O18  Always, Never, And Forever  (1991)  veraBra





Paul McCandless: Oboe, Soprano Sax, Sopranino Sax, Bass Clarinet
Glen Moore: Bass, Piano (10)
Ralph Towner: Classical Guitar, 12-String Guitar, Piano, Synthesizer
Trilok Gurtu: Tabla, Percussion, Voice (2)

1. Beppo [Ralph Towner] 5:41  R20 R21
 (Bass Clarinet, Soprano Sax, C. Guitar, Bass, Tabla)
2. Balahto [Trilok Gurtu] 6:25 
 (Horn, Piano, E. Piano, Synthesizer, C. Guitar, Bass, Voice, Percussion)
3. Renewal [Ralph Towner] 5:26   R22
 (Horn, C. Guitar, Synthesizer, Bass, Percussion))
4. Oleander [Paul McCandless]  2:57  
 (Horn, 12st. Guitar, Synthesizer, Bass, Percussion)
5. Rapid Transit [Ralph Towner]  6:48
 (Horn, C.Guitar, Bass, Tabla, Percussion)
6. When The Fire Burns Low [Ralph Towner]  3:40  
 (Piano, Bass)
7. Aurora [Ralph Towner]  5:37  O3 R3   
 (Horn, 12st. Guitar, Piano, Synthesizer, Bass, Tabla, Percussion)
8. Playground In Nuclear Winter [Oregon] 4:54  
 (Bass Clarinet, Synthesizer, Bass, Percussion)
9. Guitarra Picante [Ralph Towner] 4:38  R29 D34  
 (Horn, C. Guitar, Synthesizer, Bass, Tabla, Percussion)
10. Apology Nicaragua [Glenn Moore]  4:37
 (Piano, C, Guitar, Synthesizer, Bass, Percussion)
11. Big Fat Orange [Collin Walcott]  2:59
 (Bass)

12. Always, Never, And Forever [Glenn Moore]  7:32
 (Bass Clarinet, 12st. Guitar, Piano, Bass, Percussion) 

写真下: 別デザインのジャケット(再発?)


オレゴンがドイツのレーベルで製作したアルバム。veraBraはオレゴンがその後アルバムを発売するIntuition Recordsの系列会社だ。アルバムを通して聴くと、本作ではトリロク・グルトゥが完全にグループに溶け込み、かつ重要な位置を占めるようになっていることがよくわかる。彼の叩き出すリズムは、インド人でありながら同グループに在籍した打楽器奏者の誰よりも西洋的で、ロック的な香りがする力強いものだ。本作が彼が参加した最後の作品となってしまったのは残念だ。

1.「Beppo」はラルフが飼っていた子犬の事で、軽やかでユーモラスな曲だ。ラルフのクラシックギターとトリロクのタブラの対話から、フルバンドへの演奏に移ってゆく。2.「Balahto」はトリロクの曲で、彼が様々なパーカッションを叩きながら、自分の声でパーカッシブな音を出してゆくのが凄い。ラルフのシンセサイザーとポールのホーンのユニゾンによるテーマのメロディーも良く、曲作りの才能を感じさせる。間奏部分では、シンセサイザーのソロの後、紙をブリッジにはさんでミュートさせたギターがアフリカ的なスケールとリズムを刻み、パーカッションとヴォイスのソロが大活躍する。自分の曲ということで、縦横無尽に跳ねまくるリズムが凄まじい。3.「Renewal」は、ハービー・ハンコックの「処女航海」のようなリフのなかで、シンセイザーの厚みのある音が交響曲的な広がりを作り出してゆく。続くポールのオーボエ、ラルフのギターソロもスケールの大きさを感じさせる名曲。4.「Oleander」はストイックなムードの曲で、ホーンとシンセサイザーのテーマの後に、12弦ギターが透明感あふれるソロを展開する。5.「Rapid Transit」はブラジル音楽風の曲で、トリロクのアップテンポのタブラが、かつてのオレゴン・サウンドを彷彿させる。ここでのタブラのソロはヴァーチョーゾと呼ぶに相応しいものだ。6.「When The Fire Burns Low」は、馥郁としたメロディーがスタンダード・ソングのような豊かさを感じる曲で、ここではピアノとベースのみでシンプルに演奏される。一方でこの曲は、日本のクラシックギター奏者福田進一やブラジル人のギターデュオ、アサド兄弟の妹であるバジー・アサドによって、ギター演奏としてカバーされており、ラルフによるギター演奏もありそうなのに、今までのところ耳にした事がないという不思議な曲だ。

名曲 7.「Aurora」は何時聴いても美しい曲。新しく録音されるたびに、その輝きを増してゆくようだ。シンセサイザーの使用が素晴らしい効果をあげており、その響きが何処までも空に伝わってゆくようだ。ラルフのピアノソロも最高の名演。8.「Playground In Nuclear Winter」は即興演奏。アルコ弾きのベースと低音をバックに、シンセサイザーとパーカッション、バスクラリネットがリズミカルなコレクティブ・インプロヴィゼイションを展開する。9.「Guitarra Picante」は、ラルフの曲の中ではファンキー系列に属する曲で、グループもリラックスした演奏だ。10.「Apology Nicaragua」のピアノはグレンだろう。彼らしい作風の曲で、ピアノのリフが印象的だ。11.「Big Fat Orange」は、故コリン・ウォルコットに捧げたものだろう。グレンがベースソロで迫る。タイトル曲である 12.「Always, Never And Forever」もグレンの曲で、ブルージーな雰囲気の中で、12弦ギターによるソロは大変ガッツがあり、続くベースソロもとても変わった音使いで(恐らく変則チューニングを使用?)、後半の全員によるアンサンブルの一体感は本当に素晴らしく、精神的な高揚感を感じるほどだ。

ラルフのシンセサイザーがほぼ全編でフィーチャーされるが、オレゴン本来のアコースティックで透明感のある響きを全く損なわず、見事に調和している。コリン・ウォルコットを亡くした痛手を完全に克服した作品。曲良し演奏良し、力強くて繊細、でエレクトリックでありながらアコースティック、メロディックかつアヴァンギャルドで、鉄壁のアンサンブルなのにインプロヴィゼイションは自由、そして激しく静かという、私が大好きな作品だ。ただし前述のとおり、トリロク・グルトゥ最後の作品となったため、グループは茨の道を歩むことになる。


O19 Troika (1994)   veraBra



Paul McCandless: Oboe, English Horn, Soprano Sax, Sopranino Sax, Bass Clarinet, Whistle
Glen Moore: Bass
Ralph Towner: Classical Guitar, 12-String Guitar, Piano, Sythesizer

1. Charlotte's Tangle [Towner] 5:40  R12
 (Horn, C. Guitar, Synthesizer, Bass)
2. Gekko [Towner] 6:06
 (Horn, C. Guitar, 12st. Guitar, Bass)
3. Prelude (Improv 2) [Oregon] 2:21
 (Bass Clarinet, Symthesizer, Percussion)
4. Mariella [Towner] 6:51 
 (Horn, Piano, Synthesizer, Bass)
5. Spanish Stairs (Squanto) [McCandless] 2:54  O23
 (C. Guitar, Symthesizer)
6. Arctic Turn/Land Rover [Oregon] 2:53
 (Whistle, Horn, C.Guitar, Synthesizer, Bass, Percussion)
7. Mexico For Sure [Moore] 3:54
 (Horn, Piano, Synthesizer, Bass)
8. Pale Sun [McCandless] 6:39
 (Horn, 12st. Guitar, Piano, Synthesizer, Bass)
9. I Said OK [Moore] 4:20
 (Bass Clarinet, Piano, Synthesizer, Bass)
10. Tower [Towner] 5:32
 (Horn, C. Guitar, Bass)
11. Minanet [Oregon] 3:03
 (Horn, Synthesizer, Bass)
12. Celeste [Towner] 6:37  R8
 (Horn, Piano, Bass)

Produced By Oregon
Recorded Jan 17-20, May 7-11. Oct 29-31, Nov 6-9 1993

 
トリロク・グルトゥが抜けて3人になったオレゴンの作品。ラルフへのインタビューで、トリロクは約7年間一緒に演奏したわけで、彼が自分の音楽をやりたがったのは当然、と答えていたことを覚えている。本作の録音が1993年1〜11月であるのに対し、1993年のオレゴンのコンサートではトリロクと一緒に演奏しているものがあり、詳しい経緯は不明。推測するに、彼の脱退に際して一定の予告期間があったのではないかと思う。本作を聴く毎に、パーカッション(リズム)のない寂しさに胸が痛くなってしまう。でもトリロクの演奏が大変パワフルだった分、サウンド的にバタバタしていたことも事実だ。本作はその反面として、室内楽的な静けさというか、サウンドの「間」を生かした音作りが新鮮といえないわけでもない。物事には総て裏表があるもんで、考えようによっては、欠点が長所になることもあるのだ。

1.「Charlotte's Tangle」は、ソプラノ・サックス・ソロのバックにおけるリズムセクションの伴奏が一風変わっていて面白い。グレンがアルコ(弓弾き)奏法でギーコギーコやるのに対し、ラルフはボディーを叩きながらギターを演奏してパーカッシブな効果を出している。本作全体に言えることで、大半の曲でシンセサイザーがフィーチャーされるが、そのサウンドは控えめで、専らホーン、ギター、ピアノ、ベースといったフロント楽器の引き立て役に徹しており、それは良い結果が出ていると思う。2.「Gekko」は「月光」のことかな?テーマのメロディー、コード進行などクールなムードの曲で、間奏の12弦ギターのソロは快感もの。続くオーボエのソロで、いつもだったらタブラとシンバルが入る局面で、ギター(クラギと12弦の多重録音)とベースだけの伴奏で通してゆく。3.「Prelude」はフリー・インプロヴィゼイションの曲で、冒頭に弦を擦る音が聞こえるが、どの楽器なのかよく分からない。グレンが弾くバイオリンかもしれないし、もしかしたらシンセサイザーかも? 途中本作においては数少ないパーカッションの音が効果音として入る。4.「Mariella」は、目が醒めるような素晴らしいジャズ・チューンだ。シンセサイザーのコード演奏をバックに、ソプラノ・サックスとピアノ、そして別のシンセがユニゾンでテーマを演奏する。この曲名は、ラルフのイタリア人の奥さんで舞台女優のマリエラ・ロ・サルドから取ったものだろう。クールで静謐な美しさに溢れた曲だ。ソロはソプラノ・サックス、ベース、ピアノの順に回され、ラルフのピアノプレイにぞっこん参ってしまうこと間違いなし! 5.「Spanish Stairs」は、シンセサイザーをバックに、クラシック・ギターがシンプルなメロディーを奏でる。このシンセサイザーの演奏(の一部)は、恐らくポールが吹くホーン型のものだろう。6.「Arctic Turn/Land Rover」は2曲目のフリー・ピース。ここでもパーカッション、紙を巻いてミュートしたギターやヴォイスが入るが、それらの一部はシンセサイザーかもしれない。

