C82  Crosby/Nash (2004) [David Crosby & Graham Nash]   Sanctuary

C82 Crosby/Nash

Graham Nash: Vocal
David Crosby, James Taylor: Harmony Vocal
Dean Parks, Jeff Pevar: Acoustic Guitar
James Raymond: Keyboards
Leland Sklar: Bass
Russell Kunkel: Drums
Luis Conte: Percussion

Nathaniel Kunkel, Russ Kunkel, Graham Nash, David Crosby: Producer

1. Jesus Of Rio [Graham Nash, Jeff Pevar]


デビッド・クロスビーとグラハム・ナッシュ(CN)は、1980〜1990年代を各自ソロアルバムの他、スティーブン・スティルスとのCSN、またはニール・ヤングを加えたCSNYとして活動を続けてきたが、二人のデュオとしては28年ぶりの作品だ。2枚組全20曲という内容に、彼らの当時の姿がいっぱい詰まっている。

JTのミュージシャンでもあるリーランド・スクラー、ラス・カンケルのほか、優れたスタジオ・ミュージシャンでもあるディーン・パークス、ジェフ・ペヴァー、そしてデビッド・クロスビーの息子で、生後すぐに養子にだされ、近年に再会を果たしたというジェームス・レイモンドという気心の知れた仲間達と心を込めて作ったのがよくわかる。彼らの音楽スタイルや曲風は、1970年代のものとほとんど変わらないが、歌詞や音楽の奥行きが深まっているように思える。人によっては「時代遅れ、新しいものがない」と切って捨てるだろうが、私は「円熟」と言いたい。特にグラハム・ナッシュは良い曲を書いているなあ。クロスビーもナッシュも、昔に比べると声はかすれ気味だけど、二人のハーモニーは相変わらず完璧だ。

そんなグラハムの曲のひとつにJTが付き合っている。CDの解説書にはクレジットがないが、JTおよびCNのホームページで、JTの参加が確認され話題となった。1.「Jesus Of Rio」は、JTの「Only A Dream In Rio」1985 A12 を彷彿させる曲で、人間愛を歌う歌詞とメロディーのバランスが絶妙で、名曲と呼ぶに相応しい。アコースティック・ギターの響きは透明感にあふれ、JTとデビッド・クロスビーが加わったコーラス・パートは瞑想感がある。JTのボーカルをはっきり聞き分けるのは難しいが、彼らとのセッションでは往々にしてあることで、3人のボーカルがうまく溶け合うことを証明している。

1.に限らず、個人的には好きな曲、演奏が詰まったフェイヴァレット・アルバムだ。

[2023年1月追記]
デビッド・クロスビー氏は、2023年1月19日亡くなりました(享年81)。ご冥福をお祈りいたします。


 
 
C83  There You Are Again (2005)  [Livingston Taylor]  Coconut Bay


C83 There You Are Again

Livingston Taylor: Vocals, Acoustic Guitar
James Taylor: Back Vocal, Acoustic Guitar
Kate Taylor, Pam Tillis: Back Vocal
Steve Gadd: Drums
Leland Sklar: Bass
Aubrey Haynie: Mandolin
Paul Franklin: Pedal Steel
Shane Keister: Piano
Chirs Rodriguez, Vince Gill: Electric Guitar
Gary Corbett: Hammond B-3

Glenn Rosenstein: Producer

1. There I'll Be


スタジオ録音としては、「Ink」 1997に次ぐ久しぶりの作品(前作はライブ盤である1999年の「Snapshot」)。ジャケット写真のポートレートに刻み込まれた皺を見ると、「よくもここまで来たもんだな」という実感がわいてくる。

ナッシュヴィルとニューヨークで録音された本作には、本当に懐かしいリーランド・スクラー、JTのバンドでドラムスを担当した名手スティーブ・ガッドの他、1974年生まれのマンドリン、フィドル奏者オーブリー・ハイニー、1953生まれのスティール・ギター、ドブロ奏者ポール・フランクリン、キーボードのシェーン・ケイスターなど、ナッシュビルで活躍するセッション・ミュージシャンが参加している。面白いのは、カントリー音楽界のスーパースターで、マルチ・インストルメンタリストのヴィンス・ギルが、フェンダー・テレキャスター・サウンドびんびんのリードギターを披露していること。美人カントリーシンガーのパム・ティリスがバックボーカルで参加していることだ。

冒頭の「There I'll Be」というフレーズからJTのボーカルが聞える。曲想もサウンドもJTのものに近く、知らない人が聞いたらJTの曲だと思うだろう。二人のアコースティック・ギターは混じり合い、どちらがJTかよく判らない。ケイト・テイラーはパム・ティリスと一緒に歌っていて判別は難しい。この難しい悩みに満ちた世の中、忍び寄る老いと孤独の厳しさのなかで前向きな内容の歌詞に説得力がある。これは本作全体に当てはまる傾向だ。その他明るいポップな曲やゴスペル調の曲があったり、聴いていて励まされる。そしてこの曲の前にはカーリー・サイモンとの友情を歌ったゴージャスなデュエット曲があり、JTとのニアミス状態の楽屋落ちが面白い。


C84 Duets An American Classic (2006) [Tony Bennett]  Columbia


C84 Duets An American Classic

Tony Bennett : Vocal
James Taylor : Vocal
Lee Musiker : Piano
Paul Langosch : Bass
Harold Jones : Drums
Gray Sargent : Guitar

Jorge Calandrelli : Orchestration And Conductor
Phil Ramone : Producer

1. Put On A Happy Face [Charles Strouse, Lee Adams]


 
アメリカを代表する歌手トニーベネットの80歳誕生日を記念して製作されたデュエット・アルバムで、空前の豪華ゲストを迎えて製作された。まるで横綱が中入り後の代表的力士と回し稽古をしているかのごとく、バーバラ・ストレイサンド、ポール・マッカートニー、スティーヴィー・ワンダー、エルトン・ジョン、セリーヌ・ディオン、エルヴィス・コステロ、そしてU2のボノにいたるまで、これでもかこれでもかと出てくる。一般的にこの種の作品は、内輪の会といった自己満足的なものが多いけど本作は全然違う。フィル・ラモーンによるしっかりしたプロデュースに加えて、何よりもトニー本人の調子がとても良いようで、年老いたとは言え、歌声の魅力を十分楽しむ事ができるのだ。歌自慢の若手ゲストに対して全然引けを取らず、逆に「これが歌っていうもんだぜ!」と言い聞かせているような出来になっているため、期待を十分上回るアルバムとなった。

JTは軽妙洒脱派の筆頭として登場。1960年のブロードウェイ・ミュージカル「Bye Bye Birdie」でディック・ヴァン・ダイク (日本ではジュリー・アンドリュースと共演した映画「メリーポピンズ」で有名な人)が歌った「Put On A Happy Face」を歌っている。エルヴィス・プレスリーの入隊騒ぎのパロディーといった筋書きのミュージカルは1963年にジョージ・シドニー監督により映画化。そこではジャネット・リー、アン・マーグレットといった若手女優が注目された。作者のチャールス・ストラウスは、その後も「アニー」などのヒット作を出した人。この曲は全米ヒットチャートには登場しなかったが、当時カバーして話題となったトニーベネット本人を初めとして、ジョニー・マティス、ブロッサム・ディアリーなどのジャズ・ポピュラー系のシンガーや、シュープリームス、スティーヴィー・ワンダーといったソウル音楽のアーティストにも取り上げられスタンダードとなった。近年では、マリア・マルダーの子供向け楽曲集「On The Sunny Side」1990 にも収録されていた。トニー本人のコメントによると、生で一発録りをしたとのことで、お互いに声を掛け合いながら歌う様は、自然で微笑ましい。バックで演奏するリズムセクションは、トニーの専属バンドだ。

その他では、ジャズ歌手でエルヴィス・コステロの奥様でもあるダイアナ・クラークや以前も共演したことがあるk.d. ラング、全盛期に比べて声の張りがなくなったとはいえ、それでも凄いスティーヴィー・ワンダー、スタンダードを歌って意外と上手いボノなどが私の好みだ。でも何といっても一番心に響く曲は、ピアノ中心のシンプルな伴奏でトニーが一人で歌う「I Left My Heart In San Francisco」だったりして。

[2006年10月作成]

