C1 Now That Everything's Been Said [The City] (1969) Ode (CBS)


C1 Now That Everything's Been Said





Carole King : Vocal, Keyboard
Daniel "Cooch" Kortchmar : Vocal, Guitar
Charles Larkey : Bass, Lights
Jimmy Gordon : Drums (Guest)

[Side A]
1. Snow Queen [G. Goffin, C. King]  C4 C14
2. I Wasn't Born To Follow [G. Goffin, C. King]  C14
3. Now That Everything's Been Said [T. Stern, C. King]
4. Paradice Alley [D. Palmer, C. King]
5. Man Without A Dream [G. Goffin, C. King]
6. Victim Of Circumstance [D. Plamer, C. King]

[Side B]
7. Why Are You Leaving [T. Stern, C. King]
8. Lady [G. Goffin, C. King]
9. My Sweet Home [M. Allison]
10. I Don't Believe It [T. Stern, C. King]
11. That Old Sweet Roll (Hi-De-Ho) [G. Goffin, C. King]  C14
12. All My Time [G. Goffin, C. King]

Lou Adler : Producer


録音: 1968年 8月 Sound Recorders, Hollywood, Los Angeles
発売: 1968年 12月

注) 写真上: オリジナル・レコードのジャケット
   写真下: ブートレッグ(2nd Issueという説もある)のジャケット


1960年代の終わり、若いシンガーが自作の曲を歌うのが当たり前のような雰囲気になり、従来歌手のために曲を提供してきたソングライター達は活動の場を狭められ、息苦しさを覚えるようになっていた。しかも夫であり共作者のジェリー・ゴフィンとの結婚生活が破綻していたキャロルは、生活と仕事のあり方を全面的に変える必要に迫られる。まずベース奏者のチャールズ・ラーキーを公私のパートナーに選ぶ。1965年キャロルとジェリーが、友人で音楽コラムニストのアル・アロノウィッツと一緒に始めたTomorrowという自主レーベルは短命に終わったが、アルが二人に紹介し、契約したアーティストにミドルクラス(The Myddle Class)というグループがあり、そのベーシストがチャールズだった。ミドルクラスは同レーベルから3枚のシングルを発表、2枚目「Don't Let Me Sleep Too Long」は地元オルバニーでローカルヒットを記録したが、全米ではヒットしなかった。その他に彼らは、キャロルが同レーベルから発表したシングル「A Road To Nowhere」1966 のバックを担当したり、キング・ゴフィン作品のデモテープの作成に関わった。上記2枚目のシングルのB面「I Happen To Love You」は、モンキーズが採用しなかった曲を彼らがレコードにしたものという。そういう状況で、キャロルとチャールズは親しくなり、ふたりはニューヨークを離れ新天地を求めてロサンゼルスに移り住む(ジェリーとの離婚は1968年に成立し、彼とは1970年に結婚)。キャロルはそこでしばらくの間、ルイーズ、シェリーの二人の娘の養育に専念するが、彼らの家があったローレルキャニオンは、当時ジョニ・ミッチェル、クロスビー・スティルス・アンド・ナッシュなど多くのアーティストが住んでいて、開放的でクリエイティブな雰囲気に満ちていたという。そこでキャロルとチャールズはグループを結成し、知り合いのルウ・アドラーにデモテープを渡し、彼のプロデュースで製作したレコードが本作である。ルウ・アドラー(1933- )は、1960〜1970年代の音楽ビジネスで重要な地位を占めた人で、1960年代の初頭はキャロルが所属していたアルドン・ミュージックのロサンゼルス支社のゼネラルマネージャーを務め、そしてハーブ・アルパートと一緒にサム・クックを担当、名曲「(What A) Wonderful World」を共作する。その後ダンヒル・レコードを設立し、1965年バリー・マクガイアの「Eve Of Destruction (明日なき世界)」で成功、ママス・アンド・パパス等を世に出す。一方1967年のモンタレー・ポップ・フェスティバルを手掛けて、ジミ・ヘンドリックス、ジャニス・ジョップリン等のセンセーショナルなパフォーマンスで大成功、音源と映像の版権により財を成した。そんな彼は同年オードというレーベルを起こし、スコット・マッケンジーの「San Francisco (花のサンフランシスコ)」をヒットさせたところで、本作の話となる。

当時キャロルはソロアーティストとして矢面に立つ自信がなかったため、グループとしてのデビューを考えたという。ギタリストとして招かれたのはダニエル・クーチマー(ダニー・クーチ)。チャールスがニューヨークでバンド活動をしていた時からの知り合いで、ミドルクラス解散後ザ・ファッグスというグループに加入したが、そこでダニーと一緒になりアルバムを録音する。ニューヨーク生まれのダニーは、学生の頃に避暑地のマーサヴィンヤード島でジェイムス・テイラーと知り合い、一緒に音楽の腕を磨き、1966年にジェイムスと一緒にフライング・マシーンというグループを結成、レコーディングするが失敗。傷心のジェイムスはヘロイン中毒治癒後にイギリスに渡り、ビートルズのアップル・レコードのオーディションを受けデビューするが、そこにはダニーが知り合いのピーター・アッシャーにジェイムスの事を紹介したという裏話がある。ダニーは本作の後も、ソロアーティストとして勝負に出たキャロルのバックを続けるとともに、帰国したジェイムスのアルバム「Sweet Baby James」の製作に加わり、いずれも大成功を収める。その後は超売れっ子のセッション・ミュージシャンとしてリンダ・ロンシュタット、ジャクソン・ブラウン、クロスビー・アンド・ナッシュ、J. D. サウザー、ボブ・ディランなど無数の作品に参加。特にイーグルスのドン・ヘンリーのヒット曲「Dirty Laundry」1982 は、ミュージックビデオにも登場して強烈な印象を残している。80年代以降はプロデュースの仕事も増え、ボンジョビ、ビリー・ジョエル、Toto、ホール&オーツの作品を担当、近年は若手アーティストの作品も手掛けている。本作での彼のプレイは控えめではあるが、独自のクリエイティブな伴奏スタイルが既に完成されていた事を示している。ゲストとクレジットされたドラムスのジム・ゴードンは、当時ウエスト・コーストではハル・ブレインに次ぐ存在とされ、セッションで引っ張りだこだった。ふわっと浮き上がるような独特のグルーヴがある人で、無数のアルバムに参加した他、デラニー・アンド・ボニーやエリック・クラプトンのデルク・アンド・ドミノスでのバンド活動も名高い。しかし痛ましい事に、彼は1970年代から精神に異常をきたし、1983年に殺人を犯して現在も収監中とのことだ。チャールズ・ラーキーについては、次作以降で詳しく述べることにしよう。

本作の音作りは、はっきり言って70年代のシンガー・アンド・ソングライターのものとは異なり、モンキーズ、ママス・アンド・パパス、アソシエイション、タートルズ、フィフス・ディメンションなど60年代のウエストコーストのコーラスグループのサウンドを踏襲したものだ。そういう意味で、シンガー・アンド・ソングライターとしてのスタイルを確立する次作以降とは、サウンドポリシーがはっきり異なっている。キャロル自身彼らのようなグループに曲を提供していたので、本作のサウンドはごく自然なものだったのだろう。ピアノ、ギター、ベース、ドラムスとボーカル、および最小限のコーラスで厚みのある音を作り出しており、ミュージシャンの演奏手腕が光っている。1.「Snow Queen」は、氷のように冷たい女性のイメージをアンデルセンの童話「氷の女王」にダブらせた名曲。ロジャー・ニコルス・アンド・ザ・スモール・サークル・オブ・フレンズ(1968)、アソシエイション(1972)、ブラッド・スウェット・アンド・ティアーズ(1972)がカバーしているが、キャロル自身のバージョンが一番好きだ。ジャズワルツ風のアレンジで、ピアノのアルペジオとジム・ゴードンのドラミングが素晴らしい。彼女の演奏としては1971年の「Carnegie Hall Concert」 1996 C4、1980年のセルフカバー集「Pearls」 C14がある。C14の演奏はとても洗練されていていい感じだけど、オリジナル版の瑞々しさには敵わない。2.「I Wasn't Born To Follow」はディラン風の抽象的な歌詞が印象的な曲で、ザ・バーズが「The Notrious Byrd Brothers」 1968でカバーし、さらに映画「Easy Rider」 1969のサウンドトラックでも使用された。ザ・バーズがギター主体のアレンジだったのに対し、ここではピアノ主体のアレンジとなっている。ちなみにキャロルは「Pearls」1980 C14で再演している。タイトル曲の 3.「Now That Everything's Been Said」は、ウエストコースト風のからっとしたサウンドに乗せて歌われるんだけど、愛の破綻を歌った重い内容の歌との組み合わせは不思議なムードがある。キャロルとダニーの多重録音による厚みのある輪唱風のボーカル、ダニーのギターとジムの撥ねるドラムスが良い。この曲はビーチボーイズのブライアン・ウィルソンの奥さんマリリンが妹と組んだデュオ・グループ、スプリングが同名のアルバム「Spring」1972 でカバーしている。また、レコードとしては発売されなかったが、当時同じOdeレーベルに所属していた女優・歌手のペギー・リプトン(G1参照)が、「The Mod Squad」(警察官が、ヒッピーに変装して潜入捜査により事件を解決する内容のテレビシリーズ)の「The Death Of Wild Bill Hannachek」(1969年11月25日放送)のなかで、オーディションのシーンでこの曲を歌っている(そこでドラムスを叩いているのはハル・ブレインだ)。トニ・スターン(女性)は、当時はキャロルの共作者として「It's Too Late」、「Sweet Seasons」、「It's Gonna Take Some Time This Time」などの作品を残し、モンキーズ、ヘレン・レディー、ケニー・ロジャースなどにも曲を提供したが、いずれもキャロルとの共作だ。後に画家として成功し、現在も活動を続けている。4.「Paradice Alley」は、これからの人生についての迷いを歌っているようで、本作制作時における彼女の心情を物語っている。共作者のデビッド・パルマー(イギリスのジェスロ・タルのメンバーとは別人)は、上述のミドルクラスのシンガーだった人で、スティーリー・ダンの初アルバム「Can't Buy A Thrill」1972 で2曲ほどリードボーカルを担当していた。キャロルとのコンビでは、後に「Wrap And Joy」 1974 C8で、「Jazzman」などのヒットを飛ばす。5.「Man Without A Dream」は、ダニーがリードボーカルをとり、キャロルはコーラスを担当する。愛を失い人生に悩む男の気持ちを歌った曲で、モンキーズ、ライチャス・ブラザース、ベン・E・キングなどが録音している。6.「Victim Of Circumstance」は、心の迷いを歌っているけど、からっとした感じの典型的ウエスト・コーストサウンドに仕上げられている。チャールズのベースラインが強力で、終盤の「Papapa」というコーラスがタートルズ風で楽しい。

7.「Why Are You Leaving」は、ビートルズの香りが漂うポップなナンバーだけど、歌詞は愛する人に去られた虚しさに満ちている。8. 「Lady」の曲自体は平凡な感じだけど、ダニーの渋いギターワークが光っている。9.「My Sweet Home」は本作唯一の他人の曲で、ゴスペル音楽界で名高いマーガレット・アリソンが作曲し、彼女が率いる Angelic Gospel Singersの録音がある。ここではダニーとキャロルの二人がリラックスした感じで歌っている。10.「I Don't Believe It」も人間不信を歌う重い歌詞でありながら、魅力的なメロディーを持つポップソングで、キャロルとダニーが交互に歌うのが面白い。11.「That Old Sweet Roll (Hi-De-Ho)」はブラッド・スウェット・アンド・ティアーズが1970年の「BST3」で取り上げ、シングルカットされて全米14位のヒットを記録した曲で、キャロルのボーカルの真骨頂発揮の曲だ。その後彼女はシンガー・アンド・ソングライター風のクールで抜いた感じのボーカルスタイルで売り出すのだが、ここでのR&B風のガッツ溢れる歌声は大したもので、60年代の彼女の作品に見られる黒っぽさを見事に体現しているものだ。本作のなかでも 1.「Snow Queen」とともに時代の波に洗われても色褪せることのない名曲・名演。これも「Pearls」で再演されたが、当時の熱気をしっかり閉じ込めたオリジナルのほうが遥かに出来がよい。間奏で下手くそなフィドルが聞こえるが、クレジットで「Lights」と表示されたチャールズ・ラーキーが演奏しているものと思われる。12.「All My Time」もウエストコースト・ポップ風のサウンド。

本作は、当時ルウ・アドラーが契約していたコロンビアから発売され、一部の人々から好評だったが大きなヒットにはならなかった。そのしばらく後、彼がハーブ・アルパートが経営するA&Mに移籍した際に廃盤となり、幻のアルバムとして中古市場で高値で取引されるようになり、白黒印刷のジャケットによる粗悪なブードレッグ品(2nd Issueという説もある)まで出回ることになった。約20年以上経った後の1993年にCDで再発売され大評判となり、リイシューものとしてはベストセラーを記録した。私はずっと以前から初めはブートレッグ(レコードの質良くない)、そしてカラー印刷によるオリジナル・レコード盤を入手し、カセットテープに落として愛聴していたが、ルウ・アドラーが本作を90年代になるまで再発売しなかった理由がよく分かる。「Tapestry」で新しい時代を象徴するシンガー・アンド・ソングライターの音楽を確立したキャロルの事を考えると、本作のサウンドは当時のリスナーには古臭く聴こえたはずだからだ。しかしながら、本作の楽曲と演奏の質の高さについては、異論の余地は全くないと思う。サウンドが古い理由だけでは批判されることがなくなり、音楽の内容で評価されるようになった現代においては、正当に扱われる作品なのだ。もし本作が1970〜1980年代に再発売されていたら、こんなに話題にならなかったと思う。そういう意味でルウ・アドラーはしたたかな人だ。

それだけでも購入に値する名曲・名演がある他に、キャロルがウエストコースト・ポップに取り組んだ作品として楽しむといいと思います。

[2008年10月作成]


C2 Writer (1970) Ode (A&M)





Carole King : Vocal, Keyboard
James Taylor : Acoustic Guitar, Back Vocal
Daniel Kortchmar : Electric Guitar, Acoustic Guitar, Conga
Charles Larkey : Bass
Joel O'Brien : Drums, Percussion, Vibes
Ralph Schuckett : Organ
John Fischbach : Moog Synthesizer
Abigale Haness : Back Vocal

[Side A]
1. Spaceship Races [G. Goffin, C. King]
2. No Easy Way Down [G. Goffin, C. King] C4
3. Child Of Mine [G. Goffin, C. King] C4 O7
4. Goin' Back [G. Goffin, C. King] C14
5. To Love [G. Goffin, C. King]
6. What Have You Got To Lose [T. Stern, C. King]

[Side B]
7. Eventually [G. Goffin, C. King] C4
8. Raspberry Jam [T. Stern, C. King]
9. Can't You Be Real [G. Goffin, C. King]
10. I Can't Hear You No More [G. Goffin, C. King]
11. Sweet Sweetheart [G. Goffin, C. King] 
12. Up On The Roof [G. Goffin, C. King]  C4 C19 G39 E2 E3 E4 E5 E6 E8 S2


