S1 The Legendary Demos (2012) Rockingale (Universal)




Carole King : Vocal, Piano
Unknown : Back Band, Back Vocal

1. Pleasant Valley Sunday [Carole King, Gerry Goffin] C21 E5
2. So Goes Love [Carole King, Gerry Goffin]
3. Take Good Care Of My Baby [Carole King, Gerry Goffin] C21 E3 E4 E8
4. (You Make Me Feel Like) A Natural Woman [Carole King, Gerry Goffin, Jerry Wexler] C3 C3 C4 C19 C21 O10 G1 E2 E3 E4 E5 E8
5. Like Your Children [Carole King, Gerry Goffin]
6. Beautiful [Carole King] C3 C3 C4 C19 E1 E2 E4 E5 E8
7. Crying In The Rain [Caro King, Howard Greenfield]
8. Way Over Yonder [Carole King] C3 C3 C4 E1 E8
9. Yours Until Tomorrow [Carole King, Gerry Goffin]
10. It's Too Late [Carole King, Toni Stern] C3 C3 C4 C19 C21 E1 E2 E4 E5 E6 E8
11. Tapestry [Carole King] C3 C3 E3 E8
12. Just Once In My Life [Carole King, Gerry Goffin, Phil Spector]
13. You've Got A Friend [Carole King] C3 C3 C4 C19 C19 C21 O10 G33 G39 E1 E2 E3 E4 E5 E6 E8 E8
[Bonus Track]
14. Every Breath I Take [Carole King, Gerry Goffin] E5
15. Oh No, Not My Baby [Carole King, Gerry Goffin] C14 C20 G16

録音(〜年頃)
1961年: 3, 14
1962年: 7 
1964年: 15
1965年: 12
1966年: 1, 2, 5, 9
1967年: 4
1970年: 6, 8, 10, 11, 13

注:7.「Crying In The Rain」はS2と同じ録音です。

写真下: 5.「Like Your Children」が収録された「Crazy In Alabama Original Sound Track」 1999


 

キャロルの自伝「A Natural Woman」の出版に合わせ、彼女の自主レーベルから発表発売されたデモ音源集。解説では、すべて未発表(non previously released)とあるが、実際は一部の曲につき、何らかの形で発売されている。

作曲家時代の彼女が曲の宣伝用に吹き込んだテープは、音楽関係者に配布され、取り上げたアーティストから多くのヒット曲が生まれたわけであるが、彼女自身の歌や演奏に対する評判も高く、これらのデモテープを熱心に集める人々がいたという。キャロルがシンガー・アンド・ソングライターとして成功を収めた後は、業界人の間でコレクターズ・アイテムとして珍重されたが、一般の人々に出回ることはなかった。ずっと後の1979年になって発売された「Carole King Plus」というアルバムに、1960年代前半のディメンション・レーベルで発表された曲(リトルエヴァの「Locomotion」、キャロル本人の「It Might As Well Rain Until September」等)と一緒に、デモ音源の一部が収録された(このアルバムは1991年に曲目を大幅に増やして「The Dimension Dolls」 S2というタイトルでCD化されている)。また1995年には、「The Right Girl: Carole King Brill Building Legends Complete Recordings 1958-1966」S5 という2枚組のCDがヨーロッパで突然発売(権利面で正式なものではないらしい)され、収録された57曲のデモ音源(当時シングルで発売された数曲を含む)は、ファンを驚かせ、狂喜させた。本作はこれら2枚のアルバムに重複する曲もあるが、ほとんどが今回初めて耳にするものであり、さらに傑作「Tapestry」製作前に録音されたデモ音源も含むということで、ファンにとってはとてもうれしいプレゼントとなった。

まずは、作曲家時代のデモ音源から解説しよう。1.「Pleasant Valley Sunday」は、文句なし本アルバム目玉のひとつ。ザ・モンキース4枚目のシングル(1967年)で、全米3位の大ヒットを記録。ドラムスのミッキー・ドレンツが歌うバージョンは、当時流行のサイケデリックロックの雰囲気が漂い、カラフルで華やかなサウンドが素晴らしかった。キャロルによるこの曲のデモを聴けるなんて、最高だね!彼女はバンドをバックに歌っているが、モンキーズよりもアコースティックでフォーキーな感じで、それなりにとても良い感じ。彼女の自伝によると、当時彼女と旦那のジェリー・ゴフィンはニューヨーク郊外に引っ越したが、彼はそこでの生活が気に食わず、その思いをこの歌の歌詞にぶつけたとのこと。田舎の生活を称賛する歌が多いなかで、結構辛辣な内容なのが逆に新鮮。さらにキャロルのバージョンの歌詞は、モンキーズのものと少し異なり、「I don't ever want to see, Another pleasant valley sunday」というストレートな一節まである。2.「So Goes Love」は、1.と同時期の1966年7月7日にデイヴィー・ジョーンズのボーカルで録音されたがお蔵入りとなり、解散後の1987年「Missing Links」というアルバムで発売されたバラード。ここでの音作りは、フィル・スペクターのウォールサウンドそのものだ。3. 「Take Good Care Of My Baby」は、前述の「The Right Girl.....」S5に同じ録音が収録されている。多重録音によるピアノ2台(または連弾)のみによるシンプルな演奏であるが、キャロルのボーカルが活き活きしていて、何度聴いても引き込まれてしまう魅力がある。ここでのキャロルの歌い回しとピアノが奏でるメロディーが、ボビー・ヴィーの公式発表バージョン(1965年 全米9位)にそのまま使われており、彼女が曲作りのみでなく、歌唱やアレンジにおいても絶大な影響力を誇っていたことがよくわかる音源だ。4.「 (You Make Me Feel Like) A Natural Woman」は、プロデューサーのジェリー・ウェクスラーによるタイトルのアイデアを元に、アレサ・フランクリンが歌うことを最初から意識して書かれた曲で、1967年のシングルは全米8位を記録した。後にキャロルは「Tapestry」1971 C3 にこの曲を入れたが、ここでのデモは、公式録音に比べてはるかに黒っぽくソウルフルな歌唱を通している。

