P1 Bert And John (1966) Transatlantic Records  TRA144


P1 T1 Bert And John

Bert Jansch: Guitar, Vocal (4,10)
John Renbourn: Guitar

Bill Leader: Producer
Brian Shuel: Cover Photo,Design

[Side A]
1. East Wind [Jansch, Renbourn] *
2. Piano Tune [Renbourn] *    
3. Goodbye Pork Pie Hat [C. Mingus] *  P3 P20
4. Soho [Jansch]  P9
5. Tic-Tocative [Jansch, Renbourn] * S1 S36
6. Orlando [Jansch, Renbourn] * P9

[Side B]
7. Red's Favorite [Jansch, Renbourn] *
8. No Exit [Jansch, Renbourn] *  P3
9. Along The Way [Jansch, Renbourn] *
10. The Time Has Come [Ann Briggs]  S36 P3 P9 P13 P20
11. Stepping Stones [Jansch, Renbourn] *
12. After The Dance [Jansch, Renbourn] *

1966年9月発売



1960年代のギターデュオの名盤。バートとジョンが共同生活をしていたロンドンのセント・エドムンズ・テラスのアパートで録音されたもので、生活感が感じられる演奏となった。自宅録音のため部屋の空間と二人の息遣いが感じられ、とても生々しく自然な音作り。静かな所でじっと耳をすまして聴くと、屋外で鳴いている犬の声まで聞こえる。ほとんどの曲がジャム・セッションの産物であるかの様な印象を受け、短い曲が多いので両面26分ほどで終わってしまう。互いに相手を引き立て合う親密な雰囲気のなか、即興演奏の部分では緊張感が漂い、相手のアタックに即反応するラフなインタープレイはスリリングである。音楽面ではお得意のブルースを中心にジャズ、バロック等のジャンルに広がり、これらの音楽の融合が後のペンタングルの音楽に発展してゆく。バートとジョンが囲碁を楽しんでいるジャケット写真が面白い。ふたりの親密な雰囲気と東洋文化に対する興味がうかがえる。

1.「East Wind」はエキゾチックなフラメンコのようなバートの伴奏で、ジョンが豪快なリードをとる。バートのギターのタッチはとても力強くてリズムの歯切れも良く、躍動感にあふれた演奏。ジョンのリード・ギターはブルースのスケール(主にペンタトニック・スケールかな?)やジャズのモード音階を多用して、ピックを使わず指で弾いている。ジョンのリード・ギターのタッチはとても強く、弦が指板にバシバシ当たる音が聞こえる。2.「Piano Tune」はジョンお好みのジャズ・ブルースで彼のリードが断然押している。当時の二人のグルーヴィーなリズム感、そして彼らが使用していたギターのチープで乾いた響きは、今の世の中にはないものだ。3.「Goodbye Pork Pie Hat」は傑作。作者のチャーリー・ミンガスはモダン・ジャズの巨人の一人で、本職はベーシストであるが作曲者・クリエイターとしても反骨精神溢れる活動をした人。本曲は彼がテナーサックスの巨匠レスター・ヤング(ポークパイ・ハットは彼のあだ名)の死を悼んで作曲したリクイエムである。バートのユニゾンを多用したメロディックな伴奏とジョンのリードギターの緊張感あふれる絡みは、後のアコギによるジャズ演奏の手本となった素晴らしいもの。ちなみに1993年アレックス・ド・グラッシが「The World's Getting Loud」で、2001年にはラルフ・タウナーが「Anthem」で、同曲のソロ演奏に挑戦しているのでそれらも必聴。4.「Soho」はバートの歌入りで、パブ、ライブハウスが乱立するロンドンの歓楽街を描いたもの。5.「Tic-Tocative」はミディアム・テンポの歯切れ良いジャズ・ブルース。6.「Orlando」は中世音楽風の静かな曲。

7.「Red's Favorite」はブルースで、バートのギターが押しまくっている。8.「No Exit」は完全にペンタングル風の演奏(後年「Sweet Child」 P3のライブに収録)。バートのギターは、1973年当時の日本盤における久保田麻琴氏の解説の通り「きらめくようなアルペジオはこういう曲においては魔術のよう」である。9.「Along The Way」はバートお得意の変拍子の曲。2曲目の歌ものは10.「The Time Has Come」で、美人トラッドシンガー、アン・ブリッグスの作品。彼女はバートに大きな影響を与えた人で、「Go Your Way My Love」(1967年のバートのソロアルバム「Nicola」S5 に収録) 等を共作、その後一時期引退したが、後に「Acoustic Routes」1993 S25で再会、共演している。

単なる演奏面だけでなく、精神的でも非常に充実したこの作品はギター・ファン必携。本作は演奏時間があまりに短いため、何度が発売されたCDリイシュー盤には、他のレコードにおける2人のインストものをボーナストラックとして加えたものが多い。今のところ、アウトテイクが収められたものは出ていない。


 
 
P2 The Pentangle (1968) Transatlantic TRA162


P2 Pentangle

Bert Jansch: Vocal, Guitar
John Renbourn: Guitar
Jacqui McShee: Vocal
Danny Thompson: Bass
Terry Cox: Drums

A Shel Talmy Production,
Cover Design: Osiris(Visions) Ltd.

