チャートでヒットを記録している。バックは1979年3月に来日公演を行ったリンダ・ロンシュタットのバンド(ダニー・クーチを除く)で、公演の合間を縫って東京の音響ハウスで録音された。ワディ・ワクテルとラス・カンケルはオリジナル録音と同じなので、おそらくワンテイクで録れたんじゃないかな? なおここでコーラスで参加しているケーシー・デビッド・ランキンは日本永住のアメリカ人でShogunというグループを結成してアルバムを発表したり、CMやテレビドラマのテーマソングで活躍した人だ。

5.「ホールド・オン」、6.「J-Boy」は大学の同好会の仲間だった杉真理の作品・アレンジで、ビートルズエスクな逸品。前者における土方俊行の間奏ギターソロはエイモス・ギャレットそのもの。8.「ドリーム・オブ・ユー ~レモンライムの青い風~」は、竹内2枚目のシングルとしてアルバムの約3ヵ月前にシングル・リリースされ、「キリンレモン」のCMソングになってヒットした。シングル盤は瀬尾一三がアレンジしていたが、アルバムでは山下達郎のアレンジで再録音された。なおシングル・バージョンは上述のリマスター盤にボーナス・トラックとして収められいる。最後の10.「Goodbye University」は、竹内が書いた英語の歌詞に、梅垣達志が曲を付けている。

本作はアメリカ西海岸の日差しと風を感じるムードに満ちていて、収録曲はどれも楽しく、アルバム全体としてとても良い出来あがりになっている。

竹内の「ブルー・ホライズン」1979と山下の「風のシルエット」1980との聴き比べが楽しいよ!

[2024年3月作成]


 
Quatre  ラジ  (1979)  CBS Sony   
 

1. 風の道 [作詞作曲 大貫妙子 編曲 坂本龍一] A面5曲目

ラジ: Vocal
坂本龍一: Acoustic Piano, Synthesizer (Arp Odyssey, Prophet T-5)
多グループ: Strings

高橋幸宏: Producer
坂本龍一: Sound Producer, Orchestration

1979年10月21日

1. Kaze No Michi (Path Of The Wind) [Words & Music: Taeko Onuki, Arr: Ryuichi Sakamoto] A-5 by Rajie from the album "Quatre" October 21, 1979
 

ラジ3枚目のアルバムで、タイトルの「キャトル」とはフランス語で「4」の意味。ジャケット表紙は彼女の4枚のポートレイトからなり、収録曲も作者により以下の4部から構成されている。
①安井かずみ・加藤和彦、大貫妙子
②高橋ユキヒロ・細野晴臣・今井裕、矢野顕子・坂本龍一
③高橋信之
④伊達歩・南佳孝
それらはプロデューサーの高橋ユキヒロによる仕掛け技だ。

大貫さんの提供曲 1.「風の道」はアルバム中最も重要な曲。名曲と呼ぶに相応しい作品で、坂本龍一によるアレンジも素晴らしい。大貫さんの世界が歌詞と音の相乗効果でどこまでも広がってゆく感じがして、聴き終わった後も長く余韻が残る。この曲をA面最後に配置したのは、A面・B面に分かれていたアナログ・レコードだからこそ可能な演出だ。本アルバムの発表から3年後に大貫さんがアルバム「Cliche」1982でセルフカバーした。その際はフランシス・レイの編曲をしていたフランスのジャン・ミュジー(Jean Musy)がアレンジを担当しているが、私的には坂本のアレンジのほうがずっと好きだ。発売より約45年が経過し、今では大貫さんのバージョンで聴かれていると思うが、このラジによるオリジナルを是非聴いて欲しい。

他の曲について。
①「一枚のフォトグラフ」(作詞 安井かずみ 作曲 加藤和彦)B面4曲目は、大貫さんと同類のヨーロッパ調の作品で、ブラスのアレンジは坂本。

②「キャトル」(作詞作曲 高橋ユキヒロ)A面1曲目、「わたしはすてき」(作詞 矢野顕子 作曲 坂本龍一)A面4曲目、「月の光」(作詞 高橋ユキヒロ 作曲 細野晴臣)B面3曲目、「キリンのいる風景」(作曲 今井裕、高橋ユキヒロ)B面5曲目最後の短いインストルメンタルは、シンセサイザーを多用したテクノポップ的な曲作り。

③「コンサート」(作詞作曲 高橋信之)A面3曲目、「クリスマス」(作詞作曲 高橋信之)B面2曲目は、他の曲と異なり和風の味付けになっている。作者の高橋信之はユキヒロの実兄で、主にCMソングの作曲(Buzzが歌った日産スカイラインのCM「ケンとメリー~愛と風のように~」など)、プロデューサーやマネジメントなどの裏方の仕事が多かった人。

④「ときどき魔法」(作詞 伊達歩 作曲 南佳孝)A面2曲目、「星に乗って」(作詞 伊達歩 作曲 南佳孝)B面1曲目の伊達歩は小説家伊集院静香の作詞者名。前者は、ラジの1枚目のアルバム「Heart To Heart」1977の「Tokyo Taste」、2枚目「Love Heart」1978の「Cool Down」に次ぐ、南佳孝との3曲目のデュエットで、ボサノヴァ調のゴージャスな世界が広がっている。余談であるが、前述の「Tokyo Taste」は、サディスティックスのセルフタイトル・アルバム1977にも収録されていて、そこではラジとアレックス・イーズリーが歌っている。そして同曲のライブ動画がYouTubeに載っていて、私が知る限り、ラジが実際に歌う様を観ることができる唯一の映像だ。

演奏面では、高橋のドラムスと坂本のキーボードが中心で、他に松武秀樹(シンセ操作)、大村憲司、松原正樹(ギター)、斉藤ノブ(パーカッション)等が参加しており、うち3曲ではElephantというセッションマンのバンドが坂本、大村等と演奏している。

大貫さんのファンに是非聴いて欲しい作品。

[2024年3月作成]

1980年  「Romantique」 (1980/7/21発売)の頃 
想い  秋ひとみ (1980)  Union (テイチク)  


1. 想い [作詞 佐藤真由美 作曲 大貫妙子 編曲 若草恵] A面1曲目

秋ひとみ: Vocal

1980年11月1日発売

1. Omoi (Lost In Thought) [Words: Mayumi Sato, Music: Taeko Onuki, Arr: Kei Wakakusa] A-1 by Hitomi Aki from the album "Omoi" November 1, 1980

大貫さんの1979年までの楽曲提供は、すべてお仲間の人達に対するものであったが、1980年から職業作詞家・作曲家としての活動が始まっており、どういった経緯で本作のようなアイドル歌手に作曲したのかは不明。ちなみに同年はこれ以外に岡崎友紀、竹下景子のアルバムに作詞・作曲している。

1「想い」はアルバムのタイトル曲になっただけあって、他の曲に比べて新しい感覚の曲で、かなり良い出来。歌人でエッセイストでもある佐藤真由美の歌詞は、繊細な言葉使いで報われない恋を描いていて、大貫さんの作風とよく似ている。大貫さんが付けたメロディーは歌謡曲を意識しながらも自分の持ち味もしっかり残していて、それをうまく生かした若草恵のアレンジもとても良いと思う。でも「電光ニュースが 窓の外 月日のように 駆けぬける」という歌詞の一節は、今の若い人には理解できないだろうな~。

秋ひとみ (1957- 本名 中間日登美 大阪府出身)は、1978年にアイドル歌手としてシングル「アンカレッジ経由パリ行き」でレコードデビュー、1980年の本アルバムまでの間に7枚のシングルと2枚のアルバムを出したがあまり売れず、その後はグラビアモデル、CMやバラエティー番組などに出演していたが、1982年の活動休止後は消息不明となっている。歌唱力はアイドル歌手として標準以上で、演歌、ポップス、フォークなど色々なスタイルに挑戦したが、歌手としての独自のスタイルを確立することができずに終わったようだ。

本アルバムは、濃いめのメークアップによる表紙写真と帯のキャッチフレーズ「一段と女っぽくなったひとみ。物想いにふける"秋"です」にある通り、大人の女性のイメージを狙ったものだった。曲的には「愛のめまい」(作詞 たかたかし 作曲 鈴木邦彦 編曲 竜崎孝路) A面4曲目、「変身」(前者に同じ)B面4曲目などの演歌の香り漂う歌謡曲、「ジャマイカン・トマト」(作詞 森雪之丞 作曲 小杉保夫 編曲 若草恵)B面2曲目、「哀愁Boy」(作詞作曲 高梨めぐみ 編曲 若草恵)B面3曲目などのアイドル・ポップス、「ナイス・フィーリング」(作詞作曲 小坂恭子 編曲 若草恵)A面6曲目、「ひとりですか」(作詞 杉紀彦 作曲小杉保夫 編曲 若草恵)B面6曲目のフォーク歌謡、由紀さおり1970年のヒット曲「手紙」(作詞 中西礼 作曲 川口真 編曲 若草恵)B面1曲目のカバーなど様々なタイプの曲がありながら、皆それなりに良い出来上がりになっている。結局どの路線で勝負すべきか絞り込めなかったのかな。また当時の彼女がドリフターズとやったコントの映像を観たが、愛想のない表情・仕草からバラエティー対応が苦手だったことがわかる。つまるところ芸能界の水に合わなかったのだろう。

最後のレコードとなった本アルバムはその後CD化されることなく、2013年にベスト・アルバムのCDが発売された際に12曲中8曲が収録されたが、大貫さんの「想い」はそのなかに含まれなかった。おそらく「彼女らしくない」という理由ではずされたものと思われる。

大貫さんがアイドル歌手に曲を提供した初めての作品。

[2024年6月作成]


 
真昼の舗道  ラジ (1980)  CBS Sony  

 

1. 真昼の舗道 [作詞 大貫妙子 作曲編曲 高橋幸宏] A面2曲目
2. アパルトマン [作詞作曲 大貫妙子 編曲 高橋幸宏] A面5曲目
3. 秋の嵐 [作詞 大貫妙子 作曲 鈴木慶一 編曲 高橋幸宏] B面4曲目
4. 忘却 [作詞作曲 大貫妙子 編曲 高橋幸宏] B面5曲目

ラジ: Vocal
岡田徹: Keyboards, Synthesizer
坂本龍一: Keyboards (1)
矢野顕子: Keyboards (4)
大村憲司: Guitar
後藤次利: Bass (2,3)
細野晴臣: Bass (1)
高橋幸宏: Drums, Synthesizer
松武秀樹: Synthesizer Manipulator
多グループ: Strings (3)

高橋幸宏: Producer, Strings Arrangeer
清水信之: Strings Arranger (3)

1980年11月1日発売

1. Mahiru No Hodou (Midday Pavement) [Words: Taeko Onuki, Music & Arr: Yukihiro Takahashi] A-2
2. Appartement (Apartment) [Words & Music: Taeko Onuki, Arr: Yukihiro Takahashi] A-5
3. Aki No Arashi (Autumn Storm) [Words: Taeko Onuki, Music: Keiichi Suzuk, Arr: Yukihiro Takahashi] B-4
4. Boukyaku [Words & Music: Taeko Onuki, Arr: Yukihiro Takahashi] B-5
by Rajie from the album "Mahiru No Hodou (Midday Pavement)" November 1, 1980
 

高橋幸宏プロデュース、アレンジによるラジの4作目はイエローマジック・オーケストラが人気絶頂だった頃の発売で、シンセサイザーを前面に出したテクノポップになっている。前作までのしっとりしたロマンチシズムは薄まり、当時ニューウェイブと呼ばれた音楽に特徴的だった鋭角的で乾いた感じのサウンドだ。大貫さん以外の作者は、作詞作曲が高橋幸宏、矢野顕子、作詞が来生えつこ、糸井重里、大村憲司、ラジ本人、作曲が杉真理、南佳孝という豪華メンバー。

その中で大貫さんの作品は、タイトル曲の他にA面・B面最後に配されるなど、重要な役割を担っている。タイトル曲の1「真昼の舗道」はヨーロッパ調の曲で、これのみイエローマジック・オーケストラのメンバーが勢揃いしている。生ピアノを弾いているのは坂本龍一、ギターソロは大村憲司というゴージャスなサウンド。2「アパルトマン」はフランス語でアパートの意味であるが、日本語とは異なりマンションのような広い住居のイメージだ。テープ逆回転のイントロから始まり、ギターをフィーチャーしたテクノポップ風のサウンドであるが、曲自体はどちらかというとラジの今までのアルバムに近い。3.「秋の嵐」はいかにも鈴木慶一作曲らしいムーンライダース・サウンド。アルバム最後の曲は恋人との別れによるヨーロッパ傷心の旅を描いた曲で、リズムなしの伴奏。

その他の曲では、シングルカットされた「ラジオと二人」(作詞 糸井重里 作曲杉真理)B面1曲がポップな感じで良い。もうひとつのシングルカット「偽りの瞳」(作詞 高橋幸宏、大村憲司 作曲高橋幸宏)A面4曲目は、2ヵ月後の1981年1月にピンクレディーが異なる歌詞で「Last Pretender」(作詞 糸井重里 作曲編曲 高橋幸宏)というタイトルのシングル盤を出している。ラジとピンクレディーの取り合わせって面白いよね。それと矢野顕子作詞作曲の「みどりの声」B面3曲目でのラジの歌い方が矢野顕子そっくりでびっくり!きっと矢野さんのデモテープがあるんだろうね~。私が知る限り本人による録音は出回っていないはずで、本曲を含む彼女の提供作品の録音が発掘されると面白いだろうね!

以上のとおり大貫さん作品も含めて面白い曲はいろいろあるけど、やっぱり個人的には本作以前の3枚のアルバムのほうが好き。ラジさんはテクノやニューウェーブよりも、しっとりした感じの歌・サウンドのほうが似合っていると思う。大貫さんの曲のなかでは2「アパルトマン」がいいかな。

[2024年5月作成]


Do You Remember Me  Yuki (岡崎友紀)  (1980)  Warner Pioneer 
 

1. 雨の街 [作詞 大貫妙子 作曲 竹内マリヤ 編曲 清水信之]  B面1曲目
2. 恋のジャック&クィーン [作詞作曲 大貫妙子 編曲 清水信之] B面2曲目


清水信之 : Keyboards, Guitar, Orchestration, Arranger
住野裕之 : Keyboards
岩倉健二 : Guitar
真野喬紀 : Bass
石坪信也 : Drums
佐々木敏則 : Percussion
中原幸雄 : Sax
中村哲 : Sax
数原晋 : Trumpet
多グループ : Strings
Tommy Ohmura, Amy Ebisawa, Jane Carment : Chorus (2)

牧村憲一、清水信之 : Producer

「雨の街」は「ロフト・セッションズ Vol.1」(1978/3発売) 竹内まりや「ハリウッド・カフェ」のカバー

1980年9月26日~10月21日録音
1980年11月28日発売

1. Ame No Machi (Rainy City) [Words: Taeko Onuki, Music: Maria Takeuchi, Arr: Nobuyuki Shimizu] B-1
2. Koi No Jack & Queen (Jack & Queen Of Love) [Words & Music: Taeko Onuki, Arr: Nobuyuki Simizu] B-2
by Yuki Okazaki from the slbum "Do You Remember Me" November, 1980
 

岡崎友紀(1953- )は、1960年代の子役の頃から演劇、ミュージカル、テレビで活躍、1970年のコメディドラマ「奥様は18才」の大ヒットおよび歌手デビューにより国民的アイドルとなった。そんな彼女が1980年に従来からのイメージ・チェンジを図り、シティ・ポップに挑戦したのが本作である。LPのA面は加藤和彦がプロデューサーで、彼の世界観が強く反映された内容となり、B面は牧村憲一と清水信之のプロデュースで、従来路線の延長上で音作りを図っている。先行シングル盤としてヒットしたタイトル曲をはじめ、A面の音楽があまりに革新的だったため、加藤が両面担当すれば傑作になったと評価された。そのため大貫の曲を含むB面は割を食った感があるが、当時27才という少し大人になった女性の世界を創り上げている。

1.「雨の街」は、タイトルは違えど1978年竹内マリアの「ハリウッド・カフェ」と同一曲。ここではリズムセクションなしのストリングスとチェンバロによる伴奏で、しっとりと歌っている。彼女の歌声には安定感と深みがあって、少し大人びた感じが伝わってくる。 2.「恋のジャック&クィーン」はポップな感じの曲で、コーラスに切り替わる際のメロディーの変化が鮮やかな曲だ。大貫さんの当時のアルバム「Romantique」1980 のヨーロッパ路線とは異なるけど、彼女のアルバムに入れても十分良い出来と思う。編曲を担当した清水信之は「Romantique」でストリングスの編曲を担当していて、この頃から両者の仕事上の関係が始まっている。プロデューサーの牧村憲一は彼女のヨーロッパ3部作(「Romantique」1980、「Aventure」1981、「Cliche」1982)を仕掛けた人だ。

岡崎友紀はその後もタレント・舞台女優として活躍し、また多くの文化活動に関わっている。2023年12月4日、70歳で「徹子の部屋」に出演し、元気な姿を見せてくれた。

[2024年2月作成]


    
私の中の女たち  竹下景子 (1980)  Polydor 




 

1. 愛のレッスン [作詞 土屋明子 作曲 大貫妙子 編曲 井上鑑] B面3曲目
2. ベッドサイドの子守唄 [作詞 土屋明子 作曲 大貫妙子 編曲 井上鑑] B面6曲目


竹下景子: Vocal
大貫妙子、やまがたすみこ: Back Vocal
井上鑑: Keyboards
矢島賢 or 今剛: Electric Guitar
クマ原田: Bass
Richard Bailey: Drums
Unknown: Trombone (2)

1980年発売

写真上: LP表紙
写真下: シングル「私の中の女たち」 表紙(B面に「ベッドサイドの子守唄」収録)

1. Ai No Lesson (Lesson Of Love) [Words: Akiko Tsuchiya, Music: Taeko Onuki, Arr. Akira Inoue] B-3
2. Bedside No Komori-uta(Lullabye At The Bedside) [Words: Akiko Tsuchiya, Music: Taeko Onuki, Arr. Akira Inoue] B-6
by Keiko Takehisa from the album "Watashi No Naka No Onnatachi " (Women In Me) 1980

 
私にとって当時の竹下景子は、育ちが良く頭の良いお姉さんというイメージだった。1953年愛知県出身で、高校生の時にTVドラマに初めて出て、東京女子大学在学中に女優として本格デビューし、現在に至るまで数多くのTVドラマ・映画に出演した。一番強烈だったのは1970~1980年代のクイズ番組「クイズダービー」の回答者として、漫画家のはらたいらに次ぐ正解率を誇った事で、何気ない仕草の中に気性の激しさをちらりとみせる瞬間が印象的だった。そんな彼女は1978年にシングル「結婚してもいいですか」、アルバム「二人だけの季節」で歌手デビューした。

本作はその2年後に発売された2枚目。インストルメンタル2曲を除く全10曲中9曲につき作詞を担当している土屋明子という人は、なかなか良い歌詞を書いているが、その後の作品がなく、インターネットでこの人についての情報を見つけることができなかった。作曲者は大貫さんの他に仲村ゆうじ、佐瀬寿一(「およげたいやきくん」の作者)、兵頭未来(シンガー・アンド・ソングライター)。全曲のアレンジとキーボードを井上鑑が担当しており、作詞者とセンスの良い編曲者によりアルバムが一貫したカラーに染め上げられている。俳優業の合間にアルバムを作った割には豪華なミュージシャンが勢揃いしているのがミソ。まずリズム・セクションが凄い!ベースのクマ原田(1951-2023)は、主にロンドンでセッションマンとして活躍した人。そしてトリニダッド・トバゴ出身のドラマー、リチャード・ベイリーも、ジェフ・ベックのアルバムで名を上げてロンドンのスタジオで活躍した人だ。二人のグルーヴがアルバムの骨格を作っていると言ってよい。そしてギタリストが矢島賢と今剛という強力メンバー。歌詞とメロディーが曲毎にひとつのドラマを形作り、ライト・アンド・メロウなサウンドをバックに女優の竹下が役を演じるというプロデュースとなっている。竹下の歌声は音程が不安定になる部分があって最初は気になるが、耳ざわりの良い声だし、聴き込むうちにアルバムの世界に引き込まれて「問題なし」になった。

1.「愛のレッスン」は失恋した男に女が愛の蘊蓄を垂れる小話。本アルバムの中では異色のレゲエ調のアレンジで、リズムセクションが躍動し竹下も気持ち良さそうに歌っていて、後半戦の口直し的な役割を演じている。曲中でさらっとしたコーラスが入り、エンディングでは大貫さんの声が「Love Is Love Is Creation」と歌っているのがはっきり聞き取れる。2.「ベッドサイドの子守唄」は最後の曲で、ベースが奏でるイントロのメロディーが美しい。ドラムスの心地良いリズムに乗せてフェンダー・ローズピアノが和音を振りまき、竹下は少し憂いと気だるさを込めて歌い余韻を残して終わる。エンディングのトロンボーンソロはクレジットになく、誰かは不明。ここではバックコーラスで、大貫さん以外にやまがたすみこと思われる声が聞こえる。

他の曲ではタイトル曲「私の中のおんなたち」作詞:土屋明子、作曲:仲村ゆうじ A面2曲目がいい。ボサノバ調のゆったりとした曲で、間奏のギターソロがばっちり決まっている。本曲はシングルカットされ、そのB面に.「ベッドサイドの子守唄」が収録された。歌唱力がちょっと追いついていないようだけど、ジャズワルツの「優しい共犯者」作詞:土屋明子、作曲:兵頭未来 B面2曲目もなかなか。

アルバムの中で、大貫さんの2曲が突出しており、両方とも重要な位置に配されている。井上鑑氏が他曲に増してこれら2曲のアレンジに力を入れているのが明白で、彼女の曲がアルバムのクォリティーを高めるために使われていることがよくわかる。

[2024年3月作成]


 
The RCA/AIR Years LP Box 1976-1982  山下達郎 (2012)    RCA

 





1. 夜のシルエット [作詞 大貫妙子 作曲編曲 山下達郎]

山下達郎: Vocal

1980年録音(未発表)

写真上: 「The RCA/AIR Years LP Box 1976-1982」 2002年2月20日発売  RCA/AIR
写真中: 「The RCA/AIR Years LP Box 1976-1982」 Special Bonus Disk ジャケット
写真下: 「Opus ~All Time Best 1975-2012~」 2012年9月26日 Warner Music Japan


1. Yoru No Silhouette (Silhouette Of The Night) [Words: Taeko Onuki, Music & Arr: Tatsuro Yamashita] recorded on 1980 (Unreleased) by Tatsuro Yamashita.
Later released in the special bonus disk of "The RCA/AIR Years LP Box 1976-1982", Febuary 20, 2002, and in the bonus disk of "Opus ~All Time Best 1975-2012~" September 26, 2012.
 

大貫さん作詞、山下達郎作曲による「ブルー・ホライズン」は、竹内まりやのアルバム「University Street」1979に収められたが、翌1980年に山下が異なる歌詞で録音し没になったトラックが「夜のシルエット(仮題)」だ(「仮題」が付くのは当時曲のタイトルも決めずに終わったため)。その後2002年に発売されたRVC/AIRレーベルのアルバム7枚を収めた2000枚限定盤ボックスセット「The RCA/AIR Years LP Box 1976-1982」の8枚目スペシャル・ボーナス・ディスクに未発表曲として収録された(当該ボーナス・ディスクは当初発売のアナログLPのボックスセットのみで、ほぼ同時期に発売されたCDボックスセット「The RCA/AIR Years CD Box 1976-1982」には添付されていない)。そして10年後の2012年に発売されたCD3枚組のベスト盤 「Opus ~All Time Best 1975-2012~」の初回限定版にはボーナス・ディスクが付いていて、そこにはCD初収録として 「夜のシルエット」が収められた。

以上が本曲の録音と発売の経緯になるが、実際聴いてみると習作段階で制作を中止した感じで、ピアノ、エレキピアノ、ベース、ギター、アルトサックスによる伴奏は、竹内のトラックのような洗練された仕上がりではなくヘッドアレンジに近い。といってもピアノ、エレキピアノが同時に聞こえるので、一発録りではなくオーバーダビングがされていること、山下が粗削りながらもしっかりボーカルを入れているので、それなりに聴き応えのある出来となっている。1980年というと「Ride On Time」の頃にあたるが、本曲はシュガーベイブの香りがするので、当時彼がやっていた音楽とは異なるように聴こえる。山下はどんなつもりでこの曲を録音したんだろう。同じメロディーで異なる歌詞をどう当てることができるかという実験でもしたのかな?

大貫さんの歌詞は、愛のすれ違いを描いている点では共通しているが、「言葉いらぬ日々もつかのまに(ブルー・ホライズン)」、「愛し合った日々もつかのまに(夜のシルエット)」という一節を除いては全く異なるもの。また「ブルー・ホライズン」は3ヴァースがすべて異なる内容であるのに対し、「夜のシルエット」は2ヴァースのみ、しかもヴァースの後半部分「愛し合った日々もつかの間に めぐる明日も僕らにはこない 手を伸ばしてそっと触れる時 凍り付いた君は夜のシルエット」が同じで、それがエンディングも含め4回も繰り返されていて、歌詞の未完成度からみても習作の色合いが強い。

いろいろ謎の多い曲であるが、山下歌唱による「ブルー・ホライズン」の歌詞違いということで、楽しんで聴きましょう。

[2024年5月作成]


1981年  「Aventure」 (1981/5/21発売)の頃
New Romance  宮本典子 (1981)  Casa Blanca (Polyster)   
 






1. 白い砂の恋人 [作詞作曲 大貫妙子 編曲 加藤和彦、清水信之] B面3曲目

宮本典子: Vocal
清水信之 or Christian Schulze: Keyboards
Mats Bjorklund: Guitar
Gunter Gebauer: Bass
村上秀一 or Kurt Kress: Drums

加藤和彦: Producer

1981年1月1日発売

1. Shiroi Suna No Koibito (The Lover On White Sand) [Word & Music: Taeko Onuki, Arr: Kazuhiko Kato, Nobuyuki Shimizu] B-3  by Noriko Miyamoto from the album "New Romance" January 1, 1981

宮本典子は東京銀座生まれの江戸っ子。赤坂のディスコ「Mugen」でダンサーとして働き、その後ハウスバンドのシンガーとなり、そしてソロとしてレコード会社と契約する。デビューアルバム「Rush」1978は日本ジャズ界の重鎮鈴木勲とのコラボで、ジャズ寄りのフュージョンだった。その後クロスオーバー風のアルバムを出したが、4枚目の本作でテクノ・ディスコに挑戦、彼女の作品のなかでは異色の1枚となった。加藤和彦プロデュースによる本作はミュンヘンと日本での録音で、ドイツの腕利きのセッションマンと村上秀一(ドラムス)、清水信之(キーボード)が演奏に参加している。当時のドイツはクラフトワークを皮切りに独自のサウンドを発展させ、ジョルジオ・モロダーがアメリカ人のドナ・サマーの「I Feel Love」1976や「Hot Stuff」1979を作り上げて一世を風靡する等、ミュンヘン・サウンド全盛の時代だった。

大貫さんが作詞作曲した「白い砂の恋人」は、彼女の作品としては珍しくディスコ調の曲に仕上がっているが、彼女独特のメロディーと透き通った世界観はしっかり生かされており、同じ二人が手掛けた「Samba De Mar」(彼女のアルバム「Aventure」1981 収録)に通じる世界がある。間奏のソロを含むシンセサイザーがとてもいい感じで、本作には他に Christian Schulzeというドイツ人キーボード奏者が録音セッションに参加しているが、演奏のタッチから清水信之で間違いないと思われる。

他の曲では、安井かずみ作詞、清水信之作曲「After You've Gone」A面2曲目や加藤和彦のバンド、サディスティックスを思わせる「愛は24 Hours」安井かずみ作詞、加藤和彦作曲 A面3曲目などの日本語歌詞の曲がいい感じで、宮本典子というシンガーよりも加藤和彦とその右腕的存在だった清水信之の世界が色濃く出ているアルバムと言えよう。彼女は前作3枚目のアルバム「Rush」からのシングルカット「ラスト・トレイン」や「エピローグ」でヒットを飛ばしたが、もともと日本人離れした感のあった人で日本の音楽界になじめずに渡米。Mimiという名前でラリー・グラハムやブラーザース・ジョンソン等と音楽活動を続けた。その後の少ないながらもアルバムを発表。現在もロサンゼルスに住んでいて、時々日本に帰国して凱旋ライブを行っている。

大貫さんの世界のディスコ風アレンジという、とても面白いサウンドが楽しめる。

[2024年3月作成]


 
ecran  金井夕子  (1981)  Canyon   
 





 
1. Wait My Darling [作詞 大貫妙子 作曲編曲 細野晴臣] A面3曲目
2. I'm In Love With You [作詞作曲 大貫妙子 編曲 後藤次利] A面5曲目

3. Wait My Darling (Long Version) [作詞 大貫妙子 作曲編曲 細野晴臣] Single A-Side


金井夕子: Vocal
大貫妙子: Chorus
矢野顕子: Keyboards (1,3)
佐藤準: Keyboards (2)
大村憲司: Electric Guitar (1,3)
鈴木茂: Electric Guitar (2)
安田裕美: Acoustic Guitar (2)
細野晴臣: Bass (1,3)
後藤次利: Bass(2)
林立夫: Drums
浜口茂外也: Percussion (2)

写真上: アルバム 1981年2月21日発売 (1,2)
写真中: シングル「Wait My Darling」 1980年10月21日発売 (3)
写真下: シングル「可愛い女と呼ばないで」 1980年10月21日発売 (B面に 2収録)

1. Wait My Darling [Words: Taeko Onuki, Music & Arr.: Haruomi Hosono] A-3
2. I'm In Love With You [Words & Music: Taeko Onuki, Arr. Tsugutoshi Goto] A-5
by Yuko Kanai from the album "ecran" Febuary 21, 1981

3. Wait My Darling (Long Version) [Words: Taeko Onuki, Music & Arr.: Haruomi Hosono] Single A-side by Yuko Kanai, October 21, 1980

金井夕子(1958- )は北海道札幌市出身。TVオーディション番組「スター誕生」で最優秀賞を得てスカウトされ、二十歳の1978年6月尾崎亜美作の「パステル・ラブ」でレコード・デビューした。初アルバムは同年11月発売の「Feeling Lady」で、尾崎亜美、丸山圭子、庄野真代という豪華な作曲陣と、腕利きのセッションマンによる作品だった。それ以降も松本隆、筒美京平、松任谷正隆、鈴木茂、細野晴臣等が制作に参加、本作は4枚目でアイドル時代最後のアルバムとなった。

「ecran」は「銀幕」の意味で、映画を思わせるストーリー性のある歌が並んでいる。全10曲は以下4つのタイプからなっている。① 尾崎亜美によるしっとりとした世界 ② 細野晴臣と矢野顕子による跳ねたリズムのテクノ的サウンド ③ 鈴木茂、後藤次利による透明感あるガールズ・ポップ・サウンド ④佐藤準によるアメリカン・スタンダード風サウンド。大貫さんが詩を提供した1. 「Wait My Darling」は②のジャンルに属し、矢野顕子と細野晴臣によるシンセとベースによるふわっとした乗りのテクノサウンドで、彼氏に追いついてゆこうとする女性の心を歌うボーカルは、当時のアイドルにしては少し大人っぽい感じ。この曲はアルバム発売前年の10月にシングルで先行発売されていて、一部の資料では「アレンジ違い」とされているが、実際聴くと、シングル盤にあったファースト・コーラス後のシンセによる間奏、およびエンディングにおけるファースト・コーラスの繰り返しが、編集によりカットされセカンド・コーラスのみになることで、アルバム版は約1分30秒短くなっている。アルバムのほうがシングルよりも演奏時間が長くなるのが普通であるが、本件は逆という珍しいケース。凝ったサウンドに仕上がっているが、細野さんの作曲はアイドル歌手に合わせようとしてちょっと無理しているかな?2.「I'm In Love With You」は③に属し、好きなのに彼の気を引けない女子の心情を歌っていて、感覚的には大貫さんのアルバム「Romantique」の感じに近い。なお本曲は、1981年に発売されたシングルのB面に収められている。

その他の曲では、「可愛い女と呼ばないで」(作詞作曲 山口美央子、編曲 鈴木茂)B面1曲目は、男をじらす女の姿を描いたアップテンポの歌で、歌詞の早い歌い回しと鈴木茂のギターソロ、後藤次利のベースラインが面白い。「走れウサギ」(作詞 糸井重里 作曲編曲 細野晴臣)は、自分のもとに馳せ参じる彼を「走るウサギ」に比喩した大変面白い歌詞の曲。この曲は上述のシングル「Wait My Darling」のB面の曲「ハートブレーカーのために」(作詞 作曲 編曲 同じ)と同じバッキングトラックを使い、歌詞だけをそっくり作り変えたもの。後から発表されたアルバムバージョンのほうが遥かにひねりが効いている。金井夕子の歌唱は、当時のアイドル歌手のなかでは上手いほうだと思う。しかし彼女の本領は尾崎亜美が書いた「銀幕の恋人」B面5曲目のようなしっとりとした情感のある曲のほうが向いているようだ。

アイドル歌手としての活動は、1982年にシングルを出した後に終わってしまい、その後は結婚と離婚、シングルマザーとしての子育て、鞄店勤務、ヨガ講師などをしていたとのことであるが、2010年代より歌手活動を復活して歌謡祭等への出演の他、コンサートもたまに行っている。彼女のオフィシャル・サイトによると、2020年代の初めにライブハウスで本アルバムの曲を歌ったそうで、2.「I'm In Love With You」につき、彼女はこう語っている。「年頃の女性の感情が魅力的。大貫妙子さんの歌に出てくる主人公は、素直で可愛くて真っ直ぐなのが素敵。この歌をわたしなりに、今の気持ちで歌うのがとても楽しみ」と語っている。また「Wait My Darling」の細野さんのアレンジが大好きとも述べている。

[2024年2月作成]


  
ただいま  矢野顕子  (1981)  徳間Japan 
 

1. いらないもん [作詞 矢野顕子、ピーター・バラカン 作曲 大貫妙子  編曲 矢野顕子、坂本龍一] A面5曲目
 

矢野顕子: Vocal, Keyboards
坂本龍一: Synthesizer

1981年5月1日発売

1. Iranaimon (I Don't Need It) [Words: Akiko Yano, Peter Barakan, Music: Taeko Onuki, Arr: Akiko Yano, Ryuchi Sakamoto] by Akiko Yano from the album "Tadaima (I'm Home)" May 1, 1981


あっこちゃんとター坊の初コラボ作品。

矢野顕子4枚目のアルバムで、これまでに増して実験的な色彩の強い作品になっている。

「いらないもん」は実験的な曲のひとつで大貫さんの作曲とあるが、メロディーがデフォルメされているようで曲として聴き取るのが難しい。背景には工事現場の音やシンセサイザーによる効果音が流れ、現代音楽の趣があって当時一緒に暮らしていた(後に結婚)坂本龍一の好みが入っているものと思われる。

他の曲では、2月1日にシングルで先行発売され、カネボウ化粧品の1981年春のキャンペーンのCMソングとして使われヒットした「春咲小紅」(作詞 糸井重里、作曲 矢野顕子)B面3曲目が一番まとも。細野晴臣(ベース)、高橋幸宏(ドラムス)、大村憲司(ギター)といったYMOの連中がバックに入っている。また灰谷健次郎が編集した子供の詩集「たいようのおなら」に収められた子供が書いた9編の詩をフリーな感覚で弾き語った「たいようのおなら」B面1曲目が独創的で素晴らしい。ヘタウマ漫画の大家、湯村輝彦によるジャケット・イラストもユニーク。

大貫さん作曲であるが、実験的な演奏のため曲の良し悪しを鑑賞・評価するには難しい内容。

[2024年4月月作成]


Without Sugar  倉橋ルイ子  (1981)  Polydor 
 

1. トワイライト・カフェ [作詞 竜真知子 作曲 大貫妙子 編曲 井上鑑] A面3曲目
2. Afternoon [作詞作曲 大貫妙子 編曲 井上鑑] B面2曲目

