I Just Fall In Love Again [Anne Murray] 1979 (米12位 英58位
[Dorff, Sklerov, Lloyd, Herbstritt]

女性シンガーで好きな人はたくさんいますが、誰か一人というと真っ先に思い浮かぶのが、この人なのです。カナダのノヴァ・スコシア生まれのアン・マレー(1945〜)は、最初は学校の先生をしていたが、1970年に出したレコード「Snowbird」が全米 8位の大ヒットとなり、スターとなった。その後1973年のケニー・ロギンス作「Danny's Song」(7位)を経て、1978年に「You Needed Me」で全米トップを射止め、1980年代以降は主にカントリー音楽界で活躍した。セクシーというよりは、ボーイッシュな感じの人で、低いアルト・ヴォイスが魅力的。

「I Just Fall In Love Again」は、恋に落ちた女心を切々と歌った作品。このようにロマンチックなスロー・ナンバーを歌うと最高。年甲斐もなく胸の高鳴りを覚えてしまう。本当にエレガントで心休まる歌声だ。この曲は1977年にカーペンターズが取り上げ、アルバム「Passage」に収録されたが、シングルカットされなかった。アン・マレーのヴァージョンのほうが遥かに良い出来。天下無敵のカレン・カーペンターに勝った人って、そんなにいないよな〜。


[アン・マレー  その他のお勧め曲]
1.「Broken Hearted Me」 同じ年に全米12位のヒットを記録、この曲では恋に破れた女性の悲しみを歌い、その歌声はジ〜ンと心に染み入ってくる。その他にもいい曲沢山あるよ!


If You Want It [Niteflyte] 1979 (米37位 英なし)
[Sandy Trano & Howard Johnson]
 

20年間ずっと探していた曲がやっと見つかりました!1980年2月17日FM東京「サウンド・アプローチ」で山下達郎のスタジオライブの放送があり、彼の好きな曲のカバーを演奏していた。この曲はゲストの吉田美奈子とのデュエットで抜群の出来だったが、曲名・オリジナルアーティストの紹介部分を録音しもれてしまい、私にとって幻の名曲だったのです。武蔵小山CD店のマスターに詳しい人がいて、歌のリフを歌ってみせたら、「この曲でしょう!」と教えてくれたのです。ナイトフライトは、サンディ・トレノとハワード・ジョンソンからなるフリーソウルのグループで、デビューアルバム「Niteflyte I](1979)に収録され、シングルヒット(全米37位)した曲です。

「君が望むならば、君の愛で手に入れることができるよ」というポジティブな歌詞が、一度聴いたら忘れないとても印象的なメロディーにのせて歌われます。リズムギター1本によるイントロが本当にカッコイイ! コードカッティングによるギター・イントロの傑作。達郎も自作曲「Sparkle」で、このイントロのアイデアを参考にしたようだ。バックの演奏および二人のボーカルの掛け合いは、一体感・昂揚感に溢れ、何度聴いても暖かく励まされるようでウキウキしてくる。リズムとサウンドだけで中身のない凡百のディスコソングとは全く異なる世界だ。今回の発見で、この曲の素晴らしさをオリジナルで再認識しましたが、それにしても当時まだブレイク前だった山下達郎と吉田美奈子のパフォーマンスの素晴らしさも特筆もので、アメリカの音楽シーンと同時進行で、彼らがいかに凄いことをやっていたかを改めて実感しました。

[2023年3月追記]
CD店は西小山でなく、武蔵小山でした。「Pet Sounds Record」というお店で、名前の通りビーチボーイズそして達郎さんにつき、とても詳しい事で有名な店だそうです。I様ご指摘ありがとうございました。


Last Train To London [Electric Light Orchestra] 1979 (米39位 英8位)
[Jeff Lynne]

ジェフ・リン率いるエレクトリック・ライト・オーケストラは、メンバーにストリングスを加えて、ポップにクラシックを融合させた音作りを目指し、1970年代から80年代初めにかけて大変人気があった。全米10位以内のヒット曲が7曲あったが、どちらかといえばシングルよりもアルバムが売れたアーティストだった。その中で歳月を経て名曲として生き残った曲が「Last Train To London」のように、ヒットとしては比較的地味な曲なのが面白い。シンセサイザーによるリフとバックに流れるストリングスが印象的で、前半は何も変哲のないメロディーだけど、コーラスの部分になると俄然生き生きとしてくる。そしてその最後の部分のメロディーおよび歌詞はストレートで美しく、大いに盛り上がる。その印象が頭にこびりついて離れず、街を歩いているときでもふと気が付くと頭の中で鳴っていることがあるほどだ。この曲のコーラスのラスト部分は、後の2003年にイギリスの人気女性3人組コーラスグループ、アトミック・キトンによる「Be With You 」にサンプリングされ、新たにヒット曲として蘇った。そこではこの曲の最初の部分は完全に書き換えられ、スペイシーで現代的なダンス・ミュージックになっており、リバイバルを仕掛けたスタッフのセンスが光っている。

