O27 Anniversary (1992) [Pentangle] Hyper Tension HYCD 200 123


O24 Anneversary


Bert Jansch: Guitar, Vocal
John Renbourn: Guitar
Jacqui McShee: Vocal
Danny Thompson: Bass
Peter Kertley : Guitar (1,2,10), Vocal (10)

1. Colour My Paintbook  P17 P22
2. Come Sing Me A Happy Song  S6
3. Ever Yes, Ever No  P17
4. Bonny Portmore [Trad.]  S24
5. The Tree They Grow So High [Trad.]  S36 P3 P3 P9 P17 P19
6. Willie O'Winsbury [Trad.]  P7 P10 P18 P22 O6
7. Sally Free And Easy [Tawney]  S36 S36 P7 P10 P19 P20 P21 P22 
8. Tell Me What Is True Love  S7 S25
9. I've Got A Feeling  S10 S36 P3 P8 P9 P11 P12 P20 P21 P21 P21 P21 P22

(10. I Won't Ask You Anyone [Peter Kertley] )

5. 6.はバート不参加、
1.2. 録音1990年、3.〜9.録音1990年10月 5日、10.録音1992年

          
結成25周年を記念してドイツのハイパーテンション・レーベルから発売された1985年以降のペンタングルのベスト盤。ただしバートのソロアルバムのアウトテイクや、初期ペンタングルのリユニオン・ライブ等のトラックを多く含むため、ファンにとって価値あるものになった。収録曲は「Open The Door」1985 P14、「In The Round」1986 P15、「So Early In The Spring」1988 P16、「Think Of Tomorrow」 1991 P17から各2曲づつ、バートのソロアルバム「Sketches」1990 S23から1曲、および上記10曲の全19曲。という構成で、バートのソロトラックが収録されている点が面白く、「バート・ヤンシュのペンタングル」という意味でのベスト盤になっている。

1. 2.はバート、ピーター・カートレイ(リードギター)、ダニー・トンプソン(ベース)の3人の演奏で、バートのソロアルバム「Sketches」1990 S23 のアウトテイク。1.「Colour My Paintbook」のピーターのリードギターは相変わらず冴えている。2.「Come Sing Me A Happy Song」は「Birthday Blues」1969 S6 のオリジナルと雰囲気はあまり変わらない。

3.〜9.はデロール・アダムス 65才バースデイ・コンサートのライブで、1972年の解散以来のリユニオンであるが、テリー・コックスは、交通事故のため演奏できなかったそうで、残念ながら不参加。ここでの演奏は素晴らしく、臨場感のある録音の良さもあって最高の出来。当初はオムニバスCD 「Deroll Adams 65th Birthday Concert」が発売され、そこには上記のうち3. 4. 6. 8.が収録されたが、本作品ではその際未収録であった5. 7. 9.が追加された。3. 4.はバートの弾き語り。3.「Ever Yes, Ever No」はペンタングル「Think Of Tomorrow」 1991 P17のジャッキーのボーカルによるバージョンと雰囲気が全く違う。4.「Bonny Portmore」におけるバートのギターとボーカルには気迫がこもっており、何度聴いても素晴らしい。弾き語りが持つ魔術を味わえるひととき。5. 6.はジャッキー・マクシーとジョン・レンボーンのみの演奏でバートは不参加。2曲ともペンタングル時代のトラッドのレパートリーで、ジョンお好みの曲。ここではジョンのハーモニー・ボーカルとギターがたっぷり楽しめる。

ジョンの紹介によりバートとダニーが加わり、いよいよ4人の演奏が始まる。7.「Sally Free And Easy」を聴いて感じるのは、ペンタングルの現役時代にくらべ、サウンドおよび録音が格段に良くなったこと。特にアコースティックギターのピックアップ、録音技術の進歩が顕著。8.「Tell Me What Is True Love」はペンタングルの演奏としては初めての録音。バートのアルペジオ、ジョンのリード、ダニーのウッドベース、ジャッキーのボーカルが奏でる何とも言えない雰囲気は感動的で、本当に素晴らしい。ペンタングルの数ある演奏のなかでも、文句なし最高の出来だと思う。最後の9.「I've Got A Feeling」はマイルス・デイビスの「All Blues」に似たリフにのって歌われるブルースで、演奏メンバーの貫祿が感じられ、とてもリラックスした懐の深い演奏だ。

本作は上述のとおりバート主体のベスト盤であり、関係者の承諾を得ずに未発表ライブを収録したらしく、その後トラブルとなり早々に廃盤となった。そのため現在では入手困難で、中古市場にも滅多に出回らないコレクターズ・アイテムになってしまった。

なお10.「I Won't Ask You Anymore」は、ピーターのソロアルバム「Peter Kirtley」と同録音なので、上記では括弧つきで掲載した。詳細は後述 O28を参照のこと。

[2022年4月追記]
「入手困難で、中古市場にも滅多に出回らないコレクターズ・アイテムになってしまった」と書いたが、2022年時点では中古品が廉価で出回っている。その後の状況変化か、ガセネタか?


 
 

Deroll Adams 65th Birthday Concert (1991) [Various Artists] Waste Production WP9101



O25 Deroll Adams 65th Birthday Concert


Bert Jansch: Guitar, Vocal
John Renbourn: Guitar
Jacqui McShee: Vocal
Danny Thompson: Bass

(1. The Song Of Indecision)
(2. Bonny Portmore)
(3. Willie O'Winsbury)
(4. Tell Me What Is True Love)
5. Portland Town [Adams]


1991年にベルギーの会社、 WASTE Productionから発売されたライブ盤。ペンタングルの他、ウィズ・ジョーンズ、ハッピー・トラウム、タッカー・ツィンマーマン、ビル・キース、ジャック・エリオット、そしてデロール・アダムス本人の演奏を収めたもので、全20曲。 1990年10月 5日ベルギーの Kortrijkという都市にある「De Stadsschouwburg」という所で収録された。

デロール・アダムスは1950年代米国西海岸で活動し、1956年の渡欧以後はヨーロッパにおけるフォーク・ムーブメントの教祖的存在となった伝説的フォークシンガーで、2000年死去。バンジョーを持って歌うスタイルは、ピート・シーガーとの共通点を感じる。本作のゲストのほとんどは正当派のフォークシンガーで、ペンタングルの連中はそのなかで異質の存在。ここではテリー・コックスがいないせいか、クレジットは4人の名前で表示され、グループの名前はどこにも出てこない。当CDでは上記 1.が「The Song Of Indecision」というタイトルになっているが、 「Ever Yes,Ever No」と同一曲。ペンタングルの演奏としてはすべて 「Anniversary」と重複しているため、1.〜4.は、括弧付きとした。

