Letterkenny Arts Centre (2000) 映像 

Bert Jansch : Vocal, A. Guitar

1. Carnival [Jackson C. Frank]   
2. Going Home
3. Crimson Moon 
4. The River Bank 
5. Let Me Sing
6. Kingfisher *
7. Back Home
8. She Moved Through The Fair [Trad.]
9. Looking For Love
10. Born And Bred In Old Ireland
11. Strolling Down The Highway
12. Angie [D. Graham] *

収録: Letterkenny Arts Centre, Letterkenny< Ireland, 2000


レターケニーは、アイルランド北部、北アイルランドとの国境近くのドネゴール・カウンティーにある人口2万人の町。1995年に開業したるアーツセンターで、バートが2000年に行ったライブの映像が残されている。50〜100人位のオーディエンスと思われる、こじんまりした会場で、たまにズーム調整が行われるだけの固定アングルによる撮影で、バートの左手の運指がよく見える。当時のライブにおけるバートのギター演奏は、リズムに不安定な面があるが、それなりの存在感で押し切っている。

アルバム「Crimson Moon」 S30発売の前後の時期にあたり、同アルバムから2, 3, 6, 8 の4曲、前作の「Toy Ballon」 S28から 1, 8, 10の3曲を歌っている。2.「Going Home」を聴くと、ペンタングルのシングル盤「Travelling Song」1968 O4 かな?と一瞬思うが、この曲を焼き直して「Crimson Moon」に収めた「Going Home」だ。親指を弦に叩きつけて、「カチッ」というパーカッションのような音を出してリズムを付けている。3.「Crimson Moon」も同じギター奏法による曲。 5.「Let Me Sing」は、アルバム「Thirteen Down」1979 S16から。6.「Kingfisher」は、「Avocet」1979 S15に収録された爽やかな感じのインストルメンタル。 哀愁漂う 7.「Back Home」と、トラディショナルの 8.「She Moved Through The Fair」は、コンサートの場所アイルランド北部の雰囲気に合っている。 9.「Looking For Love」でのライブの弾き語りは、アルバム「Crimson Moon」のアンサンブルでの演奏とかなり異なる。この曲のライブ演奏が聴けるのは、私が知る限るここだけだ。地元で歌うと、感慨深い10.「Born And Bred In Old Ireland」の後は、本映像では数少ない昔の曲 11. 「Strolling Down The Highway」、そして 12. 「Angie」だ。

演奏はまあまあと思うが、彼の歌と存在感を味わいながら観ちゃいましょう!


 
Deamweaver  BBC TV (2000)TV映像 
 
Bert Jansch : Vocal, A. Guitar
Bernard Butler : A. Guitar (2)
Adam Jansch : E. Bass (9)


1. Blackwaterside [Trad.]  
2. Poison
3. All I Got 
4. Carnival [Jackson C. Frank] 
5. Downunder  
6. Reynardine [Trad.]  
7. Morning Brings Peace Of Mind
8. Rosemary Lane [Trad.]
9. Crimson Moon

Interview With:
Johnny Marr
Colin Harper
Donovan
Bernard Butler
Roy Harper
Davy Graham
John Renbourn
Marianne Faithfull
Robin Williamson And Clive Palmer
Len Partridge
John Challis
Kelly Joe Phelps
Owen Hand
Gordon Giltrap
Dolina MacLennan
Bert Jansch

Matthew Quinn : Producer
Darrin Nightingale : Director

放送 : 2000年6月28日 BBC Four


BBC Channel Fourで放送されたバート・ヤンシュのドキュメンタリー(50分)。全編白黒映像って強烈!私自身1930〜1950年代のモノクロ映画が大好きなので違和感はなく、カラーと異なる趣が好きなのだ。その陰影に富んだ画像は、この番組の雰囲気、バートのイメージ、そして彼の音楽を誠実に語ろうとする製作姿勢とよく合っていると思う。この映像にはナレーターの語りは一切なく、バート本人および彼に縁がある人々へのインタビュー映像を細かくカットして配置することにより、シナリオを組み立て、合間に彼の演奏シーンを挿入する構成をとっている。各人の発言がバラバラに収録されているのに、あたかも座談会で皆が話し合っているかのような感があるのは、編集の巧みに加えて、皆に共通するバートに対する敬愛の念が、一体感を生み出しているのだろう。

各人へのインタビューの断片が次々と切り替わりながら進行してゆく。トップバッターはジョニー・マー(1963- )。 「Crimson Moon」2000 S30の録音に参加していた頃で、ギブソンSGを手にしている。登場するギタリストの多くが楽器を抱えて登場するのが面白く、いかにもギター好きな人が作ったんだなと納得できる。彼は「バートはエレキギターにおけるジミー・ヘンドリックスと同じ改革を成し遂げたんだ」と語っているが、ニール・ヤングも以前同じような事を言っていたな。コリン・ハーパー(1968- )は、バートの本「Dazzling Stranger」の著者として説明不要。マリアンヌ・フェイスフル(1946- )は、最初アイドルとして売り出したが、ミック・ジャガーとのロマンスを経て、セクシー路線に転換。1968年にアラン・ドロンと共演した「The Girl On A Motorcycle (あの胸にもう一度)」のセクシーな映像は強烈だった。ドラッグにおぼれて落ちぶれ、芸能人生命を絶たれたかに見えたが、1980年にしゃがれた声で生々しく歌うシンガー・ソングライターとして復活を遂げた。バーナード・バトラー(1970-  「Crimson Moon」2000 S29参照)、ケリー・ジョー・フェルプス(1959- ブルース音楽家で本番組唯一のアメリカ人)のコメントのあと、バートのポートレイトが挿入され、番組タイトルの字幕が登場する。皺が刻みこまれたバートの表情、精悍な目つきは誠に印象的。ここで背景に流れるギター・インストルメンタルは、「Chambertin」(「L.A. Turnaround」1974 S9に収録、ここでの演奏はレコードからのものと思われる)で、ギタリストのゴードン・ギルトラップ(1948- O33参照)が登場し、ロブ・アームストロングのギター(O25参照)で、この曲のイントロを弾きながら解説。エディンバラの無名時代にバートと一緒に住んでいたというインクレディブル・ストリングバンドのロビン・ウィリアムソン(1943- )、クライブ・パーマー(1943- )とともに、コード理論にとらわれないバートのリフの秘密を明かしてくれる。彼がギターを弾き始めた頃のエピソードは、エジンバラの友人オーウェン・ハンド(1938-2003 プロとしての活動は1960年代前半のみで短かったが、その間に出したアルバムは多くの人に愛された。バートは「Crimson Moon」2000 S30で、代表曲「My Donald」をカバーしている)、バートのギターの先生だったレン・パートリッジが登場し、彼は最初から自己のスタイルで弾いていたと語る。バートのオリジナリティーについて語るジョン・チャリス (1942-2021) は、バートがロンドンに出てきた頃のルームメイトで、彼の最初のアルバム「Bert Jansch」S2のボーナス・トラック「Angie」でピアノを弾いていた人だ。彼は後にアニメーターとして成功し、1968年のビートルズのアニメーション映画「Yellow Submarine」にも参加している。ここでデイヴィー・グレアム(1940-2008)がちょっとだけ登場し、「Blackwaterside」がバートの最高作であるとコメント、バートによる 1.「Blackwaterside」の演奏シーンが始まる。コンサートの会場・日時は不明であるが、彼の容貌から本作収録時または1990年代末のものと思われる。演奏は途中で切れるが、曲の終盤なので不満足な印象は残らない。