John Fischbach : Producer
Andrew Berliner : Engineer
Gerry Goffin : Mixing

録音: 1970年3,4月 Crystal Studio, Hollywood, Los Angeles
発売: 1970年9月

ザ・シティというグループで発売した前作が商業的に失敗し、レコード配給会社の移籍もあり、すぐに廃盤になってしまった。当時キャロルはソロシンガーとしてやってゆく自信がなかったというが、第2作目は彼女を表に出して、初めてソロアルバムという体裁で挑戦した。批評家の評判は良かったものの、この作品も全然売れず、次作「Tapestry」が大成功を収めた後にアルバムチャート入りし、84位を記録した。彼女の作品のなかでも地味な存在であり、シンガー・アンド・ソングライター・ブームの筆頭として大ブレイクする「Tapestry」の影に隠れ、過渡期・揺籃期的なサウンドではあるが、内容的には大変良質であり、個人的には彼女のアルバムのなかで最も愛着があり、現在に至るまで繰り返し聴き続けてきた作品だ。少ない小遣いを必死に貯めてレコードを買っていた少年は、自宅近くにあった中古レコード店「ハンター」に行き、約半額で売られていた中古盤を漁るのが日課だった。そこで見つけた本アルバムは、キングレコードから発売された二つ折りジャケットのレコードで、歌詞カードの他に1960年代に彼女が作曲した曲のリストが付いていて、その多さにビックリしたものだ(当時はそれらの曲の内容については見当もつかなかったけど、後年聴く機会が広がってゆく)。そういう意味で、1970年代の初めの私は、シンガーとしてのキャロルのファンになったわけで、作曲家としてはその後の話となる。当時の音楽界は、ビートルズが解散し、ヒット曲を量産するグループサウンドが衰退傾向にあり、ニューロックと呼ばれる、よりハードでアーティスティックな音楽が台頭していた。創造性が重視され、自己の作品を歌うアーティストが評価される時代になってゆく。従来弾き語りはギターによるフォーク風音楽が主流で、ピアノはジャズ・シンガーが使用するイメージであったが、キャロルやローラ・ニーロ等ピアノで作曲をする人たちが自分で歌うようになり、新しい世界が開けてゆく。

バックを担当するミュージシャンは、ダニー・クーチをリーダーとするグループ、ジョー・ママの連中に、当時「Sweet Baby James」を発売したばかりのジェイムス・テイラーが加わったもの。キャロルとジェイムスは1969年頃、ダニーの紹介で知り合い、舞台恐怖症だった彼女は彼のステージを手伝い、コンサートでゲストとして歌うことにより度胸と自信を付けたようだ。ジェイムスにとって本作はセッション参加作品として最も初期のアルバムであり、彼のアコースティック・ギターの伴奏の最良のプレイを聴くことができる。ジョエル・オブライエン(1943-2004)は、以前ダニーやジェイムスとフライング・マシーンというバンドを組んでいたことがあり、当時録音されボツになった録音がジェイムスが有名になった後に発売されている。またジェイムスのアップルでの初ソロアルバムにも加わっている。ジョーママ解散後は主にジャズの世界で活躍したが、その活動は地味だった。キーボードのラルフ・シュケット(1948-2021)は、後にトッド・ラングレン、ベット・ミドラー、シェール、ホール・アンド・オーツの作品に参加、後にアレンジャー、プロデューサーとしても活躍し、ザ・バンド、ベリンダ・カーライルなどの作品を担当している。キャロルとジェイムスの作品には、「Tapestry」、「Walking Man」に参加している。バック・ボーカルのアビゲイル・ハネスはジョー・ママのボーカリストで、当時ダニーの奥さんだった人。ジョー・ママ解散後はダニーとも別れ、ジェフ・マルダー、ビル・ワイマン、ハリー・ニルソンや、ブロードウェイ・ミュージカルの「Rocky Horrer Show」1974 にも参加したが、1980年代以降は活動の記録がない。本アルバム録音当時、ルー・アドラーは映画製作にかかりっきりだったため、プロデュースはジョン・フィッシュバッハが担当した。ちなみに元夫君のジェリー・ゴフィンがミックスダウンで協力している。

1.「Spaceship Races」はウエストコースト・ロックの香りに満ちた曲で、イントロのダニーのギターのヘビーなサウンドが誠に印象的。1970年代の洗練されたスタジオワークとは異なる、荒削りであるがライブ感あふれる雰囲気が素晴らしい。キャロルのボーカルもパンチが効いていて、スケールの大きな歌いっぷり。次作以降にはないタイプの曲だ。2.「No Easy Way Down」は、ソロ・シンガーとしてのキャロルの魅力が出ている。本作以前にダスティー・スプリングフィールド、ジャッキー・デシャノン、バーバラ・ストレイサンド、変わったところではデュアンとグレッグのオールマン兄弟がポップに挑戦したアワーグラスなどが録音。本作以降もスコット・ウォーカー、ナンシー・ウィルソン等がカバーしている。キャロルのシンプルなピアノ、ラルフのオルガン、ダニーのギターのアンサンブルがとても良い。クレジットにはないがブラスセクションの音が聞こえる。3.「Child Of Mine」は母性愛が表現された佳曲で、ピアノとエレキピアノ主体のシンプルな伴奏がストレートな曲調に合っている。同時代ではアン・マレー、シラ・ブラック、後にエミルー・ハリス、娘のシェリー・ゴフィンが歌っている。4.「Goin' Back」は本作のハイライト。もともとダスティー・スプリングフィールド(1966年 英10位)、ザ・バーズ(1967年 89位)が録音した曲であるが、ここではJTのアコースティック・ギターの素晴らしい伴奏とバックボーカルが聴ける決定盤となった。多重録音による澄んだアコギの音の厚みのある録音が最高で、JTのアコギプレイとしてもベストの出来。心を揺さぶる歌詞、そして必殺のメロディー、言うことなしの名曲だ。後にもダイアナ・ロスやフレディー・マーキュリーなど多くのアーティストがカバーしている。5.「To Love」は息抜きに相応しいカントリー音楽調の軽い曲で、当時「Woodstock」をヒットさせたマシューズ・サザン・コンフォートやキム・カーンズが歌っている。ダニーの曲のスタイルに合わせた変幻自在のギターワークは凄い!6.「What Have You Got To Lose」はポップにジャズのスパイスを振りかけたような曲で、後の洗練されたニューソウル音楽と共通点がある。ダニーによるギターワークが大変カッコよく、魅力的なメロディー、そしてとりわけ「Come on, and get me」と歌い、聴く者の心を掴むキャロルのソウルが最高!

7.「Eventually」は本作では珍しくポリティカルな内容の歌。JTのアコギの背後にはストリングが入り、間奏ではダニーがギターソロを入れる。フォークシンガーのバフィー・セイント・メリーがカバーしている。8.「Raspberry Jam」は、前作の「Snow Queen」の雰囲気の延長戦上にあるジャズワルツで、バックのバンドの少し背伸びをした感がある演奏が微笑ましい。ジョエルとチャーリーのリズムセクションの器用さが光る。ラルフのオルガンとダニーのギターは一生懸命。ダニーが早弾きのプレイを見せ、キャロルのピアノを聴かせるパートもある。ヴァイブ・ソロはジョエル。9.「Can't You Be Real」は、本作の中では個性に欠けているせいか、地味に聞こえてしまう曲。10.「I Can't Hear You No More」は、シェールやケイト・テイラーのリバイバルでヒットした「It's Her Own Kiss」やリンダ・ロンシュタットの「You're No Good」のオリジナルを歌った歌手ベティ・エベレットが1964年に歌ったR&Bナンバー(66位)。後の1976年にヘレン・レディーがリバイバルさせ29位のヒットとなった。11.「Sweet Sweetheart」はブラスをフィーチャーしたカントリーとソウルを融合させたようなナンバー。JTのアコギがフィーチャーされ、エンディングではアビゲイルのソウルフルなシャウト・ボーカルが聞こえる。12.「Up On The Roof」は、本作もうひとつのハイライトで、キャロルのピアノとJTのギターががっちり組んだ鉄壁の伴奏に、キャロルの必殺ボーカルが加わる。歌詞よし曲よし、演奏・歌よしの名曲・名演。もともとはドリフターズ1962年ヒット曲(5位)を、しっとりしたアレンジに焼き直しオリジナルなサウンドに作り替えた。トニー・オーランドとドーン、ニール・ダイヤモンドなど大変多くの人々がカバーしたが、私が最も好きなのは、1970年のローラ・ニーロのカバー(アルバム「Christmas And The Beads Of Sweat」に収録され、シングルカットされて彼女唯一のチャートイン 92位を果たした)。JTのバージョンは、1979年に28位のヒットとなり、その後もコンサートの常連曲になっている。

50年以上経った後も、頻繁に聴くアルバムで、収録曲のほとんどに愛着を覚える。個人的には「Tapestry」よりも好きなアルバム。

[2008年11月作成]



 
 
 
C3 Tapestry (1971) Ode (A&M)
 




Carole King : Keyboard, Vocal, Back Vocal (8,10)
James Taylor : Acoustic Guitar (2,4,6,7), Granfaloon (9), Back Vocal (9)
Danny Kootch : Electric Guitar (1,3,6,8,10), Acoustic Guitar (9) ,Conga (3,5,7)
Charles Larkey : Electric Bass (1,2,3,5,6,8,10) String Bass (4,7,9,12)
Joel O'Brien : Drums (1,3,5,6,10)
Rus Kunkel : Drums (2,4,8,9)
Ralph Schuckett : Electric Piano (3,8,10)
Curtis Army : Flute (2), Soprano Sax (3), Tenor Sax (6), Balitone Sax (10)

Perry Steinberg : String Bass (6)
Barry Socher : Violin (6,7)
David Campbell : Viola (6,7)
Terry King : Cello (6,7)

Mary Clayton : Back Vocal (6,7,8,10)
Julia Tillman : Back Vocal (8,10)
Joni Mitchell : Back Vocal (9)

[Side A]
1. I Feel The Earth Move [C. King]  C3 C4 C19 C21 E2 E3 E4 E5 E6 E7 E8 E8
2. So Far Away [C. King]  C3 C4 C19 C21 E3 E4 E5 E6 E8
3. It's Too Late [C. King, Toni Stern]  C3 C4 C19 C21 E1 E2 E4 E5 E6 E8 S1
4. Home Again [C. King]  C3 C4 O13 G9 E1 E2 E7 E8
5. Beautiful [C. King]  C3 C4 C19 E1 E2 E4 E5 E8 S1
6. Way Over Yonder [C. King] C3 C4 E1 E8 S1

[Side B]
7. You've Got A Friend [C. King] C3 C4 C19 C19 C21 O10 G33 G39 E1 E2 E3 E4 E5 E6 E8 E8 S1
8. Where You Lead [C. King, Toni Stern] C21 O12 G9 E5 E8
9. Will You Love Me Tomorrow [G. Goffin, C. King] C3 C4 C19 C21 G49 E4 E5 E6 E7 E8 S4
10. Smackwater Jack [G. Goffin, C. King] C3 C3 C4 C19 C21 G8 E1 E2 E3 E4 E5 E6 E8
11. Tapestry [C. King] C3 E3 E8 S1
12. (You make Me Feel Like) A Natual Woman [G. Goffin, C. King, Jerry Wexler]  C3 C4 C19 C21 O10 G1 E2 E3 E4 E5 E8 S1

Lou Adler : Producer
Hank Cicalo : Engineer

録音: 1971年1月4,8,11,12,15日  A&M Recording Studio, Hollywood, Los Angels
発売: 1971年2月


[Bonus Track]

13. Out In The Cold [C. King]
14. Smackwater Jack [G. Goffin, C. King] C3 C3 C4 C19 C21 G7 E1 E2 E3 E4 E5 E6 E8

録音: 13. 1971年1月11日  A&M Recording Studio, Hollywood, Los Angels
     14. 1973年5月21日  Live in Boston
発売: 1999年

15. I Feel The Earth Move [C. King]  C3 C4 C19 C21 E2 E3 E4 E5 E6 E7 E8 E8
16. So Far Away [C. King]  C3 C4 C19 C21 E3 E4 E5 E6 E8
17. It's Too Late [C. King, Toni Stern]  C3 C4 C19 C21 E1 E2 E4 E5 E6 E8 S1
18. Home Again [C. King]  C3 C4 O13 G9 E1 E2 E7 E8
19. Beautiful [C. King]  C3 C4 C19 E1 E2 E4 E5 E8 S1
20. Way Over Yonder [C. King] C3 C4 E1 E8 S1
21. You've Got A Friend [C. King] C3 C3 C4 C19 C19 C21 O10 G33 G39 E1 E2 E3 E4 E5 E6 E8 E8 S1
22. Will You Love Me Tomorrow [G. Goffin, C. King]  C3 C4 C19 C21 G49 E4 E5 E6 E7 E8 S4
23. Smackwater Jack [G. Goffin, C. King] C3 C3 C4 C19 C21 G8 E1 E2 E3 E4 E5 E6 E8
24. Tapestry [C. King] C3 E3 E8 S1
25. (You make Me Feel Like) A Natual Woman [G. Goffin, C. King, Jerry Wexler]  C3 C4 C19 C21 O10 G1 E2 E3 E4 E5 E6 E8

録音: 1973年 in Boston, Massachusetts; Columbia, Maryland; Central Park, New York City
    1976年 at The San Francisco Opera House, San Francisco, California
発売: 2008年


[おまけ]

「TAPESTRY REVISITED」 1995 (写真下)

26. I Feel The Earth Move [Eternal]  
27. So Far Away [Rod Stewart]
28. It's Too Late [Amy Grant] 
29. Home Again [Curtis Stigers]
30. Beautiful [Rihcared Marx]
31. Way Over Yonder [Blessed Union Of Souls] 
32. You've Got A Friend [Bebe & Cece Winans Featuring Aretha Franklin]
33. Where You Lead [Faith Hill]
34. Will You Love Me Tomorrowl [Bee Gees]
35. Smackwater Jack [The Manhattan Transfer]
36. Tapestry [All-4-One]
37. (You make Me Feel Like) A Natual Woman [Celine Dion]

発売: 1995年 Atlantic Recording Corporation


このアルバムについては、あまりに多くの事が語られているので、私は自分が感じた事を中心に書きます。2012年春、キャロルの自伝が発売されましたが、あえて読む前に本アルバムの記事を書いてみました。発表から40年の歳月が経った 2012年の時点で思うに、キャロル・キングの「Tapestry」と、ジェイムス・テイラーの「Sweet Baby James」1971 の前に同じようなアルバムはなく、音楽界はそれ以前と以降で大きく変わったと思う。その背景にはいろんな要因が考えられるが、これらの作品が、絶妙なタイミングで世に出て、受け入れられたということだ。

