1. Suev [Arild Andersen] 5:25
(Bass, 12st. Guitar, Percussion)
2. For All Wer Know [Fred Coots, Sam Lewis] 3:58
(Bass, Classical Guitar)
3. Backe [Arild Andersen] 5:46
(Bass, Classical Guitar, Percussion)
4. Main Man [Arild Andersen, Ralph Towner, Nana Vasconcelos] 4:59
(Bass, 12st. Guitar, Percussion)
5. A Song I Used To Play [Arild Andersen] 4:04
(Bass, 12st. Guitar, Percussion)
Produced By Arild Andersen
Reocrded July 1991and February 1992, Rainbow Studio, Oslo
アリルド・アンデルセン(1945〜 )はノルウェー生まれのベース奏者で、ジョージ・ラッセルやドン・チェリーという進歩派のミュージシャンと共演。1967年から1973までは同郷のサックス奏者、ヤン・ガルバレクのグループで活躍する。その後もビル・フリーゼル、ボボ・ステンソンなどの作品に参加。自身多くのソロアルバムを出している。「If
You Look Far Enough」は、ECMから6枚目のソロアルバムで、その約半分にラルフ・タウナーが参加、冴えたギタープレイを聴かせてくれる。
1.「Suev」は緊張感溢れる曲で、パーカッションが急速調のリズムを刻み、ラルフの12弦とアリルドのベースが掛け合いでインプロヴィゼイションを展開する。リズム楽器奏者が主体のアルバムなので、ここでのラルフのギターのリズムの切れ味は、通常に増して鋭いものがある。アリルドのプレイは、グレン・ムーア、ゲイリー・ピ−コック、エディ・ゴメスなど、これまで共演してきたベースプレイヤーと大きく異なり、ピックアップの使用によってベースの音をソロ楽器として前面に押し出す、ジャコ・パストリアスなどのスタイルに近い。ナナ・ヴァスコンセロスのパーカッションは、人間が演奏しているという感じではなく、独自に音を発する生き物のようだ。
2.「For All Wer Know」は、1934年に出版された曲で、当時ハル・ケンプ、イシャム・ジョーンズによってヒットした。後年では、ダイナ・ワシントン、ナット・キング・コ−ルなど多くの歌手にカバーされ、スタンダード・ソングの地位を獲得している。私の場合は、ビリー・ホリデイ最晩年の録音が決定版だ。ここではラルフのギターをバックに、アリルドがメロディーをシンプルに奏でる。曲の情感をベースだけで表現し切っているのはさすが。ここでのラルフの伴奏の醍醐味を味わうのも、ファンにとって楽しみのひとつ。ジャズはアドリブやソロだけじゃないよ、といっているような好演ですね。
3.「Backe」は、ポピュラー・ソングの様にメロディックな曲で、アリルドの幅広い音楽性が感じられる。ここではラルフのクラギのソロも聴ける。この曲でのアリルドのプレイの音程とタッチの正確無比さは驚異的。ベースはフレットレスなので、微妙な音程のずれがあるのは、楽器の構造上ある程度は止む得ないのであるが、この人の音感とテクニックは完璧だ。4.「Main
Man」は、ファンキーなリズムとサウンドで、ループマシーンを使用したリフをバックにベースと12弦がアドリブを展開する。ウッドベースでありながらグルーヴィーなプレイに終始するアリルドのプレイに脱帽。ラルフの12弦も負けじと頑張っている。5.「A
Song I Used To Play」はスローな曲で、中盤の間奏部分でラルフの12弦ギターがフィーチャーされる。メランコリックな情感がこもったソロで、心に響くプレイだ。
D34 Che Dio Ti Benedica (1993)[Pino Daniele]Warner (Italy)
Pino Daniele : Vocal, A. Guitar
Pino Daniele or Antonio Annona : Synthesizer (2,3)
Ralph Towner : C. Guitar
Rosario Jermano : Percussion (3)
Carole Steel : Percussion (2,3)
