A11 Dad Loves His Work  (1981)   CBS Sony


James Taylor: Vocal, Acoustic Guitar (Except 1,2,4,11), Bass Harmonica (9)
Waddy Wachtel: Electric Guitar (1,4,5,6,7,8,10), Acoustic Guitar (2), Slide Guitar (3)
Dan Dugmore: Electric Guitar (1,2,3,6,7,8,9,) Steel Guitar (4,5)
Don Grolnick: Keyboards
Lee Sklar: Bass (Except 11)
Rick Marotta: Drums (Except 9,11), Percussion (1,5,6,8)
Fingers Taylor: Hamonica (6,8)
Bill Cuomo: Synthesizers (1,4)
Peter Asher: Percussion (6,8)
J.D. Souther: Vocal (2)
David Lasley, Arnold McCuller: Back Vocal (1,4,6,7,10), Choir (11)
Peter Asher, Jim Gilstrap, Benard Ighner, Jennifer Warnes: Choir (11)

Peter Asher: Producer

[Side A]
1. Hard Times
2. Her Town Too [James Taylor, J.D. Souther, Waddy Wachtel]  
3. Hour That The Morning Comes
4. I Will Follow  A15
5. Believe It Or Not

[Side B]
6. Stand And Fight [James Taylor, Jacob Brackman]  E2 E2
7. Only For Me
8. Summer's Here
9. Sugar Trade [James Taylor, Jimmy Buffett, Timothy Mayer]
10. London Town
11. That Lonesome Road [James Taylor, Don Grolnick]  A15 B47 E17

録音: 1980年 9月〜1981年 1月
発売: 1981年 3月
全米アルバムチャート: 10位


JTが製作したアルバムのなかで最もダークな雰囲気の作品。当時カーリーとの結婚生活は完全に暗礁に乗り上げていて、その動向は毎日のようにゴシップ記事を賑わしていたという。結局、その後大病をした長男ベンの回復を待って1982年に離婚することになる。アルバム・タイトルは、「仕事に明け暮れて家庭を顧みない」と詰め寄るカーリーに対するメッセージといわれており、人間関係の破綻による孤独感、心の痛みが各曲に色濃く反映している。その辛さは若い頃の私には今ひとつ分からなかったが、人生の悲哀を十分に味わった現在では本当によくわかる。33歳でこのような作品を書かなくてはならなかったなんて本当にかわいそうだ。ボーカルも何となく思いつめたような感じで、いつものほのぼのした感じはほとんどなく、冷たい緊張感に満ちている。皮肉なもので、芸術的にはかなりの水準の作品が並んでおり、幸せだと良い作品が書けないというアーティストの宿命か?特にJTのように自分自身の体験を歌にするソングライターにとって本作の作業はとても辛かったようで、そのためか、ここでの作品はその後のツアーでもほとんど演奏されていない。ジャケット・デザインは前2作と同じ Koshで、黒地のつや消し印刷の中央に、溶接作業をして汗をかき顔に煤をつけた、大変クリアーなJTの写真が配されている。前述の先入観のせいか、JTのスマイルは謎めいて見える。この繊細で素晴らしいレコードのデザインは本の装丁に近いアーティスティックなものだったが、後年発売されたCDでは単調でチープな印刷になってしまった。レコード中袋のJTのスナップ写真の一部で再発CDには載っていないものもあり、もしチャンスがあれば、是非オリジナルのレコード・ジャケットを手にして欲しい。

1.「Hard Times」は当時の心境を歌ったもので、「簡単じゃないけど辛い時を乗り切ろう」と歌う様は、メロディーや演奏がさらっとしている分、より一層悲壮な感じが漂っている。JTは歌うのが辛そうで、デビッド・ラズレーとアーノルド・マックラーによる大変強力なバックボーカルが、JTを背後から優しく支えているかのようだ。その後長年にわたり行動を共にすることになる彼らの連帯感がとてもよく出ている。やっぱりドン・グロルニックのピアノはいいね。ドラマーは「Walking Man」 1974 A6 以来のリック・マロッタ。この人のリズムの乗りはラス・カンケルと異なり、それがアルバムに異なるムードを生み出している。アルバムに占めるドラマーの役割の大きさがよくわかる。2.「Her Town Too」はリンダ・ロンシュタットやイーグルスと密接な関係があったシンガー・アンド・ソングライター、J. D. サウザーとの共演だ。彼は1946年デトロイト生まれで、1979年の「You're Only Lonely」のほか、数枚の作品を残したが、活動自体は地味だった。男女関係のスキャンダルのために行き場を失って、自分の殻の中にこもる女性を主人公にした作品で、ストーリーの語りが見事だ。本当に切なくなるほどの孤独がにじみ出ていて、最後にはほのかな希望を感じさせる内容になっている。当時結婚生活の破綻というゴシップの餌食になっていたJTの気持ちが込められているのは当然で、ふたりは淡々と歌っている。シングルカットされて全米11位のヒットとなった。この曲のプロモーションビデオは、レコーディングと同じメンバーによるスタジオライブで、二人はいすに座って歌う。J.D.サウザーのボーカルのくずしかた、エンディングがレコードよりも少し長いなど、口パクではなく別録音。画面でワディ・ワクテルが演奏するアコギはギブソンのJ-200だ。本作全体に言えることなのだが、録音・演奏がとても自然で生々しく、本当の事はわからないが、ボーカルや一部の楽器のソロ以外のバックトラックは、1発録りのように聞こえる。3.「Hour That The Morning Comes」のアコギのイントロ、ワディ・ワクテルによるスライドギター、そして曲自体が極めてライ・クーダー的なサウンド。演奏そのものはファンキーだが、歌詞は夫婦間のすれ違いを描いたダークなもの。4.「I Will Follow」はラブソングであるが、宗教的な色合いを感じる内容で、越えなくてはいけない人生の壁を歌う。5.「Believe It Or Not」も人間関係の断絶を描いた歌で、何とかしようともがく姿が痛ましい。JTのボーカルも何かにすがるようだ。

6.「Stand And Fight」はカーリーサイモンの共作者である、ジャコブ・ブラックマンとの共作で、彼が企画した映画のために作ったもの。映画は没になり、その代わりに「No Nukes」1979 B12 E2のテーマソングとして使用された。したがってこの曲が作られたのは1979年頃となり、他の作品に比べて以前であったことがわかる。そのためか、ダークな雰囲気の他の曲に比べて、より主張の強いメッセージソングとなっている。映像版のE2に収められていた演奏では、デビッド・サンボーンのサックスが間奏のソロを担当していたが、ここではグレゴリー・「フィンガース」・テイラーがハーモニカを吹いている。彼はジミー・バフェット (C46参照) のバンド、コーラル・リーフ・バンドのメンバーで、パワフルなプレイを披露している。デビッド・ラズレーとアーノルド・マックラーのバック・ボーカルが最高にきまっている。7.「Only For Me」も二人のコーラスのバックに、JTが昔に家庭を捨てた呑んだ暮れ老人との語らいを歌う。自分のことを老人と同じ遺失物(Lost And Found)と歌う部分には胸に迫るものがある。8.「Summer's Here」は本作では唯一息抜きとなる歌で、夏に対する思いがボサノヴァのリズムで歌われる。間奏のフィンガーズ・テイラーのハーモニカも好調だ。9.「Sugar Trade」は前述のジミー・バフェットと共作した奴隷制度を扱った曲。連れてきた奴隷でサトウキビを栽培し、ラム酒を作る。北部はラム酒と引き換えにタラを売るという経済の連鎖が語られ、この忌まわしい制度の責任が奴隷の使用人だけでないことを示唆する。10「London Town」は人生の大きな転機となったロンドン時代への回帰を歌う。とても張り詰めた、思いつめた感じがあり、聴く者の心を打つ。ここでもバックコーラスの二人がJTにぴったり寄り添っている。11.「That Lonesome Road」は自分の前に広がる孤独を歌っていて、ゴスペル音楽、賛美歌調のコーラスの厳かな響きが、聴き終わった後も耳に残る。

内容的に暗いムードであるが、ずっしりと心に迫る作品で、心の痛みを経験したことがある人には大いに共感するものがあるはずだ。


A12 That's Why I'm Here  (1985)   CBS Sony 
 



James Taylor: Vocal, Acoustic Guitar
Dan Dugmore: Electric Guitar (7), Steel Guitar (2,10)
Jeff Pevar: Guitar (4,8)
Bill Payne: Keyboards (1,2,3,4,5,7,8,9,10,11)
Don Grolnick: Keyboards (1,6,9,)
Clifford Carter: Keyboards (1,4)
Tony Levin: Bass (1,2,3,5,6,8,9,10,11)
Lee Sklar: Bass (4,7)
Russ Kunkel: Drums (1,2,3,5,6,8,9,10,11)
Rick Shlosser: Drums (4,7)
Jim Maelen: Percussion (1,2,5,8,9)
Airto Moreira: Percussion (3), Back Vocal (3)
Starz Vanderlocket: Percussion (4)

David Sanborn: Sax (1,11)
Gregory Fingers' Taylor: Hamonica (5,8)
Kenny Kosek: Violin (8,11)
Michael Brecker, Rnady Brecker, Barry Rogers, David Sanborn: Horns (8)

Rosemary Butler, Arnold McCuller: Back Vocal (7)
David Lasley: Back Vocal (1,4,9)
Graham Nash: Back Vocal (10,11)
Joni Mitchell, Don Henley: Back Vocal (9)
Deniece Williams: Back Vocal (1)
Eric Troyer, Rory Dodd, : Back Vocal (5)
Kenia Gould, Zbeto, Eliane Elias, Randy Brecker: Back Vocal (3)

James Taylor, Frank Flipetti: Producer
James Taylor: Producer (4,7)

1. That's Why I'm Here  A12 E4 E10
2. Song For You Far Away  E5
3. Only A Dream In Rio [James Taylor, Brazilian Translation J. Maraniss]  C59 E4 E8
4. Turn Away
5. Going Around One More Time [Livingston Taylor]
6. My Romance [Richard Rogers, Lorenz Hart]
7. Everyday [Norman Petty, Charles Hardin]  E4 E5 E8 E10
8. Limousine Driver
9. Only One  A15 E4 E5 E10
10. Mona
11. The Man Who Shot Liberty Valance [Burt Bachrach, Hal David]
12. That's Why I'm Here (Reprise)  A12 E4 E10

発売: 1985年 10月
全米アルバムチャート: 34位


注) ジャケット写真は上がレコード盤(オリジナル)、下はCD盤(CD盤は上部の白抜きのタイトル文字がより大きい)


1981年の前作発売後の長いブランクの後に発売されたアルバムで、彼のイメージが大きく変わった作品。1982年にカーリーと離婚して、1983, 1984年は他人のアルバムにもゲスト参加せず、コンサート・ツアーも少な目で、心の傷を癒していたようだ。その中で1985年1月の「Rock In Rio」コンサートのため訪問したブラジルで大歓迎を受けたことは、人生の大きな転機になったようで、ブラジル国内のみで発売されたライブアルバムB16や、その経験を歌に結実した3.で窺い知ることができる。ジャケットのJTの写真を見てびっくり仰天。前額が禿げ上がった中年男のポートレートなのだ。それを堂々と見せているところが確信犯的で、「俺はこれからこれでゆくぞ!」と宣言しているようだ。禿げを隠そうとしたエルトン・ジョンと違うね〜。

1.「That's Why I'm Here」は失意の後に、生きる意味、歌う意味を見出した、魂の再生の歌だ。小気味良いテンポに乗せて歌うJTのボーカルは確信に満ちていて後期作品のデビューに相応しい曲だ。歌詞の第2番は、1982年に麻薬過剰摂取で亡くなった友人ジョン・ベルーシ(「ブルース・ブラザーズ」で有名な映画俳優)の事を歌っており、かなり厳しい内容だ。バックボーカルの声質がいつもと異なり、ここで参加している黒人女性歌手のデニース・ウィリアムスは1951年生まれで、スティーヴィー・ワンダーのバックを経てソロ・シンガーとしてデビューした人。映画「Footloose」 1984 のサウンドトラックからのヒット「Let's Hear It For The Boy」(全米1位)が最も有名だろう。トニー・レヴィンはベース界の巨人の1人で、ジャズ、ロックなんでもこなせる人。無数のセッションに参加しているが、特にピーター・ガブリエル、キング・クリムゾン、ポール・サイモンなどでの活動が名高い。パーカッションのジム・メーレンは、ローラ・ニーロ、グロリア・ゲイナー、ボブ・ジェームス、ホール・アンド・オーツ、クール・アンド・ギャング、カーリー・サイモンなど多くのセッションに参加、一時ロキシー・ミュージックのメンバーになったこともある人だ。2.「Song For You Far Away」は今までにない素直でシンプルな歌で、本作にはこのような曲が多い。沈黙を守っていた間にご無沙汰していた人々に向けて歌っているかのようだ。1985年1月「Rock In Rio Concert」B16のためにブラジルを訪れたJTが、現地滞在中にジルベルト・ジルのギターを借りて作曲したという(彼自身の言葉では、この曲は「ギターの中にあった」とのこと)、3.「Only A Dream In Rio」はラテンのリズムに洗練されたコード進行とメロディーを乗せたJTの新境地といえる名曲だ。当時軍事政府から開放されたばかりのブラジルの夢と現実が織り交ぜられ、ブリッジのポルトガル語の訳詩がエキゾチックな感じを盛り立てる。パーカッションを担当するアイルート・モレイラはブラジル出身で、サンバ、ボサノヴァ、ジャズ界で広く活躍した人。リトル・フィートのキーボード奏者、ビル・ペインの独特な音使いの独壇場だ。本作における音の色づけは彼によるものが大きい。なおジャケットのクレジットでバックボーカルとして「Eliane Eliaf」とあるが、正しくは「Eliane Elias」である。彼女は1960年ブラジル生まれで、ニューヨークに進出してマイク・マニエリ、マイケル・ブレッカー、ピーター・アースキン、エディ・ゴメスと一緒にステップス・アヘッドの初期メンバーとして活躍、ピアニストとして名声を確立した人で、クラシックやヴォーカルもこなす才女。本曲で一緒に歌っているトランペット奏者のランディ・ブレッカーは、当時彼女のご主人だったという(今もそうかな?)。

4.「Turn Away」はストレートなポップソングで、こういう歌をさらっと歌うのがJTの新しいスタイルだ。なお本作からシンセサイザーが本格的に使用されるようになった。ジャケットに記載されているクレジットでは、アーノルド・マックラー、ロ-ズマリー・バトラー、デビッド・ラズリー、ピーター・アッシャー、そしてプロデューサーのフランク・フィリペティがバック・ヴォーカルを担当とあるが、2008年のデビッド・ラズリーのホームページで、それが誤りであることが判った。アルバム製作の最終段階でデビッドとJTの二人だけで録音し直したが、ジャケットの印刷変更が間に合わなかったためという。ちなみに 7.もその可能性があるが、ここでは変更せずに当初の表記通りとした。なおここでは今後JTと長い付き合いになるクリフォード・カーターが初めて参加している。ドラムスのリック・シュロッサーは、ヴァン・モリソン、アート・ガーファンクル、ニコレッタ・ラーソン、レオ・セイヤー、ニッティー・グリッティー・ダート・バンドなど多くのセッションに参加。JTの「Live In Rio」1985 B16でもドラムを叩いている。パーカッションのスターズ・ヴァンダーロケットは、ジョー・コッカーやドナルド・フェイゲン「The Nightfly」などの録音に参加した記録がある。 5.「Going Around One More Time」は弟リヴィングストンの曲で、彼のソロアルバム「Three Way Mirror」 1979に収録されていたポップな雰囲気溢れる佳曲。もう懲り懲りだと思いながら、また恋をしてしまう人間の性(さが)を描いている。前作に続き、グレゴリー・フィンガーズ・テイラーが達者なハーモニカ・ソロを披露する。バックボーカルのエリック・トロヤー、ロリー・ドッドは、二人で行動することが多いようで、セリーヌ・ディオン、ミートローフ、ガーランド・ジェフリー、ボニー・タイラー、ビリー・ジョエルなどのセッションに名前を見つけることができる。6.「My Romance」は1935年のサーカスを題材としたショウ「Jumbo」で歌われた曲で、JTがスタンダードに挑戦した初めてのケース。ドン・グロルニックのエレキピアノが最高。当時発売されたレコード盤には収録されておらず、しばらく後に一般に定着したCDにのみ収録された。リスナーにCDへの移行を急かすためのレコード会社の戦略で、このようなケースはけっこうあったなあ〜。

レコード盤は7.「Everyday」からB面になる。7.はバディ・ホリーが歌った曲。大ヒットした「Peggy Sue」(1957年)のB面で、隠れた名曲と言えるもの。JTはオリジナルに敬意を払いながら飄々とカバーし、完全に自分のものにしている。バックボーカルが強力だ。8. 「Limousine Driver」はホーンをフィーチャーしたリムジン・ドライバーを描いた曲。ギターのジェフ・ペヴァーは、カーリー・サイモンやデビッド・クロスビーなどに参加した人で、グラハム・ナッシュとデビッド・クロスビーの2004年の新作にも参加している。本作ではリードギターの参加度は少なく、その分JTのアコースティック・ギターがよく聞こえる。9.「Only One」もシンプルでストレートな曲で、ジョニ・ミッチェルとイーグルスのドン・ヘンリー(あの「Hotel California」を歌った人)のボーカルが前面に出ている。別途製作されたプロモーション・ビデオは、ドラムスがリック・シュロッサー、ベースがリー・スクラーで、本作とは異なるメンバーによる録音だった。10.「Mona」は当時彼が飼っていたメス豚の死を悼んで作られた曲とのこと。彼にしてはセンチメンタルな歌詞だが、後年出演したテレビ番組「Storytellers」における彼の説明は、ユーモアとペーソスが入り混じったものだった。友人のグラハム・ナッシュがコーラスで参加している。11.「The Man Who Shot Liberty Valance」はバート・バカラック(作曲)、ハル・デビッド(作詞)のゴールデン・コンビによる初期の名作で、ジーン・ピットニーによりヒットした(1962年全米4位)。同年封切られたジョン・フォード監督の「リバティ・バランスを射った男」(ジョン・ウェインとジェイムス・ステュワート主演)にちなんだ曲だったが、映画では使われていなかった。フィドルのケニー・コセックはカントリー・クッキングやスティーブ・グッドマンのアルバムに参加していたブルーグラスのプレイヤー。12.「That's Why I'm Here (Reprise)」 は1.のブラス・セクションによるバックの演奏の断片のみを収めている。実際のところ1.にはサンボーンのソロを除いて、ブラスは含まれていないため、ミックスの過程で没になったパートかな?