5.「Like Your Children」(1966年頃)は、どのアーティストにも歌われなかった曲のデモ。ジェイムス・テイラーとカーリー・サイモンがカバーした「Mockingbird」1963 全米7位のヒットで知られるノーザン・ソウルの姉弟デュオ、イネズ・アンド・チャーリー・フォックスの録音がお蔵入りになったようで、1995年発売のコンピレーションCD盤「Count The Days」で初めて日の目を見た。デモとしてはブラス、バックコーラスがついた本格的な録音になっている。1999年に公開されたアントニオ・バンデラス監督、メラニー・グリフィス主演の映画「Crazy In Alabama」 のサウンドトラック盤に収録され、ファンの間では謎の曲と話題になったことがあった。7.「Crying In The Rain」は、エヴァリー・ブラザース 1962年のヒット(全米6位)であるが、彼らがキャロルの多重録音によるハーモニーをそのままパクッていることがよくわかる。キャロルの若々しい歌声が大変魅力的。これと同じ録音が前述の「The Dimension Dolls」S2に収録されている。また彼女は、1983年のアルバム「Speeding Time」C16でシンセサイザーを多用したアレンジでセルフカバーしたが、このデモのほうが遥かに良い出来。9.「Yours Until Tomorrow」は、ジーン・ピットニー(1968)、シェール(1968) が取り上げたが、マッスル・ショールズのミュージシャンをバックに歌う、ニューオリンズのソウルクイーン、アーマ・トーマス(1941- )のバージョンが最高。去りゆく恋人に向かって、「明日までは私は貴方のもの」と迫る歌詞がウェットな感じなたため、ヒットしなかったのかな?12.「Just Once In My Life」は、「You've Lost That Lovin' Feelin'」で大成功を収めたライチャス・ブラザースが、柳の下の二匹目のドジョウを狙って発表した曲(全米9位)で、フィル・スペクターが共作者に名を連ねている。彼女自身の多重録音によるソウルフルな二重唱が素晴らしい。

次は「Tapestry」C3のデモについて。1970年頃録音というこれらのトラックは、キャロルの弾き語りによるもの。6.「Beautiful」、8.「Way Over Yonder」、11.「Tapestry」 を聴くと、力強い歌声とピアノで、彼女のソウルが直に伝わってくる。これらのデモよく聴くと、「Tapestry」は一見飾り気のない、ありのままの姿を捉えたように見えるが、実は極めて巧妙にプロデュースされていることがよくわかる。ルウ・アドラーは、アルバムの製作にあたり、ジャズのジュリー・クリスティーを参考にしたというように、曲の情感を抑制し、クールなムードを醸し出すことにより、内に秘めた深みを生み出すことに成功したのだ。その革新的なプロデュースの過程をストレートに味わうことができる意味で、これらのデモは本当に面白く貴重だ。なかでも 10.「It's Too Late」の自由奔放なパフォーマンスは、本アルバムのハイライトのひとつだ。気の赴くままにメロディーを崩した歌いっぷり、特にエンディングにおける長めのスキャットボーカルは、いつまでも聴いていたい気分になる。13.「You've Got A Friend」は、多重録音によるハーモニー・ボーカル付きで、イントロのピアノがちょっと違うところが面白い。

日本盤には2曲のボーナストラックが収録されたが、それらはiTuneでダウンロードすることができるので、輸入盤を買っても大丈夫。14.「Every Breath I Take」は、ジーン・ピットニー1961年のヒット(全米8位)。キャロルの少女の面影を残した歌声と、彼女自身による多重録音のドゥワップがいいね〜。キャロルは、15.「Oh No, Not My Baby」につき、 「Pearls」1980 C14、「Love Makes The World」2001 C20の2回セルフカバーしているが、1964年のオリジナルというべき当該デモにより、3世代にわたるパフォーマンスが出そろうことになった。何度聴いても良い曲。もともとは「Will You Still Love Me Tommorow」のザ・シュレルズで録音したが出来栄えに満足できず、同じ伴奏トラックを使用してマキシン・ブラウンで録音し直し、それが全米24位のヒットとなったもの。現在、ザ・シュレルズの最初の録音も発掘されており、聴き比べると面白い。その後もマンフレッド・マン、シェール、リンダ・ロンシュタット等多くのアーティストが取り上げたが、個人的にはカバーの達人ロッド・スチュワートのバージョンが好きだ。

作曲家時代、およびシンガー・アンド・ソングライターとして成功を収める直前のデモが聴けるお宝アルバム。もっとたくさんの曲を収録して2〜3枚組にして欲しかったなあ。ジャケット写真をよく見ると、当時宣伝用写真として多く使用されたものと同じ服を着ているので、同じセッションで撮影されたものと思われる。また、解説書に掲載されたニューヨークにおける作曲家時代、ロスでのレコーディング風景の写真も味がある。

[2013年3月作成]

[2024年1月追記]
5.「Like Your Children」について書き改めました。


S2 The Dimension Dolls 1962-1964  Dimension















Carole King : Vocal (2,6,8,11,14,16,18,19,20), Co-Producer (Uncredit), Arranger
Little Eva : Vocal (3,5,9,12,15,17,22,24), Back Vocal
The Cookies : Vocal (1,4,7,10,13,21,23), Back Vocal (1,3,5,6,9,11,12,15,16,17,18,19,22)