1. Two Pisces In Alto Mare [Pino Daniele. Ralph Towner] 1:04
(C. Guitar, A. Guitar)
2. Allora Si [Pino Daniele] 3:10
(C. Guitar, A. Guitar, Synthesizer, Percussion)
3. U Angelo Vero [Pino Daniele] 4:33
(C. Guitar, A. Guitar, Synthesizer, Percussion)
オレゴンは2枚目の2曲目で登場、1.「Chance/Choice(偶然/選択)」は、(A Group Composition Offered
In The Memory Of John Cage) というクレジットのとおり、彼らの演奏パターンのひとつである即興演奏だ。ラルフの解説によると、「この作曲法は、われわれが集団演奏として23年間発展させてきたもののひとつで、ジョン・ケージの存在と影響に負うものである」とある。本曲はCD上では5つのトラックで区切られており、それぞれ1:03,
0:39, 1:01, 0:50, 1:16, 1:30の時間からなっている。ただしトラックの切れ目と演奏内容についての関連性がないのが面白い。CDに収録された他の曲も同様で、その結果CD1は98、CD2は85のトラックからなるという不思議な構造。古代の易を使って譜面の順番を決めたというジョン・ケージにならい、シャッフルモードにして聴くべしというのかな? ここでの即興曲としての出来は大変良いと思う。ラルフのシンセサイザーはメロディーのみならず、パーカッション的な音も出す事により、トリオの演奏の幅を広げている。本CDに収められた筋金入りの前衛曲に囲まれたせいか、テーマや予め打ち合わせた進行など一切なく、相手の出す音への反応がすべてである彼らの即興演奏は、ある意味では最も生々しく人間くさいものだと思わせるほど、ここでの演奏は不思議な暖かさが感じられる。
Andrea Marcelli : Drums, Percussion, Synthesizer, Clarinet (2)
Ralph Towner : 12st. Guitar
Mitchell Forman : Piano
Gary Thomas : Flute (1), Tenor Sax (1)
Marc Johnson : Bass (1)
Jimmy Johnson : Bass (2)
Frank Colon : Percussion (1)
Sidinho Moreira : Percussion (1)
Laudir de Oliveira : Percussion (1)
Andrea Marcelli : Synthesizer Sequence and Programing, String Orchestration
Kevan Torfeh : String Cotractor
ラルフ・タウナーとゲイリー・ピーコックのデュオによる 1.「Nardis」は、彼らの日本公演の未発表音源で、本作でしか聴けない貴重な演奏だ。ラルフによるこの曲の録音は、「Solo
Concert」 1980 R9と、マーク・コップランドと共演した「Song Without End」 1994 R17、そして3人のギタリストによる共演盤「From
A Dream」 2008 R25の3作がある。ゲイリー・ピ−コックというビル・エバンス・トリオの経験者との「Nardis」はとりわけ感慨深いものがある。しかもゲイリーとラルフが共演した2枚のアルバムは、彼らの作曲によるオリジナルが収録され、スタンダードなジャズ曲はなかったため、ファンにとって本曲の存在意義はさらに大きいものになった。演奏面においても、ラルフの演奏には気合が入っており、テーマの演奏、インプロヴィゼイションいずれも緊張感に溢れている。受けて立つゲイリーも、どっしり構えたベースラインとメロディックなソロで対抗している。10分16秒という時間を感じさせない好演だと思う。
本作に収められた他の作品では、キース・ジャレットがNHKのために録音し、1994年12月31日放送のテレビ番組「Earth」で使用されたテーマ曲「Paint
My Heart Red」が素晴らしい。この演奏を聴くことができるのは本作のみで、キース・ジャレットのファンにとってもコレクターズ・アイテムとなっている。ちなみにこの作品のライブ演奏が、2006年の「The
Carnegie Hall Concert」に収録されている。