 
倉橋ルイ子: Vocal
大野克夫: Side Vocal (1)
井上鑑、田代マキ、山田英俊: Keyboards
今剛、芳野藤丸: Electric Guitar
吉川忠英、笛吹利明: Acoustic Guitar
Mike Dunn. 長岡道夫、金田一省吾: Bass
林立夫、見砂和照、島村英二、菊池丈夫: Drums
斉藤ノブ、浜口茂外也、島村英二: Percussion
八木のぶお: Harmonica (2)
Joe Ensemble、加藤グループ、大野グループ: Strings

(お断り)本アルバムには曲毎のクレジットがないため、参加ミュージシャン全員を記載しています。

1981年6月21日発売

1. Twilight Cafe [Words: Machiko Ryu, Music: Taeko Onuki, Arr. Akira Inoue] A-3
2. Afternoon [Words & Music: Taeko Onuki, Arr. Akira Inoue] B-2
by Ruiko Kurahashi from the Album "Without Sugar" June 21, 1981
 

倉橋ルイ子(1959- )は北海道出身で、1970年代終わりにスカウトされ、作詞家の岡田冨美子等からレッスンを受けて、1981年4月シングル盤「ガラスのYesterday」でデビュー、その2ヵ月後に本アルバムを発売した。彼女は歌唱スタイルから「バラード・シンガー」と呼ばれることが多いが、報われぬ恋を歌う「トーチ・シンガー (Torch Singer)」のほうが適切な感じがする。アイドル歌手には到底歌えない陰影の濃い歌が彼女の持ち味であるが、単なる歌唱力だけではなく、心の奥から湧き出る情感を自然な感じで表現することが出来る天性の才能があるように思える。

収録された11曲はふたつに大別される。岡田冨美子作詞、大野克夫、網倉一也作曲、船山基紀、若草恵編曲の歌謡曲路線と、大貫妙子、竜真知子作詞、大貫妙子、林哲司、井上鑑作曲、井上鑑編曲のポップ路線だ。前者が歌詞・メロディーともに暗くしっとりと濡れた感じであるのに対し、後者はひんやりとした透明感があるサウンドに仕上がっていて、その対比がアルバムに奥行きを与えている。

大貫さんが提供した曲は2曲。1.「トワイライト・カフェ」は元スパイダースのキーボード奏者で、沢田研二に多くの曲を提供した大野克夫とのデュエット。夕方のカフェで偶然再会した昔の恋人達の風景を描いた曲で、ボサノバ調のクールなメロディーが印象的。洗練されたアダルトな雰囲気は、ダークな曲が多い本作の中では異色で、口直し的な位置づけになっているようだ。大貫さんが作詞作曲の両方を担当した 2.「Afternoon」は、彼女本人が歌っても全然違和感なさそうな内容で、硬質なクリスタルのような感触がよく出ている曲だ。倉橋のボーカルも、持ち前の情感を込めながらも抑えめに歌っており、それがよい効果を生み出している。

他の曲では、個人的な好みになるが、ソウルっぽい「Never Fall In Love」(作詞:竜真知子、作曲:林哲司、編曲:井上鑑)A面4曲目、ラテンロック風の「ビリーの優しい夜」(作詞:福田一三、作曲・編曲:井上鑑)A面5曲目が面白い。「Self Disgust」(作詞:倉橋ルイ子、作曲:江島陽子)B面5曲目は、唯一本人による作詞で、吉川忠英のフィンガースタイル・ギターのみの伴奏で歌われる異色の作品。次の曲のための前菜的な存在かな?そして最後の曲が「Love Is Over」(作詞・作曲:伊藤薫、編曲:船山基紀)B面6曲目で、これはオーヤン・フィフィ(欧陽菲菲)の代表曲だ。もともとは倉橋がデビュー作として歌う予定があったという裏話があるようで、この彼女向きな歌を大切なレパートリーとして歌い続けているそうだ。

本アルバム以降の彼女は、本来の姿である歌謡曲寄りのバラード路線中心で作品を発表するが、その内容に変化と彩りを与えるため、大貫さんの作品を1984年のアルバムまで採用している。その後1990年代前半にいったん活動を休止したが、1999年に復活、固定ファンを主対象とした定期ライブを開催しているそうだ。

[2024年2月作成]


  
哀しみの孔雀  杏里  (1981)  For Life  
 

1. Am I Afraid ? [作詞 大貫妙子、作曲・編曲 岡田徹] B面3曲目
2. いつの日かHappy End [作詞 大貫妙子、作曲・編曲 岡田徹] B面4曲目

杏里: Vocal
岡田徹: Electric Piano (1), Synthesizer, Chorus (1)
白井良明: Guitar
鈴木博文: Bass (1)
奈良俊博: Bass (2)
かしぶち哲郎: Drums (1)
鈴木さえ子: Drums (2)
武川雅寛: Chorus (1)
鈴木慶一: Chorus (1), Noises (1), Producer

1981年9月21日発売

1. Am I Afraid ? [Words: Taeko Onuki, Music & Arr: Toru Okada] B-3
2. Itsuno Hi Ka Happy End (Someday It Will Be Happy End) [Words: Taeko Onuki, Music & Arr: Toru Okada] B-4
by Anri from the album "Kanashimi No Kujyaku" (Sad Peacock) September 21, 1981

 

杏里(1961- 本名川島栄子)は神奈川県出身で、1978年11月LA録音によるシングル「オリビアを聴きながら」(作詞作曲 尾崎亜美)、アルバム「杏里-Apricot Jam-」でデビューした。その後4枚目のアルバム「Heaven Beach」1982で、「杏里=海、夏」というイメージを確立し、そして1983年の「Cat's Eye」、「悲しみがとまらない」などの大ヒットで「シティ・ポップのクィーン」というステータスを不動のものとした。本作はデビューから成功に至るまでの過渡期に制作された3枚目のアルバムで、現在我々が抱く彼女のイメージとはかなり異なるものになっている。ジャケットの彼女の写真には成功後の垢抜けた感じはなく、その地味目な容貌がアルバムの内容を象徴していると思う。プロデューサーは鈴木慶一で、ほとんどの曲でムーンライダースがバックとアレンジを担当している。作詞は佐藤奈々子(彼女最後のアルバム「Spy」を出した後で、当時は作詞家として活動。後に写真家に転向する)、鈴木博文(ムーンライダース)、松尾清憲、糸井重里、パンタ、大貫妙子、作曲は鈴木慶一、岡田徹(ムーンライダース)、松尾清憲、パンタ、比賀江隆男(ハルメンズ)という面々で、当時の彼女はソング・ライティングをせず提供された曲を歌っていた。本作ではヨーロッパ風の作品、音つくりを試したが、杏里本人とのミスマッチな感じは否めず、彼女の持ち味が発揮されたとは言い難い結果となった。彼女自身も当時は色々苦労した時期だったと語っている。

大貫さんが歌詞を提供したのは2曲で、いずれも作曲者は岡田徹 (1949-2023)。1.「Am I Afraid ?」は大貫さんお得意の清涼な感じの曲で、岡田によるシンプルなアレンジもいい感じ。ヴァースの間で聞こえるコーラスは鈴木慶一と武川雅寛だ。一方2.「いつの日かHappy End」は、ムーンライダース風テクノポップ・アレンジ。これら2曲についてはヨーロッパ感がないので、聴いていても前述の「歌い手と音楽のミスマッチ」はあまり感じられず、杏里らしくないかもしれないが、それなりに良い出来だと思う。

その他の曲について。佐藤奈々子が歌詞を提供した6曲、糸井重里の1曲が、主にヨーロッパの雰囲気を醸し出していて、「杏里=海、夏」という先入観を排除して聴くと、曲・サウンドともにそんなに悪いとは思えないなんだけど、彼女は歌が上手いけど、佐藤奈々子や大貫妙子が発する癖というかオーラが少ないようで、その分印象が薄くなり後に余韻が残らないようだ。そのことが彼女がこの手の歌に合わない理由になるのだろう。特に佐藤奈々子の歌詞とムーンライダースの作曲のコラボは、どれも個性的でとても良いと思うのでもったいないね。今現在の視点からではあるが、いっそのこと佐藤本人が歌ったらよかったのではと思うくらい。

アルバムとしての評価は低いと思うけど、大貫さんの2曲はそれなりに良い出来だと思う。

[2024年3月作成]


   
Portrait  竹内まりや  (1981)  RCA 

 

1. ラスト・トレイン [作詞 大貫妙子 作曲編曲 山下達郎] A面1曲目
2. 雨に消えたさよなら [作詞作曲 大貫妙子 編曲 乾裕樹] A面6曲目

3. ラスト・トレイン(Live Ver.) [作詞 大貫妙子 作曲編曲 山下達郎] 17曲目 40周年記念リマスター盤CD ボーナス・トラック (1981年8月25日 中野サンプラザ・ホール 「Mariya Popping Tour」より)
 

竹内まりや: Vocal
山下達郎: Keyoards (1), Guitar (1), Percussion (1), Backing Vocal (1)
中西靖晴: Keyboards (1)
乾裕樹: Keyboards (2)
松浦義博: Slide Guitar (1)
村松邦男、安田裕美: Guitar (2)
土岐英史: Sax (2)
伊藤広規: Bass
青山純: Drums (1)
上原裕: Drums (2)
小杉理宇造、宮田茂樹: Backing Voca (1)l

村上勝、宮田茂樹、竹内まりや: Producer

注: 3の演奏メンバーは不明

1,.2: 1981年10月21日発売
3: 2019年3月27日発売 


1. Last Train [Words: Taeko Onuki, Music & Arr: Tatsuro Yamashita] A-1
2. Ame Ni Kieta Sayonara (Goodbye Lost In The Rain) [Words & Music Taeko Onuki, Arr: Hiroki Inui] A-6
by Mariya Takeuchi from the album "Portrait" October 21, 1981

3. Last Train (Live Version recorded on Ausust 25, 1981 at Nakano Sunplaza Hall "Maria Popping Tour") [Words: Taeko Onuki, Music & Arr: Tatsuro Yamashita] 17th track from the bonus track of CD "40 Years Anniversary Remaster Version" March 27, 2019

竹内まりやの5枚目でRCA時代最後のアルバム。3年間で5枚のアルバムを出し、多忙な芸能活動にストレスを感じていた26歳の彼女はここで結婚を前提とした活動休止期間に入る。その間は他アーティストへの楽曲提供を行いながらソングライティング・スキルを磨き、3年後の「Variety」1984からは自作曲のみを歌うシンガー・アンド・ソングライターとして復帰した。「Portrait」は全12曲中、自身の作詞作曲が4曲、作詞のみが5曲となっており、最初の頃と比べて自作品の割合が大きく、「肖像画」というタイトルの通り、本人の日本やアメリカでの体験をもとに作った曲が多く入っている。当時交際宣言済の山下達郎による作曲・編曲・演奏面の全面的サポートを得て、好きなように伸び伸びと制作した感が伝わってくる作品で、それはジャケット写真の爽やかな表情とライナーノーツにおける本人コメントにも現れている。

最初の曲 1.「ラスト・トレイン」は、竹内が歌った他のいかなる曲とも全く異なる曲調なのが驚き。本人コメントによると、「ザ・バンドやJ・ガイルズみたいな音楽を女がやれたらと真剣に考えていた矢先に、達郎さんと大貫さんがピッタリのロックナンバーを書いてくれました」とのこと。アメリカン・ロックを意識した曲で、山下のギターのリフと間奏における松浦義博のスライドギターがそれっぽく決まっている。一方 2.「雨に消えたさよなら」は、大貫さん独特のメロディーなんだけど、ジャズ・ワルツ風のアレンジが個性的で面白く、アルバムの中でもキラリと光った存在になっている。間奏の土岐英史のサックス・ソロも素晴らしい。

他の曲ではアルバム中唯一英国風の「Crying All Night Long」(作詞 竹内まりや 作曲編曲 伊藤銀次)A面2曲目が、リバプールというかビートルズ・サウンドで、伊藤銀次がハーモニー・ボーカルを付けている。「悲しきNight & Day」(作詞作曲 竹内まりや 編曲 山下達郎)A面4曲目は、岡田徹のピアノ以外の全ての楽器演奏を山下が担当した50年代アメリカン・ポップスへのオマージュ。「僕の街へ」(作詞 竹内まりや 作曲編曲 林哲司)A面5曲目は、ジャクソン・ブラウンを思わせるウエストコースト・ロックサウンドで、彼女のアメリカ縦断バスの旅の経験を元に書いたロードソング。「リンダ」(作詞作曲 竹内まりや 編曲 山下達郎)B面1曲目はアン・ルイスへの提供曲のセルフカバー。「イチゴの誘惑」(作詞 松本隆 作曲編曲 林哲司)B面2曲目はヒット狙いの軽快なポップソング。彼女、大貫さん、Epoがバック・ボーカルで入っていて、ライナーノーツで彼女は「花のRCAシスターズ」と呼んでいる。「ポートレイト "ローレンスパークの思い出"」(作詞 竹内まりや 作曲編曲 安部恭弘)B面6曲目は、アメリカ滞在時の17歳の彼女が青い瞳の男の子に恋をした思い出を綴った歌で、今結婚を控えた彼女が若き日の切ない思いを素直に吐露した感動的な曲。デビット・フォスターに傾倒していた安部恭弘のメロディーとアレンジが素晴らしい。

本アルバムは2019年に「40周年記念リマスター盤」として再発され、そこには1981年のライブから6曲がボーナス・トラックとして収録された。その1曲が「ラスト・トレイン」で演奏メンバーは不明であるが、スタジオ録音に比べてより「ロックな」サウンドで迫っている。

大貫さんが竹内に提供した最後の曲となった。

[2024年7月作成]


アコースティック・ムーン  ラジ  (1981)  CBS Sony   

 
 
1. リラの日曜日 [作詞 大貫妙子 作曲 高橋幸宏 編曲 井上鑑] B面5曲目

ラジ: Vocal
鈴木茂、今剛: Electric Guitar
吉川忠英: Acoustic Guitar
井上鑑: Keyboards
後藤次利: Bass
林立夫: Drums
浜口茂外也: Percussion
浦田恵司: Synthesizer Programming
川村洋人、堀内茂雄、原賀孝、藤澤俊樹、小澤豊、佐々木昭: Cello

1981年11月21日発売

1. Lila No Nichiyo-Bi (Lilac Sunday) [Words: Taeko Onuki, Music: Yukihiro Takahashi, Arr: Akira Inoue] B-5 by Rajie from the album "Acoustic Moon" November 21, 1981

「Acoustic Moon」はラジ5枚目でCBS最後のアルバム。今までの作品で演奏・製作に関わってきた高橋幸宏は、ここでは1曲の作曲のみの参加となり、代わりに井上鑑がアレンジを担当していて、これまでとはかなり雰囲気が異なる音作りになっている。作詞者は来生えつこ、糸井重里、大貫妙子、山川啓介、作曲者は井上鑑、南佳孝、高橋幸宏、杉真理、井上鑑、後藤次利、中林憲昭、筒美京平、Nobody といった作家陣で、前作までとそれほど変わらず。

1.「リラの日曜日」は、ラテン系フュージョンやAORの曲が多い中で、大人しい感じの曲。井上鑑のアレンジにより前作までとサウンドが異なると書いたが、この曲のみ同じ井上のアレンジながら前作までの色合いが残っていて、歌詞と合わせてヨーロッパ調の仕上がりになっている。これが大貫さんがラジに提供した最後の作品となった。

その他の曲では、杉真理作曲の「Rosy Blue」A面1曲目(作詞 山川啓介)はポップな感じのメロディーがキャッチー。本作のなかで光っているのは、来生えつこ作詞、南佳孝作曲による3曲。「ブラック・ムーン」A面5曲目はラテン風のアレンジによる妖しげなムードの曲。なお本曲は大貫さんの「黒のクレール」と同じく日立マクセル・カセットテープのCMソングとなった。「薔薇のグラス」A面6曲目はしっとりしたボサノバで、「パラダイス・ワイン」B面2曲目はサルサ、サンバ風のアレンジ。「メモリー・スルー(追想)」(作詞 来生えつこ 作曲 中村憲昭)はブラジリアン風のサウンドで、鈴木茂のギターと土岐英史のサックスソロが良い。なお「Do You Wanna Dance?」(作詞 糸井重里)のみ他の曲と毛色が異なる歌謡曲風の曲で、作曲者のNobodyは、矢沢永吉のバックから発展して結成されたグループ(木原敏雄、相沢行夫).。演奏面では全曲でベースを弾いている後藤次利のプレイが素晴らしい。ちなみにラジはこの後東芝EMIに移籍して、これまでと全く異なる作家陣、ミュージシャンと2枚のアルバムを制作している。

前作までの高橋幸宏のロマンティシズムとは異なる洗練された大人のシティ・ミュージックに仕上がったが、大貫さんの作品のみ前作までのカラーを引き継いでいる。

[2024年6月作成]


Morning Shadow 倉橋ルイ子  (1981)  Polydor   
 


1. A Day [作詞 竜真知子 作曲 大貫妙子 編曲 清水信之] A面3曲目
2. Heartbreak Highway [作詞 岡田冨美子 作曲 大貫妙子 編曲 清水信之] B面1曲目

 
倉橋ルイ子: Vocal
清水信之: Keyboards
大村憲司: Guitar (1)
村上秀一: Drums (1)
多グループ: Strings (2)

1981年12月1日発売

1. A Day [Words: Machiko Ryu, Music: Taeko Onuki, Arr. Nobuyuki Shimizu] A-3
2. Heartbreak Highway [Words: Tomiko Okada, Music: Taeko Onuki, Arr. Nobuyuki Shimizu] B-1
by Ruiko Kurahashi from the Album "Morning Shadow" December 1, 1981

 
前作「Without Sugar」から6ヵ月で発売された倉橋ルイ子3枚目のアルバムで、彼女の持ち味であるバラードを中心にお口直しの曲を取り混ぜた構成。作詞に岡田冨美子、竜真知子、作曲に大貫さん、林哲司、網倉一也、大野克夫などという作家陣で、基本的に前作の延長線上にある作品。

大貫さんが作曲で参加した2曲は清水信之が編曲を担当し、他と雰囲気が異なるアレンジになっている。都会における孤独な日常を綴った歌詞に大貫さんが切ないメロディーを付けた1.「A Day」は、清水のシンセサイザーが前面に出た演奏。2.「Heartbreak Highway」は別れを歌ったトーチソングで、ピアノとストリングスのみの演奏。歌謡曲の作詞家中村冨美子が書いた泣きが入った歌詞の曲で、大貫さんの作品の中では最も悲しさがこもった旋律になっている。

アルバム全体ではA面が「Rui's Cafe」というタイトルで日中の情景、B面が「Rui's Pub」として夜間を描く構成になっている。A面では「Morning」、「December 24」(作詞 岡田冨美子 作曲編曲 林哲司)A面2曲目、5曲目がシティ・ポップ風のサウンドで、倉橋っぽくないけど良い感じ。A面6曲目の「Hello Again」はニール・ダイアモンド1981年全米6位(映画「The Jazz Singer」のサウンドトラック)の日本語訳カバー(訳詞 竜真知子)で、バラードシンガーの本領発揮の曲だ。B面は歌謡曲風の曲・演奏が多いかな。特筆すべき曲は最後の「Winter Rose」(作詞 岡田冨美子 作曲 大野克夫 編曲 戸塚修)で、これは倉橋のトーチソングの中でもベストの1曲だろう。伴奏は大谷和夫、井上鑑、羽田健太郎(Keyboards)、松原正樹、今剛、矢島賢、芳野ふじ丸(E. Guitar)、安田裕美、谷康一 (A. Guitar)、岡沢章、長岡道史 (Bass)、島村英二、林立夫 (Drums)、斉藤ノブ、ラリー清水 (Percussion) といった面々。

大貫さん作曲によるトーチソングが聴ける。

[2024年4月作成]


星くずの街で 石川セリ  (1981)  Philips  




 

1. 星くずの街で抱きしめて [作詞作曲 大貫妙子 編曲 清水信之] B面5曲目

石川セリ: Vocal
清水信之: Acoustic Piano, Moog Bass, Prophet 5, Pearl Drum
大村健司: Guitar
富倉安生: Bass
上原裕: Drums

1981年12月10日発売

写真上: 黒を基調としたアルバム表紙
写真上: 白を基調としたアルバム表紙

1. Hoshikuzu No Machi De Dakishimete (Embrace Me In The Stardust Town) [Words & Music: Taeko Onuki, Arr: Nobuyuki Shimizu] B-5 by Seri Ishikawa from the Album "Hoshikuzu No Machi De" (At The Stardust Town) December 10, 1981

 

石川セリ(1952-  本名「Seidy」)は神奈川県出身で、父親がアメリカ人。1971年の映画「八月の濡れた砂」の主題歌でデビューした。その独特な声とエキゾチックな風貌にはカリスマ性があり、一度見聴きすると忘れられない強烈な印象を残す人だ。アルバム4枚を出した後に井上陽水との結婚と出産休業に入り、1981年に3年ぶりで発表したアルバムが本作だ。

大貫さんが提供した 1.「星くずの街で抱きしめて」は、アルバムタイトルの一部、かつ最後の曲に配置され、作品中重要な曲になっている。この曲のみアレンジャーが矢野誠でなく清水信之になっていて、彼得意のふわっとしたシンセサイザーのリズムの中で、都会における別れとやりなおしの希望が歌われる。深みのある歌詞がなんともいい感じで、暗めのトーンから始まり最後にさっと光が差す流れが素晴らしい。大貫さんによるこの曲のセルフカバーはないが、本アルバムの翌年1982年に青山祭(青山学院大学の文化祭)のコンサートにおける、ロジック・システム(松武秀樹:シンセサイザー、清水信之:キーボード、大村憲司:ギター)をバックにこの歌を歌ったライブ音源を聴くことが出来た。質の良いオーディエンス録音で、大貫さんの突き詰めるような歌唱が石川とは異なる存在感を発揮しており、大変聴き応えのあるものになっている。大貫さんにはいつかセルフカバーのアルバムを出してほしいですね。ちなみに本音源は、1982年10月30日の前夜祭、青山学院記念館でのコンサートのもの。当該コンサートでは、当時大貫さんのコンサートでバックを担当していて自己名義のアルバムも発表したロジック・システムによる単独演奏のコーナーもあり、2010年その音源が発掘されて正式発売されたそうだ。

アルバムと他の曲について。ひとつ不思議なのは、アルバム・ジャケットが①黒と②白基調の2種類存在すること。どちらも同じレコード会社・レコード番号(28PL-23)で経緯は不明。帯の宣伝文句を見てもどちらが先か特定できなかった。現在中古で出回っている数的には黒のほうが多いようだ。

矢野誠(矢野顕子の元夫)は、1980年歌謡曲の仕事に辟易してロンドンに渡航。現地でパンク、ニューウェイブの洗礼を受けて帰国した時に井上夫妻と出会い、依頼を受けてレコーディングに参加したとのことで、大貫さん以外の曲でのアレンジと全体のサウンド・プロデュースを担当している。そのシンセサイザーを駆使してポリスなどを意識したサウンド作りに石川の歌声がしっくり溶け合っていて、独特の雰囲気を創り上げている。それにしても彼女の歌声は魔術のようで、アルバムを聴き始めるとすぐその世界に引き込まれてしまう。「真珠星(Pearl Star)」A面1曲目、「Snow Candle」A面4曲目の作者中村治雄は頭脳警察のPANTA(1950-2023) の本名で、彼は他に「ムーンライト・サーファー」(アルバム「気まぐれ」1977収録)も提供している。いずれもポップで心地よい曲だ。なお「真珠星(Pearl Star)」は11月にシングルで先行発売された。「手のひらの東京タワー」は松任谷由美の提供曲で、本人の録音は同時期11月1日発売のアルバム「昨晩会いましょう」に収録された。矢野誠と松任谷正隆とのアレンジ合戦は前者に軍配が上がっているね。「風のない白い夏」A面3曲目は詩人の難波保明の歌詞にブレッド・アンド・バターの岩沢二弓が曲を付けている。「不思議なアラビアンナイト」A面5曲目は矢野誠の作曲で、石川のエキゾチックなイメージにぴったりの佳曲。

B面最初の「大じゅもん-ひとつひとつあなたに」は、石川本人の作詞(クレジットは「井上セリ」になtっている)、矢野顕子の作曲。矢野独特のメロディ-で歌い方まで矢野のスタイルに似ている。「バイ・バイ・オートバイ」B面2曲目はあがた森魚独特の字余り歌詞の世界。「Rose Bud」B面3曲目は石川の歌詞にあがたが曲をつけている。「Off To The Outer Land」B面3曲目の英語歌詞の作者Romyはセリの妹で、歌手としてレコードを出した他に、通訳・翻訳などの英語に関係する仕事をしている人。全然無名なんだけど、とてもいい感じの曲だ。総じてとても良い曲ばかりで、テクノとニューウェイブがフュージョンしたアレンジ・演奏も素晴らしい快作だと思う。

清水信之・大村憲司という同じ面子による伴奏で、声質・持ち味が異なる二人(大貫と石川)が歌う「星くずの街で抱きしめて」の聴き比べができるよ!

[2024年3月作成]


 
風の中の少女 / テレフォン・コール  兵頭まこ  (1981)  CBS Sony  

 

1. テレフォン・コール (Telephone Call) [作詞 大貫妙子、竜真知子 作曲 大貫妙子 編曲 船山基紀] シングル B面

兵頭まこ: Vocal

1981年12月発売

1. Telephone Call [Words: Taeko Onuki, Machiko Ryu, Music: Taeko Onuki, Arr: Motonori Funayama] by Mako Hyodo from the single "Kaze No Naka No Shojyo" (A Girl In The Wind) B-Side December 1981

 
兵頭まこ(1962- )は東京都出身で、13才の時に資生堂の専属モデルとしてデビュー。雑誌モデルやCM・テレビ番組に出演し、1980年から1981年までの間にアイドル歌手として3枚のシングル盤を発表した。その後は声優をメインに活動し、現在は洗足学園音楽大学の講師をしている。

本作は彼女の3枚目かつ最後のシングル盤で、A面の「風の中の少女」(安井かずみ作詞 加藤和彦作曲 清水信之・加藤和彦編曲)は、明治製菓のチョコレート「エリカの季節」のイメージソングとして使用された。加藤和彦の作品としてはかなり歌謡曲っぽい仕上がりになっている。

B面が大貫さんの提供曲で、作詞が共作という大変珍しいケース。こちらも編曲者が歌謡曲系の人なので、かなりそれっぽいが、A面よりは作曲者のカラーが残っていると思う。あえて言うと大貫さんの曲「裸足のロンサム・カウボーイ」(「アフリカ動物パズル」 1985収録)に雰囲気が近いかな。

兵頭の歌声は癖のないアイドル歌手といった感じで、後の彼女が声優・アニメソングに特化していったことがよくわかる。

[2024年3月作成]


 
1982年  「Cliche」 (1982/9/21発売)の頃  
What Ever Happend To Keiko ?  竹下景子  (1982)  Polydor   

 

1. きまぐれ Saturday  [作詞 竜真知子 作曲 大貫妙子 編曲 井上鑑] B面5曲目

井上鑑、西本明、山田秀俊、鈴木宏昌、田代真紀子: Keyboards
矢島賢、松原正樹、松木恒秀: Guitar
岡崎章、高水健司、岡沢茂: Bass
林立夫、渡嘉敷祐一: Drums
石山実、浜口茂外也、斉藤ノブ、ペッカー、穴井忠臣: Percussion
Jake H. Conception: Sax
新井英治、向井滋春: Trombone
Buzz: Chorus
加藤アンサンブル, 大野アンサンブル: Strings

(お断り)本アルバムには曲毎のクレジットがないため、参加ミュージシャン全員を記載しています。

1982年1月1日発売

1. Kimagure Saturday (Fickle Saturday) [Words: Machiko Ryu, Music: Taeko Onuki, Arr: Akira Inoue] B-5 by Keiko Takeshita from the album "What Ever Happened To Keiko ?" January 1, 1982
竹下景子3枚目で最後のアルバム(シングル盤の最後は1984年)で、当時28歳だった女優竹下の「大人のファンタジー」を描いた作品になっている。「何がKEIKOに起ったか(原文ママ) 総勢17名の作家が唄とストーリーで謎を追う」という帯のキャッチフレーズの通り、作詞に竹下景子、クニ河内、伊達歩(伊集院静の変名)、所ジョ-ジ、壇ふみ、竜真知子、高平哲郎、作曲には高見沢俊彦、和泉常寛、かまやつひろし、鈴木宏昌、伊藤銀次、井上大輔、クニ河内、林哲司、平井夏美(川原伸司の別名)、大貫妙子というとても多彩な顔触れ。A面は曲間に竹下と伊武雅刀による会話劇(作・構成 高平哲郎、伊集院静)が挿入されたドラマ仕立てになっていて、ボサノバ調の曲を含むムードたっぷりの雰囲気であるのに対し、B面は当時流行りのファンカ・ラティーノ(ラテン調ソウル)のサウンドで飛ばしている。竹下のボーカルは、時々音程が不安定になりながらも、リズム、メロディーともに難しい曲を何とか歌いこなしている。都会に生きる女性のライフスタイルを描いた歌詞と演奏は1980年代独特のキラキラ感に満ちていて、この後到来する年代後半のバブリーな世界を先取している。

大貫さんが提供した曲はアルバムの最後に配され、聴いた後の後味を左右する重要な要素となっている。竜真知子の歌詞のなかに出てくるサンバのアレンジを前提とした曲作りで、大貫さんの作品としてはいつにないフワフワ感があって面白い。アレンジは前作と同じ井上鑑。向井滋春と思われるエンディングでのトロンボーン・ソロがいい感じだ。

他の曲では、A面最後の「銀の雨、金の風」(作詞 壇ふみ 作曲 伊藤銀次 編曲 鈴木宏昌)が素晴らしい。女優でエッセイストでもある壇の感性溢れる歌詞が最高で、小説家である父親(壇一雄)の才能譲りというところか。その歌詞にヨーロッパ調のワルツのメロディーを付けた伊藤も秀逸な仕事をしている。竹下も本音っぽく語るように歌っていて、心にグッとくる。曲前の「私人魚になりたい」という臭い台詞と、曲後の落ちに思わず笑ってしまう会話劇の間に挟まれて、静かに佇む隠れた名曲。

またA面のボサノバ曲「真夜中の日時計」(作詞 伊達歩 作曲 かまやつひろし 編曲 鈴木宏昌)A面3曲目、「このまま朝まで」(作詞 所ジョージ 作曲編曲 鈴木宏昌)も竹下の声がしっとりしていていい感じ。「モーニング・コール」(作詞 竜真知子 作曲 井上大輔 編曲 船山基紀)B面1曲目、「ジャスミンティーとゴロワーズ」(作詞 竜真知子 作曲 林哲司 編曲 山下正)B面3曲目 は軽快なAORで、前者はシングルカットされた。

CD化されていないが、大貫さんの曲も含めて埋もれるにはもったいない作品。

[2024年4月作成]


さよなら こんにちは  伊藤つかさ  (1982)  徳間Japan

 




1. さよなら こんにちは [作詞作曲 大貫妙子 編曲 清水信之] A面1曲目
2. 春風にのせて
[作詞作曲 大貫妙子 編曲 大村憲司] B面4曲目
 
伊藤つかさ: Vocal
坂本龍一、清水信之: Keyboard, Synthesizer
大村憲司: Guitar
後藤次利: Bass
高橋幸宏: Drums

三浦光紀: Producer

1982年3月発売

写真上: アルバム表紙
写真下: シングル「夢見るSeason」 (B面に「春風にのせて収録) 1982年2月発売


1. Sayonara Konnichiwa (Goodbye Hello) [Words & Music: Taeko Onuki, Arr: Nobuyuki Simizu] A-1
2. Harukaze Ni Nosete (Riding On Spring Wind) [Word & Music: Taeko Onuki, Arr: Kenji Omura] B-4
by Tsukas Ito from the album "Sayonara Konnichiwa" March, 1982
私はアイドル歌手は苦手だった。なので彼女達が歌った大貫さんの曲について真剣に聴くようになったのは、ずっと後になってからだった。それらの曲を聴いた時、その質の高さに驚き、彼女達のために書いた曲が大貫さん自ら歌った曲と同じクオリティーで、しかも大貫さんらしさや独特な感性がしっかり反映されていることがわかった。この経験によって、私のアイドル歌手に対する偏見が解き放たれ、曲・演奏と歌い手が上手くかみ合えば、素晴らしい音楽になるということに気づかせてくれたのだ。

伊藤つかさ (1967- ) は大貫さんが曲を提供した最初のアイドル歌手のひとり(厳密には1980年の秋ひとみに次いで2人目)。彼女は幼少期の頃から子役としてテレビに出演しており、1980年13歳の時に武田鉄矢主演の「3年B組金八先生」で重要な役を演じて人気が沸騰した。その人気に乗じて1981年に歌手デビューを果たし一世を風靡することになる。2枚目の本作は前作のアイドル歌謡とは一線を画し、1970年代末に大きな成功を収めたイエロー・マジック・オーケストラとその関係者が作曲、編曲、伴奏をすることで、彼らのテクノポップ・サウンドとアイドル歌謡を融合させて、アイドル・シティポップという新しいサウンドを生み出した。そしてその背後には、仕掛け人であるプロデューサーとして、かつてベルウッド・レコードを率いた三浦光起がいた。

大貫さんは2曲提供。アルバムタイトル曲1.「さよなら こんにちは」は、15歳の中学卒業、高校入学の多感な女の子の心を歌ったもので、まさに伊藤つかさの年齢ならではの曲。本作のイメージを決定づける重要な最初の曲になっている。彼女の歌唱はあまり上手くないけど、子役時代からの演技で培った表現力で不足分を補っている。そのためか、ボーカルにエコーをかなり深めにかけることで、歌唱力不足を目立たなくしている。歌詞の内容は、大貫さんが時々書く「少女ごころ」ソング。2.「春風にのせて」は、1960年代のアメリカのギター・インストルメンタル曲を思わせる大村憲司のプレイが、現代のシンセ音にマッチしたサウンドの曲で、テクノ色は比較的薄め。なお本曲はシングル盤「夢見るSeason」のB面として1982年2月に先行発売されていた。

大貫さん以外の曲提供者は、原由子、矢野顕子、坂本龍一、竹内まりや、高橋幸宏、安井かずみと加藤和彦など。大貫さん以外の曲についても上記の5人が演奏している。コンポーザー、プレイヤーが自己の個性・スタイルを保ちながら、彼女のような若い女の子に歌わせることで、若い世代に受ける音楽を作り上げようという野心をもって、嬉々として取り組んだ様が想像できる。その最たるケースは本アルバムに入っている坂本龍一作曲・編曲の「恋はルンルン」A面5曲目で、可愛いポップソングでありながら、彼独特のクリエイティブな音作りをぎっしり詰め込んでいる。シングルカットされた「夢見るSeason」A面2曲目(作詞作曲:原由子 編曲:後藤次利)も傑作。クリエイティブ面では相当過激な事をやっているのに、明るくシンプルなテクノポップで、伊藤がテレビ出演で歌った時の普通の伴奏とは全く次元が異なる音になっているのが凄い。1980年代の欧米のテクノサウンドを今聴くと感じる古臭さを全く感じないのはなぜだろう?竹内まりや作詞作曲、清水信之編曲の「パジャマ・パーティー」A面4曲目はドリーミーなアメリカン・ポップで、コーラスで竹内の声が聞こえる。「夕暮れ物語」B面1曲目は安井かずみ、加藤和彦夫妻の作で、ヨーロッパの香りがする曲。少女ワールド全開の矢野顕子作詞作曲の2曲「私 I Love You」A面3曲目、「ともだちへ」B面5曲目も捨て難し。

伊藤つかさのアルバムは1981年から1982年までの4枚、シングル盤は1986年までの9枚で、その後はトレードマークだった八重歯を直して、大人の女優に脱皮して活躍を続けている。

[2024年2月作成]


Sweet Swest セイルアウェイ  (1982)  Asylum (Warner Pioneer)
 

1. 遠く渚から [作詞 大貫妙子 作曲 筒美京平 編曲 荻田光雄] A面3曲目
2. もう一度抱きしめたい [作詞 大貫妙子 作曲 筒美京平 編曲 荻田光雄] B面1曲目
3. 離れていても [作詞 大貫妙子 作曲 筒美京平 編曲 荻田光雄] B面2曲目
4. This Guy - 朝が来る前に [作詞 大貫妙子 作曲 筒美京平 編曲 荻田光雄] B面4曲目

小室和之、大久保龍、西川一彦: Vocal, Back Vocal
富樫春生: Keyboards (1,3,4)
大谷和夫: Keyboards (2,4)
今剛: Electric Guitar
笛吹利明: Acoustic Guitar (2,3)
Jake H. Conception: Alto Sax (1)
杉本和弥: Bass (1,3)
長岡道夫: Bass (2,4)
林立男: Drums
浜口茂外也: Percussion

山川恵子: Harp (2)
安原理喜: Oboe (2)
Joe Strings: Strings (2,3,4)

1981年11月~1982年1月 録音
1982年3月25日発売

1. Toku Nagisa Kara (Far From The Beach) [Words: Taeko Onuki, Music: Kyohei Tsutsumi, Arr : Hitsuo Hagita] A-3
2. Mou Ichido Dakishimetai (Want To Hug You Again) [Words: Taeko Onuki, Music: Kyohei Tsutsumi, Arr : Hitsuo Hagita] B-1
3. Hanarete Itemo (Even If You Are Far Away) [Words: Taeko Onuki, Music: Kyohei Tsutsumi, Arr : Hitsuo Hagita] B-2
4. This Guy - Asa Ga Kuru Mae Ni (This Guy - Before Morning Comes) [Words: Taeko Onuki, Music: Kyohei Tsutsumi, Arr : Hitsuo Hagita] B-4
By Sail Away (Kazuyuki Komuro, Ryu Okubo, Kazuhiko Nishikawa) from the album "Sweet Sweat" March 25, 1982

 
1982年にリリースされたアルバムであるが、当時私は全くノーマークだった。知名度が低い作品だけど、40年以上経った今聴いても古臭さは感じられず、とても良いのだ。

セイルアウェイは小室和之、大久保龍、西川一彦の3人からなるグループで、元は湘南地区で活躍したブルーベリー・ジャムというグループだった。ビーチボーイズ、カウシルズ、ママス・アンド・パパス、ザ・ビートルズ等をルーツとしたコーラス・グループで、Kittyレーベルと契約してシングル4枚とアルバム1枚(なかなか良い出来で、近年再評価されている)を発表したが、アルバムリリース直前に主要メンバーの交通事故が発生、後にC-C-Bを結成する渡辺英樹が加入する等のメンバー交代を行って、しばらく活動したが解散。残ったメンバーで結成されたのがセイルアウェイで、本作は彼ら唯一のアルバムだ。ブルーベリージャムとは異なり、本作では楽器演奏を腕利きのセッションマンに任せてボーカルに専念している。全10曲中4曲はメンバーが作詞・作曲・編曲に関わり、難波弘之(編曲とキーボード)、村松邦夫(ギター)等が参加して、ブルーベリー・ジャムの延長線上の音作りになっている。残りの6曲は、筒美京平作曲、荻田光雄編曲、作詞は松本隆2曲、大貫さん4曲という強力な布陣。

大貫さん提供の4曲は、筒美京平という強烈な作曲者の手によって、完全に彼の世界になっている。大貫さんの曲でこれだけ作曲者のカラーが出るのは珍しいんじゃないかな。という意味で大変面白く、新鮮な感じに満ちている。1.「遠く渚から」はソウルミュージック、歌謡曲がミックスした作曲・編曲が気持ち良く、3人によるハーモニーは完璧。ジェイク・H・コンセプションのサックスソロもかっこいいね。2.「もう一度だきしめたい」は、大貫さんとしてはストレートな愛のバラードで、演奏も比較的シンプルだ。3.「離れていても」はボーカルとコーラス・ハーモニーの爽やかさが頭に残る。エンディングにおける今剛のギターソロがとてもいい感じ。私が一番好きな曲が 4.「This Guy - 朝が来る前に」。デビッド・フォスターとジェイ・グレイドンのエアプレイを彷彿させるアレンジ、ソウルフルなコーラスが最高で、日本の歌謡曲にソウルミュージックのグルーヴを持ち込んだ筒美と萩田の真骨頂といえる。大貫さんの歌詞も力強く、彼女が提供した曲のなかで最もカッコイイ出来だ!