Gerry Goffin : Producer

[The Dimension Dolls EMI UK 1991]
1. Don't Say Nothin' Bad About My Baby [Goffin, King] The Cookies Feb 1963 1008A
2. Crying In The Rain [King, Greenfield] Carole King Demo C16
3. The Loco-Motion [Goffin, King] Little Eva Jun 1962 1000A C14 C19 C21 E3 E4 E5 E8
4. On Broadway [Weil, Man, Leiber, Stoller] The Cookies Demo
5. Keep Your Hands Off My Baby [Goffin, King] Little Eva Oct 1962 1003A
6. Breaking Up Is Hard To Do [Greenfield, Sedaka] Carole King Demo S3
7. Foolish Little Girl [Miller, Greenfield] The Cookies Demo
8. It Might As Well Rain Until September [Goffin, King] Carole King Aug 1962 2000A C21 G1 E3 E8
9. Up On The Roof [Goffin, King] Little Eva Demo C4 C19 G39 E2 E3 E4 E5 E6 E8
10. Chains [Goffin, King] The Cookies Oct 1962 C14 C19 C21 E3 E4 E5 E8
11. It Stared All Over Again [Goffin, Keller] Carole King Demo
12. Uptown [Weil, Mann] Little Eva Demo
13. I Want A Boy For My Birthday [Bradford] The Cookies Jun 1963 1012B

14. He's A Bad Boy [Goffin, King] Carole King Mar 1963 1009A
15. Let's Turkey Trot [Goffin. Keller] Little Eva Jan 1963 1006A
16. School Bells Are Ringing [Goffin, King] Carole King Nov 1962 1004A
17. The Trouble With Boys [Goffin, Keller] Little Eva Jul 1963 1013B
18. Nobody's Perfect [Goffin, King] Carole King Aug 1962 2000B
19. We Grew Up Together [Goffin, King] Carole King Mar 1963 1009B

20. I Didn't Have Any Summer Romance [Miller, Greenfield] Carole King Nov 1962 1004B


[The Dimension Dolls Sundazed Music 2003 Additional Track]
21. Girls Grow Up Faster Than Boys [Goffin. Keller] The Cookies Noc 1963 1020A
22. What I Gotta Do (To Make You Jealous) [Goffin, King] Little Eva Jul 1963 1013A
23. I Never Dreamed [Goffin. Titleman] The Cookies Jun 1964 1032A
24. Makin' With The Magilla [Justin, Keller, Power] Littel Eva Oct 1964 1035A


注: 表示は シングル・レコード発売年月、レコード番号とA/B面
   赤字はキャロル本人が歌っている曲
   青字はキャロルが作者でない曲(キャロルが歌っている場合は赤字)

写真上から
1番目: The Dimension Dolls LP 1963 Dimension - 1〜12
2番目: Carole King Plud LP 1979 EMUS - 1〜3, 5, 6, 8〜12

3番目: The Dimension Dolls CD 1991 EMI - 1〜20 
4番目: The Dimension Dolls CD 2003 Sundazed Music -1〜15, 20〜24

5番目: シングル盤 He's A Bad Boy 1963 1009A
6番目: シングル盤  It Might As Well Rain Until September 1962 2000A 

7番目: Carole King Masterpieces Vol.1 1994 A Side

私のキャロル・キングは「Tapestry」1971 C3からでしたが、次に買った「Writer」1970 C2日本盤についていた作品リストで、彼女は以前から多くの曲を書いていたことを知りました。また大瀧詠一さんのラジオ番組「Go! Go! Naiagara」のキャロル・キング特集 1975で、それらの曲を耳にしました。さらに当時録音された曲で彼女自身が歌ったものがあることを知り、聴いてみたい気持ちが膨らみました。1970年代末、輸入レコード店で見つけて喜んで購入したのがLP「Carole King Plus」(上から2番目の写真)でした。片面5曲で計10曲という収録時間が短いアルバムでしたが、感動して聴いた思い出があります。そして1980年代、ニューヨークの中古レコード店で購入したのが写真5,6番目のシングル盤です。1991年のCD購入(上から3番目)で曲が大幅に増えました。1994年に日本のエーサイド・レコードから発売された「キャロル・キング・マスターピース Vol.1〜3」という3枚のCD(上から7番目)は、当時の代表曲や本人歌唱のレアトラックが多く収録された宝物でした。その後時代が大きく変わり、配信サービスやYouTuneなどによって、大変有難い事に昔の曲が手軽に聴けるようになり、ジョエル・ホイットバーンの米国ヒット曲のデータ本「Top Pop Singles」を参考に、1950年代まで遡って深堀りできるようになりました。ということで、私にとって1950年代〜1960年代前半の音楽は現役ではなく、後付けのファンになりますが、私なりに作曲家としての当時のキャロルの作品に迫ってみようと思います。

[作曲家としての成功]
若いキャロルは、自作曲の売り込みで音楽事務所を回っていたが、1958年16歳の時にパラマウント・レコードの目に止まり、そこで2枚のシングル盤 (S5で言及します)を出したが売れなかった。素晴らしい詩を書くジェリー・ゴフィンと知り合い、共作するうちに恋愛関係になり結婚、二人は別の仕事をしながら夜間に曲を書いた。友人のニール・セダカの紹介で、ドン・カーシュナーとアル・ネビンスのアルドン社と契約して専属作曲家になった。ブロードウェイのビルにある小さな作業部屋で終日作曲し、出来上がった曲を聴いてもらい、OKが出ればデモを作成し、売れれば報酬が入るという生活。1960年ザ・シュレルズの「Will You Love Me Tomorrow」が全米第1位の大当たりを出したことで作曲家として認められ、安定した活動ができるようになった。

