E2 Live At Montreux 1973  (2019)  CK Master LLC 



Carole King : Piano, Vocal

[Back Band (7-16)]
Clarence McDonald : Electric Piano
David T. Walker : Electric Guitar
Charles Larkey : Electric Bass
Havey Mason : Drums
Bobbye Hall : Percussion

[Brass Section (5,8,9,10,11,12,13,14,15,16)]
Geroge Bohanon, Dick "Slyde" Hyde : Trombone, Euphonium
Gene Goe, Oscar Brasher : Trumpet, Flugelhorn
Tom Scott, Mike Altschul : Sax, Flute

1. I Feel The Earth Move [C.King] C3 C3 C4 C19 C21 E3 E4 E5 E6 E7 E8 E8
2. Smackwater Jack [G. Goffin, C. King] C3 C3 C3 C4 C19 C21 G8 E1 E3 E4 E5 E6 E8
3. Home Again [C. King] C3 C3 C4 O14 G9 E1 E7 E8
4. Beautiful [C. King] C3 C3 C4 C19 E1 E4 E5 E8 S1
5. Up On The Roof [G. Goffin, C. King] C2 C4 C19 G39 E3 E4 E5 E6 E8 S2
6. It's Too Late [C. King, Toni Stern] C3 C3 C4 C19 C21 E1 E4 E5 E6 E8 S1

7. Fantasy Beginning [C. King] C7 E1
8. You've Been Around Too Long [C. King] C7 E1
9. Being At War With Each Other [C. King] C7 E1
10. That's How Things Go Down [C. King] C7 E1
11. Haywood [C. King] C7 E1
12. A Quiet Place To Live [C. King] C7 E1
13. You Light Up My Life [C. King] C7 E1
14. Corazon [C. King] C7 E1
15. Believe In Humanity [C. King]  C7 E1
16. Fantasy End [C. King]  C7 E1

17. You've Got A Friend [C. King] C3 C3 C4 C19 C19 C21 O10 G33 G39 E1 E3 E4 E5 E6 E8 E8 S1
18. (You Make Me Feel Like) A Natural Woman [G. Goffin, C. King, Jerry Wexler] C3 C3 C4 C19 C21 O10 G1 E3 E4 E5 E8 S1

収録: 1973年7月15日 Montreux Pavilion, The Montreux Jazz Festival, Montreux, Switzerland

 

1973年6月発売のアルバム「Fantasy」 1973 C7のプロモーションとして、録音に参加したデビッドT. ウォーカー・バンドとホーンセクションを伴ったツアーが実施された。本映像は7月15日スイスのモントルー・ジャズ・フェスティバルでの模様を撮影したもので、46年後の2019年にDVDとCDのセットで発売された。この映像を観ていると、発売当時「Fantasy」を聴いた時の感動と、あの時の自分の有様が蘇ってきて、何とも言えない気持ちになる。当時の私は、生きてゆくための目標・自信がなく、将来の姿を思い描くことができない悩める若者だった。そんな時、音楽は私にとって大きな心の支えだった(それは今も同じ)。なかでもジェイムス・テイラーとキャロル・キングの音楽は、私の心の中で特別な地位を占めていて、彼らが歩んだ人生は私への励みにもなったのだ。

2台のカメラによる撮影で、もともと販売目的ではなかったものと思われ、映像自体はシンプルで単調な感じであるが、その分音楽に集中することができるメリットもある。キャロルは「Tapestry」の頃とは異なり、パーマをかけた短めの髪で、どこかの奥様といった感じ。最初は少しナーバスな感じで、フランス語で「ボンソワール」と挨拶。1.「I Feel The Earth Move」から始め、しばらく弾き語りが続く。 映像では続いて 2.「Smackwater Jack」になるが、セットリストの資料によると「Way Over Yonder」とあったので、おそらく編集でカットされたのだろう。会場が明るかったようで、4.「Beautiful」を始める前に 「いつもと違って皆さんがよく見える」と語っている。5.「Up On The Roof」は合図をしてから始まるが、その後ステージ上にホーンセクションが立っていることがわかり、彼らに対するものだったことがわかる。ここでのホーンは3人による演奏。トランペットのジーン・ゴウ(1940- )は、ケニー・ドリューのザ・モダン・ジャズ・オーケストラやカウント・ベイシー楽団に所属のほかに多くのスタジオワークをこなしている。サックスのマイク・アルトショーは、フランク・ザッパ作品への参加が多い人。もう一人のトランペットは、何とトロンボーン奏者のディック・スライド・ハイド(セッション・プレイヤーとして有名な人)が吹いている。不思議に思ってよく見ると、普通のトランペットより大きく形状も微妙に違っていて、バルブ式のトロンボーンを使用しているように見える。再びキャロル一人の演奏に戻り、6. 「It's Too Late」が始まるとオーディエンスから拍手が起きる。 時たま崩し気味に歌う様がかっこいい。

