S28 Toy Balloon (1998)   Cooking Vinyl COOKCD138


S27 Toy Balloon

Bert Jansch: Guitar, Vocal
Johnny Hodge: Slide Guitar, Harmonica,
Jay Burnett: Keyboards
Marcus Cliffe: Bass
Pick Withers: Drums
Pee Wee Ellis: Sax
B J Cole: Steel Guitar
Janie Romer: Back Vocals
Laura B : Effects

Laura B, Jay Bernett: Producer
        
1. Carnival [Jackson C. Frank]  S29 S33 S36 S36      
2. She Moved Through The Fair [Trad.]  S29 S33 S36 S36 P11 P15 P22 O29
3. All I Got
4. Beth's Dance *  S27
5. Toy Balloon (For Little Anna-Rebecca)  S29         
6. Waitin & Wonderin
7. Hey Doc
8. Sweet Talking Lady
9. Paper Houses   S25 S29 S34 S36
10. Born And Bred In Old Ireland  S29 
11. How It All Came Down  S29 S36
12. Just A Simple Soul

歌詞つき
1998年 3月発売


スタジオ盤としては前作から4年後に発表された、クッキング・ヴィニール・レーベルからは2枚目の作品だ。前作よりはリラックスしたムードで、ここではホール・アンド・オーツ、ジェフ・ベック(「Flash」1985)やスザンヌ・ヴェガのセッションに参加したJay Burnettがプロデューサー兼キーボード奏者として参加している。

1.「Carnival」は「Blues Runs The Game」に続く、ジャクソン C フランク (1943-1999) 作品のカバー。、アメリカに帰国した後は消息不明となり多くの人が死亡したものと思っていたが、80年代に心身を病みホームレスになり片目を失明、両足に障害を持つ身になっていたことが分かり、1995年のフォーク雑誌にレポートが掲載、翌年に1965年ポール・サイモンのプロデュースにより録音された唯一のソロアルバムがCD化され再評価された。「Carnival」はその1枚目のアルバムに入っていた曲で、原題は「My Name Is A Carnival」。人生をサーカスの巡業に例えた厳しい歌で、バートはシンプルなギターの伴奏で、とても丁寧にうたっている。その後はバートやジョン・レンボーンを始めとする昔の仲間達やファンのサポートにより復帰を目指していたが、残念ながら1999年3月に亡くなった。そして2001年に、ペンタングル関連の作品の多くをCD化しているキャッスルが未発表曲を加えてCD化、その際はバートがライナーノーツを執筆した。さらにその後同レーベルより90年代のデモ録音などを加えた集大成盤が発売になっている。

2.「She Moved Through The Fair」 は後期ペンタングルで演奏していたトラッド曲で、バートが弾き語りで淡々と歌う。恋人に去られた悲しみを歌う彼は本当に繊細で、ブルースを歌う時とは別人のようだ。3.「All I Got」はバンドによる演奏。ドラムスは S13以来久しぶりのピック・ウィザース、ベースはミラクル・マイルズのメンバーで、マンフレッズ、トム・マクギネス、アラン・スティヴェルなどのセッションに参加しているマーカス・クリフェ。ハーモニカのジョニー・ホッジは、12 Bar Clubで出会ったバートの友人で、リードギターも達者な人だ。バートのギターのリフがかっこいいR&B調の曲。4.「Beth's Dance」はS27では「Instrumental」と紹介されていた曲で、スコットランドのバグパイプの様なメロディーが印象的だ。5.「Toy Balloon」は「For Little Anna Rebecca」との副題がついており、知人・親戚の子供のために書いたものだろう。純粋でドリーミーな名曲だ。バックで聞こえるB.J. コールのスティール・ギターはファンタスティック。彼はビョーク、ベック、ヴァーブなどの参加している売れっ子セッション・マン。6.「Waitin & Wonderin」は汽車の音を感じさせるパカーシヴなギター演奏で、トレイン・ブルースの伝統に則り演奏される。

7.「Hey Doc」 は正統的なブルースだが歌自体は暗さがなく、恋する者の心情を歌っている。CDジャケットに掲載されている彼の賛辞にあるとおり当時彼はかつて O21、O22でバックを務めたローレン・オーバッハと恋愛関係にあり、後に彼らは結婚する。アーティストにとって、恋をすることが創造行為の原動力として如何に大切なことであるかがよくわかる。8.「Sweet Talking Lady」は愛用ギターを盗まれたらしく、恋人に比喩して訴えるちょっとシニカルでゴキゲンなR&B。ここでフィーチャーされるサックスのピー・ウィー・エリスは、ジェームス・ブラウンのバックで有名な人だ。9.「Paper Houses」は「Acoustic Routes」の映像版では、ジョン・レンボーンとのリハーサル風景で断片が演奏されながら、未発表になっていた曲。10.「Born And Bred In Old Ireland」はアイルランドへの賛歌。私はダブリンに住んだことがあるけど、実際のアイルランドは、行儀の悪い、その日暮らしの酔っ払いが多い町なんだけどね……(これは半分冗談で、半分本音であります)。11.「How It All Came Down」はジェイ・バーネットのキーボードが要の、バートとしては洗練されたサウンド作りで、ピー・ウィー・エリスのサックスが長めのソロを取る。バックコーラスで聞こえる女性の声は、前作 S26にも参加していたジャニー・ロメール。最後の曲 12.「Just A Simple Soul」では、彼は無宗教であることを告白し、クリスマスが商業主義に堕し、それを容認する教会を批判、自分は自然を愛し、愛する人たちに心からの新年のあいさつをする。現在の心境が素直にでた良い曲だと思う。


S29 Downunder: Live In Australia (2001) Castle CMRCD022


S28 Downunder


Bert Jansch: Vocal, Guitar
Pete Howell: Wood Bass
Ian Clark: Percussion (10,14,15)  

