Summer Breeze [Seals And Crofts] 1972 (米6位 英なし)
[Jim Seals, Dash Crofts]


今日(2006年11月23日)の朝日新聞朝刊で、バハイ経がエジプトで迫害されている記事を読んだ。この宗教は19世紀半ば、イスラム経から派生したもので、人類の平和、男女平等と一夫一婦制、科学と宗教の調和をモットーとしている。20世紀初頭における欧米への積極的な布教活動により、現在全世界で500万人以上の信者がいるというが、他宗教ではキリスト経とユダヤ経しか認めないイスラム世界では異端視され、職場を退職させられたり、身分証明書への宗教欄への記入を拒否されたり(これは現地で普通の生活を行う上で大きな意味があるという)、大きな問題となっているとのことだ。これを読みながらシールズ・アンド・クロフツの事を思い出した。

彼等がバハイ経に帰依したのは1969年からで、彼等の音楽にはその世界観が如実に表現されている。曲によっては多少抹香くさいものもあるが、彼等一番のヒット曲であるこの曲は、その傾向が薄く、広く一般の人々に親しまれる内容になっている。二人は「テキーラ」(1958年)のヒット曲を飛ばしたグループ、Champsのメンバーだった。実際に彼等が加入したのは、この曲の録音後だったらしいが、担当楽器はシールズがサックス、クロフツがドラムというから驚きだ。グループを離れた後、長髪に髭のスタイルでフォークのデュオとして再デビューをはかり、この曲「Summer Breeze」をヒットさせて70年代最も人気のあったフォークデュオという地位を得る。ちなみにいつも帽子をかぶっているのがシールズで、マンドリンを持っているのがクロフツだ。彼らの曲の中でも飛びぬけて洗練された出来ばえで、勝負曲として大変な労力をかけて作りこまれたものと思われる。途中の転調が鮮やかなメロディーや印象的な歌詞のみならず、イントロのメロディーで子供用ピアノを使用するなど、アレンジも凝っている。そして独特なハーモニーを聴かせる二人の歌が素晴らしく、一度聴くと忘れられない印象が残る。当時から数え切れないほど、繰り返し聴いてきたが、全然飽きることなく当時の新鮮さを保っている。

1980年までアルバムを発表していたが、その後は宗教活動の比重が高くなり引退状態となるが、最近2004年に二人は再会して過去の作品の再録音によるアルバムを製作したそうだ。その後本格的な再結成はなかったものの、二人とも音楽活動は続けているようだ。ちなみにジム・シールズの兄弟のダン・シールズは、England Dan & John Ford Coleyの名義で 「I'd Really Love to See You Tonight」(全米2位)のヒットがある。

[2006年11月作成]

Travelling Boy [Art Garfunkel] 1973
[Paul Williams, Roger Nichols]


サイモン・アンド・ガーファンクルは、1970年の名盤「Bridge Over Troubled Water (明日に架ける橋)」の後は解散状態(正式な発表はなかった)となり、ポールは1972年「Paul Simon」、1973年「There Goes Rhymin' Simon」などのソロアルバムで独自の世界を創り上げ順調だったのに対し、アートは映画出演などで音楽的には地味だった。そんな中1973年秋に発表された初ソロアルバム「Angel Clare」は、ファンにとって待望の作品だった。レコード屋さんから持ち帰ってすぐに聞いた際、冒頭に収められたこの曲(邦題 「青春の旅路」)を聴いた時の感動は、50年近く経った今も鮮やかに覚えている。

作者のポール・ウィリアムスとロジャー・ニコルスは、カーペンターズの「We've Only Just Begun (愛のプレリュード)」(1970年 全米2位)、「Rainy Days And Mondays (雨の日と月曜日は)」(1971年 全米2位)、「I Won't Last A Day Without You (愛は夢の中に)」(1973年 全米11位)で一世を風靡していた時期で、本曲はポールの2枚目のアルバム「Life Goes On」1972 が初出。清らかな声で切々と歌い上げるアートのスタイルにピッタリの曲で、プロデューサーのロイ・ハリー、ピアノのラリー・ネクテル、ドラムスのハル・ブレイン(またはジム・ゴードン)、ベースのジョー・オズボーンといった「Bridge Over Troubled Water」のスタッフが主となっているため、S&Gの延長線上にある直球勝負的な音作りで聴き手にグイグイ迫ってくる(ポールのソロアルバムのひねりが効いたサウンドも良かったけどね)。オブリガードとエンディングで聞かれるラリー・カールトンのギターも素晴らしい。

本曲はシングルカットされたが、全米102位どまりでチャートインは逃した。しかし日本では、田中星児氏が日本語でカバーするなど、評判が良かったようだ。なおアルバムの演奏時間が約5分であるのに対し、シングルではイントロのピアノの独奏とエンディングのインスト部分がカットされて約3分40秒に編集され、アートのボーカルをより前面に出し、バックのストリングスのミキシングも変えたバージョンとなっている。

本曲は、その後もエンゲルベルト・フンパーディンクなど様々な人たちがカバーしているが、特筆すべきものとして2013年の女性歌手Rumerのバージョンをあげたい。彼女はパキスタン生まれでイギリスで活躍するシンガー・アンド・ソングライターで、カレン・カーペンターを思わせる艶やかで豊かな声が大変魅力的な人だ。またポール・ウィリアムス本人による前述のバージョンも、青春の痛みを陰影ある歌声で表現しており、アートのストレートな清らかさとは対照的な雰囲気。こちらも是非聴いて欲しい。