ここでキャロルは立ち上がって挨拶し、アメリカン・フットボールのようなユニフォームを着たバンドが登場。メンバー紹介の後に「Fantasy」からの曲を演奏する。レコーディングに参加していない人が一人いる。エレキピアノ担当のクラレンス・マクドナルド (1944-2021) は、ジャズ、ソウル、ポップスの分野のセッションワークで活躍した人で、モータウンの多くの作品や、ジェイムス・テイラーの「Gorilla」1975、「In The Pocket」1976、「JT」1977のアルバムおよび当時のツアーに参加してた。7.「Fantasy Beginning」から16.「Fantasy End」までの一連の曲は組曲形式のアルバム「Fantasy」からであるが、演奏時間の関係からか、「Directions」(Being.... とThat's How....の間)と「Welfare Symphony」(A Quiet...とYou Light...)の間の2曲がオミットされている。ソリッドな演奏はスリリングで、バンドの演奏能力の凄さが伝わってくる。それにしても椅子に座って演奏するデビッド T ウォーカーのギタープレイは、空前絶後と言ってよいくらい個性的。9.「Being At War With Each Othe」では、サックスの二人はフルート、トロンボーンの二人はユーフォニアム(チューバを小さくしたような楽器)を吹いている。

10.「That's How Things Go Down」の後、ホーンセクションの紹介が入る。キャロルの自伝で、ツアーの企画者だったルー・アドラーが「夢のホーンセクション」と語っているいるように、当時活躍していた最高のセッションミュージシャンが勢揃いしている。ホーンセクションの残る三人について。サックスのトム・スコット (1948- )は、「Wrap Around Joy」1974 C8収録の「Jazzman」の奏者で説明不要。トロンボーンのジョージ・ボハノン(1937- ) は多くのセッションに参加している人。トランペットのオスカー・ブラシール (1944- )はセッションワーク主体の人で、ジャズ、ブルース以外にアース・ウィンド・アンド・ファイアやライ・クーダーの作品に参加している。11.「Haywood」は、マーヴィン・ゲイの音楽に近い。切れ目なく続く 12.「A Quiet Place To Live」は、ここではブリッジ以降が省略されていて、レコードよりもずっと短い演奏。スローな13.「You Light Up My Life」からアップテンポの14.「Corazon」に切り替わる場面は鮮やか。ここでは躍動感あふれるハーヴィー・メイソンのドラムスが滅茶苦茶に凄い。そしてキャロルがピアノをガンガン弾いていて、名手揃いのメンバーに引けをとっておらず、派手なプレイはしないけど、ピアニストとしての力量がはっきり見える。メドレーで続く15.「Believe In Humanity」はスティーヴィー・ワンダーの世界(当時発表された彼のアルバムは「Innervisions」1973) そっくり。

その後バンドは退場して、再びキャロル一人の演奏となる。ここで彼女は「アメリカ以外で演奏するのは初めてなの」と語っている(1971年のBBCはテレビ出演だからだね)。アンコール的な 17.「You've Got A Friend」と18.「(You Make Me Feel Like) A Natural Woman」の弾き語りでコンサートは終了するが、セットリストの資料によると、ここでも両者の間で「So Far Away」が演奏されていたようだ。どうせなら全部収録してほしかった、「Fantasy」以外の曲でもバンド演奏を聴きたかったという気持ちは残るが、こんな素晴らしい映像・演奏を50年近く経った後で観せて・聴かせてもらうだけで、生きていてよかったと感謝するしかないですね。

そしてアメリカでは2022年、日本では2023年から、同時期の5月26日に行われた同編成・構成によるセントラル・パークのコンサートも観れる・聴けるようになったんだから、盆と暮れが一緒に来たようなもんですな。

[2023年2月作成]

E3 One To One (1982)    MGM/UA Home Video




Carol King : Vocal, Piano, A. Guitar (7)
Mark Hollman : E. Guitar, A. Guitar (16), Percussion, Back Vocal, Music Coordinator
Robert McEntee : E. Guitar, Back Vocal
Eric Johnson : E. Guitar
Reese Wynans : Keyboards, Piano (4, 7, 10, 12)
Charles Larkey : E. Bass
Steve Meador : Drums
Christopher Dennis : Percussion
Richard Hardy : Alto Sax, Tenor Sax, Flute, Back Vocal