[サウンド面から]
60年代のポップスのレコードを今聴くと、70年代の作品と比べて、リズムや演奏面で甘さがあるのは明らか。これはパフォーマーの演奏技術の問題もあるが、録音技術の進歩によるものが大きい。60年代後半のビートルズによる新しいサウンドの追求が、マルチトラック・レコーディングを生み出し、編集技術の進化がオーバーダビングやパンチインによる部分的な修正を可能にした。レコードは、その後何十年も繰り返し聴かれるものとして、完璧な製作が求められるようになる。「Tapestry」は、プロデューサーのルウ・アドラーのためにキャロルが作ったタペストリー(刺繍)をレコードのジャケットの見開きに掲載することで、アルバムの手作り感を強調しているが、ここでの演奏は非の打ち所がない完璧なものになっている。ルー・アドラーは、音楽関係者の間で評判が高かったキャロルのデモテープを意識して、シンプルな出来上がりを目指したというが、完成度において、ここでの音楽はデモとは全く次元が異なるものだ。これはミュージシャン達の技量の高さのみならず、当時最新の技術を駆使して録音されたものと思われる。またここでは、ジャズの要素が今までになく自然に取り入れられているも画期的。当時父が聞くジャズボーカルのレコードを一緒に聞いていた私は、このアルバムのサウンドを聴いて、「これだ!」と思ったことを覚えている。当時ロックやポップスが挑戦する「ジャズっぽいサウンド」は、気難しさと気負いがむんむんしていたが、このようにさりげなく、さらっと消化した事はなかった。ここでのドラムス、ベース、エレキギターによるリズムセクションは、4ビートで演奏しているわけでないけど、ジャズ演奏の精神に近い自由な境地が感じられ、本当に素晴らしいものがある。リズムセクションは譜面があったというが、ダニー・クーチのギターの伴奏・ソロは、即興性に溢れていて、何回聴いてもスリリングさが褪せることはない。そこに自然な崩しを入れたキャロルのボーカルと、シンプルであるが力強い彼女のピアノが加わると、どこかのジャズクラブでピアノの弾き語りを聴いているような気分になる。そして気取りのないバンドの演奏はそれを邪魔せず、むしろ盛り立てているのだ。キャロルの前作「Writer」では、作為性を感じさせるアレンジがかなりあったが、ここではヘッドアレンジのような自然な雰囲気がある。といっても思いつきの演奏では、ここまで完璧なプレイはできないはずで、周到な準備があったものと思われるが、それを感じさせない事が、これまでのポップスのレコードと一線を画す点といえる。という意味で、このアルバムは、当時の演奏技術と録音技術に関する飛躍的な進歩、完璧主義を、当時台頭しつつあったプログレッシブ・ロックではなく、このようなシンガー・アンド・ソング・ライターの製作に適用した初めてのケースだったといえる。

[歌詞・文化面から]
本作品以前の音楽の歌詞は、イメージとして、ラブソング主体のポップなものとディランやフォーク歌手による気難しいものに、はっきり分かれていたように思われる。キャロルは、マンハッタンのアルドン・ミュージックの所属ライターとして、1960年代は多くの歌手のために曲を提供したきたわけで、完全に前者のカテゴリーに属すが、1960年代末から1970年代前半に自作曲を歌うことに方針転換して、自分のために曲を書き始めたが、その結果、上記両者が見事にブレンドした作風が生れたといえる。ラブソングでありながら、人生や女性としての自立を歌い込んでおり、気さくでポップでありながら深みのある世界を創り上げることに成功している。また当時のヒッピー・ムーブメントとウーマンリブという文化的風潮に見事に乗ったとも言える。それは、一部のマスコミで取り上げられた過激なものではなく、一人の知的な女性の生活感として自然に描かれたものなのだ。女性歌手として、流行歌として大衆の支持を得ながら、高度な芸術性、独創性を発揮することができたことで、その後の歴史に残るエポックメイキングな作品となった。またルウ・アドラーによると、ジャズボーカルのジューン・クリスティーのアルバム「Something Cool」1954 の影響を受け、アルバムの構成、曲の配列に気を使い、ストーリー性のあるアルバムの製作を意識したという。当時多く発売されたプレグレッシブ・ロックの作品は、「大作」と呼ばれるコンセプト・アルバムが多かったが、本アルバムのようなシンプルなサウンドの作品に、それとなくトータル性を持たせたことに意義がある。

[楽曲について]
このアルバムから最初にシングルカットされた曲は、1.「I Feel The Earth Move」だった。しかしラジオ局のDJがB面の3.「It's Too Late」を好みオンエアーしたため、両面Aサイド扱いとなり、全米ヒットチャート1位連続5週の大ヒットとなった。そのため、アメリカではこの曲の知名度は大変高く、ライブで彼女がイントロを弾き始めると大きな拍手が起きる。アップテンポで愛の芽生えを歌った曲は、アルバムの出だしにピッタリだ。2.「So Far Away」は一転して別れの歌。何度聴いてもじ〜んとくる歌詞で、ジェイムス・テイラーによるアコースティック・ギターの繊細な響き、キャロルの情感が籠ったボーカルがとてもよい。この曲もシングルで同年全米14位のヒットを記録した。3.「It's Too Late」の歌詞を書いたトニ・スターンは、キャロル以外とはあまりチームを組まなかったようで、その後は画家として活躍している。間奏でソプラノ・サックスを吹いているカーチス・アーミーは西海岸で活躍したジャズ音楽家で、60年代に自己名義のアルバムを発表したが、テナー、バリトン・サックスやフルートも吹ける器用な人で、70年代以降はスタジオでのセッションワークが主体となり、本作品がその代表作となっている。40年以上経った今、この曲を聴くと、何も知らなかった子供の頃と人生の悲哀を味わった今と、聴く者の側に大きな違いがあるのに、何故か当時と変わらぬゾクゾク感があるのが不思議。私にとって一生色褪せない「Evergreen」だ。4.「Home Again」は孤独の不安を歌っているが、彼女が弾くピアノの響きとボーカルに力強さがあり、ポジティブな包容力に満ちている。 5.「Beautiful」は、自己を見つめた女性が「美しさ」を発見する内容の歌詞で、女性の主体性を高らかに主張する当時の流行に合ったものだ。 6.「Way Over Yonder」は、未来への希望を歌っていて、ゴスペル調のサウンドで歌い上げるキャロルのソウルフルなボーカルが素晴らしい。レコードは、B面にひっくり返すための切れ目があり、そういう意味で第1部となるA面の終わりには最適な曲だ。ここでバック・ボーカルを担当し、見事な合いの手を入れているメリー・クレイトン(1948- )は、セッション・シンガーとしてレイ・チャールズ、エルヴィス・プレスリー、ジョー・コッカーなどの録音に参加。一番有名なのは、ローリング・ストーンズ「Gimmie Shelter」1961のコーラスにおける迫力満点のセカンド・ヴォイスだろう。

7.「You've Got A Friend」はポピュラー史上最高の名曲のひとつといってもいいと思う。1970年11月24〜29日、ロスアンジェルスのライブハウス、トルバドゥールにキャロルとジェイムス・テイラーが出演した際、キャロルの演奏を聴いたジェイムスはこの曲に惚れ込み、ギターにアレンジして歌って見せたところ、彼女に「貴女にあげるわ」と言われたというエピソードがある。この曲はジェイムスのアルバム「Mud Slide Slim」1971に収録され、シングルカットされて、JT唯一の全米1位のヒット曲となった。キャロルのピアノとボーカルは、ジェイムスのバージョンよりもストレートな感じで、説得力十分。8.「Where You Lead」は、男の後を追ってゆく女性を歌ったもので、アルバムに収録したものの、女性の自立を称揚する当時の風潮に合わないとされた。しかしこの曲は、2000〜2007年にアメリカで放送されたテレビドラマ「Gilmore Girls」のテーマ曲に取り上げられ、その際作詞を担当したトニー・スターンに連絡を取り、男女の仲を描いた部分を書き直し、ドラマにおける親子の愛にも解釈できるような内容となった。キャロルは、新しく録音されたバージョン O13で、娘のルイーズ・ゴフィンとデュエットで歌っている。9.「Will You Love Me Tomorrow」は、ザ・シレルズが歌って1960年全米1位を獲得した名曲で、キャロルは原曲のポップな雰囲気をがらりと変えて、テンポを下げてじっくり歌い上げている。ここまで聴くと本作のB面は、愛を求める女性をイメージしていることがわかる。10.「Smackwater Jack」は、アウトローを描いた内容の歌詞で、ラブソング主体の本作の中では口直し的存在。バックコーラスを担当するジュリア・ティルマンは当時売れっ子のセッション・シンガー。11.「Tapestry」は、人生をつづれ織りに例えた美しい歌で、本アルバムの中では唯一彼女一人による演奏。メロディー自体はシンプルなので、何度か転調をすることで、曲に変化をつけている。 12.「(You Make Me Feel Like) A Natual Woman」は、アトランティック・レコードの共同オーナー兼プロデューサーのジェリー・ウェクスラーがアレサ・フランクリンのために思いついた曲名に基づき、キャロルとジェリー・ゴフィンが作曲したもので、アレサによる歌は1967年全米8位のヒットを記録した。キャロルの歌もアレサに劣らぬエモーショナルな歌唱で、彼女の歌声の魅力が最大限に発揮されている。

[ジャケット]
縞目のエンボス紙に印刷された彼女のポートレイトが素晴らしかった。この写真は当時彼女が住んでいたハリウッド郊外、ローレル・キャニオンのワンダーランド・アヴェニューにあった彼女の家で撮影された。ジム・マックラリー(1939-2012)は、当時A&Mレコードの専属写真家で、キャット・スティーブンス、カーペンターズ、ジョー・コッカー、キャプテン・アンド・テニールなどのジャケット写真、プロモーション写真を数多く手がけていて、本作の表紙写真は彼の代表作となった。彼によると、「キャロルを居間の窓際に座らせたところで、部屋の向こうの座布団の上に寝ていた猫を写真に入れることにした。明るい所に座布団ごと運んだところ、1枚目では猫はそのまま寝ていたが、キャロルの写りが良くなかった。ジャケット写真に使用することになった2枚目の時、猫は起き上がり伸びをして、3枚目では、退屈して他所に行ってしまった」とのこと。ハーフ・シャドウの陰影が印象的なキャロルは温和な表情で、手には中ジャケットに掲載された織りかけのタペストリーがある。立膝をついた左足は裸足で、当時のヒッピーのような生活を物語っている。そういえば、五輪真弓が尋ねた際のスタジオでの彼女も、裸足だったという。このジャケット写真は、後の再発CDでは、ピンボケ気味でしかも艶のある紙に印刷されているため、どうもしっくりこない。やはりオリジナル・レコード盤の艶消し紙による印刷が最高。私が持っているのは、キング・レコードから発売された日本盤の初版であるが、40年の経年変化により程好く褪せて、とても良い色調になっている。

[ボーナストラック]
1999年に発売されたリマスターCD盤には、2曲のボーナストラックが収録された。
13.「Out In The Cold」は、1971年1月11日録音ということで、正に本アルバムのセッションからの未発表曲。ルウ・アドラーのインタビューによると、「この曲は他よりも早い時期に書かれたもので、彼女がクッキーズやリトル・エヴァに書いていた頃ならば、世に出たものだったんだ」と語り、この曲が本アルバムの他の曲と毛色が異なること。当時のレコードは12曲がお決まりだったことをアウトテイクとなった理由に挙げている。彼は、「ボーナストラックとして入れるか迷った」と語っているが、なかなか良い曲だと思う。他の曲に比べて、演奏が少し荒っぽいかなという感じではあるが、バックコーラスはついているので、リハーサルではなく、早い段階でアルバムに含めないことが決まったものと思われる。そういう意味で、アルバムに収録された他の曲が、テイクを重ねて磨き上げられていったことが推測される意味においても、興味深いトラックだ。14. 「Smackwater Jack」は、ボストンでの弾き語りライブで、ピアノのワイルドな演奏が印象的。なお、このアルバムのブックレットの裏面には、「Tapestry」のマスターテープ箱の写真があり、そこにはA面の最後の曲が「Natural Woman」、B面の最後から2番目が「Way Over Yonder」、最後が「Tapestry」と記載され、後に上記の曲順に書き直している様がはっきり読み取れる。企画の最終段階で曲順を変更したことが分り大変興味深い。またジェイムステイラーが短い賛辞を寄せている。
2008年に発売されたソニー・レガシー盤は、1973年および1976年のライブにおけるキャロルの弾き語り音源(未発表バージョン)がボーナスディスクとして添付された。「Tapestry」と同じ曲順に編集したのがミソで、これにより彼女の弾き語りバージョンでアルバムを擬似体験できるという趣向だ。プロデュースはルウ・アドラー、エンジニアはハンク・チカロというオリジナルコンビによる作業だ。ただし全曲収録ではなく、「Where You Lead」のみ上述の通り、時代に合わないとしてキャロルがライブで演奏しなかったため、本曲を除く11曲が収められた。キャロルの弾き語りの魅力を改めて再確認できる。

それにしても、いやはや.....。オリジナルのレコード、ボートラ入り再発CD、2枚組みボックスセットの「A Natural Woman The Ode Collection 1968-1976」(そこには「Tapestry」の曲がすべてオリジナルの順番で含まれている)、そしてレガシー盤と、生涯何回同じ曲(録音)を買わされるのかなあ..............

[おまけ]
1995年アトランティックから「Tapestry」のトリビュート・アルバムが発売された。様々なジャンルの参加アーティストによるカバーをアルバムの曲順通り並べたもので、それぞれの曲がアーティスト自身の個性で消化し切ったものとなっている。収録曲の全てが名曲であり、捨て駒が全くないアルバムならではの企画だ。なかでは、ロッド・スチュワートのロック「So Far Away」、エミー・グラントによる「It's Too Late」、ベベ・アンド・セセ・ウィナンズとアレサ・フランクリンが歌うR&B「You've Got A Friend」、ビージーズによる洗練されたアダルトミュージック「Will You Love Me Tomorrowl」、マンハッタン・トランスファーのカントリー、R&B、ロックが融合した「Smackwater Jack」、 オール・フォー・ワンによるニューソウル「Tapestry」、そしてセリーヌ・ディオンの圧倒的な歌唱による「(You make Me Feel Like) A Natual Woman」が印象的。

[2012年7月作成]


 
C5 Music (1971) Ode (A&M)  
 






Carole King : Piano, Electric Piano, Electric Celeste, Vocal
James Taylor : Acoustic Guitar (4,8,11), Back And Refrain Vocal (8)
Danny Kootch : Electric Guitar, Acoustic Guitar, Back Vocal (8)
Charles Larkey : Electric Bass, Acoustic Bass
Joel O'Brien : Drums
Russ Kunkel : Drums (12)
Ralph Schuckett : Oregan (3,5), Electric Piano (12), Electric Celeste (10)
Miss Bobbye Hall : Congas, Bongos, Tambourine
Theresa Colderon : Congas (1)

William Green, William Collete, Ernest Watts, Plas Johnson, Michael Altscheul : Woodwinds (3), Flute Quartet (2), Saxes (6), Woodwnd Choir (5)
Oscar Brashear : Fleugel Horn (3,6)
Curtis Army : Tenor Sax (1,3,7), Electric Flute (5)

Abigale Haness : Back Vocal (4, 5, 7, 8, 9)
Mary Clayton : 2nd Whooh (12)

[Side A]
1. Brother, Brother [C. King] G18 
2. It's Going To Take Some Time [C. King, Toni Stern]
3. Sweet Seasons [C. King, Toni Stern] C21 E1 E7
4. Some Kind Of Wonderful [G. Goffin, C. King]  C4 S3 S4
5. Surely [C. King]  
6. Carry Your Load [C. King] C4

[Side B]
7. Music [C. King] 
8. Songs Of Long Ago [C. King]  C4 E5
9. Brighter [C. King]  
10. Growing Away From Me [C. King] 
11. Too Much Rain [C. King, Toni Stern] 
12. Back To California [C. King]