彼の若い頃の描写は、コリン・ハーパーから始まり、バート自身が「おそらく7才の小学生の頃、音楽の先生がギターを触らせてくれたのが最初の経験」と話す。地元エジンバラのフォークシンガー、ドリナ・マクレナンは彼がフォーククラブに入り浸っていた頃を話す。オウェン・ハンドは、ブルースの巨人の一人であるブラウニー・マッギーがコンサートのためにエジンバラに来た際、バートが彼に頼み込んで「Key To The Highway」を目の前で何回か弾いてもらい、一晩で彼なりに習得したエピソードを語っている(ブラウニー・マッギーが彼に与えたインパクトの強烈さは、「Acoustic Routes」1993 S25を観るとよくわかる)。ここでフィーチャーされる 2.「Poison」は、バーナード・バトラーとの共演。 自宅録音という「Crimson Moon」2000 S30の頃の撮影なので、雰囲気から彼の自宅(またはオフィス)で収録したものと思われる。マーチンD28Sを弾くバーナードのギターが素晴らしい。ジョニー・マーはこの曲のことを「いままで聴いたなかで最高」と言っている。彼の音楽についての話では、ドノヴァン(1946- )とジョン・レンボーンが登場する。3.「All I Got」は、「Toy Balloon」1998 S28に入っていた曲で、演奏風景に都会の夜景が重ねられる。バートの人格についての話では、カリスマ的なフォーク歌手ロイ・ハーパー(1941- )が出てきて、彼のことを「秘密に満ちた人」と言い、ジョン・チャリスは「Enigmatic(得たいが知れない)が、温かく寛大でもあった」と語る。そしてロイ・ハーパー、オウェン・ハンドは、彼は人と交流するためには飲酒する必要があった、ケリー・ジョー・フェルプスは、パンクなどの時代の変化にも関わらず、彼は常に「今」を歌っていると言う。他人の曲でありながらバート自身の人生を語っているような4.「Carnival」では、街のイルミネーションが重ねられて独特な映像美を生み出している。 次にバートが「Crimson Moon」2000 S30のタイトル曲の録音、自宅の録音設備について語る。イントロのギター演奏をコンピューターに取り込んで自動で採譜する様、エレキギター(フェンダー・ストラトキャスターかな)をオーバーダブするシーンが面白い。ここで 5.「Downunder」が始まるが、バートの演奏シーンはすぐに終わってしまう(本映像のメニューでは、この演奏のUnedited Versionが背景で流れる)。1960年代のボヘミアン、スウィンギング・ロンドンと呼ばれる自由で暗中模索な雰囲気のなかで、多くの人々がフォーククラブに集い、そのなかで彼が1950年代のジャズなどを取り入れて新しい音楽を生み出したことが語られる。6.「Reynardine」は、これまでのライブ映像と異なるコンサートのもので、ギターの運指がよく見え有難い。ペンタグルのエピソードでは、若かりしバートのインタビューシーンが少しだけ入る。過酷なスケジュールで気が変になったこと、解散後は短期の引退を経てソロとして復活する様が語られる。7.「Morning Brings Peace Of Mind」は、 「When The Circus Comes To Town」1995 S26に収録された曲で、イギリスの田舎の風景が挿入される。バートが「自分の音楽はデイヴィー・グレアムに負うことろが多い」と言った後に、デイヴィーの演奏シーンが少しだけ写し出される。ジョニー・マーは、彼の音楽を「トラディショナルとブルースにジャズを取り入れたワンマンバンド」と評している。コリン・ハーパーが「ペンタングルの混沌とした日程の中で作られた純粋な作品」と紹介して8.「Rosemary Lane」の演奏が始まる。これはどこかのテレビ映像のように思われる。 最後の9. 「Crimson Moon」は、バーナード・バトラーとの共演の際と同じ場所での演奏。彼の息子アダム・ヤンシュがベースを弾いている。演奏中にクレジットのシーンになり。フェイドアウトで番組が終了する。 

バートの音楽の秘密を解き明かすドキュメンタリー映像であるが、番組そのものにオリジナリティー、創造性が感じられる。当時製作中の「Crimson Moon」2000 S30と併行して撮影されたものと思われ、同アルバム録音時の雰囲気も味わうことができる。


  
Theatre Royal (Old Vic) , Bristol (2001)映像 
 



Bert Jansch : Vocal (8以外), A. Guitar
Louren Jansch : Vocal (8)
Adam Jansch : Bass (5,6,7)

1. Rosemary Lane    
2. Born And Bred In Old Ireland
3. A Dream, A Dream, A Dream
4. Blackwaterside [Trad.]  
5. Poison
6. The River Bank
7. Crimson Moon
8. My Donald [Owen Hand]

2001年11月3日 Theatre Royal (Old Vic), Bristol, U.K.

 

シアター・ロイヤル(別名オールド・ヴィック)は、イギリス西部(ロンドンから169キロ)に位置するブリストルにある同国最古の劇場(1766年開業、1867年改装)。といっても、単体のカメラがステージ上を定点撮影しているので、映像から劇場内部の様子を窺い知ることはできない。2001年11月ということで、「Crimson Moon」2000 S30 発売後のコンサートとなる。ここで特筆すべきことは、息子のアダム・ヤンシュと奥様のローレン・ヤンシュがゲスト出演していることだ。映像自体は、5.〜7.を除きバラバラに投稿されたため、正確な曲順は不明。粗い画質のため全画面モードで観るのはつらいが、音質はまあまあで十分楽しめる。

1.〜4.はバートの弾き語り。家族をゲストに招いたためか、彼のパフォーマンスは何時に増して気合が入っているような気がする。3.「A Dream, A Dream, A Dream」は「Rosemary Lane」1971 S7 からの曲で、ライブ演奏は珍しい。5.〜7.はアダム・ヤンシュがベースを弾いている。彼は、バートが最初の妻ヒザーとの離婚後に一緒に暮らした女性(結婚はしなかった)シャルロット・クロフトン・スレイ (現在は「Toy Balloon」1998 S28に参加していたサックス奏者ピー・ウィー・エリスの奥様)との間に出来た子供(ローレン・ヤンシュの子供と書いてある資料があるが誤り)で、「Crimson Moon」2000 S30以降のバートのアルバムに参加、現在は、音楽活動の他に音楽技術の分野で活動している。ここでは 7.「Crimson Moon」でベースソロを取っている。8. 「My Donald」は、アルバム「Crimson Moon」 と同じく、奥様のローレンが歌っている。画質が粗く、クローズアップではないので、歌っている表情が見えなくて残念。

私が知る限り、息子のアダム、嫁さんのローレンと一緒に演奏する様を観れるのはこれだけなので、貴重な映像。

[2023年1月作成]


Astor Thetare Arts Center, Deal, UK (2002) 音源 

 


 
Bert Jansch : Vocal, A. Guitar

1. Blues Run The Game [Jackson C.Frank]    
2. Lilly Of The West [Trad.]
3. Come Back Baby [Unknown]
4. Blackwaterside [Trad.]  
5. She Moved Through The Fair [Trad.]
6. Downunder *
7. Let Me Sing
8. All I Got
9. Born And Bred In Old Ireland
10. Weeping Willow [Unknown]
11. October Song [Robin Williamson]

12. Carnival [Jackson C. Frank]
13. Rosemary Lane [Trad.]
14. Crimson Moon 
15. Kingfisher *
16. Running From Home 
17. Strolling Down The Highway
18. My Donald [Owen Head]
19. Angie [D. Graham] *
20. Fool's Mate  
21. Back Home
22. Summer Heat
23. Omir Wise [Trad.]
24. Poison  
25. When I Get Home [Pentangle]
26. The River Bank 

収録: 2002年5月25日 Astor Theatre Arts Center, Deal, U.K.


ディールは、イギリスケント州にある海岸沿いの古い町で、英仏海峡に面した港湾都市ドーヴァーの近くにある。アスター・シアター・アーツ・センター(現名称: Astor Community Center)は、そこにある古い多目的ホールだ。音質まあまあのオーディエンス録音で、会場のPAクォリティーのせいか、ギター、ヴォーカルともに、リヴァーブが少し深めでクリアーさに欠ける。地方の小ホールでの音そのものといった感じ。ギターの音が少しエレアコっぽいのも惜しい。彼のギター演奏・歌唱は、1960年〜1970年代の圧倒的なグルーヴ、魔術のようなカリスマ性は感じられないが、それでも十分上手く、その時点での彼の演奏として十分楽しむべきものといえよう。また、ぼそぼそ話すので聞き取れないんだけど、曲間の彼の語りも収められていて、ほぼノーカットと思われる内容になっているのも有難い。演奏曲は1990年代以降のレパートリーが主で、「When The Circus Comes To Town」 1995 S26から2曲(21, 22)、「Toy Baloon」 1998 S28から4曲(5, 8, 9, 12)、「Crimson Moon」 2000 S30から7曲(6, 11, 14, 18, 20, 23, 26) という構成。 

コンサートは定番の最初曲 1.「Blues Run The Game」から始まる。オーディエンスは、熱心なバートのファンというよりも、著名アーティストの地方公演を観に来た地元の人々といった感じで、静かに行儀良く聴き入っている。トラディショナルなフォークソング 2.「Lilly Of The West」は、1993年のペンタングルの「One More Road」 P18が初出。 3.「Come Back Baby」、11.「Weeping Willow」は「Nicola」 1967 S5、4.「Blackwaterside 」は 「Jack Orion」 1966 S4 と初期のレパートリー。インストルメンタルの 6.「Downunder」は、彼一人での演奏が聴きもの。7.「Let Me Sing」は 「Thirteen Down」 1980 S16から。11.「October Song」の後で、休憩になる

後半の 13.「Rosemary Lane」は1968年の同名アルバム S7から。 14.「Crimson Moon」、15.「Kingfisher」は同じ雰囲気のリズムカルな曲で、バートのギタープレイを聴くのは楽しい。後者は「Avocet」 1979 S15からだ。曲間のバートの語りでオーディエンスがどっと笑うが、何を言っているかわからないので残念。 16.「Running From Home」、17.「Strolling Down The Highway」、19.「Angie」は、1965年の名作ファースト・アルバムS2から。24.「Poison」は「Birthday Blues」 1969 S6から。25.「When I Get Home」は、ペンタングルのアルバム「Reflection」 1971 P6からだ。 

2000年代始めの、バートのコンサートの模様をありのままに伝えている音源。

[2021年12月作成]


The 60th Birthday Concert  BBC TV (2003)TV映像 

Bert Jansch : Vocal, A. Guitar
Jacqui McShee : Vocal (8,9,10)
Ralph McTell : Vocal, A. Guitar (3,4) 
Bernard Butler : E. Guitar (6,7,13)
Johnny Marr : E. Guitar (9,10,11,12,13)


