La La Means I Love You (Delfonics) 1968 (米4位 英19位)
[Thomas Randolph Bell, William Hart]


デルフォニックスは、ウィリアムとウィルバートの兄弟を中心とするフィラデルフィア出身のヴォーカル・トリオ(結成当初は4人)で、そのスウィートでメロディアスな音作りは、フィラデルフィア・ソウルの先駆者となった。「La La Means I Love You」は彼ら最初の大ヒット曲で、メンバーのウィリアムとプロデューサーのトム・ベルの共作。ロマンチックなメロディーと洗練された雰囲気で、当時の原曲が持つ素朴な味わいと美しさに満ちている。彼らのレコードは、トニー・オーランドとドーンや、フィフス・ディメンション、オリジナル・キャストなどの作品を発表したベル・レコード(日本ではCBSソニー配給)から発売された。グループは10数曲のヒット曲(全米100位以内)を出し、1970年代前半に解散した。

その後は多くのアーティストがこの曲をカバーしたが、私が大好きなのは故ローラ・ニーロのバージョンだ。彼女は1997年卵巣がんで他界するが、その前1994年にスタジオ録音された遺作で、死後の2001年に発表された「Angel In The Dark」というアルバムに収録されていた。祈りにも似た無垢で清澄なソウルに溢れた美しい音楽だ。ここではバンドの伴奏で彼女が一人で歌っているが、1994年に発表されたマンハッタン・トランスファーのゲスト特集アルバム「Tonin'」のバージョンでは、マントラのメンバーと一緒に歌っており、ここでのボーカルは情感に満ち溢れ、本当に素晴らしい出来だ。曲のよさが最大限に生かされたアレンジも最高。

また、この曲は日本のアーティストの人気が高く、山下達郎は1989年のライブアルバム「Joy」でカバーしている。また西岡恭蔵の奥さんであり素晴らしい作詞家だったKuro(1997年病没)へのトリビュート盤「Kuroちゃんをうたう」(1998年 もちろん西岡恭蔵プロデュース)は、縁のあった多くのアーティストが参加していた。その中で桑名晴子による「シャララ I Love You」が、この曲にKuroがつけた訳詩を歌ったもので、ボーカル、演奏ともに滴るような情感が胸に迫る逸品だ。これだから、カバー・バージョンの発掘ってやめられないよね〜!


Quando, Quando, Quando (Engelbert Humperdinck) 1968 (英40位 1999年)
[Tony Renis, Alberto Testa, English Lyrics by Ervin Drake]

「Quando」は、イタリア語で「When」の意味で、愛する人からの良い返事を待ちわびる男の歌だ。1962年に作者のトニー・レニスが歌ってサンレモ音楽祭で4位となりヒットした。アメリカでは同年パット・ブーンが歌詞の一部を英語にして歌い、全米92位を記録、コニー・フランシスがイタリア語で歌ったバージョンが「Connie Francis Sings Modern Italian Hits」1963に収録された。その後ザ・ドリフターズが英語歌詞で1965年にカバーしている。

この曲の決定版は、文句なしにエンゲルト・フンパーディンクのカバーだろう。1968年のアルバム「A Man Without Love」に収録され、当時シングルカットされなかったが、ずっと後の1999年にイギリスでヒットを記録している。1936年インド生まれのイギリス人であるエンゲルベルトは、本名をアーノルド・ジョージ・ドーシーといい、イギリスでの下積み中にドイツの作曲家の名前を拝借して芸名にしたという。1967年「Release Me」、「The Last Waltz」が大ヒットして名声を確立、その後一流のエンターテイナーとして現在も活躍を続けている。彼にとって、イタリアやスペインなどのラテン系の歌は相性が良いようで、本曲や「Love Me With All Of Your Heart」は、英語カバーでオリジナルを食ってしまい、現代における決定版(スタンダード)になっている。いかにもカンツォーネっぽい、明るく伸びのあるメロディーは、地中海に降り注ぐ日差しのようだ。それがエンゲルベルトの声の良さ、歌の上手さによって、さらに魅力が倍加され、ゴージャズの極みといえるまで昇華している。軽快なラテン・リズムに身を任せながら空を駆けるような歌声を聴いていると、生理的な快感を覚える程だ。