Lou Adler : Producer
Hank Cicalo : Engineer

録音: 1971年 8,9月 A&M Recording Studio, Hollywood, Los Angels
発売: 1971年 11月発売

写真下: ジャケット写真が撮影された家


1971年3月に発売された「Tapestry」は空前の大ヒットとなったが、同年5月のトルバドゥール公演の音源がブートレッグ「Fit For A King」(「その他映像・音源」参照)として広く出回り、彼女とレコード会社を悩ませることになった。同年8月のロスアンゼルス、グリーク・シアターでのライブで、彼女はその事に言及しており、「もうすぐ出る新しいアルバムのほうが音が良いから是非買ってね」と話している。ということで、当時のキャロルとレコード会社のスタッフは、急遽セカンドアルバムの製作にとりかかり、年内のクリスマス・シーズン前の発売にこぎつけたという。名作・傑作といわれる作品を発表したアーティストは、次作の製作にあたり大変なプレッシャーに晒されるのが普通であるが、本アルバム「Music」は、そんな呪縛に捕らわれる前に、大成功した前作の高揚感の延長線上で製作されたように思われる。「Tapestry」に比べると、完成度、作品のスケール・重みに欠けているのは明らかであるが、その反面さらっとした軽やかさがあり、自分の音楽が世間に認められた事を確信したアーティストの余裕が感じられる。発表当時に聴いた際の印象と、40年後の今、味わいながら聴いて感じる思いを比べると、このアルバムの良さは年月を経て、一層はっきりしてきたように思える。

1.「Brother, Brother」は、エレクトリック・ピアノのアルペジオと鳴り響くコンガが強烈な印象を与える、鮮やかなオープニング・ナンバーだ。「Tapestry」にはない曲調で、彼女のニューソウル・ミュージックへの傾倒を物語っている。ここでコンガを担当しているテレサ・コルデロンという人は、他のセッション参加の記録がない謎の人物。 この曲はアイズレー・ブラザースがカバーし、1972年に発表したアルバムのタイトルにもなった。彼等の演奏も素晴らしく、キャロルはこのカバーを聴いて大喜びしたはず。ちなみにこのアルバムには、「It's Too late」と「Sweet Seasons」も収録されている。また、「Fantasy」1972 C7でお馴染みのデビッド T. ウォーカーが1973年に発表したアルバム「Press On」G18 にもこの曲が入っていて、そこにはキャロルがボーカルで参加している。2.「It's Going To Take Some Time」は、カーペンターズ 1972年のシングルカットで、全米12位のヒットとなった。キャロルは、「私のバージョンはデモのよう」と言ったそうだが、ふたつのバージョンを比較しながら聴くと、アレンジの妙というか、曲の磨き上げの魔術を目の当たりにできる。しかし、キャロルによるオリジナル・バージョンの素朴な良さも際立つ結果にもなり、当時の彼女の音楽の本質をとらえる絶好の材料にもなっている。恋の痛手にもめげず、しなやかに生きようとする女心が、さらっとした歌詞とメロディーで表現されている名曲。3.「Sweet Seasons」は、成功を謳歌し私的生活面での充実ぶりがうかがえる、西海岸の明るい光に満ちた曲で、全米9位のヒットを記録した。時折顔を出すチャールズ・ラーキーのメロディックなベースラインが印象的。 4. 「Some Kind Of Wonderful」は、1961年ザ・ドリフターズが歌って全米32位となった、ジェリー・ゴフィン、キャロル・キングのチームによる初期の名曲。ここではテンポを下げて、ドラムスなしでじっくり歌っている。左チャンネルから流れるジェイムス・テイラー、右に位置するダニー・クーチのアコースティック・ギターの絡みがピュアな美しさに満ちており素晴らしい。中央に位置するキャロルの飾り気のないピアノとボーカルも最高。 5.「Surely」は、前作にないダークな雰囲気を持った曲で、バックボーカルを担当するアビゲイル・ハネスは、当時ダニー・クーチの奥様で、彼のグループ、ジョー・ママのボーカリストだった人。後にルウ・アドラーがプロデュースしてロサンゼルスで上演されたミュージカル「The Rocky Horror Show」1974に出演し、オリジナル・キャストのレコーディングにも参加したが、その後のキャリアについての資料はない。6.「Carry Your Load」は、キャロルらしい暖かみに溢れた歌詞とメロディーで、こじんまりとした感じの小品なんだけど、愛する人と一緒に生きようとする語りには、心に染み入る説得力がある。

7.「Music」は、「Snow Queen」を思わせるジャズワルツ(実際は8分の6拍子)で、軽やかなグルーヴ感が心地よい佳曲。歌詞には、音楽に対する彼女の思いが込められている。間奏のサックスソロは、前作に続き活躍のカーティス・アーミー。8.「Songs Of Long Ago」は、ジェイムズ・テイラーの「Long Ago And Far Away」(「Mud Slide Slim」1972に収録)に触発されて作った曲で、2010年のキャロルとジェイムスとのジョイント・コンサートでは、メドレーで演奏された。ここではジェイムスがギターを弾く他に、バックコーラスに加わり「ラララ」を一緒に歌っている。上述の海賊版では歌詞の一節から「Whispering Wind」というタイトルになっている。9.「Brighter」、10.「Growing Away From Me」は、軽快であるが小粒な印象の曲が並ぶ。ここではチャールズ・ラーキーのベースに加えて、ボビー・ホールのパーカッションが目立っている。彼女はジェイムス・テイラーの「One Man Dog」1972でも重要な役割を果たしており、暖かみを感じるリズム感覚により、当時のセッションで引っ張りだこのニュージシャンだった。またキャロル自身の多重録音とアビゲイル・ハネスによるバックボーカルがポップな味わいを出している。11.「Too Much Rain」は、「Surely」と同じムードの曲で、ジェイムスとダニーのアコギが聴きもの。 12.「Back To California」は、当時ジェイムスがコンサートのフィナーレで演奏していたチャック・ベリーの「The Promised Land」のジャムっぽい演奏を思わせるご当地ソングで、ジョエル・オブライエンとラス・カンケルのダブルドラムスと、チャールズ・ラーキーの躍動感溢れるプレイ、ダニークーチとラルフ・シュケットの派手なソロがカッコイイ、ラストナンバー。ここでは前作に続き、メリー・クレイトンがバックボーカルを担当している。

本作のレコード・ジャケットは、前作と同じく艶消し・縞目のエンボス紙に印刷されている。キャロルのポートレイトは、前作と同じジム・マックラリー(1939-2012)による撮影で、ロスアンゼルス、アピアン・ウェイの彼女の家で撮影された。彼によると、ポーチから窓ガラス越にリビングルームを撮ったそうで、明るい陽光によるハレーションとガラスに反射した景色が独特の雰囲気を醸し出している。ジャケットの裏面と中開きには、ピアノ椅子に座るキャロルと愛犬(シベリアン・ハスキーかな?)が写っており、もしその犬が表紙の写真にも入っていたら、犬ジャケファンは喜んだだろう。

「Tapestry」の陰になって地味な存在であるが、気負いのない自由な境地で製作され、ピュアな雰囲気に満ちた稀有な作品。

[2012年7月作成]


 
C6 Rhymes And Reasons (1972) Ode (A&M)   
 




Carole King : Piano, Fender Rhodes, Wurlizer, Clavinet, Vocal
Danny Kootch : Electric Guitar
David T. Walker : Electric Guitar
Red Rhodes : Steel Guitar
Charles Larkey : Electric Bass, Acoustic Bass
Havey Mason : Drums, Vibes
Miss Bobbye Hall : Congas, Bongos, Tambourine, Shaker, Bells

Harry "Sweets" Edison : Fleugel Horn, Trumpet
Robert "Bobby" Bryant : Fleugel Horn, Trumpet
Geroge Bohanon : Trombone
Ernie Watts : Flute

Norman Kurban, David Campbell : Strings Conductor & Arranger

David Campbell, Carole S. Mukogawa : Viola
Terry King, Nathaniel Rosen : Cello
Charles Larkey : String Bass
Barry Cocher, Eliot Chapo, Marcy E. Dicterow, Gordon H. Marron, Sheldon Sanov, Polly Sweeney: Violin


[Side A]
1. Come Down Easy [C. King, Toni Stern]  
2. My My She Cries [C. King, Toni Stern]
3. Peace In The Valley [C. King, Toni Stern] C21
4. Feeling Sad Tonight [G. Goffin, C. King]  
5. The First Day In August [C. King, Charles Larkey]  
6. Bitter With The Sweet [C. King] 

[Side B]
7. Goodbye Don't Mean I'm Gone [C. King] 
8. Stand Behind Me [C. King]  
9. Gonna Get Through Another Day [C. King]  
10. I Think I Can Hear You [C. King] 
11. Ferguson Road [Gerry Goffin, C. King] 
12. Been To Canaan [C. King] E1 E5

Lou Adler : Producer
Hank Cicalo : Engineer

録音: 1971年 7月 A&M Studio, Hollywood, Los Angels
発売: 1972年 10月発売

写真下: 中袋の写真(1971年6月18日 カーネギー・ホールにて撮影)


1970年9月発売の「Writer」から約2年間で4枚もアルバムを製作、そしてどれもが良い作品なんて、スゴイことだ。後になって分ることであるが、キャロル本人はロスアンゼルスにおけるセレブ芸能人としての生活に馴染めなかったようで、当時は彼女にとって、相応のストレスがあったのではないかと思う。ただし、この作品からはそんなムードは微塵も感じられず、いままでの作品と比べて小粒な曲が多い印象があるものの、リラックスした歌声は彼女のありのままの気持ちを語っているような気がする。歌詞をよく読むと、単純なラブソングは少なく、男女の心のすれ違いや、現代社会へのプロテスト、現状に安住せず自己の幸せを求めようとする心の奥底を歌った作品がアルバムを占めており、これからの彼女の変貌を予言するものだ。いままでの作品のような過去の名曲のセルフカバーはなく、サウンド面においても、派手なゲスト抜きで、夫のチャールズ・ラーキーがメンバーだったデビッド・T.ウォーカーのバンドからドラムスのハーヴェイ・メイソン、パーカッションのボビー・ホールというリズムセクションが参加することで、ニューソウルへの傾倒を深めている。本アルバムの特徴として、今までの作品のような手作り感は少なく、ストリングス、ホーンセクション、コーラスを含め周到にアレンジされた演奏と思われること、ピアノ、エレキピアノのオーバーダビングが多用されている点だ。また本作は、ギターがほとんど入らず、キーボードをメインとして、ベースとドラムス、パーカッションのコンビネーションで音作りを行っており、ストレートかつシンプルなサウンドとなっている。

1.「Come Down Easy」は、リラックスした生き方を説く歌で、センターから聞こえる生ピアノの音に加えて、左右から流れるエレキピアノのアルペジオが心地よい。シンセサイザーが一般的でなかった当時、エレキピアノはフェンダー・ローズとウーリッツァーが主流だったが、ここでは右チャンネルはフェンダー、左チャンネルはウーリッツァーの音に思える。チャールズ・ラーキーのベースは、時折メロディックなパッセージ、コード奏法を挿入し、ダニー・クーチが弾くギターのような役割を演じている。またキャロル本人によるコーラスのオーバーダビングは、本曲をはじめとして全編でフィーチャーされている。2.「My My She Cries」は、抽象的な歌詞であるが、コミュニケーションの断絶を歌っているように思われ、昨今話題となっている「いじめ」問題に通じるものがある。ここではストリング・セクションがキャロルのピアノをサポートしている。3.「Peace In The Valley」は、発売当時とても新鮮に感じた曲で、40年経った今聴いてもその印象は変わらない。ボビー・ホールのパーカッションが前作に増して重要な位置を占めており、彼女の繊細で暖かみのあるグルーヴ感が本作を優しく包んでいると言っても過言ではないだろう。ただパワフルでエキサイティングな打楽器とは異なる、アーティスティックな世界がある。また本作から登場のハーヴェイ・メイソンのドラムスも、当時一世を風靡したハービ・ハンコックの「Head Hunters」1973の「Cameleon」のような派手なプレイではないけど、地味ながらも新しい感覚のビートを提供しており、それにチャーリーのベースランが絡んで、オリジナリティーに富む世界を創造している。本曲のようなシンガー・アンド・ソングライターとニューソウルの見事な融合によるサウンドは、次作「Fantasy」でより大胆に展開されることになる。社会問題に正面から向き合って、「肌の下では皆兄弟」と説く歌詞は、マイノリティーに対する差別・人種間の対立に悩む当時のアメリカの深刻な社会問題が背景にある。4.「Feeling Sad Tonight」は、オーケストラをフィーチャーした前作までの流れを汲む曲。フルート奏者のアーニー・ワッツは、テナーサックスがメインの楽器で、ロスを本拠地に自己名義のジャズ・アルバムを出すとともに、多くのレコーディング・セッションへ参加している。5.「The First Day In August」は、夫君との共作による私小説的な曲で、当時ティーンエイジャーだった私は歌詞の内容にドキドキしたものだ。ここではピアノとオーケストラのみによる伴奏となっている。 6.「Bitter With The Sweet」は、ソウル・ジャズっぽい演奏、歌唱がカッコイイ曲で、本作における目玉の一つ。この曲でのみエレキギターを聴くことができ、右チャンネルはそのスタイルからデビッド・T・ウォーカー、左はダニー・クーチと推定できる。バックにはトランペット(フリュゲルホーン)が聞こえる。ボビー・ブライアント(1934-1998)は60年代にアルバムを出したジャズ奏者で、その後は教育者、セッション・ミュージシャンとして活躍。ハリー・スウィーツ・エディソン(1915-1999)は、カウント・ベイシー・オーケストラやビリー・ホリデイとのセッション他で有名なトランペットの巨人の一人。70年代以降は多くのセッションにも参加している。

7.「Goodbye Don't Mean I'm Gone」も軽やかなテンポで、キャロルは伸び伸びと歌っている。ここではピアノのオーバーダビングに加えて、レッド・ローズ(1930-1995)によるスティール・ギターが大活躍している。彼はLAを本拠地として、ザ・モンキーズ、マイケル・ネスミス、ザ・バーズ、カーペンターズ、ジェイムス・テイラーなど多くのセッションに参加した人。本曲における彼のプレイは、日本の音楽集団ティンパンアレイが駒沢裕城をフィーチャーして、荒井由美などの初期の作品で応用されている。なお本アルバムのタイトルは、この曲の歌詞の一節からとられている。8.「Stand Behind Me」は、ピアノとアコースティック・ベースを中心とした演奏で、前作までの流れの延長にあるラブソング。間奏はピアノとエレキピアノのユニゾン。9. 「Gonna Get Through Another Day」でのチャールズ・ラーキーのベースは最高。本当にクリエイティブなプレイだ。10.「I Think I Can Hear You」は、ピアノ、アコースティック・ベース、ストリングによる穏やかな曲。11.「Ferguson Road」は、元夫のジェリー・ゴフィンとの共作で、歌詞には二人の離婚後の思いが込められている気がする。ここでもレッド・ローズのスティールギターが鳴っている。12. 「Been To Canaan」は、シングルカットされ全米24位を記録した曲で、当時キャロルが購入したコネチカット州カナンにある牧場の事を歌ったものであるが、歌詞の中に「Promised Land」が出てくるので、旧約聖書とのダブルミーニングになっているものと思われ、私には自分の「約束の地」を求める彼女の心境が込められていると感じられる。心地よいアップテンポにおける、ドラムスとパーカッションそしてベースの軽やかなグルーヴが素晴らしく、アルバムを締めくくる最後の曲として相応しい。