[2014年4月追記]
本曲録音の模様を撮影したプロモ映像を観ることができた。トニーが言うとおり、スタジオ内でバンドを一緒に生で一発録りの様子が楽しめる。子供のようにはしゃぐJTと、それを温かく見守るトニーの姿が微笑ましい。


C85 New Bossa Nova (2007)  [Luciana Souza]  Verve


C85 New Bossa Nova

Luciana Souza : Vocal
James Taylor : Vocal
Chris Potter : Tenor Sax
Romero Lubambo : Guitar
Edward Simon : Piano
Scott Colley : Bass
Antonio Sanchez : Drums, Percussion

Larry Klein : Producer

1. Never Die Young  A13 B44 E5 E14


ルシアーナ・ソウザはサンパウロ生まれで、シンガー・ソングライターのウォルター・サントス、作詞家のテレーザ・ソウザが父母という音楽家族に育った。渡米後はバークリー音楽院で学位をとり、ニューヨークを本拠地として活動を続け、7作目の本作が初めてのメジャー・レーベルでのソロアルバムだ。マンハッタン音楽院で教鞭をとり、様々なアーティストのコンサート、録音に参加する他、クラシック音楽界でも活躍しているらしい。ブラジル音楽のシンガーのなかでも都会的な知性を強く感じる人で、アストラット・ジルベルトの素朴さとは異なる現代的な匂いがする。本作はいままでの作品と異なり、現代のアーティストの作品をボサノヴァ風にアレンジしたもの。プロデューサーは彼女の夫であるラリー・クレインが担当。彼はフレディー・ハバードなどのジャズのバンドを経験した後、ジョニ・ミッチェルと知り合い、1982年に結婚。「Wild Things Run Fast」 1982 C39 をはじめとする多くの作品の共同パートナーとなり、1994年離婚後も音楽的な関係は続いた。その後は、ドン・ヘンリー、ピーター・ガブリエル、ブライアン・アダムスなどの作品に参加、特にショーン・コルヴィン、ジュリア・フォーダム、マデリン・ペルーといった女性シンガーのプロデュースに定評がある。本作ではラリーの以前の奥さんであるジョニ・ミッチェルや、レナード・コーエン、スティング、ランディ・ニューマン、スティーリー・ダン、マイケル・マクドナルド、ビーチ・ボーイズなどの作品をカバーしているが、どれも比較的地味で渋い曲を取り上げているのが興味深い。

1.「Never Die Young」は、ゆったりとしたボサノヴァのリズムでアレンジされている。最初のヴァースを歌う彼女の声は、どこかジョニ・ミッチェルと似ていて、事前知識がないとジョニの新作カバーかな?と思ってしまうくらいだ。そういう意味では、歌声のみならず、サウンド作りもラリー・クレインのカラーがかなり出ているということだ。セカンド・ヴァースを歌うJTのボーカルは、オリジナルよりも力を抜いていて、コーラスの二人による合唱と合わせて、十分面白い出来だ。バックを勤めるミュージシャンは、各人がソロアルバムを出しているような人たちで、特にドラムスのアントニオ・サンチェスは、パット・メセニーのバンドで有名。特筆すべきは、ロメロ・ロバンボのガット・ギターの響きで、本アルバム全体に何とも言えないゆったりした和音とリズムを付加している。ちなみに彼は、ハービー・マン、アストラット・ジルベルト、アート・リンゼイなどのバックの他、坂本龍一や渡辺貞夫の作品でもお馴染みの人だ。

全体的な雰囲気としては、ラリー・クレインお好みのダークな世界に染められており、何度も言及するがジョニ・ミッチェルの世界に共通するものがある。静かな夜にひっそりと聴くのによい作品。といっても、本作で一番良い出来なのは、ボサノヴァ風にアレンジしたカバー曲よりも、アントニオ・カルロス・ジョビン作の「三月の水」だったりして...........。ちなみに日本盤では、バート・バカラックとエルヴィス・コステロの共作や、ポール・サイモンの作品(1980年の「One Trick Pony」から。個人的に好きな作品)などがボーナス・トラックで収録されていおり、そちらもお勧めだ。


[2007年9月作成]


C86 Shine (2007)  [Joni Mitchell]  Hear Music


C86 Shine

Joni Mitchell : Vocal, Keyboards
James Taylor : Acoustic Guitar
Brian Blade : Drums

1. Shine [Joni Mitchell]



Jomi Michell : Producer


2002年の「Travelogue」の発表で、現在の音楽産業の現状を批判して音楽界からの引退を表明し、画業に専念していたジョニ・ミッチェルが5年ぶりに製作した作品。今回彼女は、商業性に囚われず、アーティストの自主性を尊重するスターバックスの系列会社 Hear Music のもとで、本当にやりたいこと、言いたいことにこだわった作品を作り上げた。このアルバムに収められている音楽は、人の心を癒すものではなく、環境問題や現代社会の病巣に対する警鐘の歌は、リスナーの心に突き刺さる鋭さに満ちている。サウンドも現代的で、アコースティック・ギターやシンセサイザーを多用し、ドラムス、ベースやホーンなどの伴奏陣を最低限に抑えたシンプルなものだ。その乾いた響きは、歌詞に見事にマッチしている。そのメッセージ性、芸術性は大変見事なもので、この作品の質の高さを否定する人は誰もいないだろう。しかし、気難しく重々しく、音楽本来の面白さに欠けることも確かで、正直言って繰り返して聴きたいとは思わないよな〜!

JTはタイトル曲の 1.「Shine」にアコギで参加している。この作品のなかでは、シンプルでストレートな歌詞とサウンドで、ダークな雰囲気ではあるが比較的聴きやすい曲だと思う。サウンド的にはジョニのキーボードが主体。JTのアコギ演奏は控えめで、調味料的な役割で音の壁のなかにしっかり溶け込み、単独の音としては僅かに聴き取れるだけだ。ドラムスのブライアン・ブレイド(1970- )は、ケニー・ギャレット、ジョシュア・レッドマン、ウェイン・ショーター、ノラ・ジョーンズ、ダイアン・リーブス、エルヴィス・コステロ、ダニエル・ラノワ、ボブ・ディランなど、90年代以降の幅広い分野でのセッションに参加するドラム奏者。ジョニの作品には、1998年の「Taming The Tiger」以来の常連となっている。

[2022年4月追記
彼女は2015年に脳動脈瘤を発症し、一時歩行や会話が困難な状態になっていたが、リハビリを重ねて少しづつ回復。会話は戻ったが、身体を動かすことは大変とのことで、音楽活動からは引退の状態。2020年代になってからは、イベントなどに参加するようになり元気な姿を見せている。


C87 Back To Bachrach (2008)  [Steve Tyrell]  Koch


C87 back To Bacharach

Steve Tyrell : Vocal
Martina McBride : Vocal
Rod Stewart : Vocal
James Taylor : Vocal
Dionne Warwick : Vocal

Burt Bacharach : Piano
Bob Mann : Guitars
Zev Katz : Bass
Allan Schwartzberg : Drums
David Bargeon : Baritone Horn

Darryl Tookes, Lauren Tyrell, LaTanya Hall, Fred White, Lynn Fiddmont, John Cobert, The Springhurst Elementary School Harmonaires : Additional Vocals

Bob Mann, Steve Tyrell, Burt Bacharach : Arragement
Steve Tyrell : Vocal Arragement

1. What The World Needs Now [Burt Bacharach, Hal David]

Bob Mann, Steve Tyrell : Producer


スティーブ・ティレルは、50代になって本格的なソロデビューを果たしたジャズ歌手だ。若い頃はバンド活動やクラブ歌手をやっていたそうだが、18歳でセプター・レコードに入社。宣伝マンとして同社専属のディオンヌ・ワーウィック等の売り出しに成果を上げ、「Raindrop Keep Fallin' On My Head」をはじめとするB.J. トーマス諸作品のプロデュースで有名となった。その後もボニー・レイットやリンダ・ロンシュタット等のアルバムや映画音楽のプロデューサー、および作曲家として活躍する。そんな彼に訪れた転機が、スティーブ・マーチン主演の「Father Of The Bride (花嫁の父)」1991 だった。映画の挿入歌「The Way You Look Tonight」のデモ録音における彼の歌が評判になり、そのまま映画で使用されたのだ。その好評を受けてスタンダード・ジャズ曲のアルバム製作がされ、歌手としての地位を確立した。そして本作は彼の7枚目のアルバムとなり、バカラック学校の卒業生と称する彼にとって満を持して製作された作品なのだ。プロデューサー、アレンジャー、ギタリストとして名を連ねるボブ・マンは、JTバンドのギタリストとしてファンにお馴染みの人。彼はスティーブのCDデビューの頃より音楽監督を担当する他に、最近はリンダ・ロンシュタット、バリー・マニロウ、ダイアナ・ロス、ロッド・スチュアートなどの作品に参加しており、スタンダード・ソングのアレンジに手腕を発揮している。