1. Blues Run The Game [Jackson C. Frank]  S1 S11 S14 S17 S18 S25 S27 S33 S36 S36 S36 S36 S36 S36 O16  
2. Come Back Baby [Davis]  S1 S5 S14 S18 S27 S33 S36 S36 S36 P19 O13 O20
3. The Lily Of The West [Trad.]  S27 S33 S34 S36 S36 P18      
4. Paper Houses  S25 S28 S34 S36  
5. Toy Balloon  S28
6. My Donald [Hand]  S30 S33
7. Born And Bred In Old Ireland S28
8. She Moved Through The Fair [Trad.]  S28 S33 S36 S36 P11 P15 P22 O29 
9. Carnival [Jacson C. Frank]  S28 S33 S36 S36
10. Little Max   S34            
11. Strolling Down The Highway  S1 S2 S22 S25 S27 S33 S36 S36 S36
12. Angie * [Davy Graham]  S1 S2 S2 S10 S11 S14 S17 S36 S36 S36 S36 S36 S36 S36 O19
13. Curragh Of Kildare [Trad.]  S13 S18 S27 O11
14. Downunder *  S30 S33 S36
15. How It All Came Down  S28 S36

1998年3月 Continental Cafe における実況録音
Colin Harper:解説 

注) 上記赤字は本作のみ収録されている曲
   写真下: 2017年 Earth Recordsからの再発盤(「Live In Australia」)


メルボルンのコンチネンタル・カフェにおける、1998年3月の2日間のコンサートからの実況録音。発売されたのはしばらく経った後の2001年。全編一人の弾き語りだった1996年の S27とは異なり、全ての曲に地元のセッション・ミュージシャンであるピート・ハウウェルのウッドベースのサポートがついている。また3曲についてはパーカッションも加わるが、これは後からスタジオでオーバーダビングしたものらしい。コンサートの模様を撮影した写真が付いていて、リラックスした感じが伝わってくる。バートのギターはお馴染みのヤマハ。「Toy Balloon」 1998 S28 発売直後のツアーであり、同作から6曲が演奏されている。

1.「Blues Run The Game」はコンサートではお馴染みの曲。バートの歌もギターも「Live At The 12 Bar」 S27よりもずっと調子がいいようだ。ウッドベースの動きは少なく、バートの演奏を控えめに支える。ちなみにこのライブ盤では曲間はカットされている。これまたお馴染みのブルース 2.「Come Back Baby」は、4ビートのベースに乗っていつもより自由にギターがメロディーを奏でてゆく。トラッド曲 3.「The Lily Of The West」の歌声は力強く魅力的。4.「Paper Houses」はお気に入りの曲のようで、1993年の「Acoustic Routes」 S25の映像版にもリハーサルの断片が映っていたが、実際に発表されたのは「Toy Balloon」1998 S28。5, 7, 8, 9,は、スタジオ録音よりも演奏に色彩・表情があって、私はこっちのほうが好きだ。S30で奥さんのローレンが歌ったオーウェン・ハンド作の6.「My Donald」では、残された漁師の妻の悲しみがバートの丁寧なボーカルで表現されている。

10.「Little Max」はオーストラリア滞在中に友人の身障者の息子さんのために書いたという。少しラテン調のリズムがある優しい感じの曲。お馴染みの11.「Strolling Down The Highway」 では、ウッドベースのラインが曲に新しいグルーブとカラーを付け加えることに成功している。バートのボーカルもいつに増して余裕たっぷりで、丁寧に歌っている。曲の途中でギター演奏が少し詰まるが、一向にお構いなしだ。12.「Angie」についている4ビートのベースは少し不思議な感じで、慣れないせいか違和感がある。バートのギター演奏は、エンディングを除き以前からのものとほぼ同じ内容。アイルランドのトラッドである13.「Curragh Of Kildare」におけるバートのボーカルには張りがあり、この時期としては良い出来のボーカルだ。14.「Downunder」は久しぶりにモダンな音使いによるインストメンタル。ペンタングル時代によく使っていたようなリフパターンをベースに、音に微妙な変化を持たせて展開してゆく。スタジオ録音のS30では、ジョニー・ホッジのリードギターが全編でフィーチャーされていたが、ここではバートが時たまメロディーを入れながら彼の演奏だけで十分に聞かせてくれる。パーカッションが効果的で、ゆったりとしたリズムに乗って安定した非常の陰影に富んだ演奏で5分間の長さを感じさせない。15.「How It All Came Down」もリズムの切れはそれほど良くはないのだが、何か独特の乗りがあって浸って聴いていると気持ちのいいもんだ。

ペンタングルのライブや「The River Sessions」 S10 などの60年〜70年代初めの全盛期の頃と比べると、ギター演奏の切れ味に雲泥の差があることは否めず、随所で音が詰まったりリズムが乱れたりするが、ファンならばそれなりに満足に楽しめる出来だ。


S30 Crimson Moon (2000) Castle CMAR683

S29 Crimson Moon



Bert Jansch : Vocal, Guitar, E.Guitar (1,2,6)
Johnny Hodge: A.Guitar (4),Harmonica (12)
Bernard Butler:Guitar (3,7,8,9,)
Johnny Marr: Guitar (7,10), Harmonica (8), Back Vocal (6)
Adam Jansch: Bass (2,3)
Makoto Sakamoto : Percussion (3,7),Drums (1,6)
Lauren Jansch : Vocal (10)

1. Caledonia
2. Going Home  P3 P9 O4 O5
3. Crimson Moon S36 S36 S36 S36 S36
4. Down-under  S29 S33 S36
5. October Song [Robin Williamson] S33
6. Looking For Love
7. Fool's Mate  S34 S35 S36
8. The River Bank   S36 S36 S36 S36 S36   
9. Omie Wise [Trad.]  P6 P11
10. My Donald [Owen Head]  S29 S33
11. Neptune's Daughter
12. Singing The Blues [Melvin Endsley]

歌詞つき

注) 写真下: 2020年 Earth Recordsからの再発盤


バートによる最初の自宅録音。プロデュース、エンジニアも彼自身が行っていて、たっぷりと時間をかけて好きなように製作した作品と思われる。本CDの初版は、「The Best Of Bert Jansch」というタイトルのボーナスCDが添付された2枚組で発売された。このCDには未発表曲はなく、収録曲(収録アルバム番号)は以下のとおり。

1. Strolling Down The Highway (S2)
2. Needle Of Death (S2)
3. It Don’t Bother Me (S3)
4. Lucky Thirteen (S3)
5. Blackwater Side (S4)
6. The First Time Ever (S4)
7. Rabbit Run (S5),
8. Woe Is Love My Dear (S5)
9. Nobody’s Bar (S7)
10. Rosemary Lane (S7)

