M31 Barnyard Dance  Jug Band Music For Kids  2010  Music For Little People


Maria Muludaur : Vocal, Kazoo
Alex Anagnostopoulos : Vocal (4)
Kit Stovepipe : Guitar, Jug
Jim Rothermel : All Horns, Penny Whistle etc.
Devin Champlin : Banjo, Mandolin, Mando/Banjo
Suzy Thompson : Fiddle
Joe Crockett : Bass, Washtub
Lucas Hicks : Washboard, Bones, Spoons, Pots, Pans, Tin Cans, Bells, Whistles etc.

Leib Ostrow : Executive Producer

1. I Love To Ride My Camel [George Beaver aka Irving Kaufman]
2. Mama Don't Allow No Jugband Music 'Round Here [Smiley Burnette Adapt. and Arr. Maria Muldaur]
3. Barnyard Dance [Carl Martin] *
4. Don't Let It Bother You [Matt Gordon, Harry Revel]
5. Threw It Out The Window [Pablic Domain]
6. Singing In The Bathtub [Harb Madison, Ned Washington, Michael H. Cleary]
7. All By Myself [Big Bill Broozy] *
8. Under The Chicken Tree [Lucien Brown] *
9. Everybody Eats When They Come To My House [Jeanne Burns]
10. Does Your Chewing Gum Lose It's Flavor [D. Breuer, M. Bloom, B. Rose]
11. Circus Song [Addapt. and Arr. M. Muldaur, G. Muldaur, J. Kweskin, W. Keith, F. Richmond]
12. Relax Your Mind [Huddie Leadbetter] *

注: * = Additional lyrics, addaptations and arragements for Children by Maria Muldaur
11は「On The Sunny Side」1990 M12、「Family Folk Festival」1990 E72 と同一録音


マリアのジャグバンド音楽集の続編は、子供向けに良質の音楽を提供するミュージック・フォー・リトル・ピープルから発売された。キット・ストーブパイプ(ギター、ジャグ)は、前作に続き中心的な役割を演じ、彼のバンドThe Crow Quill Nights Owl からデヴィン・チャンプリン(バンジョー、マンドリン)とルーカス・ヒックス(パーカッション)が参加している。彼らは前作発売後に行われたコンサートツアーのバックバンド「Garden Of Joy Jugband」のメンバーとして参加した人達だ。ベース、バスタブ・ベースを担当するジョー・クロケットは、ミルウォーキーを本拠地とするローカルバンドThe Champion のメンバーらしい。他はスージー・トンプソンやジム・ロサメルといったマリア作品の常連ニュージシャンの参加のみで、本作は派手なゲストなしで製作されている。

1.「I Love To Ride My Camel」は、ボードヴィルの世界で活躍し、1920年代で最も多作な歌手の一人だったアーヴィング・カウフマン(Irving Kaufman, 1890-1976) が、ジョージ・ビーバー(George Beaver) という別名で1928年に録音したナンセンスな歌詞が楽しい曲。カタログによる通信販売で一世を風靡したシアーズ・ローバック社が取り扱ったチャレンジ・ レーベルから発売された。スージーのフィドルが飄々とした感じで、「バンパティ・バンパティ・バン」とラクダの足音を真似るマリアのボーカルも軽快。2.「Mama Don't Allow No Jugband Music 'Round Here」は、「ママは、xxを演奏させてくれない」という歌詞のxxの部分に、いろんな楽器を入れて、その楽器のソロをフィーチャーするという楽しいアイデア・ソングで、作者スマイリー・バーネット(Simley Burnette, 1911-1967) は、B級ウェスタン映画のスターで「歌うカウボーイ」と言われたジーン・オートリー(Gene Autry, 1907-1998) の共演者だった人。彼は100種類の楽器を操ったそうで、カエルのような声と面白い仕草で人気があった。この曲はケン・メイナード主演の西部劇「In Old Santa Fe」1934で、二人がナイトクラブのミュージシャンとして登場した際に歌われたもの(このシーンで、ジーンはマーチン社に注文して作らせたD-45の最初のモデルを弾いている)。この映画での好評がきっかけで、ジーン・オートリーは大スターとなる。オリジナルは「Mama Don't Allow No Music Playing Round Here」というタイトルで、スマイリーは歌いながらアコーディオン、ギター、ハーモニカ、マンドリンを持ち替えて演奏している。当時発売されたレコードでは、ピアノ、ギター、ジューイッシュ・ハープ、ハ-モニカ、バンジョーがフィーチャーされた。ここでマリアは、歌詞をジャグバンド用に変更して、ワッシュボード、バンジョ−、バスタブ・ベース、ギター、ジャグ、カズーの順番で歌っている。クレジットによると、カズーはマリアが吹いているようだ。曲を通して流れるキットのフィンガースタイル・ギターがグルーヴィー。3.「Barnyard Dance」は、別名「Vegetable Song」とも呼ばれ、1930年代に南部でメディソン・ショー、カントリー・フェア、ラジオ番組等で活躍したカール・マーチン (Carl Martin, 1906-1979)が、昔の仲間と再会してMartin, Bogan And Armstrong の名義で製作した1972年のアルバムのタイトル曲で、スティーブ・グッドマンが「Somebody Else's Trouble」1972 E21(マリアが1曲ゲスト参加している)でカバーしている。夜に野菜がダンスパーティーを開くというファンタスティックな歌詞がよいですね。演奏面では、スージーのフィドルが最高! 4.「Don't Let It Bother You」は、ジャズピアノの巨匠ファッツ・ウォーラー(Fats Waller, 1904-1943) が1934年に吹き込んだ曲で、楽天的な歌詞が彼の雰囲気にぴったりだった。ここではキット・ストーブパイプのバンドメイトで、前作にも参加していたアレックス・アナグノストロウプロスが、子供のような可愛い声で語りを入れ、マリアとデュエットしている。いろんな事で悩みを訴える女の子に、「気にしない、雨が降らなければ虹も出ないのよ」と優しく諭すマリアのボーカルが貫禄たっぷり。5.「Threw It Out The Window」は、昔からあるNursely Rhyme(童謡)で、語呂合わせの歌詞が面白い。後半では「A Tisket A Tasket」などの別の曲の歌詞も出てくる。6. 「Singing In The Bathtub」は、「Siging In The Rain」に対抗して作られた曲で、1929年にウィニー・ライトナー(Winnie Lightner, 1899-1971) というコメディー女優が「The Show Of Shows」という映画の中で歌って評判となった。バックで聞こえるジム・ロサメルのホーンが心地良い。

