Midnight At The Oasis  (Re-Recorded Version その1)



Maria Muldaur : Vocal
Unkown : Electric Guitar
Unkown : Acoustic Guitar
Unkown : Keyboards
Unkown : Bass
Unkown : Drums


1. Midnight At The Oasis [David Nichtern]  M1 M2 M28 M32 E74 Exxx

         

「Midnight At The Oasis」は、1973年の彼女のソロデビューアルバム「Maria Muldaur」に収録。シングルカットされ、全米6位の大ヒットを記録した彼女の代表曲であるが、その後に発表された本人による公式音源は意外に少ない。ジム・ゴードン(ドラムス)、フリーボ(ベース)、マーク・ジョーダン(ピアノ)、作者のデビッド・ニクターン(アコースティック・ギター)、ニック・デカロ(ストリング・アレンジ)によるオリジナル録音の演奏の素晴らしさ、とりわけポピュラー音楽史上屈指とされるエイモス・ギャレットによる必殺の間奏ソロギターのため、オリジナルの印象が強すぎるからじゃないかと思う。それでも長いキャリアのなかで行われた再録音の中でも本曲は最初のもので、現在は様々なオムニバス盤に収録されている他、iTunesやアマゾンのmp3ダウンロードで購入可能。私が知る限りでは、1991年にデンマークのElap Music A/Sという会社が製作したコンスピレーション盤「Do You Remember 1974」に収録されたものが最も古い記録だ。そのCDジャケットの裏面右下には、小さな字で「To obtain the highest possible new stereo quality, some tracks have been re-recorded by the original artists or one or more members of the original group」と記載されており、ザ・ルーベッツ、ペイパー・レース、グラディス・ナイト・アンド・ザ・ピップス等の他の楽曲と共に、マリアの曲もオリジナルではないことが示唆されている。音質のためという理由がふるっているが、実際のところは著作権の関係で再録音バージョンを使用する、この手の廉価盤CDが多く出回っている。私も値段の安さに釣られて知らずに買ったことがあり、聞いてから「あれっ?」とずっこけた経験があった。騙されたような気分になるのだが、ジャケットをよく見ると、上記の但し書きが入っているので、しょうがないか......というところなのですが、熱心なファンにとっては、別録音ということでコレクションの対象になるのが因果なものですな。

本曲の録音時期は全く不明であるが、マリアの声質である程度推測できる。彼女の声は、本人も語っているように、若い頃はフルートのようにか細いが、年をとるにつれサックスのように太くなってゆく。ここでの彼女の声は若い頃の艶やかさが残っており、おそらく1980年代後半(あるいは1990年代前半?)の録音と推測した。当時の音楽界はパンク、ディスコ、シンセポップなどが流行し、それ以前の音楽は時代遅れとして軽んじられた時期だった。ベテラン・アーティストの多くはアルバム発表などの機会を失い、1990年代のマイナー・レーベルの台頭により復権するまで苦労したはずで、マリアも例外ではなくソロアルバムの発表が途絶えた期間があった。レコード会社との契約もない状態で、小遣い稼ぎのために1曲につき何ドルという買取契約で録音したものと思われる。そういう意味で、彼女が本意でなく行った仕事として苦労が偲ばれるのだが、聴く限りにおいては、そのような雰囲気は感じられず、リスナーに対しベストを尽くそうとする彼女の誠実な態度に好感が持てる。

彼女の歌唱とバックの演奏は、最初はオリジナルと比較してしまうので違和感を覚えるが、よく聴きこむと悪くないと思う。マリアのボーカルは、彼女らしい過ぎるほどスウィートで良い感じ。バックのアレンジはオリジナルとほぼ同じであるが、リードギターのみ思いのまま自由に弾いているのが特徴。オブリガード、間奏ソロとも、クリエイティブかつオリジナリティーに溢れ、これを弾いている人はかなりの巧者と思う。オリジナルを期待して聴くと、ギタープレイが全く異なるので、がっかりすると思うが、そういう前提をはずして聴けば、十分楽しめるぞ。おそらく当時彼女のバンドでリードギターを弾いていたリック・ヴィトーかアーチー・ウィリアムス Jr.のどちらかじゃないかな?途中に流れるストリングスがシンセサイザーっぽいこと(ただし安っぽい音ではないので、本録音は楽器の質が悪かった1980年代前半ではないという根拠になる)、録音の音の厚みが少し薄っぺらい感じがするが、低予算での仕事と考えるとしょうがないだろう。