きっちりとプロデュースされた、こじんまりとした雰囲気の作品であるが、キーボード、ベース、ドラムス、パーカッションによるピュアな響きと軽やかなリズム感が大変心地よい作品。

[20128年8月作成]


 
C7 Fantasy (1973) Ode (A&M)    
 

Carole King : Piano, Keyboards, Vocal
David T. Walker : Electric Guitar
Charles Larkey : Electric Bass, Acoustic Bass
Havey Mason : Drums, Vibes, Percussion
Ms. Bobbye Hall : Congas, Bongos

Geroge Bohanon : Trombone, Euphonium
Charlie Loper, Dick "Slyde" Hyde : Trombone
Ollie Mitchell, Chuck Findley, Albert Aarons : Trumpet, Flugelhorn
Tom Scott, Ernie Watts, Curtis Amy, Mike Altschul : Sax
Ernie Watts : Flute

The Campbell-Kubban String Section
Thomas Buffam, Sheldon Sanov, Glenn Dicterow, Donald Folsom, Katheleen Lenski, Robert Lipsett, Gordon Marron, Haim Shtrum, Barry Socher, Polly Sweeney, Miwako Watanabe, Kenneth Yerke : Violin
David Campbell, Denyse Buffum, Alan De veritch, Paul Polivnick : Viola
Dennis karmazyn, Denis Brott, Judith Perett, Jeffry Solow : Cello
Charles Larkey, Susan Eanney : String Bass

Carole King : Arranger And Conductor of Horns And Strings
Hank Cicalo : Engineer
Lou Adler : Producer

[Side A]
1. Fantasy Beginning [C. King] E1 E2
2. You've Been Around Too Long [C. King] E1 E2
3. Being At War With Each Other [C. King] E1 E2
4. Directions [C. King]
5. That's How Things Go Down [C. King] E1 E2
6. Weekdays [C. King]

[Side B]
7. Haywood [C. King] E1 E2
8. A Quiet Place To Live [C. King] E1 E2
9. Welfare Symphony [C. King]
10. You Light Up My Life [C. King] E1 E2
11. Corazon [C. King] E1 E2
12. Believe In Humanity [C. King]  E1 E2
13. Fantasy End [C. King]  E1 E2


キャロルの5作目のソロアルバムは、A・Bの各面で切れ目なしのコンセプト・アルバムだった。キャロルというと、「名曲」というイメージが強かった私は、発売当時は本作を聴いて違和感を覚えた記憶がある。音楽雑誌などの評判もイマイチで、ビルボードのアルバムチャートの最高位も6位と、今までの作品に比べてあまり売れなかった。その違和感の原因は、シンガー・アンド・ソングライター的な曲の独立感がなかったことだけでなく、黒っぽいサウンド作りにもあったと思う。前作のリズムセクションに加えて、今回はデビッド T ウォーカーが全面的にフィーチャーされ、彼のバンドのグルーヴ感が本作にそのまま持ち込まれており、ダニー・ハザウェイやカーティス・メイフィールドによる当時絶頂期の「ニューソウル」の雰囲気がむんむん漂っていたこともあると思う。ただ、40年経った今、聴いてみると古さを全く感じさせず、ダイナミックなサウンドと歌詞の力強い主張に圧倒されてしまう。この手の音楽をやるには、キャロルの歌唱力はちょっと弱いかなという感じもするけど、ファンであれば全然気にならないし、むしろ精一杯背伸びして歌っている彼女のことを微笑ましく思ってしまうのだ。サウンド面では、当時旦那のチャールズ・ラーキーが在籍していたデビッド T. ウォーカー・バンドが全面的にバックを勤めているのが本作のハイライト。前作の「Rhymes & Reasons」も同じリズムセクションが演奏していたが、デビッドのギターはほとんど聴けなかったのに対し、本作ではギンギンにフィーチャーされている。アルバム製作のために集まったスタジオ・ミュージシャンでなく、バンドメンバーによるフルサポートを得たことにより、名手揃いによる演奏水準の高さに加えて、気心が知れた仲間達によるソウルフルな連帯感が強烈に感じられる。なお本作と同時期に製作されたデビッド T. ウォーカーのアルバム「Press On」G16は、同じメンバーによる演奏で、バンドのグルーヴをより強烈に感じることができ、キャロルもゲストで参加している。

1.「Fantasy Beginning」は、多重録音によるピアノ2台とウッドベースのみによる演奏で、以下の歌詞によるイントロダクションだ。 「Looking for a way to say  The things I think about day by day  Listen to the meaning if you can  I may step outside myself  And speak as if I were someone else  That's one way I know you'll understand   In fantasy I can be black or white, a woman or a man」  シンガー・アンド・ソングライターとして私小説的な作品を歌ってきたキャロルが、一定の意図をもって社会に問題提起をするため作曲した短編小説のような作品を歌うために、あえて冒頭でこのような宣言をしたのだろう。本作は、いままでと異なり、共作者に頼らず全曲一人で書き下ろしており、そういう意味でも彼女自身の主張が込められた作品となっている。2.「You've Been Around Too Long」は、この社会を何とかしなければという思いを持ちながら行動できない思いを歌った曲。ベトナム戦争、犯罪の増加などで病んでいた、当時のアメリカの社会問題が背景にある。メロディー、アレンジともにニューソウルそのもので、キャロルのボーカルもそれっぽい。冒頭からデビッド T. ウォーカーのギターがフィーチャーされる。セッションマンとして無数のセッションに参加した彼の「コクウマ」スタイルは、その後のギタースタイルに大きな影響を与えた。スタッフのメンバーだったエリック・ゲイルも同じタイプのギタリストで、日本では松木恒秀というギタリストが、ティンパンアレイのセッション等で同じような感じでプレイしていた。前作「Rhymes & Reasons」と同じリズムセクション(ベース、ドラムス、パーカッション)は鉄壁のチームワークで、特にキャロルの夫君チャールズ・ラーキーのベースはチョッパー・スタイルが流行る前のソウル音楽のベースとして最高だと思う。曲中で聴こえるブラスセクション、ストリングスはキャロルのアレンジによるもので、当時の最先端をゆくクリエイティブなものだ。ブラスセクションは、当時西海岸で活動する最高のスタジオミュージシャンが勢揃いしている。ギターによる装飾音から切れ目なしに続く 3.「Being At War With Each Other」は、人々の争いを憂う内容の歌で、キャロルは淡々と歌っている。この曲も大変凝ったメロディーだ。コミュニケーションの断絶を歌った 4.「Directions」は、アップテンポでハーヴィー・メイソンのドラムスが大活躍する。転調の多いコード進行が面白い曲で、それにしてもブラスをバックに歌うキャロルのボーカルはカッコイイ。5. 「That's How Things Go Down」は、深刻な社会問題である若年女性の婚外出産を歌ったもの。6.「Weekdays」は、専業主婦の生き様を描いた歌詞で、最初の部分は虚ろでダークな雰囲気であるが、終盤で愛情が溢れ出て救われた感じになるので、後味は良い。

B面最初の曲 7.「Haywood」は、非行に走った息子を案じる母親の視点で書かれた歌詞で、キャロルの思いつめたような感じのボーカルが印象的。エンディング部分におけるベースのリフが素晴らしい。続く 8.「A Quiet Place To Live」は、静穏な地を望む心情が歌われる。9.「Welfare Symphony」は、貧困問題をテーマとした、ちょっと硬い感じの曲。10. 「You Light Up My Life」は、本アルバムからカットされた2枚目のシングルで全米67位を記録、デビー・ブーンのヒット曲とは同名異曲。本作のなかでは、最も彼女らしい綺麗なメロディーによる落ち着いた感じの曲。一転して 11.「Corazon」は、ラテン・リズムによるダンサブルな曲で、スペイン語で歌われる(といっても歌詞の内容は簡単なものだ)。ハーヴィー・メイソンのドラムスの躍動感が凄い。なお本曲は3枚目のシングルで37位を記録している。アメリカ社会におけるスペイン語文化の浸透を暗示しているかのようだ。そのまま畳み込むように続く 12. 「Believe In Humanity」は、人間の善意を信じようとする彼女の本心が込められているように思える。この曲が本作最初のシングルカットで、全米28位のヒットとなった。本作の中では最も有名な曲だろう。エンディングの 13.「Fantasy End」は、「Now that I've expressed my soul  I'll step back into my real-life role  And hope I've brought you back across the line  You may think there's nothing you can do  To change what's all too ture  In fantasy you can be anything you want to be  And someday our reality will be as good as never never land」と歌われ、彼女が提起した問題が少しでも改善されることを願っている。「neverland」は、ピーターパンが住む理想郷の世界のことだ。本作が発表されてから約40年が経ち、世の中もいろいろ変わった。良くなったものもあり、逆に悪くなったものもあるが、ひとりひとりが諦めずに努力を続けることが大切だと思う。

本作からは、アルバムから独立して名曲の地位を獲得した曲は出なかったが、アルバム全体として名作と言っていいと思う。キャロルの曲、ピアノ、ボーカルを聴くだけではなく、彼女のホーンやストリングスのアレンジ、名手揃いのバンドのアンサンブルの妙味をたっぷり堪能することができる作品。


[2012年12月作成]


 
C8 Wrap Around Joy (1974) Ode (A&M)     
 



Carole King : Keyboards, Vocal
Dean Parks : Guitar
Danny Kortchmar : Guitar
Charles Larkey : Bass
Andy Newmark : Drums

Geroge Bohanon, Dick "Slyde" Hyde : Trombone
Chuck Findley, Gne Goe : Trumpet
Ernie Watts, Mike Altschul : Sax
Tom Scott : Alto Sax Solo (3)
Jim Horn : Tenor Sax Solo (7)

Abigale Haness : Additional Back Vocals
Louise Goffin, Sherry Goffin : Back Vocals (1)
The Eddie Kendricks Singers : Choir (6)
The David Campbell String Section : Strings

Lou Adler : Producer

[Side A]
1. Nightingale [C. King, David Palmer]
2. Change In Mind, Change Of Heart [C. King, David Palmer]
3. Jazzman [C. King, David Palmer] C19 C21 E3 E4 E7 E8
4. You Go Your Way, I'll Go Mine [C. King, David Palmer]
5. You're Something New [C. King, David Palmer]
6. We Are All In This Together [C. King, David Palmer]

[Side B]
7. Wrap Around Joy [C. King, David Palmer]
8. You Gentle Me [C. King, David Palmer]
9. My Lovin' Eyes [C. King, David Palmer]
10. Sweet Adonis [C. King, David Palmer]
11. A Night This Side Of Dying [C. King, David Palmer]
12. The Best Is Yet To Come [C. King, David Palmer]

 
「Fantasy」は、社会問題に対して正面から向き合った歌詞とニューソウル色の強いサウンドによるトータルアルバムだったが、評価は賛否両論で、売れ行きも全米アルバムチャート6位といまひとつだった。そのためか、ここではジャズの香りを一部残しながらポップな色彩のサウンドに戻り、歌詞についても初期の私小説的な雰囲気に立ち戻っている。本作における作詞・作曲のパートナーであるデイブ・パルマーについて説明する。彼はニュージャージー州出身で、チャールズ・ラーキーとミドルクラス(Myddle Class)というバンドを結成していた時にキャロル・キング、ジェリー・ゴフィンと知り合い、1965年に彼らのレーベル Tommorowからシングルレコードを発表。グリニッジ・ヴィレッジでコンサート活動を行ったが、LP製作の前にバンドは解散してしまう。デイブは、キャロルやチャールズと同時期に西海岸に移住したようで、1968年のザ・シティのアルバム「Now That Everything's Been Said」C1で、キャロルと1曲共作している。またスティーリー・ダンのデビューアルバム「Can't Buy A Trill」1972 にボーカリストとして参加、ドナルド・フェイゲンとリードボーカルをシェアしている。キャロルの自伝によると、本作製作当時、デイブはチャールズが活動していたバンドのメンバー(彼が掛け持ちしていたデビッド T.ウォーカー・バンドを含む3つのバンドのうちのひとつ)だったという。本作ではすべての曲が共作となっているが、キャロルとのコラボレイションはここまで、本作以降の作曲家としてのキャリアは地味。2002年以降はデジタル写真家として活躍しているそうだ。

ドラムスのアンディ・ニューマーク(1950- )は、1971年のカーリー・サイモンのアルバム「Anticipation」が初レコーディングで、その後スライ・アンド・ファミリーストーンでのプレイが大評判となり、スタジオ・ミュージシャンとしての地位を確立する。アメリカ、イギリス両方の音楽シーンで活躍した人で、後者ではジョン・レノン、ジョージ・ハリソン、デビッド・ボウイ、ロキシー・ミュージックなどの大物作品に参加している。また本作と同時期に、ジェイムス・テイラーの作品「Walking Man」でドラムを叩いている。ギタリストのディーン・パークス(1947- )は、カリフォルニアを本拠地とするセッション・ギタリストで、1970年台から現在までトップの地位を維持している。ポピュラー、ロック、R&B、フュージョン系ジャズなどの音楽ジャンル、リード、リズムの役割、エレキ、アコギの楽器種類において何でもこなせる人で、1969年からのソニー・アンド・シェールのバックで有名となった後は、ファースト・コールのギタリストとして無数のセッションに参加することになる。特に参加ミュージシャンに厳しい要求をするスティーリー・ダンでのプレイは名高く、1977年の傑作「Aja」でのラリー・カールトンとの絶妙なコラボレイションは伝説となった。近年は昔ほど多忙ではないが、ナッシュビルでの仕事、映画音楽の担当が多いそうだ。それでも大物ミュージシャンの要請に応じてコンサートやレコーディングに参加しているようで、2010年代はジェイムス・テイラーのライブでギターを弾く事が多い。ダニー・クーチのクレジットもあるが、聴いて彼と判るようなプレイはなく、前述のディーンもそうなんだけど、本アルバムでのギタリストは地味な演奏に徹している。

1.「Nightingale」は、本アルバム2枚目のシングルカットで、全米9位を記録している。1970年代に一世を風靡したフュージョン音楽の流れをくむサウンドで、キャロルの曲の中では最も洗練された雰囲気をもっている。曲中に流れるシンセサイザー黎明期の音が、今聞くと笑っちゃう位素朴で、時代を感じさせる。バックコーラスは、当時10代前半のルイーズ、シェリーの娘達が担当。2.「Change In Mind, Change Of Heart」は、落ち着いた感じの曲で決して悪くないけど、ちょっと影が薄い感じかする。3.「Jazzman」は、最初のシングルカットで、全米2位の大ヒットとなった。タイトルの通り、(フュージョン)ジャズの持ち味であるダイナミックなサウンドがフルに発揮された曲で、メリハリの効いた演奏、歌唱が最高だ。曲のテーマそのものとして、トム・スコット(1948- )が全編で素晴らしいアルトサックス・ソロを吹きまくる。西海岸屈指のサックス奏者として、リーダー作以外に数多くのセッション、映画・テレビ音楽を担当した人だ。ここでの彼のプレイは、古今の名ヒット曲にフィーチャーされたサックスソロとして、最も有名なもののひとつだろう。デビッド・サンボーンとは異なるサウンドで、この人の個性がはっきり出たプレイだ。4.「You Go Your Way, I'll Go Mine」は、曲中の歌詞・メロディーに陳腐な部分があって、どうも好きになれない。本作の製作にあたり、前作までのニュー・ソウル的な作風を一掃し、シンプルで人懐っこい雰囲気を目指した意図的なものと思えるけどね。5.「You're Something New」も途中まではとてもいいけど、コーラスになると凡庸な感じがしてしまう。だけど何となく聞き流すには耳当たりがいいのも事実。6.「We Are All In This Together」は、エディ・ケンドリックス・シンガースをバックに歌うゴスペル調のメッセージソング。エディ・ケンドリックス(1939-1992)は、テンプテイションズでファルセット・ヴォイスを担当していた人だが、シンガーズとしての活動記録は見つからなかった。