1. Blues Run The Game [Jackson C.Frank]  
2. Blackwaterside [Trad.]  
3. Running From Home 
4. Moonshine  
5. Angie [D. Graham] *
6. On The Edge Of A Dream 
7. Crimson Moon  
8. Bruton Town [Trad.]  
9. Train Song [Pentangle]  
10. I've Got A Feeling [Pentangle]  
11. It Don't Bother Me  
12. Fool's Mate  
13. The River Bank 
14. Strolling Down The Highway  
15. Carnival [Jackson C. Frank]  

収録 : 2003年10月24日 ロンドン RSO St. Luke's Church
放送 : 2003年11月21日 BBC Four 「Sessions」
    

バート・ヤンシュ60歳の誕生日を記念してBBCデジタル放送局「BBC Four」が製作したライブ・コンサート。2003年10月24日ロンドンで収録され11月21日に放送された。収録場所の RSO St. Luke's Churchは、ロンドン・シンフォニー・オーケストラ(RSOはその略称)が、安全上の問題で使用不可となり半ば廃墟と化していたロンドン市内の教会跡を修復して活動拠点としたもの(2003年完成)。クラシック以外の音楽コンサートやその他目的にも使用されている。会場となったJerwood Hallには、祭壇があったあたりに小さなステージが組まれ、キャンドルを灯したテーブル席で観客はドリンクを飲むことができる。様々な色のライティングが鮮やかで、教会内部の照明イメージとは異なる不思議な感じだ。また通常の音楽ホールとも異なり、大きな窓から外の景色が見えるようになっていて、木々が綺麗にライティングされ、キラキラと光る透明感溢れる素晴らしい雰囲気を生み出している。

大きな拍手に迎えられてバートが登場し、おなじみの1.「Blues Run The Game」の演奏を始める。老眼鏡をかけて太った老人顔は、最近の写真から想像できたことであるが、実際に映像を見ると「年をとったな〜」という実感が押し寄せてくる。ということは自分自身もそうであるということを思い知らされる事にもなる。本作について全般的に言える事であるが、彼の声は意外としっかりしていて、ヴォーカルは悪くはないのであるが、ギター演奏については、いたるところでリズムのずれ、小節の飛ばし、運指のもつれ、タッチミスが見られ、ある所では演奏をストップさせる程ではないけど完全な間違いを犯している。この番組はDVDで正式発表されたわけではないし、文句を言う筋合いは全くないのであるが、たまたま当日調子が悪かったのか、または腕の衰えなのかどっちなんだろう.......。最初観た時はその事がとても気になって、何だか悲しくなってしまったのだが、2回、3回と繰り返して観るうちに、そんな事はどうでもよくなった。要するに、一人の音楽家の40〜50年に渡る生き様を観ているのだ。年老いたブルースマンのように、よれよれになっても自分を表現し続ける事が、その人の存在意義であり、音楽なのである。ジョン・レンボーンのコンサート評でも同じようなものを読んだことがある。その人はあの演奏で聴衆が大きな拍手をするのはおかしいと言っていたが、単に聴く人のスタンスの違いなのだ。演奏するにはかなりの体力を要する鉄弦のアコースティック・ギターの世界において、60歳の人に20歳代の切れ味を期待すること自体が無茶な話であり、アンフェアーだと思う。本当に凄いバート・ヤンシュを聴きたければ60〜70年代の作品を聞くべきです。だからといって現在のバートの演奏が無意味であるとは思いません。その間の長い時の移ろいが凝縮されているのだから。「円熟」と表現するとカッコイイけど、実際はもっと凄まじいものだ。某氏のコメントを引用します。「やはり年老いたとはいえ、バートが大好きだから?」......同感です。

2.「Blackwaterside」を終えた後、旧友のラルフ・マクテルが登場する。彼の老け顔にもビックリ!二人でボーカルを交換し合う3. 「Running From Home」は、今となっては過去を振り返る歌となり、この年齢、時代でしか表現し得ない重みに満ちており、人生を考えさせる余韻に満ちている。本作でのベストトラックだ。4.「Moonshine」は二人の意気が合わずに苦労して演奏しているのは明らか。ラルフの退場後、一人で演奏される5.「Angie」は比較的さらっとした感じだ。ただ今回初めて聴くエンディングのフレーズが大変スマートで、ばっちり決めている。次にギブソンのセミホロウのエレキギターを抱えたバーナード・バトラーが登場して6.「On The Edge Of A Dream」が始まる。バートが自由自在に弾くので、合わせるのが大変そう。トレモロアームを使って繊細な伴奏を付けてゆく彼の真剣な表情が印象的。ボサノバのリズムに乗せて歌われる7. 「Crimson Moon」 でもバーナードはしっかり寄り添って、優しいカラフルな音を散りばめている。

バーナードが退場、その代わりにジャッキー・マクシーが出てきて、二人による8.「Bruton Town」のボーカルには力がこもっている。そしてジョニー・マーが加わり、久しぶりに聴く9.「Train Song」は難しそうな曲なんだけど、意外に良い出来で、特にジャッキーのスキャット・ボーカルが懐かしく、かついい味を出している。10.「I've Got A Feeling」におけるジャッキーの低めのヴォイスは素晴らしく、ジョニーのギター伴奏もなかなかのもので、彼の幅広い音楽性をうかがわせてくれる。ここでジャッキーが退席し、ジョニーと二人で演奏される11.「It Don't Bother Me」は、少しまとまりがないかな〜? 続く12.「Fool's Mate」でジョニーはアコギに持ち換えて伴奏をつける。題材はトラッド風なんだけど、現代における戦争の陰惨さをイメージさせる歌。オリジナルのS30とは異なり、後半のパートは演奏されていない。13.「The River Bank」ではバーナードが再登場し、3人によるプレイ。ここでのバートのボーカルは聞きものだ。バート一人になって演奏される14.「Strolling Down The Highway」は、ヒッチハイクによる放浪をテーマとする原点回帰の歌。最後に彼自身の人生を総括するかのように15.「Carnival」が歌われ、この番組は終了する。ホームページでは、ジョニー・’ギター’・ホッジスもゲストとして登場するとあったが、編集段階でカットされたらしく彼の姿を観ることはできない。

観ていると複雑な心境にもなるが、彼のファンであれば見逃せない映像である事は間違いない。

[2022年11月] 
2022年発売の「Bert Jansh At The BBC」S36 に音源として収録されました。


Galway Arts Festival TG4 Ireland (2004) [Bernard Butler]    TV映像

Bernard Butler : Vocal, Electric Guitar
Bert Jansch : Acoustic Guitar

1. You Light The Fire [Bernard Butler] (Incomplete)

収録: 2004年7月22日、Radisson Hotel, Galway, Ireland
放送: 2004年8月


バーナード・バトラーは1970年生まれのイギリス人。1992年にロック・バンド、スウェードのギタリスト・作曲家としてデビューし、成功を収めるが、1994年に脱退。デビッド・マッカルモントとマッカルモント・バトラーを結成したが、これも短期間で解消し、1998年に初ソロアルバム「People Move On」を発表。その後はプロデュースの仕事が増え、2008年に裏方への専念を表明、プロデューサーとしても成功し、現在も一線で活躍している。2022年発行の「Guitarists」誌のインタビューで、彼は上記ソロアルバム製作の少し前にバートを「発見」し、その影響によるアコースティックな作品を初めて録音したと語っている。その後彼は、1999年頃バートに会い、親交を深めるようになり、録音 (バートのアルバム「Crimson Moon」 2000 S30, 「Edge Of A Dream」 2002 S31) やコンサート (「The 60th Birthday Concert」 2003など)で共演するようになった。

アイルランド西部のゴールウェイ(一度行ったことがあるが、東部と異なり明るい雰囲気の港町だった)で開催されるゴールウェイ・アーツ・フェスティバルにバーナードが出演した際に、スペシャル・ギグとしてバートと共演したという記録がアイルランドのイベントサイトにあった。本映像はその模様をアイルランドのテレビ局 TG4が放送したもの。1.「You Light The Fire」は、上記ソロアルバムに収められた曲で、バートの影響下で作られた最初の作品とのこと。歌詞・メロディー、歌唱・演奏のすべてにおいて、瑞々しく素晴らしい出来だと思う。バートはバーナードに優しく寄り添っている感じ。

残念ながら、セカンド・ヴァースのコーラスが終わったところで、映像はカットされ、女性アナウンサーのコメントの後に、北アイルランドのロックバンド、ザ・アンダートーンズの演奏映像に切り替わってしまう。本映像は、最後の「Feilte」 (アイルランド語で「フェスティバル」の意味)と表示される通り、音楽番組ではなくイベント報道が目的なので、しょうがないか........