1. Jazz Man [C. King, David Palmer] C8 C19 C21 E4 E7 E8
2. Tapestry  C3 C3 E8 S1
3. Locomotion (Imcomplete) [G. Goffin, C. King] C14 C19 C21 E4 E5 E8 S2
4. Lookin' Out For Number One  C15
5. Take Good Care Of My Baby (Imcomplete) [G. Goffin, C. King] C21 E4 E8 S1
6. It Might As Well As September (Imcomplete) [G. Goffin, C. King] C21 G1 E8 S2
7. Smackwater Jack [G. Goffin, C. King] C3 C3 C4 C19 C21 E1 E2 E4 E5 E6 E8
8. Hey Girl (Imcomplete) [G. Goffin, C. King] C14 C21 E4 E5 E7 E8
9. One Fine Day [G. Goffin, C. King] C14 C21 E4 E5 E8
10. Chains [G. Goffin, C. King] C14 C19 C21 E4 E5 E8 S2
11. Up On The Roof (Imcomplete) [G. Goffin, C. King] C2 C4 C19 G39 E2 E4 E5 E6 E8 S2
12. I Feel The Earth Move  C3 C3 C4 C19 C21 E2 E4 E5 E6 E8 E8
13. So Far Away  C3 C3 C4 C19 C21 E4 E5 E6 E8
14. It's A War  C15
15. One To One (Incomplete) [Carole King, Cynthia Weil] C15 E3 E3
16. One To One [Carole King, Cynthia Weil] C15 E3 E3
17. (You make Me Feel Like) A Natual Woman [G. Goffin, C. King, Jerry Wexler]  C3 C3 C4 C19 C21 O10 G1 E2 E4 E5 E8 S1
18. You've Got A Friend  C3 C3 C4 C19 C19 C21 O10 G33 G39 E1 E2 E4 E5 E6 E8 E8 S1
19. One To One (Instrumental) [Carole King, Cynthia Weil] C15 E3 E3

収録: 1981年9月 Third Coast Studios, Austin, Texas

注: 青字は、リヴィング・ルームでの演奏(2.「Tapestry」のみコンサートと両方)


1982年にアルバム「One To One」C15を発表したキャロルがプロモーションのために製作したテレビ番組で、翌年ビデオで発売された。「Touch The Sky」1979 C13 から「One To One」までのアルバムが録音されたテキサス州オースティンでのスタジオ・ライブを撮影したもので、曲により服装やセットを変えており、オーディエンスはその間待っていたはずで、その意味から、コンサートではなく映像作成のためのライヴと言える。また曲間に、リヴィング・ルームでピアノの弾き語りを含む語りが挿入されるなど、彼女の生き様を味わいながら音楽を楽しむ構成となっている。本ビデオは、かなり昔に廃盤になっているが、インターネットで観ることができる。公式資料には、収録時期や場所についての記述がないが、コンサート映像のコレクターのトレード・リストに「1981年9月 Third Coast Studios, Austin, Texas」との記述があり、本記事ではそれに従った。

バック・バンドについて説明しよう。マーク・ホールマンは、「Simple Things」1977 C11と「Welcome Home」1978 C12のバックバンドを務めたナヴァロのメンバーで、その後「Touch The Sky」から「One To One」までのプロデュースを担当した人。ここではギター、パーカッション、バックコーラスを担当しているが、楽器演奏面は地味で、クレジットにあるように音楽監督の役割を担っている。キャロルとの仕事がきっかけで他アーティストのプロデュースを手がけるようになり、現在オースティンを本拠地とする有力なプロデューサー、エンジニア、スタジオ・オーナーになった。ギターのロバート・マッキンティーもナヴァロ出身で、後にイアン・マシューズやダン・フォーゲルバーグのバックを務め、2000年代にはソロアルバムを発表。現在は主にテレビや映画音楽の世界で活動しているそうだ。ホーン奏者のリチャード・ハーディもナヴォロ出身で、1989年の「City Streets」C17までキャロルと行動を共にし、現在もマルチ・ウィンド奏者として活躍中。リース・ウィナンは、ジェリー・ジェフ・ウォーカーのバックをやっていた人で、オールマン・ブラザース結成直前のバンド仲間だったこともある人。後にスティーヴ・レイ・ヴォーン等多くのセッションで活躍する。スティーヴ・メドウは、後にイアン・マシューズやレナード・コーエンのバックを担当する。特筆すべきメンバーは、ギターのエリック・ジョンソンで、あらゆるジャンルを完璧に弾きこなすプレイヤーとして、後に彼はギタリストの巨人の一人として評価されるようになるが、当時はまだそれほど有名でなかった。彼の参加は「Pearls」1980 C14 からであるが、他のミュージシャンとちょっと毛色が異なる雰囲気で、それがバンドに彩りを添えている。本拠地がオースティンという縁もあったのだろう。元夫のチャールズ・ラーキーについては説明不要。全体として上手い人達がそろっているという感じで、切れ味がよい演奏に終始していると思う。