たかがCD、されどCD.......。思っていれば、願いはいつかは叶うものなのかもしれない。
最後に、阪神大震災で亡くなった方々のために、祈りを捧げたいと思います。
D39 Fabula(1996)[Maria Joao]Verve (Porutugal)
Maria Joao : Vocal
Mario Laginha : Piano
Ralph Towner : C. Guitar, 12st. Guitar
Ricardo Rocha : Portuguese Guitar
Kai Eckhardt de Camargo : Bass
Manu Katche : Drums
1. Fabula [Joao Paulo Esteves da Silva] 8:35
(Vocal, 12st. Guitar, Piano, Bass, Drums)
2. Cor De Rosa [Mario Laginha, Fernando Pessoa] 5:37
(Vocal, C. Guitar, Piano, Bass, Drums)
3. A Festa Dos Gnomos [Mario Laginha] 6:30
(Vocal, C. Guitar, Portuguese Guitar, Piano, Bass, Drums)
4. Claridade [Towner] 7:34 R15 R22 O21
(Vocal, C. Guitar, Portuguese Guitar, Piano, Bass, Drums)
5. Fado Do Coracao Errante [Mario Laginha, Nuno Artur Silva] 4:07
(Vocal, C. Guitar, Portuguese Guitar)
6. Ines [Mario Laginha] 12:18
(Vocal, C. Guitar, Portuguese Guitar, Piano, Bass, Drums)
7. Les Douzilles [Towner] 8:12 O17 O20 R13 R19
(Vocal, C. Guitar, Piano, Bass, Drums)
Recorded at Sound Studio N, Cologne October And November 1995
冒頭の 1.「Fabula」から、彼女のスキャットボーカルの洗礼を受けることになる。リズム感抜群で正確無比なのは、若い頃やっていたスポーツとの繋がりが考えられ、体育会系シンガーと言うことができるだろう。本作の大きな魅力のひとつは、リズム隊の差晴らしさにある。ベースのカイ・エックハルト・デ・カマルゴ(1961〜
)は、ジャコ・パストリアス系のメロディックなプレイから、猛烈なチョッパーまで何でもできるテクニシャンだ。ここでは猛烈に動き回るフレットレス・ベースのプレイを見せる。ジョン・マクラグリン、オレゴンのメンバーだったトリロク・グルトゥとのトリオでの演奏が名高い。ドラムスのマニュ・カチェはフランス生まれで、ロックからジャズまで何でもこなすプレイヤー。ピーター・ガブリエル、スティングのバックで有名になり、ジョニ・ミッチェル、ジェフ・ベック、ヤン・ガルバレク、アル・ディメオラなど多くの作品に参加、最近はECMからリーダー作を発表、ドラム演奏に留まらない音楽性においても高い評価を得ている。この二人が叩き出すグルーブが凄く、アルバム全体に動物的な疾走感をもたらしている。その中でラルフは12弦ギターで音とリズムを織り込んでゆくのがとてもスリリングだ。2.「Cor
De Rosa」は、マリアはポルトガル語の歌詞を歌う。スローなテンポの現代的な感じの歌で、クラギとピアノソロがフィーチャーされる。3. 「A
Festa Dos Gnomos」はアップテンポで、イントロで彼女のヴォイス・パーカッションが聞ける。ここではマリオ・ラジーニャのピアノソロが凄い。最初は緩やかなテンポで、だんだん速くなってゆき、最後は草原を駆け抜けるような急速調となるが、淀みなく弾きまくる様は只者ではない。ここで聞こえる共鳴弦の音は、ラルフの12弦ではなく、リカルド・ロチャが演奏するポルトガル・ギターだ(このギターについては
5で詳述する)。4.「Claridade」は、ラルフが手がけたサントラ盤「Un' Altra Vita」 1992 R15で使われたメロディーから発展して、オレゴンの「Northeast