[Side A]
1. Let No Man Steal Your Thyme  P3 P9 P13 P20 P21 P21 O5
2. Bells * [Pentangle]  P3 P13 O5 
3. Hear My Call [Staple Singers]  P2 P3 P9 P13
4. Pentangling [Pentangle]  P10 P13 P20 P21  

[Side B]
5. Mirage [Pentangle]  P13 P20 S14
6. Way Behind The Sun  P2 P2 P3 
7. Bruton Town  S36 P2 P3 P9 P11 P13 P16 P19 P20 P21 P21 P21 P21 P22 P22
8. Waltz * [Pentangle]  P3

[Bonus Trucks from Sanctuary CD CMRCD131 2001]
9. Koan (Take 2) [Pentangle]  P10
10. The Wheel [Jansch]  S3 S36
11. Veronica [Jansch]  S2  
12. Bruton Town (Take 3)  S36 P2 P3 P9 P11 P13 P16 P19 P20 P21 P21 P21 P21 P22 P22
13. Hear My Call [Staple Singers]  P2 P3 P9 P13  
14. Way Behind The Sun  P2 P2 P3
15. Way Behind The Sun (Instrumental) *  P2 P2 P3


注)11.の曲名はCD盤では「Casbah」と表示されているが、混乱を避けるため、ここでは当初のタイトル「Veronica」とした。

  特記ない場合、トラディショナル

ペンタングルのデビュー作。バートにとって「Nicola」 1967 S5、ジョンにとっては「Another Monday」 1967 に続くレコード。「Pentangle」は造語で、「pentagram(星型5角形)」という言葉に「angle(角度、視点)」の語尾を合成したものと思われる。この星型5角形は昔から哲学者や魔術師によって神秘的図形とされており、タロット・カードにもこの図形のカードがある。ペンタングルは特定のリーダーがいないことが特徴で、同グループによるオリジナル曲は総て5人の共作としてクレジットされる等、メンバーは音楽的に対等とする姿勢もこの星型5角形のイメージにぴったりであった。

グループの実質的結成は1967年で、当時共同生活を営んでいたバートとジョンは、「Bert & John」 1966 P1の音楽をさらに押し進め当時のビートルズの「サージェント・ペッパーズ」に始まるサイケデリックとヒッピー・ムーブメントの流行を背景として、音楽に対する既存のジャンル分けを否定、トラッド、フォーク、ブルース、ジャズ、ロック、インド、中世というあらゆる音楽を融合させた新しい音楽を作ろうとしたのだろう。ジャッキーは既にジョンとデュオで演奏活動を始めており、彼のソロアルバム「Another Monday」 1967 にも参加していた。ダニーとテリーは当時のジャズ、ブルース・シーンで売れっ子のセッションマンで、アレクシス・コーナーのバンドの他、ハーモニカ奏者ダフィー・パワーのアルバムではジャズギタリストとして大成するジョン・マクラグリンと共演している。バートとジョンのダブル・ギターの他に、器楽的な声の持ち主で歌心のある実力派女性ボーカリスト、ブルースのみならずジャズもこなす強靭かつ柔軟なリズム・セクションがそろって、初めてあの独特な音楽が可能となった。さらにキーボードのない編成がストリング・バンド特有の透明感あふれる音をもたらし、それがバンドの個性になった。

このファースト・アルバムはシェル・タルミー(ザ・フーのプロデュサー)のプロデュースによる4チャンネル録音特有の生々しい録音である。デビュー盤ということもあり、各人の気迫がぐいぐいと伝わってきて、ジャズのインタープレイを聴いている様な迫力とスリルを味わうことができる。 1.「Let No Man Steal Your Thyme」の出だしは25年後の今日聴いてもなお衝撃的。「美しく優しいお嬢さんたち、気をつけなさい....あなたの庭を守りなさい。男達にタイム(じゃこう草)を摘まれないように....」という純潔を説くトラッドによるオープニングはいかにもストイックで、当時のサイケでフリー世間にはどう受け止められたのだろうか。ミディアム・テンポの演奏は快調で、ダニーがアルコ(弓弾き)奏法でシンセサイザーの様な重低音をだして効果を上げている。2.「Bells」はジャズ・ブルース調のインスト物で、ジョンの音楽性がかなり出ており、ギターのスタイルに如実に現れている。極めてジャズ的なドラムソロをはさんだ進行。3.「Hear My Call」はアメリカのゴスペル・グループ、ステイプル・シンガーの曲だが、4ビートの洗練されたアップテンポのアレンジには不思議な浮揚感がある。ダニーのよく動くベースが凄く、ジョンのリード・ギターもかっこいい。4.「Pentangling」のメロディーは当時のサイケデリック時代を感じさせるもの。歌はバートとジャッキーのデュエットで、途中ベースの独演が入り最後は曲想が変わる。