7.「Wrap Around Joy」は、ミドルテンポのR&B調サウンドが魅力的。テナーサックス・ソロを入れるジム・ホーンは、1970〜80年代における西海岸トップのセッション・プレイヤーで、当時のロック、シンガー・アンド・ソングライターのアルバムの多くで彼のプレイを聴くことができるが、自己名義のアルバムがないのが不思議な人。8.「You Gentle Me」は、「シュビデュビ・シュビデュワ」というドゥワップ・コーラスから始まるが、これが何とも良い感じで、思わずニッコリしてしまう。クリエイティブなメロディー、アレンジで、何度聴いても飽きない素晴らしい曲に仕上がっている。9.「My Lovin' Eyes」は、シンプルで小粒な感じながらも、出来は悪くない。10.「Sweet Adonis」、11.「A Night This Side Of Dying」は、曲の新鮮さにおいてイマイチかな?最後の 12. 「The Best Is Yet To Come」は、ホーンセクションが頑張っていて、それなりにカッコイイ曲になっている。

ポップで親しみやすいサウンド、一部の曲での洗練されたフュージョン音楽など、それなりに聴きごたえのある内容であるが、クリエイティビティーという面では、いままの作品よりはレベルが落ちる感じががする。ここでベースを弾いているチャールズ・ラーキーは、いままでのアルバムでパートナーとして強烈な存在感を発揮していたのに対し、ここでは単なるプレイヤーの役割を演じており、当時すでに夫婦関係が疎遠になっていた状況がうかがえる。それが、このアルバムの出来栄えに部妙な影響を及ぼしていると思われる。

[2013年6月作成]


C9 Really Rosie (1975) Ode (A&M)    
 



















Carole King : Keyboards, Vocal
Charles Larkey : Bass
Andy Newmark : Drums
Sherry & Louise Goffin : Back Vocal

Lou Adler : Producer

[Side A]
1. Really Rosie C9
2. One Was Johnny
3. Alligators All Around
4. Pierre
5. Screaming And Yelling
6. The Ballad Of Chicken Soup
7. Chicken Soup With Rice

[Side B]
8. Avenue P
9. My Simple Humble Neighborhood
10. The Awful Truth
11. Such Sufferin'
12. Really Rosie (Reprise) C9

All Songs : Composed by Carole King with Lyrics by Maurce Sendak

写真(上から)
Soundtrack LP (1975 Ode Records Inc. ジャケット表)
Soundtrack LP (1975 Ode Records Inc. ジャケット裏)
Video Tape (1985 Children's Circle) 

Book: Really Rosie (1975 Harper & Row Publishers)
Original Story: The Sign On Rosie's Door (1960 Harper & Row Publishers)
Original Story: Nutshell Library (1962 Harper & Row Publishers)

Original Showbill (1980)
The Broadway Cast LP (1981 Caedmon)
 

モーリス・センダック(1928-2012)はニューヨーク州ブルックリン生まれで、両親はポーランドからのユダヤ系移民。名作「Where The Wild Things Are (かいじゅうたちのいるところ)」1964は、世界的なベストセラーとなった。1960年発表の作品「The Sign On Rosie's Door (ロージーちゃんのひみつ)」は、彼が若い頃の同級生がモデルという。主人公のロージーは、スターになることを夢見る活発な性格の女の子。友人のキャシーが、ロージーの家の扉にかかっていた札「秘密を知りたければ3回ノックすること」を見てその通りにしたところ、現れたロージーは自分の事を歌手のアリンダであると言い、裏庭でコンサートを開く物語だ。また彼は1962年、「One Was Johnny」、「Alligator All Around」、「Pierre」、「Chicken Soup With Rice」の4冊の小品からなる豆本「Nutshell Library」を発表する。小さなサイズ(10cm x 7cm)の本がかわいらしく、上の写真にある箱など丁寧な作りの装丁もあって一生の宝物になるに相応しい傑作だ。当時私はこの本に夢中になり、同じサイズの「Nutshell Library」として発売された別の作家による絵本も買い集めたものだった。

キャロル・キングはブルックリン生まれのユダヤ系アメリカ人なので、センダックと共通点があり、そういう経緯でキャロルが彼のストーリーに音楽を付けるコラボレイションが実現したのだろう。その際センダックは、前述の「The Sign On Rosie's Door」からロージーとキャシー、「Nutshell Library」の4つのストーリーの登場人物を合わせて、ブルックリンを舞台に子供達の遊びを通して、映画スターになる事を夢見る少女を描きだした。そのイメージは、キャロルの自伝にあるように彼女の若い頃そのものだった。

オード・レコードから発売されたサウンドトラック盤は、A面は当時製作されたテレビスペシャル番組でフィーチャーされた曲、B面には12.を除き、作詞・作曲されたが放送時間の関係で使われなかったアウトテイクが収められた。1.「Really Rosie」は、本人のピアノ、夫君であるチャールズ・ラーキーのベースと、前作と同じアンディ・ニューマークのドラムスによるシンプルな演奏によるテーマ曲で、バックコーラスは、後にいずれも歌手の道を歩むことになる当時12歳、14歳の娘達だ。「タッペンジー・ブリッジ」というハドソン川にかかる大きな橋が歌詞に出てくるなど、ニューヨークの地元臭さが出ている。登場人物が、ロージーの映画に出演するための得意芸を披露するという構成でストーリーが進行し、トップバッターは、ジョニーによる 2.「One Was Johnny」。ジョニーの部屋に次々と生き物が訪れ、彼が「食っちゃうぞ!」と脅すと、皆いなくなるという数え唄だ。子ワニが歌う 3.「Alligators All Around」は、アルファベットの歌で、タイトルのように同じ文字で始まる2〜3の単語を組み合わせた遊び歌。4.「Pierre」は、何かあっても「オラ知らない!」とほざく、ひねた男の子の話で、ライオンのお腹から生還した後に改心するという道徳の歌。5.「Screaming And Yelling」は、皆勝手に騒ぎ出した子供達に対し、自分に注意を向けさせるためにロージーが歌う曲。6. 「The Ballad Of Chicken Soup」は、突然の雨のために地下室に移った子供たちに対し、室内の暗い雰囲気の中、ロージーが行方不明の弟チキン・スープは骨を喉に詰まらせて死んだと歌う。7.「Chicken Soup With Rice」は一転明るい雰囲気で、1月から12月までチキンスープを楽しむ男の子が主人公の曲。登場人物全員によるフィナーレとして位置づけられている。お母さん達の呼び声により、皆家に帰ってしまい、一人残されたロージーが、12.「Really Rosie (Reprise)」を歌って物語は終わる。

センダックの監督による27分のアニメーションはCBSでテレビスペシャルとして放送されたが、長らく映像を観る機会がなく、当時は番組に基づき製作された本のみ入手できた。台本と歌詞に、鉛筆書きの原画およびセル画が散りばめられ、後半はキャロルの歌のコード付き楽譜が付く構成で、各ページの右上のライオンをペラパラめくるとアニメーションになるなど遊び心満載の素晴らしい本だ。そして後の1985年になって本作のビデオを見つけた時は喜んで購入し、感動して観ましたね!ここでロージーを演じたキャロルの声はピッタリだし、センダックのキャラクターが動くなんて最高!2.「One Was Johnny」や 3.「Alligators All Around」の目まぐるしい動きを独奏的にこなす創造性は、子供が観る番組の水準を完全に超越しており、アニメーションの頂点の作品のひとつであると思う。残念ながらDVD化されていないようであるが、インターネットもあるようなので、是非観て欲しい。

本作は1978年、演劇用に1時間ちょっとの上演時間に改作され、同年初演となり、その後1980年10月から翌年6月までの間、オフブロードウェイのChersea Theatre Upstair(同シアターには上と下と2つの会場があり、その上のほう)で274回上演された。その際にBroadway Cast Albumが1981年に発売されている。そこには曲のみならず、劇中のセリフもしっかり収められていて、画像はないけど当時の舞台の雰囲気を偲ぶことができる。主役は、後にテレビで活躍するTisha Campbell Martin(当時12才)で、他の子供達も含めて達者なパフォーマンスで楽しませてくれる。トラックリストは以下の通り(赤字が歌)。

1.Overture
2.Really Rosie
3.Hello Mr. Reporter
4.Did You Hear Who Died?
5.My Simple Humble Neighborhood
6.The Movie Of My Life
7.Alligators All Around
8.Screen Test
9.One Was Johnny
10.No Producer
11.Pierre
12.Haven't Got It
13.Screaming And Yelling
14.The Cellar
15.The Ballad Of Chicken Soup
16.Coming Attractions
17.The Awful Truth
18.Parents
19.Very Far Away
20.Such Sufferin'
21.Mr. Producer
22.Avenue P
23.Finding Chicken Soup
24.Chicken Soup With Rice

本アルバムで特筆すべき事は、サウンドトラック・アルバムに入っていたが、テレビ番組ではアウトテイクとなった8〜11の4曲(青字)がしっかり収められたこと、またサウンドトラックにはなかった曲 19.「Very Far Away」(黄字)が加えられたことだ。キャロル自身によるこの曲の音源はないが、彼女のホームページのディスコグラフィー(Songs)には、1978年の著作権登録として載っている。本ミュージカルは、その後も現在に至るまで、アメリカ各地の子供劇団で上演されている。

本作のサウンドトラックを聴いて気に入った人は、映像・本も是非入手して欲しい。残りの人生の宝物となる豊かな世界が広がりますよ〜。


[2014年2月作成]


C10 Throubred (1976) Ode (A&M)     
 










Carole King: Piano, Vocal
James Taylor: A. Guitar (9), Back Vocal (3,5,6)
David Crosby & Graham Nash: Back Vocal (3,6)
John David Souther: Aditional Vocal (8)

Robert "Waddy" Wachtel : Guitar
Danny "Kootch" Kortchmar: Guitar
Russell Kunkel: Drums
Leland Sklar: Bass
To Scott: Soprano & Tenor Sax
Ralph McDonald : Percussion

Lou Adler : Producer

Side A
1. So Many Ways [Carole King]
2. Daughter Of Light [Gerry Goffin, Carole King]
3. High Out Of Time [Gerry Goffin, Carole King]
4. Only Love Is Real [Carole King]
5. There's A Space Between Us [Carole King]

Side B
6. I'd Like To Know You Better
7. We All Have To Be Alone [Gerry Goffin, Carole King]
8. Ambrosia [Carole King, David Palmer]
9. Still Here Thinking Of You [Gerry Goffin, Carole King]                  
10. It's Gonna Work Out Fine [Carole King]

1976年1月発売  全米3位



写真上より: ジャケット表、同裏、中袋、ラベル


 

キャロルがルウ・アドラーのプロデュースでオード・レコードで製作した最後のアルバムで、その後彼女の生き方・音楽が大きな変貌を遂げるため、「Writer」1970 C2から始まったひとつの時代の幕引きとなった作品。アートワークがあまりに素晴らしいので、全部載せてしまいました。世の中にはジャケット・デザインで買い求めるコレクターがいるが、本作は「馬ジャケ」ファンに人気があるそうだ。特にジャケット裏とレーベルが絶妙で、その繊細な色合いをHPの写真ではなかなか再現できない。本作品については、サイズが大きく艶消しの紙に印刷されたジャケットのレコードで持っていたい!

当時の彼女は、音楽スタイルやロスアンゼルスのセレブ生活のマンネリ化と、2番目の夫であるベーシストのチャールズ・ラーキーとの結婚生活の破局(彼が深夜のライブに没頭し、昼型の彼女の生活との間に生じたギャップが原因らしい)に直面。自伝によると、次の夫リック・エヴァースとの出会いは、1975年11月2日のパーティーとあるので、本作に収録された曲は、彼と恋愛関係になる以前に作曲・録音されたものと思われる。これまでの持ち味だったリラックスした暖かさは影を潜め、内向的で思いつめたような緊張感が漂っている。ただし不思議なことに、そのひんやりとした触感が他にない透明感を生み出し、非常にレベルの高い純粋な音楽に昇華している。音楽の中に光や炎を感じることができるが、リスナーとの間に透明なクリスタルの壁が存在し、熱伝導を遮断し中に入る事を拒んでいるかのようだ。バック・ミュージシャンの顔ぶれのせいか、JTの音楽により近く、特にベースがリー・スクラーになったことによるグルーヴ感の変化は如実。

1.「So Many Ways」はピアノの弾き語りであるが、キャロルのボーカルが今までになく力強い。その歌声は洗練されたバンドの伴奏が入った 2. 「Daughter Of Light」でも引き継がれる。自伝によると娘のルイーズのために書いた曲とのこと。元夫のジェリー・ゴフィンが共作者として復活。離婚後もきちんと交流を続ける人間関係はいかにもアメリカ的だ。ダニー・クーチとワディ・ワクテルによるツインギターのコンビネーションが心地良い。 3.「High Out Of Time」はクロスビー・アンド・ナッシュとJTとの夢の共演で、曲・演奏・歌唱のすべてが本当に素晴らしい! 前半のコーラスは各人の声がきれいに混じり合っているが、途中のブリッジでは、JTの声だけでハーモニーをとる部分もある。本アルバムから2枚目のシングルカット(全米78位)。4.「Only Love Is Real」でキャロルは、ラテン調のリズムに乗って耽美的なまでに「愛だけが真実」と宣言する。コクのあるサックスとエレキギターのサウンドが美しい。本曲はシングルカットされて全米28位のヒットを記録した。5.「There's A Space Between Us」はキャロルの力強いボーカルが魅力で、終盤にJTがセカンド・ボーカルとして登場しコーラスでも活躍。最後にはアドリブの掛け合いも出てくる。

6.「I'd Like To Know You Better」は再びクロスビー・アンド・ナッシュとのコーラス、間奏部分でJTが歌う「ラララ」は彼ならではの味。とても真摯で誠実な感じの歌で心にジ〜ンとくる。
7.「We All Have To Be Alone」は、微かなカントリー音楽の風味が感じられるが、後半になるとソウルフルなムードになるのが面白い。デイブ・パルマーとの共作 8.「Ambrosia」 は、ギリシア神話に登場する不老不死になれる 神々の食物の意味であるが、歌詞の内容は抽象的で難解。ここでは恐らく固有名詞を指しているようだ。J.D. サウザーが控えめなコーラスを付けている。9.「Still Here Thinking Of You」はJTのギターが奏でるメジャー・セブンスのアルペジオがとてもきれいな曲だ。10.「It's Gonna Work Out Fine」は、本作の中ではリラックスした感じの曲で、今までのキャロルのサウンドだ。