7.「Mexico For Sure」は、ユーモラス系統に属するグレン風作品で、シンセサイザーのコードがリズムを刻み、ソプラノサックスとピアノがゴスペル調のソロをとる。8.「Pale Sun」は、スローなテーマ・メロディーがオーボエで演奏される中、シンセサイザーがコードでバックに壁を作り、ピアノ、12弦ギター、ベースが音を切り込んでゆく。いつものオレゴンならば入るはずのパーカッションが聞こえないのが、何か不思議な感じだ。打楽器奏者の練習用トラックとして最適かも? 7.「I Said OK」は、ファンキー系列のグレンの曲で息抜き的存在。ラルフが思い切りブルージーなピアノソロを披露し、グレンのベースソロも独自の道を行く感じで素晴らしい。最後に登場するポールのバスクラリネット・ソロでは、ラルフのピアノはブギウギ調になり楽しい。10.「Tower」は一転してオレゴンらしい曲。ラルフ得意のブラジル音楽風の曲なんだけど、パーカッションなしの演奏であり、リズムがない分弱い感じがするが、開き直ったギターの伴奏が頑張っていて、それなりに面白い。オーボエに続くギター・ソロを、ベースの伴奏だけで演じ切る演奏力はさすがである。11.「Minanet」はオーボエをメインとした即興演奏。エンディングはベースの弓弾きがオリエンタルな雰囲気の音を出している。12「Celeste」は、ラルフ作による美しいメロディー、コード進行を持った前向きなムードのあるバラードで、ピアノの透明感溢れるタッチが素晴らしく、気持ちの良い余韻を残して終わる。

打楽器がない痛々しさを感じながらも、、聴き込むと、そのスカスカの「音空間」に魅力を感じる作品だ。疲れている時に聴くといいよ!


O20 Beyond Words (1995)   Chesky 
 





Paul McCandless: Oboe, English Horn, Soprano Sax, Sopranino Sax, Bass Clarinet, Whistle
Glen Moore: Bass
Ralph Towner: Classical Guitar, 12-String Guitar, Piano, Sythesizer

1. Rewind [Towner] 4:34   R28 
 (Soprano Sax, C. Guitar, Bass)
2. Ecotopia [Towner] 7:45  O15 O16
 (Soprano Sax、 Sopranino Sax, Piano, Synthesizer, Bass)
3. Green And Golden [Towner] 5:04  O24 R19 R21
 (Oboe, C. Guitar, Bass)
4. Pepe Linque [Moore] 5:16 O14 O27
 (Bass Clarinet, Soprano Sax, Piano, Synthesizer, Bass)
5. Les Douzilles [Towner] 9:38  O17 R13 R19 D45
 (Oboe, C. Guitar, Bass)
6. The Silence Of A Candle [Towner] 5:19  O2 O5 R2 D7 D27 D40
 (English Horn, Piano, Bass)
7. Sicilian Walk [Moore] 3:13  
 (Bass Clarinet, 12st. Guitar, Bass)
8. Leather Cats [Moore] 9:04  O15 O16
 (Soprano Sax, Piano, Synthesizer, Bass)
9. Witchi-Tai-To [Jim Pepper] 8:10  O4 O9 O16 O24
 (English Horm, Penny Whistle, Sopranino Sax, 12st. Guitar, Piano, Synthesizer, Bass)
Silver Suite [Oregon] 
 (Oboe, Bass Clarinet, Penny Whistle, Sopranino Sax, Synthesizer, Bass)
10. I  4:20
11. II  3:20
12. III  6:08


David Chesky: Producer
Norman Chesky: Executive Producer
Recorded March 20-23, 1995 at St. Peter's Episcopal Church, New York City

注 写真上: 当初発売されたCDの表紙
   写真下: 後に発売されたSACDの表紙

 

Chesky Recordsは、ピアニスト、プロデューサーのデビッド・チェスキーが弟のノーマン・チェスキーと1978年に設立したレコード会社で、最高のミュージシャンによる生の演奏を自然な音質で録音することを目指している。まず旧作の高音質リイシューで成功した彼らは、カスタムメイドの録音機材を駆使したオリジナル・レコーディングに挑戦、クラシック音楽の他、フィル・ウッズ、マッコイ・タイナー、ペギー・リーなどのジャズ、ルイス・ボンファなどのラテン、リヴィングストン・テイラーやケニー・ランキンなどのポピュラーといった幅広いジャンルの作品を素晴らしい音質で発表し、名声を確立した。また高品質のオーディオ機器の製造販売も行っている。

本作はマンハッタン・チェルシー地区 20丁目(8番街と9番街の間)にある古い教会 St. Peter's Episcopal Church(「Episcopal」とは「英国教会派」のこと)で録音された。この教会は1831年に建立されたが、最近は財政難のため建物の老朽化が激しく、音響効果の良さを生かしてコンサート会場として開放することで、修復のための資金集めをしているようだ。今回の録音では、通常のコンサートと同じように楽器をセッティングし、演奏を直接2トラック録音したそうだ。すなわち録音後にオーバダビングやリミックスを一切行わず、ここで聴かれる音楽はすべて生演奏で、観客のいないライブアルバムと言えるものだ。教会ホールの自然なリバーブ効果、空間の奥行きが大変素晴らしく、かつ各楽器の生々しさは尋常でない。それはオレゴン、ラルフ・タウナーの数ある録音のなかでも最高と言えるものであり、目の前で彼らが演奏しているかのようだ。本作は打楽器奏者がいないトリオでの演奏であるが、前作のような「何かが足りない喪失感」がなく、多重録音もしていないのに物足りなさが感じられないのは、ここでは彼らが長期間演奏してきた得意曲を主に取り上げていることもあるが、「間」を最大限生かした録音の良さも大きな理由にあげられると思う。

1.「Rewind」は、タウナーの「Re...」で始まる曲名のひとつであるが、本曲の音源はここだけなのは意外。パーカッションを入れれば軽快な曲になると思われるが、3人による静粛な演奏も悪くない。特にギターがソロを取るときはベースとのデュオになるわけだが、ラルフのギター、グレンのベースの音が大変豊かで、生理的快感を覚えるほどだ。シンセサイザーを前面にフィーチャーした2.「Ecotopia」は、プリセット・プログラミングによるシンセが和音とリズムを刻み、ラルフは左手はピアノ、右手をシンセサイザーに置いて厚みのある演奏を展開する。シンセサイザーの音に安っぽさや平板さがなく、温かみさえ感じてしまうのは、演奏者の技量だけでなく、技術進歩のなす技だろう。ポールのサックス・ソロ、ラルフのシンセソロは、いつもよりロック、フュージョンっぽくガッツがあり、3人演奏のため地味目である本作の中で、ビックバンドのような派手な音作りにより異彩を放ち、良いアクセントとなっている。一転して思索的な 3「Green And Golden」は、ラルフのお気に入りのようで、クラシカルな品格のある曲。テーマ、各人のソロ演奏とも、成熟して安定した味わいがある。4.「Pepe Linque」はグレン作のユーモラスなムードを持った曲で、彼の1715年製のコルツベース(写真で観るとボロボロに見える)の音が大変アコースティックな音で捉えられていて、ラルフのシンセサイザーの音にも負けていないのは、マイクセッティングや録音技術の離れ業だと思う。各楽器の厚みと豊かさは、多重録音なしの3人の演奏による生演奏とは信じられない!ラルフはシンセサイザー、ピアノ、ポールはバス・クラリネット、ソプラノ・サックスを持ち替えて演奏するので、大変変化に富んだ音作りとなった名演。5.「Les Douzilles」は、ブラジル風の軽快な曲で、これを打楽器なしで3人で演奏するのも、ひとつの個性的な音作りであると思う。これらの傾向はラルフのギターソロ演奏にも反映され、「ANA」 R19あたりからは、一人で演奏するのは不可能と思えるような曲にまで果敢に挑戦するようになってゆく。ここでのグレンのベースソロは、私のお気に入りだ。

愛奏曲 6.「The Silence Of Candle」は、ここではラルフのピアノによる演奏。イングリッシュ・ホルンがメロディーを奏でるテーマは、室内楽的な気品に満ちていて、ピアノソロはシンプルであるが、切れ味良く情感がこもったタッチで気持ちがよい。グレンのベースソロもメロディック。7.「Sicillian Walk」はグレンの曲で、これもダークなユーモアが感じられる曲。バスクラリネットとベースのユニゾンによるリフがユニーク。本作では出番が少ない12弦ギターによる抑制の効いたソロがたっぷり聴ける。8.「Leather Cats」も前曲の続編のようなムードの曲で、ベースが珍しく4ビート的なリフを刻む中で、ソプラノサックスとシンセサイザーが自由に泳ぎまわる。シンセサイザーは、時に現代音楽におけるパーカッション的な音を出し、曲に変化を与えている。ここでのラルフのシンセ演奏は色々な音を出しており、聴きものだ。 エンディングは前衛音楽風になる。 9.「Witch-Tai-To」も彼らがいつもステージで演奏している曲で、ゴスペル、スピリチュアル感が生演奏によって一層濃密になっているような気がする。ここでやっとラルフの12弦のアルペジオを聴くことができ、ほっとする。ポールのホゥイッスルのソロは名人芸だ。アイリッシュ音楽でよく使用される楽器で、それ自体は大変シンプルなもので、単に音を出すのは簡単だけど、これを表情豊かに変化に富んだ感じで演奏するのは大変難しいものだ。続くソプラノサックス、ピアノソロも大変よろしい。自由なインプロヴィゼイションと鉄壁のアンサンブルとの調和が見事。最後の曲「Silver Suite」は、3部からなる即興演奏曲で、ぶっつけ本番勝負の緊張感が持ち味だ。「I」はオーボエ、アルコ弾きのベース、シンセサイザー、「II」はバス・クラリネット、サックス、ベース、シンセサイザー、「III」はホゥイッスル、バス・クラリネット、ベース、シンセサイザーによる不協和音に満ちた音世界だ。