7.「All By Myself」は、ブルースの巨匠ビッグ・ビル・ブルーンジー(Big Bill Broonzy, 1903-1958) 1941年の作品で、ジェフ・マルダーもアルバム「Texas Sheiks」2009でカバーしている。本アルバムのなかでは最もブルースっぽい曲であるが、 マリアは歌詞を変えて、「自分一人でお着替えができる」というような子供向けの内容にして歌っている。キットのギターが素晴らしい。8.「Under The Chicken Tree」は、ジャグバンドの元祖の一人クリフォード・ヘイズと一緒にやっていたアール・マクドナルド(Earl McDonald, 1885-1949)がオリジナル・ルイスヴィル・ジャク・バンドをバックに歌った1927年の録音がオリジナル。木にニワトリが(実のように)なるというナンセンスな歌詞が飛んでいる。これも「Texas Sheiks」2009でのカバーがある。9.「Everybody Eats When They Come To My House」は家に来た人々に様々な料理を振舞う内容の歌で、1930〜1940年代に大変人気があったジャズシンガー、バンドマスターのキャブ・キャロウェイ(Cab Calloway, 1907-1994) が1947年に録音した。彼はその後も長く活躍し、1980年の映画「Blues Brothers」にゲスト出演している。ここではジム・ロサメルのクラリネットがいい味を出している。最後にバックバンドのメンバーの名前を呼んで「Everybody eats when they comes to my house」と歌い、締めくくっている。10.「Does Your Chewing Gum Lose It's Flavor」は、イギリスでスキッフルを流行らせたロニー・ドネガン(Lonnie Donegan, 1931-2002)のヒット曲で、1959年全英3位、1961年全米5位を記録した。ただしこれはリバイバルで、本当のオリジナルはビリー・ジョーンズ(Billy Jones, 1889-1940)とアーネスト・ヘア(Ernest Hare, 1881-1939) の二人組ザ・ハッピネス・ボーイズ (The Happiness Boys) の「Does The Sparemint Loses It's Flavor On The Bedpost Overnight」だ。ロニー・ドネガンがイギリスで録音するにあたり、「スペアミント」が登録商標で、そのままではBBCが放送できないため「チューイング・ガム」に変えたという。11.「Circus Song」は上の注書きのとおり、この曲だけ20年前の録音で、マリアの声もその分若々しい。出来がいいので、「On The Sunny Side」1990 M12、「Family Folk Festival」1990 E73 に続く3回目の登場になったのかな?アルバムのクレジット表示がないが、ギターを弾いているのはロイ・ロジャース、ベースと動物の鳴き声はロウランド・サリイだ。最後は、ギターのみをバックにしっとりと歌われるレッドベリー(Leadbelly, 1888-1949) の 12.「Relax Your Mind」だ。彼は、1948年の最後のセッションでこの曲を録音している。マリアのお友達では、ジム・クウェスキンやハッピー・トラウムの録音がある。