B面 5.「Mirage」はスローでストイックな歌詞とメロディーを持つラブソング。6.「Way Behind The Sun」は典型的なアメリカン・ブルースをアップテンポにし、ブラッシュによるドラムスとジャッキーのフルートのようなボーカルを乗せて個性的な出来上がり。7.「Bruton Town」は唯一の英国トラッドで、残酷な兄達に愛する恋人を殺された娘のバラード。同じ様な伝承がヨーロッパの各地にあるそうだ。私はこの曲を聴くと、以前観たことのあるピエロ・パゾリーニ監督のイタリア映画「デカメロン」のエピソードのひとつを鮮やかに思い出す。間奏におけるリズムセクションの緊張感とジョンのギターソロが娘の怒りや嘆きを見事に表現した。8.「Waltz」は極めてジャズ的なインスト。テーマはジョンの3枚目のソロアルバム「Another Monday」1967 に収録されていたものの再演。中盤のバートのブンブン唸るギターはバート1枚目のソロに収録のインスト曲「Casbah」のモチーフが応用されている。バートとジョンのギターの素晴らしさは言うまでもないが、特筆すべきはダニーとテリーのリズムセクションで、その切れ味と重量感は1968年という時代におけるロック音楽の水準の遥かに先を行っている。

[サンクチュアリによるリイシュー盤について]
2001年に発売されたCD再発盤は既存曲については音質が大幅に向上し、より一層生々しいサウンドが楽しめることに加えて、貴重なアウトテイクが7曲もボーナストラックとして追加収録された。9.の「Koan」はCDでは(Alternate Version)と表示されているが、未発表曲だ。極めてジャズ的な演奏だが、他のインストものに比べて若干ラフな感じがする。10.「The Wheel」は、バートのソロアルバム S2に収録されていたインストもので、ここではテリーのパーカッションと共演している。11.「Veronica」は今回のボーナストラックの超目玉だ。S2収録の傑作インスト曲をベースとドラムスをバックに、よりハードでソリッドな乗りで展開している。録音の良さもあって、ギターの切れ味の鋭さは比類のないものであり、全キャリアを通じ彼のギター演奏の最高傑作と断言できるものだ。12.はオリジナル版の7.ではバートとジャッキーが歌っているのに対し、ここではジャッキーひとりで歌っている。13.は3.とそれほど変わらないが、柔軟で変化に富むジョンのリードギターの別テイクが聞けるだけで満足だ。14.は 6.と比べて、ジョンのリードギターが自由気ままにプレイする他、ジャッキーのボーカルがワイルドだ。15.はインストメンタル・バージョンで、ジョンのボトルネック・ギターが活躍。サウンド的にはブルース・スタンダード曲の「Roll And Tumblin’」そのものだ。


P3  Sweet Child (1968) Transatlantic TRA178



P3 Sweet Child

Bert Jansch : Guitar, Vocal (1,5,12,13,14,26)
John Renbourn : Guitar, Vocal (3,8,18,29)
Jacqui McShee: Vocal
Danny Thompson: Bass
Terry Cox: Drums, Glockenspiel, Vocal (21)

A Shel Talmy Production
Damon Lyon-Shaw: Engineer
Peter Blake: Album Design


[Side A]
1. Market Song [Pentangle] P11 P20 P21
2. No More My Lord  P9 P20      
3. Turn Your Money Green [Furry Lewis]  P9 P13
4. Haitian Fight Song * [C. Mingus]  P3 P13
5. A Woman Like You [Jansch]  S6 S23 S27 S32 S36 S36 P11 P13
6. Goodbye Pork-Pie Hat * [C. Mingus] P1 P20 

[Side B]
7. Three Dances *
  a Bransle Gay [Claude Gervaise]  P9
  b La Rotta  P9
  c The Earl Of Salisbury [W. Bird]  P9
8. Watch The Stars  S32 S35 S36 S36 P12
9. So Early In The Spring   P16 P22
10. No Exit * [Jansch, Renbourn]  P1
11. The Time Has Come [Ann Briggs]  S36 P1 P9 P13 P20
12. Bruton Town  S36 P2 P2 P9 P11 P13 P16 P19 P20 P21 P21 P21 P21 P22 P22