本作最大の話題は、新世代のギター・ヒーローの二人、ジョニー・マーとバーナード・バトラーの参加だ。本作にバート初期録音のCDが添付されたのも、本作を購入した彼らのファンにバートの若い頃の演奏が如何に凄かったかを知ってもらいたかったためだろう。ジョニー・マーは1963年生まれで、モリッシーと結成したザ・スミスは80年代最も成功したバンドとなり、絶妙のギターはギター小僧のアイドルとなった。1987年の解散の後は、トーキング・ヘッド、ペット・ショップ・ボーイズ、エレクトロニックなどのセッションに参加、現在はザ・ヒーラーズというバンドを率いて活躍中。1970年生まれで彼に憧れてプロになったバーナード・バトラーは、スウェードというバンドで90年代の初め大成功を収めるがすぐに脱退、セッション・ワークをしながらソロアルバムやデビッド・マッカルモントとのジョイント・アルバムを発表し、90年代の名ギタリストとしての地位を不動のものとした。彼ら二人にとってバートはギター・アイドルで、大きな影響を受けたという。1997年彼らがバートのコンサートの楽屋を訪ねたことがきっかけで、親交が始まり本アルバムへの参加となったわけだ。その辺のくだりは、アコースティック・ギター・マガジン2000年10月号の記事に詳しい。バーナードによる「バートの演奏は全く違う…、僕が学んだのは個性だった。音楽の中から力強さ、暗さ、喜びといったものを生み出す‘やり方’を学んだんだ…甘美な歌から人殺しの歌まで自在に変化する‘在り方’が好きだ」コメントは、バートの本質を見事に言い当てている。彼ら二人にとって、バートとのセッションは彼から受けたもののお返しなのだという。

1.「Caledonia」のエレキギターは、バート自身の多重録音によるもの。決してうまいとはいえない詰まりまくりの演奏で、ファズがかかったサウンドは60年代の昔のスタイルだ。故郷スコットランドに送る賛歌で、歌詞の中にエジンバラ、キンタイア(そう言えば、ポール・マッカートニーの大ヒット曲で「Mull Of Kintyre」という曲があった)、そしてネッシーまで出てくる。2.「Going Home」はペンタングル時代のシングル盤「Travelling Song」1968 O4 の焼き直し版で、メロディー、リズムおよび一部の歌詞が同じだ。ここでのバートのエレキギターはなかなか良い。3.「Crimson Moon」はラテン調のリズムに乗って成熟した愛を歌う。バーナードのエレキギターは控えめ。ドラムスのマコト・サカモトはバーナードとずっと一緒にやっている人で、最近人気絶頂のDidoのアルバムにも参加している。日本人と思われるが詳細はわかりません。

4.「Down-under」はS29のタイトルにもなったインストメンタルで、ここではジョニー・ホッジのアコギによるリードギターが活躍する。5. 「October Song」はスコットランド時代のルームメイト、ロビン・ウィリアムソンの作品。彼は「Wheel Of Fortune」1993年でジョン・レンボーンと共演している。オルタネイト・ベースによるシンプルなギター伴奏とメロディーに載せて、非常に感性豊かな歌詞が歌われる。6.「Looking For Love」はバンドサウンドによるR&Bスタイルの曲で、バートのアコギのリフが決まっている。ジョニーはコーラスで協力。7.「Fool's Mate」は戦争の愚かさを中世を舞台に描いた寓話で、私は戦場で死体の上を黒い馬に乗って駆け回る戦争の神を描いたアンリ・ルソーの絵を思い出した。ジョニーのアコギが曲に強烈なインパクトを与えている。8.「The River Bank」はガッツのあるロック調の曲で、バーナードのギターがバートのボーカルのピッタリと寄り添って、だんだんと熱くなっているのがわかる。控えめながらもツボを押さえたサポートは歌ごころに溢れ、さすがだ。9.「Omie Wise」はペンタングル以来のトラッド曲の再演。人殺しの生々しいバラッドを淡々と歌うバートに対し、バーナードのギターはE Bowを使用。遠くで聞こえる叫び声のような音で、その異常な世界に特異な効果を付け加えている。

10.「My Donald」はライブ盤のS29ではバートが歌っていたが、ここでは奥さんのローレンがボーカルを担当。若い頃のO21、O22と比べ、声に年輪の重みが出ているようだ。漁師の夫に取り残された妻の悲しみを歌う、トラッドの香り溢れるオーウェン・ハンドの作品。11.「Neptune's Daughter」はバート作によるトラッド的な内容の歌で、迷った人魚を助けために愛に囚われてしまった男のバラッドで、まるで彼自身のことをうたっているようだ。ここではバートは珍しくナイロン弦のギターを弾いている。最後の曲12.「Singing The Blues」は愛を失った男のブルースなのだが、雰囲気は軽やかでローレンと結婚して幸せの最中にいるバートの心境をそのまま語っている。

なおジャケットには、ジョニーとバーナードが各々ギターを持ってバートの横に座っているところを撮影したスナップ写真が掲載されている。バートのギター、声の調子がいまひとつという感じもするが、良いゲストの協力を得て、好きなように伸び伸びと作ったという感じの作品だ。


 
S31 Edge Of A Dream (2002) Sanctuary SANCD 136  

 


Bert Jansch: Vocal, Guitar, E.Guitar (4), Bass (4,6)
Johnny Hodge: Spanish Guitar (6)
Bernard Butler: Guitar (5,7), Keyboards
Paul Wassif: Slide Guitar (10)
Dave Swarbrick: Violin (4,7)
Ralph McTell: Harmonica (11)
Adam Jansch: Bass (1,2,9), Keyboards (9)
Makoto Sakamoto: Drums (1,3,5,8)
Colm O'Ciosoig: Drums (2)
Loren Jansch: Vocal (9)
Hope Sandoval: Vocal (2)

Producer: Bert Jansch,
Photo & Front Cover Concept: Adam Jansch

1. On The Edge Of A Dream  S35 S36 O35
2. All This Remains [BertJansch, Hope Sandoval]
3. What Is On Your Mind
4. Sweet Death
5. I Cannot Keep From Crying [Trad]  P12
6. La Luna [Johnny 'Guitar' Hodge]  S36
7. Gypsy Dave
8. Walking This Road  S35 S36 O35
9. The Quiet Joys Of Brotherhood [Trad., Lyrics Richard Farina] S35
10. Black Cat Blues *
11. Bright Sunny Morning