Passage」 1997 O21に本作と同名の曲として収録されたものに、ポルトガル語の歌詞をつけて歌ったもの。後にマリア・ピア・デビートがイタリア語の歌詞で「Verso」
2000 R22でカバーしているので、聴き比べの面白さがある。
5.「Fado Do Coracao」は、ポルトガルの民族歌謡ファドのスタイルで歌われる曲で、気品溢れる雰囲気が素晴らしい。ファドは1800年代に貧しい庶民の歌として生まれ、マリア・スヴェーラによって世界的に認知された。ここではファドの伝統にならいラルフのクラギとリカルド・ロチャのポルトガル・ギターの2台による伴奏。ポルトガル・ギターは共鳴弦付きの6セット、計12本の弦からなる小型の弦楽器で、中世のイングリッシュ・ギターやシターンが起源と言われる。12弦ギターやマンドリンとも異なる独特の音色には哀愁が感じられる。リカルド・ロチャは、ポルトガル・ギターの名手、フォンテス・ロチャの息子で、従来からの伝統に新しい息吹を加えるアーティストとして注目を集めているそうだ。彼の演奏は他の曲でも聴くことができるが、やはりこの曲でのプレイが圧倒的。ラルフがファドの伴奏する珍品ともいえる。6.「Ines」でも彼女の素晴らしいスキャットが楽しめる。ラルフの抑制が効いたクラギのソロの後、マリアがブラジル音楽のクイーカや太鼓のスルドを真似たヴォイス・パーカッションを入れるが、太い声も出せるのにはビックリ。それ以外に美しくしっとりした感じでも歌える
7色の声が出せる人なのだ。お馴染みの曲 7.「Les Douzilles」は、ブラジル音楽風のリズミカルな演奏で、カイの奔放なベースソロがめっけもの。マニュのドラムソロもあり、聴きどころ満載の好演。
D40 If Summer Had Its Ghosts(1997)[Bill Bruford]Discipline Global Mobile
Bill Bruford : Drums, Percussion
Ralph Towner : 12st. Guitar, Classical Guitar, Piano, Electric Keyboards
Eddie Gomez : Bass
1. If Summer Had Its Ghosts [Bill Bruford] 6:20
(12st. Guitar, Piano, Bass, Drums)
2. Never The Same Way Once [Bill Bruford] 5:04
(Piano, Bass, Drums)
3. Forgiveness [Bill Bruford, Iain Ballamy, Django Bates] 5:15
(C. Guitar, Piano, Synthesizer, Bass, Drums)
4. Somersaults [Bill Bruford] 3:27
(12st. Guitar, Bass, Drums)
5. Thistledown [Bill Bruford] 4:11
(C. Guitar, Piano, Bass, Drums, Electric Percussion)
6. The Ballad Of Vilcabamba [Bill Bruford] 5:00
(C. Guitar, Synthesizer, Bass, Drums)
7. Amethyst [Eddie Gomez] 4:18
(Symthesizer, C. Guitar, Bass, Drums)
8. Splendour Among Shadows [Bill Bruford] 4:52
(12st. Guitar, Bass, Drums, Electric Percussion)
9. Some Other Time [Bill Bruford, Joe Morello] 3:01
(Drums)
10. Silent Pool [Bill Bruford] 3:35
(Synthesizer, Bass, Drums, Electric Percussion)
11. Now Is The Next Time [Ralph Towner] 4:03
(12st. Guitar, Symthesizer, Bass, Drums)
Recorded and Mixed at Make Believe Ballroom, West Shokan, NY February 1997
注) 9.はラルフ非参加