子供向きのアルバムとして製作されたが、マニアックな選曲、達者なアレンジ・演奏、魅力的なマリアの歌唱どれをとっても大人が十分に楽しめる内容だ。

[2012年1月作成]


M32 Christmas At The Oasis  2010  Global Recording Artists


Maria Muludaur : Vocal, Tambourine
Jeff Massanari : Electric Guitar
Craig Caffall : Electric Guitar (13)
John R. Burr : Piano
Jim Rothermel : Tenor Sax, Clarinet, Flute (13), Musical Director
Ruth Davies : Bass
Kent Bryson : Drums

Joel Jaffe : Producer, Engineer

1. Sleigh Ride [Leroy Anderson] (Instrumental)
2. Boogie Woogie Santa [Leon Rene]  E113
3. Christmas Blues [Charley Straight, Gus Kahn]  E106
4. Yule That's Cool [Steve Allen]
5. Santa Baby [J, Javits, P. Springer, T. Springer]  E66 Exxx Exxx
6. What Will Santa Claus Say [Louis Prima]
7. At The Christmas Ball [Frank W. Longshaw]
8. Christmas Night In Harlem [Mitchell Parish, R. Scott]
9. Merry Christmas Baby [Charles Brown]  E133 Exxx
10. Zat You Santa Claus [Jack Fox]
11. Winter Wonderland [Felix Bernard, Dick Smith] (Instrumental)
12. Gee Baby Ain't I Good To You [Don Redman, Andy Razaf] M9 M19 E6 E76
13. Chirstmas At The Oasis [David Nichtern, Maria Muldaur]  M1 M2 M28 E74 EXXX EXXX


Recorded at The Rrazz Room, San Francisco CA, December 15, 2009


マリアは、過去オムニバス・アルバム等でクリスマス・ソングを録音している(E66 E80, E101, E106, E113, 「年代不詳」参照)が、自身ではアルバムを作っていなかった。彼女に言わせると「あまりに多くのアーティストが製作しているから」とのこと。しかし、「Live In Concert」2008 M28のプロデューサーだったジョエル・ジャフェの企画により、彼女が毎年12月に行っているクリスマス・ショウのテレビスペシャル番組を製作したところ、その出来があまりに良く、多くの人から勧められたためにCDで発売することにしたという。 会場のザ・ラッズ・ルームは、サンフランシスコ、ダウンタウンのニッコー・ホテルにある、収容人数165人のナイトクラブ。ベース奏者のルース・デイビースの演奏履歴によると、マリアとバンドは2009年12月14日と15日の2晩出演しており、その後者の模様を収録したのが本作となる。ここでは、彼女が過去に録音した曲の再演 6曲(2,3,5,9,12,13)が含まれていて、バンドのうちピアノ、ホーン、ベースが彼女のバックの常連。今回初登場のジェフ・マッサナリ(ギター)は、インディアナ州出身で、ワシントンDC在住時に音楽に目覚め、ジョン・マクラフリンのレコードを聴いてジャズを志したという。サンフランシスコを活動拠点として、これまで数枚のソロアルバムを発表し、2003年には「Hometown Christmas」というクリスマス曲集を発表している。

1.「Sleigh Ride」は、インストルメンタルで本作では序曲的な存在。全曲につき言えることであるが、リラックスした雰囲気のなか、ギター、ピアノ、ホーンが交互にソロを取っている。 2.「Boogie Woogie Santa」は、クリスマス・ジャグ・バンドの「Uncorked」2002 E113の再演。この曲は、1948年にMabel Scott の歌でヒットしたクリスマスソングで、パティ・ペイジ、ライオネル・ハンプトン、ジェームス・ブラウン、近年ではブライアン・セッツァーがカバーしている。メイベル・スコット(1915-2000)は、バージニア州生まれでニューヨーク育ち。若い頃はゴスペル音楽一辺倒だったが、渡欧後ロスアンジェルスに戻り、スウィンギーなR&Bを得意とするシンガーとして活躍、あのチャールズ・ブラウン(M19参照)の奥さんだったこともある。他のヒット曲では「Boogie Woogie Choo Choo Train」などがあるが、人気は長く続かず、晩年はゴスペルの世界に戻り、教会で歌っていたという。ここでは、ギターが「ジングルベル」のメロディーを奏でているが、これはオリジナルおよびパティ・ペイジのバージョンでもオーケストラが同じ事をしていたもの。3.「Christmas Blues」は、2000年の「Stoney Plain's Christmas Blues」E106では、「No Money, No Honey」というタイトルになっている。「Santa Claus Blues」というタイトルでも有名な曲で、作者は ガス・カーンと チャーリー・ストレイト。1925年、ピアニスト、プロデューサーのクラレンス・ウィリアムス(1998-1965)が、奥さんのエヴァ・テイラー(1895-1977) のボーカルで録音したものがオリジナル。そこにはキング・オリバーのバンドから独立し、フレッチャー・ヘンダーソン楽団で活躍していた売り出し中の若きルイ・アームストロング(1901-1971)が加わっていたため、歴史に残る演奏になった。マリアは、以前の録音では導入部分をカットして歌っていたが、ここでは最初から始めている。ジョン R. バーのピアノソロが最高にイカシており、以前よりも上手くなっていることが良くわかる。