ということで、いつ聴いても素晴らしい好盤だ。
 

[2007年3月作成]

[2023年3月追記]
名前は「チェスカイ」でなく、「チェスキー」でした。Sさん、Iさんありがとうございました。


 
O21 Northwest Passage (1997)   Intuition 
 

Paul McCandless : Oboe, English Horn, Soprano Sax, Sopranino Sax, Bass Clarinet
Glen Moore : Bass
Ralph Towner : Classical Guitar, 12-String Guitar, Piano, Sythesizer
Arto Tuncboyaciyan : Drums, Percussion, Voice (1,2,5,6,8,10,11)
Mark Walker : Drums, Percussion (3,4,7,9,13,14)

1. Take Heart [Towner] 5:12  
 (Soprano Sax, C. Guitar, Keyboards, Bass, Drums)
2. Don't Konck On My Door [Tuncboyaciyan, Moore] 2:11  
 (Bass, Vocal, Drums, Percussion)
3. Lost In The Hours [McCandless] 5:39
 (Soprano Sax, C. Guitar, 12st. Guitar, Piano, Keyboards, Bass, Drums, Hand Drums)
4. Over Your Shoulder [Towner, Walker] 1:42 
 (12st. Guitar, Drums, Hand Drums)
5. Claridade [Towner] 6:34  R15 R22 D45 
 (English Horn, C. Guitar, Piano, Keyboards, Bass, Drums, Triangle, Shakers)
6. Joyful Departure [Towner] 6:32  R19 R21
 (Soprano Sax, C. Guitar, Bass, Drums, Percussion)
7. Nightfall [Towner] 8:38  R14  
 (Sopranino Sax, 12st. Guitar, Keyboards, Bass, Drums, Hand Drums)
8. Under A Dorian Sky [Tuncboyaciyan, Oregon] 1:20
 (Oboe, 12st. Guitar, Bass, Cymbals, Hand Held Microphone)
9. Fortune Cookie [Towner] 4:49
 (Soprano Sax, Bass Clarinet, Piano, Bass, Drums, Hand Drums)
10. Under The Mountain [Tuncboyaciyan, Oregon] 1:52 
 (Oboe, 12st. Guitar, Bass, Vocal Sumbals, Hand Held Microphone)
11. L'Assassino Che Suona (The Musical Assasin) [Moore] 3:35
 (Soprano Sax, Keyboards, Bass, Drums)
12. Intro [Towner, Moore] 1:22
 (Keyboards, Piano, Bass)
13. Yet To Be [Towner] 4:14  O5 O16
  
 (Oboe, Piano, Bass, Drums, Hand Drums, Percussion)
14. Nortwest Passage [Oregon, Walker] 2:56
 (Oboe, Keyboards, Bass, Drums, Hand Drums, Percussion)

Steve Rodby : Producer
Recorded Sept. & Oct. 1996 at Chicago Recording Co., Chicago, IL

 

新生オレゴンのデビュー作といえる作品。オレゴンを初期・中期・後期に分けるとすると、「Our First Record」 1970録音 O1から「Crossing」 1985 O14までが誕生期、および停滞・試行錯誤を乗り切った発展期が「初期」となる。コリン・ウォルコットの事故死という悲劇に直面して、トリロク・グルトゥを迎えて「Ecotppia」 1987 O15を製作し、スタイルを変えた転換期、彼が抜けた後に3人で活動した「Beyond Words」1995 O20までの過渡期が「中期」だ。そして本作から始まる「後期」は、再び打楽器奏者を迎えて、より純粋な音楽を目指してゆく熟成・成熟期に該当するのだ。本作のコンセプト、サウンドメイキングが非常にクリアな感じがするのは、プロデューサのスティーブ・ロドビーの存在が大きいと思う。彼はアーティストとしては地味で、自己名義のアルバムはないが、パット・メセニーのグループで長くベーシストを勤めた他に、チャック・マンジョーネ、トム・パクストン、オレゴン人脈ではポール・マッキャンドレスなど幅広いジャンルのセッションに参加。またそれらの作品の多くのプロデュースも担当している人だ。

本作ではスタイルが異なる2名の打楽器奏者が招かれている。アート・トゥンクボヤチアン(と読むのかな?)は、1957年トルコ生まれのアルメニア人。幼い頃から才能を発揮して現地の音楽シーンで活躍した後、1981年アメリカに移住し、ジャズ、ワールド・ミュージックで名声を確立する。ポール・モチアン、ジム・ペッパー、アル・ディメオラ、ウェイン・ショーター、ジョー・ザウィヌル、マイク・マニエリ、ポール・ウィンター等のアルバムに参加、自己名義および自分のグループで多くのアルバムを発表している。彼はダウン・トゥ・アースで野生的なスタイルを身上とするアーティストで、コーラ瓶を脇に抱えて、そこに息を吹き込んでジャグバンドのボトルのような音を出しながら、自ら声を発し、同時に両手でタンバリンを叩きながら、一人だけで立派な音楽を奏でる映像を観た時は本当に驚いたものだ。もう一人のマーク・ウォーカーは1961年シカゴ生まれで、主にキューバやブラジルのラテン系のジャズ・ミュージシャンのアルバムへの参加が多く、その他にポール・マッキャンドレスやデイブ・リーブマンなどのジャズ、スペンサー・ブリュワーなどのニューエイジ音楽の作品にも参加している。またボストン・バークリー音楽院で、パーカッション科の準教授(助教授の上、教授の下に位置する役職)を勤めている。彼の演奏スタイルはより洗練されたもので、オレゴンのメンバーと意気投合したらしく、その後の作品に正式メンバーとして参加している。本作では二人の個性の違いをうまく使いわけている。

タウナー作の1.「Take Heart」は、本作の1曲目に相応しい、はっとするような透明感溢れるサウンドだ。本作全般の特徴でもあるが、シンセサイザーの音を最小限にし、各人の楽器のアコースティックな響きを前面に出している。やはりオレゴンは打楽器付きが良いなあと思ってしまう。 2.「Don't Knock On My Door」は、ベースと打楽器のワイルドな演奏に乗せて、アートのヴォイスが炸裂する。それが本作にワールド・ミュージック的なカラーを与えている。3.「Lost In The Hours」は、流れるようなリズムに、美しいメロディーとコード進行が絡む。間奏における12弦ギターの抑制が効いたソロ、ソプラノ・サックスの響き、最後のナイロン弦によるテーマ・メロディーの演奏など、総ての楽器の音色が磨き込まれ、輝いているようで、このような曲を聴くと頭の中が快感で震えるようだ。4.「Over Your Shoulder」は、パーカッションと12弦による小品。5.「Claridade」は、ラルフが音楽を担当した映画のサウンドトラック・アルバム 「Un' Altra Vita 」1992 R15に「Sea Scape」として収録されていた曲で、ヨーロッパ的な陰りのあるメロディーが印象的。テーマのメロディーはイングリッシュ・ホルン、間奏のソロはクラシカル・ギターがとる。なおこのメロディーは、その後も1996年のマリア・ジョアンの「Fabula」 D45で、ポルトガル語の歌詞付きでカバーされ、さらに2000年にはマリア・ピア・デヴィートが「Verso」R22で、イタリア語の歌詞で「Chiara」として歌っている。6.「Joyful Departure」は、ラルフのソロ演奏作品「ANA」R19とほぼ同時期に取り上げたもので、前向きで明るいメロディーで、聴いててワクワクする曲だ。やはりラルフのギターが前面に出ている。アートのドラムスはマークよりも野性味が溢れたサウンドで、曲によって二人をうまく使い分けている。7.「Nightfall」は、1992年のラルフのソロ作「Open Letter」1992 R14 に入っていた曲で、この手のクールな曲のリズムには、繊細さも持ち合わせるマークのスタイルはピッタリだ。ソロはソプラニーノと12弦ギター。8.「Under The Dorian Sky」は、メンバーによる即興演奏で、口直し的な効果がある。9.「Fortune Cookie」は、ラルフのエバンス風ピアノが軽快な曲で、ポールのソプラノが気持ち良さそうにヒラヒラと舞う。間奏のグレンのベースソロ、続くラルフのソロと、本作の中で最もジャズらしい作品だ。10.「Under The Mountain」も即興曲で、アートのエキゾチックなヴォイスが曲の雰囲気を支配している。11.「L'Assassino Che Suona」は、グレンお得意のダークなリフが強烈な印象を残す曲で、本作では珍しくシンセイザーが前面に出ている。ベースと打楽器の強靭なリズム感がスゴイ。12.「Intro」は、シンセサイザーをバックにベースがメロディーを演奏する。13.の序曲としては大変効果的。13.「Yet To Be」は、22年ぶりの再録音で、本作の実質トリを勤める作品だ。ラルフのピアノは、1975年の時のような迸るような若い疾走感はないが、時を経て習得した百戦錬磨の懐の深さが感じられる。14.「Northwest Passage」は、エピローグ的な位置付けの曲で、ここでは大変クールな雰囲気で即興演奏を行っている。

ジャケットデザインも素晴らしく、添えられたラルフの解説も力が入っていて、実に丁寧に、そしてしっかりプロデュースされたオレゴン後期の名作だ。


[2007年12月作成]