オリジナル録音を持っていて、この曲が大好きでもっといろいろ聴きたいと思っている人にはお勧め。ちなみに現在出回っているこの曲の別録音は、下述の通りもうひとつあるので、購入時はしっかり
確かめてください。


I'm A Woman  (Re-Recorded Version)

Maria Muldaur : Vocal
Unkown : Electric Guitar
Unkown : Acoustic Guitar
Unkown : Keyboards
Unkown : Bass
Unkown : Drums
Unkown : Brass Section
Unkown : Back Vocal

1. I'm A Woman [Jerry Leiber, Mike Stoller] M3 E2 E3


「Waitress At The Donut Shop」1974 M3に収録され、全米12位のヒットを記録した「I'm A Woman」の再録音で、上記の「Midnight At The Oasis」と音が似ており、同目的・同時期に録音されたものではないかと推定している。この曲もオリジナルとほぼ同じアレンジで、バックコーラスやブラスバンドが入り、オリジナルのポール・バターフィールドとそっくりのハーモニカもフィーチャーされているので、廉価盤用の録音といっても、そこそこお金がかかっているのではと思ってしまうのは、余計なお世話かな?といっても演奏・録音の厚みや完成度などの差は歴然で、そういう意味でオリジナル録音の偉大さを改めて感じさせてくれる。

ともあれ、マリアの代表曲の別録音ということで、聴いてみましょう。アルバムとしての初出は不明で、iTunesやアマゾンのmp3ダウンロードでも購入可能。



Santa Baby

Maria Muldaur : Vocal
Unkown : Electric Guitar
Unkown : Keyboards
Unkown : Bass
Unkown : Drums
Unkown : Brass Section
Unkown : Back Vocal

1. Santa Baby [Joan Javits, Philip Springer]  M32 E66 Exxx


2000年代から出回っているクリスマス音楽のコンスピレーション・アルバムに収められ、iTunesやアマゾンのmp3ダウンロードでも購入可能。1.「Santa Baby」は、1953年に女優、歌手、ナイトクラブ・シンガーのアーサー・キット(1927-2008)が大ヒットさせ、彼女の代表曲になった。彼女は白人と黒人の混血として生まれ、親に捨てられて苦労して育ったが、ヨーロッパのショービジネスで頭角を現し、オーソン・ウェルズに認められアメリカに戻り、スターになった。しかし1960年代後半にジョンソン政権に批判的な発言をしたために、政府から要注意人物扱いされて、芸能界からほされ、已む無く活動拠点をヨーロッパに移す。そして1970年代の後半、カーター大統領の民主党政権の時代に名誉回復、その後はアメリカ国内で数々の賞を受賞し、尊敬されて余生を送ったという。

マリアは1988年のクリスマス・コンスピレーション盤「Uptown Christmas」E65で、ジャズのスモールコンボをバックにこの曲を歌ったが、本曲は別録音で、ここでのマリアの声は立派に皺枯れており、バックにブラスセクションと女性コーラス、間奏にピアノソロが入るのが異なる。エレキギターは「Merry Christmas Baby」と同じ音色なので、同じセッションで録音されたものと推定される。サンタ(彼氏?)にクリスマス・プレゼントをねだる女の子の歌で、黒テンの毛皮から車(オリジナルでは「54年製のライトブルーのコンヴァーティブル」と言っているのに対し、マリアは「99年製」と言っているので本曲の録音がその頃であることが推定できる)、さらにヨット、プラチナ鉱山とエスカレートし、最後はリング(「といっても電話じゃないのよ!」)というオチが付く歌詞がウィットに溢れ、コケティッシュでセクシーな雰囲気満点。マリアはブルージィな声で、可愛い熟女のムードを漂わせて(!?)歌っている。

この曲はホリデイ・シーズンのスタンダードとして、多くの女性シンガーがカバー。最近ではマドンナ、カイリー・ミノーグ、テイラー・スウィフト、リーアン・ライムズ等の録音がある。



Santa Baby



Maria Muldaur : Vocal
Unkown : Piano
Unkown : Bass
Unkown : Drums
Unkown : Brass Section