ビル・ブラッフォードといえば、イエスやキング・クリムゾンで活躍した、プログレッシブ・ロック界の代表的なドラム奏者でしょ、というのが私の印象であるが、もともとはジャズを聴いてドラムを志したとのことで、80年代以降はアースウォークスという名前のバンドを率いて、ジャズ音楽に取り組んでいたという。私は、イエスの「Fragile」やキング・クリムゾンの「Larks
Toungues In Aspic」といった1970年代の作品しか聴いたことがないので、彼についていろいろ述べることは出来ない。本作に関する紹介記事は、一般的にロック側の視点で書かれているケースがほとんどなので、ここではあえてジャズの側から述べたいと思う。
本作は、イギリス人のロック・アーティストとの共演という意味で、ラルフにとって異色の作品だ。しかも、ビル・エバンス・トリオに11年在籍し、その後も無数のセッションで活躍する、ジャズ界を代表するベーシスト、エディ・ゴメスとの久しぶりの共演(「Batik」1978
R7や「Old Friends, New Friends」1979 R8 以来)という意味でも興味深い。サウンド的には、多重録音によって、ラルフがギターとピアノを同時に弾いている部分が多いので、純粋なジャズ・トリオの演奏ではなく、サウンド・クリエイティングを重視した音作りになっている。そういう意味で、ラルフのソロやオレゴンにおける音楽アプローチと比べて違和感はない。しかしこの作品の印象が他に比べて異なるのは、第1に収録曲のほとんどがビル・ブラッフォードの作曲によるため、第2に本作のテーマが「打楽器によるグルーブ」であり、他の二人は出しゃばらずに引き立て役に徹しているためであると思われる。従って、ジャズ作品に見られる、火花を散らすようなインタープレイといった局面はあまりなく、リラックスした雰囲気さえ感じらる。ラルフもエディーも、随所でソロを取っているが、主役を喰うような自己顕示はなく、ドラムスが叩き出すリズムに身を委ねるような演奏を展開しているのだ。その事自体は、バランスがとれた音作りという面で、決して悪いことではない。ただし、3人の演奏の素晴らしさに対し、ビルの作曲による収録曲がラルフのオリジナル作品に比べて、いまひとつインパクトに欠けるようで、それがラルフのファンにとって、物足りない点になると思う。
1.「If Summer Had Its Ghosts」は、ビルが叩く変拍子のリズムに乗せて、ラルフの12弦ギターとピアノ(多重録音)がテーマを演奏、12弦→
ピアノ → ベースの順にソロが展開される。プレイヤーの懐の深さが感じられる、落ち着いた雰囲気の演奏だ。2.「Never The Same Way
Once」は、本作で最もオーセンティックな感じのジャズ・チューンで、ピアノトリオによる演奏。柔軟に変化するリズムがスリリングな曲で、正統的ジャズで典型的な4ビートのランもあり、ラルフがこの手のリズムをバックに演奏するのは大変珍しい。3.「Forgiveness」は、ビルがアースウォークスの仲間と共作した曲であるが、何故かグループでの録音はない。ミディアムテンポの曲で、ピアノとクラシック・ギターが音を紡いでゆく。アンサンブルのパートで聞こえる管楽器のような音は、ラルフによるシンセサイザーだろう。4.「Somersaults」はファンキー系の曲で、ラルフの12弦による切れ味鋭いプレイが楽しめる。5.「Thistledown」は、クラシックギターとピアノの多重録音によるプレイがオレゴン風で、途中からラテン調になる。ビルのエレクトリック・パーカッションが、カリンバ(アフリカン・ピアノ)のような音を出している。6.「The
Ballad Of Vilcabamba」は、ラルフにクラギの独奏から始まり、バンドのフィルインの後はブラジル音楽的な演奏になる。ここでも多重録音によるラルフのシンセサイザーがギターに絡む。エディーのベースソロも快調。7.「Amethyst」はエディー・ゴメス作で、シンセサイザーが流れるなかで、クラシック・ギターがメランコリックなメロディーを奏でるスローな曲だ。8.「Splendour
Among Shadows」は、ビルによるエレクトリック・パーカッションがインドネシアのガムラン音楽のような面白い効果をあげており、ラルフの12弦ギターの演奏がカッコイイ。9.「Some
Other Time」は、ビルのドラムソロで、他の二人は非参加。これはデイブ・ブルーベックのアルバム「Time Further Out」 1963の収録曲「Far
More Drums」が原曲。10.「Silent Pool」は、ビルのエレクトリック・パーカッションがクレイベルのような音を出し、エディーのアルコ奏法による重低音と、ラルフのシンセシザーが曲に色彩を付している。11.「Now
