2007年2月のBBC Radio2の「Folk Awards」で、ペンタングルが 「Lifetime Achivement Awards」を受賞し、そのセレモニーでオリジナルメンバー5人によるリユニオンが実現した。そして3月には未発表曲を含んだ待望のボックスセットが発売、ファンにとって2007年はうれしい年となった。そしてその後、「Sweet
Child」T3 に収録されたロイヤル・フェスティバル・ホールでのライブ録音のちょうど40年後にあたる2008年6月29日に、同じ会場でリユニオンライブを行うことが発表され、大きな話題となった。さらにそれに続く以下12箇所のイギリス国内ツアー、および8月にウェールズで行われるグリーンマン・フェスティバルへの参加が決まった。
6月29日(日) London , The Royal Festival Hall
7月1日(火) Cardiff , St David's Hall
7月2日(水) Brighton , Dome
7月3日(木) Cambridge , Corn Exchange
7月5日(土) Birmingham , Symphony Hall
7月6日(日) Oxford , New Theatre
7月7日(月) London , Lyceum Theatre
7月9日(水) Manchester , Palace Theatre
7月10日(木) Harrogate , International Centre
7月12日(土) Gateshead , The Sage
7月13日(日) Glasgow , Royal Concert Hall
7月14日(月) Liverpool , Philharmonic
8月17日(日) The Green Man Festival, Wales
70年代に活躍したグループの多くは、ザ・ビートルズをはじめとして、ザ・ローリング・ストーンズ、ザ・フー、レッド・ツエッペリンなど、オリジナル・メンバーの誰かが故人である場合が多く、そういう意味でメンバー全員が元気でリユニオンできたケースはペンタングルとクリームぐらいかな?
彼等はコンサートに向けて行ったリハーサルの成果を試すべく、 4月29日の「Later With Jools Holland」に出演した。また本番の直前の6月25日と26日に、ロンドンから北東90キロのところにある古い町、コレセスターでウォームアップのための小規模なコンサートを開催したようだ。そして6月29日(日)、満員のオーディエンスを前にコンサートが始まった。「Good
evening, ladies and gentleman. Please welcome, Pentangle」というアナウンスの後、ライトが灯され、5人がステージに登場する。舞台前面の左にジョン、右にバートが座り、後方左は高椅子を置いて、時々腰掛けながらウッドベースを弾くダニー、右はテリーがドラムセットに鎮座。ジャッキーは中央に位置し、テレビ映像と同じく、椅子に座らず立ったままで歌う。
最初の曲を 1.「The Time Has Come」にしたのは、長年のブランクの後に実現したリユニン・コンサートの始まりを意図したものだろう。淡々とした演奏で、ジャッキーの声が緊張のため、かすれていて、バンドも硬い演奏で大丈夫かな?と少し心配になる。最初のコンサートという事もあって、オーディエンスもプレイヤーも、40年という時の移ろいにはせる万感の想いが曲に勝ってしまったようで、何となく「心ここにあらず」といったパフォーマンスだ。ただしその雰囲気は、コンサートが進むにつれて和らぎ、演奏もすぐに好調になる。これ以降のコンサートでは、最初の曲は彼等のファーストアルバムの冒頭を飾った「Let
No Man Steal Your Thyme」となる。2.「Light Flight」を聴くと、このバンドの生命線がリズムセクションにあることがよくわかる。現役最前線で活躍するダニーのリズム感が健在なのは予想できるが、音楽活動から遠ざかっていたはずのテリーが意外に頑張っている。でもバンド全体のリズムの一体感、強靭さという点では、昔と比べると見劣りするのは事実であるが、随所で起こるリズムの乱れは、主にバートとジョンのプレイに起因するものだ。その代わりに往年にはなかった枯れた味わいがあるし、ジョン・レンボーンのリードギターの自由なプレイは魅力的であり、それらに焦点を当てて鑑賞すれば、十分に楽しめるものと思う。実は私は、彼等はフルコンサートに耐える水準の演奏ができるのだろうか? と危惧していたので、今回音源をじっくり聴いて、とても良かったので正直ほっとしているのだ。
3.「Mirage」ではジョンのリードギターを楽しめる。ペンタングル解散後はソロ活動を行いながら、ステファン・グロスマンとのデュオ、仲間のミュージシャンとのジョイント等によるコンサートやレコーディング等で、長年リードギターを担当してきたジョンにとって、今回のペンタングル・リユニオンは他のミュージシャンと異なり、昔通りに演奏するのではなく、長い月日の中で磨き発展させた腕前を試す機会となったようにも思われる。PAやピックアップの技術進歩もあって、エレキギターに頼らずアコギのままで繊細な音が拾えるようになったこともあり、今回の一連のコンサートにおけるジョンのリードギターのプレイは、同じ曲の演奏でも、コンサートによりその音使いは異なり、派手さはないが、とても自由な境地で弾いているように感じる。4.「Hunting
Song」では、テリーのグロッケン(鉄琴の一種)を聴くことができる。5.「Once I Had A Sweetheart」では、ジョンの鋭いリードギターと、テリーのファルセットによるバックコーラスが聴きもの。7.「In