 
O22 Music For A Midsummer Night's Dream (1998)  


 

[Oregon Trio]
Paul McCandless : Oboe, English Horn, Soprano Sax, Sopranino Sax, Bass Clarinet, Penny Whistle
Glen Moore : Bass, Piano (13)
Ralph Towner : Classical Guitar, 12-String Guitar, Piano, Keyboards


1. Prologue [Towner] 3:05
 (Piano, Keyboards, Oboe, Bass)
2. Puckish Business [Towner, W. Shakespeare] 1:27
 (C. Guitar, English Horn)
3. Love In Idleness [Oregon] 2:07
 (Keyboards, Penny Whistle, Bass)
4. What Hempen Homespuns Have We Swaggering Here? [Oregon] 1:16
 (12 St. Guitar, Sopranino Sax, Bass)
5. Titania's Lament [BW Gonzalez, Oregon, W. Shakespeare] 2:11
 (12 St. Guitar, Keyboards, Oboe, English Horn, Bass)
6. Oberon's Blessing [Towner, W. Shakespeare] 1:47
 (Piano, Keyboards, English Horn)
7. Bottom's Dream [Towner, Moore] 2:17
 (C. Guitar, Bass)
8. Nightmare [Towner, Moore] 2:29
 (Keyboards, Bass)
9. Hermia's Galliard [Towner] 2:18
 (C. Guitar)

10. Suite [Oregon] 2:55
 a) Spotted Snakes, Thorny Hedgehogs
 b) The Fairies Enter
 c) Oberon's Wrath
 (Keyboards, Bass Clarinet, Sopranino Sax, Bass)
11. Music Box [Towner] 1:10
 (Piano, Keyboards)
12. The Ousel Cock [Moore, W. Shakespeare] 1:13
 (Piano, Bass Clarinet, Bass)
13. Now The Hungry Lion Roars [Moore, W. Shakespeare] 1:45
 (Piano, Bass Clarinet, Bass)
14. Pursue Me Not [Moore] 0:30
 (Bass Clarinet, Bass)
15. Lord, What Fools These Mortals Be! [Oregon] 1:11
 (Piano, Keyboards (Bandoneon Solo), Sopranino Sax, Bass)
16. The Moon Looks With A Watery Eye [Moore, Towner] 3:42
 (Piano, Keyboards, Bass (Bowed Solo))
17. Serenade [Towner] 2:31 O8
 (C. Guitar, English Horn, Bass)
18. Rehearsing For The Duke [Oregon] 3:00
 (Keyboards (Synth, Percussion), Sopranino Sax, Bass)
19. Spirits Of Another Sort [McCandless] 1:28  O23
 (Keyboards, English Horn, Bass)
20. Oberon And Titania's Dance [Oregon] 1:47
 (Piano, Keyboards, Oboe, Bass)
21. Obelon's Blessing (Reprise) [Towner, W. Shakespeare] 1:47
 (Piano, Keyboards, English Horn)

The Oregon Trio, Penny Metropulos, Todd Barton, Jeremy J. Lee : Producer:
Recorded at Oregon Sound Recording, Medford, Oregon, Jan. 31-Feb. 5 & Apr. 10-12, 1998

 



 オレゴン・シェイクスピア・フェスティバルは、シェイクスピアその他の古典劇の上映および教育を目的とする非営利団体で、1935年設立。本拠地はオレゴン州 Ashland (カリフォルニア州の州境に近い内陸部にある都市)。「フェスティバル」という名称から、一定期間のイベントを指すように思われるが、実際は多くの常勤スタッフを擁し、アメリカ各地で様々な活動を年中行っており、この方面の団体としては全米屈指のものだそうだ。

毎年多くの劇が上演されるが、1998年のシェイクスピアの喜劇 「真夏の夜の夢」の製作では、オレゴンの3人が招かれ、音楽を提供した。本件に関しては、わずかの資料しか入手できなかったため、詳細を語ることはできないが、彼らは劇のリハーサルに立会い、その場で作曲したという。そして関係者を招いたホームコンサートを行った後に、近くの都市メドフォードで本作を録音したものと思われる。オレゴン・トリオと共にプロデューサーとしてクレジットされているペニー・メトロプロスは舞台監督、トッド・バートン、およびジェレミー・ J. ・リーは音楽監督だ。これらの曲は、劇中の台詞の洪水のなかで、シーンの合間、あるいは登場人物が踊る場面などで挿入されたものと推定される。

原作はウィリアム・シェイクスピアが1590年代に書いた全5幕の喜劇で、アテネ近郊の森を舞台に、貴族、職人、妖精達が繰り広げる物語だ。男女は恋、妖精達は養子の問題をかかえ、早とちりや勘違いによる媚薬の使用により、話は思わぬ展開を見せるが、最後はハッピーエンドとなる。本作の場合、CD表紙および公演のスティル写真から、現代的な脚色がなされたものと思われ、そういう意味でオレゴンの連中によるジャズ、現代音楽がフィットしたのだろう。ラルフ・タウナーやオレゴンの連中は、以前からドキュメンタリー映像作品や舞台劇の音楽を担当していたようだ。ラルフとポールは後年、シェイクスピアの「嵐」の音楽を製作したそうだ。通常はその場限りのもので後に残らないが、本作の場合はCDの販売に結びついたもので、この手の作品としては出来が良かったためと思われる。

1.「Prologue」は、霧が立ち込めた早朝の景色を思わせる曲で、シンセサイザーをバックにピアノとオーボエが漂うようなメロディーを奏でる。2.「Puckish Business」は、主要な登場人物である、いたずら好きの小妖精パックのことだろう。ここではクラシック・ギターの伴奏にイングリッシュ・ホルンが主旋律を担当するクラシカルな曲。3.「Love In Ideleness」は、シンセの和音をバックに演奏されるペニーホィッスルが、オカリナの音色のようだ。
4.「What Hempen Homespuns Have We Swaggering Here?」は本作では珍しいリズミカルな曲で、12弦ギターとベースによるリズムとサックスの演奏は、いかにもオレゴンらしいサウンド。5. 「Titania's Lament」は、シンセの和音とベースそして12弦のアルペジオを背景とした、オーボエとイングリッシュ・ホルンの多重録音による演奏だ。6.「Oberon's Blessing」は、ピアノとホルンによるクラシカルで美しい旋律が印象的。タイトルのオベロンは妖精の王様で、花の汁から媚薬を作り、パックに使わせる。タイタニアはオベロンの妻で、養子をめぐり夫と喧嘩する。7.「Bottom's Dream」は、クラシカルギターとベースの即興的なデュエット。ボトムは劇中に登場する職人のひとりで、パックの魔法により頭をロバにされてしまう。8.「Nightmare」は、シンセサイザーによる弦の響きと、ベースの弓弾きによる不安定で不気味な雰囲気が表現される。生理的に不安感をあおるこの手の曲は、サウンドトラックなどの効果音的な音楽に特有のものだ。9.「Hermia's Galliard」はクラシカルなギターソロで、ラルフの作曲手腕が光る。ハーミアは劇中のヒロイン。

10.は組曲とあるが、完全な即興曲。11.「Music Box」は、オルゴールを思わせるシンセとシンプルなピアノによるメロディーが愛らしい。続く3曲はグレン・ムーアの曲で、彼の持ち味がよく出ている。12.「The Ousel Cock」は、クラシック・ジャズのパロディーのような演奏で、彼独特の不思議なユーモアがある。13.「Now The Hungru Lion Roars」、14.「Pursue Me Not」は、バス・クラリネットを中心した現代音楽のアンサンブル。15.「Load, What Fools These Mortals Be!」では、オレゴン初のタンゴを大真面目に演奏しているのが傑作だ。ラルフがシンセでバンドネオン風のソロをとるのが楽しい。16.「The Moon Looks With A Watery Eye」では、シンセの和音をバックにグレンの弓弾きベースがムーディーな音を出す。17.「Serenade」は、1978年の作品「Violin」 O8の再演。オリジナルはバイオリンとの演奏だったが、ここではイングリッシュ・ホルンとの共演で、曲の雰囲気はそれほど変わっていない。
18.「Rehearsing For The Duke」は、4.と同様シンセとベースがリズミカルで、ポールのサックスによるインプロヴィゼイションがジャズっぽい作品。19.「Spirits Of Another Sort」は、オレゴンの次作品「Oregon In Moscow」O23にも収められていた、ポールの作曲による交響楽的な作品で、ここではラルフのシンセがオーケストラの響きを出している。20.「Oberon And Titania's Dance」は、シンセサイザーのリズミカルなリフに乗せてオーボエが歌う曲で、妖精の踊りというだけあって、ファンタスティックなサウンドで、本作中ベストの出来。すぐに終わってしまうのが勿体無く、将来オレゴンのレパートリーとして、じっくり演奏して欲しい逸品。21.「Oberon's Blessing」は、6.とほとんど同じ感じで、演奏時間が同じため、同一録音の繰り返しと思われる。

最初聴くと、各曲があまりに短く、習作のような物足りなさを感じたが、聞き込むとなかなか良いと思うようになった。これはオレゴン版「一千一秒物語」(稲垣足穂作によるショート作品集)なのだ。掌に乗る根付細工のように小粒で、俳句のようにシンプルな作品に愛らしさを感じるようになると、違う世界が開けてくる作品なのだ。

本作品は一般には流通しておらず、オレゴン・シェイクスピア・フェスティバル専属のギフトショップ 「Tudor Guild」(HPアドレス www.tudorguild/org/home.php)、またはオンラインショップ「Song Peddler」(HPアドレス www.songpeddler.com/)より入手できた。

[2008年2月作成]


 
O23 Oregon In Moscow (2000)   Intuition  
 


Ralph Towner : Classical Guitar, 12-String Guitar, Piano, Keyboards
Paul McCandless : Oboe, English Horn, Soprano Sax, Bass Clarinet
Glen Moore : Bass
Mark Walker : Drums, Tympani, Cymbals, Doumbek, Djembe, Percussion

Tchaikovsky Symphony Orchestra Of Moscow : Orchestra
Mikhail Shestakov : Concertmaster
George Garanian : Conductor