Is The Next Time」は、唯一のラルフによる曲で、本作の中でも最もフュージョンっぽい雰囲気。シンセサイザーによるリフが印象的で、ここでのラルフの12弦ギターはアグレッシブで、ビルのドラムソロもフィーチャーされる。
Andy Middleton : Tenor Sax, SopranoSax
Ralph Towner : Classical Guitar, 12st. Guitar, Piano
Dave Holland : Bass
Alan Jones : Drums
Jamey Haddad : Percussion (2,4,8), Vocal (8)
Noah Bless : Trombone (2,8)
Henry Hey : Piano (7)
Andy Middleton, Sheila Cooper, Alan Jones : Producer
1. Loyalsock [Middelton] 8:11
(Tenor Sax, C.Guitar, Bass, Drums)
2. Kasbah Tadla [Middleton] 6:00
(Soparno Sax, Trombone, 12st. Guitar, Bass, Drums, Percussion)
3. Mount Rundle [Middleton] 7:54
(Soprano Sax, C. Guitar, Piano, Bass, Drums)
4. Raffish [Towner] 4:49 R23 D42
(Tenor Sax, C.Guitar, Bass, Drums, Percussion)
5. Lothlorien [Middleton] 7:57
(Tenor Sax, Piano, Bass, Drums)
6. I'll Remember August [Towner] 8:24 O24
(Soprano Sax, Tenor Sax,Piano, Bass, Drums)
7. Lizbet [Andy Middleton, Andy Ezrin] 6:47
(Soprano Sax, C. Guitar, Piano, Bass, Drums)
8. Songs Of Struggle And Songs Of Love [Traditional,. Arranged By Middleton]
8:05
(Tenor Sax, Soprano Sax, Trombone, C. Guitar, Bass, Drums, Percussion,
Vocal)
9. Simone [Towner] 3:26 O27 R23
(Soprano Sax, C. Guitar, Bass, Drums)
Recorded at Systems Two, Brooklyn, NY on September 17 & 18, 1998
6.「I'll Remember August」のような綺麗なメロディーとコード進行の曲では、アンディの閃きに満ちたソロを堪能できる。それにしても暖かみを感じるプレイだ。ラルフの曲のなかでは珍しく4ビートのベースランが聴ける曲で、彼のピアノプレイもキラキラ光っている。本作では7.「Lizbet」のみ、ヘンリー・ヘイという若い人がピアノを弾いている。彼はビル・エバンス(サックス)、ビル・ブルフォードや、ロッド・スチュアートのスタンダード集でピアノを弾いている人だ。ここではラルフのナイロン弦ギターのプレイが聴きもので、特にアンディのソプラノサックスとのテーマ部分のアンサンブルは素晴らしい。8.「Songs
Of Struggle And Song Of Love」は、アフリカのメロディーをベースにした曲で、2.と同様、テーマ演奏部分のみトロンボーンが加わり、パーカッションが活躍、ラルフのギターソロに切れ込むような鋭さがある。9.「Simone」はラルフの曲で、ソプラノサックスの退廃的で内省的な音色が心に染み入ってくる。
1.「Raffish」は、アンディ・ミドルトンの「Nomad's Notebook」 1999 D41、ラルフのソロアルバム「Anthem」