最近では2005年マイケル・ブーブレがネリーとのデュエットでカバー。日本では2011年にホンダの新型コンパクトカー「フィット シャトル」のCMで使用され、その印象的なメロディーが話題となった。


Promises, Promises (Dionne Warwick) 1968 (米19位)
[Hal David, Burt Bachalach]

2023年2月8日バート・バカラックが亡くなりました(享年94)。彼の冥福を祈って本レビューを書きます。

彼の作品には大好きなものが多く、どれと言われても困ってしまうが、特に愛着の深い「Promises, Promises」を選んだ。この曲は1968年の同名ブロードウェイ・ミュージカルのテーマソングだ。制作関係者が凄くて、原作がビリー・ワイルダー (1906-2002)の「アパートの鍵貸します」1960年、脚本がニール・サイモン(1927-2018、「おかしな二人」、「グッバイ・ガール」、「名探偵登場」等)、音楽がハル・デビッド (1921-2012)とバート・バカラックという、私にとって超ゴールデントリオなのだ。舞台は1972年までの間に1281回というロングランとなった。曲としては、最初は子供の頃ディオンヌ・ワーウィックの4曲入りEPを買って魅せられ、後年になってミュージカルの存在と制作関係者を知り、舞台を観ることはできないけど、オリジナル・キャストのLPを購入して聴いたものだった。そこには同じくディオンヌで大ヒットした「I'll Never Fall In Love Again」や、過去発表曲の使い回し「I Say A Little Prayer」が入っていた。ここでは主演のジェリー・オーバック (1935-2004 ブロードウェイのスター、晩年は脇役で映画に出演) が本曲を歌っている。

ニューヨークの保険会社に勤務する野心家の男が、出世のために自分のアパートを上司の逢引きのために貸し出す(ラブホテルというものがない当地事情が背景)。彼は会社の女の子に思いを寄せていてデートに誘うが、彼女は彼が鍵を貸した人事部長の愛人だった。会社を辞めて街を去ろうとする彼に、本当の愛を知った女が駆けつけ一緒になるという筋書き。上司から裏切られた彼が、出世を放棄して会社を辞めることで約束や嘘のしがらみを断ち切るべく、怒りを込めて歌うのがこの曲だ。とても難しい曲で、バートの自伝によると、4分の5、4分の3、4分の4、4分の6、4分の3、4分の4、4分の6、8分の3、8分の4、4分の4と拍子が目まぐるしく変わり、舞台で生で歌う羽目になったジェリーは、「毎晩死にそうな思いになる」とこぼしたそうな。 DAMやJoysoundの通信カラオケにはないが、昔レーザーディスクのカラオケで歌うチャンスがあったので挑んでみたが、早口の歌でもあり、とても様にならなかった(でも気持ち良かった)記憶がある。

難曲ということで、この曲に挑戦する人は少なかったようであるが、同じ1968年にバカラック特集のLPを出したコニー・フランシス (1937- )のカバーが素晴らしい。曲のみでなく編曲にこだわるバートに対して、大御所クラウス・オーガマン (1930-2016、ビリー・ホリデイ、アントニオ・カルロス・ジョビン、フランク・シナトラ等の編曲で名高い人)が「俺だったらこうすんだよな〜」と、独自のアレンジで挑んでいるのがとても面白い(アルバムの他の曲も必聴)。でも何といっても1968年10月8日のエド・サリバン・ショーで、イントロのメロディーに乗せて自ら曲紹介をした後、すかさず歌い出すディオンヌのパフォーマンスが圧倒的!凄いとしか言いようがない!