本作のみで聴くことができる曲は 5.「Portland Town」の1曲のみ、しかも参加者全員によるフィナーレで、アダムスのボーカルのバックコーラスの中にペンタングルのメンバーが加わっている。当然ながらバート、ジョン、ジャッキーの声を聞き分けることはできない。


O28 Peter Kirtley (1992) [Peter Kirtley] Hyper Tension HYCD 200 119


O26 Peter Kirtley


Peter Kirtley: Guitar, Vocal (1)
Bert Jansch: Guitar
Colin Gibson: Bass (2)
Kenny Cradock: Keyboard (2)  

1. I Won't Ask You Anymore
2. Afterwards *  S23

Peter Kirtley: Producer

歌詞付き


後期ペンタングルの名ギタリストによるソロ・アルバム(1995年11月にバート、ジャッキーと共に来日を果たし、ひねりのきいたリードギターをたっぷりきかせてくれた)。本作では、持ち味のピリッとした感じの曲とギターをたっぷりと聴かせてくれる。彼のボーカルも上手とはいえないけど、適度なトゲがあって聞き込むと味が出てきてなかなか良いのだ。

バートがゲスト参加した曲は上記の2曲で、うち1.「I Won't Ask You Anymoreはペンタングル、バート・ヤンシュのベスト盤「Anniversary」 O27 にも同一テイクが収録された。2.「Afterwards」はバートのソロ「Sketches」1990 S23 に収められていたものの別バージョン。ここではドラム、ベースやオルガンが加わった厚みのある音で、各楽器の音色がとても美しい丁寧な仕上がり。バートの伴奏は控えめで、ピーターの趣味の良いリードギターが光っている。

作品としては、器用な職人ギタリストが自分の好きなように作ったソロアルバムという感じで、ハードなアレンジの曲や AOR風のものもあり変化に富む。バートのような強烈な個性は感じられないけど、安心して聴ける作品。なお彼は90年代にもう1枚ソロアルバムを製作したほか、1998年には本作品の1曲目「Little Children」がブラジルのストリート・チルドレンを救うチャリティー・シングルとして再録音され、ポール・マッカトニーがバック・ボーカルで参加したために大きな話題となった。


O29 Wheels Within Wheels (2003) [Rory Gallagher] CAPO 703 82876 503872

O27 Wheels Within Wheels


Rory Gallagher: Guitar
Bert Jansch: Guitar

1. a She Moved Thro' The Fair [Trad.]  S28 S29 S33 S36 S36 P11 P15 P22 
   b Ann Cran Ull

Rory Gallagher, Donal Gallagher, Tony Arnold: Producer


1949年アイルランドに生まれ、1995年肝臓移植手術後に肝不全のために亡くなったロリー・ギャラガーは不世出のブルース・ギタリストだった。迸る情念をギターに込めて弾きまくるスタイルは、特にステージで本領を発揮するタイプで、代表作も「Live In Europe」などのライブ録音だ。

本作は彼の死後に弟のドナルが編集したオムニバスCDで、アコースティック・ギターで演奏した曲が収められている。ロリー・ギャラガーというと、トレードマークの塗装の剥げたフェンダー・ストラトキャスターによるギンギンのエレキというイメージだったが、本人はアコースティック・ブルースも相当好きで、コンサートでは生ギターを演奏するコーナーがあったそうだ。特に晩年はフォーク、アイリッシュなど様々なジャンルのミュージシャンと共演していたようで、マーチン・キャシー、スキッフル音楽のロニー・ドネガン、ケルト音楽のザ・ダブリナーズ、意外なところではフラメンコ・ギタリストのジョアン・マーチン、ブルーグラスの革新バンジョー奏者、ベラ・フレックなどとの共演が収録されている。

バートとの共演は1曲(2曲のメドレー)。導入部はバートのソロで、a の部分を演奏(左チャンネル)し、b になってロリーの控えめなギター(右チャンネル)が加わる。2分17秒の短い演奏ながら趣味の良さが光り、何度も繰り返して聞きたくなる。実際はロリーはバートと共演したがっていたが、生前その望みはかなわず、没後ロリーによるアコースティック・ギターの演奏テープにバートが自分の演奏をかぶせたそうだ。

ロリーのデスマスクをデザインした表紙は、いまひとついただけないが、バートのトラックに限らず十分面白い内容の作品だ。


O30 Bavarian Fruit Bread(2001) [Hope Sandval] Rough Trade RTRADE-CD031

O28 Bavarian Fruit Bread


Hope Sandval: Vocal, Harmonica (1)
Bert Jansch: Guitar
Colm O Ciosoig: Synthesizer

1. Butterfly Morning
2. Charlotte


Hope Sandval, Colm O Ciosoig: Producer


歌詞つき


マジー・スターの歌姫、ホープ・サンドヴァルのソロアルバム2曲に参加。1966年アメリカ生まれで、ロスアンジェルス育ちの彼女は、メキシコ系アメリカ人らしくない内省的でクールな情念と、神秘的な倦怠感が持ち味だ。最初フォーク音楽のデュオを組んでいた彼女は、ベテラン音楽家デビッド・ロバックと出会い、マジー・スターを結成する。1990〜96年の間に3枚のアルバムを残し、94年秋には「Fade Into You」をヒットさせた(全米44位)。ジェファーソン・エアプレイン、ドアーズ、ヴェルベット・アンダーグラウンドなどのサイケデリック・ロックの伝統にパンク音楽の要素を加えた音楽は、ホープの歌声の強烈な個性に負うものが大きかった。同グループの活動休止後、彼女はMy Bloody Valentine のコルム・オシオソイグと Hope Sandval & The Warm Inventionsを結成し、発表したのが本作だ。

バートが参加した2曲の伴奏は、ギターの他にシンセサイザーの音が微かに聞こえ、1.「Butterfly Morning」は彼女のハーモニカが加わる。囁くようなホープの歌声には、少女のようなあどけなさと娼婦のような妖艶さが奇妙に同居している。彼のギターはいつになく繊細なタッチだ。特に2.「Charlotte」のメロディーと歌詞は耽美的な魅力にあふれている。

この結果に二人とも満足したようで、その後彼女はバートのソロアルバム「Edge Of A Dream」2002 S31 の1曲「All This Remains」にゲスト参加。ボーカルのみならず曲の共作までしている。