2001 R23に収録されていた曲で、R&B風サウンドの佳曲。マリアはスキャットで参加、テーマ部分の恐ろしくテクニカルな部分を見事に歌いきっており、ソロ部分も奔放な歌唱でよろしい。ラルフは、前述の2作ではクラシック・ギターを使用していたが、ここではフレイム・ギターを弾くことで少し歪んだ音を出している。ジョン・テイラーは、2.「Lengue」ではプリペアード・ピアノ(ピアノの弦に物を挟んでミュートさせ、パーカッシブな音を出すようにしたもの)を弾いている。ラルフも12弦ギターのハーモニクスやボディを叩いたりしてリズムを強調しており、それらをバックに、マリアはスキャットやヴォイス・パーカッションを自由に展開している。3.「Int'
'O Rispiro」は、ラルフのソロアルバム「Time Line」2006 R24に「Turning Of The Leaves」というタイトルで収録された曲で、年代的にはこちらのほうが初出となる。漂うような美しいメロディーが大変印象的な曲で、マリアは「息遣い」をテーマとする歌詞(イタリア語で歌っているが、ジャケットに歌詞・訳詩が掲載されているので大丈夫)を付けており、その艶やかな声が素晴らしい。また本曲および1.におけるジョン・テイラーのピアノの絡みも面白い。
D44 Guitar Harvest(2003)[Various Artists]Solid Air
Ralph Towner : C. Guitar
1. Sarabande For Two Guitar [Ralph Towner] 2:24
(C. Guitar)
New York Guitar Festivalは、ラジオ司会者、作家のJohn Schaeferと音楽家、プロデューサーのDavid Spelmanにより1999年に設立された。あらゆるジャンルのギター音楽からなるフェスティバルを企画する他、ギター音楽振興に係る活動を行っている。本作は、上記2名がプロデューサーとなって作成されたオムニバス作品(CD2枚組)で、クラシック、ジャズ、フィンガースタイル、ケルティック、ロック、ジャンゴ・スタイルなど、様々な分野で活躍するギタリストが未発表作品を持ち寄っている。そして本作から得られる収益は、ニューヨークの学校による少年たちへのギターレッスンのための運営費用にあてられるとのこと。
本作の副題で「volume one teachers, mentors, inspiration... 」とあり、各ギタリストが自分が影響を受けた音楽、ギタリスト、教師・指導者をテーマとして作品を提供している。ラルフによる1.「Salabande
For Two Guitar」は、彼の自宅で多重録音により製作されたもので、演奏時間が2分ちょっとの小品だ。解説書で引用されたラルフのコメント「a
homage of Sylvius Leopold Weiss」は、バロック時代に活躍したリュート奏者・作曲家のシルヴィウス・レオポルド・ヴァイス(1687〜1750)のこと。当時ヨハン・セバンチャン・バッハと親交があったそうで、多くの作品(ソナタ、組曲、舞曲)が残されており、現在でもリュート、クラシック・ギターで演奏されている。ラルフの作品のなかでも異色の存在で、ジャズ的な和声やインプロヴィゼイションは全くなく、2台のギターによる演奏用にきっちり作られた曲だ。丁寧な出来ではあるが、地味でこじんまりとした印象を受ける。
D45 Journey To Donnafugata(2005)[Salvatore Bonafede]CAM JAZZ
Enrico Rava : Trumpet
Salvatore Bonafede : Piano
John Abercrombie : Electric Guitar
Ralph Towner : Classical Guitar
Ben Street : Bass
Clarence Penn : Drums
Michele Rabbia : Percussion
1. Reputation And Character [Bonafede] 8:00
(Trumpet, C. Guitar, E. Guitar, Piano, Bass, Drums, Percussion)
2. Taceas, Me Spectes [Bonafede] 4:25
(Trumpet, C. Guitar, E. Guitar, Piano, Bass, Drums)
録音 : 2003年5月12, 13日 Forum Music Village Studio, Rome
サルヴァトーレ・ボナフェデ(1962〜 )はイタリア・シシリー島のハパレルモの生まれで、若い頃は現地でクラシック音楽を学び、1986年に渡米しバークリー音楽院でジャズを学んだ後、ニューヨークで活躍するが