本作のプロモーションのために行われた1976年のコンサート・ツアーには、リック・エヴァースが同行し、バンドとの不和・喧嘩が絶えなかったという。そしてキャロルは、いままでの仕事・人間関係と決裂し、リックとともにロスアンゼルスを離れ、新しい音楽・生活を求めてアイダホ州の田舎に移り住むことになる。

全般的に言える事として、リーランド・スクラーの縦横無尽に動きまわるベースラインが本当に素晴らしい。キャロルらしくない作品といえるが、個人的には好きな作品だ。


[2015年8月作成]


 
C11 Simple Things (1977) Avatar (Capitol)      
 







Crole King : Vocal, Piano, 12st. Guitar (2), String Arragement
Rick Evers : Additional Guitar (2,9)

[Navarro]
Robert McEntee : Guitar, Vocal, Keybords
Mark Hallman : Guitar, Vocal, Keybords
Poonah (Rob Galloway) : Bass
Michael Wooten : Drums, Percussion
Miguel Rivera : Congas, Percussion
Richard Hardy : Flute, Sax

Louise Goffin, Sherry Goffin : Back Vocal (10)
Clark Spangler's : Synthesizer

[David Campbell Strings]
Charlie Veal, Ken Yerke : Violin
David Campbell : Viola
Dennis Karmazin : Cello

Nolan Smith, Oscar Brashear : Trumpet, Flugelhorn
Ernie Watts : Tenor Sax
Terry Harrington : Baritone sax
George Bohanon : Trombone, Horn Arragement
Maurice Spears : Bass Trombone

Carole King, Norm Kinney : Producer

Side A
1. Simple Things [Carole King, Rick Evers]
2. Hold On [Carole Kng, Rick Evers]
3. In The Name Of Love [Carole King]
4. Labyrinth [Carole King]
5. You're The One Who Knows [Carole King]

Side B.
6. Hard Rock Cafe [Carole King] C19 E4 E5
7. Time Alone [Carole King]
8. God Only Knows [Carole King]
9. To Know That I Love You [Carole King, Rick Evers]
10. One [Carole King] O17

Recorded At Los Angeles, April and May 1977

写真中: 二つ折りジャケット内部
写真下: レーベル

 

約45年前の発売時、本作を聴いたとき感じたのは、強烈な違和感だった。レーベルとバックバンドが変わってサウンドが大きく異なっていることに加えて、得体の知れない男が出てきて、その影響のためか歌詞の内容も今までと違う感じになっている。オード時代のキャロルをこよなく愛していた私にとっては、どうしても馴染むことができず、聴かない作品になってしまった。その後2012年にキャロルの自伝が発売され、本作の背景となった事柄を知ることができ、そして長い時を経た後の現在(2023年本稿執筆時点)、「こうあるべき」という先入観や偏見のない耳で聴くことができる。

とは言っても、本作をリック・エヴァース (1947-1978) なくして語ることはできない(以下は自伝で語られた範囲内での記述となります)。キャロルは1975年11月に彼と出会い意気投合する。チャールズ・ラーキーと別れ、ロスアンゼルスのセレブ生活に我慢できなくなった彼女は、自然の中で生きることを求め、そのノウハウと人脈を提供してくれる彼と恋愛関係となり、アイダホ州に住処を構える(結婚は1977年8月)。彼女はニューヨークという大都会の中で生まれ育ったが、もともと都会の生活が肌に合わなかったようだ。リックと一緒になることで、キャロルはこの生活改変を成し遂げることができたが、その代償も大きかった。彼はアーティストとして有名になるという強烈な上昇志向を持っていて、彼女の作品に参加することによって、その野望をかなえようとした。また強いエゴを伴う過多な愛情は、その裏返しとして束縛と虐待をもたらした。そして独占を疎外する彼女の友人達とトラブルを起こしたという。彼女はかなりのページを割いて当時の経験・思いを述べているが、何度読み返しても、聡明な彼女が何故そのような虐待を伴う依存関係に陥ったか理解できなかった。そもそも一般論として、このような精神状態を合理的に説明・理解すること自体が難しいのだろう。

本作はリック・エヴァースの色がかなり出た作品になっていて、それはジャケット内部の写真、レコードのレーベルデザイン(どうみても良い出来には思えない)に反映されている。また10曲中3曲に共作者として参加し、うち2曲ではギターも弾いている。1.「Simple Things」は、今までの生活を見直し、自然との調和の中で生きることを宣言する歌。さらに 2.「Hold On」や3.「To Know That I Love You」になると教条的な香りが漂う。言おうとしていること自体は決して悪くはないけど、それが聴く者の心にまで届かず、共感することができないのだ。キャロルの本心から出たものではないからだろう。この2曲についてはギター中心のフォーキッシュな演奏で、サウンド面でも少し異質。ちなみに 3.「To Know That I Love You」のブリッジで歌う男性は、おそらくマーク・ホールマンだろう。

本作のもう一つの特徴は伴奏者にある。キャロルはコロラド州でダン・フォーゲルバーグ(「Longer」1979 全米2位が有名)のバックを担当していたバンド、ナヴァロと出会い、私生活を含め親交を深めるようになる。そのためここでは単なるバックバンドに留まらない精神面の絆を感じさせる演奏内容になっている。サウンド面では、いままでの作品の陰影あるムードとは異なり、からっとしたカントリー・ロックの世界が新たに開けている。と言っても都会的な演奏もこなす器用さを持っており、両者がバランス良くブレンドされているところがミソ。

3.「In The Name Of Love」 はニューヨーク時代から家政婦として家庭の面倒を見てくれて、西海岸への移住にも同行してくれたウィラ・メイの死に際して作った曲で、アルバムのクレジットにこの曲を彼女に捧げる旨が書かれている。4. 「Labyrinth」は、生活・音楽スタイルの変遷における過渡期の心境を歌っている。5. 「You're The One Who Knows」は、洗練されたバンド演奏で、特にロバート・マッキンティーのフェンダー・ストラスキャスター全開のギターサウンドが素晴らしい。

6.「Hard Rock Cafe」は、ロスアンゼルスのバーおよびアイダホ州にあった食堂のイメージから作った曲で、我々が知る「ハードロック・カフェ」(東京では六本木と上野にあるね)とは別とのこと。マリアッチ風のブラスが入った解放感に満ちた軽快な曲で、シングルカットされ全米30位のヒットとなり、本作からは唯一、後年のコンサートでも演奏されている。7.「Time Alone」は愛に満ちた生活を歌ったもので、リックと一緒にいた事が苦しみや問題だけではなかった事を物語っている。ロックンロール調の 8.「God Only Knows」は、キャロルによるとリックとの関係における心の葛藤を歌ったものとのこと。まあ愛とはこんなに複雑なものなんだよね.....。スローテンポのブリッジでのサックスとエンディングのギターソロがいい感じを出している。10.「One」は 「リックのフィルターを通さず書いた」とのことで、我々は世界を変える力を持っているという信条を歌ったもの。この曲ではルイーズとシェリーの二人娘がコーラスで参加している。なお本曲の再録音O18 が、2018年アメリカの中間選挙に際し、インターネット配信された。 

ライフ、ミュージックスタイルの変遷期における過渡的な作品で、発売当時は違和感が強かったが、今(2023年)では偏見・先入観なく聴ける。

[2023年3月作成]


 
C12 Welcome Home (1978) Avatar (Capitol)       
 





Crole King : Vocal, Piano, String Arragement
Rick Evers : Cowbell (3)

[Navarro]
Robert McEntee : Guitar, Back Vocal
Mark Hallman : Guitar, Back Vocal
Rob Galloway (Poonah) : Bass, High Vocal (6)
Michael Wooten : Drums
Miguel Rivera : Congas, Percussion
Richard Hardy : Flute, Sax, Clarinet, Back Vocal

Stephanie Spruill, Alexandra Brown, Anne White : Chorus (10)
Bob Harrington : Hammer Dulcimer (2)
Anne Golia : Tanboura (3)
George Kelly : Harp (3,10)

Charlie Veal, : Violin, Concert Master
Israel Baker, Frank Foster, William H. Henderson, Marcia Van Dyke, Dorothy Wade, John Wittenberg, Kenneth Yerke : Violin
Rollice Dale, Denyse Buffum : Viola
Dennis Karmazin, Ronald Cooper : Cello

Nolan Andrew Smith Jr., Oscar Brashear : Trumpet, Flugelhorn
Ernie Watts : Tenor Sax
George Bohanon : Trombone, Horn Arragement
Dick "Slyde" Hyde : Trombone

Carole King, Norm Kinney : Producer

Side A
1. Main Street Saturday Night [Carole King]
2. Sunbird [Carole King, Rick Evers]
3. Venusian Diamond [Carole King, Rick Evers, Navarro]
4. Changes [Carole King]
5. Morning Sun [Carole King]

Side B
6. Disco Tech [Carole King, Navarro]
7. Wings Of Love [Carole King, Rick Evers]
8. Ride The Music [Carole King]
9. Everybody's Got The Spirit [Carole King]
10. Welcome Home [Carole King]

Recoded At Sound Labs, Inc., Hollywood, California, January 1978

写真上 ジャケット表
写真中 ジャケット裏     
写真下 ライナー表面の左半分(左上にキャロルの弔辞あり)


 

発売当時、早速購入した時の思い出。ジャケットを見ると、前作では二つ折りジャケット内部に閉じ込められていたリック・エヴァースが、ジャケット表と裏写真に出世している。歌詞はレコードの中袋に印刷され、挿入された二つ折ライナーの表面には、アイダホの家(Welcome Home)での生活模様の写真とともに「Rick Edward Evers January 6 1947 - March 21 1978」というタイトルで、キャロルの弔辞が掲載されている。ライナー裏面のクレジット表示を見ながら聴いてみると、伴奏者・サウンドは前作「Simple Things」とほぼ変わらずで、前作同様の違和感を覚えた記憶がある。リックに対するキャロルの弔辞は、「彼は普通の人とは違っていた....」というネガティブと、「彼が与えてくれる愛は誰よりも大きかった」というポジティブが並存した微妙なものになっている。入手当時はインターネットもなく、これ以上の情報がなかったので、何があったのか知る由もなかったが、約35年後の2012年に刊行されたキャロルの自伝を読んで、本作に係る背景・経緯がわかるようになった。

まず本作の録音は1978年1月で、発売は同年5月であることから、彼は録音およびミキシングが完了した時点で亡くなったということになる。収録曲のうち3曲はキャロルとリックの共作であり、彼はレコーディングにはかなりの時間立ち会ったという。自伝によると録音のためアイダオの自宅からロスアンゼルスの仮住まいに家族で移動した頃から、いつも一緒にいた彼が単独行動をするようになり、録音が終了してミキシング作業に入った後、その傾向が増した。その間キャロルはいままでの夫婦関係を見直すべくセラピーを受け始めたが、彼がコカインをやっている事に気が付き、子供を連れてロスの家を出てハワイに避難する。そして同地で、リックがコカインの過剰摂取のため亡くなった知らせを聞いた。自伝で語られた生前における彼の虐待行動、キャロルの友人達とのトラブルの話の一方で、彼のキャロルに対する愛情も偽りのないものであったという事実が、上記の彼女の弔辞を複雑なものにしたといえる。起きた事はスキャンダルであり、ロスから遠く離れた異国の私には、当時現地でどのような説明・事態の収拾がなされたのか全くわからないが、きれい事で済まされなかったのは明らかだ。そんな状況で彼女は違法薬物と無関係である旨をはっきりさせたうえで、彼についてのネガティブな部分を抑え、彼が注いでくれた愛情に感謝して、あえて彼の写真をアルバムジャケットに使用することで、本作を彼に捧げたものと思われる。

そんな大変な状況の中で発売された作品であるが、聴く限り暗い影は全く感じられない。本作はリスナーの不要な憶測を排除しするためか、キャロルによる曲毎の解説がついている。1. 「Main Street Saturday Night」は、ブギー調の軽快なロックで、自分の経験ではなく、娘や友人の話をもとに書いたとのこと。ブレイク時に入るシンセドラムのチープな音がいかにも当時っぽい。2.「Sunbird」はリックの作詞。前作と同じ自然との調和を歌う。やはり少し説教臭いかな?3.「Venusian Diamond」は本作で最も異色の曲で、リックが以前書いた詩にキャロルとマーク・ホールマンが書き足して、ビートルズのリックをなるべく多く詰め込んで仕上げたという(もちろん愛と尊敬の意をこめて)。「サージェント・ペッパーズ....」のようなサウンド処理したキャロルの声とビートルズエスクなコーラス、少しサイケなサウンド、抽象的な歌詞、途中での突然の曲調変化。どれをとっても徹底的な「それ風」で、それなりに面白い。4.「Changes」は、友人の理解不能な行為により傷ついた想いを歌ったもの。5.「Morning Sun」は、曲が書けないスランプから脱して初めて書いた曲で、楽観的な雰囲気に満ちていて、聞いていて気持ちがいい。リチャード・ハーディーのフルートソロもいいね。

6.「Disco Tech」は、「ナヴァロとともにR&Bグループになれるか挑戦した」曲で、結構大真面目に演っているところが面白い。ホーンセクション、ストリングスが活躍。サックスソロはアーニー・ワッツ (1945- )。7. 「Wings Of Love」 は、アイダホの住居 「Welcome Home」での生活を祝福する内容で、リックとの共作パターンの曲。8. 「Ride The Music」は口直しのような軽い感じの曲で、こちらの方がキャロルらしいね。クラリネットがいい味を出している。9.「Everybody's Got The Spirit」、10.「Welcome Home」は、アイダホでの田舎生活を賛美する曲で、カントリーフレイバーなサウンド。

本作も前作と同じく。本稿執筆時点(2023年)の耳で聴くと、すっと違和感なく頭のなかに入ってきて、気持ち良く聴くことができる。リックとの共作曲はクセがあって、ちょっと気になるけど、別に悪い事は言っていないからね.........