4.「Yule That's Cool」は、「Cool Yule」というタイトル知られる曲で、1953年のルイ・アームストロングが決定版。最近では2006年にベット・ミドラーが取り上げている。 マリアは図太い声で、彼らに引けを取らない歌唱をみせてくれる。 5.「Santa Baby」は、「Uptown Christmas」 1991 E66の他、その後2回録音(「年代不詳」の欄参照)されている、女優、歌手、ナイトクラブ・シンガーのアーサー・キット(1927-2008) 1953年の代表曲。彼女は白人と黒人の混血として生まれ、親に捨てられて苦労して育ったが、ヨーロッパのショービジネスで頭角を現し、オーソン・ウェルズに認められアメリカに戻りスターになった。しかし1960年代後半にジョンソン政権に批判的な発言をしたために、政府から要注意人物扱いされて、芸能界からほされ、已む無く活動拠点をヨーロッパに移す。そして1970年代の後半、カーター大統領の民主党政権の時代に名誉回復。その後はアメリカ国内で数々の賞を受賞し、人々から尊敬されて余生を送ったという。マドンナ、テイラー・スウィフト、カイリー・ミノーグ、シャキーラ、ブリトニー・スピアーズというった当代の歌姫達が争うようにカバーしている。なお、この曲のみ、本CDのプロモーションのために上記のテレビ映像がインターネットに公開されたので観ることができた。マリアのすぐ後ろに位置するウッドベースのルース・デイビースがニコニコと楽しそうに演奏しているのが印象的。

6.「What Will Santa Claus Say」を作曲し、自ら歌ったルイス・プリマ(1911-1978)は、スウィング、ブギウギ、ジャンプ、R&B、ロックンロールなんでもござれのサービス満点エンターテーナーで、イタリア系アメリカ人。1930〜1960年代はニューオリンズ、それ以降は主にラス・ヴェガスで活躍した。ベニー・グッドマンの代表曲「Sing, Sing, Sing」の作者としても歴史に名を残している。彼のオリジナル録音は1936年だ。クラリネット、ピアノ、ギターのソロがグルーヴィーで、マリアも乗りに乗りまくって歌っている。7.「At The Christmas Ball」lは、1925年ベッシースミスが、フレッチャー・ヘンダーソン(ピアノ)等ジャズミュージシャンと録音した曲で、ジェフ・マルダーが、娘のクレア・マルダー(マリアは母親ではない)とのデュエットでアルバム「Password」2000に収録している。マリアは、お得意のベッシーの歌を堂々と歌い、「Christmas comes but once a year, and to me it brings good cheer, and to everyone who likes wine and beer」というファースト・ヴァースの後で、「I love that line !」と呟いている。さぞかし酒好きなお婆さんなんだろうなあ〜。

8.「Christmas Night In Harlem」のオリジナルはレイモンド・スコット1934年の録音。彼はCBSラジオで音楽を担当、それらの権利は後にワーナーブラザースに売却され、アニメーション(Looney Tunes)の音楽に使用されて不滅となった。また彼は後年、電子音楽に没頭しこの分野の先駆者にもなった。イントロにおける「Santa Claus Is Coming To Town」、エンディングでの「Christmas Song」の引用など遊び心満載の演奏で、テナーサックスとギターのソロの掛け合いも楽しい。9.「Merry Christmas Baby」のみ、マリアの語りが入る。マリアはチャールズ・ブラウンの代表曲に対する思い入れがあるようで、彼の病気・他界により、共演盤を企画したが、デュエット1曲のみ(「Meet Me Where They Play The Blues」1999 M19に収録)しか録音できなかったためだろう。この曲は、作者の一人ジョニー・ムーアが1947年に自己のグループ、ジョニー・ムーア・アンド・スリー・ブレイズで吹き込んだのがオリジナルで、R&Bチャートで大ヒットした。その時グループでボーカルとピアノを担当していたのが、チャールズ・ブラウン(1922-1999)だった。そのブルージーかつジャジーで洒落たムードは、彼の持ち味にピッタリで、この曲は彼の代表曲となった。またスタンダードとして、チャック・ベリー、B. B. キング、ジェイムス・ブラウン、エルヴィス・プレスリー、オーティス・レディング、ルー・ロウルズなど多くのブルース歌手がカバーした。最近では、ボニー・レイットが1989年にオムニバス盤「Very Special Christmas」でチャールス・ブラウンとデュエットしたバージョンや、ブルース・スプリングスティーンがライブで歌い、クリスマスのコンスピレーション盤に収録された録音が有名。マリアは、歌い終わったのち「That's for you Carles !」と、彼に捧げている。