 
O31 Seasons Of Your Day (2013) [Mazzy Star] Rhymes Of An Hour (Fontana) 

 

Hope Sandoval: Vocal
David Roback: Guitar
Bert Jansch: Guitar

1. Spoon [Hope Sandval, David Roback]





ホープ・サンドヴァルとデビッド・ローバックの二人からなるマジー・スターは、1996年3枚目のアルバム発表以降、活動停止となっていたが、そんな彼らが17年ぶりに発表したのが本作だ。バートがギターで参加しているという話を聴き、早速購入した。バートは2011年に病没しており、本作は彼の死後2013年に発表されたもの。CDには解説書がついておらず、ジャケットのクレジット表示は参加者の名前だけで、曲毎の演奏者の記載もなかったので、当初は詳細不明だったが、後になってインターネットの資料等により、以下の通り経緯が判明した。

彼らは活動休止後たまに再会しており、本アルバムに収録された曲の一部は以前に録音されたものであるという。彼らとバートは、1990年代に出演したコンサート会場で出会って親交が始まり、バートがアパートにやって来てデモ録音したとのこと。その後 2001年発表のホープのアルバム「Barbarian Fruits Bread」 O30にバートが2曲 「Butterfly Morning」、「Charlotte」参加、2002年のバートのアルバム「Edge Of A Dream」S31にホープが1曲 「All This Remains」参加して、公式な共演が実現した。さらに2003年10月に行われたバートの60歳記念コンサートに、ホープがゲスト出演した(「その他音源・映像の部」参照。ただし私が観ることができたBBC放送のテレビ番組からは、残念ながらカットされていたが...)。

本アルバムでバートがギターを弾いた曲は 1.「Spoon」であることが、インターネットの資料で確認できた。同曲が前述の「アパートで録られたデモ」とする資料もあったが、音質が良いので、ウィキペディアの記事にあるとおり、「Barbarian Fruits Bread」 2001 O30の収録と同時期にスタジオで録音されたものと思われる。デビットのギターは、コードストロークをしながら時折スライドの音を出し、バートは自由な感じで音を付け加えている。でも曲を支配しているのは、比類ない個性でオーラを発散させているホープの歌唱だ。

なおマージスターの活動は2014年頃まで続き、その後は2018年に数回のコンサートを開催しシングルを発表している。なおデビッドは2020年にガンで亡くなったとのこと。

バートとホープの共演がもう1曲増えた事を素直に喜びたい。

[2022年7月作成]


O32 Darkest Before Dawn (2002) [Janie Romer] Terrapin TWACD031




Janie Romer: Vocal
Bert Jansch: Guitar

1. Limbo           
2. No-One Around  S26 S34

Janie Romer, Wes McGhee: Producer

歌詞付き
          
1994年の「When The Circus Comes To The Town」 S26、1998年の「Toy Balloon」 S28にバック・ヴォーカルで参加していた、ジャニイ・ロメールの自主製作ソロアルバム。彼女はイギリスの上流階級の生まれだが、親に反抗して芸術を志し家出する。ファッション界でグラフィック・デザイナー、スタイリストとして活躍するが、仕事に飽きて音楽活動を始めたという。そして渡米して後にボブ・ディランのツアーバンドのメンバーとなるトニー・ガルニエとグループを組んでいたが、解散後イギリスへ帰り、プロデューサーのジェイ・バーネット(S28のプロデュースを担当していた人)と結婚、しばらく家事に専念。16年ぶりの復帰作である子守歌のカセットブックを聴いたバートがその才能を認め、一緒に演奏するようになったとのこと。

本作は彼女初めてのソロアルバムで、ウエス・マッギーという人が音楽監督となり、ジェイ・バーネットはマスタリングで協力している。バートはこのアルバムでは2曲に参加している。2.「No-One Around」は S26 でバートが弾き語りでカバーしていた曲。他の収録曲と異なりスタジオ録音ではなく、特有のヒスノイズやエンディングで聞かれる音飛びなどから、アナログのカセットテープで録音されたものと思われ、他の収録曲よりもずっと以前、およらく S26が録音された1994年前後のデモあるいはリハーサルテイクと推定される。そのような録音をわざわざ収録するだけあって、バートのギターは当然として、ジャニイの感性溢れるボーカルが非常にいい感じだ。1.「Limbo」もバートのギターをバックに愛する人に去られた悲しみ、苦しみ、怒りを、繊細に歌う。

本作はアマゾンUKのカタログにもなく、インディー盤専用サイトを通じて購入したもので、このような無名のアーティストによる自主製作盤が無数に存在する近年の音楽シーンの層の厚さを思い知らされる。今から30〜40年後における「幻の名盤、コレクターズ・アイテム」はいったいどういった作品群になるのだろうと、思いをはせるこの頃である。


O33 Under The Blue Sky (2002) [Gordon Giltrap] La Coola Ratcha LCYP150CD2




Gordon Giltrap: Guitar
Bert Jansch: Guitar

1. Chambertin* [Jansch]  S9 S10 

2002年5月発売

Gordon Giltrap: Producer


ベテラン・ギタリスト、ゴードン・ギルトラップのソロアルバムに1曲ゲスト参加。ゴードン・ギルトラップはバートやジョンと同時期にデビューしたギタリスト。フォーク、バロック、ケルト、ジャズ、クロスオーバーなど、なんでもこなす器用な人で、寸分の狂いもないリズム感とピッキングの正確さは天才的。それが逆にある種の冷たさをもたらしていることも確かで、個人的にはリズムが狂ってもピッキングにムラがあっても、全く意に介さずゴリゴリと弾き切ってしまうバートのほうが好きになっちゃうんだよね。

彼の長いキャリアのなかでバートとの共演は初めてだ。ちなみにゴードンとジョン・レンボーンの共演は、1977年のオムニバス盤「Fylde Acoustic」がある。ゴードンは2000年に「Janshology」というミニCDを発表、バートの代表的なインスト曲をカバーしており、そのなかに1.「Chambertin」があったので、それがきっかけで今回の共演になったものだろう。ここでは1974年の傑作インスト曲を2台のギターのデュエットにアレンジした演奏だ! 持ち前の端正なタッチで、本来のソロ演奏パートを演奏するゴードンに対し、それに色付けを施すバートのお馴染みの強いタッチのギターが左スピーカーから流れてくる。何回も聞き込む毎に味がでてくる演奏だ。バートの演奏が最近のものとしては何時になくソリッドでクリエイティブなのは、ゴードンへの対抗心からか?