注) 写真下: 2017年 Earth Recordsからの再発盤


前作に続く自宅録音の第2弾。前作に続き名ギタリスト、バーナード・バトラーがバンドメイトのマコト・サカモト(ドラムス)と一緒に参加している。1.「On The Edge Of A Dream」はリズミカルなアコギのリフに乗ったR&B風の曲で、副題「Rock Baby Rock」O35でシングルカットされた。バーナードのエレキギターは生き物のようだ。2.「All This Remains」のゲストボーカルはホープ・サンドヴァルで、曲も共作している。2001年の O30へのバートのゲスト参加が好評だったため企画されたようだ。彼女の怪しげな歌声には、不思議な存在感がある。彼女のバンドからコルム・オシオソイグが参加して、パーカッションで背景を作っている。当時、大学で音楽技術を専攻中の息子アダムのベースラインがとても印象的。3.「What Is On Your Mind」はドラムス以外はすべてバートの多重録音によるもので、相手に心を開くように迫る歌詞内容だ。4.「Sweet Death」はマーチン・キャシーとの共演やスティールアイ・スパンなどで有名なバイオリン奏者デイブ・スワーブリック (1941-2016) との初共演。ちなみに彼はジョン・レンボーンの「The Lady And The Unicorn」1970にも参加している。初期を彷彿させるギター伴奏で、バートは死と向き合う様を歌う。後半から入ってくるデイブのバイオリンは祈りのように響く。決してうまい人ではないんだけど、不思議に人の心を打つものがある。彼がバートに「どっちかがおっ死ぬ前に共演しておかないと」というEメールを送ったのが、共演のきっかけだそうだ。 

5.「I Cannot Keep From Crying」はジョンレンボーンが「Another Monday」1966でジャッキーと一緒に歌っていた曲で、ブルースでありながら非常に軽やかなのが面白い。バーナードのスライド・ギターは趣味のよい演奏だ。6.「La Luna」 は本作では異色の曲想で、ジョニー・ホッジの作品、彼のスパニッシュ風ギターがからむ哀愁あるフォークソング。7.「Gypsy Dave」はタイトルのとおり、共演者に捧げたインスト曲。彼の奏でるバイオリンは、まるでジプシーが弾いているように艶っぽい。8.「Walking This Road」はバンド演奏で、バーナードのギターが目茶カッコイイ。上述1.のシングル盤 O35 には、この曲の弾き語りバージョンが入っている。9.「The Quiet Joys Of Brotherhood」はフリーな感じのイントロから、トラッドのメロディーに乗せて自然への賛歌がうたわれる。歌詞の最初の部分は自然の美しさを、後半ではそれを壊してしまう人間の愚かな行動を歌う。ボーカルは奥さんのローレンで、ここでの彼女の歌声には心がこもっている。メロディー、歌詞ともにとても印象的な曲だ。10.「Black Cat Blues」はローレンの友人の夫であるギタリストのポール・ワッシフと休日にジャムをしていて出来た曲だそうだ。スライドギターとの共演が心地良く、歌詞カードのところに飼い猫 Hamishの写真が掲載されている。

11.「Bright Sunny Morning」はセプテンバー・イレブンを歌った曲で、バートにとってどうしても語らずにはいられなかった1件だったのだろう。昔同じ職場で働いた同僚を失った私としては、聴くのがとても辛い曲。私もこの事件の前と後とでは、世界は同じでないと思えるくらいショックを受けた。昔の映画でこのビルが写っている風景を観ると心が痛み、平地となった今の姿を見ても気が沈む。我々がどんなに平和で幸せと思っていても、世界の何処かでそう思っていない人達がいることの怖さ。平和ってなんだろう、グローバリゼイションは人類全体にとっていい事だったのだろうか、と考えさせられてしまう。誰が良くて誰が悪いというように白黒つけられるほど、単純ではなく、正解も正義もないのだ。バートの歌詞はアメリカ人の作品のようにストレートなエモーションには訴えず、感情を押し殺してありのままを淡々と語る。バックで聞こえるラルフ・マクテルのハーモニカが心にしみる。今日は8月30日なので、あと2週間弱で9月11日になる。その日はこの曲をレクイエムとして亡くなった人々の冥福と世界平和を祈りながら聞くつもりであり、これからも毎年そうするだろう。


S32  Black Swan  (2006)    Sanctuary  
 



Bert Jansch : Vocal, Guitar, Banjo (11), Keyboards (10)
Beth Orton : Vocal (3,4)
Devendra Banhart : Vocal (4)
Paul Wassif : Guitar (5), Slide Guitar (7), Banjo (11)
Kevin Baker : Lead Guitar (6), Percussion (4)
David Roback : Slide Guitar (3)
Richard Good : Slide Guitar (9)
Adam Jansch : Keyboards (1, 9)
Otto Hauser : Drums (3,5,6,9), Percussion (4,7)
Noah Georgeson : Bass (9,10), Percussion (1,9)
Pete Newsom : Drums (10)
Helena Espvall : Cello (1)
Maggie Boyle : Flute (11)


1. Black Swan
2. High Days  S33 S36 S36 S36 S36
3. When The Sun Comes Up
4. Katie Cruel [Traditional]  S33 S35
5. My Pocket's Empty [Traditional]  S33 S35 S36 O38
6. Watch The Stars [Traditional]  S35 S36 P3 P12
7. A Woman Like You  S6 S23 S27 S36 S36 P3 P11 P13
8. The Old Triangle [Tradtional]  S36 S36 S36
9. Bring Your Religion
10. Texas Cowboy Blues  S36
11. Magdalina's Dance [Bert Jansch, Paul Wassif] *
12. Hey Pretty Girl  S33