本アルバムのハイライトとして、豪華なゲスト・ボーカリストとの共演曲 1.「What The World Needs Now」が収録された。JTは本作の共同プロデューサー、音楽監督のボブ・マンの縁で参加したものと推定される。ディオンヌ・ワーウィックとロッド・スチュワートについては説明不要と思われるので、マルティナ・マックブライドについて述べる。彼女は他のシンガーよりもずっと若い1966年生まれで、青い瞳が印象的な美人。サウンド・エンジニアであるご主人が、ガース・ブルックスと仕事をしたことがきっかけでブレイク、1990年代にカントリー音楽界でスターになった。リーアン・ライムズやシャニア・トウェイン等と共通する現代的な感覚が特徴。4分40秒のなかで、スティーブ→ディオンヌ→JT→ロッド→マルティナの順番で、5人が代わる代わる歌い、そして最後は掛け合いになる。アドリブで自由に歌っているようにも聞こえるが、各人のバランスが絶妙で、綿密なアレンジによるものと思われる。JTの歌では、ロッドが合いの手を入れる場面があり、両者の長いキャリアを考えると、この初共演は感慨深い。ディオンヌは以前に比べると声がかすれているように思えるが、それでも貫禄充分。マリティナも若々しい声で頑張っている。主役のスティーブは、すこしダミ声なんだけど、何ともいえない渋い味わいがあって良い。エンディングの5人の掛け合いの華やかさは万華鏡のようだ。

本作はバカラックの代表作がいっぱい詰まっていて、彼のメロディーの素晴らしさを満喫することができる。それでもバカラックの全てというわけでもなく、「I'll Never Fall In Love Again」、「Promses, Promises」、「Do You Know The Way To San Jose」などの大名曲が収録されていない。いい曲がありすぎるなんて、何とも贅沢なもんだ。ちなみに日本盤には、ボーナストラックとして「Any Day Now」、「That's The Friends Are For」の2曲が収録され有難いが、アルバムとしての構成を考えるとバランスが悪く、本篇と切り離して聴いたほうがよいと思う。

[2009年1月作成]



C88 Amparo (2008)  [Lee Ritenour & Dave Grusin]  Decca




James Taylor : Vocal
Lee Ritenour : Nylon Strings Guitar
Dave Grusin : Piano, Arragement
Orchestra Concert Master : Ralph Morrison

Dave Grusin &Lee Ritenour : Producer

1. Since First I Saw Your Face [Traditional]



リー・リトナー(1952- )は、1970年代末から1980年代のフュージョン音楽全盛期において、ギターの貴公子として大変な人気があった。最初セルジオ・メンデスとブラジル77の演奏で名声を得て、その後はジャズ、ポピュラー、ロック等、幅広い分野でスタジオ・ミュージシャンの仕事をしながら、自己名義のアルバムを数多く製作した。デイブ・グルーシンは、それらのアルバムでキーボードを弾いていたパートナー的存在。彼はジャズ、とりわけフュージョン音楽界の巨匠のひとりで、プレイヤー、アレンジャー、コンポーザー、プロデューサーなど、なんでもこなし、GRPレコードというレーベルのオーナーでもあった。また映画音楽での活躍も顕著で、「Tootsie」 1982、「On Golden Pond (黄昏)」 1981など多くの作品を担当。私にとって特に思い出深い作品はサイモン・アンド・ガーファンクルと一緒に担当したダスティン・ホフマン、キャサリン・ロス主演の「Graduate (卒業)」 1967だった。彼の音楽は天才的なプロの職人という感じで、器用でソツがなさ過ぎる感じがするが、その心地よさが彼の持ち味だ。JTとはクリスマス・アルバム 2004 A18で編曲を担当した。本作は二人が組んでクラシック音楽に挑戦したもので、2000年のアルバム「Two World」の続編ということができる。

リーのナイロン弦ギター、デイブのピアノを中心とした小編成のバンドに、オーケストラが加わった編成。JTの他にオペラ歌手のレネ・フレミング、バイオリン奏者のジョシュア・ベル、トランペットのクリス・ボッティがゲストで参加している。1.「Since First I Saw Your Face」は、イギリス人のトーマス・フォードが1607年に出版した「Music Of Sundry Kinds」に収められた曲。作者として彼の名前がクレジットされることが多いが、実際のところ、彼は作者不明の作品を編纂して本にしたもので、本曲もそのひとつだ。シェイクスピアの時代の作品として、クラシック音楽で演奏されている古い歌で、ジェイムスは格調高く歌っている。

その他の曲では、アントニオ・カルロス・ジョビンが1970年のアルバム「Stone Flower」で録音したタイトル曲の「Amparo」(「冒険者」という映画のために作曲された曲で、いつもの彼の作風とは異なるミステリアスな雰囲気の曲)や、フランス印象派のフォーレ、ラベルの曲のアレンジ面白い。

JTが歌うトラディショナルは、いつ聴いてもいいもんですね!

[2010年11月作成]



C89 Songs Of Joy And Peace (2008)  [Yo-Yo Ma & Friends]  Sony


James Taylor : Acoustic Guitar, Vocal
Yo-Yo Ma : Cello
David Lasley, Kate Markowitz, Arnold McCuller, Caroline Taylor, Andrea Zonn : Back Vocal

Charles Floyd : Arrangement of Cello
Dave O'Donnell : Producer

1. Here Comes The Sun [George Harrison]

Recorded March 7, 2008 at The Barn, Washington, Massachusetts


ヨーヨー・マとJTの親密ぶりは説明不要だろう。「Hourglass」1997 A16、マーク・オコナー、エドガー・メイヤーとのコラボによる「Appalachian Journey」 2000 C72といった公式レコーディングの他に、多くのイベントで共演。キャロラインとの結婚式ではゲストで演奏もしたという。ヨーヨー・マがホリデイ・シーズン用のアルバムを製作するにあたり、「平和と喜び」をテーマとして、共演アーティストとの一緒に曲を磨き上げてゆく。その過程で醸し出される「共感」の思いが、本作全体に強いスピリチュアルな雰囲気を与えており、それがクリスマス、新年、冬至を祝う心と合わさって聴く者に大いなる安らぎと励ましを与えてくれる稀有な作品となった。

JTは、ザ・ビートルズ 1969年の傑作「Abbey Road」のB面1曲目に収録されたジョージ・ハリソンの「Here Comes The Sun」を取り上げた。この曲は7フレットにカポをつけて、フラットピックでさらさらと弾く曲として、当時のアコギ小僧の定番曲となり、私も、ヴァースの終わりとブリッジにおける3連符のクロスピックングを散々練習したものだった。今でもギターを手にすると、つい弾きますね〜。JTは原曲を大胆に改変し、ワルツのリズムで歌っている。作曲家でボストン・ポップスの客演指揮者でもあるチャールズ・フロイドのアレンジによるチェロとギターというシンプルな編成で、JTは春の訪れを歌う。雪が残る3月、JTの地元であるマサチューセッツ州の納屋を改造したスタジオで録音され、後に奥さんを含むコーラス隊によるバックボーカルが付け加えられた。またクレジットの表示はないが、ヴァース終わりの3連符の箇所では、マンドリンの音が聞こえる。これは後のセッションで共演したクリス・タイル(Chris Thile、彼については後述参照)のプレイをオバーダビングしたものと推測される。

初回限定で発売された本作のデラックス版にはボーナスDVDが添付されており、本作のメイキング映像と、収録曲のミュージックビデオが収められている。そこでは本曲の録音に係るリハーサル、曲作りの打ち合わせ、テイクの間の会話などの風景を楽しむことができる。また本曲を通して演奏した映像もあるが、そこで聞かれる音は、上記のオーバーダビング後のものなので、ライブ撮影とは異なり、ミュージック・ビデオというべきものである。JT以外のアーティストについても、彼らのヨーヨ・マに対する尊敬の念と、それを受け止めて暖かく返す彼の態度は最高で、この60分間の映像はCDの付録以上の価値があると思う。