本作に収録されている他の曲は、フルートとの共演、アイルランド出身の祖父の影響というケルト調の曲、友人の奥さん(日本人)のために作ったという曲、ジョージ・ハリソンの「Here Comes The Sun」などが収録されている。ソロ曲もあるが、他の楽器とのアンサンブルの方にこの人の本領が発揮されるようだ。

[2022年4月追記]
2017年アースレコードから発売された「On The Edge Of A Dream」 S35に収められた「Chambertin」は本作と同一録音です。


O34 Nuada (2002)  [Candidate] Snowstorm STROM 017CD


Bert Jansch: A. Guitar
Joel Morris: A. Guitar
Alex Morris: A. Guitar
Ian Painter: Bass, Keyboard
Chris White: Drums

1. Burrowhead * 

Ian Painter: Producer

2002年10月発売



1998年に結成され、インディ・レーベルから発表するアルバムが好評の若手4人組グループ。この作品は彼らが心酔する映画「The Wicker Man」 1974へのトリビュート盤だ。この映画は公開当時は大きな反響を呼ばなかったが、時が経つにつれてカルトクラシックの地位を不動のものにしたという。失踪した少女を捜索する刑事が、スコットランドの離島でカルト宗教に染まった排他的な人々のなかで戦慄の事実を発見するというスリラー映画で、主演はホラー映画でお馴染みのクリストファー・リー。ポール・ジョバンニによる音楽も高い評価を受けた。

キャンディデイトの4人組は、最初は映画の音楽をそのまま使う事を考えたが、後に映画のイメージに基づいたオリジナル作品にすることに変更、都会育ちの彼らは映画の雰囲気を体験するために舞台となったスコットランドを旅行、映画のロケ地を訪問して曲作りを行う。ミニアルバムの製作という当初の予定に対し、十分な数の曲ができたためフルCDになったという。ピック、フィンガースタイル両方の奏法によるアコースティック・ギター主体による演奏ではあるが、フォーク音楽をベースにしながらサウンドはより現代的で、新しい何かがチカチカしている。11曲中4曲がインストルメンタル。

1.「Burrowhead」はスコットランド西南部マン島の近くにある岬で、映画のプロットの中心となる「The Wicker Man」があったところで、本作のハイライトとなる曲だ。ギター2台(あるいは3台)とシンセサイザー、ベース、ドラムスによるグループの演奏に、バートがアコースティック・リードギターで加わり、例のタッチで音を切り込んでいる。2分ちょっとの短い演奏時間であるが、リフが印象的な曲で、彼らがバートから受けた影響の大きさを示している。

[2007年7月追記]
2006年、映画「Wicker Man」がニコラス・ケイジ主演によりハリウッドでリメイクされた(日本公開は2007年)が、評判はあまり良くないようだ。


O35 On The Edge Of A Dream (Rock Baby Rock) (2003) SANXD185





Bert Jansch: A. Guitar, Vocal
Bernard Butler: E. Guitar (1)
Adam Jansch: Bass (1)
Makoto Sakamoto: Drums (1)

1. On The Edge Of A Dream (Rock Baby Rock)  S31 S35 S36
2. Walking The Road (Acoustic)  S31 S35 S36    

Bert Jansch: Producer

 
2003年に発売された3曲入りCDシングル「On The Edge Of A Dream(Rock Baby Rock)」のうち1,2曲目がアルバム収録曲と別バージョンだった。3曲目の「Crimson Moon」はS30と同一録音。

まず1.「On The Edge Of A Dream」について。アルバム・バージョンと演奏時間が同じリミックス版とのことで、てっきりほぼ同じものと思っていたが、見事に違っていました。イントロおよび曲中のバートのアコギやバーナード・バトラーのエレキギターはほとんど同じに聞こえるが、バートのボーカルは明らかに別録音で、歌い込んだせいか乗りが良くなっている。そしてボーカルの一部でオーバーダビングされたコーラスが微かに聞こえるのが大きく異なるところ。最大の違いはエンディングで、アルバム版がアコギの決めフレーズできっちり終了するのに対し、シングル盤では最初のリフに戻り、バートが「Rock Baby Rock」と歌いながらフェイド・アウトする。

2.「Walking The Road」のアルバム・バージョンは、バーナード・バトラーのエレキ・ギター、マコト・サカモトのドラムスの伴奏付きだったが、ここではバートのギター1本による弾き語りのバージョン。どちらも同じ演奏時間で、バートのボーカル、ギターも同じものと思われたが、よく聞き込むとエンディングにおけるアコギの決めフレーズは明らかに異なり、またボーカルも微妙に違っており、完全な別テイクだった。かっこいいバンド・バージョンに対し、この弾き語り版はバートのボーカルがストレートに迫ってくる感じで、それなりに聞き応えがある。彼自筆のイラストによるシンプルなジャケット・デザインもいい感じだ。このCDシングルは短期間で廃盤になったため、インターネット市場でもあまり出回らず、なかなか入手しにくいアイテムとなった。かく言う私も当初は買い逃し、長い間探し続けました。それだけにこれを入手したときの喜びはひとしおだった。


O36 La Luna (2003)  [Johnny Hodge] Zetluice 01  
 



Johnny Hodge: Acoustic Guitar, Electric Guitar, Bass, Keyboards, Percussion
Bert Jansh: 2nd Guitar (1), Lead Guitar (2)

1. Hymn To Pan [Johnny Hodge, Aleister Crowley]
2. Holy Garden Angel [Johnny Hodge]

Bert Jansh: Producer, Engineer


 

ジョニー ”ギター” ホッジ (1953-2012) は、2000年代初めにバートのバックでギターを弾き、バートのアルバム「Crimson Moon」 2000 S30、「Edge Of A Dream」 2002 S31に参加した人。また2003年10月に行われたバートの60歳記念コンサート(「その他音源・映像の部」参照)に彼がゲスト出演したというが、私が観たBBC放送のテレビ番組ではカットされていた。また当時のインターネットで、彼が製作するソロアルバムにバートが参加し、プロデュースも担当するという情報があったが、その後アルバムについての情報がネット上で一切見つからず、謎のまま長い年月が経った。ちなみに私のディスコグラフィーには、「その他(未入手、未掲載、未確認アイテム)」の部に「未確認」として載せておいた。しかも彼自身に関する情報も極めて少ないのに加えて、ジョニー・ホッジという名前自体がインターネットで検索しにくいキーワードなのだ。ジョニー・ホッジズというスウィングジャズ時代に活躍した有名なアルトサックス奏者がいたこと。 「Guitar」 をミドルネームに入れると、ペギー・リーが歌った「Johnny Guitar」または、ブルース・ギタリストの「Johnny Guitar Watson」がヒットしてしまい、インターネット検索に難儀するのであった。ということで、彼についても長い間判らないままだった。