新しく生まれ変わったJTの姿を楽しくことが出来る一品。当時はシンセサイザー、テクノ、ディスコ音楽の全盛時代で、多くのアーティストが自己の表現の場を失っていったなかで、しぶとく自分独自のスタイルを通した作品だ。


 
A13 Never Die Young  (1988)   CBS Sony 
 
A13 Never Die Young


James Taylor: Vocal, Acoustic Guitar
Bob Mann: Electric Guitar
Dan Dugmore: Pedal Steel Guitar (4), Banjo
Jeff Mironov: Guitar (2,6)
Don Grolnick: Keyboards
Bill Payne: Synthesizer (2,4)
Lee Sklar: Bass
Jay Leonhart: Acoustic Bass (5)
Carlos Vega: Drums, Percussion
'Cafe' Edson A. da Silva: Percussion (10)
Gregory Fingers' Taylor: Hamonica (8)
Mark O'Connor: Violin (4,5)
Michael Brecker: Tenor Sax (2,3)
Rosemary Butler, Arnold McCuller: Back Vocal (1,3,6,10)
David Lasley, Lani Groves: Back Vocal (1,6,10)
Robby Kilgore, Clifford Carter: Synthesizer Programming

Don Grolnick: Producer

1. Never Die Young   B44 C85 E5 E14
2. T-Bone [Bill Payne, James Taylor]
3. Baby Boom Baby [Zachary Wiesner, James Taylor] 
4. Runaway Boy
5. Valentine's Day
6. Sun On The Moon  A15 E7 E10
7. Sweet Potato Pie  C81 E5
8. Home By Another Day [Timothy Mayer, James Taylor]
9. Letter In The Mail
10. First Of May


発売: 1988年 1月
全米アルバムチャート: 25位


 
前作から3年後に発売された作品は、曲想自体は明るく前向きであるが、ゲストの数はも少なめで、サウンド的にも地味なムードの作品となった。今回のジャケットは、珍しくJTのポートレートではなく、世界的な自然写真家でナショナル・ジオグラフィック誌などで有名な、ジム・ブランデンブルグ氏による狼の写真が採用された。内部(レコード盤の場合は中袋)にある狼の遠景の写真も素晴らしいものだ。そしてこの写真が、生きることをテーマとしたこのアルバムの雰囲気を何よりも象徴している。

1.「Never Die Young」はJTから若者へのメッセージだ。彼らを批判せず、暖かい目で見守るよう説いていて、「諦めない、緩めない、年老いない、決して若く死なない」という、タイトルとなった一節は特に心に響く。心地良いエレキギターを聞かせてくれるボブ・マンは、リンダ・ロンシュタットと一緒にやっていた人で、アストラット・ジルベルト、ブレッカー・ブラザース、アン・マレーの作品にも参加しており、かなり芸域の広い人のようだ。JTのライブにも頻繁に参加しており、E6 E9 E11 でそのプレイを観ることができる。リトルフィートのキーボード・プレイヤー、ビル・ペインとの共作2.「T-Bone」はプライベートな内容の歌に聞こえる。彼のプレイによるシンセサイザーがアコーディオンのようなサウンドで、マリアッチ風の雰囲気が出ている。ギターのジェフ・ミロノフは、有名なスタジオミュージシャンで、デビッド・サンボーン、ロバータフラック、ローラ・ニーロ、ボブ・ジェームス、カーリー・サイモン、ケイト・テイラー、リー・リトナー。ポール・サイモン、マイケル・フランクス、デイブ・グルーシン、マイケル・ジャクソン等、無数の作品に参加している。3.「Baby Boom Baby」の共作者ザカリー・ワイズナーは、本格デビュー前時代のグループ、フライング・マシーンのベース奏者だった人で、アップル盤の初ソロアルバムA1にはクレジットがなかったが、「Rainy Day Man」、「Don't Talk Now」などの曲は彼とJTの共作だったらしい。1978年のケイト・テイラーのソロアルバム C30に収録された「Slow And Steady」も二人の共作。彼はマーサ・ヴィンヤード島在住のようで、グループ解散後も親交があるものと思われる。昔の友人・恋人との再会の歌で、若き日の思い出と、再会の期待に揺れる心が描かれていて、綺麗なメロディーと共に、聴いた後に独特のカタルシスを感じさせる曲だ。ダン・ダグモアのスティール・ギターによるイントロから始まる4.「Runaway Boy」の前半は放浪をテーマとしているが、最終的に定着の歌になるところが以前の作品とは異なる。マーク・オコナーのフィドルが入り、カントリー風のサウンド。5.「Valentine's Day」はスタンダード・ジャズ調のスローな曲で、このようなJT独特の文芸風作品が出始めたのは本作からだ。歌詞に出てくるバグス・モランとアル・カポネは、1920年代に敵同士で抗争を繰り広げたシカゴのギャングで、後者のグループが前者のメンバー7名を駐車場で殺戮した1929年2月14日の「聖ヴァレンタインデーの虐殺」は有名。ヴァレンタインデーは、日本では女性が男性に愛を告白できる日として、チョコレートが飛ぶように売れるが、西洋ではそのような風習はなく、男性が女性に花束を贈り、カップルで一緒にディナーをして愛を語らい夜を過ごす日だ。ここではJT一流のユーモア感覚で、このふたつがミックスされ、愛の戦いというイメージに昇華される。JTは呟くように歌い、何か洒落た短編小説を読んだかのような味わいが残る。この手の曲におけるドン・グロルニックのピアノは他の追随を許さないほど完璧。ベースのジェイ・レオンハルトは1940年生まれのニューヨークで活躍するジャズ・ベーシストで、自己名義のソロアルバムの他、ジム・ホール、ジェリー・マリガン、バッキー・ピザレリ、ベッド・ミドラーなどの作品に参加。後半のマーク・オコナーのバイオリンの音色が切なく美しい。なおデンマークの若手ジャズ歌手ベロニカ・モーテンセン(Veronica Mortensen)が2007年に発表したアルバム「Happiness Is Not Included」にこの曲の素晴らしいカバーが収録されている。

レコード盤は7.「Sweet Potato Pie」からB面となる。ちなみに本作が私がJTの作品をレコードで買った最後のものとなった。7.は金のためにあくせく働くことへの警鐘の歌だ。軽快なテンポでバックコーラスが強力。陽気で明るいR&Bで、軽快そのもの。途中にJTが入れる「ウーマイ、ウーマイ」という掛け声は、日本人だったら思わず吹き出してしまう。これは確信犯か?ボブ・マンのギター・ソロの切れ味が鋭い。後にレイ・チャールズの遺作となった2004年のデュエット特集 C81で、この曲がカバーされ、彼とJTとの共演が実現した。8. 「Home By Another Day」は前々作 A11の「Sugar Trade」に続く、ティモシー・メイヤーとの共作。彼は1983〜1985年にかけてブロードウェイでヒットしたガーシュインのミュージカル「Me And My Only」を書いた人と思われる。一時JTと共作でミュージカルを製作するのではと噂されたことがあるが実現しなかった。JTによると、彼と会うといつも飲んでしまい仕事にならなかったとのこと。9.「Letter In The Mail」も前の曲と同じく洗練された雰囲気のアレンジと理知的な歌詞で、故郷への想いを歌いこんでいる。10.「First Of May」はブラジル音楽的な曲で、愛の始まりの歓喜を歌った曲のようだ。パーカッションのカフェ・エディソン・アパレシド・ダ・シルヴァは、ブラジル生まれで、スティーヴィー・ウィンウッド、エレイン・エリアス、ハービー・マン、スティーヴィー・ワンダー、セルジオ・メンデス、ランディ・ブレッカーなどの録音に参加している。バックボーカルのラニ・グローブスは、スティーヴィ−・ワンダー(特に名曲「You Are The Sunshine Of My Life」1977で、冒頭の1節を単独で歌っている)、カーリー・サイモン、ロバータ・フラック、デビッド・サンボーン、ビリー・ジョエル、スティーリー・ダン、ポール・サイモン、パティー・オースチンなど無数のアルバムに名前が見られる売れっ子セッションシンガーだ。

本作における落ち着いたムードから、1985年12月に結婚したテレビ女優キャサリン・ウォーカーとの結婚生活が当時は順調だった事が推測できる。.


A14 New Moon Shine (1991)   CBS Sony


A14 New Moon Shine

James Taylor: Vocal, Acoustic Guitar
Michael Landou : Electric Guitar
Don Grolnick : Piano, Organ, Synthesizer
Clifford Carter : Sythesizer and Synthesizer Programming
Jimmy Johnson : Bass
Carlos Vega : Drums
Valerie Carter, David Lasley, Kate Markowitz, Arnold McCuller : Back Vocal
Philip Ballou : Back Vocal (10)

Jerry Douglas : Dobro (1, 12)
Danny Kortchmar : A. Guitar (3, 5)
Tony Levin : Bass (9)
Mark O'Connor : Violin (1, 2, 12)
Branford Marsalis : Soprano Sax (7)
Bob Mintzer : Tenor Sax (3)
Michael Brecker : Tenor Sax (3, 8)
Randy Brecker : Trumpet (3)
Dave Bargeron : Trombone (3)
Don Stein : Synthesizer Programming (3, 5)
Steve Jordan : Drums (3, 5)
Steve Gadd : Drums (9)
Don Alias : Percussion

Don Grolnick : Producer
Don Grolnick & Danny Kortchmar : Producer (3, 5)


1. Copperline [Reynolds Price, James Taylor]  A15 B33 B41 E7 E10 E11 E14 E20
2. Down In The Hole  
3. (I've Got To) Stop Thinkin' 'Bout That [Danny Kortchmar, James Taylor] B29 E7 E8
4. Shed A Little Light  A15 B42 E7 E10 E13
5. The Frozen Man  E7 E10 E14
6. Slap Leather  A15 E14
7. Like Everyone She Knows  
8. One More Go Round
9. Everbody Loves To Cha Cha Cha [Sam Cook]  B24
10. Native Son
11. Oh Brother
12. The Water Is Wide [Traditional, Arranged By Don Grolnick, James Taylor]  C31


発売: 1991年 9月
全米アルバムチャート: 37位


「James Taylor」(ファースト・アルバム) A1 1968年から「Walking Man」 A6 1974年までを「青年期」、「Gorilla」 A7 1975年から「Dad Loves His Work」 A11 1981年までが「壮年期」、「That's Why I'm Here」 A12 1985年から「Never Die Young」 A13 1988年を「過渡期」とすると、本作は現在に至る「円熟期」の最初の作品といえる。今までの作品にあった私小説風「生みの苦しみ」の雰囲気が薄らぎ、現在を在りのままに見つめようとする静かな視線が感じられる。従来の作品にあったギラギラとしたエッジが影を潜めたため、この作品が発表された当時の反響は、インパクトに乏しいとか、安全パイ志向でリスクをとっていないというネガティブなものが多く、評価・売れ行きもいまひとつだった。私自身、当時の印象は「随分大人しくなったなあ」というものだった。しかし、その後に発表された彼の作品や現在に至る音楽活動を見渡すと、本作は彼の音楽が円熟してゆく過程の孵化期にあったと思え、今聴くと、とてもいい感じなのだ。

本作のジャケットを見て、見慣れないギターの写真に目を奪われたことを覚えている。これはミネソタ州のギター製作者ジェームス・オルソンによるもので、JTはそれ以降現在に至るまで、ほぼすべてのレコーディング、コンサートで彼のギターを使用している。ジェームス・オルソンのギターを使用した最初の有名ミュージシャンはギタリストのフィル・キギーだったが、JTのエンドースメントにより世界的に有名になった。現在日本でも時々見かけることがあり、何度か弾いてみた事がある。どっしりと重く、頑丈に造られている印象を受けた。しっかりしたタッチで弾かないと楽器本来の音がしない、という意味でプロまたは上級者向けのギターであると思う。本作におけるギターの音色はとても繊細な響きで、アコギの達人JTならではの音だ。また個人的な経験で言うと、歳をとるとドレッドノート・サイズの大型ボディで長時間演奏するのが辛くなるもので、そういう意味でボディシェイプが小さめのモデルを選んだのではないかと想像される。

本作からヴァレリー・カーターとケイト・マーコウィッツがコーラス隊に加入し、アーノルド・マックラー、デビッド・ラズリーと合わせて鉄壁の布陣となる。ヴァレリー・カーター (1953-2017) は玄人受けするシンガーで、リトル・フィートのローウェル・ジョージ等の応援を得て1977年に「Just A Stone's Throw Away」、1978年には「Wild Child」という秀作ソロアルバムを発表するが、音楽ビジネス、私生活上のごたごたのために80年代は音楽活動から身を引いてしまう。音楽界への復帰にあたり、知り合いのピーター・アッシャーの取り計らいでJTバンドで歌うようになったという。自らソロ活動を行うには性格的に繊細過ぎるところがあり、若い頃からの大ファンだったJTのバンドの中で親しい人々と歌うことが心地よかったという。JT以外にジャクソン・ブラウン、ランディ・ニューマン、ドン・ヘンリーなど多くのレコーディング、コンサートに参加している。特に日本では彼女のアルバムがAORの名盤といわれ、彼女に対する評価が高いが、それは誇るべき事であると思う。その後1996年に久しぶりのソロアルバム「Way It Is」C63 を製作、そこにはJTがゲスト参加した。2002年頃にJTバンドを卒業し、本格的なソロ音楽活動を始めたが、2017年没。ケイト・マーコウィッツは、ジョ−ジ・ベンソンやリー・リトナーのバンドでバックボーカルをしていた頃、日本で行われたEarth DayコンサートでJTのバックを勤めたのが縁だったとのこと。その後はJTのバンドの他、ショーン・コルヴィンやk d ラングのバックを担当している。また彼女が歌ったバカルディ・カクテルのCMが好評だっため、ケイト・ヤナイ(Kate Yanai)の名前で発売したシングル盤「Summer Dreamin' (The Bacardi Song)」がドイツで首位を7週連続キープという大ヒットを記録したこともある。トロピカルな雰囲気一杯の佳作で、彼女の声がとても良かった。彼女も2003年に初ソロアルバム「Map Of The World」C79を発表、JTも参加している。ベース奏者ジミー・ジョンソンは、主にリー・リトナー、渡辺貞夫、アラン・ホールズワースなどのジャズ、フュージョン系で活躍、ニール・ダイヤモンドやケニー・ロジャースとの仕事もこなすオールラウンドなミュージシャンで、アレンビック社と一緒に5弦ベースを開発した事でも有名な人だそうだ。また80〜90年代においてファーストコールのセッション・ギタリストの地位を維持したマイケル・ランドウの参加も本作からだ。以上のとおり、本作から新たに始まった事柄が多く、そういう意味でもターニングポイントの作品といえる。