[ディメンション・レーベルの誕生]
1962年「Mash Potato Time」全米2位のディー・ディー・シャープが歌う想定で作った曲が 3.「Loco-Motion」だった。しかし彼女の会社は自社の作曲家のみを使う方針だったため実現せず、かつリトル・エヴァのデモがあまりに良かったため、アルドン社はディメンション・レコードを設立して発売したところ、全米第1位の大ヒットとなった。そこで、ジェリーはプロデューサーとして、キャロルは共同プロデューサー(クレジットされていないが、彼女の自伝でそうだったと言っている)、アレンジャー、ミュージシャンとなり、デモ作成のための専属シンガーやミュージシャンを使ってシングル盤を制作して同レーベルから発売した。1963年ディメンションはアルドン社と一緒にColumbia Pictures-Screen Gemsに売却された。そのため1963年6月以降に発売されたシングル盤には、「For Screen Gems, Supervision Don Kirshner」と表示される(それ以前の表示は「For Nevins-Kirshner」)。そして同時期にキャロルとジェリーが活動拠点を西海岸に移したことで、それ以降のシングルは他人が手掛けるようになった。ディメンションは1962〜1965年の間に約50枚のシングルと1枚のアルバムを出したが、うちキャロルとジェリーによる仕事は、1962年6月〜1963年11月の期間に集中し、1964年は4月と9月の2枚のみで、計約20枚のシングルとリトル・エヴァのアルバム1枚ということになる。

[The Cookiesについて]
1954年結成、レイ・チャールズのバック・シンガーとして成功。1958年にグループはレイレッツに改編される。1961年オリジナル・メンバーのドロシー・ジョーンズ (2010没)、新メンバーのアール・ジーン・マクレー、マーガレット・ロスで再結成され、アルドン社のデモ、シングル録音で活躍した。バック・コーラスの代表作はニール・セダカの「Breaking Up Is Hard To Do」。なお同グループは変名で多くの他社セッションに参加し、1967年まで活動した。ディメンションを買収したColumbia Pictures-Screen Gemsのレーベル Colpixから、ザ・クッキーズ脱退後のアール・ジーン名義、キング・ゴフィン作曲プロデュースのシングルが2枚(1964年の4月と9月発売)出ている。

[Little Evaについて]
1943年ノースキャロライナ州生まれ。ザ・クッキーズのアール・ジーンの紹介で、ゴフィン家の子供の乳母兼、デモおよびザ・クッキーズと一緒に歌うバックアップ・シンガーとなる。「The Loco-Motion」の後、数枚のヒットを出したが長続きせず、1971年に音楽界から引退。1988年のカイリー・ミノーグのリバイバル・ヒットの後、復帰してオールディーズのコンサートで歌ったが、子宮頸がんのため2003年59歳で亡くなった

[「The Dimension Dolls」について]
ディメンション・レーベルによるLPの発売は、リトル・エヴァのアルバム「Lllllco-Motion」1962 S4と、1964年発売の「The Dimension Dolls」(上から1番目、1〜12の12曲収録)の2枚。後者は中古市場で高値を呼んでいる。1979年、EMSという会社が「Carole King Plus」というタイトルでLPを出した(上から2番目)が、キャロル名義ということで 4.「On Broadway」と 7.「Foolish Little Girl」を除く10曲の収録だった。その後CDの時代になり、1991年にEMIからLPより8曲多い20曲入り(1〜20) のCDが出た(上から3番目、実際は1970年代に同じデザインの12曲入りLPが出ていたらしい。本記事の曲説明はこのCDに基づいて行います)。2003年には別会社よりCD(上から4番目)が出たが、16.「School Bells Are Ringing」、17.「The Trouble With Boys」、18.「Nobody's Perfect」、19.「We Grew Up Together」の4曲がカットされ、代わりに 21.「Girls Grow Up Faster Than Boys」、22.「What I Gotta Do (To Make You Jealous)」、23.「I Never Dreamed」、24.「Makin' With The Magilla」が加えられた。

[キャロル・キング名義の曲]
2.「Crying In The Rain」は、1962年1月発売のエヴァリー・ブラザース全米6位のデモ録音(デモの場合、シングル盤ディスコグラフィーにレコード番号やリリース時期の表示がないことで判る)で、「The Legendary Demos」S1と同じ録音。いつもはニール・セダカと共作するハワード・グリーンフィールドとの作品。大変完成度の高い出来上がりで、曲売り込みのためにこれだけ凄いものを作っていたということだ。6.「Breaking Up Is Hard To Do」は、作者のニール・セダカによる1962年6月発売、全米1位の名曲だ。キャロルの録音はシングル盤で発売されなかったが、作者による公式録音があるためデモと言うのもおかしな話で、資料もなく録音の経緯は不明。「The Dimension Dolls」のLPのために制作されたのかな?ザ・クッキーズのバック・コーラス、間奏のサックス・ソロもばっちり入り、本気度一杯の名演。8.「It Might As Well Rain Until September」(1962年8月発売)は聴いていて大変気持ちの良い曲で、ボビー・ヴィーのために書いた曲とのことであるが、彼の録音はアルバム収録のみで、デモの出来を気に入ったドン・カーシュナーが出したキャロルのシングル盤が全米22位のヒットとなった。彼女は自伝で、プロモーションのために 「American Band Stand」というテレビ番組に出て口パクで歌い、オーディエンスの学生達に曲を厳しく批評された苦い思い出を語っている。子育てなどのために宣伝活動をしなかったにも関わらず、この曲は彼女の作曲家時代最大のヒットとなった。