最初の曲はアップテンポの 1.「Jazz Man」で、これでリスナーの気分は一気に高揚。リチャード・ハーディのアルトサックス・ソロは、オリジナルのトム・スコットに引けを取らない出来栄え。曲が終わると、ピアノのみによる「One To One」のイントロが流れ、リヴィング・ルームでアップライト・ピアノに向かうキャロルのシーンに切り替わる。2.「Tapestry」を 2ヴァース歌った後、そのままコンサート会場での同曲の弾き語りに繋がる。巧みな編集のおかげで、不自然な感じがしない。リヴィング・ルームに戻り、彼女の子供・ソングライター時代についての独白になる。画面に現れる当時の写真と、彼女の話し声が魅力的。続いて3.「Locomotion」を1ヴァース歌い、「この曲がヒットしたため、振り付けを後から考えることになったが、リトル・エヴァがうまくやってくれた」と話す。4.「Lookin' Out For Number One」は、ピアノをリースに任せ、キャロルはステージを歩きまわりながら歌う。リースのピアノとロバートのギターによる切れ味鋭い伴奏が聴きもので、エリックのギターソロも入る。後半、マークとロバートがキャロルに寄り添って、彼女のマイクに向かってコーラスを付ける様がカッコイイ。居間のシーンでのブリル・ビルディング時代の話の後に 5.「Take Good Care Of My Baby」、6.「It Might As Well As September
をちょっと弾き語る。本映像発表当時は、過去の名曲の本人によるプレイということで感激したもんだった。その後作曲時のデモテープなどの音源が聴けるようになったが、ここでの不完全ながらも、家族や友人に対して演奏しているような雰囲気のプレイも素晴らしい。キャロルは7.「Smackwater Jack」で、オーベイションのアダマス・ギターを弾きながら歌う。「Pearls」に収録した 8.「Hey Girl」について、彼女は「作曲時自分で歌いたかったが、当時は男性の視点で書かれた曲を女性が歌う事はできなかった」と語るのが面白い。ここでは未完成ながらも気合いを込めて歌っていて、彼女の歌声が十分心に染み入ってくる。

9.「One Fine Day」のイントロのピアノをニコニコしながら弾く様は誠に魅力的。10. 「Chains」では、メンバーが60年代の服装に着替え、キャロルはポニーテイルの髪型で、マーク、ロバートと一緒に1本のマイクに向かって歌う。特に最初のアカペラ・コーラス部分はノスタルジックなムードいっぱい。エリックのギターソロの間、ロバートとキャロルがジルバを踊るのが楽しい。
居間での11.「Up On The Roof」の後に続く、12.「I Feel The Earth Move」は、ロバートのギターソロが良い出来。ジェイムス・テイラーとの出会いの話の後、元夫のチャーリーと二人(プラス後半でのリチャードのフルートソロ)で演奏される13.「So Far Away」は、ステージに数多くのキャンンドルが灯され、ムードたっぷりのパフォーマンスで、曲が終わった後に二人が見つめ合うシーンが印象的。新作「One To One」C16からの 14.「It's A War」の後、キャロルが居間で当時のアイダホ州の牧場、当時の夫リック・ソレンソンとの生活について語り、シンシア・ウェイル(作詞家でバリー・マンの奥様)が訪ねてきて共作したという 15.「One To One」を歌詞カードを見ながら歌い、すぐにコンサート会場での16.「One To One」に切り替わる。エンディングでのエリックのギターソロがクリエイティブで聴き応え十分。ピアノのみによる「One To One」のイントロが入り、アンコールと思われる17.「(You make Me Feel Like) A Natual Woman」がしっとりと歌われる。曲が終わって直ぐに18.「You've Got A Friend」が始まり、曲の途中で曲の由来についての独白が挿入されるが、番組の流れから邪魔な感じはしない。彼女は途中で歌うのを止め(歌詞が飛んだようにも見える)、ピアノを弾きながらオーディエンスに感謝の言葉を述べ、再び歌い出す。最後のクレジット表示のシーンで 19.「One To One (Instrumental)」が流れるが、そこでメロディーとソロを取るエリックのギターが最高に素晴らしい。

彼女のライブ・パフォーマンスとしては、最初の公式作品で、それなりに良い雰囲気・出来であると思う。

[2015年9月作成]