Rich Breen : Engineer
Steve Rodby : Producer

[CD1]
1. Round Robin [McCandless] 6:36
 (Oboe, Soprano Sax, C. Guitar, Bass, Drums, Percussion, Orchestra)
2. Beneath An Evening Sky [Towner] 5:04  
O17 R8 R12 R25
 (English Horn, 12st. Guitar, Bass Drums, Orchestra)
3. Acis And Golatea [Towner] 7:54
 (Oboe, C. Guitar, Bass, Orchestra)
4. The Templars [Towner] 8:07
 (Oboe, Piano, Bass, Drums, Tympani, Orchestra)
5. Anthem [Towner] 5:58  R23 
 (B. Clarinet, Soprano Sax, C. Guitar, Syhthesizer, Bass, Drums, Doumbek, Djembe)
6. All The Mornings Bring [McCandless] 6:32  D7
 (Oboe, C. Guitar, Bass, Drums, Doumbek, Djembe, Orchestra)
7. Along The Way [Towner] 3:26  O12 R6
 (Oboe, C. Guitar)
8. Arianna [Moore] 2:05  O13
 (Bass)
9. Icarus [Towner] 3:41  O12 O16 R2 R3 R25 D4 D7  
 (Oboe, 12st. Guitar, Bass, Drums, Doumbek, Djembe )

[CD2]

10. Waterwheeel [Towner] 8:43  O9 O12 O16 R7
  
 (Oboe, C. Guitar, Bass, Drums, Doumbek, Djembe )
11. Spanish Stairs [McCandless] 5:14  
O19
 (English Horn, C. Guitar, Piano, Bass, Drums, Orchestra)
12. Free Form Piece For Orchestra And Improvisors [Towner] 8:27
 (Oboe, B. Clarinet, C. Guitar, Piano, Synthesizer, Bass, Drums, Percussion, Orchestra)
13. Spirits Of Another Sort [McCandless] 2:33  O22
 (Englsh Horn, Piano, Bass, Symbals)
14. Firebat [Moore] 10:49
 (Oboe, B. Clarinet, C. Guitar, Bass, Drums, Doumbek, Djembe, Orchestra)
15. Zephyr [Towner] 6:14  O15
R26
 (Oboe, C. Guitar, Bass, Drums, Orchestra)


Recorded at State Recording House GDRZ, Studio 5, Moscow, June 1999

 

「Northeat Passage」O21の成功に気を良くした Intuition 社は、次作としてオレゴンとオーケストラの共演盤という野心的な企画を立ち上げた。前作のプロデューサー、スティーブ・ロドビー(パット・メセニー・グループのベース奏者として有名な人)が最初から作業に加わったという。オーケストラとの録音は、広いスタジオや多人数のミュージシャンの確保など、技術的・予算的な問題が多く、相当苦労したらしい。アメリカ本国では難しいということで、ロシアの有力ジャズミュージシャンであるイゴール・バットマンの口利きという、スティーブが昔演奏旅行で訪れたロシアの人脈から、モスクワ放送交響楽団(日本での呼び名は、同楽団の旧名称 「Moscow Radio Symphony Orchestra」によるもの)との共演が実現した。同楽団は1930年に設立されたロシア屈指の名門オーケストラで、ウラジミール・フェドセ−エフの指揮のもとで、全世界で演奏旅行を行い、多くのレコード、CDを録音している。バイオリニストのミクハイル・シェスタコフは、1992年以来同楽団のコンサートマスターを務めている人。指揮者のジョージ・ガラニアンは、クラシック畑の人ではなく、ロシアのビッグバンド・ジャズの第一人者として有名な人で、この企画のために特別に同交響楽団の指揮を担当したとのこと。本作は、強力なロシア側スタッフのおかげで、安易な妥協のない質の高い作品になったのだ。

オレゴンのミュージシャンは、もともとクラシックの素養があり、彼らが作曲し演奏する曲自体に交響曲的な響きがあるため、オーケストラとの共演は音楽的に自然なものといえる。実際、「Icarus」のスコアは、オレゴン結成前のポール・ウィンター・コンソート時代の1970年に作られたものであったり、「All The Mornings Bring」、「Free Form Piece For Orchestra And Improvisors」は、1979年デニス・ラッセル・デイビスが指揮するセントポール・チェンバース・オーケストラとの共演のためにアレンジされたもの。その後も指揮者との交流は続き、その中で「Firebat」や「Beneath An Evening Sky」のアレンジは、それらのコンサートで書かれたものという。また「Spanish Staris」、「Waterwheel」、「Zephyr」などのスコアが各自のソロキャリアの過程で作られたが、今までそれらの曲を公式に録音する機会がなく、今回初めて実現したわけだ。この作品のために作られた「Round Robin」、「Acis And Galatea」、「The Templars」などに加えて、作品のバランスをとるため、グループのみの演奏曲を数曲加えて、CD2枚組の大作が出来上がった。録音にあたっては、指揮を担当したプロデューサーのスティーブはもちろん、同行したエンジニアのリッチ・ブリーンは、現地の録音機材の修理などいろいろ苦労したらしい。その分バンドは音楽により専念できたわけで、本作の成功は、企画・製作チームの努力のたまものといえる。

1.「Round Robin」は、ポール・マッキャンドレス会心の作で、オーケストラの演奏を想定して作曲されたものと思われ、ワクワクするような彩りに溢れたストリングスがフィーチャーされる。バンドによる間奏部分では、ラルフのギターがソロをとり、途中からオーケストラがバックで加わる。続くソロはポールのソプラノサックスだ。馥郁たる香りが漂うようなソロで、バックのストリングスもしっとりしている。構成およびアレンジが巧みで、本曲が2001年のグラミー賞 「Best Instrumental Composition」と「Best Instrumental Arragement」の2部門にノミネートされたのもナルホドと納得できる素晴らしい出来だ。2.「Beneath An Evening Sky」は、ラルフのソロアルバムが初出で、その後オレゴンでも録音された曲。いつもは12弦ギターが担当するメランコリックなリフに、オーケストラが加わるのが新鮮。今回の製作にあたり、オーケストラとバンドの演奏は一発録りをしたとのことで、ラルフの12弦のソロの最中も、オーケストラがしっかりバックを付けている。全体的にアンサンブルを重視した控えめな音作りだ。3 「Acis And Golatea」も本作のために作曲されたとのことで、オーケストラの演奏がメインとなっている交響曲的な曲。ふんわりとした厚みのあるストリングスの響きが気持ちよく、ラルフはこんな風に演奏したかったんだろうな〜と思わせる曲だ。ストリングスをバックに、クラギがソロを弾き、後半のテーマはオーボエとオーケストラによる演奏。4.「The Templars」のイントロは、ホーンとストリングスによる重厚な演奏で、その後にオーボエとピアノの演奏が加わる。間奏部分はジャズ調のリズムとなり、オーケストラとオーボエ、ピアノによる入念なアレンジによるアンサンブルとなる。間奏のソロはラルフのピアノが担当するが、ここでもオーケストラがしっかり鳴っている。という意味で、いままでのジャズのミュージシャンがオーケストラと共演した、付けたしアレンジによる「With Strings」的作品とは一線を画するもので、オーケストラと真の意味で融合した作品といえる。

5.「Anthem」はオレゴンのメンバーのみによる演奏。ラルフの同名のソロアルバム R23に半年ほど先駆けて録音されたもので、イントロのリフはここではグレンのベースが担当している。もし収録曲のすべてにつきオーケストラが加わると、雰囲気的に重くなり、かつ単調になると思われ、作品に変化をつけるためにバンドのみの演奏も収録したのだろう。マーク・ウォーカーが演奏するジャンベ(Djembe)は、アフリカの打楽器で、首・肩・腰にぶら下げて演奏する太鼓のこと。ドゥンベック(Doumbek)は主に中近東で使われる杯型の太鼓のこと。ソロはクラシックギターとソプラノ・サックス。6.「All The Mornins Bring」は、ポール・ウィンター・コンソート時代の古いレパートリー(D7参照)で、オレゴンの演奏しかもオーケストラとの共演で聴くことができるのは感慨深いものがある。7.「Along The Way」は、ラルフとポールのデュオで息抜きの曲。本作の舞台であるロシアのムードに合っていると思う。8.「Arianna」はグレンのベースソロで、次の曲のイントロの役目にあたるものだ。9.「Icarus」のアレンジは本当に素晴らしい! テーマ部分におけるオーケストラの響きは宇宙空間をどこまでも広がってゆくような雄大さに溢れていて感動的だ。CD解説書によると、この曲の演奏が終了した後に、オーケストラの団員から嵐のような拍手や楽器を叩くなどのアプローズが沸き起こったという。そんなエキサイティングな感じがリスナーにも伝わってくる逸品。

CD2の最初の曲 10.「Waterwheel」は、オレゴンとしてコンサートでもよく演奏される曲。ここではクリエイティブなアレンジのストリングスがフィーチャーされ、その演奏はラルフのソロの間も続く。そしてその後はオーケストラのみの独演、ラルフのギター独奏部分もあり、この曲のレベルを一層押し上げている。11.「Spanish Stairs」は、ポールの作曲による静かな曲。12.「Free Form Piece For Orchestra And Improvisors」は、オーケストラと一緒に即興演奏をやろうという野心的な作品。もちろんオーケストラが完全な即興を行うことは不可能なので、ラルフはいくつかのパターンのスコアを書き、それらをバラバラに並べ替えて、その順番に基づきオーケストラが演奏したという。いつものフリーフォームとは雰囲気の異なるユニークな作品となった。 13. 「Spirits Of Another Sort」はポール作のクラシカルな曲。14.「Firebat」はグレン作らしいダークな雰囲気の曲で、マークのパーカッション・ソロを聴くことができる。その後はオーボエ、クラシックギターのソロが続き、フリーな感覚のソロが展開される。後半のグレン風リフはストリングスによる聴き応えある演奏。その後は、バスクラリネット、ベースの独奏がある。本作ではグレン・ム−アがおとなしく、演奏面でも目立たないが、通常のオレゴンの演奏での彼の役割は、リズム以外にオーケストラルなサウンドを提供することであることが改めてよくわかった。したがって本作でオーケストラが演奏する場合は、彼が目立つ必要がないのだ。13.「Zephyr」では、繊細なオーケストレイションをバックにオレゴンの連中が淡々と演奏する。テーマ部分のラルフのアルぺジオ奏法に絡むストリングスが面白い。