1.「Copperline」は傑作だと思う。共作者のレイノルズ・プライスは、日本では訳書がないため無名であるが、アメリカでは小説家、詩人、戯曲作家として多くの作品を発表した有名作家で、JTとの共作はこの曲の他に「New Hymn」(次作 A15に収録)がある。巧みに散りばめられたイメージが、聴く者に各自の子供時代の記憶(50〜60年代)の琴線に触れさせるものがあると思う。半分私小説でいて残りはフィクションという、彼のソングライティング・スタイルの確立を象徴する作品だ。私もこの曲を聴くと、子供時代の縁日の風景、60年代の初めに広島の両親の田舎を訪問した事を思い出す。今ではすでに失われた風景だ。それらの記憶が昔のもので断片的であるが故に、国・文化に関係なくイメージが共鳴するのであろうか。50年代のハリウッド映画ではジョシア・ローガン監督、ウィリアム・ホールデン、キム・ノヴァク主演の「Picnic」 1955 を思い出してしまった。初めてのキス、ムーンシャイン(密造酒のこと)、父のダンスのシーンなどの歌詞、トラディショナル・ダンス的なリズムやサウンド作りなどから、人生におけるトランス状態という本曲のテーマが演出されている。ちなみに歌詞に出てくる「ハーキュリーズ」は、テイラー家がノースキャロライナで飼っていた犬の名前とのこと。ここでのマーク・オコナーのバイオリン、ジェリー・ダグラスのドブロのプレイによるトラディショナルな味付けは大変美味なものだ。何度聴いても瑞々しさを失わない曲だ。 2.「Down In The Hole」は、自閉的な精神状態を地下に生きるモグラの生活に投影させている。それでもブリッジの部分に挿入されたビーチボーイズ風のコーラスのユーモアが救いになっている。3.「 (I've Got To) Stop Thinkin' 'Bout That」は久しぶりのダニー・クーチとの再会セッションで、曲自体は「Honey Don't Leave LA」 (「JT」 1977 A9収録)と同系統の彼女にふられ系の曲なんだけど、ここではあえてアコギを使ってコードカッティングをしている。ドン・グロルニックのキーボードもシンセサイザーと思われるが、アコーディオンのような音。バンドの演奏水準の高さのため、エレキ音の迫力でごまかす必要がない生音のロックンロールが新鮮なサウンド。イエロージャケッツやジャコ・パストリアス・バンドに参加したボブ・ミンツァーや説明不要のマイケル・ブレッカー、ランディー・ブレッカー兄弟等によるブラスセクションが贅沢。4.「Shed A Little Light」はマーチン・ルーサー・キング牧師の名前がでてくる。人種・文化を超えた人間の連携を説いたメッセージソングで、コーラス隊とJTの掛け合いにメンバーの連帯感とパワーを感じる秀作だ。5.「The Frozen Man」はナショナル・ジェオグラフィック誌の記事で、凍土に埋葬された後、1世紀ぶりに発見された水夫の話にインスピレーションを得た曲。ここでは主人公は生き返り、自分と家族の墓を見ることになる。自分とは異なる世界に置かれた人間の疎外感を感じさせ、単なるSFに終わらないリアルさがある曲だ。魅力的なメロディーとアレンジもあって、本作におけるベストトラックのひとつだと思う。3,5の2曲のみダニークーチが共同プロデューサーとして名を連ね、ドラムスもスティーブ・ジョ−ダン(TV番組「Saturday Night Live」、「Late Night With David Lettermen」のハウスバンドのメンバーとして有名)を起用している。6.「Slap Leather」は、功利主義、独善主義に偏向したレーガン政権(1980〜1989年)を皮肉ったもの。テレビを観ているだけで何でも知っているような気になるマスコミによる世論操作やテレフォンセックスのような一方通行のコミュニケーションに対するアンチテーゼである。シンプルなロックンロールで、マイケル・ランドウの抑制の効いたギタープレイが聴きもの。そして本作全体に言えることであるが、屋台骨としてバックを支え、グルーヴを送り続けるカルロス・ヴェガのドラムスが最大の功労者だ。

7.「Like Everyone She Knows」は、都会での生活に挫折する若者に対する暖かい励ましの歌で、ニューヨークやロンドンにおける無名時代のJTの苦節体験が底流にある。間奏のブランフォード・マルサリス(トランペッターのウィントン・マルサリスの兄)のソプラノ・サックス・ソロ、後半の誠実感あふれるコーラス隊が美しい。 8.「One More Go Round」はR&B調の曲で、フィンガーで色々なニュアンスの音色を弾き分けるマイケル・ランドウのギタープレイが素晴らしいと思う。9.「Everbody Loves To Cha Cha Cha」は、C26でカバーした「(What A) Wonderful World」でもおなじみのサム・クックのスタンダード曲(1959年、全米31位)のカバー。本作においては楽しい息抜きになっていて、JTも伸び伸びと歌っている。この曲のみベースはトニー・レヴィン、ドラムスはJTの作品では初顔合わせとなるスティーブ・ガッドだった。ちなみにラジオ局に配布されたこの曲のCDシングル B24は、強調されたベース音とドラムスの強力なリズムが全く異なるリミックス版だった。10. 「Native Son」はベトナム戦争から帰還後に自殺した友人の医者のことを歌ったものという。戦争の終結を歌いながらも、どこか影のある曲だ。コーラスで参加しているフィリップ・バルー(1950-2005)は、アーノルド・マックラーとRevelationというコーラスグループを結成していた人で、1970年代にJTのツアーに参加、ルーサー・バンドロスのバンドに在籍した他、ジョージ・ベンソン、ビリー・ジョエル、ジョン・ホール、カーリー・サイモンなどの作品に参加している。11.「Oh Brother」は、メインとコーラス部分で全く異なる曲を合わせたものと思われ、ユーモラスな小品。女性コーラスの歌声が大変ソフトで気持ちよい。12.「The Water Is Wide」はスコットランド民謡で、1979年にカーラ・ボノフのC31で歌っていた曲の再演。何度聴いても惚れ惚れする名曲だ。人の愛と別れを歌った歌で、これほど奥深いものはないだろう。

最初は地味な作品と思ったが、短編小説集を読むような味わいがあり、何度も聴くうちに、年が経るうちに、輝きを増してきているマイ・フェイバレット・アルバムだ。

[2007年1月作成]

[2011年1月追記]
「Copperline」の共作者レイノルズ・プライス氏は、2011年1月20日永眠されました(享年77)。ご冥福をお祈りします。


A15  (LIVE)  (1993)   CBS Sony


A15 (Live)


James Taylor: Vocal, Acoustic Guitar
Michael Landou : Electric Guitar
Don Grolnick : Piano
Clifford Carter : Keyboards
Jimmy Johnson : Bass
Carlos Vega : Drums
Valerie Carter, David Lasley, Kate Markowitz, Arnold McCuller : Back Vocal

Don Grolnick, George Massenburg : Producer

[CD1]
1. Sweet Baby James  A2 B3 B5 E1 E4 E5 E7 E10 E14 E15 E17
2. Traffic Jam  A9 E4 E7 E10
3. Handyman [Otis Blackwell, Jimmy Jones]  A9 E1 E4 E8
4. Your Smiling Face  A9 E1 E2 E4 E5 E7 E8 E10
5. Secret O' Life  A9 B27 B28 E1 E7 E14 E25
6. Shed A Little Light  A14 B42 E7 E10 E13
7. Everybody's Has The Blues  A8
8. Steamroller Blues A2 B10 E1 E5 E8 E10 E11 E14
9. Mexico  A7 B16 B34 E1 E7 E8 E10 E22
10. Millworker  A10 B30 E1 E10 E19 E20
11. Country Road A2 B6 E7 E14 E15 E25
12. Fire And Rain  A2 B3 B5 B16 B40 B41 E1 E4 E5 E7 E8 E10 E13 E14 E15 E17 E21 E25
13. Shower The People  A8 B16 E5 E6 E8 E14
14. How Sweet It Is (To Be Loved By You) [Holland, Dozier, Holland] A7 B16 E1 E4 E5 E8 E10 E13 E21
15. New Hymn [James Taylor, Reynolds Price]

[CD2]
16. Walking Man  A6 B16 E1
17. Riding On The Railroad  A3 B3 B7
18. Something In The Way She Moves  A1 B3 B10 B18 B41 E5 E14 E15
19. Sun On The Moon  A13 E7 E10
20. Up On The Roof [Gerry Goffin, Carole King]  A10 B16 B40 C1 C4 E1 E5 E8 E15 E28
21. Don't Let Me Be Lonely Tonight  A4 B16 C67 C74 E1 E5 E8 E25
22. She Thinks I Still Care [Steve Duffy, Dicky Lee Lipscomp] E17
23. Copperline [Reynolds Price, James Taylor]  A14 B33 B41 E7 E10 E11 E14 E20
24. Slap Leather  A14 E14
25. Only One  A12 E4 E5 E10
26. You Make It Easy  A7
27. Carolina In My Mind  A1 A1 B3 B10 B16 B22 B25 B26 B41 B46 E1 E5 E10 E14 E15 E25
28. I Will Follow  A11
29. You've Got A Friend  [Carole King]  A3 B16 C3 C4 E7 E8 E10 E13 E14 E15
30. That Lonesome Road [James Taylor, Don Grolnick]  A11 B47 E17



発売: 1993年 8月
全米アルバムチャート: 20位


JTのコンサートはデビュー当時から評判が高く、ライブアルバムの製作が早くから企画され、何度も噂になったが、なかなか実現しなかった。その理由はJTが単なるファン向けの特別企画に止まらない、質の高いものを求めたためと思われるが、JTのコンサートの素晴らしさをライブアルバムで再現することが大変難しかった事もあるようだ。初期から2000年代までにわたる多くのコンサート音源を聴いて思うのだが、多くの面で本作はJTのライブ音源としてベストのものであると断言できる。

まず第一に、バックを担当するミュージシャンの素晴らしさ。ダニー・クーチやザ・セクションがバックを担当した初期・中期のライブは、コンサートとしての魅力が一杯であったが、ライブアルバムとして、じっくり反復して聴くにはサウンドが少し荒かったと思う。そういう意味で、ドン・グロルニックを中心として、マイケル・ランドウ、ジミー・ジョンソン、カルロス・ヴェガという当代きっての名手をツアー・バンドにするという大変贅沢な顔ぶれとなっており、スタジオ・ミュージシャンとしても超一流である彼らの正確無比な演奏力が鉄壁のアンサンブルを形成している。さらにアーノルド・マックラー、デビッド・ラズリー、ケイト・マーコウィッツ、ヴァレリー・カーターという、4人の素晴らしいシンガーがバックコーラスを担当しているのだ。第二の理由として、初期の音源を聴くと、自作曲を聞かせるシンガー・アンド・ソングライターとしてレパートリーが少なかったため、個々の曲の演奏が素晴らしくても、そのボルテージをコンサート全体で維持できない弱みがあったと思う。そういう意味で、デビューして25年が経ち、十分過ぎるほどの曲のストックができた本作は、30曲・約2時間という大作でありながら、ベストアルバムと呼んでも十分な内容となっている。また当時、JTのベストアルバムは、1976年の「Greatest Hits」 B10 しかなく、本作を製作するにあたり、その事を十分に意識したものと思われる。通常のコンサートツアーは、新作のプロモーションのために行われることが多く、その際はニューアルバムからの曲を多く演奏するのが普通であるが、本作では直近作の「New Moon Shine 」1991年 A14や「Never Die Young」1988年 A13、「That's Why I'm Here」1985年 A12からの曲は意外なほど少なく、「Never Die Young」、「Only A Dream In Rio」、「That's Why I'm Here」、「Everyday」などのコンサート常連曲がはずされているのだ。逆に初期・中期の名曲やヒット曲は1981年の「Her Town Too」を除き、ほぼ総てが網羅されている。本作で取り上げられなかった常連曲は「You Can Close Your Eyes」位じゃないかな?第三に、本作の録音の抜群の良さが挙げられる。プロデューサーのジョージ・マッセンバーグは、リンダ・ロンシュタット、アース・ウィンド・アンド・ファイアー、リトルフィートなどの録音・プロデュースを担当した人(本作のバックシンガーであるヴァレリー・カーター1977年のソロアルバム「Just A Stone's Throw Away」のプロデューサーでもある)で、音響関係での発明家としても有名。ラス・カンケルの息子で有能な若手エンジニアであるナサニエル・カンケルも録音スタッフに名を連ねている。各プレイヤーが発する音が極めてクリアーに捉えられ、カルロス・ヴェガのドラムス、シンバルワークなど、大変臨場感のある音像になっている。特に4人のシンガーが各異なるポジションに据えられているために、個々のボーカルを聞き分けることができる点は特筆すべき特徴だ。コーラスとしては、同じ位置に固定して音を混ぜたほうが一般的には効果があるはずなんだけど、この4人の場合そんな事をする必要がないくらい上手いからだろう。第四の理由は、ピータ・アッシャーによるライナーノーツの通り、ライブアルバム製作を想定してツアーが企画され、3週間にわたる14のコンサートからベストの演奏を選んだため、後にオーバーダビングすることなく、最高のパフォーマンスを集めることができたことだ。事実本作における演奏は、何度聴いても粗を探すことができないほど完璧な出来を誇っている。「欠点は長所の裏返し」というが、本作の場合、美し過ぎる女性は魅力に欠ける場合があるように、その完璧さが欠点にもなっていると思う。熱心なファンのためのみでなく、広く大衆一般へのアピールすることを狙ったものだろうから、しょうがないか。

CDは、マイケルのスティールギター風の演奏との二重奏による 1.「Sweet Baby James」から始まる。2.「Traffic Jam」のリズムセクションとコーラスのグルーブ感の凄さが、クリアーな録音で一層強調されている。4.「Your Smiling Face」でも各人の楽器演奏がはっきり聞き分けられ、その上手さ、バンドの一体感が圧倒的。この作品ではシンセサイザーなどで隠し味的な役割を担っているクリフォード・カーターのオルガンとドン・グロルニックのピアノのコンビネーション、カルロス・ヴェガのシンバル・ワークの小技など、聴き所が沢山の曲。特にこの作品はパーカッション奏者がいないので、カルロスのドラムス・プレイを存分に楽しむことができる。5.「Secret O' Life」でのドンのエレキアピアノは本当に味わい深い。コーラス隊が前面に出る6.「Shed A Little Light」。ライブ演奏としては珍しい 7.「Everybody's Has The Blues」では、短いながらも切れ味の良いJTのギターソロが楽しめる。でも何といってもドンのピアノが最高だ。 ジャズブルース調の 8.「Steamroller Blues」ではドンのピアノソロに続き、マイケルがソロを取る。思いっきりハードなサウンドで、パワーが圧縮されたプレイだ。最後のヴァースではコーラスが付き、ライブ録音を意識してか、エンディングにおけるJTのアドリブボーカルは比較的さらっとした感じで終わる。この作品ではジミー・ジョンソンのベースが抑え目に録音されている。私はベースを強調するサウンド変更を行って聴くことにしている。一般のリスナーは耳ざわりの良い音を好むと思われるが、ファンの目あてはメンバーのインタープレイだもんね!9.「Mexico」の伴奏で聞こえるマリンバのような音は、クリフォードのシンセサイザーだろう。10.「Millworker」は、「2週間で没になったブロードウェイ・ミュージカルのために書かれた曲で、マサチューセッツ州ローウェル製靴工場で働く女性の事を歌った曲」と紹介される(詳しくはE2を参照ください)。「マサチューセッツ」と歌う部分で、オーディエンスの拍手が起きるので、このトラックがボストンなど地元のコンサートでの収録であることが判る。 11.「Country Road」は、ベースソロから始まる。JT愛用のオルソン・アコースティック・ギターの硬質の響きが魅力的な音で捉えられている。エンディングは、ドラムスとベースだけの伴奏で、JTがアドリブ・ボーカルを展開する。12.「Fire And Rain」のような名曲の場合は、伴奏者は控え目なプレイに徹している。JTのアコギのみの伴奏で演奏される場合が多い13.「Shower The People」は、ここではバンドで演奏されている。JTのギター1本の演奏となる間奏では聴衆の拍手が起き、エンディングにおけるアーノルド・マックラーのソロボーカルの素晴らしさに歓声が起きる。14.「How Sweet It Is」は、R&Bシンガーのライブのようなエキサイティングな演奏で、コーラス隊との掛け合いが面白い。特に二人の女性シンガーが発するアドリブは聴きものだ。右チャンネルから聞こえる歌声がヴァレリー・カーターのものだと思う。エンディングでは、聴衆と「イエー・イエー」の応酬となり大いに盛り上がる。この曲のライブ音源のなかではベストの出来。「休憩の前にもう1曲」と演奏される 15.「
New Hymn」は、本作でしか聴けない曲で、「Copperline」と同じくレイノルズ・プライスとの共作だ。「新しい賛美歌」という曲名のとおり、非常に硬く難しい内容の歌詞で、何度聴いても印象が取りにくい感じがする。