松本隆作詞の曲では、最後の「パジャマを着た天使」(筒美京平作曲 萩田光雄編曲)B面5曲目が傑作。子供への愛を述べた歌詞が素晴らしく、それを歌い上げるボーカル、コーラスも最高だ。本曲はTBSテレビ「世界の子供たち」のタイトルテーマ曲に採用され、シングルカットされた。ちなみに本曲には原曲がある。1979年TBS系朝の情報番組「おはよう700」の「キャラバンII」というコーナーで、米国のコーラス・グループ、レターメンの日本制作の曲「World Fantasy」が使われてシングル盤が発売されたが、そのB面に「Just Say I Love You In The Morning」(作詞: Donny Pike, 作曲: 筒美京平)という曲があり、「パジャマを着た天使」はそのメロディーに松本隆が歌詞を付けたものだった。「Just Say I Love You In The Morning」というサビの部分が同じで、日本語版が子供への愛であるのに対し、英語版は恋人への愛にもとれる内容になっている。全く忘れ去られた存在であるが、レターメンの英語版も素晴らしい出来なので、是非聴いてみて欲しい。

セイルアウェイ主導の曲では、冒頭の「セイルアウェイ」(作詞作曲:西川一彦 編曲:難波仁之)はビーチボーイズそのものといったファルセット・ヴォイスで、聴いててにんまりしてしまう。「ただのLove Song」(作詞: 六川真理 作曲:小室和之 編曲:セイルアウェイ、難波弘之)A面2曲目、「Wind Song」(作詞: 六川真理 作曲:大久保龍 編曲:セイルアウェイ、難波弘之)B面3曲目は、当時絶頂のクリストファー・クロスといった感じのAORサウンドに海風のようなコーラスが吹き抜けている。

メンバーの大久保龍が後に書いたフェイスブックのコメントでは、「一流の作曲家、作詞家、アレンジャー、名立たるプレーヤーが待ち構える体制の中に、単なる素材としての参加となった」とあり、本作の制作ポリシーについては色々複雑な思いがあったようだ。しかし彼ら主導の曲に加えて、強力な作曲・作詞・編曲・演奏陣による曲との二本建てにしたことにより、変化に富んだ内容となり結果として作品の質が向上した事は事実。発売当時はグループとしてコンサートツアーなどのプロモーションを行う状態になかったようで、宣伝も十分にされず、あまり売れずに終わってしまったらしい。

メンバーのその後について。大久保龍はその後ヨガや整体治療を業としていたが、2010年代から地元湘南で「虹クルーズ」というバンドで活動を再開している。小室和之は難波弘之のセンス・オブ・ワンダーのボーカル、ベースとして活躍後、杉真理や竹内まりや等のセッションにコーラスとして参加。1980年代より杉真理等とBOXというグループを結成して活動している。

大貫さんと筒美京平のタッグを聴けるのはここだけ。

[2024年3月作成]


 
グロリア/恋人と呼ばせて  熊谷真美  (1982)  SMS

 

1. 恋人と呼ばせて [作詞 三浦徳子 作曲 大貫妙子 編曲 清水信之] シングルB面 

清水信之 : Keyboard, Arranger
大村健司 : Guitar
高水健司 : Bass
島村英二 : Drums

シングル盤「グロリア」 (テレビドラマ「先生お・み・ご・と」主題歌)のB面

1982年5月発売

1. Koibito To Yobasete (Let Me Call You My Lover) [Words: Yoshiko Miura, Music: Taeko Onuki, Arr: Nobuyuki Simizu] B-Side of the single "Gloria", theme song of TV drama "Sensei Omigoto (Good Job, Teacher) " by Mami Kumagai, May, 1982

 
熊谷真美 (1960- )は東京都杉並区出身の女優。漫画 「サザエさん」の作者長谷川町子をモデルとした1979年のNHK連続テレビ小説 「マー姉ちゃん」の主演(マチ子の姉マリ子役)が代表作。映画、テレビ、ラジオ、バラエティーなど幅広い活動をしている人で、2020年コロナ禍を契機に浜松市に移住。YouTubeを立ち上げて現地での暮らしぶりや、コンサート、ディナー・ショーの模様を配信している。

「先生お・み・ご・と」は、1982年に放送された学園ものテレビドラマ(全25話)で、東京から神戸に赴任した新人教師(熊谷真美)が同僚(志垣太郎)の助けを得ながら、校内暴力や登校拒否などの問題に取り組んでゆく様を描いたもの。A面の主題曲「グロリア」の作詞を担当した三浦徳子(1949-2023) は、杏里「キャッツアイ」1983、松田聖子「青い珊瑚礁」1980、八神純子「みずいろの雨」1978、松原みき「真夜中のドア」1979、モニカ「吉川晃司」1984、郷ひろみ「お嫁サンバ」1981等が代表作。作曲の加藤和彦と彼の右腕的な存在だった清水信之アレンジにより、フレンチ・ポップス風の曲に仕上がった。番組とは関係ない内容の歌詞であるが、明るく前向きな感じが主人公のキャラクター、ドラマの雰囲気にマッチしているために採用されたのだろう。なおシングル盤としては珍しく、参加ミュージシャンのクレジットがジャケット裏面に記載されている。

大貫さんが曲を提供したB面の「恋人と呼ばせて」は、カーペンターズの「Sing」をもじった確信犯的なイントロから、大貫さんの瑞々しいメロディーに繋がってゆく大変面白いアレンジ。熊谷のボーカルは決して上手とは言えないが、とても綺麗な声質で、女優として培った表現力が加わって大変魅力的に響く。当該シングル盤2曲のみの録音セッションなので、参加ミュージシャンはA面と同じで間違いないだろう。

シングル盤としてはあまり売れなかったようで、現在中古市場で高値で取引されている。

[2024年2月作成]


 
Cecile  岩崎良美  (1982)  Canyon  
 

1. 雨の停車場 [作詞作曲 大貫妙子 編曲 清水信之] B面3曲目

岩崎良美: Vocal
清水信之: Keyboards, Bass
加藤和彦、大村憲司、青山徹: Guitar
高水健司、富倉安生: Bass
島村英二: Drums

注: 曲毎のパーソネルがないため、アルバム録音に参加したミュージシャン全員を表示

1982年6月21日

1. Ame No Teishaba (The Rainy Station) [Words & Music: Taeko Onuki, Arr: Nobuyuki Shimizu] by Yoshimi Iwasaki from the album "Cecile" June 21, 1982

 
岩崎良美(1961- )は東京都出身。姉の岩崎宏美の活躍を見て歌手・女優を志し、1978年に女優、1980年に歌手としてデビューを果たす。歌手活動は1989年まで続き、その後しばらく女優に専念したが、1998年から音楽活動を再開、姉宏美とのジョイント・コンサートを開くなど現在も元気に歌っている。本作は5枚目のアルバムで、帯に「ヨーロッパの香りをあなたに!!」とあるように、フランス好きな彼女の意思が反映された企画となった。ヨーロッパ・サウンドが得意の安井かずみ(作詞)、加藤和彦(作曲)、パンタ(作曲)、清水信之(作曲、編曲)等によるサウンドは、どちらかと言えば所謂「歌謡曲寄り」になっていて、それなりに良く出来ているとは思うけど、私の個人的な好みからするとイマイチかな。特に彼らが関わっていない曲「そしてフィナーレ」A面5曲目はアイドル歌謡曲そのものだ。とは言え、清水信之のシンセサイザーを多用したアレンジは当時流行のテクノ・ポップ風で、岩崎の強力な歌唱力とアルバムの企画性により、本作は他のアイドル歌手とは異なる次元にあるような気もする。

そんな中で、大貫さんが提供した1.「雨の停車場」は他の曲と雰囲気が異なっている。「Aventure」1981、「Cliche」1982のヨーロッパ路線そのもので、それらのアルバムで本人が歌っても全く違和感がない曲なのだ。清水のアレンジもフランスのミュゼット(アコーディオンを使用した音楽)のようなアレンジ。上記のクレジットではギタリストの記載をしたが、伴奏メロディーのほとんどがシンセとストリングス(これもシンセかもしれない)なので、実際は入っていないかもしれない。岩崎の歌は確かにとても上手いけど、この手の曲は陰影の濃い大貫さんのほうが似合っていると思う。

ということで、アルバム中1曲だけ毛色の違う存在なんだけど、いかにも(当時の)大貫さんらしい作品だ。

[2024年4月作成]


 
不思議・少女  真鍋ちえみ  (1982)  CBS Sony  
 

1. Good・by-Good・by [作詞作曲 大貫妙子 編曲 清水信之] B面5曲目

清水信之: Keyboards, Guitar, Bass, Glocken, Percussion, Sound Producer
大村憲司: Electric Guitar, Acoustic Guitar
加藤和彦: Electric Guitar, Percussion
高水健司: Bass
村上 "ポンタ" 秀一、林立夫: Drums
Epo, 大貫妙子、加藤和彦: Chorus

松武秀樹: Computer Programmer
細野晴臣: Supervisor

注: 曲毎のパーソネルがないため、アルバム録音に参加したミュージシャン全員を表示

1982年8月25日発売

1. Good・by-Good・by [Words & Music: Taeko Onuki, Arr: Nobuyuki Shimizu] B-5
by Chiemi Manabe from the album "Fusigi Shojyo (Wonder Girl)"
Audust 25, 1982

真鍋ちえみ(1965- )は愛媛県出身。モデルとしてデビューし、モデル業の業者がタレント業への進出を企てて、女性版たのきんトリオとして売り出すべく結成されたアイドルグループ、パンジーのメンバーになった。オーディションにより選ばれたのは北原佐和子、真鍋ちえみ、三井比佐子の3人。彼女らの活動は雑誌のグラビアをメインにテレビ番組やCMへの出演と音楽活動など。レコードは3人が別の会社と契約して各人のソロ名義で制作された。真鍋は1982年5月、阿久悠作詞、細野晴臣作曲編曲によるシングル「ねらわれた少女/蒼い柿」でCBSソニーからデビューした。本アルバムはその3ヵ月後に発売されたアルバムで、テクノポップ満開のサウンドだ。制作者がテクノとアイドルの融合を目指して思いのままに創り上げた感じで、歌い手よりも音楽のほうが出張っているのは明らか。アルバム・ジャケットの裏面に、録音に際し使用した装備の一覧が表示されている点が、本作の在り様を物語っている。

シングルで先行発売された「ねらわれた少女」を除き(「蒼い柿」はアルバム未収録)、アレンジは清水信之が担当し細野はスーパーバイザーとしてクレジットされ演奏面での参加はない。一部の曲につき通常の清水のアレンジにはない音作りがあり、そこには細野の意向が反映されているようだ。ちなみに本アルバム制作年である1982年のイエローマジック・オーケストラは、3人での活動は少なく各人のソロ活動が中心だった年で、細野はアイドルや歌謡曲の歌手への楽曲提供や新人発掘のための新レーベルの立ち上げ、映画のサウンドトラック製作などの実績を残している。

大貫さんが提供した1.「Good・by-Good・by」はアルバム最後の曲で、シンセサイザーが多用されているがテクノ色は薄めのサウンド。その分大貫さんの作風が強調された爽やかな仕上がりになっている。真鍋の歌唱力は許容レベルであるが、癖のない声と歌い手としての自己主張がない分、結果として曲と音楽を引き立てる効果をもたらしている。

他の曲について。「不思議・少女」A面1曲目は 阿久悠作詞、細野晴臣作曲、清水信之編曲による曲で、YMOサウンドが色濃く出ている。上述の先行シングル「ねらわれた少女」A面5曲目は、唯一の細野編曲であり他の曲とは異なったサウンドで、かっこいいバックと清純なボーカルとのアンバランスが独特な魅力を生み出している。「恋のSeaside Party」A面2曲目、「彼をかえして」B面2曲目はEPO作詞、清水信之編曲で、相性の良い二人のコンビネーションが得意とするポップな世界。2枚目のシングル「ロマンティックしましょう」B面1曲目と「ハートがピッピッ」B面4曲目(作詞 安井かずみ 作曲 加藤和彦)は、加藤と清水による音作りの個性が色濃く出たテクノポップ。「不思議なカ・ル・ト」(作詞 麻木かおる 作曲 大村憲司)A面3曲目、「うんととおく」(作詞 矢野顕子 作曲 大村憲司)B面3曲目は、本アルバムのなかでも実験的といえるまで凝った内容のテクノポップに仕上がっている。

パンジーの人気はあまり盛り上がらなかったようで、その活動期間は短く、真鍋のアルバムもあまり売れなかった。テクノ音楽としてはなかなかの出来なので、後年再評価されてオリジナルのレコードは中古市場で高値を呼び、アルバムは2005年にCDで再発売された。その際上述の「蒼い柿」と3枚目のシングル「ナイトトレイン・美少女」がLP未収録曲のボーナストラックとして追加された。真鍋は1982年に本アルバム1枚と3枚のシングルを出しただけで歌手活動は終わり、1986年以降の芸能活動記録はないようだ。

[2024年5月作成]


私の気分はサングリア  宮崎美子  (1982)  Victor


1. 愛のアンプレラ [作詞作曲 大貫妙子 編曲 大村憲司] A面1曲目
2. はるかなめぐりあい [作詞作曲 大貫妙子 編曲 清水信之]
 A面3曲目

宮崎美子 : Vocal
清水信之 : Keyboard, Arranger (2)
大村健司 : Guitar, Arranger (1)
高水健司 : Bass
村上秀一 : Drums
中村哲 : Sax
Epo : Chorus (2)
大貫妙子 : Chorus (2), Chorus Arrangement (2)

谷田郷士、島田智子 : Producer

1982年9月発売

1. Ai No Unbrella (Unbrella Of Love) [Word & Music: Taeko Onuki, Arr: Kenji Omura] A-1
2. Harukana Meguriai (Far-Fetched Encounter) [Word & Music: Taeko Onuki, Arr: Nobuyuki Shimizu] A-3
by Yoshiko Miyazaki from the album "Watashi No Kibun Wa Sangria (I Feel Like Drinking Sangurria)" September 1982

宮崎美子というと、海辺の木陰でTシャツとGパンを脱いでビキニ姿になるミノルタ・カメラのCMが衝撃的だった。熊本大学在学中の1980年に篠山紀信から依頼を受けて、サイパンで撮影したそうだ。痩せ型が定番のモデル・イメージを覆すムッチリした身体と、はにかむ表情が本当に可愛かった。その後女優業に進出し長いキャリアを誇るが、クイズ番組で強者回答者として常連になったり、いろんな番組のレポーターとしても引っ張りだこだ。写真集、カレンダーも出していて、2020年61才でビキニ姿を披露して話題になるなど、幅広い活動を続けている。

そんな彼女が 1981年から3年間、歌手としてビクターから3枚のアルバムを出している。「私の気分はサングリア」はその2枚目で 1982年9月発売。大貫妙子、安井かずみと加藤和彦等が曲を提供し、彼女自身が2曲の作詞、1曲の作詞・作曲をしている。B面の大半を占める安井かずみと加藤和彦の作品がアルバム全体的のイメージを決定付けている感があり、そのどこかヨーロッパ風の作風は、当時の大貫さんの作品群と共通したものがあるね。当時は「サングリア」なんて皆知らなかったんじゃないかな?それでもA面1曲目と3曲目の大貫さんの作品は独自に立派な光を放っていると思う。

1.「愛のアンブレラ」は、宮崎自身が「好きな曲」と言っていたそうで、大貫さん本人に歌ってほしかった位素晴らしい曲だ。高水健司、村上秀一という鉄壁のリズム・セクションに大村健司のギター、清水信之のキーボードというベスト・メンバーによるバックは言う事なし。大村のアレンジというが、雨だれをイメージさせる「ピッピッ」というシンセサイザーの音が最初から鳴っていて、それが少し耳障りなのが残念。ただし半分位経ってセコンド・ヴァースに入るところでその音が消えるので、ほっとする次第。いつかその音がないリミックス・バージョンを出してくれないかな?2.「はるかなめぐりあい」は坂本龍一的なコード進行が魅力的な曲で、間奏の大村健司のギタープレイが素晴らしい。エンディングの中村哲のサックスソロのバックで、エポと大貫さんによるコーラスが入るのも聴きもの。

何といっても最高なのは宮崎の声で、歌唱としては決して上手くはないんだけど、ヴィジュアルと一致する愛らしさ、初々しさ、誠実さに溢れていて、聴いていて本当に気持ちが良いのだ。

[2024年2月作成]

[2024年2月追記]
プロデューサーの二人について。島田智子は当時宮崎が所属したマネジメント・オフィスの社長だった人。谷田郷士はビクターのプロデューサー、ディレクターで、2021年宮崎と再会し、34年ぶりの新曲(作詞も担当)「ビオラ」を仕掛けた。同年新曲とファースト・アルバム「メロウ」の40周年記念で発売されたアーカイヴ盤のプロモーションのために行われたロングインタビューで、以下のように語っている。

大貫さんは学生の頃からファンで、ずっと聴いていましたから嬉しかった!特に「愛のアンブレラ」(作詞・作曲:大貫妙子。編曲:大村憲司)は自分の感覚とは違う歌で、それが新鮮でした。今でもお気に入りの作品です。


  
化粧なんて似合わない/愛・あなただけに  岩崎良美 (1982)  Canyon  
 

1. 愛・あなただけに [作詞作曲 大貫妙子 編曲 清水信之] シングルB面

岩崎良美: Vocal

1982年10月5日発売

1. Ai Anatadakeni (Love Only For You) [Words & Music Taeko Onuki, Arr: Nobuyuki Shimizu] Single B-Side by Yoshimi Iwasaki from the single "Kesho Nante Niawanai (Make Up Dosen't Suit Me)" October 5, 1982

 
アルバム「Cecile」1982の3ヵ月ちょっと後に発売された岩崎良美 11枚目のシングル。A面の「化粧なんて似合わない」(作詞作曲 尾崎亜美 編曲 鈴木茂)では、当時21歳だった彼女の子供から大人になる過渡期の心情が歌われている。大貫さんが作詞作曲したB面「愛・あなただけに」はとてもストレートなラブソングで、彼女の作品でこれだけ感情を露わにした歌詞は珍しいんじゃないかな。メロディーも歌謡曲寄りで、あまり大貫さんらしくない気もするけど、それなりに良い出来だと思う。

2023年の岩崎良美のインタビュー記事で、彼女の楽曲のSpotify再生回数についてのコメントがあり、その中で彼女が以下のように語っている。

「このランキング、アルバム曲がたくさん入っているのはうれしいのですが、『恋・あなただけに』(シングル『化粧なんて似合わない』のB面)が入っていないのが気になります!! この曲は大貫妙子さんに作っていただいたんですが、本当にいい曲なんですよ~~~!! このシングルはB面も、尾崎亜美さんに作ってもらったA面も両方好き。」

A面「化粧なんて似合わない」は、後に発売されたベストアルバムに収録されたため上述ランキングの59位に入っているのに対し、B面「愛・あなただけに」はシングルのみでアルバムに収録されず、結果CD化もされなかったことから、知名度で劣っているためと思われる。

大貫さんの作品のなかでは、歌謡曲の香りが強い曲。

[2024年5月作成]


ひとりぼっちのコンチェルト  桂木文  (1982)  Alfa 
 



1. 21番目の哀しみ [作詞 浅野裕子 作曲 大貫妙子 編曲 (恐らく)清水信之]

桂木文: Vocal
清水信之: Keyboards
椎名和夫: Guitar
田中章弘: Bass
高橋幸宏: Drums

立川直樹: Producer

1982年11月5日発売

注: バック・ミュージシャンおよびアレンジャーについては、曲毎のクレジットがないため、上記は推定です。他の可能性は以下のとおりです。Keyboards: 岡田徹、難波正治、Guitar: 加藤和彦、白井良明、Bass: 鈴木博文、Drums: 菊池丈夫、かしぶち哲郎、Arranger:岡田徹、戸塚修

写真上: アルバム表紙
写真下: 同名の写真集(ワニブックス刊 1982年11月15日発売)表紙

1. Nijyuichiban-Me No Kanashimi (Sadness Of Twenty-First Times) [Words: Hiroko Asano, Music: Taeko Onuki, Arr: (Probably) Nobuyuki Shimizu By Aya Katsuragi from the album "Hitoribocchi No Koncheruto (Lonely Concert)" November 5, 1982

前回記事で白石まるみ(1983)のことを「1978年TBSテレビドラマ「ムー一族」のオーディション(郷ひろみの恋人役)を受けて次点となり居酒屋女将の妹役でデビュー」と書いたが、桂木文は当該オーディションに合格して郷ひろみの恋人役でデビューした人だ。続く「翔んだカップル」で人気を博し、1980年にヌードを含む写真集を出して話題になった。本アルバムは彼女が21歳の時に発売されたもので、音楽評論家、プロデューサーの立川直樹と作詞家・小説家の浅野裕子によるヨーロッパをイメージしたコンセプト・アルバム。ほぼ同時(11月15日)にワニブックスから発売された写真集とのタイアップ企画だった。

大貫さんが提供した1.「21番目の悲しみ」の「21」は、桂木の当時の年齢を指している。この曲のみ他とサウンドが異なり、シンセサイザー主体の演奏になっていて、編曲のスタイルから3人のアレンジャーのうち清水信之である可能性が高い。恋に破れた多感な女性の心情を歌った歌詞に大貫さんが付けたマイナー調のメロディーが面白い。

全13曲中、歌詞付きの曲は6曲で、あとは朗読付きの演奏という構成。朗読のトラックでのバックはムーンライダースが作曲・編曲を担当。歌付きの曲(歌詞はいずれも浅野裕子作)の作曲陣は、大貫さん以外に宇崎竜童、高橋幸宏、桐ケ谷仁、加藤和彦といった面々。「ひとりぼっちのラブストーリー」B面1曲目は、アルバム・ジャケット、レコード・レーベルに作者のクレジットがなく作者不明になっているが、メロディーから加藤和彦作と思われ、調べてみたら彼のWikiにある作品リストの中に同曲があった。素晴らしい歌詞とメロディーの歌で、まさに「忘れられた名曲」とはこの事。大貫さんのアルバム「Aventure」と同じ世界がそこにある。「Tell Me When~深呼吸する部屋」B面3曲目で英語歌詞を歌っている男性は、作者であり当時同じアルファからアルバムを出していた桐ケ谷仁。桂木は前半は朗読で応じるが後半歌いだす。でも男性が英語、女性が日本語を同時に歌うという摩訶不思議なデュエットだ。「雨の街を」B面4曲目は荒井由美の初期名曲のカバー(オリジナルはアルバム「ひこうき雲」1973収録)。桂木の歌は、1978~1979年に出したシングルよりも上手くはなっているが、それでも音程が不安定になる部分もあり、上手いとは言えない。しかし彼女の声には魅力があり、かつ歌唱・朗読においては人の心に入り込む表現力があるので、説得力は十分にあると思う。

総括すると、本アルバムは、シンガーとしてのこだわり・エゴを持ってない桂木を媒体として、プロデューサーと作詞家がアレンジャーとタイアップして仕掛けたコンセプト・アルバムであり、その企画はそれなりに成功していると思う。ただし桂木文のアルバムとしてはそれほど売れなかったようで、本作が彼女の最後のレコードとなってしまった。彼女はその後結婚・離婚を経て、脇役としてドラマ出演を続けたが、2002年の出演を最後に引退したようだ。

大貫さんの作品群のなかで特異なメロディーを持つ曲。

[2024年3月作成]


  
恋するお友達  増田けい子 (1982)  Reprise 

 

1. 恋人達の明日 [作詞作曲 大貫妙子 編曲 戸塚修] A面4曲目
2. 雨ふり [作詞作曲 大貫妙子 編曲 戸塚修] A面5曲目


増田けい子: Vocal

1982年11月10日発売

1. Koibitotachi No Asu (Tomorrow Of Lovers) [Words & Music: Taeko Onuki, Arr: Osamu Tozuka] A-4
2. Amefuri (Raining) [Words & Music: Taeko Onuki, Arr: Osamu Tozuka] A-5
by Keiko Masuda from the album "Koisuru Otomodachi" (A Friend In Love) Novemeber 10, 1982

 

ピンクレディーのケイちゃんこと増田恵子(1957- 本名増田啓子)は静岡県生まれで、中学校の同級生の根本美鶴代(1958- ミーちゃん)とヤマハのオーディションに受かりプロを目指す。二人は1976年オーディション番組「スター誕生」に出演し、「クッキーズ」という名前でフォーク・ソングを歌ってスカウトされた。そして「ピンクレディー」と名前を改めて大胆な衣装と振り付けで可愛らしいセクシーさを強調。阿久悠作詞、都倉俊一作曲によるディスコ風歌謡「ペッパー警部」で1976年8月レコード・デビューした。子供達を中心に瞬く間に人気が沸騰して殺人的なスケジュールの中、絶頂期は1978年まで続いた。そして1980年9月に解散を発表し解散コンサートは1981年3月31日だった。その後二人は歌手・女優・タレントとして別々のキャリアを歩みながら、1984年から2018年の間に数回再結成・共演している。

ミーちゃんはプロダクションに残ったが、ケイちゃんは移籍し芸名を「増田けい子」に改めた。ずっと後に本人の著書などで語られた話であるが、解散理由のひとつは彼女の恋愛に関わる所属プロダクションとの軋轢だった。新しい所属事務所のもとでピンクレディーの多忙な仕事や恋愛トラブルによる疲れを癒し、1年間かけて芸能界からフェードアウトして引退・結婚するというシナリオが作られ、1981年11月に中島みゆき作のシングル「すずめ」を初めに1982年11月までの間に 3枚のシングルと2枚のアルバムが作られた。しかし肝心の恋愛が破局してしまったため、1982年末に芸名を現在の「増田恵子」に改めて、その後傷ついた心を抱えたまま主に女優として活動することになる。

本作は彼女25歳の時の2枚目のアルバム。帯のキャッチフレーズ「よりポップに・よりホットに・ちょっぴりセンチメンタルに...今けい子の新しい世界が広がります」にある通り、お仕着せの衣装・振り付けで与えられた曲を歌っていたピンクレディーの頃とは異なり、彼女が本当に歌いたかったと思われる音楽に取り組んだ。そこには売れようとする野心、ギラギラ感が全くなく、穏やかで落ち着いた雰囲気が出ている。1枚目が吉田拓郎や伊勢正三などフォーク系の作者が多かったのに対し、本作では大貫さんの他に加藤和彦、松任谷由美、竹内まりや、来生たかおなどのシティ・ポップス畑の人たちが揃っていて、サウンド的には歌謡曲寄りでありながらも洗練された色合いがある音楽に仕上がっている。ピンクレディーの熱狂が醒めた後で、一般の人たちは彼女に対してあまり関心を払っていなかった時期にあたり、以前と異なる音楽だったこともあって発売当時はあまり話題にならなかった。それでもファンの人達の購入によりレコードはそこそこ売れたようだ。その後CD化されることはなく中古市場でのみ入手可能な状態が長く続いたが、近年になって配信で聴くことができるようになった。

長くなった前置きの後の大貫さんの曲についての話。1.「恋人達の明日」は、「Aventure」1981収録曲、同年シングル曲の初めてのカバー。戸塚修による編曲は若干歌謡曲寄りであるが、もともと歌唱力があった増田は軽快に歌っている。大貫さんのオリジナルにおけるひんやりした透明感とは異なる、ふわっとした暖かみが感じられる声だ。2.「雨ふり」はアルバムの中では地味な感じの曲で、知名度も低いが、しっとりとした情感が籠った素晴らしい曲。何気ない雨の情景の描写から大貫さんの世界観が伺える歌詞は「白くけむる 今日は 雨ふりです」と彼女としては珍しい「ですます」調で締めくくられ、はっぴいえんどを聴いた時のような余韻が残る。なによりも増田が気持ち良さそうに歌っているのがいいね。

他の曲では、松任谷作品の「心のとびら」(作詞作曲 呉田軽穂 編曲 川村栄二、水越けいこ1979のカバー)B面1曲目、「ためらい」(作詞作曲 松任谷由美 編曲 馬飼野康二、 松任谷由美「時のないホテル」1980 収録曲のカバー)が面白い。特に前者はカリブ海風の軽妙なアレンジが新鮮。休業中の竹内まりやが書いた「らせん階段」(編曲 椎名和夫)B面3曲目は、恋人との別れと再会の曲で、声質と歌い回しから竹内本人が歌っているかのよう。自身の恋愛の破局状態にあった増田はこの曲を歌うのが辛かったそうだ。なお「ためらい」と「らせん階段」はシングルカットされた。最後の曲「Good-Bye Again」(作詞 来生えつこ 作曲 来生たかお 編曲 馬飼野康二)B面5曲目は、当時人気絶頂の来生らしいマイナー調メロディーが切なく、掘り出し物といえる。

その後の増田は女優業やバラエティー出演が中心で音楽作品の発表は少な目。2002年に45歳で結婚し、夫君の事業失敗などの苦難を経験しながらも頑張っている。

ほめ過ぎかもしれないけど、「雨ふり」是非聴いてみてね。


 
タッチ  伊藤つかさ  (1982)  徳間Japan   
 

1. ボーイフレンド [作詞作曲 大貫妙子 編曲 青木望]
 A面5曲目

伊藤つかさ: Vocal


三浦光紀: Producer

1982年12月15日発売

1. Boy Friend [Words & Music: Taeko Onuki, Arr: Nozomu Aoki] A-5 by Tsukasa Ito from the album "Touch" December 15, 1982

 
1982年3月に2枚目のアルバム「さよならこんにちは」を出した伊藤つかさは、ミュージカル「不思議の国のアリス」に主演し、そこで歌った曲を収めたミニアルバム「不思議の国のつかさ」を7月25日にリリースした。全曲につき加藤和彦が作曲し清水信之が編曲したドリーミーなポップソングだった。それから僅か5ヵ月後の12月に出たのが本作「タッチ」だ。1年間に3枚のアルバムって凄いね!売れるうちに作れるだけ作ってやろうという、当時のアイドルの賞味期間が如何に短かったがわかる(翌年はレコードの発売はなく、ビクターに移籍後の1984年に再開)。作家陣は庄野真代、竜真知子、原由子などのポップス系の人に加えて、作詞作曲で堀内孝雄、岸田智史、伊勢正三、南こうせつ、小泉まさみ、編曲に安田裕美、石川鷹彦などのフォーク畑の人をそろえており、ファースト・アルバムのフォーク路線に原点回帰している。

大貫さんが提供した1.「ボーイフレンド」は、好きと打ち明けられなかった男の子との転校による別れの曲で、伊藤は過去の思い出として歌っている。私は小学校5~6年生の頃、親の仕事と転居のために短期間で3回転校したことがある。私の事を好きになってくれた女の子はいなかったが、別れと出会いというほろ苦い思い出は今も心の片隅にあり、私の人格形成に影響を与えたといえる。そのため同じ境遇ではないけど、この曲を聴くと胸がじ~んとしてしまう。大貫さんが付けた瑞々しいメロディーはフォーク主体の本作のなかでもポップ寄りのもので、その結果アルバムの中で際立つ存在になっている。伊藤のボーカルは相変わらず不安定だけど、歌に込めた思いはしっかり伝わってくる。

その他の曲で良かったのは、「ストロベリー・フィールド」(作詞 売野雅勇 作曲 Holland Rose 編曲 安田裕美)B面4曲目。ホランド・ローズは佐野元春の変名で、フォーク調であるが何処かアコースティック・サウンドのビートルズの香りがする曲だ。「Good Night」(編曲 青木望)B面6曲目は本作唯一の伊藤本人による作詞で作曲はサザンオールスターズの原由子。歌詞はおセンチであるが、ピアノとストリングをバックにした囁くような歌い方がいい感じ。

大貫さんが10代の女の子になりきって書いた曲。

[2024年5月作成]


Heartbreak Theater  倉橋ルイ子  (1982)  Polydor  

 

1. さよならの微笑 [作詞作曲 大貫妙子 編曲 萩田光雄] B面4曲目

倉橋ルイ子: Vocal

1982年3月10日~7月16日録音
1982年発売

1. Sayonara No Hohoemi (Goodbye Smile) [Words & Music: Taeko Onuki, Arr: Mitsuo Hagita] B-4 by Ruiko Kurahashi from the album "Heartbreak Theater" 1982