Noah Georgeson, Bert Jansch : Producer
Adam Jansch : Front Cover Art Work

2006年9月発売

注) 写真下: 2021年 Earth Recordsからの再発盤
 

4年ぶりの新作は、トラディショナルを取り上げ、気張らずシンプルなサウンド作りに徹したため、枯れた感じが良い雰囲気の作品となった。本作はアメリカ西海岸で活躍する若手フォーク・ミュージシャンが参加している。なかでもデヴェンドラ・バーンハート(1981- )の参加が注目される。彼は1960年代のサイケデリック、フリーキーなフォークの雰囲気を漂わせながらも、世界各地のワールドミュージックを取り入れた現代的な感覚やサウンドも兼ね備え、新しい音楽を創造し注目を集めている。画家でもあり、、ヒッピー風のファッション、エキセントリックな風貌など、独特のカリスマ性を感じさせる人だ。ノア・ジョージソンは、ジョアンア・ニューサムやデヴェンドラのアルバムのプロデュースを担当した他、2006年には自己のソロアルバム「Find Shelter」を発表している若手プロデューサー。また本作でパーカッションを担当するオットー・ハウザーやリードギターを弾いているケヴィン・バーカーもデヴェンドラの伴奏で活躍するミュージシャンのようだ。

1.「Black Swan」はシンプルなギター伴奏とチェロの演奏から始まる。スペイシーな内容の歌詞がユニークで、人生の旅を歌っている。ダークなサウンドのチェロを弾いているヘレナ・エプスヴァルは、スウェーデン人のマルチ・インストメンタリストで、サイケデリック・フォークやフリー・インプロヴィゼイションの分野で活躍、2006年にはフィラデルフィアのニュー・フォークのユニット、Espersのアルバム「II」にメンバーとして参加している。プロデューサーのノア・ジョージソンがパーカッションで参加している。エンディングで控えめなシンセサイザーを弾くアダム・ジャンシュはバートの息子で、録音当時は大学で音楽とコンピューター・グラフィックを勉強中。本作のジャケット・デザインも彼が担当している。 2.「High Days」は本作における2曲の弾き語りのうちのひとつ。友人の死に面して作った曲で、後悔、辛苦と諦念の思いに溢れている。ここでのギターは、すこしヨレているが、曲の雰囲気を良く出しているし、ダークな歌声も悪くない。3.「When The Sun Comes Up」でリードボーカルをとるベス・オートン(1970- )の声は、さらっとした歌いっぷりのなかに見事な存在感を見せつけている。イギリスで活躍し、フォークと電子音楽を併せ持つ音楽性が特徴で、1995年にケミカル・ブラザースと共演盤を製作するなど、若手女性シンガーとして注目されている人。スライドギターを弾いているデビッド・ローバックは、ホープ・サンドヴァルがボーカルをつとめるマジー・スターやベス・オートンの作品プロデュースを担当している。4. 「Katie Cruel」は、シンプルでメランコリックなスリーフィンガーのギターと控えめなパーカッションをバックに、右チャンネルでベス・オートンが、左チャンネルでデベンドラ・バーンハートが歌う。5.「My Pocket's Empty」はブルーであるが包容力のあるバートのボーカルに魅力がある。ここでは前作でも参加していた友人のポール・ワシフとの2台のギターとパーカッションによる味のある伴奏がとてもよい。6. 「Watch The Stars」は、これまでジョン・レンボーンがレパートリーとしてきた曲で、バートの歌で録音するのは初めてだ。と言ってもライナーノーツによると、16歳の頃から歌っていたそうだ。ここではベス・オートンとのデュエットを楽しむことが出来る。ベスをゲスト・ボーカリストとして招いた企画は成功していると思う。年を取りバートのボーカルは一段と渋みを増し、それはそれで悪くはないが、以前のような強烈さは薄れたと思われ、その弱さをカバーするために彼女に歌ってもらったものと推測される。ちなみに7.「A Woman Like You」も、ペンタングルの「Sweet Child」 1968 P3 におけるライブのような鬼気迫るものは感じられないが、ポール・ワシフのスライドギターはいい感じだ。オットー・ハウザーのシンプルなパーカッションもグッド・フィーリング。バートのボーカルは貫録勝ちといったところ。

8.「The Old Triangle」はトラディショナルとあるが、アイルランドの活動家で、作家・詩人でもあったブレンダン・ベーハン(Brendan Behan 1923-1964)の作品で、北アイルランドの独立運動に関わり投獄された際の経験を歌ったもの。アイルランドを象徴する歌として、現地の人々に親しまれている。ちなみに彼は大変な酒飲みだったそうだ。9.「Bring Your Religion」は、神を信じるが特定の宗教には帰依しないというバートが、現代の宗教対立に根ざした争いに向けて歌っているもので、クレジットにはないが奥さんのローレンと一緒に作ったそうだ。10.「Texas Cowboy Blues」は本作の中では最もブルージーな曲で、明らかにブッシュ大統領の事を揶揄している。バックでバートが弾くシンセサイザーの音が聞こえる。キーボードの11. 「Magdalina's Dance」は、ポール・ワシフとの2台のバンジョーの伴奏に、マギー・ボイルが吹く中南米音楽のパンフルートのようなサウンドの組み合わせがユニークな曲。彼女との録音は、1987年の「Reaching Out」O25以来なので、20年ぶりだ。12.「Hey Pretty Girl」はロックンロールに恋した女性を描いた曲で、弾き語りによる彼独特のダークな世界が迫ってくる。

本作におけるバートのギター演奏に特に凝ったものはなく、全体的にさらっとした作りであるが、こういうダークなムードのなかにチラチラと日差しが差し込むような感じがする作品は、私にとっては日常生活に病んだ精神、酒を飲んでも騒いでも満たされない精神的な飢餓感を癒すものとして必要なものだ。

本作については、「ストレンジデイズ」誌などにレビューやバートとのインタビューが掲載されましたので、自分なりの記事を書くのに苦労しましたが、少しでもお役に立てればと存じます。なお本作が生前最後のソロアルバムとなった。

[2007年4月作成]

 
S33  Fresh As A Sweet Sunday Morning (2007) Secret

 