CD2枚目最初の曲 16.「Walking Man」は最初からきれいなコーラスと一緒に歌われる。JTのギターの上手さが味わえる。マイケルのエレキギターの音が印象的。17.「Riding On The Railroad」は、途中からアップテンポとなり、コーラスもついてカントリーロック風のアレンジになるのが面白い。そして切れ目なく 18.「Something In The Way She Moves」に入る。いつもはJTの弾き語りのレパートリーなんだけど、ここでは珍しくバンドとコーラスの伴奏付きだ。コーラス隊から始まる 19.「Sun On The Moon」は、カルロスが強靭なプレイを見せる。クリフォードのシンセサイザーがブラスセクション的な音を付加している。 20.「Up On The Roof」での聴きものは、マイケルのアイデアに富んだ美しいギター伴奏だろう。名曲 21.「Don't Let Me Be Lonely Tonight」では、エンディングにおけるドンのピアノソロが絶品。ライブ音源毎に全く異なるソロを展開しており、そのどれもが素晴らしいが、ここでのプレイは筆舌に尽くし難い。 22.「
She Thinks I Still Care」はコンサートお楽しみのカバー曲。1978年にJTの曲「Bartender's Blues」 C28 を歌っているジョージ・ジョーンズによる1962年にカントリー・チャート1位となったヒット曲で、グレン・キャンベル、ウィリー・ネルソン、シェール、デル・シャノンからエルヴィス・プレスリーまで、多くの人がカバーしているスタンダードだ。CDジャケットには、作者は「D. Lee」とあったが、正しいクレジットは上記のものらしい。JTが「涙なしには聴けない、犬も泣いちまう、屋根だってこの曲を聴いたら雨漏りを起こすんだ」と紹介して観客がどっと笑う。バリバリのカントリー・ソングをきちんと演奏するミュージシャンの懐の深いこと!続く 23.「Copperline」を聴くと、前の曲がこの曲の序曲だったことが分かる。アコーディオンのような音はシンセサイザーだろう。ロカビリー調の 24.「Slap Leather」では、マイケルのギターがワイルドでありながら、同時に極めて繊細で抑制が効いているという、矛盾した要素を併せ持つ持ち味をフルに発揮している。JTが彼のプレイを好む理由がこの曲の演奏を聴くと分かるような気がする。コーラス隊が頑張る 25.「Only One」、ソウルっぽい 26.「You Make It Easy」に続き、27. 「Carolina In My Mind」がコーラス隊と一緒にシンプルに演奏され、何だかほっとする。28.「I Will Follow」はライブでの演奏曲が少ない1981年の作品「Dad Loves His Work」A11からの珍しい曲で、コーラス隊のアレンジが新しくなっているので、新鮮に響く。アンコールの 29.「You've Got A Friend」はさらっとした演奏。最後の 30.「That Lonesome Road」はコーラス隊とのアカペラで厳かに歌われる。メンバーが個別に歌う部分もあり、各人の魂が伝わってきて余韻が残る。 

一般の人々は「Best Of James Taylor Live」として楽しむのに対し、熱心なファンは最高のJTバンドのインタープレイ、そしてバンド、コーラス隊の人間の絆を味える作品として、これからの人生にとって大切なものになり得るものだ。私は、今は亡きドン・グロルニックとカルロス・ヴェガの最高のプレイが聴けるドキュメントとして、この作品を鎮魂の祈りをもって聞き続けるだろう。なお本作の発売1年後に、本作から 1,3,4,8,9,11,12,14,16,17,18,19,20,23,24,29,30の17曲がセレクトされ、1枚のCDに編集されて「Best Live」として発売された。

[2007年1月作成]


 
A16 Hourglass  (1997)   CBS Sony 
 

James Taylor: Vocal, Acoustic Guitar
Bob Mann : Guitars
Clifford Carter : Keyboards
Jimmy Johnson : Bass
Carlos Vega : Drums, Percussion

Valerie Carter, David Lasley, Kate Markowitz, Arnold McCuller : Back Vocal
Sting : Vocals (6)
Shawn Colvin : Vocals (10)
Jill Dell'Abate : Vocals (8)

Dan Dugmore : Pedal Steel Guitar (10, 11)
Ross Traut : High Strung Guitar (11)
Stevie Wonder : Harmonica (3)
Yo-Yo Ma : Cello (2, 7)
Mark O'Connor : Violin (2)
Edgar Meyer : Acoustic Bass (4, 9)
Branford Marsalis : Soprano Sax (4) Alto Sax (9)
Michael Brecker : Tenor Sax (5), Ewi (6)
Randy Brecker : Trumpet (3)
Bob Mounsey : Horn Arragement (5)
Frank Filipetti, James Taylor : Producer
Jill Dell'Abate : Assistant Producer
Frank Filipetti : Engineer


1. Line 'Em Up  B36 E8 E14
2. Enough To Be On Your Way E25 
3. Little More Time With You  B35 E8
4. Gaia
5. Ananas
6. Jump Up Behind Me  B37 E8
7. Another Day  E8
8. Up Er Mei
9. Up From Your Life
10. Yellow And Rose
11. Boatman [Livingston Taylor]   C65
12. Walking My Baby Back Home [Fred Ahlert, Eoy Turk]
13. Hangnail [Unknown] (Hidden Track)

1997年5月20日発売
全米アルバムチャート: 9位

 

JTが6年ぶりに発表したソロアルバムは、前作に見られた文芸作品的な雰囲気をさらに発展させ、音楽的にも幅広いものとなった。その成熟ぶりを耳にして狂喜したファンは多かったと思う。発売時の評価としては、新しい事への冒険がないという批判もあり、賛否両論だったが、本人およびレコード会社の予想を大きく超え、1997年グラミー賞の「Best Pop Album」を受賞するヒットとなった。長年のパートナーだったドン・グロルニック病没のため、クリフォード・カーターが全面的にキーボードを担当した以外は、いつもと同じバックバンドとの強力な絆に加え、様々なジャンルからの豪華なゲスト陣が絶妙のアクセントを付加している。兄アレックス(1993年3月12日)、盟友ドン・グロルニック(1996年6月1日)、父アイク(同年11月1日)の死、2番目の妻キャサリンとの離婚という人生における大きな転機の中で、満たされることのない魂の彷徨、精神的な飢餓感、渇望が本作の背景にあると思う。キリスト経や仏教などの具体的な宗教への偏向を避けながら、生と死、自然と向き合うスピリチュアルな雰囲気が本作に深みと奥行を与えている。陽気な歌は少なく、日の出、日の入りの淡い光の中のような静謐な清らかさに満ちている。歌詞の内容はより個人的で、難解な部分もあるが内容を逐一理解することは無意味であり、その豊潤なイメージに浸るのが一番であると思う。本作ではフォーク、カントリー、ジャズ、ブラジル、ロックなど幅広い音楽が取り入れられているが、歌詞の世界が織り成す求心力により、強力な統一感を感じるのはさすがだ。床に裸足で座るJTの白黒写真というシンプルな表紙は、作品の内容を的確に表現している。

1.「Line 'Em Up」は、列をなす人間の集団行動と、個としての自分を対比した佳作。ニクソン大統領が退任した時、ホワイトハウスのスタッフを並ばせて別れの挨拶をしたシーン、マディソン・スクウェア・ガーデンを借り切って行われたという統一教会の集団結婚式のエピソード、一方個人としての自分の艱難辛苦の人生が、ユーモラスにシニカルに語らえる。ゆったりと流れるJTのアコギのアルペジオの背後にシンセイザーが流れ、途中からリズムセクションとコーラス隊がフィルインして、素晴らしく一体感のあるブラジル音楽風サウンドになる。2.「Enough To Be On Your Way」は兄アレックスの死についての作品。作曲の過程で主人公の人格をアリスという女性に変えているが、JTの歌では「アレックス」 とも聞こえる。アコギとマーク・オコナーのバイオリン、アコーディオン風シンセサイザーからなるアイリッシュ音楽風のイントロの後、葬式のシーンが歌われる。参列した親族を「Fucked Up Family」と歌う様は、その死を避けられなかった無念の気持ちが込められているように思われる。強烈な喪失感が曲を支配するなかで、全編に流れるバイオリンと、クラシック音楽界のスーパースターであるヨー・ヨーマによるチェロの調べはリクイエムのように響く。どこか諦念のようなものが感じられるピアノの透明感溢れるプレイがとても印象的。なおこの曲についてのプロモーション・ビデオが製作された。3.「Little More Time With You」は本作では明るめの曲で、スティーヴィー・ワンダーのファンキーなハーモニカが誠に効果的だ。薬や酒、タバコを断った後も、望みのない中毒者のように「No」と言えないという部分は、ユーモラスな表現でありながら、癒されることのない強い心の渇きが感じられ、衝撃的だ。4.「Gaia」は、気候を中心とした生物と環境の相互関係をひとつの巨大な生命体と看做す「ガイア理論」のことだろう。もともとはギリシア神話の大地の女神の名前で、大気学者、科学者のジェームス・ラブロックが1960年に唱えた仮説に、作家のウィリアム・ゴールディングが命名したもの。その後様々な論争を経て豊饒な理論体系に発展した。2006年にアル・ゴア氏(元民主党副大統領)が司会を担当したフィルム「不都合な真実」を想起させる内容だ。5.「Ananas」はフランス語でパイナップルの意味(彼自身テレビ番組でこの曲を紹介する時にそう言っている)ではあるが、内容的には自己喪失のダークなラブソングだ。フランス語の歌詞が随所に挿入され、クールなロック・サウンドが奇妙な曲だ。本作では地味なプレイに徹しているボブ・マンがここでは、抑えた感じのかっこいいギターソロを披露してくれる。

6.「Jump Up Behind Me」は、久しぶりに故郷に帰る際の高揚感が歌われる。マイケル・ブレッカーが演奏するEwi(Electric Wind Instrument)は、赤井電機の電子楽器部門が製作・販売して有名になった管楽器のシンセサイザーで、口笛のような軽いヒラヒラとしたサウンドが印象的。コンサートではクリフォード・カーターがピアニカのようなシンセサイザーで演奏していた。バックコーラスにスティングの声がはっきり聞こえる。後半でジミー・ジョンソンのベースが大変素敵なパッセージを挿入する。ラジオ曲あてに配られたこの曲のリミックス版 B37 では、オリジナルのパーカッションに加えてドラムスが大胆にフィーチャーされる他、スティングのボーカルがより前面で聞こえる。7.「Another Day」は、新たな日を迎える期待を歌う朝焼けのようなイメージの曲。ここで聞こえるヨー・ヨーマのチェロの音色はスピリチュアルな重みがある。8.「Up Er Mei」の「Er Mei」とは、中国四川省にある仏教聖地、我眉山のこと。寺院郡と世界最大の石仏が有名で、世界遺産に指定されている。JTが子供達と中国旅行をした際の経験を歌ったもので、アシスタント・プロデューサーの女性がバックボーカルを付けている。9.「Up From Your Life」はジャズバラ−ド風のサウンドで、神不在の人生の厳しさを歌う。ブランフォード・マルサリスのサックスソロは刺すように鋭い。10.「Yellow And Rose」は乾いたサウンド作りで、青(水)と緑(木々)の世界が、黄(砂)とローズ(焼けた岩?)に変わってゆく環境破壊を歌ったものと思われる。JTの影に寄り添うように歌われる、ショーン・コルヴィンのサイド・ボーカルがとてもいいですね。後年JTは彼女のソロアルバム「Whole New You」 2001 C75にゲスト参加する。ダン・ダグモアは久しぶりの参加。11.「Boatman」は弟のリブ・テイラーがソロアルバム「Bicycle」 1996 C65で歌っていた曲(JTはバックボーカルで参加していた)で、アラスカ東南部アルセック川をいかだで下った際の自然と一体となった感動を歌ったものという。ここでのアレンジはオリジナルとあまり変わらない。生と死と自然を歌う本作にぴったりの作品だ。12.「Walking My Baby Back Home」はアンコールのような感じで、重い雰囲気の作品群の後だけに、その暖かいサウンドにほっとするものがある。1930年に作曲され、ニック・ルーカス(1931年)、ナット・キング・コール(1951年)、ジョニー・レイ(1952年)のヒットがあり、1953年にはドナルド・オコナー、ジャネット・リー主演で同名の映画が製作された。個人的にはナット・キング・コールの歌で親しんでいた曲で、JTのボーカルも彼のスタイルを踏襲しているように思われる。イントロのJTのギター一本による弾き語り部分が最高。本作はここで終わりかと思わせるが、CDはしばらく回り続け、隠しトラックの13.「Hangnail」が始まる。「爪のささくれ」という意味のタイトルで、歌詞の内容はナンセンス。サウンドは昔の西部劇TV番組「ローハイド」の主題歌のようなカウボーイソングで、ムチの効果音と「ハイヤー」という牛を追う掛け声が入る冗談ソング。解説書に載っていないので、作者は不明だ。歌詞はインターネットのリリック・サイトで観ることができる。

JT縁の地であるマーサ・ヴィンヤードのある家に機材を持ち込んで録音されたというが、JTの繊細なアコースティック・ギターのサウンドを前面に出した自然な音作りは素晴らしく、本作のプロデューサーであり、エンジニアも担当したフランク・フィリペティがグラミー賞(最優秀録音賞)を受賞した。

[2007年8月作成]

[2008年1月20日追記]

このCDには「CD Extra」というマルチメディア・ファイルが付いている。しかし私のPCで開くことができず、ずっと諦めていたのですが、今般久しぶりに試してみたら、何と!うまく開けたのです。10年ぶりに観ることができたぞ!