10.「Zat You Santa Claus」は、ルイ・アームストロング1953年の録音が決定版で、最近ではハリー・コニック・ジュニアのバージョンがある。マリアは寒さに震える声色を使って、ユーモラスに歌っている。11.「Winter Wonderland」は、口直し的なインストルメンタルで、テーマがチャチャチャ、間奏が4ビートという洒落たアレンジのプレイ。アンコールでの演奏と思われる12.「Gee Baby Ain't I Good To You」は、マリアのお得意曲だけど、これってクリスマスソングだったっけ?と思ったが、そう言えば歌詞の一節に「I bought fur coat for Christmas and diamond ring」というのがあったね!ここでは、ジム・ロサメルのクラリネット・ソロが素晴らしい。彼は本作の音楽監督も担当している。最後の曲 13.「Chirstmas At The Oasis」の作者にマリアの名前があるが、これはデビッド・ニクターンの許可を得て、彼女が歌詞の一部をクリスマス用に書き直したものと思われる。 ラクダがトナカイ、影が雪のかけら、砂漠が北斗星、塵が雪、サルタンがサンタといった、替え歌風の歌詞が飛んでいて、中でも傑作なのが「道を示してくれるサボテン」が、「道を照らしてくれるルドルフ(赤鼻のトナカイ)」になっているところだ。ジムが吹くフルートが洗練した味わいを付加し、間奏では、マリアのバンドでリードギターを弾いていた人で、「Live In Concert」2008 M28ではダニー・キャロンと一緒にギターを弾いていた、ゲストのクレイグ・キャフォールがドリーミィなソロを披露してくれる。

マリアらしいブルース、ジャズをベースとした個性的なクリスマス曲集となった。

[お断り]
彼女が以前に録音した曲については、そのアルバムにおける紹介文をほぼそのまま本文に引用しています。


M33 Steady Love  2011  Stony Plain



Maria Muldaur: Vocal
Dave Torkanowsky: Keyboards, Musical Director, Master Facilitator
Shane Theriot: Guitar
Johnny Allen: Bass
Kenny Blevins: Drums

Mighty Mike Schermer: Guitar (12)
Chris Burns: Piano & B3 (12)
Dave Tucker: Drums (12)
Paul Olguin: Bass (12)

Shannn Powell: Drums (4, 9, 10, 11), Back Vocal
Cranston Clements: Lead Guitar (4, 9)
Rick Vito: Slide Guitar (13)

Jimmy Carpenter: Tenor Sax & Horn Arragement (10)
Ian Smith: Trumpet (10)

Jennie Muldaur: Harmony Vocals (8, 13)
Jolinda Kiki Philips: Back Vocal
Yolanda Winday : Back Vocal

Maria Muldaur: Producer


1. I'll Be Glad [Elvin Bishop, Bobby Cochran]
2. Why Are People Like That? [Bobby Charles]
3. Soulful Dress [Maurice McAlister, Terry Vali]
4. Blues Go Walking [Greg Brown]
5. I Done Made It Up In My Mind [Traditional, Arranged & Adapted By Maria Muldaur] E147
6. Walk By Faith [Stephen Bruton]
7. As An Eagle Stirreth In Her Nest [Rev. W. H. Brewster] M2 M4, M7, M33 E49
8. Rain Down Tears [Henry Glover, Rudt Toombs] E126
9. Get You Next To Me [Arthur Adams. Will Jennings]
10. Steady Love [Greg Brown]
11. Don't Ever Nobody Drag Your Spirit Down [Eric Bibb, Charlotte Eva Hoglund] M23
12. Please Send Me Someone To Love [Percy Mayfield] E74
13. I Am Not Alone [Ric Vito]


マリアが本格的な R&Bアルバムを制作するのは、1998年の「Southland Of The Heart」 M17以来で、本当に久しぶりだ。彼女のツアーバンドによる12.を除き音楽監督を務めるキーボード奏者のデビット・トーカノフスキーは、1990年代前半の諸作、ボブ・ディラン特集の「Heart Of Mine」 2006年 M26、プロテスト・ソング特集の「Yes We Can Can」 2008年 M29に続く共演で、ニューオリンズのセッション・ミュージシャンがバックを固めている。2000年代以降のアルバムの中では、珍しいエレキギターが前面に出たR&Bサウンドであるが、マリアの声は一層深みを増しており、以前のように無理にシャウトすることなく、余裕ある巧みなヴォイス・コントロールで、「寸止め」でソウルを凝縮させる効果を引き出していると思う。