それにしても本作のために集まったゲストは皆素晴らしい! ジャズからはサックスのジョシュア・レッドマン、ピアノとボーカルのダイアナ・クラール、トランペットのクリス・ボッティで、特にクリスの「My Favorite Things」は、繊細なアレンジと滑らかなサウンドが素晴らしい。彼はスティングとの共演でも有名で、JTのクリスマス・アルバム A18 A19にもゲスト参加している人だ。1959年の「Take Five」で一世を風靡したデイブ・ブルーベック (1920-2012) は、録音時は88歳であるが、かくしゃくとした演奏振りを見せてくれる。そこでクラリネットを吹くパキート・デリヴェラ(1948- )はキューバ生まれで、アメリカ渡航後にジャズ、クラシックの両方で巨匠となった人。両者の楽器から発せられる音の粒の美しいこと!ブルーグラス界からは、エドガー・メイヤーとクリス・タイルが参加。エドガー・メイヤーは、ベース奏者としてマーク・オコナーと一緒に活動、JT 1989年のライブでバックを勤めている。クリス・タイルは1981年生まれの若手マンドリン奏者で、天才的なプレイを披露している。オペラ歌手の女神と呼ばれるレネ・フレミングは、前述のエドガー、クリスと一緒の共演。ウクレレ奏者のジェイク・シマブクロは、繊細なプレイでジョン・レノンの「Happy Xmas」を好演。なかでも私の好みは、ルーツ音楽系で、スペインのガリシア地方で活躍する緑色の髪の毛のバグバイプ奏者クリスティナ・パト、カナダのノヴァスコシアを本拠地とするフィドル奏者のナタリー・マックマスターの元気なプレイ、そして二人をバックにアイルランドの古いキャロルを歌うアリソン・クラウスのケルト風音楽は、聴いた後も余韻が長く残る。極めつけは、ブラジルのクラシック・ギターのアサド兄弟が演じるブラジル音楽で、特に音楽一家であるアサド家の男女による歌・コーラス(有名なシンガー、ギタリストであるバディ・アサドもいる)がフィーチャーされた「Familia」は、家族の絆を強く感じさせ真に感動的。そして、それらのゲストと一緒に演奏するヨーヨー・マのプレイの素晴らしさ、奏でる音の艶やかさはこのうえもない。

ホリデイ・シーズンに家族皆で聴きたい。JT1曲だけでも買う価値あるけど、他のアーティストによる曲も素晴らしく、さらにお得な一枚。購入にあたっては、DVD付きのデラックス・エディションを探してみることをお勧めします。

[2011年12月作成]

[2012年11月追記]
「Here Comes The Sun」は、2012年10月発売のJTのクリスマスアルバム「James Taylor At Christmas」A19に収録されました。



C90 Only Everything (2010)  [David Sunborn]  Decca


James Taylor : Vocal
David Sunborn : Alto Sax
Joey DeFrancesco : Hamond B3 Organ
Steve Gadd : Drums

Bob Makach : Tenor Sax
Frank Basile : Baritone Sax
Tony Kadleck : Trumpet
Mike Davis : Bass Trombone

Phil Ramone : Producer

1. Hallelujah, I Love You So [Ray Charles]


デビッド・サンボーンというとジャズ・フュージョンの筆頭プレイヤーという印象があるが、実はこの人の音楽ルーツはR&B, ブルースにあり、音楽を志したきっかけは子供の頃に両親と一緒に観たレイ・チャールズのコンサートという。小児マヒのリハビリとして始めたサックスにのめりこみ、14才でアルバート・キングなどプロのブルース・ミュージシャンと共演。ポール・バターフィールド・ブルース・バンドに所属後、ロック、ソウル、ジャズと、あれだけ幅広いスタジオ・セッションワークをこなしながらも、その音を耳にすると、すぐに彼の演奏だと分かるシグネチャーを持ち続けたことがスゴイ。ハイノートを多用した、絞り出すようなソウルフルなサウンドは、短い演奏時間に命をかけるホーンプレイヤーのガッツに溢れており、歌ものの間奏におけるソロプレイは、副業感覚でやっているジャズ畑のプレイヤーとは本質的に次元が異なる演奏だ。1975年に自己名義で初めてのソロアルバムを発表。本作は、2008年の「Here & Gone」の続編的な作品で、レイ・チャールズ(1930-2004)、および彼のバンドでサックス奏者で活躍したハンク・クロフォード(1934-2009)、デビッド・"ファットヘッド"・ニューマン (1933-2009) に捧げたアルバムだ。彼の原点に戻ったようなブルース、ソウル・フィーリングに満ちた内容で、シンセサイザー全盛の中、懐かしいハモンド・オルガンを蘇らせた男ジョーイ・デフランセスコと、ドラムスの神様スティーヴ・ガッドがリズムセクションを担当している(ベースパートはジョーイがフットペダルを踏んでいる)。

JTは、デビッドと同じR&B、ブルースのルーツを持つようで、1977年のツアーでデビッドをバンドメンバーに採用、そして彼のグループを前座に出演させて売り出しに一役買っている。その後も、「No Nukes」1979 B12、アルバム「Hideaway」1980 C35への参加、1988〜1990年に放送されたデビッドの音楽番組「Night Music」へのJTの登場(「その他断片 1980年代」参照)などで親交が続き、本作への参加につながっている。1.「Hallelujah, I Love You So」は、レイ・チャールズ1956年の作品で、同年のビルボードR&Bチャートの5位を記録した。ブルースにゴスペル音楽を取りこんだ彼の持ち味がフルに発揮された作品だ。JTがこの曲を歌うのは意外と感じる人もいると思うが、彼は無名時代に同曲をレパートリーとして取り上げており、1970年のシラキューズの音源で弾き語りによる演奏を聴くことができる(「その他音源」の部参照)。JTにすると、40年ぶりの公式録音になるが、両者の歌いっぷりは同じで、彼の音楽スタイルが当初から完成されていた事を物語っている。レイのオリジナルのようなダイレクトなソウルはないが、JTの控えめであるが軽妙洒脱な表現も味わい深く、彼独特のR&B表現と言うことができ、2008年発表されたアルバム「Covers」A20の延長上にあるものだ。なおJTの他には、ジョッス・ストーンがゲスト・ボーカリストとして参加している。

JTの歌に絡むデビッドのサックス、バックを務めるオルガンとドラムス、そしてホーンセクションのシンプルなアンサンブルの妙を楽しみましょう!

[2013年9月作成]



 
C91 Ashes And Roses (2012)  [Mary Chapin Carpenter]  Zoe 
 

Mary Chapin Carpenter : Vocal, Acoustic Guitar
James Taylor : Vocal, Acoustic Guitar, Harmonica
Duke Levine: Electric Guitar
Matt Rollings : Piano, B3
Glenn Worf : Bass
Russ Kunkel : Drums, Percussion
Eric Darken : Percussion

Matt Rollings, Mary Chapin Carpenter : Producer

1. Soul Companion [Mary Chapin Carpenter]

 

メアリー・チェイピン・カーペンター(1958- )は、ニュージャージー州生まれ。父親はライフマガジンの役員で、一家で日本に滞在したこともあるそうだ。ワシントンD.C.で音楽活動を初め、カントリー・シンガーとして1987年にデビューアルバムを発表。1990年代に売れて地位を確立した。もともとフォークやロックの素養がある人なので、カントリー音楽に留まらない音楽性を発揮し、2000年代以降はシンガー・アンド・ソングライターとして良質の作品を発表発表し続けている。彼女とJTの共演は、2000年4月6日ニューヨークで開催されたジョニ・ミッチェル・トリビュート・コンサートで、ショーン・コルヴィンを加えた3人で「Big Yellow Taxi」を歌ったテレビ映像があり、(「その他断片」の部参照)。スタジオ・セッションは本作が初めてとなる。