 
倉橋ルイ子3枚目のアルバムは、作詞に岡田冨美子、竜真知子、来生えつ子、作曲に林哲司、大野克夫、渡辺敬之、鈴木キサブロー、網倉一也、松尾清典、編曲に萩田光雄、川村栄二、船山基紀、若草恵といった顔ぶれ(大貫さん以外)で、これまでの2枚よりも歌謡曲寄りの音作りになっていて、内容もタイトルにある通りトーチソング集となっている。

大貫さんが提供した1.「さよならの微笑」は、ピアノ、ストリングスとコーラスのみでリズム・セクションのいない伴奏をバックに倉橋が切々と歌っていて、ダークで乾いた透明感が異彩を放っている。大貫さんは翌年1983年のアルバム「Signifie」で、同じ歌詞・メロディーで「幻惑」というタイトルに変更してセルフカバーしており、そこでは坂本龍一のシンセによるリズミックなアレンジで、感情を押し殺すように歌っている。同じ曲が全く異なるアレンジと歌い方によって、こうも変わってしまうものかと驚かされる。

その他の曲では、私の個人的趣味になるが、さらっとしたジャズ風の「By The River」(作詞 来生えつこ 作曲 松尾清典 編曲 荻田光雄) A面5曲がいい感じ。倉橋はこの手の曲の歌唱がとても上手いね。そしてサンバ風の「Vanity Fair」(作詞 岡田冨美子 作曲 網倉一也 編曲 萩田光雄)が面白い。本筋のトーチソングでなく、口直し的な曲を気に入るなんて正統的ファンではないけどね。最後の「ラストシーンに愛を込めて」(作詞 岡田冨美子 作曲 鈴木キサブロー 編曲 若草恵) は聴きごたえ十分のトーチソングの力作。

「さよならの微笑」は大貫さんファン必聴です。

[2024年4月作成]

[2024年4月追記]
大貫さんの「幻惑」は、映像版の「カイエ」1984にも入っていましたね。こちらのほうを観て覚えている人も多いはず。走る車から霧が立ち込めた木々を写したモノクロの風景が印象的でした。


青空天使/夕焼けセレナーデ  八木美代子  (1982)  Union
 

1. 夕焼けセレナーデ [作詩 竜真知子 作曲 大貫妙子 編曲 若草恵] シングルB面

八木美代子 : Vocal

1982年発売

1. Yuyake Serenade (Sunset Serenade) [Words: Machiko Ryu, Music: Taeko Onuki, Arr: Kei Wakakusa] by Miyoko Yagi from Single "Aozora Tenshi (Blue Sky Angle) " B-Side, 1982

八木美代子(1963- )は宮崎県出身で、1980年九州のタレントスカウト大会で準優勝し、1981年4月にレコードデビューした。テレビ出演とシングル盤5枚リリースを経て、CMや子供向けのセッション・シンガーに転向。現在は会社経営がメインであるが、柳瀬瑞代の本名でコンサートで歌ったり、ネット配信をしている。

「青空天使」は2枚目のシングルで、TBS系のテレビドラマ、花王愛の劇場「わが子よII」 の主題歌。「わが子よII」は、1982年7~8月の8週間、毎週月~金の13:00~13:30に放送された連続ドラマだ。本曲が流れた第2週は「母さん泣かないで」というタイトルで、小林千登勢、高部知子主演。交通事故で夫を失った妻が高校生の娘と息子2人で苦労しながら生きていくという内容だった。「青空天使」 (作曲 高田ひろお、作曲 青山八郎、編曲 河野土洋)はマイナーなメロディーの歌謡曲調の歌で、苦労しながらも希望を失わない心情を歌っている。大貫さんが作曲したB面の「夕焼けセレナーデ」は、彼女らしい透明感あるメロディーと竜真知子の暖かみのある歌詞による佳曲で、同じドラマの挿入歌として使用された。歌い手の歌唱力の高さがよくわかる曲で、彼女が後にセッション・シンガーになった事がよくわかる。

大貫さんが提供した曲のなかでは、知名度が低いと思われるが、知らないままではもったいない曲。

[2024年2月作成]


   
はるみのムーンライト・セレナーデ  大空はるみ  (1982)  London  

 


1. Weekend [作詞作曲 大貫妙子 編曲 清水信之] A面5曲目
2. Romancer [作詞作曲 大貫妙子 編曲 清水信之] B面3曲目

大空はるみ: Vocal
清水信之: Keyboards
大村憲司、鈴木茂、土方隆行: Guitar
高水健司: Bass
村上秀一: Drums
橋田正人、浜口茂外也: Persussion
Tokyo Royal Strings: Strings
Time Five : Chorus

加藤和彦: Producer

写真上: アルバム 1982年発売
写真下: シングル盤「はるみのムーンライト・セレナーデ」 B面に「Weekend」収録 1982年発売

1. Weekend [Words & Music: Taeko Onuki, Arr: Nobuyuki Shimizu] A-5
2. Romancer [Words & Music: Taeko Onuki, Arr: Nobuyuki Shimizu] B-3
by Harumi Ozora from the album "Harumi No Moonlight Serenade" 1982

大空はるみ (1948-1998 本名 谷口妙子)は森野多恵子、Tan Tanの別名でも活躍した歌手。私が初めて彼女の歌を聴いたのは、1977年のサディスティックスのアルバム収録の「Far Away (熱い風)」(作詞 高橋幸宏, Chris Mosdell 作曲 今井裕)で、彼女(Tan Tan名義)のエキゾチックな歌声に悩殺された想い出がある。この曲は1976年の米国のアルバム「Dr. Buzzard's Original Savannah Band」でのスウィングジャズとディスコをブレンドしてラテンのスパイスを効かせた音楽に、日本人の抒情を加味して創りあげた加藤和彦とサディスティックスのメンバーが作った新しい音楽だった。その5年後に加藤のプロデュースにより本作が制作された。

大貫さんは2曲提供。1.「Weekend」はスタンダード・ジャズの香りただよう曲で、独り暮らしの週末の風景を描いた歌詞とメロディーは、大貫さんにしては大変めずらしい作風だ。独特のバタ臭さがあるファニー・ボイスが面白い。2.「Romancer」は「Far Away (熱い風)」と共通点があるサヴァンナ・バンド風の曲で、タイトルの意味は「空想家」、「夢想家」。ファンタスティックな歌詞とラテン調のメロディーは、これまた大貫さんらしくないがとてもいい感じ。

他の曲について。タイトル曲「はるみのムーンライトセレナーデ」(作詞 Michaell Parish 作曲 Glenn Miller 編曲 清水信之)A面2曲目は、グレン・ミラーのスタンダード曲のシンセサイザーによるアレンジで、シングルカットされた(そのB面は大貫さんの「Weekend」)。3.「From The Moon Back To The Sun」(作詞 大空はるみ 作曲編曲 今井裕)A面3曲目はスウィング、ラテン、ディスコをごちゃまぜにしたサヴァンナ・バンドのサウンド。大空は本アルバムでは本曲を含め英語詩2曲、日本語詞1曲を書いている。4.「Lazy Girl」(作詞 安井かずみ 作曲 加藤和彦 編曲 清水信之)A面4曲目は、加藤のアルバム「パパ・ヘミングウェイ」1979がオリジナルで、カリブ海の風が感じられる名作だ。「壊れたハートの直し方」(作詞 安井かずみ 作曲 加藤和彦 編曲 清水信之)B面1曲目は本アルバムの中ではしっとりした感じの曲。「Today」(作詞 安井かずみ 作曲 加藤和彦 編曲 清水信之)B面2曲目は心地よい加藤風ボサノヴァ・サウンド。

大空のその後は、同じ加藤のプロデュースで「VIVA」1983というアルバムを出した他、セッションワークの仕事が多かったようだ。彼女が歌っている動画が出回っていないので、テレビ出演やコンサートは行っていなかったようで、そして1990年代は音楽学校の講師を務めていたが、1998年に50歳で病没した。

大貫さんらしくない作品が聴けるよ。

[2024年6月作成]


1983年  「Signifie」 (1983/10/21発売)の頃  
恋人達の明日/翼をつけてラブソング  白石まるみ  (1983)  Victor  

 

1. 恋人達の明日 [作詞作曲 大貫妙子 編曲 椎名和夫] シングル盤 A面
2. 翼をつけてラブ・ソング [作詞作曲 大貫妙子 編曲 椎名和夫] シングル盤 B面
 
 
白石まるみ: Vocal

1983年1月21日発売

「恋人達の明日」はアルバム「Aventure」(1981/5/21発売)収録、シングル(1981/6/5発売)の同曲のカバー

1. Koibitotachi No Asu (Tomorrow Of Lovers) [Words & Music: Taeko Onuki, Arr: Kazuo Shiina] Side A
2. Tsubasa Wo Tsuke Love Song (Love Song With Wings) [Words & Music: Taeko Onuki, Arr: Kazuo Shiina] Side B
From single by Marumi Shiraishi, January 21, 1983


白石まるみ(1962- ) は東京都出身。1978年TBSテレビドラマ「ムー一族」のオーディション(郷ひろみの恋人役)を受けて次点となり居酒屋女将の妹役でデビュー。アイドル女優としてTVドラマ、映画、ラジオで活躍した。彼女は1982年松任谷正隆のプロデュースにより、シングル「オリオン座のむこう」(作詞作曲 呉田軽穂→松任谷由美の変名)、アルバム「風のスクリーン」(彼女唯一のアルバム)でデビューした。本作は1983年1月に発売された3枚目のシングル盤。アイドル歌手として最後のレコードとなり歌手としては大成しなかった。

1.「恋人達の明日」は大貫さん1981年作品のカバー。少し影がある大貫さんとは異なる清純で可愛らしい女の子の声で、浮遊感のある感じがとても良い。アイドル歌手としては声質良く歌唱力があるほうかな。アレンジャーの椎名和夫はムーンライダーズの初代ギタリスト(1978年に脱退し白井良明に交替)で、その後は編曲家や山下達郎のツアーバンド等で活躍した人。近年はアーティストの著作権保護に関する活動で有名とのこと。大貫さんオリジナルの坂本龍一(アレンジ)、山下達郎(コーラスアレンジ)と比べると楽しいよ! 2.「翼をつけてラブソング」はアコーディオン(またはアコーディオン音のシンセ)を使ったヨーロッパ風な音使いが、どこか大貫さんの「Cliche」1982の「つむじかぜ」を思わせる感じであるが、歌詞の内容はより少女チックだ。なお本曲は同年12月に小森まなみのシングルA面としてカバーされたので、これも聴き比べると面白い。

白石まるみは、その後ドラマ出演の他にレポーターやバラエティー、TVショッピングCMなどで活躍を続け、現在もたまにコンサートで歌っている。

[2024年3月作成]


    
夢の入口  伊藤麻衣子  (1983)  CBS Sony  
 

1. 私は彼のシャボン玉 [作詞作曲 大貫妙子 編曲 川村栄二] A面2曲目
2. 心呼吸  [作詞作曲 大貫妙子 編曲 川村栄二] B面1曲目


伊藤麻衣子: Vocal

1983年6月2日発売

1. Watashi Wa Kare No Shabon-Dama (I Am Like A His Soap Bubble) [Words & Music Taeko Onuki, Arr: Eiji Kawamura] A-2
2. Shin-Kokyu (Breath Of Heart) [Words & Music Taeko Onuki, Arr: Eiji Kawamura] B-1
by Maiko Ito from the album "Yume No Iriguchi"(The Entrance Of Dream), June 2, 1983

伊藤麻衣子(1964- )は愛知県名古屋市出身。1982年テレビドラマやCMでデビューし、レコード発売は1983年から。アルバムは1985年まで4枚、シングルは1987年まで14枚出した。その後もテレビドラマ、映画やバラエティーで活躍を続けながら、持前の向上心で、2010年代に大学で勉強してロボット工学に係る研究員になったり、会社の取締役になるなど幅広い活動をしている人だ。

本アルバムは彼女18歳の時のデビューアルバムで、大貫さんの2曲は少女心全開の清純かつ爽やかな歌。1.「私は彼のシャボン玉」は自分の心をこわれやすいシャボン玉に例えた歌で、2.「心呼吸」は「私に会えば 素敵なことが始まるような気になる」と恋への期待を歌っている。典型的なアイドル・ヴォイスの彼女は、音程が少し不安定ながらも一生懸命歌っている。歌謡曲の編曲やテレビ・映画音楽の分野で活動した川村栄二の編曲は歌謡曲っぽいサウンドだけど、大貫さんの曲の個性が打ち勝っていて他の曲とは異なる雰囲気を醸し出している。

全体的にアイドル歌謡といった感じであるが、中では来生たかおが作曲したデビュー・シングル「微熱かナ」(作詞 売野雅勇)A面3曲目が面白い。また松任谷由美作で、自身のアルバム「Olive」1979年、同時期のハイファイセットのアルバム「閃光」に収められた「最後の春休み」のカバー(A面5曲目)は、高校卒業年齢の伊藤による歌唱がしっくり合っていて、とても良い感じだ。

アイドル・ヴォイスによる大貫さんの少女心ソングが楽しめる。

[2024年4月作成]


Hip City  朝倉未稀  (1983)  King   
 

1. Love Trip [作詞 朝倉未稀 作曲 大貫妙子 編曲 清水信之] B面3曲目
2. Someday [作詞 朝倉未稀 作曲 大貫妙子 編曲 清水信之] B面5曲目

朝倉未稀: Vocal
大貫妙子、Epo: Chorus
清水信之: Keyboards, Guitar, Bass, Percussion
青山徹: Guitar
富倉安生: Bass
村上秀一: Drums
ペッカー: Percussion
数原晋グループ: Horn Secrion (Trumpet)
新井英治グループ: Horn Secrion (Trombone)
大野グループ: Strings

注: 曲毎のパーソネルがないため、アルバム録音に参加したミュージシャン全員を表示

1983年6月21日発売

1. Love Trip [Words: Miki Asakura, Music: Taeko Onuki, Arr: Nobuyuki Shimizu] B-3
2. Someday [Words: Miki Asakura, Music: Taeko Onuki, Arr: Nobuyuki Shimizu] B-5
by Miki Asakura from the album "Hip City" June 21, 1983

 
麻倉未稀(1960-  本名 村上徳子、現在は高橋徳子)は大阪市出身。高校卒業後にモデルだった姉に誘われて雑誌モデルを始め、その伝手で1981年に歌手デビュー。最初はアイドルと一線を画すために「カッコイイ大人の女性」という作られたイメージで大人っぽい歌を歌っていたが、まだ幼かった内面とのギャップがあったという。4枚目のアルバムである本作は清水信之をアレンジャーに迎えて本格的なポップスに取り組んだ作品で、初めて本当の自分を出せたとインタビューで語っている通り、気持ち良さそうに歌っている。キラキラ感のあるサウンドと英語が多い歌詞(本人はもともとは英語が苦手だったらしいが)、そしてパワフルな歌唱はカラっとした感じで洋楽寄り。本作の後に「ホワット・ア・フィーリング」(アイリーン・キャラ 1983)や「ヒーロー」(ボニー・タイラー 1984)などの外国曲の日本語カバーのヒットを出し自己のスタイルを確立する。

本作は全曲麻倉の作詞で大貫さんは2曲で作曲を担当。1.「Love Trip」は、大貫さんが作る歌詞にはない明るい雰囲気で、そのためかメロディーもシュガーベイブの時のような華やいだ感じになっている。一方2.「Someday」は、歌詞に中にパリが出てくるように、フランス風ワルツの曲とアレンジになっている。どちらもアルバムの中では抜きんでた存在。

他の作曲者は高瀬政彦(インターネットによると、この人の作品は麻倉への提供のみになっており詳細不明の謎の人物)、大村憲司、清水信之、加藤和彦。なかではシングルカットされた「マジカル・サマー」(作曲 加藤和彦)B面4曲目。清水が書いた「Forum」A面4曲目がいい感じ。麻倉は1990年までアルバムを発表し続け、その後はヌード写真集を出したり、映画で濡れ場を
演じたりする迷いの時期もあったが、ミュージカルへの出演等で活路を見い出した。2017年に乳がんの手術を受けたが、復帰して元気に音楽活動を続けている。

健康的な感じの体育会系ボーカリストによる大貫ソング。

[2024年4月作成]


Fragrance  つちやかおり  (1983)  Express (東芝)   
 



1. 紅い糸 [作詞作曲 大貫妙子 編曲 山田秀俊] A面5曲目
2. つむじ風 [作詞作曲 大貫妙子 編曲 山田秀俊] B面1曲目

つちやかおり: Vocal

1983年10月1日発売

写真上: アルバム表紙
写真下: シングル「September Rain に消されて」表紙 (B面に「紅い糸」収録)」

1. Akai Ito (Red String) [Words & Music: Taeko Onuki, Arr: Hidetoshi Yamada] A-5
2. Tsumuji Kaze (Whirlwind) [Words & Music: Taeko Onuki, Arr: Hidetoshi Yamada] B-1
by Kaori Tsuchiya from the album "Fragrance" October 1, 1983 
 

つちやかおり(1964- 本名 土屋かおり)は東京都生まれで、1979年のテレビドラマ「3年B組金八先生」(武田鉄矢主演)でデビュー、1979年10月~1980年3月の第1シリーズに出演した。またアイドル歌手として1982年から1986年までの間にシングル11枚、アルバム6枚を発表、3枚目の本作(日本語で「香り」という意味)は彼女19歳の時の作品。

大貫さんは2曲提供。1.「紅い糸」は、フォーク歌謡風のヴァースから始まり、コーラスパートでポップ調に転じる。つちやは優しい声の持ち味を生かし、メリハリをつけて曲調の変化を上手くこなしている。2.「つむじ風」は大貫さんのアルバム「Cliche」1982収録曲のカバーで、メルヘンチックな歌詞の内容がつちやの声質に合っていて、本人も楽しそうに歌っているのが良い。シンセサイザーとピアノがメインのバックは山田秀俊(1952- )による編曲。彼は南こうせつのバック、吉川忠英のバンドから初めて、主にフォーク系アーティストのツアーバンドでキーボードを担当。1980年代~1990年代はアイドル歌謡、フォーク系アーティストの録音セッションにプレイヤー、編曲者として多く参加した。2000年以降はツアーバンドでの活動が主となり、2010年代以降は自己名義のアルバム発表や弾き語りコンサート開催が主な活動内容となっている。

その他の曲について。作詞家は竜真知子、六文銭の及川恒平、アイドル歌手出身の神田ヒロミ、作曲家はオフコースの鈴木康博、松尾一彦、スパイダースの大野克夫、ブレッド・アンド・バターの岩沢幸矢、そして安部恭弘といった面々。編曲家は10曲中6曲が山田秀俊、他は佐藤準、大谷和夫、飛沢宏元で、アイドル歌手としては歌唱力的に及第点ということもあり、どちらかというとアイドル歌謡が苦手な私でも心地よく聴くことができた。曲としてはアルバムに先行してシングルカットされた「September Rain に消されて」(作詞 竜真知子、作曲 松尾一彦 編曲 山田秀俊)がいい。ちなみに本シングルのB面に大貫さんの「紅い糸」が収められている。

その後のつちやかおりは、テレビドラマ、ラジオ、レポーター、グラビア写真で活躍。1991年に元シブがき隊の布川敏和と結婚し専業主婦となって1男2女の母となったが、2012年に子育て一段落として芸能界に復帰した。そして2014年に布川と離婚したが、その後も彼および子供達との円満な関係を続けている。

大貫さんの曲は質の高さによりA面最後、B面最初という重要な位置に配置され、アルバムの核となっている。

[2024年5月作成]


 
ほほづえ  伊藤麻衣子  (1983)  CBS Sony   



 

1. X'maまでセンチメンタル [作詞 売野雅勇 作曲 大貫妙子 編曲 川村栄二] B面4曲目

伊藤麻衣子: Vocal


写真上: LPレコード表紙 1983年10月21日発売
写真下: LD (レーザーディスク)表紙  同時期に発売


1. X'mas Made Sentimental (Sentimental Even For Christmas) [Words: Masao Urino, Music: Taeko Onuki, Arr: Eiji Kawamura] B-4 by Maiko Ito from the album "Hohozue (Resting Chin On The Hand)" October 21, 1983

 
前作「夢の入口」から僅か4ヵ月半で発売された「可愛い・清純・爽やか・上手過ぎない」のアイドル歌謡の王道を行くアルバムで、この時彼女は19歳。全曲の作詞を手掛けた売野雅勇は、中森明菜の「少女A」1982やチェッカーズの「涙のリクエスト」1984、「ジュリアに傷心」1984などが代表作の作詞家。

全体的に明るく軽快な曲が多い中で、1.「X'masまでセンチメンタル」は傷心のクリスマスを過ごす女の子の心情を歌っていて、大貫さん得意のアンニュイなメロディーが生きている。

なおレコードの発売と同時期に同一タイトル・表紙写真でレーザーディスクが発売された。収録曲はLPとは異なり、アルバム「ほほづえ」から4曲、「夢の入口」から2曲、アルバム未収録(シングルB面)から1曲という構成で、1.「X'masまでセンチメンタル」のミュージック・ビデオを観ることができる。そこでは伊藤が洒落た洋館の中、暖炉の側や食卓で寂しそうな表情で(口パクで)呟くように歌っている。

伊藤麻衣子は1983年から1985年までに4枚のアルバム、1987年までに14枚のシングルを出し、その後は女優としてテレビドラマを中心に、バラエティー番組、映画、舞台、CMなどで活躍を続けている。

[2024年7月作成]


バースデイ・アルバム  原田知世  (1983)  Eastworld (東芝EMI)  
 

1. 地下鉄のザジ [作詞作曲 大貫妙子 編曲 清水信之] A面1曲目

原田知世: Vocal

1983年11月28日発売

1. Chikatetsu No Zaji (Zazie dans le metro) [Words & Music: Taeko Onuki, Arr: Nobuyuki Shimizu] A-1 by Tomoyo Harada from "Birthday Album" November 28, 1983

 
原田知世(1967- ) は長崎県出身で、1982年角川の新募集で特別賞を受賞、テレビドラマ「セーラー服と機関銃」1982の主演および主題曲「悲しいくらいほんとの話」のシングル(1982年7月5日発売)でデビュー。初映画は倉敷を舞台とした大林宣彦監督の「時をかける少女」1983で、映画および同名の主題歌(1983年4月21日発売)が大ヒットした。本作は16歳の誕生日に発売された最初のアルバム(4曲入りミニアルバム)で、透明なクリスタル・ディスクになっている。全4曲中、大貫さんが提供した「地下鉄のザジ」のみ新曲。

「地下鉄のザジ」は、フランスの詩人・小説家レーモン・クノー(1903-1976)が1956年に発表した小説。地下鉄が大好きな少女が母親と田舎からパリに出てきて叔父さんに2日間預けられるが、地下鉄は生憎ストライキ中で、街を彷徨いながらいろんな人々と遭遇し騒ぎを起こす。動き出した地下鉄で帰りの列車の駅に向かい、母と落ち合って田舎に帰るというストーリーだ。私はルイ・マル監督による映画(1960年)を観たが、スラップスティックとシュール・レアリズムが同居した不思議な作品で、原作自体が前衛的だったという背景は後から知った。大貫さんが書いた作品は、原作・映画のシュールな要素はなく、清水信之の跳ねるようなシンセのリズムに乗った浮遊感のある女の子の歌になっている。原田のボーカルは16歳という年齢の通り子供っぽい囁き系の声で、現在の彼女の歌声と比較するとか細く不安定な歌唱だ。しかし類まれなる初々しさがあり、そのボーイッシュな風貌と相まって当時一世を風靡したことがよくわかる。本曲は原田の録音がオリジナルで、大貫さんは3年後の1986年に「Comin' Soon」でセルフカバーしている。

その他の曲について。「時をかける少女」B面1曲目と「ずっとそばに」B面2曲目(作詞作曲 松任谷由美 編曲 松任谷正隆)は上述シングル・レコードのA・B面の曲であるが、アレンジが少しだけ異なる別録音。前者は作者の松任谷由美が1983年12月1日発売のアルバム「Voyager」でセルフカバーしている。「ダンデライオン~遅咲きのたんぽぽ」A面2曲目、「守ってあげたい」 A面3曲目 (作詞作曲 松任谷由美 編曲 松任谷正隆)は、1983年7月25日発売の3枚目のシングルと同一録音。前者については、ほぼ同時期の1983年8月に松任谷のシングルが発売されている。「守ってあげたい」は、1981年の大林宣彦監督の映画「狙われた学園」(薬師丸ひろ子主演)の主題歌(歌:松任谷由美)のカバー。

その後40年以上続く原田と大貫の交流の原点。

[2024年3月作成]


  
翼をつけてラブソング/Mami's Call In 小森まなみ  (1983)  CBSソニー   

 

1.翼をつけてラブ・ソング [作詞作曲 大貫妙子 編曲 飛澤宏元] シングル盤 A面 
 
小森まなみ: Vocal

1983年12月1日発売

1. Tsubasa Wo Tsuke Love Song (Love Song With Wings) [Words & Music: Taeko Onuki, Arr: Hiromoto Tobisawa] Side A by Manami Komori from single December 1, 1983

小森まなみは東京都出身のラジオ・パーソナリティー、歌手、声優、エッセイスト。特徴のある声の持ち主で、トークを重視したラジオ番組のDJとして1980年代から活躍し絶大な人気を誇った。声優では声を使い分けて子供、少女キャラから悪役まで幅広くこなし、歌手として多くのシングル、アルバムを出したが、2010年代頃から出番が少なくなり、2024年春に完全引退した。本作は彼女が出した最初のレコードで、秋元康のプロデユースにより「小森まなみ Day & Talk」というタイトルで同じ日にリリースしたシングル盤5枚の内の1枚。これらはヒット狙いではなく、ラジオ番組などのファン向けの企画盤だった。

1.「つばさをつけてラブソング」は、同年1月に発売された白石まなみのシングルB面曲のカバーで、白石のバージョンがアコーディオンにような伴奏が入ったヨーロッパ風だったのに対し、こちらはオーソドックスな編曲。小森は年齢不詳の声で明るく歌っている。B面の「Mami's Call In The Morning」はギルバート・オサリバンの「Alone Again」1972 全米1位をフィーチャーした小森の語りで、恋人あてのモーニング・コールを想定した可愛らしい声の語りに対して、英語による歌入り部分は大人っぽい声でしっかり歌っていて、その対比がとても楽しい。

同年の白石まなみバージョンとの聴き比べが楽しめる。

[2024年4月作成]


 
靑のないパレット  徳丸純子  (1983)  TDKコア   
 



1. あなたの胸にもういちど [作詞作曲 大貫妙子 編曲 清水信之] A面5曲目
2. 恋はシーソーゲーム [作詞 大貫妙子 作曲編曲 清水信之] B面1曲目
3. 横顔 [作詞作曲 大貫妙子 編曲 清水信之] B面2曲目]
4. 夢でさよなら [作詞 大貫妙子 作曲編曲 清水信之] B面5曲目

清水信之: Keyboards, Glocken (3), Electric Guitar (1), Bass (1), Drums (1, 3), Purcission (2, 4)
今剛: Electric Guitar (2, 3, 4)
高水健司: Bass (2, 4)
村上秀一: Drums (2, 4)
多ストリングス: Strings (2, 4)

清水信之: Producer

写真上: アルバム(1983年12月5日発売)
写真下: シングル「恋のシーソーゲーム」(1983年10月21日発売)

1. Anata No Mune Ni Mouichido (Once More In Your Arms) [Words & Music: Taeko Onuki, Arr: Nobuyuki Shimizu) A-5
2. Koi Wa See Saw Game (Love Is See-Saw Game) [Words: Taeko Onuki, Music & Arr: Nobuyuki Shimizu) B-1
3. Yoko-Gao (Face In Profile) [Words & Music: Taeko Onuki, Arr: Nobuyuki Shimizu) B-2
4. Yume De Sayonara (Goodbye In My Dream)  Words: Taeko Onuki, Music & Arr: Nobuyuki Shimizu) B-5
by Junko Tokumaru from the album "Ao No Nai Palette" (The Palette Without Blue) December 5, 1983

徳丸純子(1966- )は大分県出身で、TDKコア主宰のオーディションで優勝して1982年に上京、1983年3月にアイドル歌手としてデビューした。CM出演などをしながら1984年までにシングル5枚、1984年までにアルバム2枚をだしたが、あまり売れず、その後は女優、モデルとしてテレビドラマ、バラエティー、舞台などで活躍。2010年以降は結婚を機に渡米して、現在シアトル在住で、プログ発信を続け、時たま帰国してイベントやコンサートにゲスト参加している。

そんな彼女の2枚目かつ最後のアルバムで、アイドル歌手としての1枚目がぱっとしなかったため、清水信之をプロデューサー、アレンジャーに迎えてシティポップに挑戦した作品。清水お得意のシンセを駆使したサウンド作りになっているが、彼の好きなように作った感じではなく、1984年のインタビューで 「電気を使った最新鋭なものが好きな反面、昔の歌謡曲も好き」と言っている通り、プロデューサーとして歌謡曲側にもしっかり軸足を置いた制作になっている。

本作は大貫さんから4曲(うち1曲はカバー)の提供を受けている。1.「あなたの胸にもう一度」は、歌詞はアイドルっぽい内容だけど、曲は清水アレンジによる大貫さん自身の作品そのものの清涼感にあふれた佳曲。徳丸の歌唱は抜群とは言えなくても、そこそこ上手く歌いこなしている。その一方でB面最初の 2.「恋はシーソーゲーム」は歌詞も曲も思い切り歌謡曲していて、その手の音楽が苦手な私でも聴いていて「清水がすなる歌謡曲として面白い」と思ってしまう。なおこの曲はシングルとして10月21日に先行発売された。3.「横顔」は大貫さんのアルバム「Mignonne」1978収録曲の初めてのカバー。瀬尾一三によるオリジナル編曲をベースに、シンセをうまく使ってよりポップに発展させたサウンドで、徳丸の声と内面がしっくり合って、とてもとても良い出来になっている。4.「夢でさよなら」も歌謡曲路線のマイナー調の曲で、湿っぽいけど大貫さん独特の清らかさがあって悪くないね。2, 4と歌謡曲路線の曲にあえて大貫さんの歌詞をあてることによって、曲の質を上げかつ独自の味わいを生み出そうしたのだろう。

その他の曲で、「時の魔術」(作詞 竹花いち子 作曲 村松邦夫)A面1曲目は元シュガーベイブの村松の作曲だけあって、ポップなメロディーが心地よい。バックコーラスは、伊集加代子、鈴木宏子、和田夏代子によるシンガーズ・スリー。「風もとまる十月」(作詞 岩里祐穂 作曲 清水信之)A面2曲目、「In The Blue」(作詞 竜真知子 作曲 清水信之)A面3曲目、「The End」(作詞 亜蘭知子 作曲 大村憲司)B面3曲目はシンセを前面に出した清水のシティ・ポップが展開される。

2014年に徳丸本人がブログで本アルバムの思い出を語っている。当時17歳の彼女には難しくて大変だったこと。「ガラスの靴はいらない」(注: 作詞 竜真知子 作曲 大村憲司 A面4曲目)は、「もうなんだか訳がわからないくらいハードで、清水さんとディレクターの期待に応えられずに『歌えません』と泣いてしまったり」、大貫さんの「夢でさよなら」では「詩の世界に入りすぎて、涙が止まらなくなり....」.と、よく泣いていたそうだ。恋愛などはまったくだったのに勝手に妄想してしまうなど、多感で可愛いですね。 時間と金をかけた割に売り上げはイマイチだったようで、ブログで本人が「うっ.....すみませんでした」と謝っているのが可笑しい。 

本アルバムはCD化されず、その後TDKコアのレコード部門が廃止となり、マスターテープが処分されてしまったという。そのためCD化による再発は不可能と言われたが、2016年に日本コロンビアが「盤おこし」(レコード音源からCDを制作すること)によるベスト盤を発売し、そこに本アルバムから6曲収録された(そこには「夢でさよなら」は含まれていない)。そのため、当時あまり売れなかったと思われるレコードは中古市場で高値で取引されている。

清水信之のアルバムと言ってもいい内容で、大貫さん作品4曲(うち1曲カバー)を聴くことができる。


SLIT  安部恭弘 (1983)  東芝EMI   


 

1. 砂色の夜明け [作詞 大貫妙子 作曲 安部恭弘 編曲 清水信之] B面4曲目

安部恭弘: Vocal
清水信之: All Instruments (Piano, Synthesizer, Guitar, Bass, Drums, Percussion etc)

1983年12月21日発売

1. Sunairo No Yoake (Sand-Colored Dawn) [Words: Taeko Onuki, Music: Yasuhiro Abe, Arr: Nobuyuki Shimizu] B-4 by Yasuhiro Abe from the album "SLIT" December 21, 1983

1979年、大好きだったマンハッタン・トランスファーのアルバム「Extentsions」を聴いて、「Nothin' You Can Do About It」という曲にぶっ飛んだ思い出がある。ダイナミックなアレンジと強烈なグルーヴ感が凄くて、これがデビッド・フォスターとジェイ・グレイドンを意識した最初の経験だった。そこからアース・ウィンド・アンド・ファイアーの「After The Love Has Gone」1979にいって、最後に彼らがこれらの曲を自ら演奏して歌ったアルバム「Airplay」1980に辿り着いたのだ。この二人が組むことによって創り出される音楽は、その後の私の嗜好に大きな影響を及ぼしたことは事実だ。当時の私は知らなかったが、日本でこの二人に大きな影響を受けて作品を作り上げた人がいた。シンガー・アンド・ソング・ライターの安部恭弘(1956- 東京都出身)で、彼がキーボード奏者、アレンジャーの清水信之と組んで制作した3枚目のソロアルバム「SLIT」1984 は、単なる物真似に終わらないクリエイティブな作品に仕上がっている。

まずは大貫さんが歌詞を提供した曲から。1.「砂色の夜明け」は、軽快なテンポの曲が多い中で、スローで陰影の濃い曲調により強い存在の光を放っている。クリスタルを思わせる大貫さんの硬質な歌詞、それに耽美的なメロディーを付けた安藤とストイックなアレンジ・伴奏を付けた清水信之すべてが素晴らしい。本曲では全ての楽器演奏を彼独りで行っている(本アルバムには同様の演奏があと2曲ある)。

他の曲では、もろ「デビッド・フォスターだあ」の「アイリーン」(作詞 康珍化 作曲 安部恭弘 編曲 清水信之)がカッコイイ。安部のボーカルは高めの声でファルセットも上手く、この手の曲にぴったり。他の曲もグルーヴ感に溢れていて言う事なし。曲毎のクレジットはないが、(清水一人演奏以外の曲の)伴奏者はドラムスが青山純、村上秀一、山木秀夫、ベースが高水健司、富倉安生、、美久月千晴、ギターが鈴木茂、土方隆行、安部恭弘、キーボードが清水信之、難波弘之といった猛者揃い。編曲は9曲中4曲が清水と阿部、残り5曲が清水となっている。

安部はソロ活動の他に、プロデュースや他のアーティストへの曲提供を数多く行っており、稲垣潤一の「ロング・バージョン」1983、「恋のテクニック」1983、竹内まりやの「五線紙」1980、「ポートレイト」1981などが代表作。

大貫さんが男性歌手に楽曲提供した数少ないケースのなかで、最高峰に挙げられる作品。

[2024年7月作成]


The Magic Of Teresa Carpio  Teresa Carpio (杜麗莎) (1983)   TV Records (香港)  
 

1. 夜汽车(夜汽車) [作詞 卡龍 作曲 大貫妙子] B面5曲目 広東語歌詞による 「黒のクレール」

Teresa Carpio (杜麗莎): Vocal

1983年 香港で発売


1. Night Car [Wods: Ip Hon Leung, Music Taeko Onuki] B-5 Cantonese version of 「Kuro No Claire」 (Claire In Black), by Teresa Carpio from the album "The Magic Of Teresa Carpio" Hong Kong, 1983