(1)Interview、(2)Songs、 (3)Scraps の3つのメニューからなり、(1)では本作のタイトルやスタジオ選定などが語られる。(2)は収録曲についてのコメント。1.「Line 'Em Up」は、フェスティバルへの出演のためにテルライドへ行った際に書いた曲で、ニクソンの事、マディソン・スクウェア・ガーデンで集団結婚式をあげた統一教会の事と、パーソナルな事柄を歌ったという。3.「Little More Time With You」は「Love Addiction」、5.「Ananas」は「Groove」だとのこと。7.「Another Day」は出来上がるまでに12年かかった事、8.「Up Er Mei」は1993年ごろの中国旅行での聖地を訪れた、9.「Up From Your Life」は聖歌のようなものだと語る。(3)は、2.「Enough To Be On Your Way」のギターのイントロ、6.「Jump Up Behind Me」に繋がるギターのインストルメンタル、バンド演奏による3.「Little More Time With You」のシーン、そして弾き語りによる 1.「Line 'Em Up」の各断片を観ることができ、JTのギタープレイを楽しむことができるのがうれしい。コンピューター・グラフィックによる各画面の構成がとても洒落ている。


[2013年12月追記]

SACDからボーカルのみを抽出したという音源を聴くことができた。SACDは1999年に規格化された次世代CDのひとつで、高音質の他に6チャンネルまでのマルチトラック機能があり、既存のCDに満足しないハイエンドの人達がユーザーになっている。本音源は、そこからボーカルが入ったトラックのみを抽出したもの。

1.「Line 'Em Up」は、バックバンドとコーラス隊がカットされ、コーラス部分での控えめなパーカッションとハーモニーボーカルが入る以外は、JTがギター一本だけで歌っているかのような感じになっており、聴き応え十分。2.「Enough To Be On Your Way」のイントロはバイオリンのみとなり、JTのアコギは聞こえないが、彼のボーカルが入るところでアコギの演奏が始まり、そこからは弾き語り風になる。3.「Little More Time With You」は、コーラス隊は小さめに聞こえるがバックバンドが抜けた分、特に間奏部分などスカスカになった感じがするが、普段はバックに埋もれて耳にできない彼のアコギを聴くことができるのはめっけもん。4.「Gaia」は、35秒の沈黙の世界(オリジナルはシンセサイザーのイントロ)の後で、彼の弾き語りの世界が始まる。5.「Ananas」になると、抽出したチャンネルには彼のボーカルしか入っていないようで、オルガンとドラムスの僅かな音以外はアカペラ状態で、少し可笑しい。6.「Jump Up Behind Me」は、小さなパーカッションの音のみをバックにJTの素晴らしいギター伴奏が楽しめる。彼ならば、こんな曲でもやろうと思えば一人で出来るんだろう。スティングのバックボーカルもばっちり入っているのが有難い。7.「Another Day」では、JTのアコギは別のチャンネルに入っているようで、ほぼ完全なアカペラ状態。8.「Up Er Mei」は、完全な弾き語りバージョンになっていて、曲のムードがガラリと変わってしまった。彼のギターの上手さが引き立っている。9. 「Up From Your Life」は、コーラス部分のギターのコードストローク以外はアカペラ。10.「Yellow And Rose」は、コーラスとキーボードがカットされたが、ドラムス、ベースとエレキギターは小さな音で聞こえる。11.「Boatman」は、弾き語りバージョンとして、そのまま発表してもよさそうな出来。12.「Walking My Baby Back Home」もアコギ伴奏(小さめな音だけど)によるチャーミングな逸品になった。曲が終わった後にJTが「Nice Night」と囁いているのが聞こえる。13. 「Hangnail」も完全な弾き語り版になっている。

アーティストが望んだ形ではないけど、とても面白く聴き応えがある内容となっている。


 
A17 October Road  (2002)   CBS Sony 

 


James Taylor: Vocal, Acoustic Guitar
Michael Landou : Electric Guitar (2,3,8,9), Gut String Guitar (3)
Ry Cooder : Lead Guitar (2)
John L.. Sheldon : Guitar Harmonics (1)
John Pizzarelli : Guitar (6,12)
Clifford Carter : Keyboards (3,10), Piano (10), Organ (2), Synth Organ (11), Synth Rhodes (19), String Pad (12)
Rob Mounsey : Keyboards (1,7), Synth Line (3),Penny Whistle (5), Synth Bagpipes (5), Percussion (5), Synth (6), String Pad (10,12), Sring Arragement (12)
Greg Phillinganes : Keyboards (4,5,8)
Larry Goldings : Piano (6,12)
Robbie Kilgore : Piano (10)
Jimmy Johnson : Bass (1,2,3,4,5,6,7,8,9,10,11,12)
Steve Gadd : Drums (1,2,3,4,5,6,7,8,9,10,11,12)
Luis Conte : Percussion (2,3,4,7,8,9,11)
M. Hans Liebert : Synth Conga (1), Synth Pesrcuuin (8), Piano (5)
Stuart Duncan : Violin (2,7)
Tommy Morgan : Harmonica (10)
Michael Brecker : Sax (2)
Harry Allen : Tenor Sax (12)
Walt Fowler, Lou Marini : Horns (4,8)
Richard Sebring : French Horn (5)

Cenovia Cummins, Richard Sortomme, Donna Tecco, Belinda Whitney : Violin (12)
Concert Master For String Section : Ralph Morrison III (6,7,10)
Dave Grusin : String Arragement and Conduction (6,7,10)

Arnold McCuller : Back Vocal (3,4,5,8)
David Lasley : Back Vocal (3,4,5,8), Harmony Vocal (2)
Kate Markowitz : Back Vocal (3,4,5,8)
Caroline Taylor : Back Vocal (1)
Chiara Civello : Back Vocal (3)
Sally Taylor : Back Vocal (7,11)
Nina Gordon, Michael Eisenstein, Kay Hanley, Josh Lattanzi, Steve Scully : Back Vocal (5)

1. September Grass [John L. Sheldon]
2. October Road   E12  
3. On The 4th Of July  E10
4. Whenever You're Ready  A22 E10
5. Belfast To Boston  E8 E20
6. Mean Old Man   B48 E14
7. My Traveling Star  E14
8. Raised Up Family   E10
9. Carry Me On My Way
10. Caroline I See You
11. Baby Buffalo
12. Have Yourself A Merry Christmas [Hugh Martin, Rlph Blane]

Russ Titleman : Producer

2002年8月13日発売
全米アルバムチャート: 4位

注)写真上: Limited Editionの表紙
  写真下: 通常版の表紙

 

「時が経るにつれて熟成し、まろやかになったヴィンテージものワインのような味わい」といった表現がふさわしい作品といえよう。緑色を基調としたジャケット写真の落ち着きのあるノスタルジックな雰囲気、JTの田舎紳士風容貌が作品の雰囲気を雄弁に物語っている。名作「Hourglass」の5年後に発表された本作は、前作を凌駕する出来栄えだ。発売当時に出演したテレビ番組でのインタビューで、常時携帯している曲想や歌詞を書き留めた製作ノートをホテルで紛失したエピソードが語られており、製作にあたっては、いろいろあったようだが、その苦労は見事に報われたといえよう。プロデューサーはラス・タイトルマン。JTにとっては「Gorilla」 1975 A7、「In The Pocket」 1976 A8以来の再会となる。彼は1970年代にレニー・ロワンカーと組んで、ライ・クーダー、ランディ・ニューマン、アーロ・ガスリー、マリア・マルダー、リトル・フィート等のアルバムを製作し、当時の音楽シーンをリードしたが、80年代にはスティービー・ウィンウッドの「Back In The High Life」(JTがバックボーカルで参加) 1986 C45 や、90年代はエリック・クラプトンの「Unpluged」1992でグラミー賞を獲得した人だ。そして本作は彼の指導下で、前作のような派手なゲストの参加はなく、お気に入りのミュージシャンと一緒にじっくり作り上げた感じがする。

1.「September Grass」はジョン・L.・シェルドンの作品。彼の母親とJTの母トルーディーが学校時代からの親友だったこともあり、昔から家族ぐるみの付き合いがあったという。特にJTがノースキャロライナの家を離れてボストンの高校に通っていた頃は、毎週末シェルドン家に入り浸っていた。姉のフィービー(「One Man Band」の映像 E14で、彼女の写真が紹介されている)はJTのガールフレンドとなり、JTは彼の父親からギターを習ったという。JTがダニー・クーチと親しくなり音楽活動を始めた頃、3歳年下のジョンは彼らの上達ぶりを目の当たりにする。JTからエレキギターを買ったジョンはメキメキ腕を上げ、17歳の若さでヴァン・モリソンのグループに加入。そして高校卒業後はロスアンジェルスに出てセッション・ギタリストとして活躍、リンダ・ロンシュタットのツアーバンドにも参加した。しかし彼が本当にやりたかったことは、後世に残る歌を作ることで、故郷のマサチューセッツに戻り、地道な活動をしながら曲作りに励んだ。その後フィービーが彼のことをJTに伝えて交流が復活、1994年のアルバム「Boneyard」C60の製作にJTが協力した。その後ジョンのデモテープを聴いたJTが本曲を気に入り録音したことにより、ジョンの夢が実現したのだ。名曲というに相応しい歌詞とメロディーを持った曲で、ノスタルジックな歌詞は本作のムードにぴったり。素晴らしいアレンジにより、青春時代を思う際に感じる心の痛みが見事に表現されている。キラキラ光る草の輝きを連想させる後半のハーモニクス奏法のギターは、プレイバックを聞いたジョンの意見により追加したという。JTはその後も、彼の曲「Bittersweet」を録音している(B43参照)。2.「October Road」は、マサチューセッツ州のステート・フォレスト、オクトーバー・マウンテンが舞台で、原点回帰と魂の再生がテーマ。本作からJTバンドに加わった名ドラマー、スティーブ・ガッドのスネアドラムスが鮮やかで、ポール・サイモンの「50 Ways To Leave Your Lover」と同じく、彼のプレイが曲のカラーを決定付けている。また彼のアイドルだったライ・クーダーとの初共演が話題で、ボトルネックによる控えめなプレイが光っており、JTはこの曲を「ライへのオマージュだ」と言っている。バイオリン奏者はスチュアート・ダンカンで、ブルーグラス界で活躍するフィドラーだ。デビッド・グリスマン、ドリー・パートン、アリソン・クラウス、ヴィンス・ギル、マーラ・オコンネル、シャニア・トウェインなどの作品に参加している。またお馴染みの名サックス奏者、マイケルブレッカーがサックスを吹いているが、バックのアンサンブルの演奏に徹しており、贅沢な使い方だ。

3.「On The 4th Of July」は本作のハイライト。文句なしの名曲だ。内容的にフィクションであるが、Emotionally には妻キャロラインとのロマンスを描いたという。独立記念日での恋人とのエピソードが洗練されたボサノバに乗せて歌われる。ここでJTのバックで歌う女性はチアラ・シベロ。彼女はイタリアのローマ生まれで、渡米後バークリー音楽院に学び、現在はニューヨークで活躍。トニー・ベネットやバート・とバカラックと共演し、2005年に初アルバムを発表。ジャズ歌手でありながら、ジョニ・ミッチェル、ノラ・ジョーンズのようなシンガー・アンド・ソングライター的な趣を持つ若手歌手だ。マイケル・ランドウによるガットギターのシンプルな間奏ソロが聴ける。JTバンド常連のコーラス隊では、アーノルド、デビッド、ケイトの3名は健在だが、ナッシュビルで自分の音楽をやるためにバンドを抜けたヴァレリー・カーターがいなくなり寂しい。4.「Whenever You're Ready」は、JTのダークな部分とブライトな部分の対比が鮮やかな曲。最初はシニカルなムードから始まり、コーラス・パートになると明るいラブソングになる。その抑圧されたソウルが解放されるときのカタルシスは、とても気持ちが良いものだ。ここでのブラスセクションは、コンサートツアーに同行するルウ・マリニとウォルト・ファウアーの二人。スティーブとジミーのリズムセクションの一体感、マイケルのエレキギターの抑制の効いたプレイが光る。ここでキーボードを担当するグレッグ・フィリンガネス (1956- ) は、スティービー・ワンダー、マイケル・ジャクソン、ジョージ・ベンソン、アール・クルー、ダイアナ・ロスなどの録音に参加、Totoのライブには、デビッド・ペイチの代わりとして参加、自身ソロアルバムも出している。本作での演奏は、リズム主体で目立たないもの。

5.「Belfast To Boston」は1998年のライブ映像「Live At The Beacon Theatre」E8で演奏されていた曲で、本作が初めてのスタジオ録音。何といっても歌詞がメインの曲。現在北アイルランドの国境には検問所はなく、以前丘の上にあった巨大な監視所も撤去された。以前に国境地帯の荒地を車で走り抜けた時、いつのまにか国旗が変わり、通貨がポンドになるという経験をしたことがあり、ベルファストも一見静かできれいな街だった。北アイルランドの独立紛争は、穏やかな現状肯定のムードが浸透し、近年は沈静化したように見えるが、本質的な問題は、宗教が異なる人々による終わりのない憎しみの連鎖なのだ。今でもカトリック、プロテスタントの住民は互いに反目し合い、交流がなく、ベルファストの町には両派の居住地域を分断する壁が今も存在するという。一方ダブリンに住む人々は、北アイルランドの存在を完全に無視している。アイルランド紛争は、一般的にIRAに象徴される独立派のテロが話題だった。ダブリン駅の近くに小さな石碑があったが、それは1970年代に発生した爆弾テロの犠牲者を弔うものだった。しかし実際はイギリスへの帰属を支持する王党派も過激で、警察組織と結びついて際限のない報復合戦が繰り広げられたという。そしてIRAをサポートしていたのは、アメリカに移住して財を成したアイリッシュで、ボストンを本拠地とする支援組織が武器や活動資金を密航船に乗せて運んだという。スティーブのマーチングバンド風スネアドラム(彼は子供時代鼓笛隊で小太鼓を叩いていた)が印象的。アイリッシュ音楽風のシンセサイザーを演奏するロブ・モーンシー(1952- )は、ジョージ・ベンソン、デビッド・サンボーン、ダイアナ・ロス、カーリー・サイモン、エリック・クラプトン等数多くのセッションに参加したセッション・ミュージシャン。本人の言葉によると、最も思い出に残る作品は、スティーリー・ダンの「ガウチョ」だったという。またテレビ番組の音楽を担当し、エミー賞を受賞している。ピアノを弾いている M. ハンス・ライベルトは、本作の録音で使用されたニューヨークのSecret Studioのエンジニアで、「Additional Engineer」としてクレジットされている他、数曲の演奏に参加している。といっても隠し味的なもので、仕上げの過程で後からオーバーダビングしたものだろう。またケイ・ハンレイ(1968- )、ニナ・ゴードン(1967- )等の地元ボストン周辺を本拠地とするミュージシャンがバックコーラスとして参加している点が興味深い。ケイ・ハンレイは夫君のマイケル・エイゼンシュタインと Latter To Cleoというオルタナ系ロックバンドを組んでいた人で、2002年に「Cherry Marmalade」というアルバムを発表、一方ニナ・ゴードンは、ヴェルーカ・ソルトというガールズロックのグループで有名となった後にソロとして独立、1998年に「Tonight And The Rest Of My Life」を製作、その後もソロアルバムを発表している。二人は友人同士とのことで、他の人々(Josh Lattanzi, Steve Scully)も彼らの音楽仲間のようだ。

6.「Mean Old Man」は、JT風スタンダード・ソングだ。ひねくれ者の老人が恋をして生まれ変わる様を、シニカルなユーモアたっぷりに歌ったもので、JTの自伝的作品。特に最後の一節は傑作で、コンサートでもオーディエンスが大笑いする。ラリー・ゴールディング(1968- )のピアノは、歌詞に劣らずスパイスが効いたプレイ。これが彼とJTの初めてのセッションであったが、その後JTのお気に入りプレイヤーの座を獲得したのも納得がゆく。彼はジャズオルガンの名手でもあり、ジム・ホール、マセオ・パーカー、ジョン・スコフィールド、ジョン・ピザレリ、トム・スコット等と共演、自己名義のソロアルバムも多く発表している。リズムギターのジョン・ピザレリ(1962- )は、バッキー・ピザレリ (1926-2020) の息子で、二人とも才能あるジャズ・ギタリストだ。自身はドラムなしのトリオ(ギター、ベース、ピアノ)で活動し、多くのソロアルバムを発表している。自分がリーダーとなる場合は、大変なテクニックを惜しげもなく披露するが、JTとのセッションでは、渋めで味のあるプレイに徹している。ちなみにジョンは、2003年に発表したライブアルバム「Live At Birdland」で、この曲を自ら歌っている。JTが「Another Shameless Highway Song」と言う、7.「My Traveling Star」は彼の永遠のテーマである放浪癖を歌ったもの。ただし若い頃の一方的な流転への渇望ではなく、年を経て定着との葛藤がテーマとなっており、より成熟した深みを感じる。家族の絆をソウルフルに体現する愛娘サリー・テイラーのバック・ボーカルが心に響く。ストリングス・アレンジを担当するデイブ・グルーシンは、ジャズ、フュージョン界の大物で、プレイヤー、アレンジャー、コンポーザー、プロデューサーとして活躍。特にギタリストのリー・リトナーとの活動で有名な人だ。本作での二人の相性は良かったようで、次作の「Christmas Album」で再共演することになる。

8.「Raised Up Family」は一転してダークな曲調で、前の歌で家族の絆を感じさせたJTが個の独立を説く。逆説的な面もあると思うが、JT音楽の本質であるの陰の側面がよく出ていると思う。サウンド的にはこの手の雰囲気が合うR&B調で、マイケルのエレキギターが目立っている。 9.「Carry Me On My Way」はシンプルな伴奏をバックに、エフェクトを効かせたJTのアコギの音がパット・メセニーを連想させる。いままでの生き様と将来への不安が現れているが、(亡くなった)父親や兄と同じ道を辿っていると歌う。10. 「Caroline I See You」は、スタンダード・ソングの香りに満ちたクラシカルな曲で、2001年2月に結婚した奥様の実名をタイトルにしたプライベートなラブソング。ここでハーモニカを吹いているトミー・モーガン (1932- )は、1950年のアンドリュー・シスターズとの録音以来、長年にわたり無数のセッションに参加した人で、最も有名な曲はカーペンターズの「雨の日と月曜日は」だろう。JTのアコースティックギター、クリフォード・カーターによるイントロの単音ピアノ、そしてデイブ・グルーシンのアレンジによるストリングスの響きが素晴らしい。ピアノを担当するロビ・キルゴアは、ホール・アンド・オーツ、カーリー・サイモン、ブレッカー・ブラザース、グレン・フェイ、パティ・オースチンなどに参加したセッション・ミュージシャンで、JTの「Never Die Young」1988 A13 ではシンセサイザー・プログラミングとしてクレジットされている。11.「Baby Buffalo」はミステリアスな歌詞が印象的。JTが観た夢に基づいた作品というが、そこにあるのは強烈な喪失感で、父アイクや兄のアレックスなど、亡くなった人々がテーマであることは明らかだ。ここでもサリーのバックボーカルがしっかりと寄り添う。