「Ashes And Rose」の製作には、当時彼女が経験した大病、離婚、彼女の音楽キャリアを後押ししてくれた父親の死が背景にあったそうで、収録曲の多くに喪失感が感じられる。彼女の低く深く陰影のある歌声と、本人のアコースティック・ギターを中心とした淡々としたサウンドが作品全体を覆い尽くしており、同じ雰囲気の曲が続くので、暗い作品のように見えるけど、光が射しこむような独特の温かさも感じられ、それが大きな魅力となっている。夜の静けさのなかで聴いていると、心が静まる逸品だと思う。

1.「Soul Companion」は、メロディー・歌詞・サウンド等、全ての面でひときわ目立つ曲で、アルバムを引き締める役割を担っていると思う。JTはコーラスやブリッジ部分のハーモニーと、セカンド・ヴァーズのリードボーカル、そしてサード・ヴァースを彼女と掛け合いで歌っている。旅・人生における「魂の伴侶」を歌っていて、地味だけどとても良い曲だと思う。アルバムの宣伝のため、ファンから募集した「Soul Companion」(人間に限らず)の写真から彼女
がセレクトし、この曲のプロモビデオが作成された。それは好評だったらしく、シリーズ化している。

[2014年7月作成]



 
C92 Quiet About It (A Tribute To Jesse Winchester) (2012)  [Various Artists] Mailboat
 



James Taylor: Vocal, Acoustic Guitar
Jimmy Johnson : Bass  
Chad Wackerman : Drums

Dave O'Donnell : Producer, Engineer
Mac McAnally, Jimmy Buffett : Executive Producers

1. Payday [Jesse Winchester]



ジェシー・ウィンチェスター(1944-2014)は、ヴァージニア州生まれでメンフィス育ちであるが、1967年ベトナム戦争の徴兵命令を忌避してカナダに移り住む。1969年にザ・バンドのロビー・ロバートソンと知り合い、彼のプロデュースでデビューアルバム「Jesse Winchester」を発表したが、徴兵拒否のために米国内での演奏活動ができず、その評判は音楽仲間と熱心なファンに限られた。1970〜1980年代、レコード・コレクター等の洋楽専門誌に幻の名盤として紹介された記事を読み、ザ・バンドの連中が参加しているんだから大したもんだろうなと思った記憶がある。彼はアルバムを発表し続け、多くのアーティストが彼の曲をカバーしたが、「誰もが知っている名曲」という作品はなく、玄人受けする作曲家としての地位を固めていった。彼の作品の多くには、遠く離れた地で故郷を想う気持ちが込められているようだ。そして1977年カーター政権の恩赦により、アメリカでコンサートを開くことができるようになり、2002年からは故郷のヴァージニア州に住まいを戻した。その後2010年に食道がんの告知を受け、治療の結果、一時は完治宣言を行って音楽活動に復帰したが、2014年膀胱がんにより死去。

本アルバムは、友人のジミー・バフェットとエルヴィス・コステロが、闘病中のジェシーを励ますために企画したもので、諸手配・手続き面をジミーが、音楽面を彼のバンドメンバーでシンガー・アンド・ソングライターでもあるマック・マクナリーが担当した。予算がなかったので、各ミュージシャンはバックバンドの手配なども自前で行ったという。上記3人(ジミー、エルヴィス、マック)の他に、ロザンヌ・キャッシュ、ヴィンス・ギル、ライル・ラヴェット、アレン・トーサン、エミルー・ハリス、ルシンダ・ウィリアムス、リトルフィート等が参加したが、JTの参加はジミー・バフェットの肝いりと思われる。

JTが歌った冒頭曲「Payday」は、ジェシーのデビューアルバム最初の曲で、ロビー・ロバートソンのリードギターが冴えていたが、ここではジミー・ジョンソンのベースとチャッド・ワッカーマン(当時のツアーバンドでスティーブ・ガッドの代わりにドラムスを担当していた人で、ジャズ、フュージョン、ロックと広い分野で活躍、特にアラン・ホールズワース・バンドでのジミー・ジョンソンとのリズムセクションが名高い)のみというシンプルなバックで、間奏のギターソロも彼自身によるアコギのオーバーダビングで済ませている。ブルーカラー、自由人的な生活での給料日を歌った曲であるが、解放感に留まらないシニカルな視線が入っており、その点でJTのムードにはまっている。ちなみに、JTとジェシーとの関わりは、1988年発表のジミー・バフェットのアルバム「Hot Water」 C46で、イーグルスのティモシー・シュミットとJTを加えた三重唱による「L' Air de la Louisiane」が最初。

私はジェシー作品を聴いていないので何とも言えないが、本作品に収められた各アーティストのカバーは、どれも自然な仕上がりで、作品とアーティストの個性がよくマッチしており、曲の良さ・作風によってアルバムとしての一貫性も保たれており、この手のトリビュート・アルバムとしては、よい出来であると思う。

アコギ、ベース、ドラムスだけの軽妙な演奏・歌唱が楽しめる。

[2016年10月作成]


 
C93 This Christmas (2012)  [Olivia Newton-John & John Travolta]  Universal


James Taylor: Vocal, Acoustic Guitar
Michael Landau : Guitar
Larry Goldings : Harmonium
Randy Waldman : Organ, Synthesizer Bass
Mike Fisher : Percussion
David Lasley, Kate Markowitz, Arnold McCuller : Back Vocal (1,2,8,10)

1. Deck The Halls [Traditional, Arranged by Taylor & Grusin]  A18




オリビア・ニュートン・ジョンとジョン・トラボルタは、1978年のミュージカル映画「Grease」で若いカップルを演じ、大成功を収めた。なかでも、ジョンは前年の主演作「Saturday Night Fever」により破竹の勢いがあった頃だった。彼は、その後は長い低迷期に陥ったが、1994年のクウェンティン・タランティーノ監督の「Pulp Fiction」で復活し、その後は多くの作品に主演して強烈な存在感を漂わした。一方オリヴィアは、1970〜1980年代前半に美人女性歌手として一世を風靡したが、1990年前半の乳ガン克服後は、健康・自然などの社会運動や慈善活動に重きを置くようになった。そんな二人が再会して、クリスマス音楽のチャリティー・アルバムを製作、その収益は、Olivia Newton-John Cancer & Wellness Centre(癌患者支援団体) と、Jett Travolta Foundation (ジョンが亡くなった息子のために設立した障害を持つ子供達への支援組織)へ寄付されるとのこと。

本アルバムには、バーバラ・ストレイサンド、トニー・ベネット、クリフ・リチャード、ケニー・G、チック・コリアとともに、JTがゲスト参加している。
1.「Deck The Halls」は、JTが2004年にホールマーク社から発売された「A Christmas Album」A18に収められたが、その後2006年と2012年に再発された「James Taylor At Christmas」A19からオミットされた曲だ。本アルバムでは、A18で使われた伴奏トラックをベースに、一部の楽器をオーバダビングして、オリヴィアとジョンのボーカルをフィーチャーした作りになっている。JTのオリジナルでは、ピュアでクラシカルな雰囲気だったのに対し、ここではアレンジャーのランディ・ウォルドマン(ジョージ・ベンソンやバーバラ・ストレイサンドのバックで有名な超売れっ子アレンジャー)が、シンセ・ベースとオルガンを加えて、よりポップな色彩を添えたものになっている。ファースト・ヴァースは上記の二人が、セカンド・ヴァースはJTが歌い(彼のボーカルは、A18と同じ録音と思われる)、そこに二人が加わって賑やかに盛り上がる。アルバムに収録された他の曲は、「Baby It's Cold Outside」(多くのデュエットと異なる趣向がお楽しみ)、「Have Yourself A Merry Little Christmas」、「Winter Wonderland」、「The Christmas Song」、「Auld Lang Syne」など、JTのアルバムと同じ曲があり、両者を比べると、本作はアーティスティックな出来栄えよりも、楽しんで作ることを意識しているように感じる。また、アルバム全体としては、オリヴィアとジョンという二人の声のコンビネーションの素晴らしさが一番の魅力となっている。

1.「Deck The Halls」も
明るい感じの出来上がりで、それは本アルバム全体のムードに合っていると思うが、個人的には厳かなオリジナルのほうが好きかな?どちらが良いかは、聴く人の好みによるだろう。同じ伴奏の録音でも、味付けによってこれだけ変わるなんて面白いね!