ブリッジとアウトロが欠落しているが、曲・音楽として十分楽しめる内容。バーナードがバートの曲の伴奏をする映像は他にいろいろあるが、反対のケースはこれだけなので、貴重。

[2022年9月作成]


Cambridge Folk Festival (2004)    TV映像

Bert Jansch : Vocal, Guitar


1. Crimson Moon  

収録: 2004年8月1日


ロンドン近郊の大学都市、ケンブリッジで2004年7月29日〜8月1日の4日間にわたり開催されたフォークフェスティバルに出演した際の映像。設立40周年という伝統ある催しで、会場となったCherry Hinton Hallはケンブリッジ市議会が保有する小さなホールと庭園からなる施設。その構内に仮設テントを張ってコンサートを開催、観客は皆立ち観だ。バートのホームページのコンサート日程欄によると、彼は8月1日(日)に出演したことがわかる。

バートはエフェクター類を詰めた金属性のケースを手前に置いて、一人で歌う。ラテン調のリズムが印象的な1.「Crimson Moon」は、一人だけでの演奏なので、バートのギタープレイをはっきり聞き取ることができる。ここでは彼の調子は悪くないようで、繊細な音色やリズムは別としてではあるが、それなりにいい感じで弾いていて、まあまあ楽しめる。

[2022年11月] 
2022年発売の「Bert Jansh At The BBC」S36 に音源として収録されました。


 
Parting Glass (2005) [Davey Graham]    映像
 
Davey Graham: Guitar, Vocal (3, 4, 5, 7)
Bert Jansch: Guitar, Vocal (2, 4, 5, 8)

1. Riff Of 'I Got A Feeling'
2. Come Back Baby [Walter Davis]
3. Blues (Unknown Title)
4. Key To The Highway [Big Bill Broonzy, Charles Segar]
5. Candy Man [Trad.]
6. Instrumental (Unknown Title)
7. Careless Love [Trad] 
8. Trouble In My Mind [Richard M. Jones]


注: 3,5 はバート非参加

撮影 1〜6 : August 2005 At Edinbrough
   7〜8 : August 21 or 22 At The Acoustic Music Centre,
   St Bride's, Edinbourgh


デイヴィー・グレアム(1940-2008) のドキュメンタリー・フィルム(86分)。2005年8月21〜22日に開催されたEdinbrough Fringe Festival出演の様を撮影したもの(YouTube公開は2015年から)。バート・ヤンシュとのジョイント・コンサートだったため、二人の共演を観ることができた。

バートの出番は86分のうち、53分からであるが、面白い内容なので、初めから解説します。まずスコットランドの自然の景色とデイヴィーのマンドリンによる音楽がイントロで、ロンドンにある彼の自宅から車で出発するシーンから始まる。運転手はマーク・パヴェイ(Mark Pavey)というフォーク・ミュージシャンで、2005年デイヴィーに出会い、2008年に亡くなるまでマネジメントをした人。彼は2007年にLes Cousins Musicを設立し、ソロアルバムを出している。また同社は、後の2014年に「Davey & Bert」という10インチLPレコード O38 を発売した。後部座席のカメラマンとの3人によるエジンバラへのドライブの間、デイヴィーは助手席で語り、アカペラで歌い、マンドリンを演奏する。歌のひとつがスコットランドのトラッド「The Parting Glass」で、それが本作のタイトルになっている。車の旅の間に、デイヴィーの友人で「Encyclopedia Psychedelia International」という雑誌の編集者であるジェイムス・ハミルトンのインタビューと、デイヴィーの過去の動画が挿入される。インタビューでは、デイヴィーが名声を好まなかったため一般には有名にならなかったが、アフリカ、中近東、インドの音楽を取り込んだ功績は大きいこと、1980年代音楽シーンから姿を消したのは、田舎でシンプルな生活をしていたためで、その間様々な楽器の練習と音楽の探求を怠らなかったことが語られている。挿入されたデイヴィーの動画・音源は以下のとおり。

@ Unkown Title :1981年(40代始めの頃)のテレビ映像から、香を炊いた中でクラギのソロ演奏。
A City And Suburban Blues : 同じ映像から、クラギによるジャズ・ブルースで、歌は意外に上手い。
B She Move Through The Fair : 1963年11月2日 ABC(British) TV放送の「Hullabaloo」より。DADGADチューニング、Capo2で、本来はしっとりとした曲なんだけど、ここではダンスチューンのように弾く。これは凄い演奏! ギターは鉄弦のマーチン000-18のようだ。オーディエンスと一緒に座って見ているのは、マーチン・キャシー(Martin Cathy、左)とロング・ジョン・ボルドリー(Long John Baldry、右)。
C The Gold Ring : @と同じ映像 中近東の打楽器ダンベック (Dumbek) を叩く打楽器奏者とのケルチック・チューンの演奏。ここでは彼は、マーチン0018を弾いている。
D Hesamalo、Ragaputti-Ram : @と同じ映像 タブラ奏者とのインド音楽。ここでは彼はインドの弦楽器サロード(Sarod)を弾いている。

旅の途中、彼らはデイヴィーが使っているロジャー・バックレイのファイルド・ギター(Fylde Guitar)の工房に立ち寄り、ギターの微調整をしてもらう。ギターの背面にレパートリーを書た紙が貼り付けられているのが面白い。ここでもデイヴィーはギターをポロポロ弾くが、本ドキュメンタリーの随所で聴かれる、この様な名もないインストルメンタルの味わいがとても深い。エディンバラのステージに到着したシーンでは、名盤「Folk, Blues & Beyond」1965 より「Leaving Blues」が流れる。スタッフへの挨拶、ステージ・リハーサル(なんとビゼーの歌劇「カルメン」の「ハバネラ」を弾いている!)の後、ここでやっと、バートとの共演シーンが登場する。

二人の顔合わせの舞台は、関係者しかいない小さなホールで、共通のレパートリーを探り合いながら演奏する。最初はマイルス・デイビスの「All Blues」を思わせる 1. 「I Got A Feelingのリフ」から。次の 2.「Come Back Baby」では、バートの演奏にデイヴィーが音を差し入れてゆく。リハーサルなので、リラックスした雰囲気ではあるが、カメラが回っているため、プライベートとは異なる微妙な雰囲気がある。互いに目を合わせながら完奏。煙草を吸い、ビールを飲みながら会話が進み、バートはロニー・スコット・クラブで二人の演奏が撮影された事を語っている(マーチン・スコセッシ監督の「Martin Scorsese Presents The Blues」の撮影だったが、お蔵入りになったそうだ)。デイヴィーが歌う 3.「Blues (Unknown Title)」はバート非参加。4. 「Key To The Highway」は、最初バート、後半でデイヴィーが歌いだす。二人ともお手の物らしく、息が合ったプレイで、完奏後に関係者から大きな拍手が起きる。5.「Candy Man」はさらっとした演奏。デイヴィーによる短いソロ演奏の後、突然ステージにおける 7.「Creless Love」の演奏途中のシーンに切り替わる。ステージの背後からという変わった撮影で、音声はオーディエンス録音レベル。バートが歌う 8.「Trouble In My Mind」でコンサートは終了したようだ。そして、エンディングは、デイヴィーがコンサート終了後ファンと語りサインする様子と、@と同じ映像で、「All Of Me」を弾きながら(これがかなり良い!)、歩いて画面から去ってゆくシーン。

ちなみに、BBCとMG Albaとの合弁会社で、スコットランドでゲール語によるテレビ放送を行っているBBC Albaが、「Ealtainn」というアートシリーズの2005年の番組で、本作で撮影された動画を流したようで、本映像を観るよりも以前(2012年頃)にYouTubeで観ることができた。しかし、リハーサルにおける「Riff Of 'I Got A Feeling」と、リハーサルとステージを編集で繋げた「Key To The Highway」の演奏部分だけで、かつマーク・パヴェイのナレーション付きのものだった。

今(2022年)となっては、鬼籍に入った二人によるリハーサルのシーンがたっぷり拝める。ステージのシーンは音が悪く、しかも未完奏であるが、良音・完奏版は上述のO37で聴くことができる。

[2022年10月追記]
本稿を書き終えて、2時間後に気がついたことです。本映像の製作・公開時期についての資料が見つからなかったのですが、最後にデイヴィーがギターを弾きながら去ってゆくシーンの意味につき、映像の中では全く言及されていないのですが、彼が亡くなったことを暗示しているものと思います。そうだとすると、本作のタイトルである「The Parting Glass」が別れの際に歌われるスコットランド民謡であることと符牒が合います。従って、2005年の撮影に対し、上述の「Eltainn」が生前の2005年に、「Parting Glass」が没後の2008年以降に製作されたものということになります。

本映像製作にあたっては、Les Cousin Musicが関わっているらしく。そこには晩年の彼の面倒をみたMike Pavey氏の、デイヴィーに対する鎮魂の想いが深く込められるものと思います。

[2022年10月作成]


Bridge School Benefit (2006) [Devendra Banhart, Neil Young]  音源 &映像
 
Devendra Banhart : Vocal, Guitar
Bert Jansch : Vocal (5,6), Guitar
Noah Georgeson : Guitar, Back Vocal
Kevin barker : Guitar, Back Vocal
Unknown : Piano
Unknown : Drums

1. Heard Somebody Say [Devendra Banhart]
2. At The Hop [Devendra Banhart]
3. Traction In The Rain [David Crosby]
4. Hey Mama Wolf [Devendra Banhart]
5. Empty Pocket Blues (aka My Pockets Are Empty) [Traditional]
6. When I Get Home [Pentangle] 
7. Long-Haired Child [Devendra Banhart]