12. 「Have Yourself A Merry Christmas」について。2001年9月11日、私は欧州にいた。あのシーンをテレビで見たときの衝撃は一生忘れることができないだろう。その時から世の中が変わってしまったように思える。その年のクリスマスは、言いようのない虚脱感、無力感に満ちたものであったと記憶している。そういう重苦しいムードのなかでJTは、この曲を録音してラジオ曲に配給した。この曲は、1944年のミュージカル映画「Meet Me In St. Louis」(ヴィンセント・ミネリ監督、日本未公開)でジュディ・ガーランドが歌っていた曲で、その後無数の人々によってカバーされるクリスマス・スタンダード曲となった。淡々とした伴奏、歌唱のなかで、「In a year our troubles will be miles away」、「Until then we'll just have to muddle through somehow」という一節のなかにJTの万感の思いが込められていて、今の困難を乗り切ろうというメッセージに心が震える。本アルバムの録音中、スタジオの時間が余ったため、この曲を録音したそうだ。クリスマス・シーズンのラジオで放送されたこの曲の評判は上々で、多くの人々の要望により翌年8月発売の本作にも収録されることになった。さらに2004年のクリスマス・アルバム製作のきっかけにもなったという。ハリー・アレン(1966- )は、正統から前衛まで幅広いジャンルをカバーするサックス奏者で、多くの自己名義のアルバムを発表して高い評価と人気を誇り、本曲で一緒に演奏しているジョン・ピザレリの作品にも多く参加している。

物静かではあるが、新たな出会いと再生の思いに満ちた作品で、芸術家にとって恋をすることが、創造性の発揮に大きな影響を与えることを如実に示している。通して聴くと、アーウィン・ショーなどニューヨーカー誌の短編小説を読んだ時のような、軽妙ながらも深い味わいが残る。落ち着いた週末の夜などにグラスを傾けて、これまで歩んできた人生を思い起こしながら、じっくり聴き込みたい作品だ。

なお初回発売分には、ボーナストラックとしてマイケル・ブレッカーの「Don't Let Me Be Lonely Tonight」 2001 C74、マーク・ノップラーの「Sailing To Philadelphia」 2000 C71、マーク・オコナーの「Benjamin」 2000 C72が付いていた。これらの3曲は、日本盤では本体のCDに追加収録され、欧米盤では2枚目のCDとして添付された。

[2008年2月作成]

 
A18 A Christmas Album  (2004)   Hallmark
 
James Taylor: Vocal, Acoustic Guitar
Natalie Cole: Vocal (4)
Michael Landau : Guitar (2,3,6,8,11)
George Doering : Guitar (2,3,6,10)
John Pizzarelli : Guitar (1,4,5,7,11)
Dave Grusin : Piano (1,2,3,4,5,6,9,10), Celeste (7,10)
Larry Goldings : Merodica (2,3,11), Harmonium (3,8,11) Organ (6), Piano (7)
Jimmy Johnson : Electric Bass (2,3,6)
Dave Carpenter : Acoustic Bass (1,4,5,7,10,11)
Vinnie Colaiuta : Drums (1,2,3,4,5,6,7,11)
Louis Conte : Percussion (2,4,6,10)
Mike Fisher : Percussion (8)

Chris Botti : Trumpet (1)
Toots Theilemans : Harmonica (7)

David Lasley, Kate Markowitz, Arnold McCuller : Back Vocal (1,2,8,10)

Strings (Concert Master by Ralph Morrison) (1,2,3,4,5,7,9,10)
Woodwinds (1)

1. Winter Wonderland [Felix Bernard, Dick Smith]
2. Go Tell It On The Mountain [Traditional, Arranged by Taylor & Grusin]  
3. In The Bleak Midwinter [Traditional, Arranged by Taylor & Grusin]
4. Baby, It's Cold Outside [Frank Loesser]
5. Santa Claus Is Coming To Town [J. Fred Coots, Haven Gillespie]
6. Jingle Bells [Traditional, Arraged by Taylor]
7. The Christmas Song (Chestnuts Roasting On The Open Fire) [Mel Torme, Robert Wells]
8. Deck The Halls [Traditional, Arranged by Taylor & Grusin]  C93
9. Some Children See Him [Wihla Hutson, Alfred Burt]
10. Who Comes This Night [David Grusin, Sally Stevens]
11. Auld Lang Syne [Traditional, Lyrical Adaptation by Charles H. Witham, Arraged by Taylor]  C78


2004年11月1日発売

注) 8.は、A19 未収録

 

欧米の人々にとって、JTのクリスマス・アルバムは待望の作品だったようだ。前作に収録された「Have Yourself A Merry Christmas」が大好評だったこと、ソニー・レコードとの契約が終了して身軽になったことに加えて、オリジナル曲による前作から2年という時間が経ったからなどが、本作を制作した動機と思われる。このCDはアメリカのカンサスシティを本拠地とし、グリーティングカードやギフト商品で世界的に有名なホールマーク社による発売となった。しかも Hallmark Gold Clown Stores という同社の専門店(全米4300店)の店頭でのみ購入可能で、価格は$10.95。ただし同社のカード3枚と一緒に購入すると $6.95 という価格設定となった。米国内外の一般レコード店は勿論、インターネットや通信販売での購入も不可で、ヨーロッパやアジア、アセアニアなどに住むJTファンにとって困ったものだった。私は当時欧州に住んでおり、どうしたら入手できるか考えあぐねたものだ。たまたま折良くニューヨークへ旅行となり、滞在中に早速マンハッタンの店に買いに行ったのだが、発売直後だったので、まだ入荷していないとのこと。その場で代金と送料を払い、後日郵送してもらった思い出がある。苦労して手に入れたので、初めて聴いた際の感激はひとしおであった。本作は、クリスマス・アルバムらしく厳かな曲、或いはリラックスした曲が並んでいる。いままでのJTの作品と雰囲気が異なるのは、デイブ・グルーシン (1934- )のプロデュースのせいかな? 彼はジャズ、とりわけフュージョン音楽の巨匠のひとりで、プレイヤー、アレンジャー、コンポーザー、プロデューサーなど、なんでもこなす人だ。特に1970年代におけるリー・リトナーとの共演が名高く、GRPレコードというレーベルのオーナーでもあった。また映画音楽での活躍も顕著で、「Tootsie」、「On Golden Pond (黄昏)」など多くの作品を担当。私にとって特に思い出深い作品はサイモン・アンド・ガーファンクルと一緒に担当したダスティン・ホフマン、キャサリン・ロス主演の「Graduate (卒業)」だった。彼の音楽スタイルは天才的なプロの職人という感じで、器用でソツがなさ過ぎる感じがするが、クリスマスソングというスタンダード音楽をジャズ風にアレンジする本作に関しては、彼の持ち味が生きているように思える。

1.「Winter Wonderland」は1934年に出版された曲で、フランク・シナトラ、ペリー・コモからカーペンターズ、シンディー・ローパー、ユーリスミクスまで無数のカバーがある。ここでのデイブ・グルーシンのアレンジは垢抜けたもので、ヴェルヴェットのような細やかさを感じる。ウッドベースのデイブ・カーペンターは、ウディ・ハーマン、ピーター・アースキン、アンディ・サマーズ、ロッド・スチュワート、リー・リトナー、ボズ・スキャッグス等の作品に参加しているセッション・ミュージシャンだ。JTはのびのびと歌っている。ゲストのクリス・ボッティ(1962- )は、トランペットに弱音器をつけてスタイリッシュなソロを聴かせる。彼はジャズ・ミュージシャンであるが、最初はポール・サイモンやスティングなどのアーティストのバックバンドやセッションによって知名度を得た人だ。その他アレサ・フランクリン、ベッド・ミドラー、チャカ・カーン、ジョー・コッカー、フリオ・イグレシアスなどの作品に参加、1995年から発表しているソロアルバムでは、ジャズとポップを融合させたサウンドが持ち味となっている。2.「Go Tell It On The Mountain」は、1800年代からアフリカ系アメリカ人の間で歌われてきた賛美歌(ゴスペルソング)で、キリストの出生を歌ったもの。日本でも「山を登りて告げよ」というタイトルで、教会やゴスペル・コンサートで歌われている。ピーター・ポール・アンド・マリーのバージョンが名高いが、個人的にはサイモン・アンド・ガーファンクル1964年のデビュー盤「Wednesday Morning 3AM」でのカバーが思い出深い。ここでのJTのボーカル、バックバンドとコーラスのアレンジは軽やかで、さらっとした感じの薄味のゴスペルといったところか。3.「In The Bleak Midwinter」は、1800年代のクリスチナ・ロセッティ(Christina Rossetti)の詩に、交響曲「惑星」の作曲で有名なグスタフ・ホルスト(1874-1934)が曲をつけたもの。ポピュラー音楽としては、バート・ヤンシュ、ジュリー・アンドリュース、ショーン・コルヴィンなどが録音しているクリスマスキャロルだ。厚みのあるストリングスを前面に出したクラシカルなサウンドで、JTの歌も厳か。4.「Baby, It's Cold Outside」は、ティンパンアレイの作曲家で、「Guys And Dolls」、「How To Succeed In Business Without Really Trying (努力しないで出世する方法)」などのブロードウェイ・ミュージカル(映画)で有名なフランク・ローサーの作品。帰りたがるウブな女の子に、「外は寒いから」などいろいろな理由を付けて、家に引っ張り込もうとする誘惑男を描いたユーモラスな曲で、エラ・フィッツジェラルドとルイ・ジョーダン、レイ・チャールズとベティー・カーター、サミー・デイビス・ジュニアーとカーメン・マクレー、最近ではロッド・スチュワートとドリー・パートンなど、数多くのデュエット・バージョンがあり、季節柄クリスマス・アルバムに収録されることが多い。JTは1970年代のコンサートで、テープレコーダーを使用して、ひとりデュエットを披露していたことがあり、今回が初めての正式録音。パートナーのナタリー・コール(1950-2015)は、故ナット・キング・コールの娘で説明不要と思う。熟女の彼女が楽しそうにカマトトっぽい声を出し、一方JT演ずる助平男は、シャイな清潔さも感じられ、彼の個性が際立っている。ボサノヴァ風の洒落たアレンジにのせて歌う二人の余裕綽々のパファーマンスが素晴らしい。5.「Santa Claus Is Coming To Town」はジャズっぽいアレンジで、1934年にエディ・キャンター主演のラジオ番組での演奏が大評判となり、その後は無数のアーティストによって歌われている。前作からJTのセッションに参加したジョン・ピザレリの4ビートによるリズム・ギターが押している。間奏のデイブ・グルーシンのピアノソロは、音数を抑えたゴージャスなプレイで、ビリー・ホリデイ晩年の録音におけるルー・ロウルズのプレイを思わせる。そしてJTのボーカルは軽妙洒脱、ユーモアの極致だ!

6.「Jingle Bells」はJames Lord Pierpontが1857年に出版した古い曲だが、ここではメロディーをマイナー調にしてR&Bアレンジで味付けしたJT風に仕上げている。オルガンとエレキギターがここぞと頑張って、ネットリしたプレイをしているのが面白い。7.「The Christmas Song」は、ナット・キング・コールの歌で有名で、彼は1946年に2回、1953年、1961年と計4回録音している。作者のメル・トーメによると、夏の暑さに閉口した際に冬の事を考えて作ったという。作者本人も含め、とても多くの人々が歌っているゴージャスなスタンダードだ。JTは終わりのヴァースで、「Kids from 1 to 92」の部分を「Kids from 1 to 102」と歌っており、この曲を愛する人へサプライズをプレゼントしている。間奏でハーモニカ・ソロを担当するトゥーツ・シールマンス(1922-2016)はベルギー生まれで、最初はジャンゴ・ラインハルトの流れを汲むギタリストとして有名になったが、後年はハーモニカ奏者として他の追随を許さず、ジャズとポップスの両方で数多くの共演盤やセッション作品を残している。曲自体が大物なので、ここではストリングスを効かせて、素直でさっぱりした歌唱、演奏に終始している。8.「Deck The Hall」は、元はウェールズ地方の古い歌で、大晦日に歌われていたらしい。ハープにより演奏され、「ファララララ」という部分はその名残という。後に英語の歌詞がつけられ、賛美歌として定着した。モーツアルトはこの曲のメロディーを使用してバイオリンとピアノのために2重奏曲を作曲している。ちなみに日本では「ひいらぎかざろう」という題名がついている。本作のなかでは比較的地味な出来で、そのせいかな? メジャーレーベルから世界発売されたA19ではオミットされてしまい、ここでしか聴けないレアな曲となった。9.「Some Children See Him」(1951)は、デトロイト近郊の教会でオルガンを弾いていたウィラ・フトソンが作詞し、教区の牧師の息子のアルフレド・バートが作曲した、肌の色や目の形を超えた愛を歌う現代の聖歌だ。第2次世界大戦が終わったが、朝鮮戦争などで人々の悩みや苦しみが続く中で、この歌は良識あるアメリカ人の心の中で光を放っていたに違いない。ピアノとストリングスによるシンプルな伴奏で、JTはストレートに歌う。ちなみにこの曲は、ウィンダムヒル・レコードで心のあるソロピアノで一世を風靡したジョージ・ウィンストンが冬をテーマに製作したの名作「December」1982でも取り上げられている。ちなみに作者のウィラ・フトソンは2002年に101歳で亡くなった。10.「Who Comes This Night」は、デイブ・グルーシンの書き下ろしと思われ、シンプルで清らかな曲だ。共作者のサリー・スティーブンスは、セッション・ボーカリストの他、ボーカルのコーチングや映画音楽のコーラスなどの分野で活躍している人。11.「Auld Lang Syne」はスコットランド民謡で、タイトルは「Old Long Ago」の意味で、意訳すると「Times Gone By」となる。1999年にJTの妹ケイト・テイラーがJTの協力を得て録音したバージョンの焼き直しだ。ロバート・バーンズ(1759-1796)の原詩に、ケイトの夫チャーリー・ウィザムが手を加えた歌詞で歌っている。1年の終わりに歌われる歌で、ビビアン・リー、ロバートテイラー主演の悲しくも香り高い名画「哀愁」1940でこの曲が流れる1シーンがとても印象に残っている。日本では「蛍の光」でお馴染みだ。個人的にはケイト・テイラーのバージョンのほうが好きなので、そちらも是非聴いてみて欲しい(アルバム「Beautiful Road」 2003 C78 参照)。

ジャケット写真のブルーの色合いが素晴らしく、ギフトカードの大手であるホールマークの面目躍如たるものがある。スキャナーで取り込んだ上の画像や、インターネットで見ることができる画像では、微妙な色調が表現できておらず、繊細な色のニュアンスを伝えられないのが残念。

原曲の世界に敬意を払いながら、控えめに自分の世界に染めてゆく。本作を聴いた一般の人のなかには、歌い手の顔が見えない思う人もいると思うが、JTのファンにとっては彼にしか出せない個性をはっきり感じることができる。本作は、JTが以前から挑戦してきたスタンダード曲の歌唱スタイルの完成を象徴する作品だと思う。

[2008年9月作成]

[2012年11月追記]
8.「Deck The Halls」は、その後発売されたA19の2006年版、2012年版からはずされたが、2012年11月に発売されたオリヴィア・ニュートン・ジョンとジョン・トラボルタのデュエットによるクリスマス・アルバム「This Christmas」 C93に、本曲のベイシック・トラックにJTを含むボーカルを録音し直したバージョンが収録された。


A19  James Taylor At Christmas (2006)   Sony 

 


6.7.を除くパーソナルについて

James Taylor: Vocal, Acoustic Guitar
Natalie Cole: Vocal (4)
Michael Landau : Guitar (2,4,11,12)
George Doering : Guitar (2,4,10,11)
John Pizzarelli : Guitar (1,3,5,8,12)
Dave Grusin : Piano (1,2,3,4,5,9,10,11), Celeste (8,10)
Larry Goldings : Merodica (2,11,12), Harmonium (11,12) Organ (4), Piano (8)
Jimmy Johnson : Electric Bass (2,4,11)
Dave Carpenter : Acoustic Bass (1,3,5,8,10,12)
Vinnie Colaiuta : Drums (1,2,3,4,5,8,11,12)
Louis Conte : Percussion (2,4,5,10)