[2022年10月追記]
オリビア・ニュートン・ジョンさんは、2002年8月8日がんのため亡くなりました(享年73歳)。


 
C94 How Mercy Looks From Here (2013)  [Amy Grant] Sparrow - Capital  
 

Amy Grant : Vocal
James Taylor : Harmony Vocal
Adam Shoenfield : Electric Guitar
Tom Bukovac : Additional Electric Guitar
David Levita : Electric Guitar, Acoustic Guitar
Marshall Altman : Acoustic Guitar, Producer
Tim Lauer : Keyboards
Tony Lucido : Bass
Jeremy Lutito : Drums

1. Don't Try So Hard [Ben Glover, James Taylor]
 
Recorded At Nashville, TN, October, 2012


エミー・グラントは、1960年ジョージア州に生まれナッシュビルで育つ。1977年17歳でレコード・デビューし、1982年「Age To Age」によりクリスチャン音楽界でブレイクする。さらに1986年ピート・セテラとのデュエット「Next Time I Fall」が全米1位となって世界的な知名度を上げ、1991年のアルバム「Heart In Motion」、シングル「Baby, Baby」がともに全米1位となり、人気絶頂となる。その後1994年の「House Of Love」でデュエットしたヴィンス・ギルと2000年に再婚して現在に至る。クリスチャン音楽ファンからは、人気取りに走ったと批判されたが、2013年発表の本作を聴く限り、クリスチャンとしての本質は変わっていないように見える。

2011年に亡くなった母に捧げた作品で、死と生そして信心に向き合った曲が並んでいる。私のように特定の宗教を持たない(といっても何となく神の存在を信じている人)には、このような自分の思いを純粋かつはっきり表現できること、そしてその強さにある種の羨望を覚えてしまう。しかし一部の宗教歌にあるような押しつけがましさはなく、自分の感じたこと、思ったことを歌の題材にしているので、共感を覚えることができるのだろう。

JTはもともと夫君のヴィンス・ギルと親交があり、2011年7月4日タングルウッドでの恒例のコンサートに夫婦揃ってゲスト出演した音源が残っている。その縁もあってJTは、1.「Don't Try So Hard」のコーラス部分にハーモニー・ボーカルで参加。彼女が共作者のベン・グローヴァーから書きかけの本曲を聞いた時、コーラス部分は出来上がっていて、そこから残りを一緒に作曲したそうだ。録音の際にコーラスを歌うJTの声が頭にうかび、彼にお願いしたという。JTはマサチューセッツ州の自宅にあるスタジオ「The Barn」で、デイブ・オドネルのプロデュースでオーバー・ダビングにより歌入れをした。

信心深い人は、ともすると独善的になって頑張りすぎてしまう傾向があるが、この歌は「そんなに頑張らないで」と悩む自分(悩む人)を優しく諭す内容で、そのように生きている人々にはジ〜ンをくる曲だと思う。何よりも彼女の囁くような声が歌の雰囲気にピッタリ合っており、JTの誠実な声がコーラスで色を添えている。

[2017年8月作成]


C95 Smokey & Friends [Smokey Robinson] (2014)  Verve


Smokey Robinson : Vocal
James Taykor : Vocal, Acoustic Guitar
Larry Goldings : Wurlizer and Organ
Micheal Landau : Electric Guitar
Jimmy Johnson : Bass
Jim Keltner : Drums
Roger Squitero : Tabourine

Dave O'Donnell : Co-Producer, Mixing
Randy Jackson : Producer

1. Ain't That Peculier [Wllioam "Smokey" Robinson Jr., Warren Moore, Robert Rogers, Marvin Tarplin]


スモーキー・ロビンソン(1940- )は、デトロイト出身でザ・ミラクルズのリーダーとして活躍、1972年以降はソロで活動している。作曲・作詞家として他のアーティストに多くの提供した他、モータウン・レコードの設立に参加して副社長にもなった米国音楽界の巨人の一人。本作は彼の代表曲を集めたデュエット特集で、錚々たるゲストが参加している。曲目は以下の通り。

          曲名           Original (年、全米順位)     主なカバー                     本作のゲスト   
1. The Track Of My Tears      The Miracles (1965、16位)   Johnny Rivers(1967、10位)            Elton John

2. You Really Got A Hold On Me  The Miracles (1962、8位)    The Beatles (1963、Meet The Beatles)        Steven Tyler            
3. My Girl                 The Temptations (1965、1位)                           Miguel, Aloe Blacc & JC Chasez    
4. Crusin'                 Smokey Robinson (1979、4位) D'Angelo (1995、55位)            Jessie J
5. Quiet Storm             Smokey Robinson (1976、61位)                         John Legend
6. The Way You Do (The Things You Do) The Temptations (1964、11位) Rita Coolidge (1978、20位)、UB40 (1990、6位) Ceelo Green
7. Being With You           Smokey Robinson (1981、2位)                           Mary J. Blige
8. Ain't That Peculiar         Marvin Gaye (1965、8位)     Diamond Reo (1975、44位)           James Taylor
9. The Tears Of A Clown       The Miracles (1970、1位)     Brandy Moss-Scott (2000、61位)         Sheryl Crow
10. Ooh Baby Baby           The Miracles (1965、16位)    Linda Ronstadt (1978、7位)          Ledisi
11. Get Ready             The Temptations (1966、29位)  Rare Earth (1970、4位)            Gary Barlow


本当に名曲ばかりなんだけど、アルバムに「Shop Around」(The Miracles 1960、12位、Captain & Tennille 1976、4位)、「I Second The Emotion」 (1967、4位)が含まれていないという凄さ!

JTが参加している1.「Ain't That Peculier」は、マーヴィン・ゲイの1965年のヒット曲 (全米8位)。JTに馴染みがない日本人の音楽ファンには、本作へのゲスト出演が意外に思うかもしれないが、彼のレイ・チャールズやマーヴィン・ゲイ等の音楽に対する愛着の深さを知っている人には、この曲はドンピシャだ。クールで抑制の効いたボーカルが素晴らしく、スモーキーとの掛け合いがカッコイイ事この上もない。本アルバム大半の曲は、プロデューサー、ベーシストのランディ・ジャクソンを中心とするミュージシャンがバックを担当しているが、ここでは例外的にJTバンドが固めている。ただしドラムスがいつものスティーヴ・ガッドではなく、粘り強いグルーヴを得意とする名手ジム・ケルトナーであることがミソ。タンバリンのロジャー・スキテロは、グローヴァー・ワシントン Jr.、マイク・マニエリ、スパイロ・ジャイラ、デイブ・グルーシンなどのフュージョン・ジャズを中心に、ローリング・ストーンズ、ブロンディなど幅広いセッションに参加している人。

個人的には、ジョン・リジェンド、レディシー、メアリー J. ブライジ、シェリル・クロウのトラックが好き。曲良し、歌良し、演奏良しの三拍子揃ったアルバムで、スモーキーの音楽を知らない人にもお勧め!


[2018年4月作成]


C96 Rise [Andrea Zonn] (2015)  Compass
 

 
Andrea Zonn: Vocal
James Taylor: Harmony Vocal
Thomm Jutz: Acoustic Guitar
Bryan Sutton: Acoustic Guitar
Michael Landau: Electric Guitar
John Javis: Piano
Jon Coleman: Organ
Willie Weeks: Bass
Steve gadd: Drums
Eric Darken: Percussion
Robert Bailey, Vicki Hampton, Drea Rhenee: Back Vocal

1. You Make Me Whole [Jon Coleman, Andrea Zonn]


JTバンドのバック・ボーカリスト、兼バイオリン奏者のアンドレア・ゾーンが、2003年の「Love Goes On」以来12年ぶりに発表した2枚目のソロアルバム。彼女は2003年の全米サマーツアーからJTバンドに加入(当該ツアーは、最初の1/3がヴァレリー・カーター、途中がテンポラリー契約のカルメラ・ラムゼイ、最後の1/3がアンドレアだった)。以後コーラス隊を伴わないヨーロッパ・ツアー等を除き、ほとんど全てのJTツアーとレコーディングに参加している。その他に多くのセッションとコンサート(バックボーカル、リードボーカル、バイオリン)をこなしていて、多忙なスケジュールの合間をぬって準備し、製作したのだろう。長年のセッションワークで築いた人脈から錚々たるメンバーが参加。また作詞・作曲もナッシュヴィルの気鋭のソングライター達との共作になっている。この人のルーツはカントリー、ブルーグラス音楽であるが、本作品ではフォーク、R&B、スウィングジャズ、アダルト・コンテンポラリー等幅広い音楽に取り組んでいて、緻密で現代的なバックのサウンドと、陰影に富んだ彼女のボーカルとバイオリンがうまく溶け合っている。