 
Bert Jansch : Vocal, Guitar,

1. It Don't Bother Me  S3 S35 S36 S36 S36
2. Strolling Down The Highway  S1 S2 S22 S25 S27 S29 S36 S36 S36
3. Rosemary Lane [Trad.]  S7 S36 
4. Blackwaterside [Trad.]  S4 S18 S18 S25 S27 S36 S36 S36 P21 O11 O16 O42
5. Come Back Baby [W. Davis]  S1 S5 S14 S18 S27 S29 S36 S36 S36 P19 O13 O20
6. The Lilly Of The West [Trad.]  S27 S29 S34 S36 S36 P18
7. My Pocket's Empty Baby [Traditional]  S32 S35 S36 O38
8. Morning Brings Peace Of Mind  S26 S27 S34
9. Oh My Father  S8 S23
10.Fresh AS A Sweet Sunday Morning  S9 S10 S19 S27 S36
11.My Donald [Owen Head]  S29 S30
12.Blues Run The Game [Jackson C. Frank]  S1 S11 S14 S17 S18 S25 S27 S29 S36 S36 S36 S36 S36 S36 O16
13.Katie Cruel [Traditional]  S32 S35
14.Carnival [Jackson C. Frank]  S28 S29 S36 S36
15.Trouble In Mind [Unkown]  S27 S36 O38 
16.She Moved Through The Fair [Trad.]  S28 S29 S36 S36 P11 P15 P22 O29
17.High Days  S32 S36 S36 S36 S36
18.Courting Blues  S1 S2 S36
19.Downunder *  S29 S30 S36
20.Reynardine [Trad.]  S7 P9 P16 P19
21.Poison  S6 S23 S36 S36 P10
22.October Song [Robin Williamson]  S30 S36
23.Hey Pretty Girl  S32


2006年4月22日 Sheffield Memorial Hall
2007年4月発売

写真下: DVD表紙


シェフィールドはイギリス中部の南ヨークシャー地方にある都市で、人口約50万。マンチャスターとリヴァプールから東の内陸部に位置する。産業革命の舞台として有名で、かつては鉄鋼産業で栄えた。一時期衰退したが、現在はシェフィールド大学を擁し、テクノロジーとスポーツの町というイメージで頑張っている。シェフィールド・メモリアル・ホールは、シティ・ホール(2000席の大ホール)の構内にある席数500の小ホール。場内のバーで飲みながらコンサートを聴くことができる。本作を制作したSecret Records は、フェアポート・コンベンション、エイジア、フリートウッド・マックなどのアーティストの近年のライブを発売している会社。本作の収録時間は約90分近くで、CD2枚組となっているが、価格は1枚分の廉価盤となっている。

当時のBJの生演奏は体調のせいか、今一つという感じで、本作を聴く前は2枚組のライブなんて大丈夫だろうか?と心配したが、全くの杞憂でした。確かにギタープレイを聴く限り、リズムのもたつきやミスタッチもあるし、歌をとってみても歌詞を忘れてハミングでカバーしたり、出だしを間違えたりする場面が数箇所あり、探せば粗はいっぱいあるけど、本作におけるBJは元気で気合が入っているため、それなりに良い出来だと思う。彼の歌とギターが心にビンビン響くのである。本作を繰り返し聴いて、演奏の正確さとは別次元にある魂(ソウル)の大切さを実感し、久しぶりに弾き語りの魔術を味わうことができた。さらに特筆すべき事として録音の良さがあげられる。特にギターの音は、最近の彼のライブ音源のなかでも出色であると思う。エレアコっぽい電気処理音は抑えられ、自然なサウンドが生々しく捉えられている。彼独特の指板に叩きつけるようなタッチ、それによりギター周辺の空気が震える感じまでが伝わってくるようだ。

1「It Don't Bother Me」のギターは少しぎこちないが、ボーカルには力が籠っている。息使いまで聴こえる生々しい録音だ。若い頃に比べて、単語の語尾を明瞭に発音しているようで、歌詞がより明瞭に聞こえる感じがする。 2.「Strolling Down The Highway」ではBJの声がかすれてしまい、咳きをしながら歌い続ける。年老いたブルースマンのようなダミ声も悪くない。3.「Rosemary Lane」は、1971年のスタジオ録音以来、久しぶりに聴く曲だ。次の曲はCDジャケットには「Come Back Baby」とあるが間違いで、正しくは「Blackwaterside」。 ここでのギター、ボーカルは演奏し慣れているだけあって素晴らしく、思わず引き込まれてしまう。録音の良さもあり、彼のギターの魅力を味わい尽くすことができる。5.「Come Back Baby」のようなブルース曲では、昔のような鬼気迫る感はないが、枯れた趣はそれなりに良い。 6「The Lilly Of The West」では歌詞の一節を忘れてしまい、ハミングで誤魔化しているが、ご愛嬌といったところか。 こういう曲を編集でカットせず、ありのままに収録しているところが本作の特徴。新作「Black Swan」 2006 S32からの曲 7.「My Pocket's Empty Baby」は、本人「お気に入りの曲」と紹介され、歳相応の余裕たっぷりの演奏。8.「Morning Brings Peace Of Mind」は、「When The Circus Comes To Town」1995 S26 からの曲で、バートのレパートリーの中ではさわやか系に属する。9.「Oh My Father」は「Moonshine」1973 S8 がオリジナルの曲で、本人は「長いこと演奏していなかった曲」と紹介している。パリで書いたという 10.「Fresh AS A Sweet Sunday Morning」も 8.と同じくさわやか系で、私のお気に入りの曲。 11.「My Donald」でCDの1枚目が終わる。
 
2枚目最初の曲、12.「Blues Run The Game」はいつも演奏しているレパートリーでもあり、ギター、ボーカルとも好調。スタジオ録音ではゲストボーカリストに歌わせていた 13.「Katie Cruel」を本人の声で聴くのもいいもんだ。ここでは「アメリカの古いフォークソング」と紹介されている。14.「Carnival」おけるBJの歌には、人生の重みを感じさせるものがある。15.「Trouble In Mind」は、5.と同じ雰囲気のブルース。アイリッシュ・チューンの 16.「She Moved Through The Fair」には、彼が歌うトラッドの魅力である独特の風格が感じられる。17.「High Days」もBJの年齢を感じさせる曲で、若い人には歌えないだろうな。「初めて書いた曲です」という 18.「Courting Blues」も久しぶりに聴く曲。若い頃の演奏と全く異なる感があるのが面白い。本作唯一のインストルメンタル19.「Downunder」では、ギター演奏がもたつく場面があるが、全くお構いなしにゴリゴリと弾き切っている。20.「Reynardine」のギター伴奏は、かなり難しそうな演奏で、さすがに1971年のオリジナル録音における圧倒的な感じはない。それに対して 21.「Poison」のギターおよびボーカルは、全盛期を彷彿させる切れ味で、本作でもベストの出来だ。ここで「Good night folks」というアナウンスが入り、以降アンコールとなる。淡々とした 22.「October Song」では、歌の出だしを間違えている。グルーピーの事を歌った23.「Hey Pretty Girl」で本作は幕を閉じるが、曲が終わった後、BJはオーディエンスに対し「See You Later」と言っているので、この曲は実際のコンサートでは休憩の前に演奏されたものかもしれない。