Chris Botti : Trumpet (1)
Toots Theilemans : Harmonica (8)

David Lasley, Kate Markowitz, Arnold McCuller : Back Vocal (1,2,10)

Strings (Concert Master by Ralph Morrison) (1,2,3,5,8,9,10,11)
Woodwinds (1)

6.「River」のパーソナルについて
James Taylor : Vocal, Acoustic Guitar 
Larry Goldings : Piano
Dave Carpenter : Acoustic Bass

James Taylor and Charlie Paakkari : Producer

7. 「Have Yourself A Merry Christmas」のパーソナルについて
James Taylor : Vocal, Acoustic Guitar 
John Pizzarelli : Guitar
Larry Goldings : Piano
Jimmy Johnson : Electric Bass
Steve Gadd : Drums

Russ Titelman : Producer


1. Winter Wonderland [Felix Bernard, Dick Smith]
2. Go Tell It On The Mountain [Traditional, Arranged by Taylor & Grusin]  
3. Santa Claus Is Coming To Town [J. Fred Coots, Haven Gillespie]
4. Jingle Bells [Traditional, Arraged by Taylor]
5. Baby, It's Cold Outside [Frank Loesser]
6. River [Joni Mitchell]  B49
7. Have Yourself A Merry Christmas [Hugh Martin, Rlph Blane]
8. The Christmas Song (Chestnuts Roasting On The Open Fire) [Mel Torme, Robert Wells]
9. Some Children See Him [Wihla Hutson, Alfred Burt]
10. Who Comes This Night [David Grusin, Sally Stevens]
11. In The Bleak Midwinter [Traditional, Arranged by Taylor & Grusin]
12. Auld Lang Syne [Traditional, Lyrical Adaptation by Charles H. Witham, Arraged by Taylor]


2006年10月10日発売

注) 6.7.を除き、すべてA18と同一録音。
   6.はA18未収録。

   7.はA17と同一録音。

写真下:「River」(同一録音)が収録された「Tribute To Joni Mitchell」 2007

 

JTのクリスマスアルバムは上述のとおり、A18の発売後2年経ってメジャーのソニーから全世界発売された。その際ジャケットデザインや曲順のみならず、一部の曲ににつき入れ替えが行われた。ここではその内容を中心に説明する。

曲順が変更となり、どちらかというとポップ、ジャズ的な曲が前半を占め、後半に宗教的な曲が配置された。その結果とっつきやすくなった感じがする。ジャケットデザインもグリーティングカード的なものから、プレゼントを手に微笑むJTのポートレイトに差し替えられた。6.「River」はA18には収録されず、その代わりに当時新設されたJTのホームページから無料でダウンロードすることができた(A18のジャケットにその旨記載されていた)。この曲が収められていたジョニ・ミッチェルの「Blue」1971 C6 は、シンガー・アンド・ソングライター時代の傑作のひとつで、当時恋愛関係にあったJTが3曲ほどギターで参加していた。2000年4月6日に行われ、テレビ放送された「Joni Mitchell Tribute」では、JTはこの曲をジョニの元夫であるラリー・クレインが率いるバンドをバックに演奏していた(「その他断片 2000年代」参照)が、ここではラリー・ゴールディングのピアノとデイブ・カーペンターのウッドベースのみによるシンプルな演奏。ひんやりとした冬の手触りが見事に表現されたアレンジ、歌唱だと思う。ちなみに2007年に発売されたオムニバス・アルバム「Tribute To Joni Mitchell」に収められた同曲は、本アルバムのものと同一録音。

なおA17の「Have Yourself A Merry Christmas」が同一録音のまま本作に加えられた代わりに、A18に収録されていた「Deck The Halls」は本作ではカットされてしまった。そのため同曲はJTファンにとってレアな曲となった。ただし本作発売当時、アメリカの大手本屋チェーンのバーンズ・アンド・ノーブル(Barnes And Noble)から購入した場合のみ、本曲が13曲目にボーナス・トラックとして収録されていたそうだ。ただし今の時点で同社のインターネット・ショッピングでトラック・リストをチェックしたが、この曲の表示はなかったので、ボーナス・トラック含むバージョンは発売当初の限定盤のみだったと思われる。


 
James Taylor At Christmas (2012)   Universal Music
 
 
7.「Here Comes The Sun」のパーソナルについて
James Taylor : Vocal, Acoustic Guitar 
Yo-Yo Ma : Cello
David Lasley, Kate Markowitz, Arnold McCuller, Caroline Taylor, Andrea Zonn : Back Vocal

James Taylor : Arranger
Charles Floyd : Arranger (Cello)

Dave O'Donnell : Producer

10. 「Mon Beau Sapin」のパーソナルについて
James Taylor : Vocal, Acoustic Guitar 
Larry Goldings : Piano, Accordion, Glockenspiel
Jimmy Johnson : Electric Bass
Steve Gadd : Drums
Strings (Concert Master by Ralph Morrison)

Dave Grusin : Producer, Conductor
Dave Grusin, Larry Goldings : Arranger

1. Winter Wonderland [Felix Bernard, Dick Smith]
2. Go Tell It On The Mountain [Traditional, Arranged by Taylor & Grusin]  
3. Santa Claus Is Coming To Town [J. Fred Coots, Haven Gillespie]
4. Jingle Bells [Traditional, Arraged by Taylor]
5. Baby, It's Cold Outside [Frank Loesser]
6. River [Joni Mitchell]
7. Here Comes The Sun [George Harrison]
8. Have Yourself A Merry Christmas [Hugh Martin, Rlph Blane]

9. Some Children See Him [Wihla Hutson, Alfred Burt]
10. Mon Beau Sapin [Traditional]
11. The Christmas Song (Chestnuts Roasting On The Open Fire) [Mel Torme, Robert Wells]
12. Who Comes This Night [David Grusin, Sally Stevens]
13. In The Bleak Midwinter [Traditional, Arranged by Taylor & Grusin]
14. Auld Lang Syne [Traditional, Lyrical Adaptation by Charles H. Witham, Arraged by Taylor]


2012年10月30日発売

注) 7.10.を除き、すべてA19と同一録音
   7.はC89と同一録音

   10.はA19 未収録


2012年のクリスマス・シーズンを前に、「James Taylor At Christmas」がユニヴァーサルより再発された。ジャケット・デザインはほぼ同じ(曲名やクレジットの記載内容に違いの他、裏表紙のJTの挨拶「Season's Greetings, music fans」の末尾の名前が、2006版では活字であるのに対し、2012版はサインになっていることが異なる)であるが、2曲追加されて全14曲収録となった。

7.「Here Comes The Sun」は、ご存知ジョージハリソンの名曲で、ビートルズの「Abbey Road」1969 に収録された。 本アルバムに収められた録音は、ヨーヨー・マのホリデイ・アルバム「Songs Of Joy And Peace」2008 C89に収められたものと同じもの。詳細は C89の記事を参照ください。

10.「Mon Beau Sapin」は、今回初めて発表された録音で、プロデューサーにデイヴ・グルーシンの名前があるが、ドラムスがスティーブ・ガッドで、録音場所も違うので、A18のセッションとは別の録音と思われる。この曲は、英語では「O Christmas Tree」、日本語では「もみの木」で、日本人にもお馴染みの古いクリスマスキャロルだ。「美しきモミの木 常緑の森の王者よ 冬は裸の 木々と大地を見下して 堂々と立ち誇る 森の王者よ」といった内容のフランス語の歌詞を厳かに歌っている。JTがフランス語で歌うのは、アルバム「Flag」1979 A10 に収録された 「Chanson Francaise」、「Hourglass」1997 A16に収録された「Anana」(歌詞の一部)に次ぐもので、しっかりしたリエゾンで歌っている。以前フランスまたはフランス語圏のカナダの番組に出演した際、流暢なフランス語でインタビューに答えていたこともあり、JTはかなり喋れるようだ。

これ1曲のためにアルバムを買うのもよし、インターネットでこの曲のみを購入するのもよし...........。


 
A20  Covers (2008)   Hear Music 
 

James Taylor: Vocal, Guitar, Hamonica
Michael Landou : Electric Guitar
Larry Goldings : Piano, Electric Piano, Organ
Jimmy Johnson : Bass
Steve Gadd : Drums
Luis Conte : Percussion
Walt Fowler : Trumpet, Flugelhorn, Additional Keyboards
Lou Marini Jr. : Flute, Clarinet, Sax
Arnold McCuller, David Lasley, Kate Markowitz : Back Vocal
Andrea Zonn : Back Vocal, Fiddle

Yo-Yo Ma : Cello (7)
Caroline Taylor : Back Vocal (4,5,9)
Jeff Bebko : Piano(1,2), Organ (1,2)

Dave O'Doneell, James Taylor : Producer


1. It's Growing [William Robinson Jr., Warren Moore]  C30
2. (I'm A) Roadrunner [Edward Holland Jr., Lamont Dozier, Brian Holland]
3. Wichita Lineman [Jimmy Webb]
4. Why Baby Why [Darrell Edwards, George Jones]  E17
5. Some Days You Gotta Dance [Troy Johnson, Marshall Morgan]
6. Seminole Wind [John Anderson]
7. Suzanne [Leonard Cohen]
8. Hound Dog [Jerry Leiber, Mike Stoller]
9. Sadie [Joseph Jefferson, Charles Simmons, Bruce Hawes]
10. On Broadway [Jerry Leiber, Mike Stoller, Cynthia Weil, Barry Mann]
11. Summertime Blues [Eddie Cochran, Jerry Capehart] E1
12. Not Fade Away [Norman Petty, Buddy Holly] E8

Recorded and Mixes at The Barn, Washington MA
Cello recorded at Q Division, Somerville, MA

 

 シンガー・アンド・ソングライターの代表格といえるJTは、キャリア当初より多くのカバー曲を録音している。彼が放ったヒット曲のなかには、「How Sweet It Is (To Be Loved By You)」(マーヴィン・ゲイ)1975年 全米5位、「Handy Man」(ジミー・ジョーンズ) 1977年 4位、「Up On The Roof」(キャロル・キング)1979年 28位、「Everyday」(バディ・ホリー)1985年 61位というように、意外にも他人の作品が多く含まれている。それらはステージでの定番曲にもなり、彼はコンサートにおいて、その他数多くのカバー曲を歌っているのだ。そしてファンは、今度はどんな曲が取り上げられるかが楽しみで新アルバムの発表を待つ。そういう意味で、全曲カバーという本作は待望のアルバムであり、JTにとってもこの年齢、このバンドでもって満を持して製作・発表したものといえる。本作に収録された曲の多くは、彼が過去のコンサート・ツアーで演奏したものであり、それらの音源・映像について、私が知る限り解説したいと思う。また本アルバムもうひとつのハイライトは、「Band Of Legends」と呼ぶに相応しいバックバンドの顔ぶれであり、2008年1月マサチューセッツ州にある納屋を改造して作られたスタジオに10日間滞在して、オーバーダビングを最低限に抑えた生演奏により録音したという。それにより、Jバンドのメンバー間に存在する強い連帯感が見事に捉えられており、本作のようなカバー・アルバムを製作するには最適のセッティングだったといえる。

1.「It's Growing」は、テンプテイションズが初期の1965年に放ったヒットソング(全米18位)で、スモーキー・ロビンソンとザ・ミラクルズのメンバーだったウォレン・ムーアの共作。この二人は「Oh Baby Baby」、「Love Machine」他多くの名作を書いている。オーティス・レディングや白人女性ブルースシンガーのトレイシー・ネルソンがカバーしているが、スモーキー本人による公式録音はなく、1998年に発売されたライブDVDに始めて収録された。JTはかなり以前からこの曲を取り上げており、彼がプロデュースを担当した妹ケイトのソロアルバム「Kate Taylor」 1978年 C30が最初。1982年にセントラルパークで開かれた反戦コンサート「Rally For Disarmament」では、チャカ・カーンと一緒に歌っている。最近では2002年にラジオ局KCRW で放送されたスタジオライブがあり、そこでは彼のギターの他にラリー・ゴールディングのオルガンとバシリ・ジョンソンのパーカッションのみというユニークな小編成で歌っている。愛を育む様を歌った曲で、JTはブラスセクションとコーラスをバックに洗練されたムードで気持ち良さそうに歌う。彼は、選曲にあたり有名作品を避け、このような隠れた名曲を掘り出し、フィルターにかけてJT独自のR&Bに昇華させており、それらの作業が作曲と同等レベルでのクリエイティブなプロセスであることがよく分る。2.「(I'm A) Roadrunner」は、サックス奏者・シンガーのジュニア・ウォーカー(1931-1995)が放った1966年 全米20位のヒット曲。作者は、モータウン・レーベルでシュープリームスの一連の大ヒット曲(「Baby Love」1964年、「Stop!In The Name Of Love」 1965年、「You Can't Hurry Love」 1966年、「You Keep Me Hangin' On」1966年)を連発した人達で、1964年のマーヴィン・ゲイがオリジナルで、現在はJTのステージ常連曲となった「How Sweet It Is (To Be Loved By You)」も彼らの手によるものだ。この曲は1976年7月のピッツバーグでのライブ、同年9月のTV番組「Saturday Night Live」、1980年代末のTV番組「Night Music」で、デビッド・サンボーンのサックスをフィーチャーして演奏された。ハンブル・パイ、フリートウッド・マック、ピーター・フランプトン、ジェリー・ガルシア等のカバーがある。同じ場所に留まることができない男の気持ちを描いた歌で、疾走感溢れるアレンジではあるが、オリジナルよりもテンポを落とし、ニューオリンズ風の味付けがされている。またオリジナルのサックスの代わりに、ここではJTがハーモニカを吹いている。ただし歌のバックでも聞こえるので、後からオーバーダビングしたものと思われる。上記2曲にはいつものバンドの連中に加えて、ジェフ・ベプコがゲストでオルガンを弾いている。彼はロスアンジェルスを本拠地として活躍する若手ジャズ奏者で、ロベン・フォード、スティーブ・ルカサー、ラリー・カールトン、シェリル・クロウ等の作品に参加。テレビや映画の音楽を担当する他、自己のソロアルバムも数枚出している。JTとの付き合いは、ラリー・ゴールディングスの代役で「October Road」のコンサートツアーに加わったことが最初で、その後2011年のコンサートツアーでは彼が全面的にキーボードを担当している。3.「Wichita Lineman」は、グレン・キャンベル(1936-2017) 1968年の大ヒット曲(全米3位)。ジミー・ウェッブ(「Up, Up And Away」、「By The Time I Go To Phoenix」、「MacArthur Park」)の代表曲で、カントリー音楽最初の哲学的な歌と言われたように、歌詞の内容はシュールであるが、ウィチタの大平原の中、電柱に登って電線の修理をする男の孤独なイメージが見事に表現されている。他のアーティストでは、R.E.M. レイ・チャールズ、トム・ジョーンズ、ジョニー・キャッシュなどがあるが、本作におけるスティーブ・ガッドのブラシワーク、アンドレア・ゾーンのバイオリン、ラリー・ゴールディングのピアノ、マイケル・ランドウのエレキギター、ジミー・ジョンソンのベース、そしてJTのアコギのアンサンブルは本当に素晴らしく、将来にわたり、この曲のアレンジの決定版となるだろう。私が知る限り、この曲については、本アルバム製作前の音源はない。