収録: Shoreline Amphitheatre, Mountain View CA, October 21, 2006


Neil Young : Vocal, Guitar
Bert Jansch : Guitar
Others : Unknown


8. Ambulance Blues [Neil Young]

収録: Shoreline Amphitheatre, Mountain View CA, October 22, 2006


ブリッジ・スクールは、障害を持つ子供達の教育と社会的自立のために母親達が1986年に設立した施設で、ニール・ヤングの奥さんのペギも創立者の一人に名を連ねている。ニール・ヤングは資金集めのために、豪華なゲストを招いたチャリティー・コンサートを開催。それは1986年から現在に至るまで続き、彼のライフワークになっている。電気楽器の大音響はコンサートに参加する子供達に良くないとして、出演者はアコースティック・サウンドで演奏するという。

2006年10月21日、22日の2日間にわたり開催されたコンサートの初日にデベンドラ・バンハートが出演、そこにバートがゲスト参加している。彼は1981年生まれで、1960年代のサイケデリック、フリーキーなフォークの雰囲気を漂わせながらも、世界各地のワールドミュージックを取り入れた現代的な感覚やサウンドも兼ね備えた新しい音楽を創造し注目を集めている。ヒッピー風のイラスト、ファッション、エキセントリックな風貌など独特のカリスマ性を感じさせる人だ。髭や長髪といった一見むさ苦しい格好であるが、実際のところは、女優ナタリー・ポートマンの恋人になるくらいハンサムで魅力的な人のようだ。彼とバックバンドの人達がバートのアルバム「Black Swan」2006 S32の録音に参加し、バートは当時デベンドラのコンサートツアーに同行していたという。ニールの奥さんペギによる紹介の後、デベンドラが「我々のヒーロ、バート・ヤンシュが一緒に演奏します」と言って、1.「Heard Somebody Say」(2005年のアルバム「Cripple Crow」収録曲)を始める。彼等が放つリズム感には、最近の音楽にないゆるゆる感があり、それが独特の乗りを生んでいる。決してだらけた感じではない一種の心地よさがあるのだ。ここでのバートのギターはバンドのサウンド中に埋もれており、はっきりと聴き分けることはできない。2004年の作品「Nino Rojo」からの 2.「At The Hop」も、60年代風でありながら何かニューウェイブの香りに満ちている曲。3. 「Traction In The Rain」は、デビッドクロスビー1971年の初ソロアルバムに入っていた曲のカバーで、耽美的な雰囲気を見事に再現している。 4.「Hey Mama Wolf」も2005年のアルバムに入っていた曲で、終盤にコーラス隊と一緒に遠吠えをするエキセントリックな曲だ。ここで改めてバートが紹介され、「Black Swan」 S32から 5.「Empty Pocket Blues」を歌う。次の曲 6.「When I Get Home」は、ペンタングルの「Reflection」 1971 P6が初発で、その後バートがソロで歌っていた曲。ここでのバックバンドのアレンジは、創意に溢れる新鮮なもので、バートのボーカルも好調。最後は歌詞もヘンテコリンな7.「Long-Haired Child」でセットの幕を閉じる。

このステージを見ていたニール・ヤングは、翌22日のセットにバートのゲスト出演を依頼したらしい。8.「Ambulance Blues」は、アルバム「On The Beach」1974に収録された曲。過去のいろいろな挫折体験、価値観の危機を歌ったと思われる厳しい内容の歌で、発表当初からイントロのギターと最初のメロディー部分がバートの「Needle Of Death」に似ていると評判になった。以前インタビューで、バートの事を「アコースティック・ギターのジミ・ヘンドリックス」と述べたニールは、前述の指摘を認めており、本コンサートで二人の共演が実現した。バートによると「5分間で覚えた」とのことで、本当に思いつきだったそうだ。この曲についてはオーディエンスが携帯で撮影した画像が出回っている。遠くからの撮影で手振れもひどいが、巨大スクリーン上の二人の姿を捉えたショットもあり、雰囲気を伺い知ることができる。

バートが珍しい相手と共演したお宝音源・映像。なお2011年10月、当該コンサート25周年を記念して3枚組DVD、2枚組CDによる映像・音源集が公式発売 (O39参照)され、その前者に 2.「At The Hop」が収録された。出演者のクレジットはなかったが、画像から共演者につき上記のとおりとした。


Three Million Tongues Festival (2006)   映像

Bert Jansch : Vocal, Guitar

1. It Don't Bother Me
2. Stolling Down The Highway
3. Blackwaterside [Traditional]  
4. Come Back Baby [Walter Davis]
5. My Donald [Owen Hand]
6. Blues Runs The Game [Jackson C. Frank]
7. Carnival [Jackson C. Frank] 
8. Katie Cruel
9. She Moved Through The Fair [Traditional]
10. Let Me Sing
11. The Old Trinangle [Traditional]
12. My Pocket's Empty [Traditional]
13. High Days
14. Downunder
15. Reynardine [Traditional]
16. A Woman Like You
17. Hey Pretty Girl
18. Poison

[Encore]
19. When I Get Home 
20. The Black Swan 


収録: 2006年11月17日Three Million Tongues Festival, Empty Bottle, Chicago IL, USA


イリノイ州シカゴにあるライブハウス「Empty Bottle」で開催された「Three Million Tongues Festival」の初日(金曜日)に出演したもので、バートは当日出演した4組のアーティストのなかの一人だった。撮影はオーディエンス・ショットのため、画面は固定されているが、スタンドに据え付けて撮影したものと思われ、手振れがなく落ち着いて観ることができる。画面は暗めで彼の顔が赤いライトに染まり、ギターも照明が明るめの時に薄っすら見える程度。時々光るカメラ撮影のフラッシュで、一瞬背景が写る。それ以外はアングルやクローズアップなどの画面の変化がない単調な映像。音質的には、ギターの音が若干キンキンしているが、彼の弾き語りを楽しめるレベルではある。アメリカのライブハウスでのコンサートらしく、曲間の声のノイズが大きく、曲後や曲紹介時の客の反応・声援が陽気。当日の調子は良かったようで、90分超を休憩なしで一気に弾き語るフルステージの映像で、曲間の語りなどノーカットで観れるのがうれしい。


各演奏曲の正式録音の初発は以下の通り(括弧はバート以外の人が歌った場合)。

「Bert Jansch」 1965 S2           : 2
「It Don't Bother Me」 1965 S3       : 1
「Jack Orion」 1966 S4            : 3
「Nicola」 1967 S5              : 4
「Sweet Child」 1968 P3           : 16
「Birthday Blues」 1969 S          : 18
「Rosemary Lane」 1971 S7         : 15
「Reflection」 1971 P6            : 19
「Santa Barbara Honeymoon」 1975 S11  : 6
「Thirteen Down」 1980 S16         : 10
「Toy Balloon」 1998 S28          : 7, 9
「Crimson Moon」 2000 S30         : 5 (Loren Jansch), 14
「Black Swan」 2006 S32           : 8, 11, 12, 13, 17, 20


[2023年1月追記]
フルステージの映像を観れたので、書き直しました。


BBC Radio2 Folk Awards (2007) [Pentangle]   ラジオ音源

Bert Jansch: Guitar Vocal (1)
John Renbourn : Guitar
Jacqui McShee : Vocal
Danny Thompson: Bass
Terry Cox :  Drums, Back Vocal (2)

1. Bruton Town [Pentangle]
2. Light Flight [Pentangle]


放送: 2007年2月7日 BBC Radio2 Folk Awards
司会: Mike Harding
プレゼンター: Sir David Attenborough


マイク・ハーディング(1944- )は、フォーク歌手、コメディアン、旅行家、写真家など多くの顔を持つ人。彼が司会を務める「The Mike Harding Show」(BBC Radio2 毎週水曜日放送)は、BBC放送におけるフォークやルーツ音楽方面の代表的な番組。この番組の特番として、年間顕著な活躍をしたミュージシャンを表彰する「Folk Awards」があり、第8回目にあたる今回、ペンタングルが「Lifetime Achievements Awards」を受賞、その席で「More Than Thirty Years」ぶり(司会者による)の5人による再会セッションが実現した。そういえばO27で聴くことができた、デロール・アダムス65歳誕生日記念コンサート 1990 におけるペンタンタングルのリユニオンは、テリーが自動車事故による怪我のため参加できなかったため、残りの4人による演奏だった。1985年の「Open The Door」 P14は、ジョンを除く4人とマイク・ピゴー(ギター、フィドル)による編成だったが、その前1982〜1983年にほんの一時期だけジョンが加わり5人が揃ったことがあるあるので、正しくは25年ぶりということになる。

1.「Bruton Town」におけるバートとジャッキーのボーカルは気合が入っている。ドラムスは正にテリー独特のタッチだし、ダニーの激しく動くベースラインも健在。正直言ってバートとジョンのギターはグループ現役当時と比べると、切れ味の面では見劣りがしてしまうし、何よりもグループとしての一体感がないのは明らか。それでも感動してしまうのは、長い歳月を経て再会した人達の心を感じるからであろうか? 2.「Light Flight」も最もペンタングルらしい曲であるが、何もこんなに難しい曲をやらなくてもと思うのであるが、ジャッキーの軽やかなボーカル、セカンド・ヴァースから加わるテリーのスキャット・ヴォイスなど、全盛期のサウンドを一瞬見せてくれるのがうれしい。

曲が終わると、プレゼンターとしてサー・デビッド・アッテンボローが登場する。彼はBBC放送で自然をテーマとした一連のドキュメンタリー・シリーズの製作に関わり、この手のジャンルの国際的なパイオニアと言われている人物で、俳優、監督のサー・リチャード・アッテンボローの弟。BBCにおける彼のキャリアの初期に、アラン・ロマックスが提供するフォーク、ルーツ音楽の製作に関わったことがあるようで、この手の音楽への造詣も深いようだ。彼のスピーチの後に賞が授与され、ペンタングルのメンバーが謝辞を述べる。最初の男性は名前の紹介がなかったが、「10年間演奏していなかった」とか、話のなかにスティーリー・ダンの名前が出てくるので、恐らくテリーだろう。次にバートがお礼を言って、ペンタングルのコーナーは終了する。

2時間の番組のうち、本件に係る部分は10分ほどで、開始後1時間30〜40分経った後半部分だった。BBC Radio2は放送した番組につき、しばらくの間ホームページでプレイバックできるサービスがあり、この番組を聴くことができたのは、そのおかげだった。演奏の内容はともあれ、Historic Performance として理屈抜きで感動して聴くべし!