彼らが長年やりたかった作品であり、一流オーケストラとの共演により、その夢が見事にかなえられたといえよう。


[2008年8月作成]


 
O24 Live At Yoshi's (2002)   Intuition 
 

 
Ralph Towner : Classical Guitar, 12-String Guitar, Frame Guitar, Piano, Synthesizer
Paul McCandless : Oboe, English Horn, Soprano Sax, Bass Clarinet
Glen Moore : Bass
Mark Walker : Drums, Percussion

Rich Breen : Engineer
Steve Rodby : Producer


1. Pounce [Towner] 7:27
 (Soprano Sax, Synth. Guitar, Bass, Drums)
2. The Prowler [Towner] 6:51  R21 R23
 (Soprano Sax, C. Guitar, Bass, Drums)
3. Distant Hills [Towner] 6:36  O3 R6
 (English Horn, C. Guitar, Bass, Drums)
4. Short n' Stout [Towner] 4:20  R14
 (Soprano Sax, Synth. Guitar, Bass, Drums)
5. Green And Golden [Towner] 7:06  O20 R19 R21 
 (Oboe, C. Guitar, Bass, Drums)
6. I'll Remember August [Towner] 8:38 D47
 (Soprano Sax, Piano, Synthesizer, Bass, Drums)
7. Raven's Wood [Towner] 10:02  O8 R1
 (Oboe, C. Guitar, Bass, Percussion, Drums)
8. Crocodile Romancing [Moore] 6:05  
 (Bass Clarinet, 12st. Guitar, Bass, Percussion, Drums)
9. What River Is This [Oregon] 9:09  
 (Bass Clarinet, Oboe, 12st. Guitar, Synthesizer, Bass, Percussion, Drums)
10. Witch-Ti-To [Jim Pepper] 7:40 O4 O9 O16 O20  
 (English Horn, 12st. Guitar, Bass, Percussion, Drums)

Recorded at Yoshi's Oakland CA, August 29 - September 1, 2002


Yoshi'sは、カリフォルニア州オークランドにある日本料理屋兼ライブハウスで、1973年に3人の日本人がバークレーで始めた小さな寿司バーが始まり。創業者1人の名前「Akiba Yoshie」が店の名前の由来となったという。店は繁盛し彼等は1977年にオークランドに移転。そこでジャズのライブを始めて有名アーティストを招き、その方面で名声を獲得する。2006年には著名な料理人Kamio Shotaro氏をシェフに迎え、料理面でも超一流となった。さらに2007年にはサンフランシスコのフィルモア地区に2号店をオープンしている。レストランに隣接するライブスペースは収容人員300〜400人で、豪華さはないが音響は抜群という。レストランで食事をした人は、良い席でライブを観れるというシステムで、日本料理と合わせて値段的にはかなり高そうだ。オレゴンはこの場所で22年ぶりのライブ盤を製作した。CDジャケットには「2001年8月録音」とのみ記載されているが、ポール・マッキャンドレスのホームページの資料によると、当時オレゴンは当地で 8月29日〜9月1日にコンサートを行っており、その間の演奏からベスト・トラックを選び出したものと思われる。本作は前2作に続き、スティーブ・ロドビー(パット・メセニーのベーシスト、プロデューサーとして有名)がプロデュースを担当しただけあって、最高の録音技術者と設備をそろえ、曲目や演奏内容等について入念な企画と準備を行ったうえで臨んだプロジェクトだったことが明白。同時期のオレゴンの他のライブ音源と比較してもその完璧度の違いは歴然で、非の打ち所がない出来であると思う。

司会者のアナウンスの後に始まる 1.「Pounce」は新曲。ここでラルフはフレイム・ギターという新しい楽器を弾いている。もともと旅行用のコンパクトなギターの開発から始まり、ボディーをなくすことでハウリングのない完璧なピックアップの開発に成功したという。ラルフはこれをシンセサイザーにつないでいるが、昔の電子楽器にありがちな安っぽさがなく、深み・厚みがある音を出すことに成功している。最初の曲からマーク・ウォーカーのドラムソロがフィーチャーされる。オレゴンは、トリロク・グルトゥと別れてからは、しばらくの間3人で活動していたが、ライブ音源の資料によると1997年頃からマークを入れた4人でのコンサート活動を開始したらしい。本作でのドラムスはオレゴンに完全に溶け込み、バンドに新しい生命を与えていることがわかる。2.「The Prowler」は、ラルフのソロアルバム「Anthem」2001 R23に収められていた曲であるが、1998年のビデオ「In Concert」 R21では名無しの新曲として披露されていた。ここではポールのソプラノサックスのプレイがイカしている。それにしても臨場感と奥行きがある素晴らしい録音だ。1.「Distant Hills」は、ラルフのクラギのアルペジオをバックに、ポールがイングリッシュ・ホルンをクラシカルに吹く。ここではラルフが新しいパートを作曲して付け足したため、曲のスケールが格段に大きくなった。ラルフがギターでソロをとる場面で、ギターのアルペジオがバックで流れるが、これは彼が最初に弾いたパートを機械に記憶してループさせているか、あるいは最初からプログラミングされているかのどちらか。テーマを吹くイングリッシュ・ホルンもシンセサイザーに繋いでいるようで、通常と異なる厚みのある音を聞かせる。4.「Short n' Stout」では、ラルフはソロの R14や他のライブ音源でクラシックギターを演奏していたが、ここでのシンセサイザーのような音は、前述のフレイム・ギターを弾いているものと思われる。ソプラノサックス→ベース→フレイム・ギターの順番でソロが回る。ラルフの愛奏曲 5.「Green And Golden」は、ヨーロッパ風のロマンに溢れたクラシカルで曲で、ラルフとポールのソロが美しい。ラルフおよびオレゴンが欧州での人気が高いのがよくわかる曲だ。

6.「I'll Remeber August」のタイトルは、スタンダード曲の「I'll Remeber April」をもじったものだろう。過去の名曲に挑戦するラルフの意気込みが伝わってくるような素晴らしいメロディーとコード進行を持った曲で、1999年のアンディ・ミドルトンのアルバム「Nomad's Notebook」 D47に収められていたが、ラルフまたはオレゴンとしては初めての公式録音。テーマ部分は、ラルフは左手でピアノのコードを、右手でシンセサイザーでメロディーを弾いている。本作のなかでは最も正統的な雰囲気のジャズ・チューンで、ソプラノサックス、ピアノ・ソロのバックで暴れまわるドラムスも凄い。7.「Raven's Wood」は、初期のレパートリーからで、当時のライブ音源と比較すると、このバンドが30年間でいかに成熟したかがよく判る。この曲の決定版と断言できる素晴らしい出来だ。マークはコリンやトリロクのようにタブラを演奏することはないが、ドラムスの他にドゥンベックやシェイカーなどのパーカッションを演奏し、打楽器のソロも盛り込まれ、ラテンリズムが得意な彼のショーケース曲となっている。途中リズムをストップしてフィーチャーされるグレンの弓弾きベースソロも効果的。8.「Crocodile Romancing」はグレンの曲で、彼の持ち味であるブラック・ユーモアに満ちている。弓弾きの独奏の後に展開されるベースリフによるテーマが大変面白い。ここでやっとラルフの12弦ギターの伴奏とソロ演奏を聴くことができる。なおこの曲は、グレンと歌手ナンシー・キングの共演盤「Potato Radio」1992に、「Alligator Dancing」というタイトルで歌入りバージョンが収録されている。9.「What River Is This」は即興曲で、シンセサイザーやサウンドエフェクトを効かせたベースの弓弾きプレイがシュールな音を出している。ここでのオレゴンのプレイは凄まじい集中力で圧倒的。最後はコンサートでいつも演奏している 10.「Witch-Tai-To」で、12弦ギターの独奏から始まる、ゴスペル音楽に共通する精神性の強い演奏(実際はアメリカ原住民の精神が込められている曲)を聴いていると、心がすっと開放されて純粋になる気がする。ポールのホゥイッスルのソロのバックにおけるバンド演奏の一体感は最高!続く12弦ギターソロも素晴らしく、ラルフのこの後、オレゴンにおける12弦ギターのプレイを止めてしまうため、これが聞き納めという意味でも感慨深い演奏だ。

文句なし! ライブ演奏の名演!


[2009年5月作成]


O25 The Glide (iTunes Single) (2005)   CAM Jazz
 


Ralph Towner : Piano
Paul McCandless : Soprano Sax
Glen Moore : Bass
Mark Walker : Drums

Jan Erik Kongshaug : Engineer

1. The Glide [Towner] 7:24  O14 O30 
 (Soprano Sax, Piano, Bass, Drums)

Recorded April 2005 at Rainbow Studio, Oslo

2005年7月発売


オレゴン結成35年を記念して、iTunes から発売されたシングル。発売当初はアメリカでのみダウンロード可能だったので、なかなか入手できず、大変悔しい思いをしたが、その後他国の iTunes および他の業者からもダウンロードできるようになり、やっと聴くことができた。うれしい!