 
テレサ・カルピオ(1956- 本名 杜麗莎)は香港生まれの英語・中国(広東)語の歌手、俳優、歌唱教師。1970年代後半から香港のテレビ番組に出演してアルバムを発表、現在も元気に活躍している。英語曲のカバーと広東語によるポップソングを歌って、東南アジア諸国でも人気を博した人だ。彼女が1983年に発表したアルバム「The Magic Of Teresa Carpio」には、数曲の英語曲のカバーに加えて、日本の曲として松任谷由美の「Reincarnation」や八神純子の「夢観る頃を過ぎても」とともに、大貫さんの「黒のクレール」の広東語バージョンが含まれていた。

広東語の歌詞は卡龍(英語名 Ip Hon Leung)によるもの。彼は香港の作詞家、音楽プロデューサー、ラジオDJで、1980年代~1990年代に活躍した人。歌詞をインターネットで調べて翻訳機能で日本語にしてみたところ、タイトルの「夜汽車」は「Night Car」の意味であることがわかった(中国語の「汽車」は自動車の意味もある)。歌詞は車に乗った男女の別れを描いたもので、大貫さんのオリジナルとは全く異なる内容。

オリジナルと同傾向のアレンジであるが、歌唱面では関東語の発音により、かなりニュアンスが異なって聞こえるのが面白い。彼女の伸びのある声は聴いていて気持ちが良いね。

ちなみに「黒のクレール」の広東語歌唱はもうひとつあって、1988年に香港の若手女性デュオの夢劇院が、異なる歌詞で「生理的願望」というタイトルでカバーしている。

「黒のクレール」を広東語の歌詞で聴くことができる珍品。

[2024年3月作成]


1984年  「カイエ」 (1984/6/5発売)の頃 
Weekend  堀江美都子  (1984)  Columbia  






 

1. 恋人達の明日 [作詞作曲 大貫妙子 編曲 飛澤宏元] A面1曲目
2. 美しい秘密 [作詞作曲 大貫妙子 編曲 馬飼野康二] A面3曲目
3. チャンス [作詞作曲 大貫妙子 編曲 飛澤宏元] B面3曲目
4. 愛はロンリー・ウィークエンド[作詞作曲 Anna Vissi, Nikos Karvelas 日本語訳詩 大貫妙子 編曲 馬飼野康二] B面4曲目


堀江美都子 : Vocal


「恋人達の明日」はアルバム「Aventure」(1981/5/21発売)収録、シングル(1981/6/5発売)の同曲のカバー
「チャンス」はアルバム「Aventure」(1981/5/21発売)収録、シングル(1981/7/21発売)の同曲のカバー

1984年1月21日発売

写真上: アルバム表紙
写真中: シングル「あふれる想い」表紙(B面に4.「愛はロンリー・ウィークエンド」収録)
写真下: 「Love Is Lonely Weekend」 by Anna Vishy 表紙

1. Koibitotachi No Asu (Tomorrow Of Lovers) [Words & Music: Taeko Onuki, Arr: Hiromoto Tobisawa] A-1
2. Utsukushii Himitsu (Beautiful Secret) [Words & Music: Taeko Onuki, Arr: Koji Magaino] A-3
3. Chance [Words & Music: Taeko Onuki, Arr: Hiromoto Tobisawa] B-3
4. Aiwa Lonely Weekend (Love Is Lonely Weekend) [Words & Music: Anna Vissi, Nikos Karvelas, Japanese Words: Taeko Onuki, Arr. Koji Magaino] B-4
From the album "Weekend" by Mitoko Horie issued on January 21, 1984

 
堀江美都子(1957- )は神奈川県出身で1969年歌手デビュー、「アニメソングの女王」と呼ばれている。数多くのテーマソングを歌っており、代表作は「キャンディ・キャンディ」1976。その他声優、ラジオ・パーソナリティー、ボーカル・スクールの主宰など幅広い活動をしている人だ。そんな彼女は1980年代前半にアニメソング以外の音楽に取り組んだアルバムを出しており、本作はその4枚目にあたる。全10曲中オリジナルは3曲のみで、カバーソングが主体の作品になっている。

1.「恋人達の明日」は、大貫さんのアルバム「Aventure」1981からのカバーで、坂本龍一、山下達郎編曲のオリジナルに対し、もっと軽めでポップなアレンジが施されている。堀江はハキハキと歌っていて歌唱の上手さが際立っているが、アニメソング向けの歌声が明る過ぎてオリジナルにあった陰影がなくなった分、少し物足りないかな。まあ原曲が凄すぎということにしておこう。本アルバムのために書かれたオリジナル2.「美しい秘密」は、マイナー調のメロディーで秘めた恋を歌う清涼感にあふれた曲。ここでの堀江は、打って変わって情感を込めてしっとり歌っており、どんな曲でもこなすことができる力量を示している。3.「チャンス」も1.と同じ雰囲気での歌唱。原曲と歌の乗りが微妙に異なっているところが面白い。これも大村憲司のオリジナル・アレンジを褒めるべきなのだろう。

4.「愛はロンリー・ウィークエンド」は海外曲のカバーで、大貫さんは訳詞を担当している。元は「Mono I Agapi」(Only Love) というギリシア語の曲で、作者はこの曲を歌ったアナ・ヴィッシ(Anna Vissi、英語圏ではAnna Vishy)と当時恋人(後に夫となる)ニコス・カルヴェラス(Nikos Carvelas)。1982年ユーロヴィジョン・ソング・コンテストにキプロス代表で参加し5位に入賞した。ギリシア語の歌詞は「ただ愛して ただ愛して」という情熱的なものだったが、併行発売された英語版「Love Is Lonely Weekend」は、もっと捻りが効いた内容になっており、大貫さんの訳詞は後者に基づいている。アナ・ヴィッシは、ギリシャ、キプロスを代表するシンガーで、特にギリシア語での歌いっぷりは「Diva」と呼ぶに相応しい。ここでも堀江は2.と同様、じっくり歌っていて聴きごたえ十分。原曲が日本でヒットした記録がなく知名度は低いが、聴き込むと素晴らしい曲・歌唱だ。なおこの曲は同年発売されたシングル盤「あふれる想い」(LP収録の「アフェア・オブ・ザ・ハート」A面4曲目と同一曲で、原曲は1982年の阿川泰子)のB面に収録された。

その他の曲では、「黄昏ドライブイン」(作詞作曲:つのだひろ、編曲馬飼野康二)A面2曲目が秀逸。アレンジの魔術と卓越した歌唱力で、南沙織 1977年の原曲を凌駕している。松任谷由美の「白日夢・Day Dream」は、オリジナルのほうがいい。歌が下手と言われる松任谷の歌唱が如何に味わい深いかがよくわかる好例。西島三重子の「泣きたいほどの海」1979のカバーもあるが、アルバムの中にはアニメソング歌手を思わせる曲も入っていて、そのためか全体的な統一感に欠ける感じがするのも事実。

大貫さんの作品が4曲(カバー2曲、オリジナル2曲)も入っていて、カバー2曲についてはネガティブな事を言ったが、それでも異なる雰囲気で歌っているので、それなりに面白いと思う。オリジナル2曲は聴く価値十分にあり。

[2024年3月作成]


  
古今集  薬師丸ひろ子  (1984)  Eastworld (東芝EMI) 

 

1. 白い散歩道 [作詞作曲 大貫妙子 編曲 清水信之] B面1曲目
2. 月のオペラ [作詞作曲 大貫妙子 編曲 清水信之] B面3曲目


薬師丸ひろ子: Vocal

1984年2月14日発売


1. Shiroi Sanpo Michi (White Promenade) [Words & Music: Taeko Onuki, Arr: Nobuyuki Shimizu] B-1
2. Tuski No Opera (Moon Opera) Words & Music: Taeko Onuki, Arr: Nobuyuki Shimizu] B-3
by Hiroko Yakushimaru from the album "Kokin-Shu" Febuary 14, 1984

 

東京都出身の薬師丸ひろ子は、1978年に映画「野生の証明」でデビュー。「セーラー服と機関銃」1981で「探偵物語」1983などの主演で女優としての地位を確立した。最初は歌うことに乗り気ではなかったが、前述の2本の映画の主題歌が大ヒットし、満を持して制作された初アルバムが本作だ。当時彼女は19歳だったが、可愛らしさを強調する通常のアイドル歌手とは一線を画した制作ポリシーが貫かれていて、それはジャケット写真からも見て取れる。合唱団で鍛えられたという彼女の歌唱は抑揚とビブラートが少なく平面的なんだけど、聴き手の心に訴える類まれな何かがあり、品性と清純さが際立っているのだ。

大貫さんの提供は2曲。1.「白い散歩道」は、しっとりした作品が多い本作の中では「可愛い系」の作品。それでも透き通った純粋な心に満ちた作品になっているのが大貫さんらしいところ。彼女の作品では「Cliche」1982に入っていた「つむじ風」の雰囲気に似ている。2.「月のオペラ」は夜の澄んだ空気が感じられる曲で、後に大貫さんが指向するアコースティックな作品郡を先取りするような曲。薬師丸の声は声質こそ違えど、精神面で大貫さんに近いものがあり、当該2曲については、大貫さんが自ら歌っているかのように思える。

本アルバムは、大貫さんの他に強力な作家と編曲家による万全な体制により、無駄な曲が全くない作品に仕上げられている。「元気を出して」(作詞作曲 竹内まりや 編曲 椎名和夫)A面1曲目は、愛する人と別れた友人を慰める歌で、本アルバムからはシングルカットされなかったが、ファンの間では名曲とされていた曲。1988年に竹内がセルフカバーして彼女の代表作のひとつになっている。「トライアングル」A面3曲目は「元気を出して」と同じ作者・編曲者であるが、三角関係のなかで友人を捨てて恋人を選ぶという内容の歌で、1曲目との対比が凄い。「つぶやきの音符」A面2曲目、「眠りの坂道」A面5曲目は来生えつ子作詞、南佳孝作曲、井上鑑編曲で、メロディー・メイカー南の手腕が光っている。「カーメルの画廊にて」(作詞 湯川れい子 作曲 大野克夫 編曲鷺巣詩郎)A面4曲目、「ジャンヌ・ダルクになれそう」(阿木煬子作詞 井上鑑作曲編曲)B面2曲目は、ミドルテンポの曲で、真っ直ぐな気持ちが込められた曲。同じコンビによる最後の「アドレサンス」B面4曲目は、「思春期」という意味のタイトルで、当時二十歳直前だった薬師丸の心境が籠められている佳曲。

2024年の現在、このアルバムで彼女の若々しい歌声を聴くと当時の時代の匂いというか空気を鮮明に思い出す。それほど彼女の歌唱には存在感があるということなのだろう。なお本アルバムには、1枚目のシングル「セーラー服と機関銃」(ただし別アレンジによる新録音)とそのカラオケ、2枚目のシングル「探偵物語」A・B両面が入った4曲入りミニアルバム(透明ディスク)が付いた2枚組で販売された。

薬師丸ひろ子と大貫さんの初顔合わせの作品。

[2024年3月作成]


 
Vert Clair  原真祐美  (1984)  Columbia  
 

1. 黒のクレール [作詞作曲 大貫妙子  編曲 飛澤宏元] B面4曲目

原真祐美: Vocal

1984年2月21日発売


1. Kuro No Claire (Black Claire) [Words & Music: Taeko Onuki, Arr: Hiromoto Tobisawa] B-4 by Mayumi Hara from the album "Vert Clair" Febuary 21, 1984

 
原真祐美(1966- )は北海道札幌市出身。中学生の頃から写真モデルとして活躍し、高校生の頃に上京して1983年3月にアイドル歌手としてデビューを果たす。本作は2枚目のアルバムで、三浦徳子、秋元康といった歌謡曲畑の作詞家の作品を歌っていて、サウンド的にも少しニューミュージックっぽいアイドル歌謡と言った感じ。ただしタイトル曲「ベール・クレール ~Vert Clair~」(「明るい緑」という意味)や「トワ・エ・モア ~Vert Clair~」(「貴男と私)という意味)といったフランス風の曲があり、その味付けの質を高めるために大貫さんの「黒のクレール」 (アルバム「Cliche」1981収録) をカバーしたと思われる。

この曲は18歳の若さで歌うにはちょっと荷が重かったようで、原曲より若干テンポが速くなっていることもあり、清冽さはあるもののダークなムードを出し切れていない感がある。それでも原は一生懸命歌っており、その誠実さが彼女の魅力になっていて、それは他の曲にも当てはまっている。なお飛澤宏元による編曲は、オリジナルと異なるメロディーのイントロが付けられていて、これはめっけもの。

他の曲では、シングルカットされた「夕暮れはLove Song」(作詞 三浦徳子 作曲 林哲司 編曲 鷺巣詞郎)A面2曲目 が印象に残る。林哲司っていいメロディー書くね。タイトルソングの「ベール・クレール ~Vert Clair~」(作詞 三浦徳子 作曲編曲 飛澤宏元)は、短い感覚的な詩とフランス風メロディー・アレンジによるワルツでお洒落な感じ。彼女の趣味なのかな?「恋は時を止めて」(作詞 秋元康 作曲 新川博 編曲 志熊研三)A面4曲目は、彼女が私に語りかけてきているような歌いっぷりで、言葉が心に染み入ってくる。彼女の表現力がよくわかる曲。「小さな恋のメロディーに憧れて」(作詞 秋元康 作曲 見岳章 編曲 飛澤宏元)はマーク・レスターとトレイシー・ハイドの1971年の映画の思い出を持っている人ならぐっと来る曲。本アルバムからの2枚目のシングル「涙色のメモリー」(作詞 三浦徳子 作曲 小杉保夫 編曲 鷺巣詞郎)B面5曲目は、歌詞、メロディー、アレンジ、歌唱、可愛さすべて良しのアイドル歌謡としては最良の出来上がりだ。

彼女は1984年までにアルバム3枚、1985年までにシングル8枚を出した後に引退。1986年に復帰を期してヌード写真集を出したが、その後は消息が途絶えた。写真における可愛さの点で群を抜いていたが、YouTubeの動画を観る限り、テレビの世界では、歌唱シーンは別として、気の利いたトークやバラエティ対応が苦手だったようで、魅力を発揮し切れなかった感があった。

日本人歌手による「黒のクレール」の最初のカバー。

[2014年4月作成]

[2014年4月追記]
すみません。名前の漢字を間違えていましたので訂正しました(誤 真裕美 → 正 真祐美)。Kさんありがとうございました。
他の曲についてのコメントを追加しました。


  
卒業/つちやかおりベスト  つちやかおり  (1984)  東芝EMI   

 

1. 春の雨 [作詞作曲 大貫妙子 編曲 山田秀俊] A面1曲目

つちやかおり: Vocal

1984年3月1日発売


1. Haru No Ame (Spring Rain) [Words & Music: Taeko Onuki, Arr: Hidetoshi Yamada] A-1 by Kaori Tsuchiya from "Sotsugyo/Tsuchiya Kaori Best (Graduation/Best Of Kaori Tsuchiya) " March 1, 1984

 
大貫さんが2曲提供した「Fragrance」1983に次ぐつちやかおりのアルバムで、これまで発売されたシングルと3枚のアルバムからセレクトされたベスト盤。ちなみに彼女は1984年は新曲のアルバムを出していない。その代わりといっていいのか1曲のみ新録音の曲が収録されていて、それが1.「春の雨」だ。アルバムタイトルが「卒業」となっているが、発売当時彼女は19歳で高校卒業の年齢ではないので、何故そういう名前を付けたのかなと思ったが、大貫さんの曲が卒業時の女性の心情を描いたものなので、この曲のためにつけられたものであることがわかった。

作曲当時30歳だったと思われる大貫さんが、若かりし日々を思い起こして書いた、卒業式の日に迎えに来なかった彼氏、降り出した暖かい春の雨、それでも未来への希望を持ち続けようとする心を描いた歌詞が、短編映画を観ているかのように鮮やかで本当に素晴らしい。そして哀愁の色を帯びながらもコーラス部分で転調して力強さを帯びるメロディーと山田秀俊のフォーク調のアレンジも秀逸。つちやは持前の歌唱力で歌いこなしている。

大貫さんの提供曲としての知名度はそれほど高くないと思われるが、ベストのひとつに含まれるべき作品。

[2014年6月作成]


Love Is Over With Piano  倉橋ルイ子 (1984)  Polydor  
 

1. さよならの微笑 [作詞作曲 大貫妙子 編曲 羽田健太郎] A面2曲目

倉橋ルイ子: Vocal
羽田健太郎: Piano

1984年5月25日発売

1. Sayonara No Hohoemi (Goodbye Smile) [Words & Music: Taeko Onuki, Arr: Kentaro Haneda] A-2 by Ruiko Kurahashi from the album "Love Is Over With Piano" May 25,1984

 

1982年発売の「Heartbreak Theater」(「さよならの微笑」収録)の翌年、「Rolling ~哀しみのバラード~」、「Thanks 来生たかお作品集」の2枚のアルバムを発表した倉橋ルイ子は、1984年5月25日に4~5曲入りのミニアルバム4枚を同時に発売するという企画を実施した。そのラインアップは以下のとおり。

① Hello Again   服部克久プロデュース 演奏 東京ユニオン
② Love With Over With Piano   ピアノ・編曲 羽田健太郎
③ Never Fall In Love   作曲・編曲 林哲司
④ Winter Rose   作曲・編曲 大野克夫 演奏 North Wings スタジオライブ

各アルバムは「バラードをカバンにつめて」という副題がアルバム・ジャケットの左上に記され、日本屈指の編曲家および彼女と縁の深い作曲家・編曲家とのコラボ作品となっている。それぞれに特徴があり、①はビッグバンド、②はピアノ伴奏のみ、④はスタジオライブといった内容。全19曲中、16曲は既存のアルバム「Without Sugar」1981、「Morning Shadow」1981、「Heartbreak Theater」1982収録曲のセルフカバーで、2曲が新曲、残る1曲はベット・ミドラーの名作「Rose」1980の訳詞によるカバーといった構成だ。ミニアルバムということで、通常のLPのように曲毎の演奏時間を気にせずにアレンジされ、スタジオでの作り込みではなく、事前に準備されたスコアに基づく一発録り、またはそれに近い録音となっている。

大貫さんの「さよならの微笑」のセルフカバーが収められたアルバム「Love With Over With Piano」は、羽田健太郎のピアノのみによる伴奏で倉橋が歌う。それはピアノバーで彼女の歌を聴いているような雰囲気だ。羽田健太郎(1949-2007)は、クラシック、ポップス、フュージョンという広い分野にわたって作曲家・編曲家・ピアニストとして活躍した人。スタジオ・ミュージシャンとして無数の曲の録音に参加した他、テレビ番組や映画の主題歌・テーマ音楽の作曲・指揮・演奏や音楽番組への出演など華々しく活躍した。私は特に「題名のない音楽会21」や「タモリの音楽は世界だ」での太った愉快なおじさんが、いざピアノを弾き始めと超絶技巧で皆を圧倒させるシーンを思い出す。

1「さよならの微笑」での羽田は倉橋のしっとりした歌唱に合わせるべく、少し抑え気味に弾いているようだ(それでも十分凄いけどね)。「Heartbreak Theater」1983収録曲がオリジナルで、大貫さんは「Signifie」1983で「幻惑」というタイトルでセルフカバーした 名曲「Love Is Over」A面1曲目の後に配されることで、その余韻が残る中での少し乾いた感じの歌唱・演奏が何ともはまっている。ピアノ伴奏のみによる歌唱がこの曲にこれだけ合うとは、聴かなければ想像もできないだろう。

その他の曲について。前述の「Love Is Over」(作詞作曲 伊藤薫)A面1曲目は、ファースト・アルバム「Without Sugar」1981に入っていた曲で、もともと倉橋が歌う予定だったが、結果的にオーヤン・フィフィ(欧陽菲菲)が歌って彼女の代表曲になったといういわくがある。歌唱・伴奏ともに「Without Sugar」のものよりも遥かに良く、「この曲はこうあるべきだ」と言わせる仕上がりになっている。「風の恋人」(作詞 来生えつこ 作曲 網倉一也)B面1曲目のオリジナルは「Heartbreak Theater」1983所収であるが、ここでは歌無しのインストルメンタルになっていて、4曲全てに倉橋の歌が入ると重すぎるため息抜きにしたのだろう。本アルバムの演奏は羽田のピアノのみと述べたが、実はこの曲のみストリングスが少々入っている。そして同じアルバムに収められていた「ラストシーンに愛をこめて」(作詞 岡田冨美子 作曲 鈴木キサブロー)B面2曲目も素晴らしい演奏・歌唱を聴かせてくれる。

知名度が低くレアな録音であるが、ピアノ伴奏のみで歌われる大貫作品として、大貫妙子・坂本龍一の「UTAU」2010 とともに記憶されるべき存在と思う。

[2024年5月作成]


    
ケイスケ/サヨウナラに乾杯!  竹下景子 (1984)  Polydor  

 

1. サヨウナラに乾杯 ! [作詞 酒井チエ 作曲 大貫妙子 編曲 川村栄二] シングル「ケイスケ」B面

竹下景子: Vocal

1984年6月25日発売

1. Sayounara Ni Kanpai ! (Toast To The Good Bye !) [Words: Chie Sakai. Music Taeko Onuki, Arr: Eiji Kawamura] by Keiko Takeshita from the B-side of the single "Keisuke" Jun 25, 1984

 
シングル「ケイスケ」は竹下景子最後のレコード。彼女は1978年から1984年の6年間にシングル6枚、アルバム3枚を出した。ジャケットの裏面に「ケイスケは昔の恋人の名前です。そう「結婚してもいいですか」の時の....。そしてKEIKOの愛犬の名前でもあるのです」と人騒がせなことが書かれているが、実際のところ「ケイスケ」は当時彼女が熱烈なファンだったサザンの桑田佳祐のことで、自分が飼っている犬の名前にしていたらしい。

大貫さんが彼女に曲を提供するのは3回目。1.「サヨウナラに乾杯!」は、フォーク調のメロディー、アレンジによるさっぱりとした雰囲気の別れの歌で、竹下はさらっと歌っている。彼女の歌唱はこの手も曲によく合うね。

A面「ケイスケ」も同じ感じの曲で、B面と同じ詩人の酒井チエの作詞。歌詞の最後に「ケイスケ ケイスケ 6月に結婚するの」とあるが、竹下本人も1984年4月に写真家の関口照生と結婚したという落ちがある。

さっぱりした雰囲気が何とも良い感じの曲。

[2024年6月作成]


ニュアンスしましょ/言えるあてない I Love You 香坂みゆき (1984)  Polydor   

 



1. ニュアンスしましょ [作詞 大貫妙子 作曲 EPO 編曲 清水信之] Single A面

Vocal: 香坂みゆき
Chorus: 大貫妙子、EPO

写真上: シングル 1984年8月1日発売
写真下: アルバム「Jet Lag」 1984年10月1日発売 (B面5曲目収録)

1. Nuance Shimasho (Let's Do Nuance) [Words: Taeko Onuki, Music: EPO, Arr: Nobuyuki Shimizu] Single A Side by Miyuki Kousaka from the single A side August 1, 1984, or from the album "Jet Lag" B-5 October 1, 1984

 
香坂みゆき(1963- )は神奈川県出身で、幼い頃からモデルとして活躍し、歌手デビューは14歳の1973年。歌手活動の他にバラエティー、テレビドラマ等に出演したが、1980年代末の結婚後は出番が少なくなり、2010年代以降はYouTube配信やコンサートの開催などの活動を続けている。本作は17枚目のシングルで、1984年資生堂化粧品の秋のキャンペーンCMソングとして彼女最大のヒット曲となった。

当時絶頂期だった作曲者のEPO(1960- 本名:佐藤栄子 子供の頃、周りの人が「エーコ」と呼ぶのがなまって「エポ」という愛称になったそうだ)にとって、自ら歌った「う、ふ、ふ、ふ」1983年2月、高見知佳が歌った「くちびるヌード」1984年2月に次ぐ資生堂CM3部作最後の作品。大貫さんの作品としては思い切った歌詞で珍しくエロスを感じさせる内容であるが、凛とした品の良さは相変わらずだ。それにオリエンタルな香りがするメロディーを付けたEPOの仕事も秀逸。そしてシンセポップ・アレンジは、EPOの楽曲および大貫さんの楽曲・提供曲の多くで編曲を担当した清水信之。その3者が無敵タッグを組んだんだから悪い訳がない。香坂も伸びのある声で明るく気持ち良さそうに歌っている。なお本曲ではEPOと大貫さんによるバックコーラスが入る。

なお本曲およびB面の「言えるあてない I love you」は、2ヵ月後に発売された8枚目のアルバム「Jet Lag」に収録された。

シングル・ジャケットのピンクの色合いがぴったりの曲。

[2024年5月作成]

[2024年5月追記]
「Epo」の名前の由来について、当初「幼い頃自分の名前を「えいこ」と発音できず「えぽ」と呼んだため、あだ名になったそうだ」と書いたが、「周りの人が「エーコ」と呼ぶのがなまって「エポ」になった」という説のほうが正しいようです。

 
 
Ruiko  倉橋ルイ子 (1984)  Polydor    

 

1. 軌跡 [作詞作曲 大貫妙子 編曲 船山基紀] A面5曲目

倉橋ルイ子: Vocal
山田秀俊: Keyboards
吉野藤丸: Electric Guitar
笛吹利明: Acoustic Guitar
富倉安生, 長岡道夫: Bass
島村英二, 林立夫: Drums

注: 曲毎のパーソネルがないため、アルバム録音に参加したミュージシャン全員を表示

1984年10月25日発売

1. Kiseki (Trajectry) [Words & Music: Taeko Onuki, Arr: Motonori Funayama] A-5 by Ruiko Kurahashi from the album "Ruiko" October 25, 1984

 
ポリドール・レコードからの最後のアルバム。帯のキャッチ・フレーズは「恋愛の機微が、分かってしまったあなたへ........ 倉橋ルイ子18ヵ月振りに贈る9編の恋文」。「報われない愛」を歌う24歳の彼女は、これまでよりも大人っぽい感じで、各曲が短編小説のような味わいがある。このアルバムは曲の個別の良し悪しよりも、全体の雰囲気に浸って聴くべきと思う。

大貫さんが提供した1.「軌跡」は、「全体の雰囲気に浸って聴くべき」と述べたアルバムの中でも歌詞およびメロディーの透明感で異彩を放っていて、倉橋が大貫さんの曲を好んで取り上げた理由がよく判る。

その後の倉橋は、1990年代前半までの間に7枚のアルバムを発表したが、その後は制作が途絶えた。しかし熱心なファンとの交流は続いていて、定例コンサートを開催しているそうだ。

大貫さんが倉橋に提供した最後の作品。

[2024年7月作成]


X'mas Rock/Get Together 村松邦男 (1984)  徳間Japan    
 

1. Get Together [作詞 大貫妙子 作曲編曲 村松邦男] シングル「X'mas Rock」B面

村松邦男: Vocal, Guitar, Bass
乾裕樹、難波弘之、遠山淳、中西保晴: Keybords
長岡道夫, 富倉安生: Bass
上原裕, 見砂和照, Hirose Tokushi, Reuchi: Drums

注: 曲毎のパーソネルがないため、アルバム録音に参加したミュージシャン全員を表示

1984年6月25日発売

1. Get Together [Words: Taeko Onuki, Music & Arr: Kunio Muramatsu] by Kunio Muramatsu frm the single "X'masn Rock" B-Side Jun 25, 1984

 
村松邦夫 (1952- 東京都出身)はシュガーベイブのギタリストだった人で、解散後は数多くのミュージシャンへのセッション参加や曲の提供、編曲を行っている。そして自身も数枚のアルバム、シングルを出していて、3枚目のシングル「X'mas Rock」のB面に大貫さんが作詞した1.「Get Together」が収められた。ウエストコースト・ロック風のからっとした軽快な曲で、機嫌の悪い恋人に対する男の思いを描いた歌詞は、大貫さんが男性歌手に提供したレアケースのひとつ。村松の声は歌手としてのインパクトには欠けるけど誠実そうな感じがいいね。

この曲はLPレコード未収録で、翌年発売されたソロアルバム「ROMAN」1985のCDとカセットテープのみに収められた。また2024年6月に再発されたファースト・アルバム「Green Water」1983にボーナストラックとして収録されている。

A面の「X'mas Rock」は、ナット・キング・コールの「The Chirstmas Song」1946、ジャクソン5の「I Saw Mommy Kissing Santa Claus」1970 (オリジナルはジミー・ボイド1952年の録音)に似た旋律が入っている曲で、アレンジはマライア・キャリーの「All I Want For Christmas Is You」1994 (こっちのほうが先だあ!)に似ているという面白い曲。

村松が得意とするポップな曲調の作品。

[2024年6月作成]


撫子純情  原田知世  (1984)  CBS Sony   

 

1. 星空の円型劇場(アンフィシアター) [作詞作曲 大貫妙子 編曲 坂本龍一] A面1曲目

原田知世: Vocal

坂本龍一: Sound Producer
角川春樹: Executive Producer

1984年11月28日発売

1, Hoshizora No Amphitheatre (Amphitheare Under The Starry Sky) [Words & Music: Taeko Onuki, Arr: Ryuuichi Sakamoto] A-1 by Tomoyo Harada from the mini-album "Nadeshiko Junjyo" (Pink Pure Love)

 
前作に続き原田の誕生日に発売されたミニアルバムで、帯のキャッチ・フレーズは「永遠なる少年少女たちよ、知世 拾七歳をありがとう。バースデイ・アルバム」。前回同様透明なディスク(クリアレコード)で発売された。本人の希望により、本作の前に発売されたシングル曲「天国にいちばん近い島」を除き、坂本龍一がサウンド・プロデュース、アレンジ、1曲の作曲を担当した。

大貫さんが作詞作曲した1.「星空の円形劇場」は、17歳らしい将来の夢に溢れたファンタスティックな歌詞とメロディーの曲だ。当時の原田の声は、他のアイドル歌手にはない感性があったが、声自体に幼さと未熟さが残っていて、シンセを多用した坂本のアレンジで歌いこなすには少し役不足だったような感は否めない。現在のような深みと創造性のある声になるなど、当時は全く想像できなかっただろう。

他の曲もそんな感じであるが、原田が作詞した「リセエンヌ」(作曲編曲 坂本龍一)B面1曲目は、17歳の心情が偽りなく素直に語られていて、本音っぽく歌う原田とそれに寄り添う坂本の伴奏がとてもいい感じ。また「クララ気分」(作詞 来生えつこ 作曲 南佳孝 編曲 坂本龍一)B面2曲目は歌唱と伴奏が自然な感じで噛み合っていて悪くない。そしてアルバム中唯一坂本の編曲でない「天国にいちばん近い島」(作詞 康珍化 作曲 林哲司 編曲 萩田光雄)B面3曲目を聴くと、一番(当時の)彼女らしいなあと思ってしまう。

なお当時はレコード以外にCDによる発売が始まった時期(CDの公式発売開始は1982年)で、そこにはシングル「天国にいちばん近い島」のB面だった「愛している」が追加収録された。当該CDは少数しか出回らなかったようで、現在中古市場で高値で取引されている。

大貫さんが17歳の女の子の心になりきって書いた曲。

[2024年4月作成]


  
ファム・ファタール  石川セリ  (1984)  Philips    

 

1. コロニー [作詞作曲 大貫妙子 編曲 かしぶち哲郎] A面2曲目

石川セリ: Vocal
福原まり: Piano
かしぶち哲郎: Keyboards(Probably), Producer
戸田誠司: Electric Guitar, Acoustic Guitar
矢口博康: Sax
武川雅寛: Trumpet
渡辺等: Acoustic Bass, Cello
友田真吾: Drums
美尾洋乃: Violin
大貫妙子: Chorus

1984年12月1日発売

1. Colony [Words & Music: Taeko Onuki, Arr: Tetsuro Kashibuchi] A-2 by Seri Ishikawa from the album "Femme Fatal" December 1, 1984

 
1981年の「星くずの街で」に続く石川セリへの楽曲提供。本作は7枚目のアルバムで、その後もう一枚出した後に1995年まで活動休止となる。プロデュースと全曲のアレンジ、および3曲を除く作詞・作曲をムーンライダースのかしぶち哲郎が担当。彼独特のヨーロッパの香り漂うアンニュイな世界観に満ちた作品となった。

大貫さんが作詞作曲した1.「コロニー」はフランスの香りがするワルツであるが、雰囲気的には本国でなく、フランス領の南の島が舞台のように思える。ストイックで閉鎖的な感じのラブソングで、大貫さんがそのまま歌っても違和感ない感じ。本アルバムは鈴木慶一を除くムーンライダースの連中がバックを担当しているが、この曲のみリアルフィッシュが演奏しているのが面白い。リアルフィッシュは腕利きのスタジオ・ミュージシャンにより結成された様々なジャンルの音楽をカバーする集団で、1980年代に数枚のインストアルバムを発表した。ここではバンドに武川雅寛のトランペットと、そして恐らくかしぶちがシンセサイザーで加わっているものと思われる。クラシカルでありながら何処かニューウェイヴで無国籍なムードが漂う不思議な音楽に、エキゾチックな石川の歌声が奇妙にマッチしている。曲の後半から大貫さんの声がバックで聞こえるのも美味しい。

他の曲について。「Noel」(作詞作曲 かしぶち哲郎 フランス語訳詩 床鍋剛彦)A面1曲目はフランス語による歌唱で、最初から彼方の世界に誘ってくれる。かしぶちの曲ではシングルカットされた「キ・サ・ラ恋人」A面6曲目が独特なムードがあっていい感じ。安井かずみ作詞、加藤和彦作曲による「ジャングル」B面1曲目は、同じ世界にありながら他とは異なる曲調により異彩を放っている。「永遠の誓い」B面3曲目は、かしぶちの歌詞に坂本龍一が曲を付けていて、彼の作品群のなかではストイックな作風に分類される。「Martine マルチネ (雨燕)」(作詞作曲 かしぶち哲郎)は不思議なムードのボサノヴァで、一度聴いたら忘れがたい印象を残す曲。

あまりに特異過ぎて一般的には売れなかったが、トータル性のあるアルバムとしての評価は高く、ファンの間では名盤とされている作品。大貫さんの作品もとても良い出来。

[2024年6月作成]


Secret  石川秀美  (1984)  RVC   

 

1. ロマンチックハウス [作詞 Show 作曲 大貫妙子 編曲 清水信之] A面2曲目
2. スターデイト [作詞 鈴木博文 作曲 大貫妙子 編曲 清水信之] A面5曲目


石川秀美: Vocal


1984年12月5日発売

1. Romantic House [Words: Show, Music: Taeko Onuki, Arr: Nobuyuki Shimizu] A-2
2. Star Date [Words: Hirobumi Suzuki, Music: Taeko Onuki, Arr: Nobuyuki Shimizu] A-5
by Hidemi Ishikawa from the album "Secret" December 5, 1984

 
石川秀美(1966- )は愛知県出身で、中学生だった1981年に「西城秀樹の弟・妹募集オーディション」で選ばれ、翌年アイドル歌手としてデビューした。歌手、女優、タレント、ラジオ出演等で活躍したが、1990年にタレントの薬丸裕英と結婚して芸能界を引退。その後はテレビやYouTubeなどに時々姿を見せている。

アルバム「Secret」は5枚目のアルバムで、ロック色を強めていった時期にあたり、作家で大貫妙子、竜真知子、来生えつこ、鈴木博文、編曲者では清水信之、白井良明、鈴木茂、椎名和夫などといったシティポップ系の人たちが参加している。大貫さんの作品は2曲。1「ロマンチックハウス」 (作詞 Show 作曲 大貫妙子 編曲 清水信之)のShowは80年代のアイドル歌手に歌詞を書いた人であるが、インターネットには本名などのプロフィールは見つからなかった。2「スターデイト」(作詞 鈴木博文 作曲 大貫妙子 編曲 清水信之) の鈴木博文はムーンライダースのベース奏者で、大貫さんと彼のコラボはこの曲だけだ。両曲とも歌詞はアイドル向けのキラキラ感溢れる内容で、大貫さんの曲もそれに合わせて陰影が少なくからっとしている。清水信之のアレンジはいつも通りギターとシンセサイザー中心のサウンドであるが、ロック色が強いアルバムの中ではおとなしい感じだ。