それが20年近く経って、ある中古盤の取引サイトで、CDが売りに出されているのを見つけ、実際に存在していた事に驚き、早速購入した。届いたCDを見て、本作は通常の販売網や楽曲配信サービスに全く載らない自主製作盤で、また彼はギタリストであって、リードボーカルとしてコンサートを主催する感じではないので、恐らく親しい人たちを対象に個人的に販売・配布したものであると推測した。そのためか、CDジャケットの見開きの中写真には「Michelle」という名前とともに彼のサインが入っている。要するに、入手後長い年月が経ち、所有者の代替わりなどによって処分されたCDが、中古市場に出回ったということだ。

バートがプロデュースとエンジニアを担当。音質面は「Crimson Moon」2000 S30と類似性があり、恐らくバートの自宅で録音されたものではないかと思われる。10曲全てにつき、ジョニーのアコースティックギターにエレキギターがオーバーダビングされていて、曲によっては本人によるベース、キーボードやパーカッションも入っている。録音時の意図的な操作のためか、アコースティックギターの音がエレアコっぽく、エレキギターはディストーションが深めになっており、両者の音が混ざりあい、コンサートのオーディエンス録音のようで、クリアーさに欠ける。また彼のボーカルはバートに似て滑舌が悪いので、歌詞が聴き取りにくく、日本人である私には、一部につき何を歌っているのかわからないのが残念。スピーカーでよりもヘッドフォンで聴いたほうが、鑑賞上効果的なようだ。本作品は、不特定多数への販売を企図したものではなく、一般受けを考えず、自分および親しい人たちだけのために、好きなように製作した個人的作品と捉えるべき。

バートは2曲ギターで参加している。1.「Hymn To Pan」の詩は、アレイスター・クロウリー(1875-1947) 1913年の代表作。彼はオカルティスト、儀式魔術家、著述家、画家、登山家で、非キリスト教的な価値観・倫理観に基づくオカルト的思想・哲学を提唱し、団体主催と著作により扇動的な活動を行い、一部の人々から熱狂的な支持を得た半面、社会からは激しいパッシングを受けた人だ。彼の業績は後年のカウンターカルチャーに大きな影響を与え、ロックミュージシャンの多くに信奉者がいて、ジョニーもその一人(「La Luna」もその影響下で書かれたことは明らか)。膨大な量の歌詞をディランのごとく淀みなく、語るように歌っている。歌詞は、作者名と曲名をキーワードにしてインターネット検索すると見る事ができるが、かなり難解な内容。バートのギターは、エレキギターとコードストロークのアコギの中に埋もれてはっきりしないが、時々それらしい音が聞こえる。2.「Holy Garden Angel」は、バートの音楽にかなり近い感じの曲。バートはリードギター担当とあるが、曲の全般にわたり、エレキギターまたはエレアコで、歌のオブリガード、間奏のソロを入れている。他の曲と比べてリードギターの音使いが全く異なるので、バートのプレイで間違いない。

その他の曲(バート非参加)では、バートが「Edge Of A Dream」 2002 S31で取り上げた「La Luna」の作者本人による録音、「When The Circus Comes To Town」1995 S26に入っていたバートの作品「Step Back」のカバーなどがある。なお後者は、2000年に発売されたオムニバス盤「People Of The Highway: A Bert Janch Encomium」に収録された同曲と同一録音と推定される(未確認だけど...。発売年がずれてるのがちょっと気になるけどね)。同オムニバス盤の資料では、バートがパーカッションを担当しているとクレジットにあるが、聴く限りドラムスの音なので、打ち込みなのかもしれない。本CDのクレジットには表記されなかったので、本ディスコグラフィーでは対象外とした。

最後にジョニー・ホッジについて判ったことを述べます。彼は1953年バッキンガムシャー州オルリー生まれで、サマセット州育ち。2012年の彼の死を追悼する友人によるフェイスブックへの寄稿によると、1970年代の彼はカントリー・ジョー・マクドナルド、インクレディブル・ストリング・バンド、クロスビー・スティルス・ナッシュ・アンド・ヤング、ボブ・ディランを愛するギター少年だったらしい。その後パブロック(小さな場所で演奏するアングラスタイルのロック)の世界でギタリストとして活躍。なかでも最も有名でインターネットに記録が残っているのはLightning Raiders という名前のバンドで、1977年結成。1980年と1981年にシングル盤を発表し、前者にはセックス・ピストルズのメンバーが参加していた。同バンドは1982年まで続き、その後2011年にリユニオン・ライブを開催している。その時の模様がYouTubeに投稿されており、ゼマイティス・ギターを弾く彼の姿を見ることができる。その後2013年に、当時未発表だった録音が「Sweet Revenge」というタイトルのアルバムで発売された。なお、「Paul Gravity With Johnny Guitar」というタイトルのYouTube投稿で、彼がアコースティックギターで弾き語る動画を見ることができる。

バートの参加作品のなかでも最もレアな一枚。

[2022年7月作成]


O37 Wildlife Album (2005) [Various Artists]  Market Square  MSM CD134



Bert Jansch : A. Guitar
Colin Herper : A. Guitar, Glockenspiel

Ali Mackenzie : Bass

1. Blues For A Green Earth [Colin Harper]

Bert Jansch, Colin Harper : Producer

録音: 2004年 Bert's Place, London/ Novatech Studios, Belfast


皆さんは、かつて北半球にもペンギンがいたことを知っていますか? The Great Auk (オオウミガラス)は、分類上は南極のペンギンとは異なりウミスズメの仲間に属しますが、泳ぎのために退化した羽、水かきのついた大きな足とでっぷりしたお腹は、ペンギンそのものです。全長約80センチ、体重5キロのオオウミガラスは、北大西洋のカナダ、アイスランド、スコットランド、ノルウェー、グリ−ンランドの島々に広く生息していました。その鳥が19世紀の半ばに姿を消したのは、自然に対する人間の愚かな振る舞いによるものでした。航海時代にオオウミガラスは船乗り達のための食糧として捕らえられるようになりました。群れをなし、人間を恐れなかったため、無尽蔵に捕獲することができたのです。彼等は航海中の保存食(塩漬け)にするため、数十分で1000羽のオオウミガラスを殴り殺したとそうです。航海の途中で補給できる貴重な食糧として、150年以上も殺戮された結果、かつては無数にいたオオウミガラスも急速に少なくなり、19世紀には逆に珍しい鳥とみなされるようになりました。この鳥を保護しようとする動きもありましたが、今度は屋敷や博物館に飾る標本として盛んに捕らえるようになり、珍重されてその価格が高まるにつれて甚だしい密漁が行われるようになり、1844年6月3日につがいが殺された記録を最後に、オオウミガラスはこの世から姿を消したと言われています。自然とともに生きる私達にとって、このエピソードは人間の愚かさを象徴するものとして、永遠に語り継がなくてはなりません。