CAM Jazzはイタリアのレーベルで、イタリア映画のサウンドトラックなどで有名なレコード会社 CAM Group のジャズ部門。オレゴンがここで製作したアルバム「Prime」(2005年9月発売 O26)は、本曲とレコーディングの場所と日付が同じであり、両者は一緒に録音されたものだ。レコーディング・スタジオとエンジニアは ECMの諸作品で大変有名な組み合わせで、アコースティックな透明感、かつ深みのある音を楽しむことができる。

「The Glide」は、オレゴン1985年の作品「Crossing」 O14 (コリンが参加した最後の作品)に収録されていたラルフの作品。コリン・ウォルコットの軽やかなタブラ、パーカッションのリズムをバックに、ラルフのシンセサイザーとピアノが大活躍する演奏で、オレゴンのなかでも最も乗りの良いジャズ・チューンだった。その後もライブでよく演奏されたが、その際は、まずラルフがシンセサイザーを弾き、それをループさせてピアノを弾くもので、エンディングではシンセのループをバックにラルフがトランペットを吹くものもあった。しかし、ここではラルフはシンセは一切使わず、ピアノだけで弾き切っており、オリジナル録音に増してオーセンティックでストレートなジャズプレイとなっている。それにしても 4人によるプレイが生み出すグルーヴ感が物凄く、煽りまくるラルフのピアノ、しなやかなビートを叩き出すマークのドラミングなど、正に「空を翔る」感じだ。ポールのソプラノサックス・ソロも味があるメロディーだし、グレンのベースは少し大人しいが、ここでの演奏に相応しいプレイであることは間違いない。

多重録音はなく、おそらく一発録りと思われる。オレゴンのジャズプレイの名演。

[2009年9月作成]


 
O26 Prime (2005)   CAM Jazz
 


 
Ralph Towner : Classical Guitar, 12-String Guitar, Frame Synth Guitar, Piano, Synthesizer
Paul McCandless : Oboe, Soprano Sax, Sopranino Sax, Bass Clarinet
Glen Moore : Bass, Stick Bass
Mark Walker : Drums, Drum Synthesizer, Percussion

Jan Erik Kongshaug : Engineer

1. If [Towner] 6:57  R24  
 (Soprano Sax, C. Guitar, Bass, Drums, Percussion)
2. An Open Door [Towner] 5:14  
 (Soprano Sax, Piano, Bass, Drums, Percussion)
3. Toledo [Towner] 7:58  R20
 (Oboe, C. Guitar, Bass, Drums, Percussion)
4. Hoedown [Moore] 2:55  
 (Bass, Drums, Percussion)
5. Solar Flare [Oregon] 0:51  
 (Bass Clarinet, Synthesizer, Bass, Percussion)
6. Castle Walk [Towner] 5:30  
 (Soprano Sax, Synth Guitar, Bass, Drums)
7. Moonrise [Oregon] 1:07  
 (Oboe, Synthesizer, Bass, Percussion)
8. Pepe Linque [Moore] 5:25  O14 O20 
 (Bass Clarinet, Sopranino Sax, Piano, Synthesizer, Bass, Drums, Percussion)

[Montery Suite]

9. Dark [Towner] 4:39  
 (Soprano Sax, Synth Guitar, 12St. Guitar, Bass, Drums, Percussion)
10. Tammuriata [Towner] 6:17  R25 D55
 (Oboe, C. Guitar, Bass, Percussion, Drums)
11. Mountain King [Towner] 6:51
 (Soprano Sax, Synth Guitar, C. Guitar, Bass, Drums)

12. Cleguerec [Oregon] 3:13
 
 (Whistle, Synthesizer, Bass, Percussion,)
13. Doff [Towner] 6:35  
 (Soprano Sax, Synth Guitar, Bass, Drums)

Recorded April 4,5,6 2005 at Rainbow Studio, Oslo

2005年9月発売

 
コリン・ウォルコットの死亡によるメンバー交代はあったものの、結成してから35年も経つバンドって、ないんじゃないかな? こんなに長く続いているグループはジャズ界では皆無だし、ロックやポピュラー界を入れても、おそらくU2位だろう。ここでは「Prime」というタイトルの通り、円熟そのものといった音楽を聴かせてくれる。初期に特徴的だったアジア、中近東の音楽を取り入れたワールド・ミュージック的な要素は影を潜めた。そしてコンポーザーのラルフがイタリアに住むようになった影響もあり、オレゴンの音楽はヨーロッパの香りをますます強め、ラテン音楽が得意な打楽器奏者のマーク・ウォーカーが持ち込んだリズム感覚との絶妙なブレンドにより、新境地を開いたといえる。

ラルフのクラシックギターによるテーマの演奏が印象的な 1.「If」は、前向きな雰囲気が心地よい曲。後に彼のソロアルバム「Time Line」 2006 R24 にも収録され、ソロ演奏も可能な分、アンサンブルにおいてもギターがフルに鳴っている。そのため、ピアノやシンセサイザー等のオーバーダビングがなくても十分に厚みのある音になっている。2.「Open Door」は、透明感溢れるラルフのピアノ演奏がいいですね。明るいメロディー、落ち着いたテンポでの演奏は最高。陰影に富んだポール・マッキャンドレスのソプラノ・サックスもいいよ! 3.「Toledo」は、ゲイリー・ピーコックとのデュオアルバム「A Closer View」 1998 R20 に、ギター独奏として収録されていた曲で、ここではアンサンブル・プレイが楽しめる。リズムセクションをバックにラルフが弾きまくるソロがカッコイイ! ラルフ作曲によるメロディアスな佳作が3曲続いたので、4.「Howdown」は口直し的な意味もあり、打楽器をバックにグレンがベースでメロディーを弾く。5.「Solar flare」は短い即興曲で、次の曲のためのオーバーチェアのような存在。6.「Castle Walk」では、ラルフによるシンセギターの初演奏を聴くことができる。フレイム・ギターは、糸巻きとフレットからなるスティックのような本体に、抱えて演奏するための組み立て式のフレームを取り付けたもの。フレームは取り外し可能で、持ち運びが便利なので、トラベルギターとしても利用されているが、ラルフはシンセサイザーに接続する機能に注目して、鍵盤式のシンセとは異なる弦楽器独特の音の震えを生かした音を出している。技術進歩のおかげで、この手の電子楽器でも、温かみというか深みが出せるようになったのだ。そのオーケストラのような厚みと広がりがある音は、オレゴンの新しいサウンドを象徴するものになった。7.「Moonrise」も 5.と同じく短い曲で、シンセとベースのアルコ奏法をバックにオーボエが現代音楽的な音を奏でる。8.「Pepe Linque」は、ファンにもお馴染みの曲。変則チューニングによるグレンの演奏が独創的で、リズムを刻みながらテーマやソロを展開するプレイが圧巻。コンサートの常連曲であり、アンサンブル、ラルフのピアノ、ポールのソプラニーノ・サックスのソロなどの演奏すべてにビンテージ・ワインのような深い味わいがある。

続く3曲は、2003年モンタレー・ジャズ・フェスティバルの運営者からの委嘱によりラルフが作曲した組曲で、フェスティバルでは、9月20日の土曜日、オレゴン、モンタレー・ジャズ・フェスティバル・ チェンバー・オーケストラに、ソリストとしてヴァイブ奏者のゲイリー・バートンを招いて演奏された。ジャケットのクレジットには、9.の曲名の前に「Montery Suite」と表示され、曲の範囲が明記されていないため、資料によっては本アルバム最後の曲「Doff」までを対象としているものがあるが、12.はオレゴンのメンバーによる即興曲でであり、3部作と紹介している資料もあるので、ここでは組曲を9.から11.までと定義した。9.「Dark」は、ラルフのシンセギターが曲名通りの雰囲気を出している曲で、重厚なアレンジで演奏される。ここでフィーチャーされるラルフのソロは、本作で唯一、彼が12弦ギターを演奏する場面だ。彼は1940年生まれなので、本作録音時は65才ということになり、弦の張力が強く、演奏にかなりの握力を要し、ボディーも大きい12弦ギターを弾きこなすには体力的に無理があるからだろう。10.「Tammuriata」は、ギターのエテュードのようなクラシカルな雰囲気がする。難しそうな曲で、ラルフはギタリストとの共演作品「From A Dream」 2008 R25で、本曲をセルフカバーしている。11.「Mountain King」もラルフのシンセギターが活躍する交響楽的な曲で、ポールが素早いメロディーを吹くテーマ部分のアンサンブルは、祝祭曲的な高揚感がある。マークによるドラムスのプレイがパワフル。12.「Clequerec」は、ポールの縦笛が尺八のような響きを聞かせる即興曲。13.「Doff」は、マークのドラムスが終始前面に出て頑張っている曲で、11.と同じ雰囲気のテーマと重厚なアレンジが心地よい。ラルフはシンセギターでソロをとり、マークのドラムソロも入る。

CDジャケットに記載されたクレジットを見て、エンジニアがヤン・エリック・コングスハウグであることに気づいた。ジャズファンならば、マンフレッド・アイヒャー率いるECMの諸作の多くが、彼によって録音されていることを思い出すだろう。透明感あふれるピアノやギターのアコースティックな響き、ひんやりとした感じの音場は素晴らしく、本作をより格調高い作品にしている。

ブライト Vs. ダークな雰囲気、鉄壁のアンサンブル Vs. 自由なインプロヴィゼイションのバランスが心地よい作品。


[2010年7月作成]


O27 1000 Kilometers (2007)   CAM Jazz
 


Ralph Towner : Classical Guitar, Frame Synth Guitar, Piano, Synthesizer
Paul McCandless : Oboe, English Horn, Soprano Sax, Bass Clarinet
Glen Moore : Bass
Mark Walker : Drums, Drum Synthesizer, Percussion

Johannes Wolleban : Engineer

1. Deep Six [Walker] 4:21    
 (Soprano Sax, Piano, Bass, Drums, Percussion)
2. From A Dream [Towner] 1:00  R25
 (English Horn, C. Guitar)
3. Catching Up [Towner] 8:12
 (Oboe, C. Guitar, Bass, Drums, Percussion)
4. 1000 Kilometers [Towner] 10:28  O28 
 (English Horn, Soprano Sax, Piano, Bass, Drums)
5. Bayonne [McCandless] 6:28  
 (Soprano Sax, Synth. Guitar, C. Guitar, Bass, Drums)
6. Simone [Towner] 5:52  R22 R23 D47 
 (Soprano Sax, C. Guitar, Bass, Drums)
7. Free Imp [Oregon] 1:46  
 (Oboe, Synthesizer, Bass, Percussion)
8. Back Pocket [Moore] 2:57 
 (Bass, Drums)