1994年にイタリアに戻る。その後はイタリア人であることを意識した作品を発表しながら、教師として後進の指導にあたっているという。彼が出身地であるシシリー島をテーマにした作品を製作するにあたり、イタリア映画の巨匠ルキノ・ヴィスコンティ監督の名作「山猫」1963
の音楽(ニーノ・ロータ)を使用したのは、この映画が近代国家としてのイタリアが誕生する時代の変遷の中、没落してゆくシシリー島の貴族を描いた作品だったからである。本CDは、タイトル曲(映画の序曲「Titoki
de testa」の副題)を除き、作品の多くを占める舞踏会のシーンで流れるダンス曲をジャズにアレンジしたものに、現代的な感覚のサルヴァトーレ自身の作品3曲を加えることで、同地の過去と現在を融合しているように思われる。説明不要のジョン・アバーンクロンビー、イタリアのトップ・プレイヤーの一人で先進的なスタイルのエンリコ・ラヴァに加えて、ウィントン・マルサリス、ステップス・アヘッド、小曽根真などのバックを務めたクラレンス・ペンといった強力メンバーからなるバンドは、自由な境地によるジャズの精神とは異なる、アンサンブル重視の演奏に徹しており、サルヴァトーレもピアノ奏者というよりはサウンド・クリエイターの面を強く出している。本作に収録されたすべての曲がオーバーダビングなしの一発録りというのも、プレイヤーの連帯感が感じられる理由だろう。
ラルフはサルヴァトーレの作品2曲にゲストとして参加、曲のテーマ部分とソロ演奏で大きな役割を演じている。1. 「Reputation And Character」は、ラルフのギターによるテーマ演奏に続き、クラシックギター、エレキギター、ピアノ、エレキギターの順番で展開されるソロと、クリエイティブなアンサンブル演奏のバランスが絶妙の名曲・名演。何度聴いても飽きがこない魅力に溢れている。2.「Taceas,
Me Secties」は、よりジャズっぽい雰囲気のスローな曲で、ここではラルフが前半でテーマとソロを、後半でエンリコがテーマを担当している。
1.「Bellydancing」は、イントロでラルフの切れ味鋭い12弦ギターの独奏を楽しめる。本作を録音した頃の彼は、12弦ギターをあまり弾かなくなっており、ここでは昔の尖がったプレイを彷彿とさせる演奏で、貴重な存在と言える。12弦のアルペジオをバックに聞こえてくるハーモニカの音はあくまでクールで、その対比が面白い。ベース奏者のエイリ・カエンジグ(と読むのかな?)は、アメリカ生まれで、グラーツ、ウィーン、チューリッヒで学び、おもにスイスを活動拠点とする人。多くのセッションやグループ活動に参加、1990年代にアート・ランディ、ケニー・ホィーラー等とグループを組んでいる。本アルバムでは、ドラム、パーカッション奏者がいない分リズムに専念し、あまり表にに出ない感がある。曲の後半では、ラルフがギターのボディーを手で叩いてリズムを出している。ちなみにこの曲にはプロモーション・ビデオがあり、そこでは本曲の録音・リハーサルの風景や、車で移動するオリヴィエの姿が映っている。2.「Tramonto」はラルフの曲で、美しいメロディーがハーモニカの哀愁ある音色で一層引き立っており、ラルフの伴奏も聴きもの。タイトル曲
3.「Siroko」は、ヨーロッパ風でありながらも、どことなくエキゾチックな雰囲気が魅力的で、ハーモニカ・ジャズの魅力全開だ。4.「Sea Scape」は、アンニュイな雰囲気に満ちたバラードで、オリヴィエのハーモニカの切ない音色と、アルペジオ奏法主体によるラルフのギターが心地良い。いつもはラルフが独奏する
5.「Goodbye Porkpie Hat」のデュエットが聴けるのもうれしい。7.「ELM」は、ピアニストのリッチー・バイラークがジョージ・ムラーツ、ジャック・ディジョネットをバックに、1979年ECMから発表したアルバムのタイトル曲。8.「Payanke」のイントロは、ベースのエイリーがボディーを叩いてリズムを出し、ラルフはブリッジ付近の弦に紙をはさんでミュートしたギターを弾いている。自虐的なタイトルが傑作な
9.「Everybody's Song But My Own」は、トランペット奏者のケニー・ホィーラーの曲。デイブ・ホランド、ジョン・テイラーが参加した1989年のアルバム「Flutter
By, Butterfly」が初出で、作曲能力に秀でた彼らしい作品だ。オリヴィエの歌心溢れるプレイが心に染みる。10.「Syracuse」は、ラルフの12弦ギターによる切れ味鋭いR&B風リフ、対するオリヴィエのクールでブルージーなプレイがかっこいい曲。