北アイルランド出身で、フォークを中心とする音楽評論家であり、バート・ヤンシュについての本「Dazzling Stranger」 2000、ペンタングルのボックスセット「The Time Has Come 1967-1973」 2007 P10、「The Albums」 2017 P11 のブックレット解説を執筆、またバートやジョン・レンボーン、ペンタングルの再発アルバムのライナーノーツを担当したコリン・ハーパー(1968- )は、現在は評論活動を止め、Belfast Music Collegeで音楽関係の出版物の研究・収集・管理の仕事をしているそうだ。その彼が自分の活動の記念として「Wildlife Album」というアルバムを製作した。自然保護をテーマとして、評論活動で培った人脈を生かして多くのゲストを集めたオムニバス・アルバムには、コリン本人が記念としてアーティストと一緒に録り貯めた音源も収められた。本作は上述のオオウミガラスをテーマとした作品で、チャリティー・アルバムとして収益は自然保護団体の「The Ulster Wildlife Trust」、「WWF」に寄付された。ダフィー・パワー、ヤン・アッカーマン(オランダのプログレバンド、フォーカスのギタリスト)、ロイ・ハーパー、ゴードン・グルトラップ、アンディ・アーヴァイン、イアン・アンダーソン(ジェスロ・タル)、フェアポート・コンベンションといった著名なアーティストの他、地元ベルファストで活躍するミュージシャンの演奏も収められており、半分以上は未発表のトラックだ。

バートはコリンとのデュエットという形で1曲参加している。1.「Blues For A Green Earth」は、コリンの作による2分44秒のインストルメンタルで、2004年という時期から本作のために録音したものと思われる。コリンが弾くアルペジオにバートが合わせている感じであるが、アドリブではなくそれなりに考え込まれたパートとなっており、2台のギターのコンビネーションもなかなかのものだ。コリン・ハーパーのギターは思った以上に上手で、その腕前は本トラック以外の他の数曲でも楽しめる。ただしギター演奏のタッチなどは、バートとそっくりで、自己のスタイル・個性を確立するまでには至っていないようだ。

本アルバムは好評だったようで、翌2006年には続編として「Live In Hope: The Wild Life Album, Vol.2」が製作され、そこにはバートが自然保護運動に賛同して参加したシングル「Black Bird Of Brittany 」1979 が収録された(O14の記事を参照ください)。

コリン・ハーパーが記念のために作成した感があるが、テーマに誠実に向き合った製作態度は大変好感が持てるし、参加アーティストの変化に富んでおり、アルバム全体として十分楽しめる出来栄えになっている。

[2011年11月作成]


 
O38 Davy & Bert (2014) [Davy Graham & Bert Janch]  Les Cousins 
 


Davy Graham : Vocal (4), Guitar (2,3,4,5)
Bert Janch : Vocal (1,3,4,5) , Guitar (1,3,4,5)

[Side A]
1. Empty Pocket Blues  S32 S33 S35 S36
2. Grooveyard [Carl Perkins]
3. Key To The Highway [Big Boll Bronnzy, Charles Segar]  S10 S25

[Side B]
4. Careless Love [Traditional]
5. Trouble In My Mind [Richard M. Jones] S27 S33 S36

注: 2.はバート非参加

収録: Acoustic Music Center, St. Bride's, Edinbourgh, August 21- 22, 2005

 

レコードストア・デイは、アナログレコード文化活性化のために製造者・販売者が世界各地で毎年行う行事で、当該イベントのために特別に作られた限定アナログ盤が目玉商品。2014年のイギリスにおけるイベントでは、バートがデイヴィー・グレアムと共演した音源を使用したレコードが750枚の限定盤で販売された。曲数が少なかったためか、通常よりも小さい10インチサイズのLPでの製作。10インチLPレコードは、SPから切り替わって間もなかった1950年代は廉価盤としてかなり出回っていた。当時父が持っていたクラシック、ジャズ、ポピュラーのレコードのなかに一回り小さなジャケットが混じっていたのを覚えている。しかし1960年代以降、世の中が豊かになるにつれ姿を消した。私のレコード収集で思い出すのは、大瀧詠一氏がCMソング特集「Niagara CM Special Vol.1」 1982を出したときだ。彼のたっての希望で10インチLPにしたとのことで、手にして懐かしいなと思った記憶がある。

使用された音源は、2005年エジンバラ・フリンジ・フェスティバルにおけるデイヴィー・グレアムとバート・ヤンシュのジョイント・コンサート。会場のセント・ブライズは以前教会だった建物をカルチャー・センターに改築したもので、傘下のアコースティック・ミュージック・センターは、名前の通りロックを除く音楽コンサートを開催している。10年近く前のコンサート音源で、曲目も少なく、二人ともキャリアハイではないことは明らかなので、なんでわざわざレコードにしたのかなと思いながら購入して聴いてみたら、デュオの演奏としてはヨレヨレとも言える出来で、レア・アイテム作りのための作為的な製作かなと勘ぐってしまった。ところがそれと前後してYouTubeに公開されたドキュメンタリー映像「Parting Glass」(「その他音源・映像の部」参照)を観て、背景を知ることで内容に奥行きと深みが出てきて印象が変わり、2008年(デイヴィー)、2011年(バート)に亡くなった二人を弔う製作者の意図が理解できるようになった。