バンドリーダーのジェフ・リンは1980年代はプロデューサーとして手腕を発揮、ジョージ・ハリソンやロイ・オービソンの作品を手がけ、1988、1990年には前述の二人にボブ・ディランとトム・ペティーを加えたトラベリング・ウィルベリーズの2枚のアルバムに参加。1999年にはビートルズの「アンソロジー」プロジェクトで、ジョン・レノン生前のデモテープをベースに他の3人の演奏とボーカルをオーバーダビングした「Free As A Bird」と「Real Love」のプロデュースを担当する。この人の音作りには、特にシンセサイザーとリズム・セクションに独特の個性があり、そのポップな響きが心地よい。


Birdland [The Manhattan Transfer] 1979
 

[Joe Zawinul, Jon Hendricks]

2014年10月18日、マンハッタン・トランスファーのティム・ハウザー氏が亡くなりました(享年72歳)。彼の冥福を祈りながら「Birdland」の記事を書こうと思います。

「Birdland」はウェザー・リポートのジョー・ザヴィヌル作で、1977年の「Heavey Weather」に収録され大評判となった曲だ。バードランドは、チャーリー・パーカーにちなんで命名され、多くの著名アーティストが出演した伝説的なジャズクラブで、作者が若い頃にその場で感じた高揚感が込められた名曲となった。またアルバム「Heavey Weather」は、当時は新進ベーシストだったジャコ・パストリアスが大きくフィーチャーされ、本曲や彼の作品「Teen Town」等でのプレイは、ベースという楽器のあり方・イメージを革新するものとなった。また、グループの音楽性も初期の難解なスタイルから、芸術性と商業性を兼ね備えたものに変貌を遂げ、フュージョン音楽の筆頭的存在となった。そして本曲は時代を象徴する存在となり、エバーグリーンの地位を獲得した。

マンハッタン・トランスファーは、最初はオールディーズやR&B、スタンダード・ジャズをレパートリーとするコーラス・グループと思っていたが、1979年のアルバム「Extentions」を聴いて、その先鋭的でモダンなスタイルにビックリした事を覚えている。プロデューサーのジェイ・グレイドンは、1977年スティーリー・ダンの名曲「Peg」の必殺ギターソロが大評判となり、1979年アース・ウィンド・アンド・ファイアーに提供した「After The Love Has Gone」でグラミー賞を受賞。1980年にデビッド・フォスターと組んで「Airplay」というアルバムを発表すなど、当時脂が乗り切った感じで、素晴らしいアルバムに仕上げている。「Birdland」はその筆頭にくる曲で、ランバート・ヘンドリックス・アンド・ロスというジャズコーラス・グループのメンバーで、ティム・ハウザーの友人だったジョン・ヘンドリックス(1921〜2017)が詩を付けている。ウェザー・レポートのオリジナルでは、アレックス・アクーニャ、ジャコ・パストリアスといったリズム・セクションが、ここではジェフ・ポカーロ、デビッド・ハンゲイトというTotoのリズムセクションと、マイケル・オマーティアン(キーボード)、マイケル・ボディカー(シンセサイザー)という超一流のセッション・ミュージシャンでカバーされている。オリジナルに忠実な音づくりであるが、単なる真似に留まらない独自のグルーヴ感があると思う。ジャニス・シーゲルによるボーカル・アレンジは素晴らしくクリエイティブで、グラミー賞「Best Vocal Arragement for Two or More Vocals」を獲得した。メンバーによるボーカルの切れ味が見事で、ザヴィヌル、ウェイン・ショーターのソロもボーカルで正確に再現されている。同曲は、前述の他に、「Best Jazz Fusion Performance」というグラミー賞も受賞した。

マンハッタン・トランファーによるカバーの成功は、ウェザー・レポートの人気上昇にも貢献したと思われるが、1982年6月に開催されたプレイボーイ・ジャズ・フェスティバルで、両者の共演が実現した。グループによる「Birdland」のいつもの演奏が終わった後、予告なしにマンハッタン・トランスファーのメンバーが登場し、大喜びする観客を前にボーカル入りのバージョンを再演したのだ。ここでのリズムセクションは、ベースがヴィクター・ベイリー、ドラムスがオマー・ハキム。その模様は、同年エレクトラ・レーベルから発売された2枚組のオムニバスLP「In Performance At The Playboy Jazz Festival」に収められ、素晴らしいパフォーマンスを聴くことができる。本LPは、その後CD化されていないので、聴きたい人は中古市場で出回っているレコードを購入することになる。ちなみに、この模様の動画が出回っており、画質・音質はイマイチであるが、十分に楽しむことができる。

マンハッタン・トランスファー一世一代の名演であり、フュージョン音楽のボーカリーズ版として歴史的な曲だ。