1. Santa Baby [Joan Javits, Philip Springer]  M32 E66 Exxx

iTunesやアマゾンのmp3ダウンロードで購入可能な「Santa Baby」の別バージョン。Disk Eyesという会社による「San Francisco Bay Blue Christmas」 というタイトルのアルバムで、オンラインのみでの販売のようだ。アーティスト名の「Time Pools」は、専属アーティストによる混成バンドのことらしい。ここではエレキギターやバックコーラスは入らず、イントロのブラスセクションを除いては、ピアノトリオによる伴奏。その分、間奏のソロも含めてピアニストが頑張っている。ここでのマリアは車をおねだりする際、「98年製」と言っており、彼女の声質も、2000年代のものほど重い感じがしない。なので、上記のアルバムは2006年発売とあるが、実際の録音は90年代末かもしれない。

基本的なアレンジは、もうひとつのバージョンとほぼ同じであるが、ギターやバックコーラスが入っていない分だけ、よりシンプルでストレートなプレイとなっている。


Merry Christmas Baby


Maria Muldaur : Vocal
Unkown : Electric Guitar
Unkown : Keyboards
Unkown : Bass
Unkown : Drums
Unkown : Back Vocal
 
1. Merry Christmas Baby [Lou Baxter, Johnny Moore] M32 E133 


1.「Merry Christmas Baby」は、作者の一人ジョニー・ムーアが1947年に自己のグループ、ジョニー・ムーア・アンド・スリー・ブレイズで吹き込んだのがオリジナルで、R&Bチャートで大ヒットした。その時グループでボーカルとピアノを担当していたのが、チャールズ・ブラウン(1922-1999)だった。そのブルージーかつジャジーで洒落たムードは、彼の持ち味にピッタリで、この曲は彼の代表曲となった。またスタンダードとして、チャック・ベリー、B. B. キング、ジェイムス・ブラウン、エルヴィス・プレスリー、オーティス・レディング、ルー・ロウルズなど多くのブルース歌手がカバーした。最近では、ボニー・レイットが1989年にオムニバス盤「Very Special Christmas」でチャールス・ブラウンとデュエットしたバージョンや、ブルース・スプリングスティーンがライブで歌い、クリスマスのコンスピレーション盤に収録された録音が有名である。マリアのバージョンは上記の「Santa Baby」(ふたつ上のほう)とバックのサウンド、特にギタリストが同じであるため、1999年頃の録音と推定できる。当時マリアはチャールズ・ブラウンとの共演アルバム「Meet Me Where They Play The Blues」M19を企画したが、彼の健康状態悪化のために断念し、結果「Gee Baby, Ain't It Good To You」1曲の共演のみに終わったという。そうすると本曲は、マリアが1999年1月21日に亡くなった彼のために行った追悼録音と推定することもできる。私が知る限りでは、この録音の初出は2000年発売のクリスマス・コンスピレーションアルバム「Beautiful White Christmas」だ(誰か知っている人がいたら教えてくだい)。

この曲のムードはマリアにピッタリで、正にはまり役と言える歌唱だ。また全編で鳴っているブルージィなリードギターが素晴らしく、聴く毎に誰だろうと思うのだが、音色と時期から当時のマリアのアルバムでバックを勤めることが多かったクランストン・クレメントではないかと推定している。オブリガート、特に間奏のギターソロは最高!

本曲はその後も多くのクリスマス・アルバムに収録されており、iTunesやアマゾンのmp3ダウンロードでも購入可能のお勧め品。



Midnight At The Oasis  (Re-Recorded Version その2)

Maria Muldaur : Vocal
Unkown : Electric Guitar
Unkown : Acoustic Guitar
Unkown : Keyboards
Unkown : Bass
Unkown : Drums

1. Midnight At The Oasis [David Nichtern]  M1 M2 M28 M32 E74 Exxx


現在コンスピレーション・アルバムやiTunesやアマゾンのmp3ダウンロードで出回っている 「Midnight At The Oasis」の別録音は、上述の他にもうひとつある。この録音の初出が何時何処であるかは全く不明(誰か知っている人がいれば、教えてください)。マリアの声の皺枯れ具合から判断して、明らかに2000年代の録音と思われるもので、この頃になると、この手の軽快な曲を歌うには声がちょっと重過ぎるかなという感じがする。録音はかなりチープな感じで、演奏もライブでの演奏に近い感じがする。ここでのギターはエイモスのプレイを忠実に再現しているが、プレイのタッチがぬるま湯的な感じで、バックバンド全体としても、いまひとつピリッとした感じがしない。

といってもマリアのボーカルには、嘘偽りのない誠実さが感じられ、「今の私はこうなのよ!」と開き直っているようにも受け取れる。ともかく彼女が歌う「Midnight At The Oasis」ということで、大喜びして聴いてしまうのは、親馬鹿ならぬファン馬鹿なのかな?