[2023年3月作成]


 
C13 Touch The Sky (1979) Capitol  




Carole King : Vocal, Acoustic Piano (1,6,8,9) Acoustic Guitar (4,7), Producer
Mark Hallman : Vocal (9), Back Vocal, Acoustic Guitar, Electric Guitar, Mandolin, Synthesizer, Producer

Reese Wynans : Keyboards
Dave Perkins : Acoustic and Electric Lead Guitar
Bobby Rambo : Acoustic and Electric Rhythm Guitar, Lead Guitar (9)
Leo LeBlanc : Pedal Steel Guitar
Thomas Ramirez : Sax, Flute, Recorder
Ron Cobb : Bass, Sax , Flute
Richard Hardy : Sax (2)
Fred Krc : Drums, Tambourine (7)
Miguel Rivera : Percussion

[Side A]
1. Time Goes By
2. Move Lightly
3. Dreamlike I Wander
4. Walk With Me (I'll Be Your Companion)
5. Good Mountain People

[Side B]
6. You Still Want Her
7. Passing Of The Days
8. Crazy
9. Eagle  G24
10. Seeing Red

All Songs Written By Carole King

Recorded at Austin, Texas, March 1979

写真下: 中袋の写真(左の男はプロデューサーのマーク・ホールマン)

 

このアルバムについて語るためには、当時の状況を把握する必要があるため、自伝等の資料から以下の通り時系列に整理しました。

1978年1〜2月  「Welcome Home」 レコーディング
1978年3月    夫のコカイン常習に気が付き、子供と共にハワイに避難
1978年3月21日 リック・エヴァース、コカイン過剰摂取のため死去
1978年5月    「Welcome Home」 発売

1978年9月    リック・ソレンセンと出会い、アイダホ州バードクリフに移り同棲
1979年3月    テキサス州オースチンで「Touch The Sky」 レコーディング
1979年6月   「Touch The Sky」 発売

1980年1月    ロスアンジェルスで「Pearl」 レコーディング
1982年5月3日  リックと結婚 
1982年      「One To One」 レコーディング、発売
1988年      リックと離婚

夫リック・エヴァースのコカイン常習と死という悲劇の約半年後、キャロルは新しい恋人リック・ソレンセン(ティッピー)に出会い、転居・同棲後にアルバム「Touch The Sky」を制作する。新しい住まいにピアノがなかったため、ギターで曲作りを行ったとのこと。そしてティッピーがカントリー・ロックを好んだ影響、でテキサス州オースチンを本拠地とするジェリー・ジェフ・ウォーカーのバックバンドとのレコーディングとなり、キャロルのアルバムのなかでもカントリー色が最も強いサウンドとなった。ちなみにキャロルが同年発表されたジェリー・ジェフ・ウォーカーのアルバム「Too Old To Change」G27にゲスト参加したのは、そのお礼なのだろう。

アルバムを通して聴いた印象としては、夫を喪った悲しみというよりも、彼の束縛から解放された自由な精神を感じさせる内容だ。1.「Time Goes By」は特に重要な曲だったようで、透明感あるピアノのイントロ(タッチからキャロルでなく、リース・ウィナンが弾いていることが分かる)、力強い歌声、冷静な感じの演奏に、過去を振り切って新たな生活に乗り出す彼女の決意が表れている。エンディングにおけるギターソロも清々しい。なおアルバムタイトルは、本曲の歌詞の一節からとったもの。2.「Move Lightly」はR&Bの香りがするカントリーロック。ギター主体のサウンドで、キーボードはオルガンという今までにないサウンド作りで、彼女のソウルフルな歌が印象的。3.「Dreamlike I Wander」はカントリー・ソングで、新しい生活の抱負を語っている。5.「Good Mountain People」は山の民への讃歌で、キャロルが自伝で「彼は14本の指があると信じている」と語ったリース・ウィナンのピアノソロが冴えている。

B面最初の 6.「You Still Want Her」は、彼女が弾くピアノが主体になっている「キャロル・キング」らしい曲。7.「Passing Of The Days」はアップテンポのカントリー曲で、時代の流れに沿って生きる様を歌っている。8.「Crazy」はロック調のアレンジ。9. 「Eagle」はカントリー・ロック風のアレンジで、逆境を克服しようとする気概を歌う力作。イーグルスのドン・ヘンリーがプロデュースした、グレンダ・グリフィスのアルバム「Grenda Griffith」1977 G24に収録された曲のセルフカバーだ。エンディングでマーク・ホールマンのボーカルが加わる。10.「Seeing Red」は自然との調和を歌っているものと思われるが、前作までの他人の受け売り、教条臭さはなく、彼女の本心が語られていて、説得力がある。

発売時は自伝もなく、背景も分からなかったため、前作に続く「非キャロル的なアルバム」というネガティブな印象を持った記憶がある。実際にアルバムチャート104位ということで全然売れなかったが、その後45年近く経ち、諸事情を知った2023年の時点で聴き込むと、彼女の人間としての強さが感じられ、とても良い出来の作品であるという評価に変わった。

[2023年5月作成]


 
C14 Pearls Songs Of Goffin And King (1980) Capitol   
 

Carole King : Vocal, Piano (1,2,3,5,7,10)
Mark Hallman : Guitar, Harmonica (10), Back Vocal (6)
Reese Wynans : Keyboards
Eric Johnson : Rhythm And Lead Guitar
Christopher Cross : Rhythm Guitar (2,6,8)
Richard Hardy : Flute, Sax Solo
Mark Maniscalco : Banjo (9)
Betty Whitlock : Fiddle (9)
Charles Larkey : Bass
Steve Meador : Drums
Miguel Rivera : Percussion

Oscar Ford Jr., Lydia North, Deborah North, Gloria Himes : Back Vocal (8)

Bill Ginn : Strings & Horns Arrangement And Conduction
Ray Crisara : Trumpet, Cornet (8)
Bobby Meyer : Trumpet, Cornet (8)
Tomas Ramirez : Tenor Sax
Richard hardy : Alto Sax
Michael Munday : Trombone
Don Knaub : Bass Trombone
Austin Symphony : Strings

[Side A]
1. Dancin' With Tears In My Eyes
2. Locomotion  C19 C21 E3 E4 E5 E8 S2
3. One Fine Day  C21 E3 E4 E5 E8
4. Hey Girl  C21 E3 E4 E5 E7 E8
5. Snow Queen  C1 C14

[Side B]
6. Chains  C19 C21 E3 E4 E5 E8 S2
7. Oh No Not My Baby  C20 G16 S1
8. Hi De Ho  C1
9. Wasn't Born To Follow  C1
10. Goin' Back  C2

Carole King, Mark Hallman : Producer
All Songs Composed By : Gerry Goffin And Carole King

Recorded: January 1980 at Pecan Street Studio, Austin、TX

 
私が大好きなアルバムです!

「Simple Things」1977 C11以降のアルバムにもやもやしていた私(当時はそう感じましたが、今聴くとそれなりに良いなと思いますけどね.....)は、43年前、このレコードに針を降ろした時の「私のキャロルが戻ってきた!」という感動と興奮を今でも覚えている。3枚のアルバムがチャート100位以内に入らず、アーティストとしてのキャリアに暗雲が立ち込めていたはずで、こういう時期に過去の名作のセルフカバーを出すということは、失地回復の意図があった事は間違いない。そのアルバムに「Gold」とか「Diamond」などのキラキラじゃない「Pearl」という名前を付けたのは本当に憎いね〜

当時彼女はアイダホ州バーグドーフという山と原野の地(温泉で有名)で、リック・ソレンセンという山男と同棲していた(後に結婚)。そこには電話、テレビ、ピアノさえなかったという。そんな環境の中でギターで作曲して、テキサス州オースチンで 「Touch The Sky」1979 C13を制作。その後キャロルは頻繁にLAに赴き、ゴフィンとの娘達と会ったり、同地で作曲活動を行ったが、その中には前夫のジェリー・ゴフィンとの仕事上の再会もあった。そして1980年1月オースチンで本作を録音した。その際リックと二人の子供達も同行し、ベーシストとして2番目の夫(子供達の父親でもある)チャールズ・ラーキーが参加し、アルバム写真の撮影に娘のシェリー・ゴフィンが駆け付けたため、キャロルの歴代の家族が揃うことになった。自伝で彼女は「皆仲良く...」という思いが込められていた事に後で気付いたと語っている。その通り本作は自分が作った家族、作品への暖かい思いがしっかり伝わってくる作品だ。

バックを担当するミュージシャンは、前述のチャールズ・ラーキー(ベース)、ナヴァロ出身のマーク・ホールマン(ギター、ハーモニカ、バックボーカル、共同プロデュース)、リチャード・ハーディー(フルート、サックス)、ミゲル・リヴェラ(パーカッション)、ジェリー・ジェフ・ウォーカーのバンドからリース・ウィナン(キーボード)が参加。地元オースチンからセッション・ミュージシャンのスティーヴ・メドウ(ドラムス)、エリック・ジョンソン(ギター)が参加した。特にエリック・ジョンソンの参加が興味深い。彼は1980年代後半以降にギターの名手として不動の地位を獲得することになるが、当時はセッションで生計を立てる無名のギタリストだった。そして地元テキサス州出身で1979年にデビュー・アルバム(そこにもエリックが参加していて「Minstrel Gigolo」という曲のギターソロが最高!)を出してセンセイションを起こしたクリストファー・クロス(彼もギターが上手い)がリズム・ギターで数曲に登場している。

これからいよいよ珠玉の収録曲についての話です(以前書いた記事と重複する部分があります)。

1.「Dancin' With Tears In My Eyes」は本作唯一の新曲。上述の通り、LA滞在中に最初の夫ジェリー・ゴフィンと共作したもので、二人の縁が続いている事を象徴する曲だ。ジェリーはLA移住後、同地のヒッピー文化にのめり込んで麻薬やLSDに手を染めて精神崩壊をきたし、それが離婚の原因になったが、その後健康を取り戻して、詩作で大きな成功を収めた。代表作は、マイケル・マッサーとの共作によるダイアナ・ロスの「Theme From Mahogany (Do You Know Where You're Going To)」1975 全米1位、ピーボ・ブライソンとロバータ・フラックの「Tonight, I Celebrate My Love」1983 全米16位、ウィットニー・ヒューストンの「Saving All My Love For You」1985 全米1位、グレン・メデリオスの「Nothing's Gonna Change My Love For You」1987 全米12位な、凄い曲が並ぶ。ここでの歌詞・メロディーも素晴らしく、美しいエレキピアノによるドリーミーなイントロ、リズミカルで洗練された伴奏、そしてパンチが効いたボーカルが最高に魅力的だ。自身の多重録音によるバックボーカル、ブラス、ストリングスも効果的。そしてエンディングにおけるエリック・ジョンソンのギターソロは彼の後の成功を予言するものだ。2.「Locomotionlは、 1962年「Mash Potato Time」全米2位のディー・ディー・シャープが歌う想定で作った曲だったが、彼女の会社が取り上げなかったため、リトル・エヴァのデモを使ってディメンション・レーベルから発売、それが全米第1位の大ヒットとなったもの。ここではより現代的なロックのアレンジで、クリストファー・クロスによるリズムギターのビートがサウンドの柱を作っている。グランド・ファンク・レイルロード 1974 全米1位、カイリー・ミノーグ 1988 全米3位、日本では伊東ゆかりの1962年のカバーがある。

3.「One Fine Day」は、ザ・シフォンズ1967年 全米5位のヒット曲。リタ・クーリッジ1979 全米66位や、カーペンターズのアルバム「Now & Then」1973のオールディーズ・メドレーなどのカバーが名高い。多重録音によるキャロルのバックボーカルが「シュビドゥビ・ドゥワッパ」と歌う様が楽しい。本曲はシングルカット(O4) され、全米12位のヒットとなった。映像作品「One To One」1982 E3 では、イントロのピアノを楽しそうに弾くキャロルの姿を拝むことができる。4.「Hey Girl」は、フレディー・スコット1963年全米10位のR&Bバラード。以前は男の歌を女性が歌う場合、歌詞の「Girl」を「Boy」に変える習わしがあったが、本アルバムの頃から気にしない風潮になったようで、キャロルも「Girl」のままで歌っている。いい歌詞であれば、男も女も関係ないもんね〜。多くの人がカバーしているが、私は1971年のドニー・オズモンド全米9位、レイ・チャールズ、マイケル・マクドナルドのデュエット(レイの「Genius Loves Company」2004収録)が好きだ。特に後者は斬新なアレンジで曲に新たな風を吹き込んでいる。5.「Snow Queen」は、1966年のロジャー・ニコルス・トリオの名盤「Roger Nichols & The Small Circle Of Friends」1966がオリジナルで、ザ・シティのアルバム「Now That Everything's Been Said」1968 C1のセルフカバーがあるが、長年廃盤になっていて1993年のCD化まで聴くことができなかった曲。リース・ウィナンのエレキピアノの背景とジャズ・ワルツのリズムに乗ったキャロルのピアノの透明感溢れるプレイが素晴らしい。私はザ・シティよりもこっちのほうが好きだ。カバーとしては、ブラッド・スウェット・アンド・ティアーズ「New Blood」1972収録のブラス・ジャズロック・アレンジが斬新で良い出来。

6.「Chains」はR&B調サウンドの傑作。 もともとはエヴァリー・ブラザース宛に作られた曲だったが、ボツになったため、再結成後ザ・クッキーズ初めてのシングル(以前の1956年に「In Paradise」という曲がある)として発売され、全米17位を記録した。ザ・ビートルズがカバーしてデビュー・アルバム「Please Please Me」1963に収めた話は有名。お蔵入りになったエヴァリー・ブラザースのバージョンは1984年の「Nice Guy」で発掘されたが、クッキーズのほうが全然良いね。キャロルは共同プロデューサーのマーク・ホールマンと一緒にコーラス部分を歌っていて、これも「One To One」1982 E3 で楽しげな映像を観ることができる。ここではクリストファーのリズムギター、エリックのギターソロが誠にカッコイイ。7.「Oh No Not My Baby」は、「Legendary Demos」S1のデモ録音、本アルバムのセルフカバー、そして「Love Makes The World」2001 C20の3世代の録音がそろっている。もともとはザ・シュレルズが録音したがお蔵入りとなり、同じバッキング・トラックを使用したマキシン・ブラウンの吹き込みが全米24位を記録した曲。ザ・シュレルズの録音はその後発掘されたので、両者を比べると面白い。非常に多くのカバーがあるが、1972年のメリー・クレイトンのシングルG16や、ロッド・スチュワート1973年のシングル全米59位が面白い。

「That Old Sweet Roll」とも呼ばれる 8.「Hi De Ho」は 5.と同様、オリジナルが入ったC1が廃盤で長年聴けなかったため、私にとってブラッド・スウェット・アンド・ティアーズのカバー 1970全米14位(アルバムは「Blood, Sweat And Tears 3」収録)が最初で、ブラスセクションのジャズプレイが印象的だった。後に聞いたシティのオリジナルはブラスなしで、ジャズよりもカントリーに近いシンプルな演奏だったが、ここではブラス・セクションとコーラス隊をフィーチャーしてゴスペル風に仕上げている。他のカバーではダスティ・スプリングフィールド1972がいいね。9.「Wasn't Born To Follow」は、ザ・バーズの「The Notorious Byrd Brothers」1968が最初の録音で、ピーター・フォンダ主演の映画「Easy Rider」1969にも挿入された。ザ・バーズのカントリー調が色濃いアレンジに対し、ザ・シティのC1での演奏は普通っぽい感じ。本作ではバンジョーとフィドルを入れて、より一層カントリー風にアレンジされている。なおザ・モンキ−ズは1968年にこの曲を録音したが、当時は未完成のまま終わり、2016年に仕上げて同年のアルバム「Good Times !」に入れている。

最後は本アルバムの趣旨を象徴するような曲 10.「Goin' Back」。オリジナルはダスティー・スプリングフィールド1966で、アメリカではシングルカットされなかったが、英国では全英10位の大ヒットとなった。曲と歌い手の持ち味がぴったりはまった名曲・名演だ。他はザ・バーズの1967年、面白いところでは英国のバカラックと呼ばれたトニー・ハッチが編曲したジャッキー・トレント1969年といったところかな?キャロルのセルフカバーは「Writer」1970 C2が最初で、そこにはジェイムス・テイラーがギターとボーカルで参加していて、こちらも最高。本作での演奏は比較的オーセンティックな感じがする。

本アルバム発売当時、聴くことができなかったザ・シティの曲が3曲と多く入っていることが特徴。本作は全米44位を記録して久しぶりの100位以内となった。ゴッフィンとキングの曲は、名曲が多すぎて1枚のLPにはとても収まり切れないので、2枚組にして欲しかった!またはCD時代の発表だったら、もっと多くの曲を収録できたかもしれないね!