まずデイヴィーのプレイスタイルについて。「Parting Glass」を観て判ったのは、彼が弾くギタープレイはヨレヨレのように聞こえるが、実際は自由気儘に演奏しているのであり、それが彼の持ち味であること。映像の中、随所で聴かれる短く名も無いギター演奏は、彼が気の向くままに弾いており、とても味わい深い。したがって、本作でバートのギターにつける彼のギタープレイは、一聴調子はずれのように聞こえるが、彼独特のスタイルなのだ。そういう理解のもとで聴くと、とても自由な演奏に聞こえる。次に、二人は直前のリハーサルのみで、一回だけのステージに臨んでおり、そういう意味でタイトなプレイを高望みするのは、アンフェアーだろう。

コンサートは、デイヴィーとバートが休憩を挟んで各ソロで演奏(順番は不明)したものと思われる。1. 「Empty Pocket Blues」はバートのソロで、タイトルは異なるが、コンサートの時点ではまだ発売されていなかった「Black Swan」 2006 S32収録の「My Pocket's Empty」。2.「Grooveyard」はデイヴィーのソロ。1964年のシャーリー・コリンズとの共演盤 「Folk Roots, New Routes」に公式録音がある。作者のカール・パーキンスは、有名ロカビリー歌手と同姓同名のジャズピアニストで、子供の頃に罹った小児マヒのため、右手のみで演奏していたらしい。テナー・サックス奏者ハロルド・ランドの1958年録音がオリジナルで、そこで本人がピアノを弾いているが、1961年のウエス・モンゴメリーの録音が一番有名なようだ。デイヴィーはジャズ曲をゴリゴリとしたタッチで弾いており、ジョン・レンボーンが弾く繊細さとは異なる世界なのが面白い。

以降は二人の共演になる。 3.「Key To The Highway」は、「Parting Glass」にリハーサル風景が収められていた曲(別のテレビ番組「Ealtainn」 2005では、一部であるが同曲のステージ映像を観ることができる)で、バートの歌とギターにデイヴィーが付け加える音が聴きもの。曲が終わったところで、バートが「See you later」と言っているので、バートかデイヴィーのソロによるファースト・セットの終わりで演奏したものと思われる。3.「Careless Love」は、デイヴィーのギターとボーカルにバートがギターとボーカルを合わせている。この曲も「Parting Glass」に演奏風景の一部が収められている。自由でリラックスとした演奏がいい感じで、観客からも大きな拍手と声援が飛んでいる。最後の曲は、LPでは「Travelling Man」というタイトルでバート作とあるが、これは間違い。バートのアルバム「L.A. Turnaround」 1974 S9に収められた同名の曲と混同したものと思われ、正しくはブルースのスタンダード曲「Trouble In My Mind」で、バートの晩年作品に収録されている曲。本作の製作者マーク・パヴェイ氏(Mark Pavey、本作のレコード会社Les Cousins のオーナーでもある)は、晩年のデイヴィーのマネジメントを務めた人なので、バートについてはあまり詳しくなかったのだろう。でも実際に聴いてみると、歌の出だしが「Trouble In My Mind」でなく、「Travelling Man」に聞こえるのも確か。「Janshish」と呼ばれる、バートのボーカルの歌詞の聴き取りにくさは、ネイティブさえも惑わすということかな?映像(「Parting Glass」)は本曲の後で帰り始める観客もいるので、この曲でコンサートが終了したことを示している。

一見・一聴しただけでは、曲目少ない、演奏イマイチのコレクターズ・アイテムと捉えられるが、映像「Parting Glass」とセットでじっくり鑑賞すると、その良さ・味わい深さが出てくる作品。

[2022年10月作成]


O39 The Bridge School Concerts 25th Anniversary Edition (2011) [Various Artists]  Reprise
 

Devendra Banhart : Vocal, Guitar
Bert Jansch : Vocal, Guitar
Noah Georgeson : Guitar, Back Vocal
Kevin barker : Guitar, Back Vocal
Unknown : Piano
Unknown : Drums

1. At The Hop [Devendra Banhart]

収録: Shoreline Amphitheatre, Mountain View CA, October 21, 2006


ブリッジ・スクールは、障害を持つ子供達の教育と社会的自立のために母親達が1986年に設立した施設で、ニール・ヤングの奥さんのペギも創立者の一人に名を連ねている。ニール・ヤングは資金集めのために、豪華なゲストを招いたチャリティー・コンサートを開催。それは1986年から現在に至るまで続き、彼のライフワークになっている。電気楽器の大音響はコンサートに参加する子供達に良くないとして、出演者はアコースティック・サウンドで演奏するという。2011年11月コンサート25周年を記念して、過去のコンサートの模様を収めた2枚組CDおよび3枚組DVDが発売され、デヴェンドラ・バンハート 2006年10月21日の出演にバートがゲスト共演した映像がDVDに収録された。

デヴェンドラ・バンハートは1981年生まれで、1960年代のサイケデリック、フリーキーなフォークの雰囲気を漂わせながらも、世界各地のワールドミュージックを取り入れた現代的な感覚やサウンドも兼ね備えた新しい音楽を創造し注目を集めている。ヒッピー風のイラスト、ファッション、エキセントリックな風貌など独特のカリスマ性を感じさせる人だ。髭や長髪といった一見むさ苦しい格好であるが、実際のところは、女優ナタリー・ポートマンの恋人になるくらいハンサムで魅力的な人のようだ。彼とバックバンドの人達がバートのアルバム「Black Swan」2006 S32 の録音に参加し、バートは当時デベンドラのコンサートツアーに同行していたという。2004年の作品「Nino Rojo」からの 1.「At The Hop」は、60年代風でありながら何かニューウェイブの香りに満ちている曲。

当日バンドは7曲を演奏、その中にはバートが歌う「Empty Pocket Blues (aka My Pockets Are Empty)」、「When I Get Home」もある。またその模様を観たニール・ヤングが翌日の自分のステージにバートを招き、二人で「Ambulance Blues」(バートの「Needle Of Death」と似ていると話題になった曲)を演奏している(その模様の詳細については、「その他音源・映像」の部を参照ください)。


  
 O40 The London Show Live At The Royal Festival Hall, London (2007) [Ralph McTell] Leola

 


Bert Jansch: Vocal, A. Guitar
Ralph McTell : Vocal, A. Guitar

1. Moonshine  S8, S23, S36 S36 S36 P21


収録: The Royal Festival Hall, London, November 26, 2004

 
旧友ラルフ・マクテルの60歳記念コンサートにゲスト参加。バートの他に、カーラ・ディロン、ウィズ・ジョーンズが参加し、彼の弾き語りの他、ゲストとのデュエットやジャグ、ヒルビリー風バンドとの共演、そして名曲「Streets Of London」ではロンドン・コミュニティー・ゴスペル・クワイヤーと一緒に歌うという盛沢山な内容。収録日とDVDの発売日に3年の開きがあるのは、コンサートの模様が当初テレビ放映され、後にDVD化されたためと思われる。

バートはコンサートの中盤に登場し、1.「Moonshine」を歌う。ラルフはステージ中央に立ち、バートは向かって右に座り、ラルフは5〜6フレットにカポを付けて弾いている。最初の歌詞はバートが歌い、ラルフ → バートと変わる。4番以降は二人の合唱となり、一部ハモッている。ラルフは元気そうである(後年70歳記念コンサートもしっかりやっている位)が、バートは声がかすれ気味で、ギターの切れ味もイマイチといった感じ。と言っても牢屋に幽閉された男の嘆きという内容なので、枯れたダークな雰囲気が曲調に合っている気もする。

何はともあれ、二人の共演ならば、なんでも喜んで聴くのはファン気質かな?