なおこの番組でのリユニオンおよびボックスセットの発売などをきっかけとして再評価の機運が高まり、2008年6月29日に「Sweet Child」のライブと同じ場所で、再結成ペンタングルによる40周年記念コンサートが開催され、さらに7〜8月に英国の各都市で12回のコンサートが行われた。そしてバートとジョンの死後、2016年にその際のライブ「Finale」が発売された。



Stuart Maconie's Freak Zone (2008) [Pentangle]   ラジオ音源

Bert Jansch : Guitar, Vocal
John Renbourn : Guitar
Jacqui McShee : Vocal
Danny Thompson : Bass
Terry Cox : Drums, Back Vocal

1. Let No Man Steal Your Thyme [Pentangle]
2. Light Flight [Pentangle]  
3. Market Song [Pentangle]
4. I've Got A Feeling [Pentangle]  
 

録音 : 2008年4月27日 BBC Studio, London

放送 : 2008年6月8日 BBC6 Music


上記の曲はペンタングルのリニオン・ツアー開始前の4月27日に録音され、ツアー終了後の6月8日にBBC6 Music の番組 「Stuart Maconie's Freak Zone」で放送された。ラジオ放送用のスタジオライブという、オーディエンス、カメラがない状況で、落ち着いた感じの演奏となっている。2日後の「Later」のライブよりも安定感があるのは、リラックスして演奏できたからじゃないかな?

ダニーのアルコ奏法によるベースの重低音から始まる 1.「Let No Man Steal Your Thyme」は、現代技術により、各楽器の微妙なタッチまで聞き取れる大変クリアーな録音だ。テンポを少し落としてじっくり演奏される。ジャッキーの声は、昔のように若々しい張りはないけど、精神的な深さが感じられ悪くない。曲間のコメントや紹介無しで、切れ目なく演奏が続く。2.「Light Flight」では、ジャッキーの背後で聞えるテリーのスキャットボーカルが懐かしいね!「Sweet Child」P3 ライブの最初の曲だった 3.「Market Song」におけるバートの枯れた声を聴くと、40年という月日の重さを感じ、感慨深いものがある。4.「I've Got A Feeling」は、風格を感じさせる今回の演奏のほうが、昔のものよりも雰囲気が良いようにも思える。

録音・演奏の両面において、ペンタングル・リユニオン音源の決定版。4曲といわずに、もっと沢山演奏してくれればよかったのに!


Later With Jools Holland(2008) [Pentange]  テレビ映像

Bert Jansch : Guitar
John Renbourn : Guitar
Jacqui McShee : Vocal
Danny Thompson : Bass
Terry Cox : Drums, Back Vocal

[April 29]
1. Let No Man Steal Your Thyme [Pentangle]

[May 2]
1. Light Flight [Pentangle]  
2. I've Got A Feeling [Pentangle]  
 
Jools Holland : Host

放送: 2008年4月29日、5月2日 



2007年はバートやジョンのファンにとって刺激的な年となった。2007年2月の「BBC Folk Awards」におけるペンタングル・リユニオンが大評判となり、翌月の3月には待望のボックスセット「The Time Has Come」P10 が発売された。その頃は水面下で色々な話があったに違いない。そしてしばらく後に、コンサートの予告が発表されたのだ。しかも「Sweet Child」P3 に収録された歴史的なコンサートから、ちょうど40年後の2008年6月29日に、同じ場所ロイヤル・フェスティバル・ホールで行うという事で大きな話題となり、チケットは瞬く間に売り切れた。さらに英国各地を巡るコンサートツアーも追加発表されたのだ。

ジュールズ・ホランドがホストを務めるテレビ番組「Later」への出演は、6月末から始まるのコンサートに向けて行っていたリハーサルの成果を試すものだったに違いない。まず 2.「Light Flight」を観てビックリ! いつも椅子に座っていたジャッキーが、立って歌う姿を初めて観たことだ。昔のインタビューで彼女は、立つと緊張してうまく歌えないと言っていたが、大丈夫なのかな? また彼女の姿を観たのは、2005年のジョン・レンボーンとのコンサートのDVD以来だったが、今回の映像を観て、老けたな〜というのが実感。男性陣については、バート、ジョン、ダニーは以前から現在の姿を見知っていたので意外性はなかったが、テリーを見るのは本当に久しぶりで、その眼鏡をかけた老人姿にも「おおっ」ときてしまう。とか何とか言っちゃっても、5人が一緒の姿を見るだけで感動してしまうのだ。演奏面では、当時の切れ味を望むのは無理な話であり、3.「I've Got A Feeling」と合わせて、貫禄と味わいで感じるべし!

感動的ではあるが、時の移ろいの残酷さも感じられる映像だ。

[2009年5月 追記]
バートのオフィシャルHPによると、ペンタングルによる本番組への出演は2回あり、上記2曲のライブ放送は5月2日だったとのことなので、日付を訂正します。なお4月29日は「Let No Man Steal Your Thyme」が演奏されたとのことであるが、私はその映像は未見です。

[2023年1月 追記]
4月29日の放送を観ることができました。1.「Let No Man Steal Your Thyme」での、会場セッティングおよびメンバーの服装が5月2日と同じなので、同時に収録し異なる日に放送したものでした。


Pentangle Reunion Concerts (2008) [Pentange]  映像・音源

Bert Jansch : Guitar, Banjo, Vocal
John Renbourn : Guitar, Sitar
Jacqui McShee : Vocal
Danny Thompson : Bass
Terry Cox : Drums, Glockenspiel, Back Vocal


[Royal Festival Hall, 2008年6月29日]

[1st Set]
1. The Time Has Come [Ann Briggs]
2. Light Flight 
3. Mirage
4. Hunting Song 
5. Once I Had A Sweetheart [Traditional]
6. Market Song
7. In Time
8. People On The Highway
9. House Carpenter [Traditional]
10. Cruel Sister [Traditional]

[2nd Set]
11. Let No Man Steal Your Thyme
12. No Love Is Sorrow
13. Bruton Town
14. A Maid That's Deep In Love [Traditional]
15. I've Got A Feeling
16. The Snows
17. Goodbye Porkpie Hat [Mingus]
18. No More My Lord [Traditional]
19. Sally Free And Easy [Tawney]
20. Wedding Dress [Traditional]
21. Pentangling
22. Willy O' Winsbury [Traditional]
23. Will The Circle Be Unbroken [Traditional]

注)特記ない場合はPentangle 作曲


[Harrogate, International Centre, 2008年7月10日]

[1st Set]
1. Let No Man Steal Your Thyme
2. Light Flight 
3. Mirage
4. Hunting Song 
5. Once I Had A Sweetheart [Traditional]
6. Market Song
7. In Time
8. People On The Highway
9. House Carpenter [Traditional]
10. Cruel Sister [Traditional]

[2nd Set]
11. The Time Has Come [Ann Briggs]
12. Bruton Town
13. No Love Is Sorrow
14. A Maid That's Deep In Love [Traditional]
15. I've Got A Feeling
16. The Snows
17. Goodbye Porkpie Hat [Mingus]
18. No More My Lord [Traditional]
19. Sally Free And Easy [Tawney]
20. Wedding Dress [Traditional]
21. Pentangling
22. Rain And Snow [Traditional]
23. Willy O' Winsbury [Traditional]


[Gatesshead , The Sage, 2008年7月12日]

Harrogate と同じ


2007年2月のBBC Radio2の「Folk Awards」で、ペンタングルが 「Lifetime Achivement Awards」を受賞し、そのセレモニーでオリジナルメンバー5人によるリユニオンが実現した。そして3月には未発表曲を含んだ待望のボックスセットが発売、ファンにとって2007年はうれしい年となった。そしてその後、「Sweet Child」P3 に収録されたロイヤル・フェスティバル・ホールでのライブ録音のちょうど40年後にあたる2008年6月29日に、同じ会場でリユニオンライブを行うことが発表され、大きな話題となった。さらにそれに続く以下のイギリス国内ツアーと、翌 8月のグリーンマン・フェスティバルへの参加が決まった。