9. Relentless Imp [Oregon] 3:33  
 (Soprano Sax, Synthesizer, Bass, Drums, Percussion)
10. Paraglide [Towner] 6:55 
 (Bass Clarinet, C. Guitar, Bass, Drums)
11. The Bactrian [Moore] 8:05  
 (Bass, Clarinet, Soprano Sax, Synthesizer, Piano, Bass, Drums, Percussion)
12. 1000 Kilometers (Reprise) [Towner] 2:03  O28 
 (Paino)

Recorded Novemeber 20-25, 2006 at Bauer Studio, Ludwigsburg

2007年8月発売

 
 
このアルバムは2006年10月ガンのために亡くなったトーマス・ストウサンド(Thomas Stowsand)に捧げられた。彼は音楽家、ジャーナリストである他にエージェントとして、進歩的・前衛的なジャズを演奏するアーティストを多くヨーロッパの招聘し、多くのツアーを企画した人だ。全体的な印象として、いつものオレゴンのアルバムに比べて、ラルフの作品・演奏が地味な感じがする分、ポール・マッキャンドレスとマーク・ウォーカーの存在感が前面に出ているような気がする。

1.「Deep Six」は、マークがオレゴンに提供した初めてかつ唯一の曲。ソリッドなリズムは、プログレッシブ・ロックのような趣があり、2008年にグラミー賞で「Best Instrumental Composition」にノミネートされた。2009年にBerklee/ Hal Leonardから発売された教則DVD 「World Drumming by Mark Walker」に収録されたこの曲の模範演奏は、エレキギター、オルガン、ベースによるプレイで、間奏部分が4ビートのリズムになるなど、かなり異なる曲調になっている。2.「From A Dream」は、ウルフガング・ムースピール、スラヴァ・グレゴリアンと組んだMGTのアルバム(2008 R25) の表題曲になった曲で、ここではミュートしたラルフの伴奏をバックに、ポールがイングリッシュ・ホルンで吹くテーマのメロディのみで終わる。イタリアの小唄のような魅力的なメロディーを持った作品で、ライブでは間奏でポールがアドリブを入れている。3.「Catching Up」は、地中海的な香りが漂う曲で、ラテン調のリズムで軽快に演奏される。4.「1000 Kilometers」は、ストウサンドが組成したツアーで、次の開催地に移動するのに1000キロ以上も運転する事があった経験から、バンド内で1000キロのことを「Stowsand」と冗談混じりに呼んでいたエピソードから名づけられたもので、彼への鎮魂歌と呼ぶに相応しい、シンプルで深みがある曲だ。ラルフのピアノの音はピュアな美しさに溢れ、ポールの演奏は、グラミー賞の「Best Jazz Instrumental Solo」にノミネートされた。

5.「Bayonne」は、ポールによると、友人からブラジル音楽のバイヨン「Baiao」に似ていると言われて曲名を付けたが、後にそうでないことがわかったので、ニュージャージー州にある町の名前バヨーン (Bayonne)に変更したとのこと。実はこの曲は、20年以上も前の1984年10月14日にハンガリーでのライブ音源の演奏があり、私が知る限り、これまでどのアルバムにも発表されていなかった曲なのだ。早いリズムに乗って展開されるポールのソプラノ・サックス・ソロは素晴らしく、最近の彼の演奏の中で出色の出来。またマークのバックビートのドラミングがしなやか、かつ変化に富んでおり、グループにおける彼の存在感の高まりを物語っている。6.「Simone」は、1999年のアンディ・ミドルトンの「Nomad's Notebook」 D45、2001年の「Anthem」 R23でお馴染みの曲であるが、ここではマークのブラシとシンバルの繊細なリズムが聴きもの。7.「Free Imp」は即興演奏で、シンセサイザーとオーボエ、弓弾きのベース、パーカッションによる対話。8.「Back Pocket」は、ベースとドラムスによるデュオで、ラルフは非参加。9.「Relentless Imp」は、ベースとシンセ、ソプラノサックスを中心としたコレクティブ・インプロヴィゼイションで、ここで聞こえるパーカッションの一部はエレクトリック・パーカッションだ。10.「Paraglide」はスローでゆったりとした曲で、メランコリックでスピリチュアルなムードが漂う。11.「The Bactrian」は、「オレゴンのボレロ」と言える曲で、弓弾きのベースとシンセサイザーによるリフが延々と続いて盛り上がる。ジャズと言うよりも、キング・クリムゾンのようなプログレッシブ・ロックの世界。12.「1000 Kilometers (Reprise)」は、透明感溢れるラルフのソロピアノでアルバムを締めくくる。

前述の通り、地味だけど、しっとりした感じが何とも心地よい作品。

[2012年12月作成]


 O28 In Stride (2010)   CAM Jazz
 


Ralph Towner : Classical Guitar, 12-String Guitar, Frame Synth Guitar, Piano
Paul McCandless : Oboe, English Horn, Soprano Sax, Whistle
Glen Moore : Bass
Mark Walker : Drums, Percussion

James Farber : Engineer

1. Hop-To-It [Towner] 6:00    
 (Soprano Sax, C. Guitar, Bass, Drums)
2. As She Sleeps [Towner] 5:02  D55
 (English Horn, C. Guitar, Bass, Drums)
3. Nacao [Walker] 5:02
 (Soprano Sax, Whistle, C. Guitar, Synth. Guitar, Bass, Drums, Percussion)
4. Summer's End [Towner] 5:05  R18 
 (Piano, Bass, Drums)
5. On The Rise [Towner] 7:09  D55
 (Soprano Sax, C. Guitar, Bass, Drums, Percussion)
6. Glacial Blue [Towner] 1:10 
 (Piano)
7. Aeolus [Towner] 5:38  
 (Soprano Sax, Piano, Bass, Drums)
8. Song For A Friend [Towner] 4:33  O3 R3 
 (Oboe, 12st. Guitar)

9. Petroglyph [McCandless] 5:45  
 (Oboe, Soprano Sax, 12st. Guitar, Piano, Bass, Drums, Percussion)
10. The Cat Piano [Moore] 3:33 
 (Bass, Drums, Percussion)
11. In Stride [Towner] 6:51 R25 
 (Soprano Sax, Synth. Guitar, Bass, Drums)

Recorded Febuary 8-12, 2010 at Sear Sound Studio, New York

2010年9月発売

 

デビュー40周年記念というべきアルバム。事故死による打楽器奏者のメンバー交代はあったが、同じメンバーでこれだけ長く続けているジャズ・グループは皆無だろう。本作はフリー・ピースの収録はなく、尖がったインプロヴィゼイションによる演奏時間の長い曲もない。クラシカルなアンサンブルと自由なソロ演奏の融合の究極というべき、円熟のプレイだ。

1.「Hop-To-It」は、タウナーお得意のR&B調の曲であるが、耳触りはまろやか。各楽器の繊細な調べが何とも言えず心地よい。ラルフのギターソロも良いけど、ポールのクールなソプラノ・ソロのバックで弾きまくるギター伴奏がお勧め。2.「As She Sleeps」は、近年のラルフの作風であるヨーロッパの伝統歌謡の香り高い小品。タンゴのようなリズムのギターをバックにポールが淡々と吹く。3.「Nacao」は、いかにもマークの作品らしく、本作の中では若々しく、フュージョンっぽい雰囲気の曲で、アルバムの中ではスパイス的な存在だ。シンセギターの和音をバックに、クラギとソプラノがユニゾンでテーマを奏で、両者がソロを展開後、ポールがホイッスルを吹くあたりは、ドラムのリズムが前面に出て、ブラジル音楽風となる。4.「Summer's End」は、1996年のラルフのアルバム「Lost And Found」 R18に入っていた曲で、そこではソプラノ・サックスの音色が印象的だったが、ここではビル・エヴンスを彷彿させる静謐な感じのピアノ・トリオでの演奏。パオロ・フレスのトランペットとのデュオによるコンサートでのレパートリーにもなっている、美しく叙情的なメロディーが心に染みいる名曲。5.「On The Rise」は、地中海風ラテンジャスといってもよいムードの曲で、オレゴンの音楽が辿りついた境地といえよう。名手達による繊細なプレイは調和が取れていながら、同時に自由なムードに満ちているという、相反した要素を完璧に兼ね備えている。 多重録音など一切不要なストレートなプレイで、ステージにおける愛奏曲になっている。

6.「Glacial Blue」は、次の曲の序曲となるピアノ独奏曲。7.「Aeolus」は「風の神」という意味で、タイトル通り風が吹きすさぶイメージのメロディー・演奏で、昔の小説「嵐が丘」に合いそうな雰囲気のクラシカルな曲。間奏ではマークによるマレットのドラムソロが入る。8.「Song For A Friend」はラルフ初期のシンプルな曲で、当時はクラシック・ギターによる演奏だったが、ここでは意表をついて12弦ギターを弾いている。ラルフは、近年オレゴンとしては12弦を弾かなくなったので、スタジオ録音とはいえ、本当に久しぶりで、うれしい。70代という年齢では、張力の強い12弦ギターは体力的にキツイはずで、ここでも繊細なプレイに終始している。9.「Petroglyph」は、ポールらしい端正な感じの曲で、テーマ部分のみ多重録音による12弦が入るが、その他ではラルフはピアノを弾いている。10.「The Cat Piano」は、グレンらしいダークなユーモアを感じる演奏で、前半は弓弾き、後半はドラムスをバックに、一人で低音部を弾きながらメロディーも奏でるという、ダブルベースのフィンガーピッキング(!)という芸当を披露してくれる。エンディングは本作で唯一、フリーピースっぽい雰囲気となる。11.「In Stride」は、「If」に似た感じのポジティブな雰囲気の明るい曲で、シンセ・ギターが大活躍する。ポールのソプラノサックスも快調で、エンディングでのマークのドラム・ソロで盛り上がって終わる。

収録曲は皆地味なんだけど、巧みなプロデュースにより各曲がお互いに引き立て合って、良さを増している感じがする。リラックスして聴くには最高の作品だ。

[2014年6月作成]