1.「I'll Be Glad」は、エルヴィン・ビショップ(マリアは彼のアルバム「Hog Heaven」1978 E39にゲスト参加している)の作品。2005年の彼のアルバム「Getting My Groove Back」に収められた曲で、2007年のライブ盤「Booty Bumpin'」でも取り上げられている。またマリアのバンドのギタリストだったマイク・シャーマーのアルバム「Right Hand Man Vol.1」2006 E129でもエルヴィンをゲストに招いてカヴァーされている。イントロのギター・リフが決め手の曲。2.「Why Are People Like That?」は、ボビー・チャールズが、マディー・ウォーターズのアルバム「Woodstock Man」1975のために書いた曲で、その後「Last Train To Memphis」1984 E56でセルフカバーされた他、ジュニア・ウェルズ、クラレンス・ゲイトマウス・ブラウン等の多くのブルースマンがカバーしている。3.「Soulful Dress」は、The Radiantsというシカゴのドゥワップ、R&Bのメンバーだったモーリス・マカリスターが書いた曲で、ジェームス・ブラウンのバックを務めたことがあるシュガーパイ・デサント1964年の録音がオリジナル。マリアのブルース仲間であるマルシア・ボールもカバーしている。4.「Blues Go Walking」とアルバムタイトル曲の 10.「Steady Love」は、アイオワ州出身のシンガー・アンド・ソングライター、グレッグ・ブラウンの作品で、前者はアルバム「Covenant」2000、後者は「Milk Of The Moon」2002に収録されている。

5.「I Done Made It Up In My Mind」は、テネシー州のザ・スワン・シルヴァートーンズが1947年に発表したゴスペルソングで、メロディーは同じながら歌詞を脚色したことで、マリアの名前がクレジットに入ったと思われる。この曲は、後の2018年クリント・モーガンのアルバム「Scofflaw」E147に、マリアのゲストボーカル付きで収録された。リトルフィート的なサウンドの 6.「Walk By Faith」はセッション・ギタリストで有名なステファン・ブルートン(1948-2009)の作品で、アルバム「From The Faith」2005 に収録。7.「As An Eagle Stirreth In Her Nest」はマリアお気に入りのゴスペルで何度も録音している。8.「Rain Down Tears」は、マイク・シャーマーのアルバム 「Next Set」2005 E126でアンジェラ・ストレリと一緒に歌っていた曲の再録(曲についての詳細はE126を参照ください)。9.「Get You Next To Me」は、B. B. キングのサイドマンだったアーサー・アダムスが自己名義で発表したアルバム「Back On Track」で発表した曲で、キング氏もゲスト参加している。11. 「Don't Ever Nobody Drag Your Spirit Down」は、2004年のエリック・ビブ、ロリー・ブロックとの共演盤「Brothers & Sisters」M23の再録(曲の詳細はM23を参照ください)。

12.「Please Send Me Someone To Love」は、パーシー・メイフィールドの1950年がオリジナルで、名曲として多くの人がカバーしたが、その中にポール・バターフィールズ・ベターデイズの同タイトルのアルバム 1973 E25に収録されたバージョンがあり、そこではジェフ・マルダーが歌っていた。マリアも当時からステージで歌っていたようだが、公式録音されることはなく、1990年の教則ビデオ「Developing Your Vocal & Performing Style」E74にライブ映像が収められただけだった。それが40年経って人生経験も声も深みを増し、満を持して録音する気になったのだろう。この曲のみ当時のツアーバンドをバックに録音され、魂が籠った素晴らしい出来上がりになっている。最後の曲 13.「I Am Not Alone」は、スライドギタリストのリック・ヴィトーがアルバム「Rattlesnake Shake」2005で発表したスピリチュアルな雰囲気の曲で、ここでも本人がスライドギターを弾いている。

バック・ミュージシャンについて。クランストン・クレメンツ、リック・ヴィトーは、1990年代のマリアのアルバムに参加していた常連ギタリスト。シェーン・テリオは、ニューオリンズを本拠地とするセッション・ギタリストで、ネヴィル・ブラザース、リッキー・リー・ジョーンズ、ホール・アンド・オーツ、ボズ・スキャッグスなど多くの録音とライブに参加している。ジョニー・アレンは、The Subdudesというニューオリンズのバンドでベースを弾いていた人で、2014年没。ドラムスのケニー・ブレヴィンスは、ルイジアナ州出身でジョン・ハイアット、ソニー・ランドレスなどのバックを務めている。マリアのツアーバンドのクリス・バーンズは常連。(マイティ)マイク・シャーマーについては、E126, E129を参照。ポール・オールグリン(ベース)とデイブ・タッカー(ドラムス)のリズムセクションは、マリアのライブアルバム「Live In Concert 」2008 M28でその姿を観ることができる。