1.「You Make Me Whole」は、コーラスパートおよびセカンド・ヴァースの多くの部分で、JTがハーモニー・ボーカルでアンドレアに寄り添っている。長い付き合いの中で培われた絆がはっきり感じられるパフォーマンスだ。共作者のジョン・コールマンはナッシュビルで活動するキーボード奏者。ドラムスのスティーブ・ガッド、エレキギターのマイケル・ランドウはJTバンドから、アコギのトム・ジュッツは、ドイツ出身でナッシュビルに移住したシンガー・ソングライター、ギタリスト、作曲家、プロデューサーで、本アルバムの数曲をアンドレアと共作している。ブライアン・サットン、ジョー・ジャービスは主にナッシュビルで、エリック・ダーケン、ウィリー・ウィークスは幅広いジャンルで、トップのセッション・ミュージシャンだ。コーラス隊の3人はナッシュビルで活躍するセッション・ボーカリスト。

その他の曲では、ブルーグラス界からマンドリン奏者サム・ブッシュ、ドブロ奏者ジェリー・ダグラス、ニューグラス・リバイバルのジョン・コーワン、ブルースのケブ・モー、ヴィンス・ギル、マック・マカナリー、アリソン・ブラウン、トレース・アドキンス、JTバンドからはウォルト・ファウアーが参加している。

サウンド・歌詞ともに、何度もじっくり聴き込むことで本当の良さが伝わってくる。カントリー音楽をベースとしながら、他ジャンルの音楽も柔軟に取り入れ、現代的な音作りでありながら、ジャケット作品にあるようにノスタルジックな白黒の世界も感じさせてくれる、奥が深いアルバム。

[2022年1月作成]


 
C97 Christmas Together [Garth Brooks & Trisha Yearwood] (2016)  Pearl 
 


Garth Brooks: Vocal
Trisha Yearwood: Vocal
James Taylor: Vocal, Acoustic Guitar
Billy Panda: Acoustic Guitar
Chris Leuzinger: Electrci Guitar
Bruce Burton: Steel Guitar
Bobby Wood: Keyboards
Stuart Duncan: Mandolin
Mike Chapman, Michael Rhodes: Bass
Sam Bacco, Milton Sledge: Drums, Percussion

Mark Miller: Producer

11. What I'm Thankful For (The Thanksgiving Song) [Garth Brooks, Trisha Yearwood]

注:曲毎のパーソナルがないため、楽器によってはアルバム録音セッションに参加した全員を表示しています。

 
オクラホマ州生まれのガース・ブルックス (1962- )は、1989年のブレイク後カントリー音楽界のスーパースターとなった。彼は最初の妻と離婚後、音楽上の友人・仲間だった歌手トリシャ・イヤーウッド (1964- ) と2005年に再婚(彼女は3回目の結婚)し、以降おしどり夫婦として活躍している。以前より互いの作品にゲストボーカルやコーラス等で参加したことはあったが、本作は初めてのジョイント・アルバム。自作3曲を除きスタンダード曲で、二人のデュエットが3曲、ガースが3曲、トリシャが4曲リードをとり、JTとガースのデュエットが1曲という構成。夫婦ともにJTの大ファンで、彼の音楽から影響を受けた事を公言し、コンサートやラジオ等、いろんな機会でJTの歌を歌っている。特にガースは息子にテイラーと名付けたほどだ。今回は初共演盤かつクリスマス特集という彼らにとって記念作品であることに加えて、自信作の曲が出来たため、満を持してJTにゲスト参加を依頼したんだろうな〜。

11.「 What I'm Thankful For (The Thanksgiving Song) 」は、11月の感謝祭の時期に夫婦で書いた曲とのことであるが、神に感謝して休日を祝うスピリットはクリスマスソングと同じものがあり、本アルバムで聴いても違和感は全くない。イントロで聞こえるギターは、その音色・音使いから、JTが弾いていることがすぐにわかる。まずファースト、セカンド・ヴァースとコーラスをガース、サード・ヴァースと続くコーラスでJTが歌う。ブリッジはガースとJTが交互に歌い、ガースが最後のコーラスを歌って終わる。宗教的な感じがするけど、ピュアで誠実で、とても良い曲だと思う。なおバックを担当するミュージシャンは、「G-Men」と呼ばれるガースのバックバンドの面々とナッシュビルの有名セッションマン達だ。

ちなみに本曲は、12月1日ワシントン、ホワイトハウス南の芝地で行われたクリスマスツリー点灯式で、3人により歌われた(「その他断片」の部 2016年以降を参照)。 


他の曲について簡単に解説しよう。

1. I'm Beginning To See The Light [Don George, Duke Ellington, Harry James, Johnny Hodges]
2. Ugly Christmas Sweater [Garth Brooks, John Martin]
3. Santa Baby [Joan Javis, Phil Springer, Tony Springer]
4. Feliz Navidad [Jose Feliciano]
5. What Are You Doing New Years's Eve? [Frank Loesser]
6. Marshmallow World [Carl Sigman, Peter de Rose]
7. Merry Christmas Means I Love You [Garth Brooks, Jenny Yates]
8. Hard Candy Christmas [Carol Hall]
9. Baby, It's Cold Outside [Frank Loesser]
10. The Man With The Bag [Dudley Brooks, Hal Stanley, Irving Taylor]
11. What I'm Thankful For (The Thanksgiving Song) [Garth Brooks, Trisha Yearwood]

1.「I'm Beginning To See The Light」(デュエット)は、1945年のハリー・ジェイムス(キティ・カレン歌)が初出で、同年エラ・フィッツジェラルドでもヒットした。2.「Ugly Christmas Sweater」(ガース)はガースのオリジナルで、ユーモラスで明るい歌。3.「Santa Baby」(トリシャ)はアーサ・キット1953が最初で、1987年マドンナのリヴァイバル以降多くの歌手がカバーしている。個人的にはマリア・マルダーのバージョンが好き。4. 「Feliz Navidad」(ガース)は、スペイン語で「メリークリスマス」の意味で、作者のホセ・フェリシアーノ1970年の作品。5.「What Are You Doing New Years's Eve?」(トリシャ)はマーガレット・ホワイティングが1947年に歌っている。6. 「Marshmallow World」(デュエット)はビング・クロスビー1950年がオリジナル。

7.「Merry Christmas Means I Love You」(ガース)はガースのオリジナルで、軽快なリズムによるポジティブな曲。8. 「Hard Candy Christmas」(トリシャ)は、「The Best Little Whorehouse In Texas」というミュージカルで歌われた曲で、1982年に映画化され、映画ではドリー・パートンと出演者達が、そしてサウンドトラックとシングルではドリーが単独で歌った。9.「Baby, It's Cold Outside」(デュエット)は、帰りたがる女と何とか引き留めようとする男の駆け引きを歌ったもので、女のカマトトぶりと男の少しエッチな感じがユーモラス。映画「Neptune's Daughter」1949で歌われた後、ダイナ・ショアとバディ・クラークを初めに、エラ・フィッツジェラルドとルイ・アームストロング、レイ・チャールズとベティ・カーター、サミー・デイビス Jr. とカーメン・マクレー、ノラ・ジョーンズとウィリー・ネルソン、トニー・ベネットとレディ・ガガ等、大変多くの大物デュエットがあり、JTもナタリー・コールと歌っている(A18 2004, A19 2006 参照)。ちなみにJTは、1970年代のコンサートで、ルヴォックス・テープレコーダーを使って、傑作な一人デュエットを披露している。最近ではマリア・マルダーとタージ・マハルが良かったな〜。10.「The Man With The Bag」(トリシャ)は、「(Everybody's Waitin'For) The Man With The Bag」が正式名称。ケイ・スター1950年のバージョンが初めてで、「バッグを持った男」はサンタクロースの事。

なお本アルバムは2016年11月に発売されたが、同年12月1日毎年の恒例行事として、ホワイトハウス南の South Lawnで行われたクリスマスツリー点灯式にブルック夫妻とJTが参加して、 1. 11.の2曲を歌っており、その映像が残っている。