本作発売の経緯、最初からライブ盤製作を意識して録音していたのか不明。彼のオフィシャル・ホームページでも本作に係る記事が掲載されておらず、発表に際してのBJの意向は分からない。ジャケット・デザインや解説も気合がイマイチ入っていない感じがするが、最近のレパートリーのみならず昔懐かしい曲もやっているし、歌やギター演奏のミスはあるとはいえ、何よりもBJの調子が良さそうで、十分楽しめる内容だと思う。初心者向けというよりは、熱心なファンのためのアイテムだろう。

[2007年5月作成]

[2012年12月追記]
本作の映像版が別途発売されている(ジャケットデザインも同じ)。CDと同じ曲目で、ステージに向かって正面、左横、右下、右上の4台のカメラによる撮影。左手の運指がよく見えるクローズアップが多く、彼のギター奏法を研究する人には絶好の資料になる。弾き語りの映像ということもあり、単調になるのを避けるためか、カット割が多く入るが、その分演奏への集中が削がれるような気もする。音楽を楽しむためであれば、CDでもよいと思う。

[2012年6月10日追記]
彼の死後、2012年2月に発売されたアルバム「Sweet Sweet Music」は、本音源を1枚のCDに編集したもの。

[2020年11月追記]
2020年12月発売の「Best Of Live」は、本音源を2枚組のレコードにしたものです。


  
S34  Living In The Shadows Part One  (2017)   Earth
 

Bert Jansch : Vocal, Guitar,
John Renbourn: Guitar (13, 14)
Unknown : Violin (3)
Unknown : Bass (3)
Unknown : Drums (2, 3)

CD1
The Ornament Tree (1993 S24参照)

CD2
When The Circus Comes To The Town (1994 S26参照)

CD3
Toy Balloon (1998 S28参照)

CD4
Picking Up The Leaves (Demos, Outtakes & Unreleased)

1. Morning Brings Peace Of Mind (Alternate Version) * S26 S27 S33
2. Back Home (Demo) S26  
3. Just A Dream (Alternate Version) S26 S27
4. Untitled Instrumental *
5. When The Circus Comes To Town (Demo) S26 S36
6. No-One Around [Janie Romer] (Demo) S26 O32 
7. The Lilly Of The West [Trad.] (Demo) S27 S29 S33 S36 S36 P18
8. Fool's Mate (Demo)  S30 S35 S36
9. Paper Houses (Demo) S25 S28 S29 S36
10. Another Star  
11. Little Max  S29
12. Merry Priest
13. Untitled Instrumental II (Early Attempt With John Renbourn) *
14. Untitled Instrumental II (With John Renbourn) *

 

2017年1月、アース・レコードによるバート作品のリイシュー・プロジェクトのひとつとして、「The Ornament Tree」1993 S24、「When The Circus Comes To The Town」 1994 S26、「Toy Balloon」 1998年 S28 の既発アルバムに、「Picking Up The Leaves」と名付けられたデモ・別バージョン、未発表曲集を加えた4枚組CD またはLPで発売された。バートファンにはお馴染みコリン・ハーパー氏による解説が付いているが、各曲毎のデータの記載がないため、当時のバートの公式録音および、ジョン・レンボーンとの共演時期より、録音時期は1992年〜1998年頃と推定する。

1.「Morning Brings Peace Of Mind」は、別バージョンとあるが、ここでは歌なしのギター伴奏のみとなっている。ギタープレイについては、エンディングで少しとちっているため、公式発表の演奏と異なるテイクであることがわかる。そのアルペジオは初期の頃の魔術的なプレイではない。バートの演奏は年齢を重ねるにつれてリズムやピックングに微妙なずれが出てきているが、その傾向が如実にわかるトラックとなっている。と言っても上手い事には変わりなく、それなりに楽しめる出来。2.「Back Home」は、公式録音のバックボーカルとベースなしのギターとドラムスのみの伴奏。デモということで、バートはリラックスして歌っている。3. 「Just A Dream (Alternate Version)」は、公式録音と比較して、コーラスパートでのバックボーカルとバイオリンがないバージョンで、その他の演奏は同じと思われる。エンディングはバイオリンのソロがない分、早めにフェイドアウトする。4.「Untitled Instrumental」は、スコットランドのバグパイプ音楽のような小品。5.「When The Circus Comes To Town」は、リズムセクションなしの弾き語りで、公式録音とは大きく異なる雰囲気となっている。ギター伴奏がクリエイティブで、抑え目なボーカルながらも素晴らしい出来。6.「No-One Around」は、30秒あたりでいったん演奏を止め、やり直している。公式録音と異なり、ギターが右、ボーカルが左チャンネルにセットされている。

7.「The Lilly Of The West」は、ペンタングル1993年のアルバム「One The Road」P18、バートのソロでは、「Live At The 12 Bar」1996 S27が初出。「When The Circus Comes To The Town」 1994 S26 に入れるつもりだったアウトテイクだったと思われる。 8.「Fool's Mate」の公式録音は2000年の「Crimson Moon」S30で、ここではブリッジ部分もない弾き語りで、粗削りな原型となっている。9.「Paper Houses」は、「Acoustic Routes」1993 S25におけるジョン・レンボーンとのリハーサルから、1998年の「Toy Balloon」 S28の公式発表まで長い時間をかけて温めた作品で、ここでは間奏にバイオリンがソロをとるが誰だろう?