  6月29日(日) London , The Royal Festival Hall

  7月1日(火)  Cardiff , St David's Hall

  7月2日(水)  Brighton , Dome
  7月3日(木)  Cambridge , Corn Exchange
  7月5日(土)
  Birmingham , Symphony Hall
  7月6日(日)
  Oxford , New Theatre

  7月7日(月)  London , Lyceum Theatre
  
7月9日(水)  Manchester , Palace Theatre
  7月10日(木) Harrogate , International Centre
  7月
12日(土) Gateshead , The Sage
  7月13日(日)
 Glasgow , Royal Concert Hall
  7月14日(月)
 Liverpool , Philharmonic
  8月17日(日) The Green Man Festival, Wales



70年代に活躍したグループの多くは、ザ・ビートルズをはじめとして、ザ・ローリング・ストーンズ、ザ・フー、レッド・ツエッペリンなど、オリジナル・メンバーの誰かが故人である場合が多く、そういう意味でメンバー全員が元気でリユニオンできたケースはペンタングルとクリームぐらいかな? 彼等はコンサートのために行ったリハーサルの成果を試すべく、 4月29日の「Later With Jools Holland」に出演、また本番直前の6月25日と26日に、ロンドンから北東90キロのところにある古い町コレセスターでウォームアップのための小規模なコンサートを行ったようだ。そして6月29日(日)、満員のオーディエンスを前にコンサートが始まった。「Good evening, ladies and gentleman. Please welcome, Pentangle」というアナウンスの後、ライトが灯され、5人がステージに登場する。舞台前面の左にジョン、右にバートが座り、後方左は高椅子を置いて、時々腰掛けながらウッドベースを弾くダニー、右はテリーがドラムセットに鎮座。ジャッキーは中央に位置し、テレビ映像と同じく、椅子に座らず立ったままで歌う。 最初の曲を 1.「The Time Has Come」にしたのは、長年のブランクの後に実現したリユニオン・コンサートの始まりを意図したものだろう。淡々とした演奏で、ジャッキーの声が緊張のため、かすれていて、バンドも硬い演奏で大丈夫かな?と少し心配になる。最初のコンサートという事もあって、オーディエンスもプレイヤーも、40年という時の移ろいにはせる万感の想いが曲に勝ってしまったようで、何となく「心ここにあらず」といったパフォーマンスだ。ただしその雰囲気は、コンサートが進むにつれて和らぎ、演奏もすぐに好調になる。次回以降のコンサートでは、最初の曲は彼等のファーストアルバムの冒頭を飾った「Let No Man Steal Your Thyme」となったようだ。2.「Light Flight」を聴くと、このバンドの生命線がリズムセクションにあることがよくわかる。現役最前線で活躍するダニーのリズム感が健在なのは予想できるが、音楽活動から遠ざかっていたはずのテリーが意外に頑張っている。でもバンド全体のリズムの一体感、強靭さという点では、昔と比べると見劣りするのは事実であるが、随所で起こるリズムの乱れは、主にバートとジョンのプレイに起因するものだ。その代わりに往年にはなかった枯れた味わいがあるし、ジョン・レンボーンのリードギターの自由なプレイはそれなりに魅力的であり、それらに焦点を当てて鑑賞すれば、十分に楽しめるものと思う。実は私は、彼等はフルコンサートに耐え得る水準の演奏ができるのだろうか? と危惧していたので、今回音源をじっくり聴いて、とても良かったので正直ほっとしているのだ。

3.「Mirage」ではジョンのリードギターを楽しめる。ペンタングル解散後はソロ活動を行いながら、ステファン・グロスマンとのデュオ、仲間のミュージシャンとのジョイント・コンサートやレコーディング等で、長年リードギターを担当してきたジョンにとって、今回のペンタングル・リユニオンは他のミュージシャンと異なり、昔通りに演奏して復元するのではなく、長い月日の中で磨き発展させたリードギターの腕前を試す機会となったようにも思われる。PAやピックアップの技術進歩もあって、エレキギターに頼らずアコギのままで繊細な音が出せるようになったこともあり、今回の一連のコンサートにおけるジョンのプレイは、同じ曲の演奏でも、コンサートによりその音使いは異なり、派手さはないが、とても自由な境地で弾いているように感じる。4.「Hunting Song」では、テリーのグロッケン(鉄琴の一種)を聴くことができる。5.「Once I Had A Sweetheart」では、ジョンの鋭いリードギターと、テリーのファルセットによるバックコーラスが聴きもの。7.「In Time」は、以前に比べると大人しい感じかな? 8.「People On The Highway」は、オリジナルと異なり前半はバートが一人で歌い、後半からジャッキーのハーモニーがつく。 9.「House Carpenter」では、昔と同じくバートがバンジョ−を、ジョンがシタールを演奏する。ジョンは長年弾いていなかったはずなので、かなり練習したんじゃないかな?10.「Cruel Sister」はジャッキーの歌に注目しよう。若い頃に比べて声の張りやつやはなくなったが、長年歌いこんだ年輪というか風格が感じられ、特に本曲のようなトラッドを歌う際にはその印象が強い。    

セカンドセットは初回のロイヤル・フェスティバル・ホールでは 11.「Let No Man Steal Your Thyme」から始まるが、他のコンサートでは「The Time Has Come」だったようだ。ペンタングルの初めてのアルバムの最初の曲だっただけあって、コンサート最初の曲としては、やはり「Let No Man.....」のほうが相応しいように思える。12.「Bruton Town」では、バートとジャッキーのボーカルがバッチリ合っていて、調子が乗ってきた感じだ。主人公の悲しみ、怒りを表現する間奏のジョンのギターも良い。ダニーが中心となって書いたという 13.「No Love Is Sorrow」は、ちょっと固めの演奏。ジャッキーが前面に出る 14.「A Maid That's Deep In Love」と続き、ジャッキーが「マイルスの曲を基にした」と紹介する 15.「I've Got A Feeling」はリラックスした演奏。 16.「The Snows」はバートがメイン、17.「Goodbye Porkpie Hat」はさらっとした演奏だ。ジャッキーのボーカルが力強い 18.「No More My Lord」 、クールな 19.「Sally Free And Easy」。20.「Wedding Dress」は、バートバンジョーを弾き、テリーがタンバリンを叩きながらドラムスを演奏、バックボーカルも担当する。 21.「Pentangling」は、現役時代の長大な構成ではなく、ベースやドラムスの短いソロを含むさっぱりした演奏。トラッドの 22.「Willy O' Winsbury」の後に演奏される最後の曲 23.「Will The Circle Be Unbroken」のみオジリナルと異なる新しいアレンジだった。特にドラムスの乗りが全く違う。それなりに良い出来だと思うが、評判がイマイチだったようで、後のコンサートでは原曲に忠実な 「Rain And Snow」に差し替えられた。

特に何か新しい事をやっているわけでもないので、懐古趣味と言われればそれまでだが、昔になかった渋みというか、ゆったりした懐の深さみたいなものが感じらる。歴史的な意義を別として音楽的な見地からみたとしても、それなりに楽しめる音源であると思う。


(注: 映像について)

アマショットで画質は悪く、多くは曲の一部のみであるが、以下の映像を観ることができた(曲番はHarrogateのものを使用)。

London (The Royal Festival Hall) : 2,3,4,5,6,7,8,9,10,11,
Cardiff (St. David's Hall) : 3,4,5,6,7
Oxford (New Theatre) : 2
London (Lyceun Theatre) : 7,9,12
Harrogate (International Centre) : 10,12,13,14,15,19,20,21
Glasgow (Royal Concert Hall) : 12
Wales (The Green Man Festival) : 1,4,12,17,21

[2022年4月追記]
本コンサートツアーの模様は、バートとジョンの死後の2016年に、ライブ「Finale」 P20で公式発売された。

[2024年1月追記]
2016年発売の「Finale」 P20に収められた21曲は、13回のコンサートのうち8ヵ所からのベストトラックを抽出したものでした。私が知る限りで、公式発売、音源、映像の詳細は以下のとおりです。

06-29 London, England - Royal Festival Hall  音源23曲、映像10曲
07-01 Cardiff, Wales - St. David's Hall    公式3曲、映像5曲
07-02 Brighton, England - Dome
07-03 Cambridge, England - Corn Exchange
07-05 Birmingham, England - Symphony Hall
07-06 Oxford, England - New Theatre     公式1曲、映像1曲 
07-07 London, England - Lyceum Theatre   公式10曲、映像5曲
07-09 Manchester, England - Palace Theatre  公式3曲
07-10 Harrogate, England - International Centre  公式1曲、音源23曲、映像8曲
07-12 Gateshead, England - The Sage       公式3曲、音源23曲、映像5曲  
07-13 Glasgow, Scotland - Royal Concert Hall   公式1曲、映像1曲
07-14 Liverpool, England - Philharmonic    公式1曲 
08-17 Crickhowell, Wales - Green Man Festival   映像5曲


The Roundhouse, London (With Bernard Butler) (2008)  音源



Bert Jansch : Guitar
Bernard Butler : Electric Guitar (10〜15)

1. Stroll Down The Highway
2. Soho
3. Blackwaterside
4. Toy Balloon
5. Katie Cruel
6. The Old Triangle
7. Ducking And Diving
8. A Woman Like You
9. Morning Brings Peace Of Mind