他の曲では、ムーンライダースの3人が作ったシンセポップ 「朝にさよなら」(作詞 鈴木博文 作曲 岡田徹 編曲 白井良明)B面2曲目が、アルバムの本流とは異なるが良い出来。ロック調の曲では「サレンダー」(作詞 園部和範 作曲 小田雄一郎 編曲 鈴木茂)B面3曲目が切れ味の良さで群を抜いている。全体的に感じる点として、石川は声質、歌唱力、表現力全ての点でアイドル歌手の平均を上回っており、そういう意味で優等生的なんだけど、いい意味でのアクやクセの強さがなく、歌い手としてのオーラに欠ける感がある。そのため、バリエーションに富んだ人たちが作詞・作曲・編曲に携わっているにも拘わらず、サウンド自体は悪くないんだけど、曲毎の個性が立っていないため、みな同じように聞こえるけらいがある。

大貫さんの作品としては、大人しめかな。

[2024年5月作成]


 
1985年  「コパン」 (1985/6/21発売)の頃   
best ~生まれた時から~ 掘ちえみ  (1985)  Canyon
 

1. ノスタルジー今昔 (イメージ・オブ・伊勢物語) [作詞 吉沢久美子 作曲 大貫妙子 編曲 清水信之] A面1曲目

堀ちえみ: Vocal

1985年3月5日発売

1. Nostalgia Konjyaku - Image Of Ise-Monogatari (Nostalgia Past And Present - The Image Of Ise Story) [Words: Kumiko Yoshizawa, Muric: Taeko Onuki, Arr: Nobuyuki Shimizu] A-1 by Chiemi Hori from the album "best -Since I Was Born-" March 5, 1985

堀ちえみ(1967- )は大阪府出身。1981年のホリプロタレントスカウトキャラバンで優勝し、1982年にアイドル歌手としてデビューした。1983年のテレビドラマ「スチュワーデス物語」の主演で人気が盛り上がり歌手・女優として活躍したが、1987年に引退してアイドルを卒業した。その後芸能活動を再開し、3回の結婚で7人の子供の母親(うち2人は夫の連れ子)となった。2019年にがん発病を発表、治療と転移を繰り返しながら病魔と闘い、その体験を精力的に発信している。以上から彼女の生命力の強さがうかがえる。

アイドル歌手時代に21枚のシングルと11枚のアルバムを発表。1985年に発売された2枚組LPのベスト盤「best~生まれた時~」は、それまでに発売された13枚のシングルA面とアルバム収録曲の他に、おそらく本作のために録音された2曲が収録された。その2曲のうちのひとつが1.「ノスタルジー今昔(イメージ・オブ・伊勢物語)」だ。平安時代の「伊勢物語」のイメージという副題の通り、古風な習慣や恋愛感情を散りばめた歌詞に対して、大貫さんは明るくポップなメロディーを当て、清水信之が軽快なテクノアレンジを施すことにより、新鮮な魅力がある曲に仕上がっている。当該ベスト盤の価値を高めるために制作されたことがよくわかる曲だ。

なお本曲は、2023年に発売されたCD13枚+DVD1枚からなる「40周年アニバーサリー CD/DVD Box」のDisc-11「ベスト・アルバム初出未発表曲+おしゃべりカセット」に収められてた。

[2024年6月作成]


  
The 9th Wave  松田聖子  (1985)  CBS Sony  

 

1. ティーン・エイジ [作詞 吉田美奈子 作曲 大貫妙子 編曲 大村雅朗] B面4曲目

松田聖子: Vocal
松武秀樹: Synthesizer Programming
富樫春生: Keyboards
松原正樹: Electric Guitar
島村英治: Drums
木戸泰弘: Chorus

1985年6月5日発売

1. Teen Age [Words: Minako Yoshida, Music: Taeko Onuki, Arr: Masaaki Omura] B-4 by Seiko Matsuda from the album "The 9th Wave" June 5, 1985

 
私は松田聖子を「聴かず嫌い」していたが、大貫さんの提供曲があるということで初めて本気で聴いてみた。なかなかいいね!というのが第一印象だ。強いオーラを感じさせる歌唱、滑舌の良さにより歌詞の内容がはっきり伝わってくるし、内容に応じた微妙な歌い回しも上手い。彼女がアイドル歌手の頂点であるという理由が分かったような気がした。

本作は11枚目のアルバム。その時彼女は23歳で、発売年には郷ひろみとの破局(1月)、神田正輝との婚約(4月)、結婚(6月)という大きな出来事があり、本アルバム発表後は妊活・出産のためしばらく芸能活動を休止することになる。夏を舞台に芯の強い女性の内面を描いた内容の作品で、八神純子の「みずいろの雨」1978の編曲で認められ、松田聖子のデビュー当時から編曲を担当した大村泰朗(1951-1997 46歳で病没)が全曲につき編曲を担当している。大半の曲で、松武秀樹のプログラミングによるシンセサイザーの打ち込みが多用されていて、シンセポップ・サウンドとなっているが、各曲の作詞・作曲の素晴らしさと松田の強力な歌唱力のため、今聴いても古臭い感じがしないのが凄い。

大貫さんが作曲した「ティーン・エイジ」は、作詞の吉田美奈子との唯一の共作曲だ。ということで期待大なのだが、実際聴いてみるとアルバムのメインストリームではなく、口直し的な存在の曲のように思える。軽快で飛ばし感がある曲が多い中で、シンセポップのアレンジでありながら、どこか透明感があるのが面白く、それなりの存在感を放っている。大貫さん独特のメロディー・ラインもしっかり出ているね。という意味で単独よりも、アルバムを通して聴くことによって、その良さが分かる曲だと思う。

他の曲では、尾崎亜美の作品(作詞作曲)が断然押している。シングルカットされた「ボーイの季節」A面3曲目、「天使のウィンク」B面3曲目、歌詞の一節がアルバム・タイトルになったラスト・ソング「夏の幻影」B面5曲目だ。尾崎の作曲家としての力量がよくわかる作品群だ。また吉田美奈子が歌詞を書いたもう1曲「夏のジュエリー」(作曲 大村雅朗)も、どこまでもイマジネーションが拡がる歌詞とメロディーが素晴らしい。そしてアルバム・カラーを決定付ける冒頭曲「Vacansy」(作詞 銀色夏生 作曲 原田真二)は、海辺のリゾートにおける夏の景色が目の前に広がる名曲だ。

吉田美奈子との唯一の共作が楽しめる。

[2024年7月作成]


Anthurium = アンセリウム ~媚薬~ 小林麻美  (1985)  CBS Sony     

 

1. 幻惑 [作詞作曲 大貫妙子  編曲 井上鑑] A面1曲目
2. ひき潮 [作詞作曲 大貫妙子  編曲 井上鑑] A面5曲目


小林麻美: Vocal
井上鑑: Keyboards
今剛、松原正樹: Guitar
岡沢章、高水健司: Bass
山本秀夫、島村英二、青山純、Robert Brill: Drums
浜口茂外也、橋田正人(ペッカー): Percussion
浦田恵司、Akira Ishii、Takashi Fujii: Synthesizer Programming

注: 曲毎のパーソネルがないため、録音に参加した可能性のあるミュージシャン全員を表示

1985年7月1日発売

1. Genwaku (Dazzle) [Words & Music: Taeko Onuki, Arr: Akira Inoue] A-1
2. Hiki-Shio (Ebb Tide) [Words & Music: Taeko Onuki, Arr: Akira Inoue] A-5
by Asami Kobayashi from the album "Anthurium" July 11, 1985

 
小林麻美(1953- )は東京都大田区大森出身。スカウトされてモデルをやった後、1972年にアイドル歌手としてデビューしたが、明るさ無邪気さに欠けたため、あまり売れずに活動休止。その後はモデル、女優として頭角を現した。そして1984年に友人の松任谷由美等のサポートを受けて出したシングル、アルバムがヒットして、アンニュイなムードを漂わす大人の歌手としてのステータスを確立した。ただし歌手活動はレコードに限られ、歌番組への出演はせず、コンサートもほとんど行わなかった。レコードにおけるあの雰囲気をライブで再現する事が難しかったためじゃないかな?

本作は復帰後2枚目(デビューから5枚目)のアルバムで、10曲中半分につきクリスチャン・ホールというフランスのシンガー・アンド・ソングライターの曲に小林本人、松任谷由美、芹沢類、小林和子、有川正沙子が日本語詞を付けている。残りの5曲は、大貫さんの2曲以外に作詞が松任谷、小林、作曲が松任谷、編曲が夫君の松任谷正隆と井上鑑という面子。

大貫さんの曲 1.「幻惑」はアルバム「Signifie」1983収録曲のカバー。一番最初の録音である倉橋ルイ子による「さよならの微笑」1982 (「Heartbreak Theater」収録で、タイトルは異なるが曲は同じ)がリズムのないストリングスによる静止画像、坂本龍一アレンジによる大貫さんのバージョンがモノクロの動画だったのに対し、ここでは井上鑑アレンジの大胆なリズムによるカラフルな立体映像のイメージになっている。2.「ひき潮」はシンセザイザーによる分厚い演奏をバックに小林が歌っているが、大貫さん本人がリバーブを深めにかけて声の陰影を濃くして歌っているように聞こえる。

他の曲では、クリスチャン・ホール作の5曲が日本人作家とは異なる節回しでフランスの香りを放ち、ヨーロッパ色濃い井上鑑の編曲と呟くように歌う小林のボーカルが別世界を見せてくれる。「Love Sugar (L'Amour En Quarantaine)」(作詞作曲 Christian Hall 日本語詞 小林麻美)A面3曲目は本作の中では明るめの曲で異彩を放つ。「シフォンの囁き(Femme Dans Ma Vie)」 (作詞作曲 Christian Hall 日本語詞 松任谷由美)B面5曲目はフランスと松任谷の美意識が混じり合った新しい世界が見える曲で、張り詰めたような小林の歌声が誠に印象的。そして当時アルバム「Da・Di・Da」を出し1980年代後半からの全盛期を迎える少し前の松任谷由美作曲の曲が圧倒的な存在感を放っている。「幻の魚たち」(作詞作曲 松任谷由美)はボザノバ調のクールなサウンドで、小林の醒めた感じの気だるいボーカルが耳に残る。本作では「シフォン....」.とこの2曲のみ松任谷正隆のアレンジで、5月28日にシングル盤で先行発売されている。「金色のライオン」(作詞 小林麻美 作曲 松任谷由美)は、後から分かった事ではあるが、当時秘められた恋をしていた小林の心情が吐露されていて、松任谷作曲により鉄壁の作品に仕上がっている。「水晶の朝」(作詩 小林和子 作曲 松任谷由美)も松任谷らしいクールなメロディーが印象的な曲だ。

1984年の歌手復帰後の小林は、1987年までに4枚のアルバム、5枚のシングルを出した後、極秘出産を経て1991年田辺エージェンシー社長と17年越の恋を実らせて結婚。その後は完全に引退して家事と子育てに専念していたが、2016年にファッション誌などの記事で突如復帰、2020年に評伝を出版している。

アンニュイ感溢れる大貫さんの曲が楽しめる逸品で、松任谷由美の強力な作品と並んで、しっかり自分のカラーを出し切っている。

[2024年5月作成]


   
D404ME 中森明菜  (1985)  Reprise      
 

1. Endless [作詞 松本一起 作曲 大貫妙子 編曲 井上鑑] A面1曲目
2. マグネティック・ラヴ [作詞 EPO 作曲 大貫妙子 編曲 清水信之] B面2曲目

中森明菜: Vocal
井上鑑: Keyboards (1)
清水信之: Keyboards (2) Bass (2)
今剛: Electric Gutar (1)
佐橋佳幸: Electric Guitar (2)
高水健司: Bass (1)
山本英夫: Drums (1)
斉藤晴: Sax (1)
Jake H. Conception: Sax (2)
数原晋: Trumpet (2)
鈴木宏子、伊集加代子、和田夏代子: Chorus

1985年8月10日発売

1. Endless [Words: Kazuki Matsumoto, Music: Taeko Onuki, Arr: Akira Inoue] A-1
2. Magnetic Love [Words: EPO, Music: Taeko Onuki, Arr: Nobuyuki Shimizu] B-2
by Akina Nakamori from the album "D404ME" August 10, 1985

 
中森明菜(1965- 東京都出身)については説明不要。つい最近(2024年春)に公式YouTubeチャンネルより久しぶりの楽曲を発表したことで話題となっているが、本作は彼女20歳の時の作品で8枚目のアルバムとなる。タイトルはアルバムのストーリーにある倉庫番号とのことであるが、「だしおしみ」と読むこともできる。ベース、ドラムス、シンセサイザーの重低音を強調したユーロビートのブラック・ミュージックを意識したサウンドと存在感あるボーカルがうまくかみ合っている。アイドル歌手の中では別格といえる出来で、アルバムは大ヒットし、1985年第27回日本レコード大賞で優秀アルバム賞を受賞している。

1.「Endless」、2.「マグネティック・ラヴ」は大貫さんの作品の中ではソリッドなメロディーで、彼女らしくない曲調だけど、特に前者はアルバムの冒頭に配されたようにインパクトがある曲になっている。でもアルバム全体を貫く強力なビート感が曲の個性を塗りつぶしている感もあり、作者としてのカラーが希薄なのも事実。

他の曲ではウィシングを率いた松岡直也が作曲編曲を担当したラテンナンバー「ミ・アモーレ [Meu amor e・・・]」(作詞 康珍化)が秀逸。ここでは同年3月に発売されたシングル盤とは別録音の「Special Version」となっている。

大貫さんらしくないユーロビートの曲を聴くことができる。

[2024年6月作成]


Pavane 原田知世  (1985)  CBS Sony  
 

1. 紅茶派 [作詞作曲 大貫妙子 編曲 萩田光雄] A面4曲目

原田知世: Vocal
中西康晴、倉田信雄、大谷和夫: Keyboards
松原正樹、鳥山雄司: Electric Guitar
吉川忠英、安田裕美: Acoustic Guitar
高水健二、岡沢章、富倉安生、渡辺直樹: Bass
山木英雄、Takigi Hidenobu: Drums
山川恵子: Harp
ジョー加藤G、友田G: Strings

注: 曲毎のパーソネルがないため、アルバムA面の録音に参加したミュージシャン全員を表示

1985年11月28日発売


1. Koucha-Ha (Black Tea Lover) [Words & Music: Taeko Onuki, Arr: Mitsuo Hagita] A-3 by Tomoyo Harada from the album "Pavane" November 28, 1985

原田知世の誕生日に発売された3枚目のアルバムは、ルネサンスの肖像画を思わせるセピア色のポートレイト、中世の舞踏曲を意味するタイトルの通り、前作までのアイドルチックな内容と打って変わって優雅で気品あふれる作品に仕上がっている。彼女の声は、か細い感じが残っているが内面的に成長していることがはっきり分かるもので、トータル性を持たせた佳曲ぞろいの名盤となった。LPのA面「Water Side」は木、花、鳥や自然がテーマで、萩田光雄によるストリングスや生楽器を中心とした優しい編曲、一方B面「Light Side」は井上鑑編曲によるシティ・ポップ風のサウンドになっていて、大貫さんの曲は前者のほうに収められている。

粒ぞろいの曲の中でも、大貫さんの「紅茶派」はひときわ精彩を放っている。歌詞の中に「紅茶」を想起させる言葉はどこにも出てこないのに何故この曲名にしたのか最初は不思議だったが、聴き込む内にこの曲から立ち昇る「香り」である事がわかった。本アルバムには原田本人による収録曲のライナーノーツがついていて、素晴らしい内容なので以下のとおり引用したい。

「霧が立ちこめる朝、静かな森、まるでフランス映画のようです。そのイメージを大切に、心の中に風景を浮かべながら歌いました。この曲の歌入れの時には、スタジオが水を打ったように静かになります。ディレクターの吉田さんが「傑作だ」と大感動していました。今回も大貫妙子さんが(風邪にもかかわらず)歌い方を指導してくださいました。もちろん私も、大感激です」

その他の曲について。「水枕羽枕」(作詞 康珍化 作曲 山川恵津子)A面1曲目は、感性溢れる歌詞と瑞々しいメロディーで、残りの曲への期待が一気に膨らむ感じ。「早春物語」(作詞 康珍化 作曲 中崎英也)A面5曲目は、1985年7月リリースの7枚目シングル(同年9月公開の原田主演の同タイトルの映画の主題曲)の異なるアレンジによるもので、本アルバム・バージョンのほうがよりクラシカルなサウンドになっている。「夢七曜」(作詞 原田知世 作曲 水越恵子)A面6曲目は原田の作詞としては2番目の作品で、18歳の彼女の心情が素直に表現されている。B面「Light Side」では、「カトレア・ホテルは雨でした」(作詞 戸沢暢美 作詞 加藤和彦)B面1曲目の加藤らしい洒落たオリエンタル調の曲想が素晴らしい。「ハンカチとサングラス」(作詞 麻生圭子 作詞 Reimy)B面4曲目の作曲者Reimyは、松任谷由美・正隆夫妻のバックアップでデビューしたシンガー・ソングライターの麗美のこと。最後の曲「続けて」(作詞 佐藤ありす 作曲 大沢誉志幸)B面5曲目は前向きな気持ちの余韻が残る佳曲。

1「紅茶派」は原田を気に入っていた大貫さんが、彼女のイメージに合わせて決め打ちで作ったとのことであるが、二人の佇まいに共通点があるため、大貫さん本人が歌ったとしても全く問題がない曲だ。大貫さん初期の傑作と言っても過言ではないと思う。

[2024年5月作成]


沙穂   野崎沙穂  (1985)  For Life    
 

1. マイロストデイズ [作詞 竜真知子 作曲 大貫妙子 編曲 瀬尾一三]A面3曲目
2. シニカルな夜の片隅で [作詞 竜真知子 作曲 大貫妙子 編曲 瀬尾一三]A面5曲目


野崎沙穂: Vocal、Chorus
国吉良一、山田秀俊、富樫春生: Keyboards
大村憲司、今剛: Guitar
加藤和彦: 12st. Guitar
高水健司: Bass
林立夫: Drums
浜口茂外也、ペッカー: Percussion
加藤ストリングス: Strings
Eve: Chorus

加藤和彦: Producer

注: 曲毎のパーソネルがないため、アルバム録音に参加したミュージシャン全員を表示

1984年3月27日~1984年12月5日 録音
1985年発売

1. My Lost Days [Words: Machiko Ryu, Music: Taeko Onuki, Arr: Ichizo Seo] A-3
2. Cynical Na Yoru No Katasumi De (On The Corner Of The Cynical Night) [Words: Machiko Ryu, Music: Taeko Onuki, Arr: Ichizo Seo] A-5
by Saho Nozaki from the album "Saho" 1985

  
野崎沙穂は1985年から1988年の3年間に3枚のアルバムと4枚のシングルを出したが、あまり売れずに姿を消した。現在はウィキペディアにも掲載されず、インターネットの情報もないのでプロフィールは不明。現役時代にFM愛知でラジオパーソナリティーをしていたという情報から、当時愛知県に住んでいた人かもしれない。ということで現在は、作品とともにすっかり忘れ去られた感がある。

本作は彼女のデビュー作。8ヵ月という長い時間をかけて録音されたということで、歌のレッスンなどデビュー準備に相当な時間をかけたのだろう。プロデューサーは加藤和彦で、作詞が安井かずみ、竜真知子、秋元康、下田逸郎、作曲が大貫さん、加藤和彦、かしぶち哲郎、安部恭弘、井上陽水、編曲が瀬尾一三といったメンバー。後の作品と異なり、本作では本人は作詞作曲していない。

大貫さんが作曲した2曲はいずれも竜真知子の作詞で、1.「マイロストデイズ」は大貫さんとしては湿っぽい感じのメロディーで、本アルバムのそぼ降る雨のイメージに沿った内容の曲。一方 2.「シニカルな夜の片隅で」は、タイトル通りシニカルな内容の歌詞に気まぐれなメロディーを付けて、アルバムにおける口直しソングの役割を担っている。野崎は前者では丁寧に、後者ではややノンシャランとした感じで歌っている。加藤和彦がプロデューサーなので、ヨーロッパの香りが漂うが、ここでは瀬尾一三がアレンジを担当しているので、ストリングスを使いシンセサイザーの使用は控え目だ。

その他の曲では、「土曜の夜はひとりにしないで」A面1曲目、「7時ジャスト 家に来て」B面1曲目、「白いペントハウス」B面3曲目の安井かずみ作詞、加藤和彦作曲の曲がいい。加藤がプロデューサーの作品にありがちな傾向で、これらの印象の強い曲がアルバムの芯になり、その分歌い手の個性・存在感が埋もれ気味になっているのも事実。安井かずみ作詞の「エアメール・ブルー」A面2曲目は、井上陽水作曲ということで話題を呼びシングルカットされたが、彼のカラーが強すぎる感がある。意外に面白いのは下田逸郎作詞、かしぶち哲郎作曲の2曲「雨の遊園地」B面2曲目、「まどろみの午後」B面3曲目で、かしぶちの独特の世界が味わえる。秋元康が詞を書いた2曲「サルトルで眠れない」(作曲 大村憲司)A面4曲目、「雨の夜にはワインを...」(作曲 安部恭弘)B面5曲目は、歌詞の面白さで聴かせる曲。

野崎は自作「Single Girl」1986で、ジャクソン・ブラウン等と仕事をしたアメリカのアレンジャー、マーク・ゴールデンバーグを迎えて、少しニューウェーブ調なサウンド作りを狙い、最後のアルバム「Sympathy」1988は、ソウル、ファンクっぽいサウンドに挑戦したり、デビー・ギブソン1988年の全米1位ヒット曲「Foolish Beat」の日本語訳カバーでテレビドラマ「太陽の犬」の主題歌になった「眠れぬ夜を過ぎて」が入っている。

「Single Girl」収録曲からシングルカットされた「淋しいラッキーガール」1986のプロモーション動画を観たが、代々木の街中で歌う彼女は緊張して固まっているのが見え見えで、時折見せる笑みも引きつった感じ。そのひたむきで誠実な感じは好感がもてますが....。またライブで彼女が歌っている動画がない事から、テレビ番組への出演など苦手だったんじゃないかな?芸能界は肌に合わなかったようで、「Sympathy」のアレンジを担当した小林信吾 (1958-2020) と1989年に結婚して引退した。その後は表に出ず消息が途絶えたが、2016年に愛知県のラジオ番組にゲスト出演した記録が残っている。

大貫さんの提供曲のなかではレア度の高い作品。

[2024年4月作成]


1986年  「Comin' Soon」 (1986/3/21発売)の頃  
峠のわが家  矢野顕子 (1986)  MIDI
 


1. 海と少年 [作詞作曲 大貫妙子 編曲 矢野顕子, 坂本龍一] B面1曲目

矢野顕子: Vocal, Back Chorus, Producer
坂本龍一: Keyboards
Eddie Martinez, 松原正樹: Guitar
Steve Ferrone: Drums

1986年2月21日発売

1. Umi To Shonen (The Sea And The Boy) [Words & Music: Taeko Onuki, Arr: Akiko Yano, Ryuichi Sakamoto] B-1 by Akiko Yano from the album "Touge No Wagaya (My Home On The Mountain Pass) " Febuary 21, 1986

「峠のわが家」は矢野顕子9枚目のアルバムで、テクノポップの流れをくむ曲は2曲と少なくなった。そして夫君の坂本龍一がアレンジ(全曲につき矢野と坂本による編曲)・演奏面で全面的に関与して、西洋のミュージシャンをバックにジャズとシンセ音楽を融合させた新しい音楽を創り上げている。

「海と少年」は大貫さんのアルバム「Mignonne (ミニヨン)」1978に収録されていた曲のカバーで、矢野が「ただいま」1981で取り上げた大貫さんの曲は実験的な音楽だったため、彼女が大貫さんの曲を取り上げるのは実質的に本作が初めてとなる。同じ坂本龍一がアレンジしたオリジナルの軽やかさに対し、ここではヘビーなリズムとリズミカルなボーカルによるグルーヴを強調した音作りになっている。スティーヴ・フェローンは、アベレイジ・ホワイト・バンドやトム・ペティ・アンド・ザ・ハートブレイカーズの他、多くのセッションに参加したイギリス出身のドラム奏者。エディー・マルチネスはデビッド・リー・ロス、ミック・ジャガー、ロバート・パルマー等の録音に参加したセッション・ギタリストだ。クレジットによると、ここで彼女はピアノを弾いていない。面白いのは、オリジナルと同じ松原正樹がギターで参加していることで、同窓会的な狙いだったのかな?矢野は比較的知名度の低い曲をカバーしてその評価を高めることに長けた人で、本曲も再評価されて、後に多くのミュージシャンがカバーしている。

他の曲では高橋幸宏、大村憲司が参加した「David」(作詞作曲 矢野顕子)A面2曲目が良い。後にテレビドラマ「やっぱり猫が好き」1988-1989のテーマ曲となり、1990年にシングルカットされたファンの間でも人気の高い作品。 「ちいさい秋みつけた」はご存知サトウハチロー作の童謡であるが、ここではメロディーをかなりデフォルメして自由自在なジャズ・スタイルで迫っている。藤冨保男の現代詩に矢野が曲をつけた「一分間」は、ドラムスがスティーヴ・ガッド、ベースがエディー・ゴメスという鉄壁のリズムセクションで、短い演奏時間ながら緊張感あふれるインタープレイが素晴らしい。「犬は腕組みをしている」という1節には笑っちゃうね!「夏の終わり」(作詞作曲 小田和正)B面1曲目は、オフコース1978年の曲(アルバム「Fairway」収録)のカバーで、これも原曲とはかなり異なるアレンジがされている。

なお2013年に本作がリマスタリングされて再発され、その際6曲からなるボーナス・ディスクが付けられ、その中には「海と少年(Out Take_10)」が含まれていたが、私が聴いた限りではギターソロも含めて同じ演奏だった。ここでの「Out Take」は異なる録音による演奏違いという意味ではなく、リミックスの事を指しているのだろう。

本作発表後、矢野は育児のための休業に入り、1990年に家族で米国に移住して新しい音楽への探求を続けてゆくことになる。

グルーヴィーなアレンジによる「海と少年」の逸品。

[2024年7月作成]


  
ヴィーナス誕生  岡田有希子 (1986)  Canyon 

 

1. Spring Accident [作詞 EPO 作曲 大貫妙子 編曲 かしぶち哲郎] A面4曲目

岡田有希子: Vocal
西平彰, 丸尾めぐみ, 岡田徹: Keyboards
岩倉健二, 白井良明, 鈴木智文: Guitar
奈良敏博: Bass
かしぶち哲郎: Drums, Arranger
矢口博康: Sax
森達彦, 土岐幸男, 深沢順: Synthesizer Programming
桐ケ谷仁, 桐ケ谷俊博, 白鳥英美子, 中山みさ, 木下伸司, 三井一正: Chorus

注: 曲毎のパーソネルがないため、アルバム録音に参加したミュージシャン全員を表示

1986年3月21日発売

1. Spring Accident [Words: EPO, Music: Taeko Onuki, Arr: Tetsuro Kashibuchi] A-4 by Yukiko Okada from the album "Venus Tanjo (The Birth Of Venus)" March 21, 1986

お断り: 本記事では岡田有希子の死についての記述は最小限にします。

岡田有希子(1967-1986 本名 佐藤佳代 愛知県出身)4枚目のアルバムで、彼女の死(4月8日)の約2週間前に発売されたもの。前作までは松任谷正隆のアレンジや竹内まりやの曲が多かったが、本作ではムーンライダースのかしぶち哲郎が全曲のアレンジを担当。作詞が EPO、Seiko (松田聖子)、前川由佳、高橋修、かしぶち哲郎、麻生圭子、作曲がかしぶち哲郎、坂本龍一、大貫妙子、三井一正、木下伸司、飛澤宏元といった面子だった。1984年に17歳でレコードデビューした岡田は、1986年までの2年間に4枚のアルバムを制作し、その間にアルバム・タイトル「シンデレラ→妖精→人魚→ヴィーナス」の変遷にあるように、少女から大人への成長がイメージ付けられており、本作では従来よりもセクシーな写真や歌詞が使われた。本作録音時の取材に基づいた雑誌・写真集「The Making Of ヴィーナス誕生」における彼女の言葉で、「佐藤さん、スタジオで」と本名で声をかけられた彼女は、「佐藤佳代は歌いません。岡田有希子が歌います」と答えるあたり、彼女がアイドル歌手としての自分と本来の自分を使い分けていたことがわかる。事務所の戦略により作られたスターのイメージと超ハードなスケジュールの中で、本来の姿とのギャップに悩んでいた様が見て取れるが、レコードを聴く限りにおいては、そんな想いは全く感じられず、達者な歌唱力でファンタスティックな世界を築きあげている。ただし、ここで気になるのは本人の頑張り屋の気質と、歌声から感じられる繊細・誠実な感性だ。

大貫さんが作曲した1「Spring Accident」は、麻生圭子の作詞による別れの歌。ドラム奏者がアレンジャーなだけあって、かなり凝ったリズムが付けられていて、メロディーと相まって大貫さんの提供曲群のなかでも面白い仕上がりになっている。イントロにおけるサックスが印象的。

他の曲について。「Wonder Trip Lover」(作詞 EPO 作曲 坂本龍一)A面1曲目はかなり坂本チックな曲で、岡田のレパートリーとしては大胆なサウンド。彼は1988年のアルバム「未来派野郎」で、矢野顕子作詞、ピーター・バラカン英訳により「Ballet Mecanique」というタイトルでセルフカバーしている。そして1999年には、中谷美紀が坂本のプロデュースのもと歌詞を書いて「クロニック・ラブ」としてカバーした(アルバム「私生活」収録)。休業中の松田聖子が「Seiko」というペンネームで歌詞を書いた「愛...Illusion」(作曲 飛澤宏元)A面2曲目、「くちびるNetwork」(作曲 坂本龍一)B面2曲目は、大人っぽい内容の歌詞を岡田は一生懸命歌っているが、松田聖子っぽいかな。いずれも軽快なテクノポップ・アレンジで、後者は1月に先行シングルカットされ、彼女最大のヒット曲となった。タイトル曲「ヴィーナス誕生」(作詞 前川由佳 作曲 木下伸二)もアイドル歌謡の王道を行くワクワク・ソング。その他かしぶち哲郎が作った曲も彼独特の雰囲気が織り込まれて面白く、アルバム全体としてとても良い出来だと思う。

当時岡田はプライベートと仕事の両面で大きなストレスを抱えていたと思われるが、死の真相については「藪の中」だ。

[2024年7月作成]


 
花のイマージュ/秘密のシンフォニー  岡田有希子 (1986)  Canyon  




 

1. 秘密のシンフォニー [作詞 麻生圭子 作曲 大貫妙子 編曲 かしぶち哲郎] シングルB面

岡田有希子: Vocal

写真上: シングル「花のイマージュ」 1986年5月14日発売予定 (本人死去により発売中止)
写真下: 「Memorial Box」 1999年3月17日発売 Disk 4 2nd track

1. Himitsu No Symphony (The Secret Symphony) [Words: Keiko Aso, Music: Taeko Onuki, Arr: Tetsuro Kashibuchi] by Akiko Okada from B-side of the single "Hana No Image (Image Of The Flower" May 14,1986 (unreleased due to her death). Later from the box-set album "Memorial Box" March 17, 1999.  
「ヴィーナス誕生」と同時期に録音されたものと思われるが、アルバムには収録されず、約2ヵ月後の5月14日に発売予定だったが、4月8日の急死により発売中止となったシングル。その後も長らく未発表だったが、ファンによるリリースの要望も多く、約13年後の1999年発売のボックスセット「Memorial Box」にDisk 4 (Unreleased Single) として収録された。

1.「秘密のシンフォニー」は波打ち際での愛のやりとりを描いた麻生圭子の歌詞がとても良く、それにクラシカルなメロディーを付けた大貫さんも秀逸。シングル盤のB面にするにはもったいない佳曲だけど、ヒット曲になるには少し地味かな。構成上「メモリアル・ボックス」の最後の曲になったが、それに相応しい曲と言えよう。

A面の「花のイマージュ」(作詞作曲編曲 かしぶち哲郎)は軽快な曲で、作者のかしぶちにとってヒットを狙える大きなチャンスだったはずだが、発売中止という不幸な結果になってしまった。

発売中止後、約13年経ってから正式発表された曲。

[2024年7月作成]

[2024年7月追記]
2024年8月22日に発売される「7インチシングル・コンプリートBox」に、未発表となった「花のイマージュ」がオリジナル・ジャケットで含まれています。なお9枚のシングル盤は異なる色のクリアカラーヴァイナルで制作され、「花のイマージュ」はジャケットと同じピンク色になっています。


みんなのうた コロは屋根のうえ~ありがとう・さよなら Various Artists (忍足敦子)(1986) Ponny Canyon  

 
 
1. コロは屋根のうえ [作詞作曲 大貫妙子 編曲 神林早人] 1曲目

忍足敦子: Vocal

1986年6月21日発売

1. Koro Wa Yane No Ue (Koro's On The Roof) [Words & Music: Taeko Onuki, Arr: Hayato Kanbayashi] 1st track by Atsuko Oshitari from the album of various artists "Minna No Uta Koro Ha Yane No Ue - Arigatou Sayonara (NHK Everybody's Songs Koro's On The Roof - Thank You Goodbye)" June 21, 1986
 
「コロは屋根のうえ」は、「みずうみ」1983、「メトロポリタン美術館」1984に続く大貫さん三作目の「NHKみんなのうた」で、初回放送は1986年12月~1987年1月。大貫さんが歌ったオリジナル録音は、1991年6月に発売されたベスト・アルバム「Pure Drops」に収められている。子供向けの歌でありながら、大人も楽しめるファンタスティックな歌詞とメロディーを持った曲だ。当時「NHKみんなのうた」曲集が多くのレコード会社から発売されたが、契約の関係でオリジナル録音を使えない場合、別の歌い手により録音したものを使うのが通例だった。ポニーキャニオンが制作した本作では童謡歌手の忍足敦子が歌っている。

忍足敦子は東京都出身。学生の頃は保育を学びながらロックバンドで歌っていたが、卒業後幼稚園にしばらく勤務。チャンスを得て女性ロックバンド「Spica」のボーカリストとしてプロデビューし、1984年にアルバムとシングル各1枚を出したが解散。その後はフリーの童謡歌手として数多くの歌を録音し声優の仕事もした。映画「グリーン・レクイエム」1988 (音楽 久石譲 サウンドトラック盤は未発売)の主題歌・挿入歌は一部のファンの間で評価が高い。一方幼児教育の分野に引き続き携わり、子供向けの歌の教室やお母さん・高齢者コーラスの指導も行っている。

ここでは大貫さんのオリジナルよりキーを下げて丁寧に歌っている。伴奏について細かな音使いは違いながらも原曲の雰囲気を再現している。

「コロは屋根のうえ」のこの手のカバーは、他に古川葉子1990 (アポロン音楽工業)、橋本潮(日本コロンビア) 1987がある。なお一般のカバーでは2008年発売の大貫妙子カバー集「Oto no Bouquet」収録のMarasica(上机さくら ボーカルと白山詠美子 ピアノの二人組ユニット)によるバージョンがある。

[2024年7月作成]


 
子猫物語/ 同 (Instrumental Version) 吉永敬子 映画「子猫物語」主題歌 (1986)   Canyon  

 

 
1. 子猫物語 [作詞 大貫妙子 作曲 坂本龍一  編曲 坂本龍一、野見祐二] シングルA面

吉永敬子: Vocal


写真上: シングル盤表紙 (1986年7月5日 Canyonから発売)
写真下: 子猫物語 オリジナル・サウンドトラック盤表紙 (1986年 Midi Inc.から発売 )


1. Koneko Monogatari (The Kitten Story) [Words: Taeko Onuki, Music: Ryuichi Sakamoto, Arr: Ryuichi Sakamoto, Yuji Nomi] Single A-Side From Single "Koneko Monogatari" (The Theme Song Of The Movie "The Adventures Of Chatran") July 5, 1986