11.「It Started All Over Again」は、ブレンダー・リーのヒット曲(1962年6月発売 全米29位) のデモで、ジャック・ケラーとの共作。キャロルは自伝で「その歌を歌う予定のアーティストのボーカル・スタイルに合わせる」と述べているが、ブレンダ独特のパンチとメリハリが効いた歌声を真似た感じが微笑ましい。ブレンダのバージョンを聴くと、伴奏やコーラスのアレンジ、歌い方まで似ており、デモ録音の威力の凄さをまざまざと見せつけられる逸品。14.「He's A Bad Boy」はいつもと異なり、彼女の多重録音によるバック・コーラスなしの歌唱、アコ−スティック・ギターを前面に出したアレンジが面白い。もともとはフォーク歌手への提供を想定して作ったのかな?16.「School Bells Are Ringing」は、ガールズ・ポップの魅力が詰まった可愛らしい作品で、ザ・クッキーズのバック・ボーカルも楽しい。18.「Nobody's Perfect」は8、19.「We Grew Up Together」は14のB面で、いずれもロッカバラード調の曲。20.「I Didn't Have Any Summer Romance」は16のB面で、恋に憧れる少女になりきって歌うキャロルが本当に可愛い。

二十歳を過ぎたばかりのキャロルの若々しい声の魅力が最大限に発揮されている。

[Little Eva名義の曲]
3.「The Loco-Motion」のエピソードについては上述の通り。この曲はグランド・ファンク・レイルロード 1974 全米1位、カイリー・ミノーグ 1988 全米3位のカバーが有名。日本では伊東ゆかりの1962年があるね。5.「Keep Your Hands Off My Baby」は、3に続く1962年全米12位のヒット曲。1963年ザ・ビートルズがBBCラジオ番組で演奏、その音源は「Live At The BBC」1994で公式発売された。9.「Up On The Roof」は、ザ・ドリフターズ 1962年9月発売、全米5位のデモ。公式録音に劣らない素晴らしい出来だ。ちなみにザ・ドリフターズの録音にはキャロルがピアノで参加したという資料があった。ディメンション以外の録音でも、キャロルが参加したものがあるということだ。22.「What I Gotta Do (To Make You Jealous)」は、明るいメロディーを軽快なアップテンポで歌い飛ばす様が魅力的。 24.「Makin' With The Magilla」は、ジェリーとキャロルが関わったディメンションの仕事としては遅めの1964年10月にリリースされたシングルで、当時テレビ放送されていたアニメーション「The Magilla Gorilla Show (ゴリラのゴンちゃん、日本でも放送された)」で使われた曲。15.「Let's Turkey Trot」、17.「The Trouble With Boys」(22のB面)ではキャロルは作曲に関わっていないが、アレンジのサウンドからプロデュースに絡んでいることは明らか。シンシア・ウェイル、バリー・マン作曲作詞のザ・クリスタルズ1962年全米11位 12.「Uptown」のデモについては、リトル・エヴァのアルバム「Lllllco-Motion」1962 S4の資料にはキャロルのアレンジとクレジットされているが、聴く限りキャロルっぽくなく、真相は不明。

フレッシュでキャッチーな魅力がいっぱい詰まった音楽だ。

[The Cookiesの曲]
1.「Don't Say Nothin' Bad About My Baby」は、全米7位のザ・クッキーズ最大のヒット曲で、ガールズ・コーラスの魅力全開だ。10.「Chains」はR&B調サウンドの傑作。 もともとはエヴァリー・ブラザース宛に作られた曲だったが、ボツになったため、再結成後ザ・クッキーズ初めてのシングル(以前の1956年に「In Paradise」という曲がある)として発売され、全米17位を記録した。ザ・ビートルズがカバーしてデビューアルバム「Please Please Me」1963に収めた話は有名。キャロル自身は、ずっと後の1980年に「Pearls」C14でセルフカバーしている。キャロルが作者ではない7.「Foolish Little Girl」は、ザ・シュレルズ1963年3月発売、全米4位の大ヒット曲のデモ。両者を比較すると、ほぼ同じアレンジでありながら、両者のボーカルやコーラスの個性・味わいの違いが良くわかり大変面白い。13.「I Want A Boy For My Birthday」は、「Will Power」(S3参照)のB面。21.「Girls Grow Up Faster That Boys」は、楽しいドゥアップ・コーラスが入るガールズ・ポップ・ソング。23.「I Never Dreamed」は24と同じく、遅い時期のプロデュースで、一連のディメンション作品のうちこの曲のみジェリー・ゴフィンとラス・タイトルマン(1970年代にプロデューサーとして大成功する人)の共同プロデュースになっている。最後に4.「On Broadway」について。この傑作曲は12と同じシンシア・ウェイル、バリー・マン作で、キャロルは関与していないと思われる。ザ・ドリフターズ1963年3月発売、全米9位のために書かれた曲のデモ録音であるが、公式録音するにあたり、シンシア、バリーと先方のソングライティング・チーム、ジェリー・レイバーとマイク・ストーラーと激論の結果、大幅に手を加えて今我々が聴くサウンドに、そして作詞・作曲のクレジットに両者を加えることになったというエピソードがある。両者を比較するとリズム構成が異なり、公式録音のほうが遥かにクリエイティブであることがわかる。なおこの曲は、1978年にジョージ・ベンソンがカバーして全米7位を記録している。