4.「Why Baby Why」のカバーは、JTの音楽ルーツのひとつであるカントリー音楽界のトップシンガーの一人、ジョージ・ジョーンズ (1931-2013)1955年の作品。以前1978年にジョ-ジは、JTの「Bartender Blues」(JT本人のバージョンは「JT」1977 A9に収録)を歌い、そこにはJTがゲスト参加してハーモニー・ボーカルを担当している(C28参照)。またJTはコンサートでジョージの代表曲「She Thinks I Still Care」を歌っており、それは「(Live)」1993 A15に収められ、その音楽に対する思い入れを物語っている。本曲は、2003年8月のアイオワ・ステート・フェアのものがあり、カントリー音楽の人気が高い地域のコンサートで演奏すると受けが良いそうだ。ここではアンドレアのバイオリンとコーラス隊が大活躍する。5.「Some Days You Gotta Dance」は、ディキシー・チックス1999年のアルバム「Fly」に収められていた曲で、2002年にシングル盤が発売され全米55位を記録した。作者のトロイ・ジョンソンは、ゴスペル、R&B界で活躍するシンガー・アンド・ソングライター。ディキシー・チックスがカントリー音楽の枠を超越して取り組んだ意欲作で、歌詞の内容も人生について歌ったシニカルなものだ。JTは2002年に「Crossroad」という番組で彼女等と共演しており、そこでこの曲を一緒に歌っていた。その後ディキシー・チックスは、ジョージ・ブッシュ批判により非愛国者の烙印を押され、カントリー音楽界から締め出しをくらったが、JTは彼女達を支持し続け、2004年の大統領選挙のキャンペーンでは、オバマ支援のために企画された「Vote For Change」というコンサート・シリーズで再共演し、そこでもこの曲を一緒に歌っていた。本作でこの曲を取り上げたのは、それらに対する熱い思いからだろう。ちなみにカントリー界の名ギタリスト・シンガーで、MusicaresによるJTのトリビュート・セレモニー 2006年 E13で「Country Road」を歌っていたキース・アーバンもこの曲を録音しており、本作におけるマイケル・ランドウのギターと聴き比べると、両者が競り合っているようで面白い。6.「Seminole Wind」の作者ジョン・アンダーソン(1954- )は、プログレッシブ・ロック・グループのイエスのリードボーカリストとは同姓同名のカントリー・シンガー。フロリダ州出身で1970年代にナッシュビルに移り、1978年にレコードデビュー。カントリー音楽界に新しい波をもたらした。1980年代に人気が下降したが、1992年本曲をタイトルとするアルバムでカムバックし、シングル盤もカントリー・チャート第2位のヒットとなった。「セミニョール」は、フロリダ州に住んでいたネイティブ・アマリカンのことで、白人との戦いに敗れてオクラホマに強制移住させられるが、一部はフロリダに残り、カジノやリゾート開発で成功した人もいるそうだ。オキーチョビー、ミキャノピーはインディアンが名づけたフロリダ州にある郡の名前。文明の進化のために失われたものへの思いが込められた歌で、JTは重厚に歌い上げる。ここでもアンドレアが哀愁のこもったバイオリン・プレイを聴かせてくれる。この曲については、私の知る限り、本アルバム以前の音源はない。

7.「Suzanne」は、カナダ出身のシンガー・アンド・ソング・ライター、レナード・コーエン(1934-2016) 1967年の名曲。スザンヌという女性は実在しているが歌の内容はフィクションという。深みのある歌詞が淡々としたメロディーに乗せて歌われる。当初はジュディ・コリンズの歌で有名となり、ニール・ダイヤモンド、ニーナ・シモン、フェアポート・コンベンション等がカバーしており、私はロバータ・フラックのバージョンが大好きだ。ここではピアノとベースは控えめで、JTのギターにヨー・ヨー・マのチェロが音を付けている。チェロの録音は後日、別の場所で行われたそうだ。本曲はJTによると、本アルバム中唯一弾き語りで演奏できる曲とのことで、プロモーションのために出演したTV番組でも盛んに演奏していた。歌詞を理解し、ボーカルとギター、そしてチェロの低音に浸って聴くと、しっかり心に滲み込んでくる。この曲も本アルバム以前は、JTによる音源はないと思われる。8.「Hound Dog」は、ご存知エルヴィス・プレスリー1956年の大ヒット曲であるが、実は1952年にビッグママ・ソーントンという女性ブルース歌手の録音が最初。 「Kansas City」と並ぶジェリー・レイバー、マイク・ストーラーの初期の代表曲で、彼等はその後も「Searchin'」、「Jailhouse Rock」、「Stand By Me」、「Love Potion No.9」などの名曲を生み出す。ビッグママ・ソーントン(1926-1984)は、ヒット曲をエルヴィスにさらわれてしまい、この曲で財を成すことはなかったが、当時は白人シンガーが黒人が録音したオリジナルをカバーして、成功するケースはざらにあったのだ。本作でJTは、ビッグママのオリジナルに近いアレンジで余裕たっぷりに歌っている。過去の音源では1970年2月のマサーチューセッツがあるが、そこではJTはギター一本で冗談気味に歌っている。最近では2002年8月に朝のロックフェラー・センターで演奏した「Today's Show」のバージョンがある。エレキギター、オルガン・ソロがかっこよく、JTのアコギもイカシている。9. 「Sadie」はデトロイト出身のボーカルグループ、スピナーズの曲で、1975年全米54位を記録している。亡き母(祖母)の愛を切々と歌い上げるもので、大ヒットはしなかったけど、年を重ねて多くの人々の心を掴み、今では名曲とされている。JTによる本アルバム以前の音源はないが、彼によるとリハーサルでコーラス隊のサウンドチェックをする際によく演奏していたそうだ。JTはイントロの語りを含め、比較的原曲に忠実に歌っており、エンディングではアーノルドが単独で歌う場面もある。ちなみに4, 5, 9の3曲におけるコーラス隊には、JTの奥さんのキャロラインが加わっている。

10.「On Broadway」は、キャロル・キング、ジェリー・ゴフィンと同じ、ニューヨークのアルドン・ミュージックに所属していたバリー・マン、シンシア・ウェイル夫妻による曲で、クッキーズの歌によるデモ(この音源は1991年に発売された「Dimension Doll」というCDで聴くことができる)を聴いたジェリー・レイバー、マイク・ストーラーを加えた4人で、一晩かけて改良を加えてザ・ドリフターズのバージョン (1963年 全米9位)に仕上げ、その結果クレジットは4人による共作となったという。ブロードウェイでスターになることを夢見る若いミュージシャンのことを歌った歌で、多くの人がカバーしたが、1978年のジョージ・ベンソンによるバージョンは、ファンキーなアレンジとスキャットとギターソロを一人でユニゾン演奏するという超絶技巧が話題を呼び、全米8位のヒットとなった。JTの音源は1972年7月のカリフォルニア州オークランドで録音されたものがある。ここではオリジナルよりもテンポを落として、じっくりと演奏している。11.「Summertime Blues」は、エディ・コクラン(1938-1960)がマネージャーと共作した曲で、シングルのB面で発売されたが、1958年 全米8位の大ヒットとなった。最も有名なカバーはザ・フーのライブアルバム「Live At Leeds」1970年 からのカットで全米28位、他にビーチボーイズ、ブライアン・セッツァーが録音している。JTの演奏では、1979年7月のオハイオ州のライブの映像 E1、2005春の「Sessions @aol」のスタジオライブ、同年6月の「Today's Show」、8月のワシントン州でのライブがある。ルイス・コンティのパーカッションをフィーチャーしたモダンなアレンジで、アメリカ労働者階級の若者の悲哀をユーモラスに歌う。曲はメドレーで12.「Not Fade Away」に移ってゆく。これはバディ・ホリー(1936-1959)が1957年にクリケッツと録音したもので、ボ・ディドレイが得意とする「Hambone」という特徴あるリズムで演奏される。この曲は、後の1964年にザ・ローリング・ストーンズが録音して彼等最初のヒット曲となった。他にグレイトフル・デッド、トム・ペティ、タニア・タッカーなど多くのカバーがある。JTはコンサートのフィナーレでこの曲を演奏することが多く、1994年のマサチューセッツでの音源を初めとして、多くの音源・映像があり、1998年のビーコン・シアターの映像は公式発表(E8) されている。マイケルのギター、スティーブのドラムスのプレイが物凄い。11,12ではエレキギターの音が左右のチャンネルから聞こえるので、JTがエレキを弾いているのかな〜と思ったが、よく聴くと中央から僅かながらアコギが鳴る音が聞えるのだ。ということは、マイケルによるエレキギターのオーバーダビングがなされているものと思われる。

JTのソロアルバムというよりは、気心が知れた仲間と一緒に好きな曲を演奏して作り上げたという感じで、豊饒な雰囲気に満ちた作品。本作品は期待に違わず大評判となったが、録音されながらアルバムに収められなかった曲を巡り、その後ひと悶着起きることになる。それについては次作で述べることにする。

[2011年5月作成]

A21  Other Covers (2009)   Hear Music
 



James Taylor: Vocal, Guitar, Harmonica
Michael Landou : Electric Guitar
Larry Goldings : Piano, Electric Piano, Organ, Accordion
Jimmy Johnson : Bass
Steve Gadd : Drums
Luis Conte : Percussion
Walt Fowler : Trumpet, Flugelhorn, Additional Keyboards
Lou Marini Jr. : Flute, Clarinet, Sax
Arnold McCuller, David Lasley, Kate Markowitz : Back Vocal
Andrea Zonn : Back Vocal, Fiddle

Dave O'Doneell, James Taylor : Producer

13. Oh, What A Beautiful Morning [Richard Rodgers, Oscar Hammerstein II]
14. Get A Job [Richard Lewis, Earl Beal, Raymond Edwards, William Horton]
15. Memphis [Chuck Berry]
16. Shiver Me Timbers [Tom Waits]
17. Wasn't That A Mighty Storm [Tradtional, Arranged By James Taylor]
18. In The Midnight Hour [Wilson Pickett, Steve Cropper]
19. Knock On Wood [Eddie Floyd, Steve Cropper] E10

Recorded and Mixes at The Barn, Washington MA

注: 写真下 → オランダで発売されたボーナストラック入り「Covers」
   曲目番号は「Covers」 A20との区別を明確にするため、13番から始めています。

 

2008年9月30日に発売された「Covers」は、アルバムチャート全米4位、同年のグラミー賞で「Best Pop Vocal Album」と「Best Male Pop Vocal」(Wichita Lineman)の2部門でノミネートされるというヒット作になった。熱心なJTファンは、2008年1月の10日間で録音された曲の多くがアルバムに収録されずにアウトテイクになったこと知っていた。そのなかで、QVCというアメリカの通販業者が、アルバムに収録されなかった4曲 14, 18, 19, 13 (曲順)と舞台裏の映像を納めたボーナスCDとの2枚組の特典セットを販売することをホームページで発表し、大いに話題となった。かくいう私のその噂を聞き、いろいろ調べたが、通信販売の制限のためにアメリカ国外からの購入が困難であることがわかり、がっかりしたものだった。このような一部の人のみに特典を与える販売方針に対し、ファンや関係者から批判が起こり、JTはインタビュー等で「残りのトラックについても、皆が入手できるようレコード会社と検討している」と表明。本作が7曲収録のミニアルバムとして、半年後の2009年4月に発売されることで、騒ぎは一件落着した。

13.「Oh, What A Beautiful Morning」は、1943年のブロードウェイ・ミュージカル「Oklahoma !」で歌われた曲で、両親がかけるレコードでミュージカルを聴いていたというJTの音楽的ルーツを物語る選曲だ。このカウボーイと農夫の娘のラブストーリーは、1955年に映画化され、そこでは冒頭で馬上のカウボーイ(ゴードン・マクレー)が歌っていた。リチャード・ロジャースとオスカー・ハマースタイン 2世による最初のミュージカルで、二人はその後「南太平洋」、「王様と私」、「サウンド・オブ・ミュージック」などの傑作を生み出す。JTは1993年10月にCBS放送のテレビ番組「This Morning」に出演した際に、番組のテーマソングだったこの曲の一部を歌っている。その後は、2006年のアイオワ・ステート・フェアでの演奏がある。イントロはJTの弾き語りで、途中からバンドとコーラス隊が加わる。JTの持ち歌としては異色の存在。14. 「Get A Job」は、1950年代最も有名なドゥワップ・コーラスグループといわれるフィラデルフィア出身のザ・シルエッツ(The Shilhouettes) 1957年のヒット曲(全米1位)で、メンバーによる作詞・作曲。1970年代に活躍したオールディーズ・リバイバルのグループ、シャ・ナ・ナの名前は、この曲のコーラスから取ったもの。JTの音源は、1977年7月のハリウッド、1982年8月のオハイオがあり、前者はデビッド・ラズリーとフィリッピ・バルー、後者はアーノルド・マックラーとローズマリー・バトラーと一緒に歌っていた。ここでもコーラス隊が大活躍し、間奏ではルウ・マリニのサックスソロが入る。エンディングではJTとコーラス隊による職探しについてのユーモラスな語りとなり、ラストでJTはリー・ドーシー1966年のR&Bヒット曲(全米8位)「Working In The Coal Mine」の一節を口ずさんでいる。15. 「Memphis」はチャック・ベリー1963年の曲で、英国チャートで6位、米国ではジョニー・リバースのカバーで1964年全米2位を記録した。主人公が長距離電話の交換手に語りかけ、話が進むにつれ意外な展開になってゆく歌詞の内容にひねりがある。JTのカバーは1993年11月のテレビ番組「サタデイナイト・ライブ」の他、同年9月のカリフォルニア、1994年8月のマサチューセッツでのライブ音源がある。

16.「Shiver Me Timbers」は、トム・ウェイツの曲で、題名は海賊言葉で「なんてこった!」、「くそっ!」という驚愕の意味だそうだ。もともとは「shiver」が「粉みじん(ばらばら)に砕く(砕ける)」、「timber」が「 (木が倒れるから)気をつけろっ!」という意味の単語で、そこから「岩礁や浅瀬に乗り上げて船の肋材を軋らせている」という意味から発生したものと思われ、ロバート・スティーブンスの1883年の冒険小説「宝島」で初めて使われたそうだ。歌詞の中にはマーチン・エデン(ジャック・ロンドン 1909年作の小説家の成功と挫折を描いた作品)やエイハブ船長(メルヴィル 1981年の作品「白鯨」に出てくる狂気の船長)が出てきて、ひとつ所に留まることができない放浪への渇望を描くもので、聴く者の心の奥底を揺さぶる名作だ。トム・ウェイツは2枚目のアルバム「The Heart Of Saturday Night」で発表、ベット・ミドラーのカバーがある。JTが本作以前にこの曲を取り上げた記録はないが、このような重く深みのある曲は、彼やベットぐらいしか歌えないな〜と思う。素晴らしい曲だ。17. 「Wasn't That A Mighty Storm」は、1900年にテキサス州ガルベストンで多くの死者を出したハリケーンの事を歌った曲で、1930年代にジョン・ロマックスが現地の囚人から採取、その後フォーク歌手のエリック・フォン・シュミット、トム・ラッシュが歌って有名になったもの。後者はJT初期のアイドルだった人で、彼のバージョンは1966年のアルバム「Take A Little Walk With Me」に「Galveston Flood」というタイトルで収録されている。 JTによる演奏は、1995年から2001年までの間のコンサート音源が多く残されており、1998年5月のビーコン・シアターの映像は公式発売 E8されている。メドレーで演奏される 18.「In The Midnight Hour」、19.「Knock On Wood」は、ブルースの本場テネシー州メンフィスで、ブッカー・T ジョーンズ(キーボード)、ドナルド・「ダック」・ダン(ベース)等と組んだチームにより、メンフィスサウンドの一時代を築いたギタリストのスティーブ・クロッパー(1941- )の作品。18.「In The Midnight Hour」(全米21位)を歌うウィルソン・ピケット(1941-2006) はアラバマ州生まれで、「Land Of 1000 Dances」(日本では「ダンス天国」のタイトルでウォーカー・ブラザースの歌でヒットした)、「Mustang Sally」などが代表曲。マーサ・リーブス・アンド・ヴァンデラス、ザ・ドアーズ、グレイトフル・デッド、ザ・ラスカルズなどが歌っており、JTは、2003年にツアーでこの曲を演奏しており、本作ではブラスセクションが強力だ。19.「Knock On Wood」(全米28位)のエディ・フロイド(1935- )は、アラバマ州生れ、ミシガン州育ちのR&B歌手。多くのR&B歌手に加えて、エラ・フィッツジェラルド等のジャズ歌手やデビッド・ボウイ等のロック歌手も取り上げ、JTの演奏は1984年から2001年まで多くの映像・音源がある。そのうち2002年11月の映像は「Pull Over」というタイトル E10で公式発売されている。

なお、本作にはセッションで録音されたと噂された「Sea Cruise」(フランキー・フォード1959年のヒット曲(全米14位)で、最近発売されたDVD (Live In Germany E4)に収録されている)は収録されなかったが、噂の真偽については不明。また、本作発売と同時期の6月、イギリスで 「Cover」に13,16,19をボーナストラックとして追加したデラックス版、オランダでは13,15,16,17,18,19を加えて(14だけ未収録)、ジャケットデザインも異なる特別盤が発売された。日本ではJTとキャロル・キングの来日記念盤として、「Covers」と「Other Covers」の2枚のCDからなる「完全盤」(ジャケット表紙デザインは「Covers」と同じ)が2010年4月に発売された。

[2011年5月作成]