「ムツゴロウさん」こと畑正憲監督・脚本の映画「子猫物語」(1986年公開)は大ヒットし同年の邦画配給収入1位を記録、海外にも輸出されアメリカでは「The Adventure Of Chatran」というタイトルでかなりの興行成績を収めた。北海道の雄大な自然の四季を舞台に、茶トラの子猫チャトランが乗った木箱が川に流され、それと追ってきた友だちのパグの子犬プー助と彷徨いながら成長してゆくストーリー。クマ、馬、牛、鹿、キツネ、ブタ、アライグマ、ふくろうなどの動物達が出演、シーンの合間に野生動物や四季の景色を織り込んでいる。人間は一切登場せず、セリフもなく動物達の鳴き声のみ。その代わりに露木茂によるナレーションと小泉今日子による谷川俊太郎の詩の朗読が挿入される。動物の記録映画ではなくファンタジーであり、動物の演技というか「やらせ」による撮影で、チャトランがお花畑の中で彷徨ったり、深い穴に落ちたチャトランにプー助がロープを投げて引っ張り出して助けるシーン、出会った白猫と北海道の厳しい冬を越して子供が生まれる(熊じゃないんだから.......) など観ていると思わず笑ってしまう。市川崑が協力監督に入っており、しっかりとした照明・アングルで撮影されているため、画面はとても綺麗で、猫好きの人であれば、約90分の長丁場も楽しめるだろうといった感じ。

音楽プロデューサーが宮田茂樹、朝妻一郎、音楽監督が坂本龍一で、彼に加えて上野耕路、野見祐二、渡辺蕗子という若手作曲家を起用して、子供にもわかりやすい内容でありながら高度かつ流行の先端を行く音楽をクリエイトしている。最後のクレジット表示のシーンで流れるのが主題歌「子猫物語」。映画の随所に流れる坂本作曲のテーマ・メロディーに大貫さんが歌詞をつけたもので、シングルカットされた。坂本と一緒に編曲を担当している野見祐二は坂本の弟子みたいな人で、同じ1986年に坂本の監修で「おしゃれテレビ」というユニット名のセルフタイトル・アルバムを発表。それはテクノポップ・ファンからは名盤と言われている。本曲でボーカルを担当した吉永敬子は「おしゃれテレビ」で歌っていた人であるが、それ以外の活動記録はインターネット上では見つからず謎の存在。幼心を持った子猫の視点の世界で描かれるファンタスティックな歌詞が最高で、少し子供っぽく歌う吉永の声はピッタリ合っている。そして坂本はポップでわかりやすく明るいメロディーでありながら自分のカラーもしっかり出すことで素晴らしいテクノポップに仕上げており、大貫・YMOファン必聴の珠玉の作品だ。

なお映画のサウンドトラック・アルバムには、同曲と同じテーマ・メロディを使用して、変奏曲風に仕立てた坂本のインスト曲や、上述の作曲家達の作品が収めれれており、単なる映画用の音楽にとどまらない独立した作品として鑑賞に耐え得るクォリティーになっている。

畑正憲(1935-2023)は、動物学研究から出版社勤務を経て作家デビューした人で、1972年に移住先の北海道で「ムツゴロウ動物王国」を開園、そこを拠点として動物に関する幅広い活動を展開し、数多くの著書、テレビ番組を生み出した。本映画の1980年代が人気のピークだったようであるが、2004年に開園した「東京ムツゴロウ王国」の経営に失敗して3年間で閉演。かかえた借金を講演・著作活動で返済。北海道で動物達と生活しながら著作やYouTubeなどの発信を続けていたが、2010年代後半から体調を崩し、2023年に87歳で亡くなった。

大貫さん 提供曲のなかでも筆頭に挙げられる作品。

[2024年3月作成]


 
アヴァンチュリエ  風見りつ子  (1986)   東芝EMI   

 

1. 時おりヴァイオリンの音が [作詞 麻生圭子 作曲 大貫妙子 編曲 清水信之] A面3曲目
2. 女友だち -レイラの場合- [作詞 湯川れい子 作曲 大貫妙子 編曲 清水信之] A面5曲目
3. 黒のクレール [作詞作曲 大貫妙子 編曲 椎名和夫] B面4曲目

風見りつ子: Vocal


1986年8月22日発売

1. Tokiori Violin No Oto Ga (Sometimes The Sound Of Violin) [Words: Keiko Aso, Music: Taeko Onuki, Arr: Nobuyuki Shimizu] A-3
2. Onna Tomodachi - Layla No Baai- (Female Friend -In Case Of Layla) [Words: Reiko Yukawa, usic: Taeko Onuki, Arr: Nobuyuki Shimizu] A-5
3. Kuro No Claire (Black Claire) [Words & Music: Taeko Onuki, Arr: Kazuo Shiina] B-4
by Ritsuko Kazami from the album "Aventurier" August 22, 1986
 
風見りつ子(1961- ) は東京都出身で、大学生だった1980年から女優としてテレビドラマに出演した。そして歌手デビューは1985年の近田春夫作詞・作曲・編曲・プロデュースによるアルバム「Kiss Of Life」とシングル「炎のくちづけ」だった。本作は翌年発売の2枚目のアルバムで、前作がテクノポップ風であったのに対し、ヨーロッパ調のサウンドに挑戦している。2曲のみ本人の作詞で、その他は作詞が竜真知子、湯川れい子、麻生圭子、大貫妙子、作曲が大貫妙子、高橋幸宏、山川恵津子、奈良部匠平、編曲が清水信之、山川恵津子、岩倉健二、椎名和夫、あかのたちおといったメンバー。

大貫さんは3曲で参加。1.「時おりヴァオリンの音が」はバイオリンを弾く彼との別れを歌った歌詞で、大貫さんはシャンソン風のメロディーを付けている。清水信之は、(おそらく)シンセサイザーとストリングスの併用によるワルツのアレンジを施している。2.「女友だち -レイラの場合-」は大貫さんの「幻惑」1983の姉妹曲のような感じで、清水得意のシンセポップ全開アレンジがとても良い。3.「黒のクレール」はアルバム「Cliche」1981収録曲のカバーで、ここでは元ムーンライダースで山下達郎のバンドでギターを弾いていた椎名和夫がアレンジを担当。ラテンリズムが入り、よりポップでカラフルな感じの味付けで、エンディングのソプラノ・サックスソロが洗練されたムードを出している。風見のボーカルは歌唱力の高さを感じさせるが、歌い方や声が岩崎宏美に似ていて、アイデンティティーを出し切れていない感がある。

他の曲について。「幻の馬」(作詞 湯川れい子)A面1曲目は、当時女性編曲家として活躍した山川恵美子が作曲とアレンジを担当していて、フランス語が入った歌詞とマイナー調のメロディーが大変印象的な曲。「彼女と踊って」(作詞 竜真知子 作曲 高橋幸宏 編曲 岩倉健二)はラジが歌う曲と同じ雰囲気のシティ・ポップ。6.「仔猫の情事」(作詞 風見りつ子 作曲 山川恵津子 編曲 あかのたちお)A面6曲目は、この曲のみストリングスだけのアレンジによる歌詞・メロディーともに芳醇な感じな曲で、風見の作詞家としての力量が伺える。アルバム・タイトル曲の「アヴァンチュリエ」(作詞 麻生圭子 作曲編曲 山川恵津子)B面1曲目は、フランス語で「冒険者」、「危険を冒す者」の意味。1986年のドラマ「妻たちの危険な関係」(田村正和主演)のテーマソングに使用された。「French Beerをのみほして (プティ・シャ2)」(作詞 竜真知子 作曲編曲 山川恵津子)は、ボサノヴァ調のアンニュイな雰囲気漂う佳曲。総括すると本アルバムは、上述の通り歌い手の個性が弱いという問題はあるが、詩・曲・編曲・歌唱力のいずれも素晴らしいアルバムだと思う。

彼女が1985年から1987年までの間に出した3枚のアルバム、4枚のシングルは残念ながら当時はあまり売れず、1989年以降は引退したらしく活動記録が途絶えてしまう。現在の視点で先入観を排して聴くと古さが感じられず、近年の再評価の動きが妥当な作品群といえよう。

[2024年5月作成]


愛のモノローグ  Jennifer Connelly  (1986)  Eastworld (東芝EMI)  



 




1. 愛のモノローグ [作詞 橋本日出世 作曲 大貫妙子 編曲 門倉聡] シングルA面

Jennifer Connelly: Vocal (Monologue)

1986年発売

写真上: シングル盤表紙
写真中: テクニクス TVCM 
写真下:「Jennifer's Christmas」 1986年11月21日発売 表紙(A面1曲目に「愛のモノローグ」収録)


1. Ai No Monologue (Monologue Of Love) [Words: Hideyo Hashimoto, Music: Taeko Onuki, Arr: Satoshi Kadokura] by jennifer Connelly from Single A Side, 1986

 
ジェニファー・コネリー(1970- )はニューヨーク州生まれで、モデルを経て女優になり1984年に映画デビュー。その清楚な美貌によりアイドルとして日本での人気が沸騰した。その中でいくつかのテレビ・コマーシャルに出演、そのひとつがパナソニック株式会社のコンポーネント・ステレオ「Technincs インテリジェントコンポ CD710」で、当時16歳頃のジェニファーが日本語の歌詞を呟くように歌うシーンが流れる。15秒と30秒のふたつのバージョンがあり、前者は白黒のみ、後者は曲の最中に白黒からカラーに切り替わり、いずれも最後に「コンポに『電話』がつきました」というテロップが流れる(「コンポに電話」とはどういう意味なんだろう?)。このCMとのタイアップで制作されたのが、本作「愛のモノローグ」シングル盤だ。

作詞の橋本日出世はテレビ・コマーシャルのディレクターで、本作以外で詩作の記録はなかったので、CM制作にあたり考えた「うつくしく きこえるのは あいしているから」というキャッチフレーズを膨らましたものと思われる。ストリングス、木管楽器、ハープによるクラシカルなバックにジェニファーが歌う(呟く)様は、心を込めてというよりも記号を読み上げているような感じ。しかしこの硬質な発声が大貫さんのメロディーと歌詞に不思議とマッチしていて、クリスタルのような透明感をもって独特な世界を創り上げている。出来上がった雰囲気は大貫さんの「カイエ」1984に近い雰囲気となった。なおシングル盤のB面は彼女のコメント、ナレーションによる「愛のメッセージ」。

そして同じ年の11月に同曲を収めたミニアルバム「Jennifer's Christmas」が発売された。収録曲は以下の通り。

A面
~プロローグ~
  クリスマスを祝うジェニファーのコメント。
1. 愛のメッセージ  
  シングル盤と同じ。曲が終わった後に、マンハッタン・ソーホーのギャラリーについてのコメント。
2. ジェニファーの夢(作曲編曲 中西俊博): 中西グループによるインストルメンタル
  ピアノ、バイオリン、ストリングスによるセンチメンタルなサウンド。

B面
~メッセージ~
  「なにか新しいことに挑戦したい」という彼女の抱負
3. イブの一日(作曲 中西俊博 編曲 松下誠、中西俊博): 中西グループによるインストルメンタル
 ストリングス、バイオリン、トランペット、キーボード、ドラムス、ベースによるバート・バカラック調の曲。
~エピローグ~
  好きな古今の俳優・歌手・音楽の列挙と、ファンへの感謝の言葉。

33回転レコードで、ハート型の変則シェイプと雪を思わせる白色ビニールが特徴。本レコードでの彼女は台本なしで思いつくまま語っているようだ。バイオリンの中西俊博は、後に「Pure Acoustic」1987、「Purissima」1988、NHK総合テレビ「サマーナイトミュージック」1988 (同映像は2016年の「大貫妙子ソロデビュー40周年Boxパラレルワールド」に収録)、「New Moon」1999に参加している。その後のジェニファーは、ヌードシーンを伴う映画等に出演して体当たり演技を見せるが低迷。しかし演技派女優としての評判を高め、2001年ラッセル・クロウ主演の「Beautiful Mind」の奥さん役でアカデミー助演賞を受賞した。

アメリカの女優が呟くように歌うという特異なシチュエーションの中で、特異な雰囲気を持つ作品となった。

[2024年4月作成]


 
NHKみんなのうた大全集2  Various Artists (吉田美智子) (1986) Pony Canyon   
 

1. メトロポリタン美術館 [作詞作曲 大貫妙子 編曲 赤坂東児] 20曲目


吉田美智子: Vocal

1986年11月26日 ポニーキャニオンより発売

1. Metropolitan Museum [Words & Music: Taeko Onuki, Arr: Touji Akasama] 20th
sung by Michiko Yoshida (in various artists) from the album "NHK Minna No Uta Daizenshu" 1986

 
大貫さんの「メトロポリタン美術館」は 1984年4月~5月にNHKテレビ「みんなのうた」で初回放送された。清水信之編曲による大貫さんの録音は、1984年5月21日発売のシングル「宇宙みつけた」のB面としてディアハート(RVC) レーベルから発売され、1986年3月21日発売のアルバム「Comin' Soon」に収められた。「みんなのうた」の中でも特に人気がある曲で、映像はその後も現在に至るまで頻繁に再放送され、各レコード会社が発売した「みんなのうた」曲集にも収められている。その際契約の関係で大貫さんのオリジナルを使えない場合、別の歌い手により録音したものを使うのが通例で、そのため本曲は他のアーティストによるカバーに加えてこの手の別録音が多く存在することとなった。本件はその中でも最初のひとつで、ポニーキャニオンが制作したものだ。

吉田美智子は童謡作曲家、シンガーとして活躍した人で、「くらっぷ」、「うらいみさこ」の変名でも歌っているが詳しいプロフィールは不明。代表作は「NHKみんなのうた」の「アップルパップルプリンセス」、「ひらけポンキッキ」の「十二支のうた」、「あいうえ おほしさま」等。川村隆一「Love Is」1997 の作者でヴォイス・トレーナーとしても有名な人と同一人物か否かは不明。

吉田は童謡向けの子供っぽい声でお茶目に歌っている。バックのアレンジはほぼ同じ音使いであるが、シンセサイザーの代わりに木管楽器のファゴット(バスーン)が使われているのが特徴。なお本曲が収録されたアルバム「NHKみんなのうた大全集2」は2枚組LPレコードで発売された。

私が知る限り「メトロポリタン美術館」の最初のカバー。

[2024年6月作成]


1987年  「A Slice Of Life」 (1987/10/5発売)の頃 
Sunset Hills Hotel  (1987)  Imagination File (Columbia) 

 

1. 6:30 P.M. Breeze [作曲 大貫妙子 編曲 鈴木茂] A面4曲目

国吉良一、倉田信雄、富樫春夫、松任谷正隆: Keyboards
鈴木茂: Guitar, Keybords
今剛: Steel Guitar
吉川忠英: Ukulele (8 Strings)
数原晋: Trumpet
美久月千晴、高橋茂宏、岡崎章: Bass
上原豊、江口信夫: Drums

鈴木茂: Producer

1987年2月21日発売

お断り:曲毎のパーソネルがないので、参加の可能性がある人を全て列挙しています

1. 6:30 P.M. Breeze [Music: Taeko Onuki, Arr: Shigeru Suzuki] A-4
From "Sunset Hills Hotel" Produced by Shigeru Suzuki, Febuary 21, 1987


鈴木茂は1985年に最後のソロアルバムを出した後は、プロデューサー、アレンジャー、セッション・ギタリストに軸足を置いて活動した。そんな彼が1987年に携わった企画アルバムが「Sunset Hills Hotel」だ。アルバムタイトルに彼の名前は出ないが、プロデュース、大半のアレンジ、演奏に関わっているため、実質的に彼の作品と言ってよいだろう。写真家、エッセイストの細越麟太郎が1985年に出版した海外ホテルにおける日没をテーマとした同名の写真集に基づき制作されたアルバムで、すべてインストルメンタルの10曲中8曲のアレンジが鈴木で、残り2曲を加藤和彦と松任谷正隆が担当している。作曲者は、鈴木茂、松任谷正隆、加藤和彦、大貫妙子、伊藤銀次、南佳孝、吉川忠英、桐ケ谷仁、門あさ美、宮城伸一郎という錚々たる顔ぶれ。

大貫さんが曲を提供した1.「6:30 P.M. Breeze」は、そよ風を想わせるスローなテンポの曲で、今剛のペダル・スティール・ギター、吉川忠英のウクレレがトロピカルな雰囲気を醸し出している。気だるい感じのトランペットも入り、暑い夏の夕暮れの気分に浸らせてくれる。

全体的に1970年代後半から1980年代に「癒し系音楽」として流行したニューエイジ・ミュージック的なサウンド。導入曲「Night Flight」は、海外に向かうフライトの情景を描いた曲で、作曲・アレンジは鈴木だけど、ギターソロは彼っぽくない。弾きまくりの感じから、クレジットにあった和田アキラかな?波の音等から始まる南佳孝作曲「Cafe On The Wave」A面2曲目は、カリブ風サウンドに乗ってソプラノ・サックスが気持ち良さそうにソロをとっている。「Sweet Reservation」桐ケ谷仁作曲 A面3曲目は、シティホテルのイメージ。伊藤銀次の「West Beach Drive」A面5曲は、彼らしい軽快な運転気分の曲。

「Transit Airport」B面1曲目は加藤和彦作曲・編曲。本作の中では一風変わったサウンドで、口直し的な役割を演じている。門あさ美作曲の「Purple Rose Goodbye」B面2曲目で聞こえる、本田淳子とクレジットされているスキャット・ボイスはラジ(本名は相馬淳子で、本田は結婚後の姓)で、ムードたっぷりのサックスはジェイク H. コンセプションだ。吉川忠英作の「On The Second Honeymoon」B面3曲目は、ヴィブラフォンの響きによるアーサー・ライマンのようなエキゾチック・サウンドが素晴らしい。「Long Distance Call」B面4曲目の作曲者宮城伸一郎は、チューリップのベーシストのことかな?「Her Sunset Smile」B面5曲目は松任谷正隆作曲・編曲で、最後を飾るに相応しい静謐で透明感溢れる名曲だ。

なおLPレコードの発売と併行して、細越麟太郎の写真を映像としたレーザーディスク、ビデオも販売された。なお当該企画はシリーズもので、「Sunset Light Cocktail」1987、「Sunset Hotel Reservation Calender」1987、および続編として「Off Season/South Wing Sunset Hills Hotel」1989、「Off Season/North Wing Sunset Hills Hotel」1989が制作されている(ただし「Off Season」は各3曲を除き、1987年の3枚からの録音の使い回しで、「North Wing」には大貫さんの「6:30 P.M. Breeze」が入っている)。

疲れている時に聴くには絶好のアルバム。

[2024年2月作成]


Quiet Storm  和田加奈子 (1987)  Eastworld (東芝)  
 

1. ピンクのトウ・シューズ [作詞 安井かずみ 作曲 大貫妙子 編曲 清水靖晃] A面3曲目

和田加奈子: Vocal
加藤和彦: Guitar, Keyboards
国吉良一、清水康晃: Keyboards
高水健司、渡辺モリオ: Bass
青山純、高橋幸宏: Drums
浜口茂外也: Percussion
Itaru Sakota, Shinji Kanoh, Takashi Fujii: Programming

加藤和彦: Producer

お断り:曲毎のパーソネルがないので、参加の可能性がある人を全て列挙しています

1987年3月4日発売

1. Pink No Toe Shoes (Pink Toe Shoes) [Words: Kazumi Yasui, Music: Taeko Onuki, Arr: Yasuaki Shimizu) A-3 by Kanako Wada from the album "Quiet Storm" Mar 4, 1987

 
和田加奈子(1961- )は大阪府に生まれ兵庫県西宮市で育った。1985年11月にシングル盤、1986年2月にLPデビューし、1987年にアニメ番組「きまぐれオレンジ☆ロード」のエンディングテーマ曲「夏のミラージュ」1987年5月や挿入歌を歌ってブレイクする。 本作はその少し前の3月に発表された2枚目のアルバムで、加藤和彦のプロデュースによるコンセプト作品だ。彼のテイストが全面的に投影されることで、本来は力強い若々しさが持ち味の彼女の他の作品とは異色の、大人のムードが漂う歌詞・音作りによるアルバムとなっている。

しっとりした夜のムードの曲が並ぶA面「Martini Side」の中で、大貫さんが曲を付けた1.「ピンクのトウ・シューズ」のメロディーは、彼女のアルバム「A Slice Of Life」1987年10月発売 に入っていた「あなたに似た人」と同じものだった。同じ年の発表であるが7ヵ月の開きがあるので、本作が最初で大貫さんが別の歌詞を書いてセルフカバーしたという珍しいケース。大貫さんのバージョンが大村憲治によるソリッドなロックだったのに対し、ここではストリングス(シンセかもしれない)とバンドによるタンゴ調アレンジが施され、ヨーロッパ的な退廃の香りがする。和田の声はアイドル歌手よりも低めで、この手の曲の歌唱に合っている。

A面の編曲は全てジャズ・サックス奏者の清水靖晃によるもので、彼は後に映画やテレビ番組の作曲・編曲で活躍するようになる。「砂に書かれたドキュメント」(作詞 安井かずみ、作曲 清水康晃)A面1曲目、「風のOXYGEN」(作詞 安井かずみ、作曲 加藤和彦)A面2曲目はボサノヴァ風ジャズ・チューンで、気だるいボーカルとサックスが何ともいい感じ。「梨の形をしたBlue」(作詞 三浦徳子、作曲 清水康晃)A面4曲目 は歌詞の中に出てくる通り、キャサリン・ターナー主演の映画「白いドレスの女」1981にインスパイアされた危険な恋を歌った曲。ゴンチチが作曲した「琥珀の涙」(作詞 和田加奈子)A面5曲目は昔のスウィング・ジャズ風のムーディーな曲で、アルバムタイトルの「Quiet Storm」が歌詞に出てくる。情熱を押し殺したアンニュイな和田の声と全編でフィーチャーされる清水のサックスの響きが誠に印象的だ。

B面「Jin Tonic Side」は一転して光が差し込む様な明るいムードになる。冒頭の「シナモンとブラウン・シュガー」(作詞 安井かずみ、作曲編曲 加藤和彦)のこれまでの曲との対比が余りにも鮮やかで、続く曲の印象がかすれてしまうほどだ。加藤和彦の作品の中でも名曲に列する存在といえよう。和田本来の持ち味が発揮できる前向きなムードの曲で、弾けるような生気に溢れた歌唱も最高。高橋幸宏が作曲した「真昼のポーリーヌ」(作詞 三浦徳子、編曲 加藤和彦)は、シンセサイザーを多用したYMO路線的なアレンジで、他の曲と雰囲気が異なる口直し的存在。彼女のボーカルもコケティッシュな声色を使っていて面白い。

和田加奈子は、1990年までに7枚のアルバム、1991年までに11枚のシングルを出した後、結婚を機に引退したが、離婚後に第1子を連れてマイク真木と再婚した。2010年代以降は時々コンサートにゲスト出演して歌っているそうだ。

大貫さんの「あなたに似た人」を異なる歌詞、アレンジで楽しむことができる。

[2024年4月作成]

 
 
スタジオ・ロマンチスト  鈴木さえ子 (1987)  Dear Heart    
 

1. You're My Special [作詞 大貫妙子 作曲編曲 鈴木さえ子] A面2曲目

鈴木さえ子: Vocal, Synthesizer, Producer
Paul Carrack: Synthesizer
Alan Spenner: Bass
Andy Partridge, 鈴木慶一: Co-Producer

1987年6月21日発売

1. You're My Special [Words: Taeko Onuki, Music & Arr. Saeko Suzuki] A-2 by Saeko Suzuki frrom the album "Studio Romantist" June 21, 1987

 
鈴木さえ子(1957- 東京都出身 本名 鈴木左衛子)は1980年松尾清憲のバンド「シネマ」のメンバーとしてデビュー。 その後はソロ活動、セッション、CM音楽などで活躍した。シネマのアルバム・プロデューサーだった鈴木慶一と音楽ユニットを組んで活動し、1984年二人は結婚したが1991年に離婚。再婚・出産を経た後の音楽活動は、CM音楽や単発ゲスト等の限定的なものだったが、2004年テレビアニメ「ケロロ軍曹」の音楽担当の成功により、新たな活動分野を開拓している。彼女は1980年代に大貫さんのコンサートでドラムを叩き、アルバム「Coming Soon」1986 収録の「チェッカーくん」や羽仁美央の映像作品「アフリカ動物パズル」1987のサウンドトラック「お天気いい日」の録音セッションにFairlight CMI(シンセ・ドラム)、編曲(後者のみ)で参加している。「スタジオ・ロマンチスト」は4枚目のアルバムで、彼女自身がプロデューサーとなり、イギリスのバンドXTCのアンディ・パートリッジと夫君の鈴木慶一の共同プロデュースによりロンドンでレコーディングされた。

大貫さんが歌詞を提供した1.「You're My Special」は、おもちゃ箱をひっくり返したような歌詞・サウンドの曲が多いアルバムのなかで唯一、友情と愛情の微妙な関係を描いた情緒溢れる内容の歌だ。鈴木が好むニューウェイブ調のグルーヴィーなリズムとしっとりとした歌唱のアンバランスが面白い仕上がりになっている。鈴木のドラムは生演奏ではなく、シンセサイザーを使用しているものと思われる。ここでシンセサイザーを弾いているポール・キャラックは、イギリス人のキーボード奏者、シンガー、ソングライターで、ロクシー・ミュージック、エース、スクイーズ、マイク・アンド・メカニックスなどのグループで活躍、特にマイク・アンド・メカニックスの名曲「The Living Years」1988でのボーカルが有名な人だ。ベースのアラン・スペナーは数多くの録音に参加したセッションマンで、ジョー・コッカーやロクシー・ミュジック等の録音が名高い。

他の曲では、「Blow Up」(作曲編曲 鈴木さえ子)A面1曲目や「Happy End」(作詞作曲 鈴木さえ子 編曲 Psycho Perchies) B面2曲目等が面白い。なおPsycho Perchiesは、鈴木さえ子と鈴木慶一の音楽ユニットの名前で、Perchは魚のスズキの複数形、Psychoはさえ子をもじったもの。「Something In The Air」(作詞作曲 John Keene 編曲 Andy Patridge)は「Strawberry Fields Forever」のサンプリングを入れるなど、もろビートルズの傑作アレンジが聴きもの。

ドラム奏者の作品らしいグルーヴ感と色んなアイデアが一杯詰まったアルバムで、その中で唯一清楚なラブソングの大貫さんの曲が光っている。

[2024年6月作成]


彼と彼女のソネット/泣いているのは星屑 原田知世 (1987)  CBS Sony   
 





1. 彼と彼女のソネット(T'en va pas) [作詞 Regis Wargnier, Catherine Cohen 作曲 Romano Musumarra 日本語詞 大貫妙子 編曲 後藤次利] シングルA面

原田知世: Vocal
倉田信雄, 小林武史, 富樫春生: Keyboards
今剛: Guitar
後藤次利: Bass
山田英雄: Drums
迫田到, 藤井丈司: Synthesizer Operation

後藤次利: Producer

注: 曲毎のパーソネルがないため、アルバム録音に参加したミュージシャン全員を表示

写真上: シングル 1987年7月1日発売
写真中: アルバム「Schmatz」 1987年7月29日発売
写真下: エルザのシングル「悲しみのアダージョ(T'en va pas)」1986年

1. Kare To Kanojyo No Sonnet (T'en va pas) [Words: Regis Wargnier, Catherine Cohen, Music: Romano Musumarra, Japanese Lyrics: Taeko Onuki, Arr: Tugutoshi Goto] Single A-Side by Tomoyo Harada from single A-side July 1, 1987
 

フランスの歌手エルザが歌った「T'en va pas (邦題 哀しみのアダージョ)」1986に大貫妙子が日本語詞を付けたもので、「彼と彼女のソネット」というタイトルで原田知世のシングルが1987年7月1日に先行発売され、7月29日発売のアルバム「Schmatz」に収録された。なお大貫さんは同年10月5日発売のアルバム「A Slice Of Life」でセルフカバーしている。

エルザ(1973- 本名 Elasa Lunghini)は当時13歳で、映画「LaFemme de ma vie 邦題 悲しみのヴァイオリン」1986に子役として出演、監督が作詞した主題歌を歌ってフランスで8週間1位の大ヒットを記録した。妻と娘を捨てて去ろうとする父親に「T'en va pas (行かないで)」と懇願する内容の歌詞が誠に切ない歌だ。

大貫さんは日本語歌詞を作るにあたり、原曲とは全く異なる男女の別れを書いたため、「訳詞」ではなく「日本語歌詞」となった。大貫さんの歌詞のほうが原曲よりも遥かに深みがある内容になっていて、メロディーの素晴らしさと相まって名曲と呼ぶに相応しい出来上がりとなった。付けられた曲名「彼と彼女のソネット」の「ソネット」はイタリアの定型詩のこと。原田の声は現在のような深みはないが、デビュー当時よりも安定感が出てきて、心地良く聴くことができる。後藤次利のアレンジは、イントロのピアノは原曲とほぼ同じであるが、その後はシンセサイザーで重厚でリズミックなサウンドを打ち出している。原田が歌った歌詞は大貫さんの録音と若干異なり、2番目のサビの後、間奏の前に大貫さんのバージョンにはない歌詞「こんなに近くにいて あなたが遠のいて行く 足音を聞いている」が入っている。

大貫さんの日本語詞による本曲は、その後も数多くのアーティストによりカバーされている。そして原田自身は1994年2月18日発売のアルバム「カコ」に鈴木慶一アレンジによる同曲のフランス語バージョンを収録し、その後7月21日に出た同曲のシングル盤に同じバッキング・トラックを使用した日本語バージョンを収めている。

最後に原田のアルバム「Schmatz」1987について。アルバムタイトルはドイツ語で「幸せの音」を表す擬音語で、後藤次利プロデュース、全曲アレンジによるロンドン録音。シンセサイザーを多用したエレクトロ・ポップの音作りで、ドラムスやシンセが刻むビートもかなり激しい感じ。アルバムの最後に収められた「彼と彼女のソネット」が比較的大人しく聞こえる位だ。当時開催された「'87 Concert Tour "Schmatz"」の動画を観たが、コーラス隊と振り付けで踊る様が現在のイメージと異なっていて面白い。なおシングルB面の「泣いているのは星屑」(作詞 戸沢暢美 作曲 後藤次利)は「Schmatz」には未収録で、1998年発売の2枚組CD「ゴールデンJポップ ザ・ベスト」に収められた。

大貫さんの日本語歌詞による名曲。

[2024年5月作成]


  
星の涙  富沢聖子 (1987)  King    
 

1. 彼と彼女のソネット [作詞 Regis Wargnier, Catherine Cohen 作曲 Romano Musumarra 日本語詞 大貫妙子 編曲 若草恵] A面1曲目

富沢聖子: Vocal
島健, 大谷和夫: Keyboards
松原正樹: Electric Guitar
長岡道夫, 美久月千春: Bass
島村英二: Drums
石橋雅一: Oboe
Tomato Strings Group: Strings

注: 曲毎のパーソネルがないため、録音に参加したミュージシャン全員を表示

1987年8月21日発売

1. Kare To Kanojyo No Sonnet (T'en va pas) [Words: Regis Wargnier, Catherine Cohen, Music: Romano Musumarra, Japanese Lyrics: Taeko Onuki, Arr: Kei Wakagusa] A-1 by Seiko Tomisawa from the album "Hoshi No Namida (Tears Of The Star) " August 21, 1987
 
 
富沢聖子(1963- 東京都生まれ)については、インターネットに情報がなくプロフィールは不明。YouTubeにレコード音源以外のテレビ出演などの動画が一切ないという謎のシンガーだ。1983年クラウン・レコードからミニアルバム「メロディー・パレット」でデビューし、1987年までに4枚のアルバムと8枚のシングルを出したが、それ以降の消息は不明。1985年から1986年にかけて日本テレビなどで放送されたロボットSFアニメ「蒼き流星SPTレイズナー」のエンディング・テーマ、挿入歌を歌ったことでアニソン・シンガーとしても知られている。

「星の涙」1987は彼女最後のアルバムで、その冒頭に大貫さんが日本語詞を書いた1「彼と彼女のソネット」が入っている。原田知世のオリジナル・シングルが7月1日発売なので、その1ヵ月半後のカバーということになる。アレンジ面ではオーボエやストリングスを使っていて、エルザの原曲「T'en va pas」に近い。富沢は丁寧に優しく歌っているが、原田のカリスマチックな歌唱の前では分が悪いかな。

他の曲では、シングルカットされた「テ・プル・モア」(作詞 福永ひろみ 作曲 岡本朗 編曲 幾見雅博)A面4曲目、「濡れてメディナ」(作詞 富沢聖子 作曲 樹原涼子 編曲 若草恵)B面1曲目、「今宵の揺り籠」 (作詞 只野菜摘 作曲 Johnny 編曲 若草恵)B面4曲目、「星の涙」(作詞作曲 富沢聖子 編曲 若草恵)B面5曲目がいい感じ。特に「テ・プル・モア」と「今宵の揺り籠」は洗練された仕上がりが素晴らしく、昨今の80年代Jポップ再評価の対象になり得る存在だと思う。

「彼と彼女のソネット」のカバーとしては知名度が低い存在。

[2024年7月作成]


 
NHKみんなのうた ベスト30  Various Artists (橋本潮) (1987) 日本コロンビア   

 




1. コロは屋根のうえ [作詞作曲 大貫妙子 編曲 乾裕樹] 13曲目

橋本潮: Vocal

写真上: 「NHKみんなのうた ベスト30」 1987年9月21日発売
写真下: 「NHKみんなのうた ~ベスト40~」 2007年6月20日発売

1. Koro Wa Yane No Ue (Koro's On The Roof) [Words & Music: Taeko Onuki, Arr: Hiroki Inui] 13th track by Ushio Hashimoto from the album of various artists "Minna No Uta Best 30 (NHK Everybody's Songs Best 30)" September 21, 1987
 
 
「コロは屋根のうえ」は、「みずうみ」1983、「メトロポリタン美術館」1984に続く大貫さん三作目の「NHKみんなのうた」で、初回放送は1986年12月~1987年1月。大貫さんが歌ったオリジナル録音は、1991年6月に発売されたベスト・アルバム「Pure Drops」に収められている。子供向けの歌でありながら、大人も楽しめるファンタスティックな歌詞とメロディーを持った曲だ。当時「NHKみんなのうた」曲集が多くのレコード会社から発売されたが、契約の関係でオリジナル録音を使えない場合、別の歌い手により録音したものを使うのが通例だった。日本コロンビアが制作した本作ではアニメ・童謡歌手の橋本潮が歌っている。

橋本潮は東京都出身。高校卒業時に日本コロンビア主宰の「超人ロック主題歌ソング・コンテスト」で優勝、「超人ロック -光の剣-」のイメージ・ソング「私は帰りたい I Wanna Go Back Home ~さすらいのニア~」1984でデビューする。代表作は「ドラゴンボール」のエンディング・テーマ・ソング「ロマンチックあげるよ」1986。

本作は大貫さんのオリジナルと編曲者が同じであることがミソ。同じ譜面を使用して演奏しているようで、伴奏につき同じキーで弦楽器、管楽器、鍵盤楽器の演奏はほぼ同じであるが、パーカッションの音が異なるので別録音であることがわかる。橋本の声はアニメソング向きの元気で前向きな感じ。

この手の録音は、後に別のアルバムに使い回されることが普通で、本曲は2007年6月に発売された「NHKみんなのうた ~ベスト40~」にも収録されている。

[2024年7月作成]


Poptracks  EPO (1987)  Dear Heart 

 

1. 横顔 [作詞作曲 大貫妙子 編曲 乾裕樹] A面5曲目

EPO: Vocal
乾裕樹: Keyboards
大村憲司: Electric Guitar
安田裕実: Acoustic Guitar
Paul Jackson: Bass
青山純: Drums
前田ストリングス: Strings

1987年12月5日発売

1. Yoko-Gao (Face In Profile) [Words & Music: Taeko Onuki, Arr: Hiroki Inui] B-5 by EPO form the album "Poptracks" December 5, 1987

 
EPO(1960- 本名:佐藤栄子 子供の頃、周りの人が「エーコ」と呼ぶのがなまって「エポ」という愛称になったそうだ)は東京都出身。大学生の頃からセッション・ボーカリストとして活動し、19歳の1980年3月に出したデビュー・シングル「Down Town」シュガーベイブ 1975のカバーが、当時人気絶頂のお笑い番組「オレたちひょうきん族」のテーマソングに採用され知名度を上げた。大貫さんとは当時の所属レーベルが同じだったこともあり、録音セッションにバックコーラスとして一緒に参加したり、香坂みゆきのシングル「ニュアンスしましょ」1984、中森明菜の「マグネティック・ラヴ」1985(アルバム「D404ME」収録)のでは共作(前者は大貫作詞、EPO作曲、後者はその逆)している。「Poptracks」は彼女27歳の時の9枚目のアルバムで、敬愛するライター達による名曲カバーとシングル・リリース分を含む自作曲からなり、日本のポップスをフィールドと見做して、そこをEPOが駆け抜けるというコンセプトで制作された。