スウィング調の軽快な曲が多く、しっとり気味の作品が多いクリスマス・アルバムの中では、異色の明るい作品。その分最後の曲 11.「What I'm Thankful For (The Thanksgiving Song)」の美しさが際立っている。

[2023年8月作成]


C98 Honey Don't Leave L.A.  [Danny Kortchmar And The Immediate Family] (2018)  Vivid Sound 
 


Danny Kortchmar: Guitar, Vocal
James Taylor: Back Vocal
Waddy Wachtel: Guitar, Back Vocal
Steve Postell: Guitar, Back Vocal
Leland Sklar: Bass
Russ Kunkel: Drums

Niko Bolas: Engineer
Fred Mollin: Producer

4. Machine Gun Kelly [Danny Kortchmar] A3 E15

2018年5月16日発売

 
制作にあたり旧知のミュージシャン、エンジニア、プロデューサーが集まったため 「Immediate Family (近親者)」がタイトルに入っているが、内容的にダニー・クーチのソロアルバム。全12曲中新曲は4曲で、残りの8曲はJT、 ドン・ヘンリー、ジャクソン・ブラウンが歌った曲のセルフカバーとなっている。ダニーは数多くのアーティストのアルバムにギタリスト、プロデューサーとして参加しているが、前述の3者とは特に親密で曲作りにもかかわっている。彼は過去に提供・共作した曲を自分の解釈で演奏しており、それらを正式録音として発表したいという希望を持っていて、2015年に自主制作でセルフタイトルの5曲入りシングルを発表している。そんな彼が日本のインディーズ・レーベルの申し出を受けて制作したのが本作だ。バックにはザ・セクションのリズムセクション、JTの1979年のコンサートで一緒に演奏し、その後しばらくJTバンドのギタリストとなったワディ・ワクテルの3人に加えて、シンガー・アンド・ソングライター、ギタリスト、プロデューサーのスティーヴ・ポステルとセッションマンのジム・コックス(キーボード)が参加している。そしてエンジニア、プロデューサーも旧知の友人で固め、まさに近親者(Immediate Family)といった面々だ。

JTがゲスト参加した4.「Machine Gun Kelly」は、「Mud Slide Slim And Blue Horizon」1971 A3がオリジナルで、ダニーは2015年に上述のシングルで取り上げているので、2回目のセルフカバーということになる。マシーンガン・ケリー(1985-1954)は禁酒法時代に密造酒製造、強盗などを犯したギャングで、最後は誘拐事件を起こして捕まり獄死した。彼の妻だったキャサリンが相当なワルだったらしいが、彼の死後釈放されたという。ダニーはこのギャングの話と自分の最初の妻との離婚(アビゲイル・ハーネスとの結婚はその後)を融合させたとコメントしているが、そうだとすると最初の妻との結婚生活はひどかったんだね。JTよりもロックな感じのプレイが心地よく、ダニーのボーカルも味がある。キーボードの音が聞こえないので、この曲ではジム・コックスは不参加。最初のスライド・ギター・ソロはワディ、最後のギター・ソロはダニーだね。JTは他のメンバーと一緒にバックで歌っていて、彼の声を聞き取ることができる。

他の曲について。

表示は 曲名、 作者(特記ない場合は Danny Kortchmar作)、オリジナルの名義・アルバム名、シングル発売の場合の順位
1. All She Wants To Do Is Dance  Don Henley 「Building The Perfect Beast」1984、 全米9位
2. Dirty Laundry [Danny Koarchmar, Don Henley] Don Henley 「I Can't Stand Still」1982、全米3位
3. Can't Do Crazy Love Again  新曲 ゲスト: Jackson Browne
4. Machine Gun Kelly, James Tyalor 「Mud Slide Slim And Blue Horizon」1971 ゲスト: James Taylor
5. Somebody's Baby [Danny Kortchmar, Kackson Browne] Jackson Browne 「First Times At Ridgemont High (Sound Track)」1982 全米7位
6. You're Not Drinking Eoungh, Don Henley 「Building The Perfect Beast」1984
7. Shaky Town, Jackson Browne 「Running On Empty」1977
8. Cruel Twist 新曲 [Danny Kortchmar, Harvey Brooks]
9. New York Minute [Danny Koarchmar, Don Henley, Jai Winding] Don Henley 「The End Of Innocence」 全米48位
10. Top Of The Rock 新曲 ゲスト: David Crosby
11. Sayonara 新曲 ゲスト: Michael McDonald
12. Honey Don't Leave L.A., James Taylor 「JT」1988 全米61位(1978)

1.「All She Wants To Do Is Dance」は、アメリカ政府の独善的な他国への政治介入を批判するプロテストソング。ダニーのコメントによると、ドン・ヘンリーのオリジナルはすべてシンセサイザーだったとのこと。当時のミュージック・ビデオではバンド演奏をバックに歌っていたが、これはフェイクだったのね.......。本作は考えうるベストの伴奏陣を得て、おそらく一発録りで録音したものと思われ、音質の良さもあってスタジオ録音でありながらライブな雰囲気に満ちた演奏となっている。ギター、オルガン、ベースとドラムスによる演奏で、シンセサイザーは一切使っていない。聴いていて私の中の「ロックの血が躍る」感じで、それはザ・ビートルズの初期アルバムやBBC放送録音を聴く時と同じ気分だ。2.「Dirty Laundry」はビジネスとしてのマスコミを徹底的に茶化した曲で、ソロとしてのドン・ヘンリー最大のヒットとなった。今回オリジナルの歌詞にあった「She can tell you 'bout the plane crash with a gleam in her eye. It's interesting when people die」という部分は他の歌詞に書き換えられていて、「今の時代にフィットさせるため」とコメントされているが、オリジナルが書かれたのは2001年セプテンバー・イレヴンの前という背景があるからだろう。9.「New York Minute」は「あっという間に」という意味で、人生の厳しさを描いた歌。

5.「Somebody's Baby」は本作の中では明るいトーンの曲で、高校生のキャンパスライフを描いた映画(キャメロン・クロウ脚本)の主題歌で、ジャクソン・ブラウン最大のヒット曲。彼は新曲の 3.「Can't Do Crazy Love Again」にゲスト参加してハーモニー・ボーカルを聞かせてくれる他、録音に際して自己のスタジオを貸すなど本作への貢献度大。

8.「Cruel Twist」の共作者ハーヴェイ・ブルックスは、マイケル・ブルームフィールドやアル・クーパー等と「Highway 61 Revisted」1965 に参加したベース奏者で、その後エレクトリック・フラッグ、ドアーズなどでプレイしながらピーター・ポール・アンド・マリーからマイルス・デイビスの「Bitches Brew」1970 まで無数のセッションをこなした人。コネチカット州にあるダニーの家の隣人だそうだ。10.「Top Of The Rock」はロックで儲けることへのアンチテーゼで、デビッド・クロスビーがハーモニーを付けている。 マイケル・マクドナルドがゲスト参加した 11.「Sayonara」は 3.「Can't Do Crazy Love Again」と同じ女性についての歌とのことであるが、ここでは破局がテーマ。女性とは日本人のことかな?アルバム「JT」1977 A9がオリジナルの 12.「Honey Don't Leave L.A」は、ダニーがデビッド・フォスター、ジム・ケルトナー等と組んだバンド、アーティチュードでの1976年録音があるが、本作のほうが遥かに良い出来。

このアルバムは日本のVivid Soundから発売され海外に輸出された。ジャクソン・ブラウンのスタジオを借りて気心が知れたミュージシャンによる一発録りということで、低予算で制作したと思われるが、付属のブックレットには天辰保文による解説、ダニーによる曲解説、プロデューサーのフレッド・モーリンによるメンバーへのインタビュー(英語と日本語訳)、歌詞、録音風景の写真が掲載されて大変充実した内容になっており、この面で手を抜かなかった制作陣の誠意を感じとることができる。

本アルバムの成功を受けて、バンド名を「The Immediate Family」にしてアルバム制作、コンサート活動などの活動を続け、
アメリカ本国でのアルバム発表も実現、2022年にドキュメンタリー映画も公開した。そこでのバンドはキーボードレスとなり、ワディ・ワクテル、スティーブ・ポステルも作品を提供してリードボーカルをとるバンド体制となっている。

昔のミュージシャンの多くが亡くなり引退した中で、今も現役で活躍を続けるミュージシャン達の入魂の一作。