[2018年1月作成]



O41 Shotter's Nation 2007 [Baby Shambles] Parlophone  
 
 
Peter Doherty : Vocal
Bert Jansch : Guitar
Unknown : Electric Guitar

Stephen Street : Producer

1. Lost Art Of Murder [Peter Doherty]




ピーター・ドハーティーは、カール・バラーと結成したザ・リバティーンズで2002年デビューし、一世を風靡したが、薬物中毒や素行問題のスキャンダルにまみれ、グループは2枚目のアルバム発表後の2004年に事実上解散した。彼がその頃結成したグループがベイビー・シャンブルズで、本作は2005年11月の「Down In Albion」に続く2枚目のアルバムである。私はこの手の音楽に全く疎いので、批評する立場に全くないが、そういう私が偏見を排して聴く限り、イギリス人でしか書けない陰影に富んだ曲、カリスマ性に富んだボーカル、小気味良いロックサウンドがそろった良い作品だと思う。多くの人が、「本作でピートは本領を発揮した」とか、「その分ハチャメチャな荒っぽさがない」と評価しているが、その点はわからない。ギンギンのロックをやっていても、どこか伝統的なフォークの香りを感じる人で、そういう意味では、時折シークレットギグで行うという、ギター1本によるコンサートも似合っているのだろう。

本作の最後の曲 1.「Lost Art Of Murder」のみ、アコースティックなサウンドで、クレジットの記載はないがバートがギターで参加しているとのこと。ここでのバートのプレイは、フィンガーピッキングではなく、爪を使ったコードストローク中心で、合間にアルペジオが入る奏法。ちょうどペンタングルのアルバム「Reflection」1971 P6に収録された 「When I Get Home」と雰囲気が良く似ていて、バートのギターのカラーがしっかり出ている。これまた「When I Get Home」におけるジョン・レンボーンのギターに似た感じの、エレキギターによるオブリガードを誰が弾いているかは不明。

深みを感じる作品、ボーカルとも良い出来で、この人の芸術的才能が感じられる曲。ピーターによるこの曲のコメントは、「日曜の午後になるとよくバート・ヤンシュが家に遊びに来たりしてたんだ」とあり、そこそこ交流があったようで、2007年のピートのコンサートにバートがゲスト参加している。そのうち2007年4月12日のコンサート音源が出回っているようだ。

[2013年8月作成]


O42 Crossroads Guitar Festival 2010 [Various Artists]  Rhino
 


Bert Jansch : A. Guitar, Vocal

1. Blackwaterside [Traditional]  S4 S18 S18 S25 S27 S33 S36 S36 S36 P21 O11 O16

録音: 2010年6月26日、 Toyota Park, Bridgeview, IL


クロスロードは、1998年エリック・クラプトンがカリブ海のアンティグア島に設立した薬物依存の治療施設だ。現地の穏やかな環境で良質のリハビリテーションを行うもので、その治療は心の身体の両面にわたり、費用援助制度もあるとのこと。彼の言葉によると、「始めた理由はシンプルだ。僕のように、かつて薬物やアルコールを飲んでいたものの、もう飲みたくないと思っている人達のためだ。僕のヒーロー達は選択権がなかった。リロイ・カーは酒で死んだ。ビッグ・メイシオも酒で死んだ。僕が救われたような援助があれば、彼等は今も生きていたかもしれない。」 その名前の由来は、ブルースの神様ロバート・ジョンソンが残した傑作「Crossroads」、そしてクラプトンがクリーム在籍時にカバーした同曲(ライブアルバム「Wheels Of Fire」 1968年)に由来するものと思われる。クロスロード・ギター・フェスティバルは、上記の厚生施設の運営資金調達のために、毎年開催されている。2010年はソニー・ランドレス、デルク・トラックス、バディ・ガイ、ロバート・クレイ、B. B. キング、ジェフ・ベック、ヴィンス・ギル、アール・クルー、ZZ トップ、シェリル・クロウ等がゲスト出演。トリはエリク・クラプトンとスティーブ・ウィンウッドの共演で、アコースティック・ギターの世界からは、バート・ヤンシュ、ステファン・グロスマン、ケブ・モー等が出演した。その模様は2枚組のDVDで発売され、そこにはバートの演奏も1曲収録された。

会場のトヨタ・パークはイリノイ州シカゴの郊外にある巨大なスタジアムで、フットボール、サッカー、格闘技の他に28,000人を収容するコンサート会場として利用されている。バートは午後2時のセットで登場。緊張または体調不良のせいか、彼の声は枯れ気味でギタープレイも固い感じがする。それでも、巨大な会場・大群衆を前に一人で演奏する様を背景から撮影したショットが雄大でスゴイ。熱心なロックファンならば、かつてジミー・ペイジがこのギター演奏を「Black Mountain Side」というインスト曲に改作し、レッド・ツエッペリンのアルバムに入れたエピソードを知っているはずで、オーディエンスが耳を澄ましている雰囲気が伝わってくる。途中一瞬のシーンで、クラプトンが舞台の袖で演奏に聴き入る様が誠に印象的。曲のエンディングのギター演奏のところで、バートへのインタビューが重なり、曲が終わる。

1曲だけど、鮮烈な印象を残すトラックだ。

[2011年11月作成]

[2022年4月追記]
バートが当日ステージで演奏した曲目は以下のとおり。

1. Katie Cruel
2. It Don't Bother Me
3. Blackwaterside
4. It Ain't Right (未発表曲?)

当該音源が出回っている (「その他音源・映像」の部参照)。