特記事項として、本アルバムにはマリアの愛娘ジェニー・マルダーが2曲で参加している。8.「Rain Down Tears」、13.「I Am Not Alone」のハーモニーボーカルは、二人の声質が似ているため、聴いていて生理的に気持ち良く、とてもカッコイイ出来になっている。

数十年の長い年月をかけて、声と歌い回しを磨いてきたマリアが、R&Bで到達した境地を楽しむ事ができる逸品。

[2021年5月作成]


M34 First Came Memphis Minnie  2012  Stony Plain


Maria Muldaur: Vocal (1,3,4,6,7,9,11,12)
Alvin Youngblood: Vocal (3), Guitar (3,9)
Del Ray: Guitar (4,6,7,11,12)
Steve James: Guitar (4,12), Mandolin (6,12)
Roy Rogers: Guitar (1)
Dave Earl: Mandolin (9,11)
Roly Salley: Bass (1,4)

Bonnie Raitt: Vocal (2), Guitar (2)
Rory Block: Vocal (5), Guitar (5), Slide Guitar (5)
Pheobe Snow: Vocal (8), Guitar (8)
Ruthie Foster: Vocal (10)
Koko Taylor: Vocal (13)
David Broomberg: Guitar (8)
Steve Freund: Guitar (2,10)
Steady Rollin' Bob Nargolin: Slide Guitar (13)
Criss Johnson: Guitar (13)
Tanya Richardson: Bass (10)
Jimmy Sutton: Upright Bass (13)
Brother John Kattke: Piano (13)
Willie "The Touch" Hayes: Drums (13)
Samantha Banks: Percussion (10)

Maria Muldaur: Producer


1. Me And My Chauffeur Blues [Ernest Lawler] M20と同一録音
2. Ain't Nothin' In Ramblin' [Minnie Lawlers, Joe McCoy] (Bonnie Raitt)
3. I'm Goin' Back [Minnie Lawlers] M20と同一録音
4. I'm Sailin' [Minnie Lawlers] M25と同一録音
5. When You Love Me [Ernst Lawler, Minnie Lawler] (Rory Block)
6. Long As I Can See Your Smile [Minnie Lawlers] M25と同一録音
7. Lookin' The World Over [Minnie Lawlers] M25と同一録音
8. In My Girlish Days [Ernst Lawlers] (Pheobe Snow)
9. She Put Me Outdoors [Minnie Lawlers] M25と同一録音
10. Keep Your Big Mouth Closed [Minnie Lawlers] (Ruthie Foster)
11. Tricks Ain't Walkin' [Lucille Bogan] M25と同一録音
12. Crazy Cryin' Blues [Minnie Lawlers] M25と同一録音
13. Black Rat Swing [Ernest Lawlers] (Koko Taylor)

注:水色字はマリア不参加
  本作のマリアのトラックはすべて既発のものです。

  「Richland Woman Blues」 2001 M20 :  1, 3 
  「Sweet Lovin' Ol' Soul」 2005 M25:   4, 6, 7, 9, 11, 12


メンフィス・ミニー (1897-1973) は、ミシシッピー州(テネシー州という説もあり)生まれで、子供の頃から家を出て、メンフィスのビール・ストリートでギターの弾き語りをして生計を立てたという。その後スカウトされて、1930年以降数多くのレコードを作り人気を博したが、1940年代後半以降は流行が廃れて1950年代後半に引退した。その後1960年脳出血により車椅子生活となり、1973年にメンフィスの療養所で亡くなった。独立心旺盛な男勝りの人で、生涯に3回結婚。歌の競い合いでビッグブル・ブルーンジーを負かしたという逸話も残っている。

マリアは1963年ニューヨークで、クラシック・ブルースの女王と呼ばれていたヴィクトリア・スパイヴィーと知り合い、それが縁でイーヴン・ダズン・ジャグ・バンドのレコーディング(1964 E1) に参加することになったが、その時彼女が聴かせてくれたレコードがメンフィス・ミニーの「Tricks Ain't Walkin'」だったという。そして彼女は、ニューポート・フォーク・フェスティバルで、ジェフ・マルダーとのデュオでこの曲をか細い声で歌い、そのレコードが残っている(1965 E4)。そしてずっと後の2001年、年季が入り声の深みを増した彼女は、満を持して「Richland Woman Blues」 M20を、2005年には続編の「Sweet Lovin' Ol' Soul」M25を発表し大好評を得たが、そこにはメンフィス・ミニーの曲が多く含まれていいた。そしてマリアは、7年後の2012年にメンフィス・ミニーをテーマとした本アルバムを新たに製作したが、前述のアーティストとしての「幼児体験」がその動機になっている。