多くのセッションを経験しただけあって、大変器用な人たちで、大変チャーミングな声と綺麗なハーモニーを駆使してR&B、ガールズ・ポップなど、いろんなカラーを出しきっている。


ディメンション・レーベルからリリースされた音源は他に、上記のレコード・CDに収められなかったもの、リトル・エヴァのLPに収めれらたものがあるので、それらは前者S3、後者S4で触れることにしたい。


S3 Other Songs From Dimension Rebel 1962-1964

Little Eva : Vocal (9,10,11,12,19,20,23,24), Back Vocal
The Cookies : Vocal (3,4,7,8,13,14,21,22,25,26), Back Vocal (1,5,6,11,37,38,39, 40,41
Big Dee Irwin : Vocal (1,2,9,10,15,16,17,18,23,24)
Idalia Boyd : Vocal (5,6)
Earl Jean : Vocal (27-30)

Gerry Goffin : Producer
Carole King : Co-Producer (Uncredit), Arranger (Except 6,18,20)
Klaus Ogerman : Arranger (6,18,20)


1. Everybody's Got Dance But Me [Connie St John, Dee Erwin, Goffin] 1001A Sep 1962, Big Dee Irwin
2. And Heaven Was Here [Connie St John, Dee Eirwin] 1001B
3. Chains [Goffin, King] 1002A Oct 1962, The Cookies
4. Stranger In My Arms [Goffin, King] 1002B
5. Hula Hoppin' [Goffin, King, Keller] 1007A Feb 1963, Idalia Boyd
6. Some Kind Of Wonderful [Goffin, King] 1007B S2
7. Don't Say Nothin' Bat About My Baby [Goffin, King] 1008A Feb 1963, The Cookies
8. Softly In The Night [Goffin, King] 1008B
9. Swinging On A Star [Jimmy Van Heusen, Johnny Burke] 1010A Apr 1963, Big Dee Irwin (& Little Eva)
10. Another Night With The Boys [Goffin, King] 1010B
11. Old Smokey Locomotion [Goffin, King] 1011A May 1963, Little Eva
12. Just A Little Girl [Goffin, King] 1011B
13. Will Power [Goffin, King] 1012A Jun 1963, The Cookies
14. I Want A Boy For My Birthday [Bradford] 1012B
15. Happy Being Fat [Goffin, King] 1015A Aug 1963, Big Dee Irwin
16. Soul Waltzin' [Goffin, King] 1015B
17. You're My Inspiration [Goffin, King] 1018A Oct 1963, Big Dee Irwin
18. Skeeter [Connie St John, Dee Irwin] 1018B
19. Let's Start The Party Again [Goffin, King] 1019A Nov 1963, Little Eva
20. Please Hurt Me [Goffin, King] 1019B
21. Girls Grow Up Faster Than Boys [Goffin, Keller] 1020A Nov 1963, The Cookies
22. Only To Other People [Wine, Kornfeld, Goffin] 1020B
23. I Wish You A Merry Christmas [Goffin, King] 1021A Big Dee Irwin & Little Eva
24. The Christmas Song [Wells, Torme] 1021B
25. I Never Dreamed [Goffin, Titleman] 1032A Jun 1964, The Cookies
26. The Old Crowd [Goffin, King] 1032B

[番外編 Singles From Colpix Rebel]
27. I'm Into Somethin' Good [Goffin, King] Colpix 729A Apr 1964, Earl Jean C21 E5 E8
28. We Love & Learn [Goffin, King] Colpix 729B
29. Randy [Goffin, King] Colpix 748A Sep 1964 Earl Jean
30. They're Jealous Of Me [Goffin, King] Colpix 748B

注: 黄色は、S2, S4と重複する曲
   青字は、キャロルが作曲に関わっていない曲。   
   作者の後の表示は、レコード番号、A面/B面、発売年月、アーティスト


本編は、「The Dimension Dolls」S2の選からもれた曲、およびリトル・エヴァのアルバム「Llllloco-Motion」1962 S4に入っていない曲が対象。黄色い字は「The Dimension Dolls」S2に含まれていたが、シングル盤の立ち位置を明確にするために敢えて記載したもの(したがって本記事の説明対象外です)。

全曲ジェリー・ゴフィンのプロデュース、3曲を除きキャロルのアレンジ、大半がゴフィン・キング作ということで、同傾向の曲が並び、通して聴くと一本調子になることはやむを得えず、また「The Dimension Dolls」S2に選ばれた曲よりもインパクトに欠ける点はあると思うが、ヒットしなかった曲やシングルB面でも、個別にじっくり聴くと十分な味わいと魅力がある。また「Dolls」ということでS2では女性シンガーのみが取り上げられたが、ディメンションにはビッグ・ディー・アーウィンという男性歌手がいたので、ここでは彼の曲をたっぷり鑑賞できる。

ビッグ・ディー・アーウィン (1932-1995、本名 Difosco "Dee" T. Ervin Jr.)は、ニューヨーク・ハーレム生まれ。The Pastels というグループを結成して、レコード会社と契約、彼のペンによる「Been So Long」1958が全米24位のヒットとなったが1959年に解散。その後はソロとなり、いくつかのレコード会社を経てディメンションと契約した。シングル盤を数枚発売したが、9.「Swinging On A Star」1963以外はチャート入りしなかった。彼はその後も歌手として録音を続け、ソングライターとしてレイ・チャールズ、ボビー・ウーマック等に曲を提供した。 ディメンション・レーベルの初回作が自作(ジェリーが共作者で名を連ねている)の 1.「Everybody's Got Dance But Me」。ザ・クッキーズのコーラスが傑作で、「Twist And Shout」や「Loco-Motion」をもじったフレーズが出てくる。4. 「Stranger In My Arms」は 3.「Chains」のB面。