10. Fresh As A Sweet Sunday Morning
11. Canival [Jackson C. Frank]
12. Blues Runs The Game [Jackson C. Frank]
13. Veronica
14. Poison
15. It Don't Bother Me 


録音:The Roundhouse, London, 2008年8月30日 


ザ・ラウンドハウスは、ロンドンにある円形のコンサート・イベント会場で、当初は1947年に汽車のターンテーブル(方向転換用設備)として建設されたが、その後倉庫となり、1964年にリノベーションされて現在の姿になった。本コンサートが行われた2008年8月は、ペンタングルのリユニオン・ツアーが終わって間もない時期で、コンサートの後半にバーナード・バトラーがギターで参加するという貴重な音源になっている。

大変質の良いオーディエンス録音(ステレオ)で、ギターの音が大変クリアーに捉えられている。前半はバート一人による弾き語りで、曲目と公式録音初出は以下のとおり。

1. Stroll Down The Highway  [Bert Jansch (First Album)] 1965 S2
2. Soho               [Bert And John] 1966 P1
3. Blackwaterside         [Jack Orion] 1966 S4
4. Toy Balloon           [Toy Balloon] 1998 S28
5. Katie Cruel           [Black Swan] 2006 S32 
6. The Old Triangle        [Black Swan] 2006 S32
7. Ducking And Diving      [Unissued]
8. A Woman Like You      [Sweet Child] 1968 P3
9. Morning Brings Peace Of Mind  [When The Circus Comes To Town] 1992 S26

ジョンとのデュオ盤に入っていた 2.「Soho」を晩年のライブで演るのは珍しい。オリジナルのようなダークなムードはここでは感じられず、飄々とした演奏だ。代表作 3.「Blackwaterside」に対するオーディエンスの拍手は、やはりひときわ大きいね。初期の作品3曲の後、中期を飛ばして後期の 4.「Toy Ballon」を歌う。やはりこの頃のバートには、後期・晩年の枯れた感じの曲のほうがしっくりくる感じがする。「Black Swan」 からの2曲は演奏時のバートそのもので、その分強いリアリティがある。7.「Ducking And Diving」は、バートが2011年に亡くなり 「Black Swan」2006 が最後のアルバムになった結果、正式録音が残されなかった曲で、この曲が聴けるライブは少なく、その意味で貴重。 ペンタングルのライブ「Sweet Child」 1968 が初出で、ソロでは「Birthday Blues」 1969 S6に収められた8. 「A Woman Like You」(ここではオリジナルの魔術的な妖しさはない)、中期最後の頃の作品 9.「Morning Brings Peace Of Mind」で前半が終わる。    

ここでバーナード・バトラーが紹介され演奏に加わる。彼は「Crimson Moon」 2000 S30、「Edge Of A Dream」 2002 S31に参加していた人。スウェードというバンドで成功を収め、当時大変人気があったギタリストで、現在は主にプロデューサーとして活躍しているそうだ。オーディエンスの拍手が小さく、冷静な反応なのが意外。年齢層が高いバートのファンには知名度が低いせいかな?後半の曲目と公式録音初出は以下のとおり。

10. Fresh As A Sweet Sunday Morning    [L.A. Turnaround] 1974 S9
11. Canival                      [Toy Balloon] 1998 S28  
12. Blues Runs The Game            [Santa Barbara Honeymoon] 1975 S11
13. Veronica                    [Bert Jansch (First Album)] 1965 S2
14. Poison                      [Birthday Blues] 1969 S6 
15. It Don't Bother Me              [It Don't Bother Me] 1965 S3

ここでのバーナードはエレキギターを演奏していて、ジョン・レンボーンやピーター・カートレイのリードギターとは異なるロック・ミュージシャンのプレイになっている。同じロックといっても、ジョニー・ホッジとも全く異なるのが面白い。ジョニーが気が赴くまま自由奔放に弾いているのに対し、バーナードはプロデューサー指向らしく、曲の構成を考えた端正なプレイに徹しており、両者の音楽に対する取り組み方の違いが際立っている。また彼がバートと一緒に演奏する映像・音源はいくつかあるが、これだけまとまった曲を演っているのは珍しい。ハイライトは、音源の資料では「Instrumental」となっていた13. 「Veronica」。もともと「Casbah」というタイトルだったが、バートのファースト・アルバムで誤って「Veronica」として曲名表示され、それがそのまま定着したといういわくつきの曲。2台のギターであの印象的なリフを輪唱のように弾いてゆく。

バーナード・バトラーとの共演が楽しめる。

[2023年7月作成] 



BBC Radio 2 Folk Awards (2009)  ラジオ音源 
   
Bert Jansch : Guitar
Ralph McTell : Guitar

1. Anji [Davey Graham]  

放送: 2009年2月2日 
司会: Mike Harding



「Folk Awards」は前年に顕著な活躍をしたミュージシャンを表彰するBBCのラジオ番組で、今回が第10回目。2008年12月15日に亡くなったデイヴィー・グレアムへのトリビュートとして、バートとラルフ・マクテルが登場。バートが若き日の彼の思い出を語った後に、二人で1.「Anji」を演奏する。いつもに比べて抑え目の演奏は、鎮魂の意を込めたものと思われる。右チャンネルからバート、左チャンネルからはエレアコっぽい音のラルフの音が聞こえる。同日に同じラジオ局の別番組「Radcliffe And Maconie Show」でもこの曲を演奏したというが、私は聞き逃してしまいました。

[2022年12月追記]
本音源は、2022年発売の「Bert Jansch At BBC」S36 に収録されました。


Crossroads Guitar Festival (2010)  音源 
 
Bart Jansch : Guitar, Vocal

1. Katie Cruel
2. It Don't Bother Me
3. Blackwaterside
4. It Ain't Much

録音: 2010年6月26日 Toyota Park, Bridgeview, IL


 
 
バートは、エリック・クラプトン主催の 2010年 Crossroads Guitar Festivalに出演し、同年発売されたDVD に「Blackwaterside」が収録された(クロスローズ・ギター・フェスティバルとDVDについては、O42を参照)。当日は多くのミュージシャンが出演したため、各人の持ち時間は少なかったようで、バートのステージの模様のオーディエンス録音、およびインターネットによるセットリスト情報から、演奏曲は4曲であったことがわかる。

巨大スタジアムのなかで、比較的冷静なオーディエンスに対し、バートは淡々と演奏する。3. 「Blackwaterside」意外は、本音源で初めて聴く演奏。4.「It Ain't Much」(資料では「It Ain't Right」とあるが、バートによる曲紹介を聴く限り、「Right」でなく「Much」に聞こえる。ブルージーでいい感じの曲で、おそらく 「Black Swan」 2006 S32の後に作られた曲だろう。バートは2011年10月に亡くなったため、本曲は公式録音なしになったものと思われる。


Relix Office, New York (2011)  映像 
 

Bart Jansch : Guitar, Vocal

1. Rosemary Lane
2. Blackwaterside

録音: 2011年4月下旬 Relix Office, New York, NY

 

レリックス・メディア・グループは、ニューヨークを本拠地として音楽雑誌発刊を中心業務とするメディア企業。もともとは1974年、グレイトフル・デッドのコンサート録音をする人々(同グループはコンサートの私的録音を容認したため、多くの人が録音したことが背景)の情報誌として創刊され、その後対象ジャンルを拡げて成長した。彼らは、取材やインタビューのためオフィスを訪問したミュージシャンにその場で演奏してもらい、その模様をYouTubeに投稿している。バートは2011年ニール・ヤングのアメリカ・カナダ東海岸ツアーに参加したが、その最中ニューヨークに来た際にレリックスのオフィスに立ち寄り、そこで2曲演奏したのが本映像。写真やポスターが立て掛けてあるオフィスで、ソファに座りリラックスした雰囲気で弾き語る。曲が終わると、レリックスのスタッフから拍手が起きる。

ツアーのスケジュールは以下の通り。

15 April 11 - Durham Performing Arts Centre- Durham, NC
17 April 11 - Landmark Theatre - Richmond, VA
19 April 11 - Wang Theatre - Boston, MA
20 April 11 - Wang Theatre - Boston, MA
22 April 11 - Providence Performing Arts Centre - Providence, RI
24 April 11 - Avery Fischer Hall (Lincoln Center) - New York, NY
25 April 11 - Avery Fischer Hall (Lincoln Center) - New York, NY
27 April 11 - Hippodrome Theatre - Baltimore, MD
28 April 11 - Hippodrome Theatre - Baltimore, MD
30 April 11 - Tower Theatre - Philadelphia, PA
1 May 11 - Tower Theatre - Philadelphia, PA
3 May 11 - Arnoff Centre For The Arts - Cincinnati, OH
4 May 11 - Fox Theatre - Detroit, MI
6 May 11 - Chicago Theatre - Chicago, IL
7 May 11 - Chicago Theatre - Chicago, IL
10 May 11 - Massey Hall - Toronto, ON
11 May 11 - Massey Hall - Toronto, O

ということで、本動画の収録日は4月23〜26日のいずれかということになる。バートはその後ホスピスに入院して10月5日に亡くなる。約5ヵ月前の撮影ということで、あまり健康そうには見えないが、演奏はしっかりしていて、生前最後の動画のひとつになるに相応しい出来。

[2023年2月作成]