そこに収録された13曲のうち、8曲はマリアが歌ったものであったが、いずれも過去に発売された2作(M20, M25) と同じ録音で、残り5曲が彼女と親交があるアーティストが歌ったものだった。私は購入当時、マリアによる新録音がない事に気が付き、がっかりしたことを覚えている。その後長い時が経ち、改めて聴いてみたのだが、アルバムとして悪くはなかったのだ。メンフィス・ミニーの曲はどれもワンパターン(ただしその前に「偉大な」という語句が付くが)なので、要所でマリア以外の人による曲を入れ変化をつけをこと、そしてそれらはマリアの同志と言える精鋭の人たちで、自身で歌うようも良いかもしれないレベルが揃えて、彼らへのトリビュートにもなっており、プロデューサーとしての彼女の手腕が光っていると言えよう。

まずはマリアのトラックから。1. 「Me And My Chauffeur Blues」1941(以降曲名の後にメンフィス・ミニーのオリジナルが発表された年を表示する)でクレジットされたアーネスト・ロウラーは、当時のギター・パートナーで、彼女の3番目の夫。作者につき、彼女単独または夫婦の共作という説もある。メンフィス・ミニー最大のヒット曲で、ダブルミーニングの歌詞が刺激的。マリアのカバーは、ジェフとのデュオ「Pottery Pie」1970 E12が最初。3.「I'm Goin' Back」は初期の1930年発表で、2番目の夫、ギター・パートナー、ジョーマッコイとのデュエット。マリアのカバー M20は、アルヴィン・ヤングブラッド・ハート(ギター、ボーカル)との共演だ。彼は 9.「She Put Me Outdoors」1930でもギターを弾いている。 4.「I'm Sailin'」 1941、6.「Long As I Can See Your Smile」1938、7.「Lookin' The World Over」1943、11.「Tricks Ain't Walkin'」1931、12.「Crazy Cryin' Blues」 1932のマリアによるカバーは、女流ブルース・ギタリストのデル・レイとスティーブ・ジェイムスがバックを担当している(二人についてはM25を参照)。

次はマリア以外のトラック。 2.「Ain't Nothin' In Ramblin'」(「Nothin' In Ramblin'」というタイトルでも出回っている)1941 は、説明不要のボニー・レイットによる演奏。ここでのギター・パートナー、スティーブ・フレウンド (1952- )は、自身も多くのアルバムを発表している人で、普段はエレキギターを弾いているようだ。ちなみにデビッド・レターメン・ショーで、彼女がケブ・モーとこの曲をデュエットした映像が残っている。10.「Keep Your Big Mouth Closed」1939を歌っているルーシー・フォスター(1964ー)は、フォーク、ブルース、ジャズと幅広い音楽性を持つ人で、ポップス歌手としてのデビューを断って、自分の音楽を追及したという。1960年代の生まれということで、マリアの人脈の中では若手に相当する。5.「When You Love Me」1945 のロリー・ブロックも説明不要。彼女はギター、スライド・ギターを一人で演奏している。これら3曲については、歌った人によるオリジナル・レコーディングの記録がなかったこと、それと特に2, 10は同じギタリストであることから、これらは本アルバム制作用に同じセッションで録音されたものと推測される。

13.「Black Rat Swing」1943を歌ったココ・テイラー (1928-2009)は、メンフィス生まれでパワフルな歌唱で「ブルースの女王」といわれた。「Wang Dang Doodle」が代表曲。この録音は彼女最後のアルバム「Old School」 2007に収録されていたもので、本アルバム唯一のエレキギター、リズムセクション付きの演奏。若いころの経験を歌った 8.「In My Girlish Days」1941を歌ったフィービー・スノウ(1950-2011 E93参照)のトラックは、彼女の3枚目のアルバム「It Looks Like Snow」1977から。実のところ、マリアは「Richland Woman Blues」 2001 M20で本曲をカバーしており、何故それを本アルバムに収めなかったのかという疑問が出るが、フィービーの演奏が余りに素晴らしかったためと思われる。デビッド・ブロンバーグとのギター共演も聴きものだ。

シャーリー・テンプル、ペギー・リー、ディラン、プロテスト・ソング、シスター・ロゼッタ・シャープ(一部のみプロデュース)など、多くのコンセプト・アルバムを作ってきたマリアにとって、メンフィス・ミニー特集アルバムを作ることは悲願だったに違いない。本作はそんなマリアの想いが詰まった、良質のプロデュース作品として評価するべき作品だ。

[2022年3月作成]