イダリヤ・ボイドはリトル・エヴァ(本名 Eva Narcissus Boyd)の妹という情報と宣伝用の写真しかなく、音楽界に残したものはこのシングル1枚のみと思われる。5.「Hula Hoppin'」は、途中でハワイアン風のスケールを使ったメロディーが出てくるとても面白い曲。彼女の歌は十分に上手いけど、お姉さんと比べると安定性で劣るかな。B面の6.「Some Kind Of Wonderful」が謎。この曲はザ・ドリフターズ 1961 全米32位のヒットソングで、リトル・エヴァのデモと思われる録音が彼女のアルバム「Lllllco-Motion」1962 S4に入っている。そのバッキング・トラックを使ってシングルB面に入れたということで、姉妹のボーカル聴き比べができるお楽しみトラック。イダリアの歌唱は音程が不安定になる箇所があり、歌唱力ではお姉さんのほうが上のようだ。ザ・クッキーズの 8.「Softly In The Night」は、7.「Don't Say Nothin' Bat About My Baby」のB面だけど、魅力的なメロディーを持った曲で、捨てがたいものがある。

9.「Swinging On A Star」は、ビング・クロスビーが映画「Going My Wy (我が道を行く)」で歌った1944年ヒット曲のカバー。個人的にはマリア・マルダー1990年のバージョンが大好き。オリジナルがスウィング・ジャズのリズムだったに対し、ここではロック調の面白いアレンジ。ビッグ・ディー・アーウィン単独名義で出たが、実際はリトル・エヴァとのデュエットになっている(上記の曲表示に括弧をつけたのはそのため)。これが全米38位と彼唯一のチャート入り、全英はさらに高い7位の大ヒットとなった。B面の10. 「Another Night With The Boys」もリトル・エヴァとのデュエットだ。 11.「Old Smokey Locomotion」はタイトルの通り「Loco-Motion」の続編的な曲。12.「Just A Little Girl」はキャロルらしいメロディーの曲で、珍しく男性コーラス(ビーチボーイズ風)が入る。13.「Will Power」は「Chains」に似たR&B風の軽快な曲で、全米72位を記録。

15.「Happy Being Fat」はユーモラスな歌詞が楽しい曲。YouTubeにサンプル画像だけどこの曲のライブ動画がアップされており、彼が歌う貴重なシーンを見ることができる。 16.「Soul Waltzin'」は珍しいワルツのリズムによるR&B。17.「You're My Inspiration」はスモーキー・ロビンソンとミラクルズの「You've Really Got A Hold On Me」1962 全米8位のようなR&B。18.「Skeeter」は亡くなった愛犬を悼むサム・クック風の曲。ここでのアレンジはキャロルではなくクラウス・オガーマン(1930-2016) 。ブラジル生まれの彼は、1950年代〜2000年代アメリカ・ポピュラー音楽界の巨匠だ。私個人としては、アントニオ・カルロス・ジョビンのアルバムでの仕事が人生最高の音楽のひとつだ。ここでのアレンジは、キャロルが好むR&Bの泥臭さとは異なる洗練された音の世界がある。19.「Let's Start The Party Again」は、「Hey, wait a second. Is everybody having a good time?」というエヴァのドスの効いた語りから始まる軽快な曲で、R&B調のメロディーが素晴らしい。20.「Please Hurt Me」は一転してメランコリックなバラードで、途中でエヴァの語りが入る。このアレンジもクラウス・オガーマン。18と同様に軽やかなストリングスが入る点も違うね。 22.「Only To Other People」はフィル・スペクターのアレンジでディオンヌ・ワーウィックが歌っているかのような感じ。色々試しているのだろう。

23.「I Wish You A Merry Christmas」はストレートなR&B風クリスマス・ソングで、ディー・アーウィンとリトル・エヴァのデュエットも好調。今では忘れ去られている曲だけど、スタンダードとして歴史に残ってもよかったんじゃないかな? 24.「The Christmas Song」はメル・トーメ作曲、ナット・キング・コールの名唱1946年でお馴染みの名曲なんだけど、ゴフィン夫妻の制作・編曲と二人のソウルフルなヴォイスにより立派なロッカバラードになっているのが凄い。26.「The Old Crowd」はリード・ボーカルとコーラスの軽快なやりとりが楽しい曲。一通り聴いて考えるのは、何故ビッグ・ディー・アーウィンは売れなかったのか?という疑問。今(2023年)の耳で聴く限り、かなり良い出来と思うんだけど、当時は多くの競争相手とせめぎ合っていたわけで、その中ではインパクト、カリスマ性が足らなかったのだろう。

ということで、「The Dimension Dolls」S2のみで満足して留めておくにはあまりに勿体ないよ!