Time」は、以前に比べると大人しい感じかな? 8.「People On The Highway」は、オリジナルと異なり前半はバートが一人で歌い、後半からジャッキーのハーモニーがつく。
9.「House Carpenter」では、昔と同じくバートがバンジョ-を、ジョンがシタールを演奏する。ジョンは長年弾いていなかったはずなので、かなり練習したんじゃないかな?10.「Cruel
Sister」はジャッキーの歌に注目しよう。若い頃に比べて声の張りやつやはなくなったが、長年歌いこんだ年輪というか風格が感じられ、特に本曲のようなトラッドを歌う際にはその印象が強い。
セカンドセットは初回のロイヤル・フェスティバル・ホールでは 11.「Let No Man Steal Your Thyme」から始まるが、他のコンサートでは「The
Time Has Come」だったようだ。ペンタングルの初めてのアルバムの最初の曲だっただけあって、コンサート最初の曲としては、やはり「Let
No Man.....」のほうが相応しいように思える。12.「Bruton Town」では、バートとジャッキーのボーカルがバッチリ合っていて、調子が乗ってきた感じだ。主人公の悲しみ、怒りを表現する間奏のジョンのギターも良い。ダニーが中心となって書いたという
13.「No Love Is Sorrow」は、ちょっと固めの演奏。ジャッキーが前面に出る 14.「A Maid That's Deep In
Love」と続き、ジャッキーが「マイルスの曲を基にした」と紹介する 15.「I've Got A Feeling」はリラックスした演奏。 16.「The
Snows」はバートがメイン、17.「Goodbye Porkpie Hat」はさらっとした演奏だ。ジャッキーのボーカルが力強い 18.「No
More My Lord」 、クールな 19.「Sally Free And Easy」。20.「Wedding Dress」は、バートバンジョーを弾き、テリーがタンバリンを叩きながらドラムスを演奏、バックボーカルも担当する。
21.「Pentangling」は、現役時代の長大な構成ではなく、ベースやドラムスの短いソロを含むさっぱりした演奏。トラッドの 22.「Willy
O' Winsbury」の後に演奏される最後の曲 23.「Will The Circle Be Unbroken」のみオジリナルと異なる新しいアレンジだった。特にドラムスの乗りが全く違う。それなりに良い出来だと思うが、評判がイマイチだったようで、後のコンサートでは原曲に忠実な
22.「Rain And Snow」に差し替えられた。
特に何か新しい事をやっているわけでもないので、懐古趣味と言われればそれまでだが、昔になかった渋みというか、ゆったりした懐の深さみたいなものが感じらる。歴史的な意義を別として音楽的な見地からみたとしても、それなりに楽しめる音源であると思う。
(注: 映像について)
アマショットで画質は悪く、多くは曲の一部のみであるが、以下の映像を観ることができた(曲番はHarrogateのものを使用)。
London (The Royal Festival Hall) : 2,3,4,5,6,7,8,9,10,11,
Cardiff (St. David's Hall) : 3,4,5,6,7
Oxford (New Theatre) : 2
London (Lyceun Theatre) : 7,9,12
Harrogate (International Centre) : 10,12,13,14,15,19,20,21
Glasgow (Royal Concert Hall) : 12
Wales (The Green Man Festival) : 1,4,12,17,
[2024年1月追記]
2016年発売の公式盤「Finale」 T17に収められた21曲は、13回のコンサートのうち8ヵ所からのベストトラックを抽出したものでした。私が知る限りで、公式発売、音源、映像の詳細は以下のとおりです。
06-29 London, England - Royal Festival Hall 音源23曲、映像10曲
07-01 Cardiff, Wales - St. David's Hall 公式3曲、映像5曲
07-02 Brighton, England - Dome
07-03 Cambridge, England - Corn Exchange
07-05 Birmingham, England - Symphony Hall
07-06 Oxford, England - New Theatre 公式1曲、映像1曲
07-07 London, England - Lyceum Theatre 公式10曲、映像5曲
07-09 Manchester, England - Palace Theatre 公式3曲
07-10 Harrogate, England - International Centre 公式1曲、音源23曲、映像8曲
07-12 Gateshead, England - The Sage 公式3曲、音源23曲、映像5曲
07-13 Glasgow, Scotland - Royal Concert Hall 公式1曲、映像1曲
07-14 Liverpool, England - Philharmonic 公式1曲
08-17 Crickhowell, Wales - Green Man Festival 映像5曲
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