1.「横顔」は大貫さんのアルバム「Mignonne」1978がオリジナルで、1983年の徳丸純子(「靑のないパレット」所収)に続く2番目のカバー。EPOは降り注ぐ陽の光とそよ風を感じさせる明るい声で歌っていて、体育会系シンガーの面目躍如たるものがある。大貫さんの少しダークな歌声とは対照的。ライナーノーツにおけるEPOのコメントが面白いので引用しよう。

「前からこの曲は、いつか自分のレコードで唄ってみたいと思っていました。とてもシンプルな片想いの詩なのに、なんでこんな切ない気持ちが伝わるんだろうなと。作詞の原点を考えさせられた作品です。大貫妙子さんのアルバム「ミニヨン」からの選曲。私はこの頃の日本のPOPSが持っているロマンや優しさが今でも大好きです」

演奏面ではストリングスとキーボードを中心としたイントロから入るアレンジと跳ねたベースライン、アコースティック・ギターとエレクトリック・ギターのソロの掛け合いなど聴きどころ盛りだくさんだ。ポール・ジャクソンは、名曲「Chameleon」が入ったハービー・ハンコックの大傑作アルバム「The Head Hunters」1973でベースを弾いていた人。1985年に日本人との結婚を機に移住した後は主に日本で活躍し、2021年に病没している。

山下達郎(作曲)と吉田美奈子(作詞)による「いつか」(編曲 窪田晴男)A面2曲目は、山下のアルバム「Ride On Time」1980 収録曲のカバー。吉田のストイックな歌詞とグルーヴ感が最高でEPOはこの手の曲が本当に合っている。「セクシー・バス・ストップ」(作詞 橋本淳 作曲 Jack Diamond 編曲 窪田晴男) A面3曲目は意外にも浅野ゆう子の歌謡曲1976のカバーであるが、オリジナルはその少し前に出たThe Oriental Expressのインストルメンタルだ。それは匿名アーティストによるレコードだったが、仕掛け人は筒美京平で作曲者のJack Diamondは彼の変名。「12月の雨」(作詞作曲 荒井由美 編曲 佐橋佳幸)B面3曲目はご存知ユーミン初期の名曲。「いとしのエリー」(作詞作曲 桑田佳祐 編曲 告井信隆)B面4曲目は原曲を尊重した素直な歌唱。一方ミニー・リパートン1974年のヒット「Loving You」(作詞作曲 Minnie Riperton, Richard Rudlph 編曲 告井信隆)B面5曲目は、原曲と異なるコード、キーボードプレイを取り入れた斬新なアレンジ。

彼女のオリジナル4曲は名曲揃いのカバーに引けを取らない良い出来。最近流行りの「Japanese City Pops of 1980s」として若者および外国人諸君に紹介したい位だ。「三番目の幸せ」(作詞作曲 EPO 編曲 窪田晴男)A面1曲目は、ひとりでいることを肯定的に捉えた曲で、前向きな姿勢が気持ち良い佳曲だ。本曲は花王ソフィーナのCMソングとして制作され、アルバムの2ヵ月前に16番目のシングルとして発売された。「さよならは2Bの鉛筆」(作詞作曲 EPO 編曲 告井信隆)A面4曲目は、センチメンタル・シティ・ロマンスが演奏するラテン調のアレンジがかっこいい。「夢見みちゃいなタウン」(作詞作曲 EPO 編曲 大村憲司)B面1曲目 はアルバム3ヵ月前のシングルで、伊勢丹のキャンペーン・ソング。この曲を書くための体験として実際に北京に行ったそうで、オリエンタルなメロディーが面白い。フュージョン風のバックによる「Try To Call」(作詞作曲 EPO 編曲 窪田晴男)B面2曲目はKDDのコマーシャルソング。

大貫さんの「横顔」を「陰」とするとEPOのカバーは「陽」にあたり、対照的な仕上がりになっている。

[2024年6月作成]


 
1988年  「Purissima」 (1988/9/21発売)の頃   
ジィンジャー  安田成美 (1988)  徳間Japan  
 



1. 思い出のロックンロール [作詞作曲 Serge Gainsbourg 日本語訳詞 大貫妙子 編曲 大村健司] 1曲目
2. 海辺のポートレイト [作詞作曲 大貫妙子 編曲 大村憲司] 2曲目
3. 夢は夢の中へ [作詞作曲 大貫妙子 編曲 小林武史] 4曲目
4. Momo [作詞 葉山陽子 作曲 大貫妙子 編曲 大村憲司] 5曲目
5. 夜のパティオで [作詞 麻生圭子 作曲 大貫妙子 編曲 大村健司] 6曲目
6. 初めての街 [作詞 麻生圭子 作曲 大貫妙子 編曲 大村憲司] 9曲目
7. 星の降る夜 [作詞作曲 大貫妙子 編曲 小林武史] 10曲目

安田成美: Vocal
小林武史: Keyboards (1,2,3,4,5,6), Acoustic Piano & Synthesizer (7)
門倉聡: Additional Keyboards (4,6)
大村憲司: Guitar (1,3,4,5,6)
Bobby Watson: Bass (1,4,5)
Steve Jansen: Drums (1,4,5)
ペッカー: Percussion (6)
大貫妙子: Producer, Chorsu & Chorus Arrangement (7)

写真上: アルバム「ジィンジャー」 1988年3月25日発売
写真下: 4曲入り 7センチCD 「思い出のロックンロール」 1988年9月25日発売 (1,6,7収録) 


1. Omoide No Rock 'N' Roll (Ex-fan des sixties) [Words & Music: Serge Gainsbourg, Japanese Translation Lyric: Taeko Onuki, Arr: Kenji Omura] 1st Track
2. Umibe No Portrait (Portrait Of The Seaside) [Words & Music: Takeo Onuki, Arr: Kenji Omura] 2nd Track
3. Yume Wa Yume No Naka He (Dream Into Dreams) [Words & Music: Takeo Onuki, Arr: Takeshi Kobayashi] 4th Track
4. Momo [Words: Yoko Hayama, Music: Taeko Onuki, Arr: Kenji Omura] 5th Track
5. Yoru No Patio De (At The Patio At Night) [Words: Keiko Aso, Music: Takeo Onuki, Arr: Kenji Omura] 6th Track
6. Hajimete No Machi (The Town For The First Time) [Words: Keiko Aso, Music: Takeo Onuki, Arr: Kenji Omura] 9th Track
7. Hoshi No Furu Yoru (At The Night Of Falling Stars) [Words & Music: Takeo Onuki, Arr: Takeshi Kobayashi] 10th Track

 

私の「大貫妙子Discography Composer 1980年代」の最後の記事は、大貫さんがプロデューサーを務めた安田成美の名作「ジィンジャー」です。これで1980年代が完結します(私が知る限りにおいてですが.....)。今年の2月に連載を開始して5ヵ月かかりましたね。

安田成美(1966- 東京都出身)は中学生の頃スカウトされて1981年にデビュー。1983年に宮崎駿監督の映画「風の谷のナウシカ」イメージ・ガールのオーディションで優勝して、1984年1月イメージ・ソング「風の谷のナウシカ」(作詞 松本隆 作曲 細野晴臣)で歌手デビューした。安田の歌はお世辞にも上手といえないレベルであったが、彼女のキャラにより不思議な魅力がある作品に仕上がりヒットした。しかしこの曲を気に入らなかった宮崎が激怒したため映画では使われず、その代わりに妥協策として映画の休憩時間に流されたというエピソードがある。そして3ヵ月後に高橋幸宏プロデュースによる初アルバム「安田成美」が発売された。高橋幸宏、細野晴臣、大村雅朗、鈴木慶一、鈴木博文、松本隆、売野雅勇が提供した曲には、将来への期待に胸を膨らませる17歳の女の子の世界がテクノポップ・サウンドをバックに歌われている。その後松本隆作詞によるシングル「透明なオレンジ」(作曲 南佳孝)、「銀色のハーモニカ」(作曲 細野晴臣)、「サマー・プリンセス」(作曲 林哲司)を出し、しばらく女優活動をしていたが、4年後の1988年に大貫さんのプロデュースにより2枚目のアルバム「ジィンジャー」を発表した。

細野晴臣の「Daisy Holiday!」というラジオ番組の2023年3月19日放送に安田がゲスト出演している。そこでは「ナウシカの歌は細野さんに作ってもらったという事実を知った子供達から尊敬された」という話から始まって、40年前のレコーディングのこと、そして2021年の松本隆50周年のコンサートで「風の谷のナウシカ」を歌ったことを生き生きと話す彼女は誠に魅力的。さらに大貫さんと一緒にアルバムを作ったことはうれしかった、聴いた娘が「凄い!」と言ったと楽しそうに語っている。一方大貫さんはアルバム・ジャケットに掲載された当時のライナーノーツで彼女について以下のとおり語っている。「スクスクと育った、果実のようで、食べてしまうのはもったいないので、何もないテーブルの上などに、ボソッとおいておくと、果実はひとりで考えごとをしたり、ごろんと横になって歌っていたりします」 とても詩的な表現で彼女の魅力の本質を突いていて、いかに大貫さんが楽しんで制作したことがわかる。本アルバムはそういった両想いの気持ちが良く表れていると思う。

外国曲カバーを除く9曲の内訳は、大貫さんの作詞作曲が3曲、大貫さんの作曲が3曲、かしぶち哲郎の作詞作曲が2曲、大村憲司の作曲が1曲、大貫さんの2曲と大村憲司の曲に麻生圭子が作詞という構成。編曲は大村憲司が8曲、小林武史(後にミスター・チルドレンなどの編曲で名声を得るが、当時はまだ有名でなかった)が2曲という、大貫さんのアルバム「Slice Of Life」1987で伴奏していた人達。シンセやホーンを積み上げず、ベンチャーズなどのギター音楽の香りを残しながら、どこかニューウェイブする大村独特のサウンド作りがアルバムを特徴付けている。そしてピアノ伴奏でしっとり感を出した小林アレンジの2曲が鮮やかな対比を生み出している。演奏面では元ジャパンのイギリス人ドラマー、スティーヴ・ジャンセンや、アメリカ(マイケル・ジャクソンの「Rock With Me」での演奏が有名)や日本で活躍したベース奏者ボビー・ワトソンといった外人組の参加が興味深い。

1.「思い出のロックンロール」は、フランスの作曲作詞家、歌手、映画監督、俳優のセルジュ・ゲンスブール(1928-1991)がパートナーのジェーン・バーキン(1946-2023)に書いた曲で、1978年同国で大ヒットした「Ex-fan des sixties」の日本語カバー。コーラス部分で1960年代の心に残る偉大なアーティストの名前を連呼し、ファースト・コーラスは当時存命者、セカンド・コーラスが物故者であることがミソ。制作中にエルビスが亡くなったので、歌詞を書き替えたという逸話が残っている。大貫さんはコーラス部分はそのままにして、ヴァース部分については翻訳というよりも自分の言葉に置き換えている。安田のボーカルが従来の作品とは全く異なる発声になっていることに注目。これまでは初期の荒井由美のような声であったのに対し、ここでは大貫さんに極めて近い囁くような歌声になっているのだ。歌手としてのこだわり、強い自我を持たない彼女が大貫さんの指導を受けて発声を見直したと思われ、この声こそが彼女のパーソナリティーにぴったりといえるものになっている。2.「浜辺のポートレイト」は大村得意のギターサウンド全開のアレンジで、13歳若返った(発売当時大貫さんは34歳、安田は21歳、ちなみに二人の誕生日は同じ11月28日)大貫さんが歌っているかのよう。3.「夢は夢の中へ」は小林のアコースティック・ピアノ伴奏が中心のしっとり系の曲で、大村がギターソロを入れる。安田のボーカルは以前とは比べ物にならない位の深みを見せている。

4.「Momo」は1986年の大貫さんのアルバム「Comin' Soon」で発表された曲のカバーで、謎の多い曲。作詞者の葉山陽子について他の作品が存在しないこと、大貫さんが住んでいるところが葉山であることを考えると、当地に住んでいる誰かの変名と推測する。一部で言われているドイツの児童文学作家ミヒャエル・エンデの作品「Momo」との関係は、歌詞の内容から推察するにないと思う。むしろ歌詞に出てくる「ホリー」(トルーマン・カポーティーの小説でオードリー・ヘプバーン主演の映画で有名な「ティファニーで朝食を」のホリー・ゴライトリーのこと)や、「Peach Girl」(美しく魅力的な女の子のことで、ピーチは「もも」だ)から、自由奔放な若い女性のことを歌っていると思う。5.「夜のパティオ」は、大貫さん得意のヨーロッパ風歌曲で、「Mon amour」や「C'est la vie」などのフランス語が出てくる。大貫さんが自身で歌っても全く違和感ない曲。6.「初めての街」は、このアルバムの中では珍しいテクノポップ的な軽めのアレンジが面白い曲。大貫さんと作詞の麻生圭子とは、1986年の風見りつ子や岡田有希子で共作の実績がある。最後の曲7.「星降る夜」は小林武史の生ピアノのみの伴奏で、透き通った夜の情景が心に染み入る素晴らしい曲で、後半から大貫さんのバックコーラスが入る。

その他の曲について。 「パパを愛したように」3曲目、「突然彼を奪われて」8曲目(作詞作曲 かしぶち哲郎、 編曲 大村憲司)は、大貫さんが絶対書かないようなポップな恋の歌。ムーンライダースのかしぶちワールド全開で、アルバム中の口直し的存在になっている。「ハイウェイ歩けば」(作詞 麻生圭子、作曲編曲 大村憲司)は、ロック調の伴奏に安田が歌詞を語りで入れる異色の曲で、大変珍しい安田の不機嫌な声を聞くことができる。

なお本アルバムからはシングルカットされなかったが、そのかわり6ヵ月後に4曲(「思い出のロックンロール」、「パパを愛したように」、「初めての街」、「星降る夜」)入りミニサイズのCDが発売されている。

安田は本作を最後にレコード・CDを製作することがなく40年近い時が経ったが、上記のラジオ番組で細野と再開した際、その場で「また歌いたい!」と宣言したことで、細野制作による「風の谷のナウシカ」と「銀色のハーモニカ」(2024 Version)の再録音が実現。好評を受けた歌手活動の始動が期待されている。

大貫さんが他アーティストのためにプロデュースした唯一の作品で名作!

[2024年7月作成]


Sincerely Yours  薬師丸ひろ子 (1988)  東芝EMI   

 

1. 色彩都市 [作詞作曲 大貫妙子 編曲 井上鑑] B面4曲目

薬師丸ひろ子: Vocal
井上鑑: Keyboards
Jake H. Conception: Flute
土方隆行: Electric Guitar
富倉安生: Bass
青山純: Drums
浜口茂外也: Percussion

1988年4月6日発売

1. Shikisai Toshi (Colored City) [Words & Music: Taeko Onuki, Arr: Akira Inoue] B-4 by Hiroko Yakushimaru from the album "Sincerely Yours" April 6, 1988

薬師丸ひろ子5枚目のアルバムで、大貫さんの作品を取り上げるのは、初アルバム「古今集」1984以来4年ぶり。既存作品のカバーと新曲という自由な選曲で、中島みゆき、竹内まりや、尾崎亜美、吉田美奈子、EPOという錚々たる顔ぶれの作品が並んでいる。

大貫さんのアルバム「Cliche」1982の「色彩都市」(オリジナル)は、歌詞・メロディーそして坂本龍一の編曲のすべてが最高の傑作だった。そしてこれが最初のカバーだ。薬師丸の癒し感ある声がこの曲のぴったりはまっていて、大貫さんのクールなボーカルとは異なる新たな魅力を引き出している。オリジナルにおける坂本龍一の才気走った尖がったアレンジに対し、ここでは井上は優しい感じの編曲を施している。

「時代」(作詞作曲 中島みゆき 編曲 船山基紀)A面1曲目は、誰もが知っている中島みゆき2枚目のシングル1975のカバーで、オリジナルと同じ人が編曲を担当している。7月にシングル発売された「おとぎばなし」は(作詞作曲 中島みゆき 編曲 倉田信雄)A面3曲目は新曲で、中島は2002年にアルバム「おとぎばなし -Fairy Ring-」でセルフカバーした。「Distance」(作詞作曲 薬師丸ひろ子 編曲 新川博)A面2曲目はアルバム唯一の自作曲であるが、他の曲に全く引けを取らない出来だ。「もう一度」(作詞作曲 竹内まりや 編曲 荻田光雄)A面4曲目は、歌手休業中だった竹内が1984年にシングルで発表した復帰作のカバー。アルバム最後の「終楽章」(作詞作曲 竹内まりや 編曲 新川博)B面5曲目は「名曲」と呼ぶに相応しい作品で、竹内は2007年の「Denim」でセルフカバーしている。「雨は止まない」(作詞作曲 尾崎亜美 編曲 井上鑑)A面5曲目は、同年11月のシングルで尾崎がセルフカバーした。

「時の贈り物」(作詞作曲編曲 吉田美奈子)B面1曲目、「ハイテク・ラヴァーボーイ」(同)B面2曲目は、両者とも吉田本人が編曲まで担当。特に後者はシンセ・ファンク調の一風変わった曲で、薬師丸としては意外な選曲。吉田のバック・コーラスと松木恒秀のギターが印象的。「ル・パ・ラ」(作詞作曲 EPO 編曲 窪田晴男)B面3曲目は、EPOらしいエキセントリックな歌詞・メロディーが素敵な曲で、本人は同年8月のアルバム「Freestyle」でセルフカバーしている。

2007年の原田知世、2013年の松任谷由美 With キャラメル・ママと並ぶ「色彩都市」3大カバーのひとつ。

[2024年7月作成]


 
夢劇院 = Paradox (1988)  Rock-In Records (Hong Kong)    

 

1. 生日的願望 [作詞 夢劇院 作曲 大貫妙子] B面2曲目 広東語歌詞による「黒のクレール」

李敏 or 劉文娟: Vocal

1988年4月発売

1. Birthday Wishes [Words Paradox, Music Taeko Onuki] B-2 Cantonese Version of 「Kuro No Claire」 (Claire In Black) by Paradox from the album "Dream Theater = Paradox" April 1988

夢劇院(英語名 Paradox、 注:当時の香港は本来の中国名と生活で使用する英語名の両方を使い分けることが普通だったが、本ケースでは英語名のほうが先だった)は、香港のガールズ・グループで、メンバーの李敏 (Li Min リ・ミン 1966- )と劉文娟 (Yvonne Lau Man Kuen ラウ・マンクン 1967- )は、香港中文大学の在学中に歌謡コンテストで見いだされてレコード契約した。本作はデビューアルバムで 3曲の自作曲と7曲のカバー曲からなっている。

1.「生日的願望」は広東語で「誕生日の願い」という意味で、大貫さんの「黒のクレール」1982 (アルバム「Cliche」収録)に彼女らが書いた広東語の歌詞をつけたもの。同曲の広東語歌詞は、本曲に先立つ1983年にTeresa Carpio (杜麗莎)によるバージョンがあるが、時を経て大人になってゆくなか誕生日に相手の幸せを祈るという全く異なる内容になっている。アレンジ自体はオリジナルの坂本龍一のものに近く、ストリングの音はシンセサイザーによるエレクトロポップのサウンドになっている。二人のうちのどちらかがソロで歌っているようだが、原曲の「愛の行方 うらなう時」の後半の部分のメロディーが大きく異なる点が面白い。

二人は1987年から1991年までの活動期間で5枚のアルバムを出した後、李敏は香港に留まって作詞・作曲家となり、劉文娟は歌手活動の後にカナダに移住してテレビ司会になったという。

同じ広東語による歌詞なんだけど、雰囲気はかなり異なる。

[2024年6月作成]

[2024年6月追記]
本アルバムに収録されているジョニ・ミッチェルの「Both Sides Now」のカバーもいいですよ!彼らのルーツは、きっとここなんだろうと思われます。アルバムでは英語で歌っていますが、近年リリースされた配信には「彩色相対論」という中国語のタイトル(凄い名前ですね!)で広東語で歌うバージョンがあり、これはオリジナルのアルバムには入っていなかったボーナストラックです。


 
Freestyle  EPO (1988)  Dear Heart 
 

1. You're My Special [作詞 大貫妙子 作曲 鈴木さえ子 編曲 村松邦夫] B面3曲目

EPO: Vocal, Back Vocal
細井豊: Keyboards
村松邦夫: Guitar, Arranger
久田潔: Bass
近藤文雄: Drums
マック 清水: Percussion
関川雅樹: Programming

1988年8月10日発売

1. You're My Special [Words: Taeko Onuki, Music: Saeko Suzuki, Arr: Kunio Muramatsu] B-3 by EPO from the album "Freestyle" August 10, 1988

1987年ロンドンに移住したEPOが現地で録音した11枚目のアルバム。イギリスのキーボード奏者、ソングライターの Danny Schogerのアレンジによるユーロビート、ユーロロック・サウンドの曲が並んでいる。

その中で唯一日本録音だったのが、大貫さんと鈴木さえ子の共作で1987年の鈴木のアルバム「スタジオ・ロマンチスト」に収録されていた「You're My Specialのカバーだった。ここでは元シュガーベイブの村松邦夫が編曲を担当し、バックを担当するキーボード、ベース、ドラムスはセンチメンタル・シティ・ロマンスの連中だ。そのためこの曲のみ従来のEPOのようなシティポップの音作りになっている。アレンジ的には鈴木の原曲がシンセを多用したユーロロック的なサウンドであるのに対し、本曲はセンチが得意な米国風の味付けになっている。EPOが取り上げるだけあって、歌詞・メロディーともに素晴らしい曲。ライナーノーツにあるEPOの言葉を引用する。

ちょっと変わっている曲の構成とか、大貫妙子さんの詩のアイデアとか大好きです。特に「あなたがもしも男でなけりゃいいのに.......」ってところがとてもいいですね。

男女の恋愛を超越した深い人間関係を描いた歌です。

その他の曲では、薬師丸ひろ子が「Sincerely Yours」1988年4月発売に収録した「ル・パ・ラ」(作詞作曲 EPO)A面2曲目のセルフカバーがいい。それにしてもこの曲のリズム・カッティングは「Dwntown」に似ているね。自作曲の「きゅんと」A面5曲目、「小さなKiss」B面4曲目も良い出来で、ソングライターとしての成長を感じる。ソウルフルな「I Can't Let Go」(作詞 Linda Taylor 作曲 EPO)A面4曲目でデュエットで歌っている男性はセッション・シンガー、ソングライターのアンドリュー・ケイン。英語歌詞を書いたリンダ・テイラーは、イギリスでセッション・シンガー、ソングライターとして活躍した人。彼女が英語詩を提供したもう1曲が「Promises」(作曲 EPO) B面6曲目で、同じバッキング・トラックでEPOが歌詞を日本語に訳して歌ったのが「夏の約束」B面3曲目だ。ちなみに彼女は大半のトラックでバック・ボーカルを担当している。個人的にはダンサブルなユーロビートの曲よりも、これらのじっくりした曲のほうが好き。

EPOは1991年までロンドンに滞在し、その間ヴァージン・レーベルから国際仕様のアルバム「Fire & Snow」1991やシングルを発表した。帰国後は「ポップシンガー」のレッテルを捨てて、自分の魂に近い音楽を指向して地道な活動を続けながら、催眠療法セラピストとしても活躍している。本作はそんな彼女の過渡期にあった作品として位置付けられ、そのためファンの間での評価は賛否両論になっている。

「You're My Special」は大貫さんの提供曲のなかでは知名度が低いけど、いい曲だよ!

[2024年7月作成]


 
みんなのうたベストヒット25 山口さんちのツトム君~おふろのうた Various Artists (新居昭乃) (1988) 東芝EMI  
 

1. メトロポリタン美術館 [作詞作曲 大貫妙子 編曲 関谷雅子] 7曲目


新居昭乃: Vocal

1988年11月26日 東芝EMIより発売


1. Metropolitan Museum [Words & Music: Taeko Onuki, Arr: Masako Sekiya] 7th song by Akino Arai (in various artists) from the album "Minna No Uta Best Hit 25 Yamaguchi-Sanchi No Tsutomu-Kun - Ofuro No Uta" (Songs For Everybody Best Hits 25 Tsutomu Of Yamaguchi Family - Bathing Song) November 26, 1988

 
大貫さんの「メトロポリタン美術館」は 1984年4月~5月にNHKテレビ「みんなのうた」で初回放送された。清水信之編曲による大貫さんの録音は、1984年5月21日発売のシングル「宇宙みつけた」のB面としてディアハート(RVC) レーベルから発売され、1986年3月21日発売のアルバム「Comin' Soon」に収められた。「みんなのうた」の中でも特に人気がある曲で、映像はその後も現在に至るまで頻繁に再放送され、各レコード会社が発売した「みんなのうた」曲集にも収められている。その際契約の関係で大貫さんのオリジナルを使えない場合、別の歌い手により録音したものを使うのが普通で、そのため本曲は他のアーティストによるカバーに加えてこの手の別録音が多く存在することとなった。本件はその中のひとつで、東芝EMIが制作したものだ。

新居昭乃(1959- )は東京都出身のシンガー・アンド・ソングライターで、1986年のアルバム・デビュー後は他アーティストの曲の提供およびライブ、レコーディングへの参加、CM、ゲームやアニメソング等で活躍。1990年代末からは自己名義のアルバムを多く発表しながら、日本、世界各地で演奏活動を行っている。

本作はそんな彼女が多くのCM、アニメソングを歌っていた時代の録音で、大貫さんより少し暖かめな声質は違えどオリジナルの歌い方を忠実に再現している。バックのアレンジもコピーに近いが少しチープな響きかな?


[2024年5月作成]

[2024年6月追記]
当初「私が知る限り「メトロポリタン美術館」の最初のカバー」と書きましたが、1986年ポニーキャニオンから発売された吉田美智子のほうが先でした。


 
NHKみんなのうたより おじいちゃんていいな Various Artists (井上美哉子) (1988) アポロン音楽工業  

 




1. メトロポリタン美術館 [作詞作曲 大貫妙子] 6曲目

井上美哉子: Vocal

写真上: 「NHKみんなのうたより おじいちゃんていいな」 1988年12月16日 アポロン音楽工業より発売
写真下: 「きかせてあげたい NHKみんなのうた」 1990年5月21日 アポロン音楽工業より発売

1. Metropolitan Museum [Words & Music: Taeko Onuki] 6th song by Miyako Inoue (in various artists) from the album "NHK Minna No Uta Yori Ojiichan Te Iina " (NHK Songs For Everybody Grandpa Is Great) December 16, 1988

大貫さんの「メトロポリタン美術館」は 1984年4月~5月にNHKテレビ「みんなのうた」で初回放送された。清水信之編曲による大貫さんの録音は、1984年5月21日発売のシングル「宇宙みつけた」のB面としてディアハート(RVC) レーベルから発売され、1986年3月21日発売のアルバム「Comin' Soon」に収められた。「みんなのうた」の中でも特に人気がある曲で、映像はその後も現在に至るまで頻繁に再放送され、各レコード会社が発売した「みんなのうた」曲集にも収められている。その際契約の関係で大貫さんのオリジナルを使えない場合、別の歌い手により録音したものを使うのが普通で、そのため本曲は他のアーティストによるカバーに加えてこの手の別録音が多く存在することとなった。本件はその中のひとつで、アポロン音楽工業が制作したものだ。同社はもともとミュージック・テープを作っていた会社で、1970年代よりレコードおよび1980年代からCDも作るようになり、1996年にバンダイ・ミュージック・エンターテイメントに社名変更した。

井上美哉子については、インターネットに資料がないのでプロフィールは不明だが、彼女が歌う童謡はアポロン音楽工業(現バンダイ・ミュージック)が制作したレコード・CDにみられるので専属歌手と思われる。癖のない声で歌っていて、伴奏は打ち込みのように聞こえる。

この手の録音は、後に別のアルバムに使い回されることが普通で、本曲は1990年5月に発売された「きかせてあげたい NHKみんなのうた」にも収録されている。

[2024年7月作成]


 
1989年  「Purissima」 (1988/9/21発売) と 「New Moon」 (1990/6/21発売)の狭間   
Heartbreak をくれないか   野村宏伸 (1989)  Victor    
 

1. 微笑 [作詞 川村真澄 作曲 大貫妙子 編曲 萩田光雄] 4曲目
2. せつなさ [作詞 川村真澄 作曲 大貫妙子 編曲 萩田光雄] 7曲目 

野村宏伸: Vocal
大谷和夫, 海出景広(小池秀彦の変名), 萩田光雄: Keyboards
Ira A. Siegel, 松原正樹, 鳥山雄司, 角田順: Electric Guitar
吉川忠英: Acoustic Guitar
高水健司, 渡辺直樹:Bass
梅原篤, 鳥山敬治, 中山信彦, 福田達夫, 坂下好政: Synthesizer (Operation)

注: 曲毎のパーソネルがないため、録音に参加したミュージシャン全員を表示

1989年5月21日発売

1. Hohoemi (Smile) [Words: Masumi Kawamura, Music: Taeko Onuki, Arr: Mitsuo Hagita] 4th Track
2. Setsunasa (Sadness) [Words: Masumi Kawamura, Music: Taeko Onuki, Arr: Mitsuo Hagita] 7th Track
by Hironobu Nomura from the album "Heartbreak Wo Kurenaika (Give Me A Heartbreak)" May 21, 1999

 
野村宏伸(1965- 東京都出身)は、角川春樹事務所のオーディションに受かって1984年に映画デビュー。所属事務所移籍後の1987年にテレビドラマ「びんびんシリーズ」に田原俊彦と主演して、アイドル俳優として人気が沸騰した。そんな彼は1985年から1990年までの間に歌手として4枚のシングルと5枚のアルバムを出したが、本作はその4枚目で、彼は当時24歳だった。

他のアルバムでは、南佳孝、鈴木茂、後藤次利、安部恭弘などが曲を提供していたが、本作では、作詞が大津あきら、川村真澄、松井五郎、作曲が鈴木キサブロー、大貫妙子、中崎英也といった面々で歌謡曲畑の人が多くなっている。耳障りの良いシティ・ポップ・サウンドで、野村は無難に歌っていて当時のファンは十分満足したと思うが、今中立な立場で聴くとプロの歌手として必要な歌唱力・オーラに欠けている感がある。

大貫さんは2曲で作曲を担当。1.「微笑」はシティ・ポップスとして良く出来ているとは思うが、大貫さんの提供曲としては比較的個性に乏しい感じがする。2.「せつなさ」は彼女らしいメロディーラインが楽しめる曲であるが、野村が歌いこなすには、ちと荷が重かったようだ。

なお野村はこの後1990年代に仕事および私生活のトラブルにより不遇の時を過ごす事になるが、2000年代に俳優として復活を遂げている。

大貫さんが男性アイドル歌手に曲を提供した唯一の作品

[2024年7月作成]


 
カレリア   工藤静香 (1989)  Pony Canyon   

 

1. 岡の上の小さな太陽 [作詞 大貫妙子 作曲 後藤次利 編曲 後藤次利, 門倉聡, 菅原弘明, 藤井丈司] 1曲目
 Part 1: 少女
 Part 2: 恋
 Part 3: 出さなかった手紙・母へ
2, カレリア [作詞 大貫妙子 作曲 後藤次利 編曲 後藤次利, 門倉聡, 菅原弘明] 4曲目


工藤静香: Vocal
門倉聡: Orchestration Arrangement
門倉聡、後藤次利、菅原弘之、藤井丈司: Rhythm Arrangement (1)
菅原弘之: Rhythem Arrangement (2)
ヘルシンキ・フィルハーモニー管弦楽団
ヘルシンキ大学コーラス隊 (1)

1989年10月4日発売

1. Oka No Ue No Chisana Taiyo (Small Sun On The Hill) [Words: Taeko Onuki, Music: Tsugutoshi Goto, Arr: Tsugutoshi Goto, Satoshi Kadokura, Hiroaki Sugawara, Jyoji Fujii] 1st Track
 Part 1 Shojyo (Little Girl)
 Part 2 Koi (Love)
 Part 3 Dasanakatta Tegami: Haha He (The Letter Unsend: To My Mother)
2. Karelia [Words: Taeko Onuki, Music: Tsugutoshi Goto, Arr: Tsugutoshi Goto, Satoshi Kadokura, Hiroaki Sugawara] 4th Track
by Shizuka Kudo from the album "Karelia" October 4, 1989

  
今や木村拓哉夫人として説明不要の工藤静香(1970- 東京都出身)4枚目のアルバム(当時19歳)。フィンランド録音で、ヘルシンキ・フィルハーモニー管弦楽団とヘルシンキ大学コーラス隊がバックを務めた。当時工藤と多く仕事をしていた後藤次利が全曲で作曲、後藤を中心とする音楽ユニット「Draw4 (後藤次利、門倉聡、菅原弘明、藤井丈司とエンジニアの村瀬範恭)」が編曲と録音を担当している。工藤のアルバムのなかでは、クラシカルな異色の作品であるが、ファンの間での評判は高く愛聴盤としている人が多いようだ。クラシック音楽といっても気難しかったり、崇高な感じがするものではなく、曲によってはドラムスなどのリズムセクションやエレキギターが入るものもあり、日ごろクラシックを聴かない若い人でもとっつきやすいサウンドになっている。カレリアはフィンランドにある森林と湖沼の多い地域で、フィンランド録音によりアルバム全体を通じて北欧のひんやりとした空気感を感じることができる。

大貫さんが歌詞を提供した1.「岡の上の小さな太陽」は、演奏時間が8分弱の大作で、「少女」、「恋」、「出さなかった手紙・母へ」の3部からなる。ひとりの女性が少女から大人へ成長してゆく様が描かれているが、第3部はアルバム・ジャケットに歌詞の掲載があるものの、実際は演奏のみで歌は入っていない。もともとそういう企画だったのか、あるいは制作過程でそうなったのかのいずれかは不明。第一部は3拍子ワルツ、第二部・第三部は4拍子での演奏。この曲を聴いていて、昔1983年に大貫さんが「NHKみんなのうた」で、ノルウェーの作曲家グリ-グのメロディーに乗せて歌った「みずうみ」(本ディスコグラフィー「Various」の部参照)を思い出した。

タイトル曲の2.「カレリア」は愛の歌であるが、その底辺にはフィンランドの人々が胸に秘める自国領土への思いが込められているのは明らか。第2次世界大戦の頃、フィンランドはソビエト連邦による侵略の脅威を受け、防衛のためにドイツと連携する事までしたにもかかわらず、結局攻め込まれてカレリア地方の一部を割譲したという苦い歴史がある。現在のウクライナでの戦いとその背後にあるヨーロッパ諸国のロシアに対する不信感、警戒心のルーツになっているものだ。その失った自国の領土に対する切ない想いが歌詞の随所に織り込まれていて、それが曲に奥行きと深みをもたらしている。この曲もワルツでの演奏。両曲とも伴奏で聞こえるのはオーケストラの管弦楽器、ピアノとパーカッション、そして控え目なコーラス(1のみ)だけで、ドラムス、ベース、ギターなどのリズム・セクションの演奏は入っていない。

他の曲について。「みずうみ」(作詞 吉沢久美子 作曲 後藤次利 編曲 後藤次利、門倉聡、菅原弘明 - 作曲編曲は以下同じ)2曲目は、前述の大貫さんの歌とは同名異曲。「美粧の森」3曲目の作詞者「愛絵理」は工藤静香のペンネーム。「la se n」(作詞 川村真澄)5曲目も含め、これらの曲にはドラムス、ベースなどのリズムセクションが付き、特に「la se n」ではエレキギターソロも入っていて、大貫さんの提供作品2曲とは毛色が異なった音つくりになっている。歌詞の面では大貫さんの作品が他と比べてより強い光を放っていると思う。

なおこの頃からCDでの販売が主流になったようで、中古市場で出回っているアルバムはCDで、レコードは有線放送用の非売品がたまに売り出される程度だ。

大貫さんの提供作品としては異色の存在。

[2024年7月作成]