10.「Another Star」は多くの人にとって初めて聴く曲と思われるが、「When The Circus Comes To The Town」 1994 S26の日本盤にボーナストラックとして収録されていたもの。ただし、ここでは最初の50秒あたりで演奏を止めてやり直す部分も聴くことができる。11.「Little Max」は、2001年の「Dowmunder: Live In Australia」 S29 に収録されていたが、ここではベースとドラムスのバック付きながら、バートのギターおよびバックのリズムがかなり異なっていて面白い。12.「Merry Priest」は初めて聴く曲で、ギターおよびボーカルの録音が他の曲に比べて悪い。バートの歌は詩の内容が聞き取りにくく、何を言っているのか分からないのが難点。本アルバムは、歌詞および曲についてのクレジット(バックミュージシャンや録音日・場所など)の情報の記述がないのが残念だ。 最後の 13, 14は、ジョン・レンボーンとの共演。1992年二人は、ジャッキー・マクシーを加えた3人でコンサートツアーを行い、デュエット・アルバムを作る構想もあり、これらはリハーサルを録音したものと思われる。「Acoustic Routes」1993 S25における「First Light」と同じ頃のセッションと分類できるが、曲のできとしてはまあまあといったところで、いまひとつ印象が浅い感じ。共演盤の製作が立ち消えになったことがわかる。

2017年5月に続編「Living In The Shadows Part 2」が発売されるそうだ。

[2017年3月作成]


S35  On The Edge Of A Dream (2017)   Earth


 

Bert Jansch : Vocal, Guitar,
Johnny Mar : Guitar

CD1
Crimson Moon (2000 S30参照)

CD2
Edge Of A Dream (2002 S31参照)

CD3
The Black Swan (2006 S32参照)

CD4
The Setting Of The Sun (Demos, Outtakes & Unreleased)

1. Watch The Stars (Demo)  S32 S36 P3 P12
2. It Don't Bother Me (With Johnny Marr)  S3 S33 S36 S36 S36  
3. On The Edge Of A Dream (Demo)  S31 S36 O35
4. Walking This Road (Demo)  S31 S36 O35
5. My Pocket's Empty (Demo)  S32 S33 S36 O38
6. Cocaine (With Johnny Marr) *
7. Untitled *
8. Chambertin (With Gordon Giltrap)*  
9. Katie Cruel (Demo)* S32 S33
10. Fool's Mate (Demo) S30 S34 S36
11. The Quite Joy Of Botherhood (Demo)* S31

注: 8.は O33と同一録音

 

「Living In The Shadow」 2017 S34発売時に、「Part 2」の発売が予告されていたが、同年4月に発売された際には、「On The Edge Of A Dream」というタイトルになっていた。これも前作と同様、「Crimson Moon」 2000 S30、「Edge Of A Dream」 2002 S31、「The Black Swan」 2006 S32という既存アルバムに、「The Setting Of The Sun」というデモ・別バージョン、未発表曲集を加えた4枚組CD またはLPで発売された。本作ではMojo Magazineのデイブ・ヘンダーソン氏、バートの息子アダムとギタリストのバーナード・バトラーによる解説、エッセイが添えられている。ただし前作と同様、この手のアーカイヴものとして必要な録音時期などのデータが掲載されていないのは残念。

1.「Watch The Stars」はデモ録音であるが音質は良く、ギターに加えて、エフェクト処理されていないバートの声にエッジがあり生々しい。「Black Swan」の公式録音と異なる彼一人の弾き語りで、その分孤独感が前面に出ていて、私はこちらのほうが好きだ。2.「It Don't Bother Me」は、元ザ・スミスのギタリスト、ジョニー・マーとの共演。彼は「Crimson Moon」2000 S30の録音に参加したほか、2003年のBBCテレビの番組「The 60th Birthday Concert」(「その他音源・映像」参照)でもギターを弾いている。2.「It Don't Bother Me」は前述のテレビ番組でも二人で演奏していた曲で、本録音も同時期でないかと推定される。ジョニーは、テレビではエレキギターだったのに対し、ここではアコギを弾いている。デモ録音の 3.「On The Edge Of A Dream」は、バンドでの演奏だった「Edge Of A Dream」の録音に対し、弾き語りで歌っていて、この手の曲でも一人で十分に聴かせることができる力量を見せてくれる。4.「Walking This Road」はアルバムは伴奏付きで、シングル盤 O35のB面は弾き語りであったが、ここでの録音はシングル盤のものとは別録音のようだ。5.「My Pocket's Empty」の公式録音では、デヴェンドラ・バーンハートのバックがついていたが、ここでは弾き語り。6. 「Cocaine」はジョニー・マーとの二人によるインストルメンタルで、原曲の面影が感じられないほど崩した演奏になっている。 7.「Untitled」もギター2台によるインストルメンタルであるが、クレジットがなく誰が弾いているか不明。ゴードン・ギルトラップと共演した 8.「Chambertin」は、彼が2002年に発表したアルバム「Under The Blue Sky」O33に収録されているものと同録音だった。 9.「Katie Cruel」はデモというが、ギター演奏のみ。ベス・オートンとのデュエットとパーカッションが入った公式録音と比べると、ギター演奏は同じに聞こえるので、別演奏ではなく多重録音前のベイシック・トラックかもしれない。10.「Fool's Mate」は弾き語りによるデモ録音。公式録音のギターがエフェクトを効かせたサウンドだったのに対し、ここではピュアな音になっている。11.「The Quite Joy Of Botherhood」も 10. と同じくギター演奏のみで、録音時のベーシックトラックのように思えるが、歌なしでも十分味わい深い。

その後もアース・レコードから、2018年に同様の装丁による 「Man I'd Rather Be」 Part 1 (「Bert Jansch」1965 S2、「It Don't Bother Me」1965 S3、「Jack Orion」1966 S4、「Bert & John」 1966 T1 を収録)と、 Part 2(「Nicola」 1967 S5、 「Birthday Blues」 1969 S6、「Rosemary Lane」 1971 S7、「Moonshine」 1973 S8 を収録) が発売され、コリン・ハーパー氏の解説や未発表写真が掲載されたというが、デモ、アウトテイク等は掘り尽くされていたようで、未発表曲の収録はなかった(そのため本ディスコグラフィーの対象外にしてあります)。

リマスタリング等により音質が向上、またレコードという異なる媒体での発売ということ意義があるかもしれないが、アースレコードは、その後も既出の録音を使用して、異なるジャケット・デザイン、カラーレコードによる限定盤を繰り返し繰り返し発売している。喜ぶファンもいるかもしれないが、同じ音源を使って、しかも限定盤という餌で何度も釣ろうとするスタンスには疑問を感じますね。

[2021年11月作成]