[番外編]
ディメンション・レーベルからのリリースではないが、同レーベルを買収したColumbia Pictures-Screen Gemsの傘下コルピックスから出たジェリーとキャロル制作・編曲のシングルが2枚あるので、「番外編」としてあげておきたい。

ザ・クッキーズのアール・ジーンは、1965年にグループから脱退するが、その前の1964年にソロで2枚のシングル盤をコルピックスから出した。1964年4月発売の 27.「I'm Into Somethin' Good」は明るい歌詞とメロディーの魅力的な曲で、全米38位のヒットを記録した。ただしその後8月発売のイギリスのグループ、ハーマンズ・ハーミッツ1964年 全米13位、全英1位のほうが名曲として歴史に残ることになったが、アール・ジーンのバージョンも素晴らしい。28.「We Love & Learn」は、ダスティー・スプリングフィールドが歌いそうなラテンリズムのドリーミーな曲でこれもなかなか。1964年9月発売の 29.「Randy」は、同年7月発売のビーチボーイズ「Wendy」全米44位の完全なもじり。「Wendy」の作者ブライアン・ウィルソンによると、この曲はザ・フォーシーズンズに敬意を表したものとのことなので、この世界は模倣大会なのですな。ビーチボーイズ風バックコーラスにキャロルっぽい声が聞こえるのがチェックポイント。30.「They're Jealous Of Me」はザ・ロネッツ風スペクターサウンドだ。

「何風」といった感じなんだけど、ネタがわかると、音楽好きにとってこれほど面白いことはないね〜。


 
S4  Llllloco-Motion Little Eva 1962  Dimension 
 



Little Eva : Vocal
The Cookies : Back Vocal (1,2,5,7,9,12)

Jerry Goffin : Producer
Carole King : Co-Producer (Uncredit), Arranger (1,5,6,7,8,9,11,12)
Claus Ogerman : Arranger (2,3,4,10)

[Side A]
1. The Loco-Motion [Goffin, King] 1000A Jun 1962
2. Some Kind Of Wonderful [Goffin, King] C4 C5 S3
3. I Have A Love [Bernstein, Sondheim]
4. Down Home [Goffin, King] 1006B Jan 1963
5. Breaking Up Is Hard To Do [Greenfield, Sedaka] S2
6. Run To Her [Goffin, Keller] 1035B Oct 1964

[Side B]
7. Uptown [Mann, Weil]
8. Where Do I Go [Goffin, King] 1003B Oct 1962
9. Up On The Roof [Goffin, King]
10. Sharing You [Goffin, King]
11. He Is The Boy [Ervin, Goffin]1000B Jun 1962
12. Will You Love Me Tomorrow [Goffin, King] C3 C3 C4 C19 C21 G49 E4 E5 E6 E7 E8

注: 黄色の字は、「Dimension Doll」S2に収録された曲(本編解説対象外)
   青字はシングルB面などでリリースされた曲
   [作者]の後の表示はシングル盤のレコード番号、A/B面、発売年月

写真下は Idalia Boydのシングル「Some Kind Of Wonderful」1007B Feb 1963

B面1曲目に「Keep Your Hands Off My Baby」が入っているものがあるとのこと(First Pressing, Second Pressing の2説あり)。

 

1962年6月発売のリトル・エヴァのシングル「Loco-Motion」が全米1位の大ヒットとなったため、急遽制作されたアルバム。タイトルが「Llllloco-Motion」と、Lを5回続けた造語になっている。プロデューサーはジェリー・ゴフィン、アレンジャーはキャロルとクラウス・オガーマンだ。LPジャケット裏の解説、曲目には曲毎のアレンジャーの表示はないが、資料では 2,3,4,10の4曲がクラウス担当とあった。収録された12曲のうち、上記黄色の字は別途発売された「The Dimension Dolls」S2に収められ、そこで解説済のため本編では対象外とする。青字はディメンションから発売されたシングルB面に収録されたもの。黒字はここでしか聴けない曲となる。

2.「Some Kind Of Wonderful」は、ザ・ドリフターズ 1961全米32位のヒット曲のカバーと思われる。資料からアレンジャーはクラウスということなのでデモではないと推論した。この曲は後1963年2月に発売されたリトル・エヴァの妹イダリア・ボイドのシングル「Hula Hoppin'」のB面にイダリア名義で収められている。バッキング・トラックは同じで、歌のみ別になっていて、両者の聴き比べをする楽しみがある。歌唱力の点はお姉さんのリトル・エヴァの方が上かな。3.「I Have A Love」は本作では異色の曲で、1957年のブロードウェイミュージカル、1961年映画化の「West Side Story」の挿入歌で、レナード・バーンスタイン作曲、スティーヴィン・ソンドハイム作詞。スローな曲なので丁寧に神妙に歌っている。アレンジはクラウス。4.「Down Home」は、1963年1月発売のシングル「Let's Turkey Trot」のB面で、クラウスのアレンジによるストリングスが入る。5.「Breaking Up Is Hard To Do」も面白いトラックで、キャロルが歌った「The Dimension Dolls」S2と同じバッキング・トラックに彼女の歌を吹き込んでいる。ここも両者聴き比べ大会だ。6.「Run To Her」は、1961年10月発売のボビー・ヴィー全米2位のヒット曲「Run To Him」のデモと思われる。ずっと後の1964年10月発売のシングル「Makin' With The Magilla」のB面に収められた。

8.「Where Do I Go」は落ち着いたカントリー音楽風の曲で、さらっと歌うリトル・エヴァもいいね。10.「Sharing You」は、ボビー・ヴィーのヒット曲 1962年全米15位のカバーと思われる。ここでのアレンジはクラウスということで、ストリングスもしっかり入っているので、デモではないだろう。 11.「He Is The Boy」は、珍しいビッグ・ディー・アーウィン(クレジットのErvinは彼の本名)とジェリー・ゴフィンの共作。リトル・エヴァのR&B歌唱が聴ける美味しいトラック。12.「Will You Love Me Tomorrow」はザ・シュレルズ1960年全米第1位、キャロル最初のビッグヒットのデモと思われる。しっとりと歌うリトル・エヴァのボーカルはザ・シュレルズに負けず劣らず良い感じだ。

「The Dimension Dolls」S2と3曲だぶるけど、いい曲、面白い曲がいっぱいあるよ !