[Side C]
13. Sweet Child [Pentangle]  P9 P10
14. I Loved A Lass  S36 P9
15. Three Part Thing * [Pentangle]
16. Sovay   S16 S19 P9 P21 P21 P21 O16
17. In Time * [Pentangle]  P3 P8 P20 O5

[Side D]
18. In Your Mind [Pentangle]  P9
19. I've Got A Feeling [Pentangle]  S10 S36 P8 P9 P11 P12 P20 P21 P21 P21 P21 P22 O27
20. The Trees They Do Grow High  S36 P3 P9 P17 P19 O27
21. Moon Dog [Cox]  P9 P11
22. Hole In The Coal * [Ewan MacColl]  P3

Side A & B: Recorded Live At The Royal Festival Hall, London June 29, 1968
Side C & D: Recorded At IBC Studios, London August, 1968


簡単な解説つき

[Bonus Truck for CD by Sanctuary Record Group 2001 CMDDD132]
23. Hear My Call [Staple Singers]  P2 P2 P9 P13
24. Let No Man Steal Your Thyme  P2 P9 P13 P20 P21 P21 O5
25. Bells * [Pentangle]  P2 P13 O5       
26. Travelling Song [Pentangle]  S30 P9 P13 O4 O5
27. Waltz * [Pentangle]  P2
28. Way Behind The Sun  P2 P2 P2
29. John Donne Song

30. Hole In The Coal (Alt. Version) [Ewan MacColl]  P3
31. The Trees They Do Grow High (Alt. Version)  S36  P3 P9 P17 P19 O27
32. Haitian Fight Song * (Studio Version) [C. Mingus]  P3 P13
33. In Time * (Alt. Version) [Pentangle]  P3 P8 P20 O5   

23.〜29.:Recorded Live At The Royal Festival Hall, London
30.〜33. :Recorded At IBC Studio, London August, 1968

3,4,7,8,9,20,21,29,32 はバート不参加


特記ない場合、トラディショナル


テリー・コックス「幸運なことに隣人は耳の不自由な人で....。」バート・ヤンシュ「この仕事はビールを飲むためにやっているのさ。」ジャッキー・マクシー「以前は妹と一緒に歌っていたけど、別れて男4人に替えたの。」ジョン・レンボーン「ビッグ・ビル・ブルーンジィの様に弾けるようになりたいと思って始めたんだ。そして今もそう頑張っているよ。」ダニー・トンプソン「私はファースト・グリーン・ジャケッツ・インファントリー・マーチング・バンドでリード・トロボーンを吹いていた。ダブル・ベースを始めてから、行進するのを止めたんだ。」ふたつ折りのレコード・ジャケットの中の見開きに書かれた各人のコメントと写真が、それぞれの個性を実によく表している。ペンタングル2枚目のアルバムはデビュー作と同じ年に2枚組で発売された。売れ行きは1枚目と同じくまあまあで、初めてのヒットは次作「Basket Of Light」 P4 になってからだった。

1枚目はロンドンのロイヤル・フェスティバル・ホールでのライブ録音。これはファースト・アルバム発売後、敏腕マネージャーのジョー・ラスティグにより企画された大掛かりな初期ツアーの頃で、観客の拍手の大きさから大盛況であったことがわかる。1968年という時代のため高性能のPAもなく、ピックアップも現在の様に進歩していなかった。そのためバートとジョンはエレキ・ギター或いはアコースティック・ギターにピックアップを付けて演奏しており、その音はエレキ・ギターに近い。ダニーとテリーのリズムセクションの巧さは当時のフォークロックの技術水準では驚異的で、彼らが当時いかにユニークな存在であったかが想像できる。

1.「Market Song」はグループ名を紹介するアナウンスと聴衆の拍手に続いて始まる。市場の様子を描いたもので、ダニーによる印象的なベースのイントロから始まり、バートとジャッキーの二重唱とリズムセクションの変拍子が活気あふれる喧騒を表現している。2.「No More My Lord」はアメリカの黒人労働歌で「Never Turn Back」としても知られる。ジョンのクールなブルース調のリード・ギターとテリーのティンパニの様なドラムスをバックに、ジャッキーが伸びのある声で厳粛に歌う。3.「Turn Your Money Green」はアメリカのブルース・シンガー、ファリー・ルイスの作品で、ジョン得意のアップテンポの手数の多いギターをバックにジャッキーとジョンが歌う。ペンタングル結成前のデュエットを組んでいた頃の雰囲気が想像できる1曲。

4.「Haitian Fight Song」はダニーのベース・ソロ曲(曲の一部でテリーが軽くリズムを刻む)。ジャズ・ベーシストのチャリー・ミンガスの曲でダニーの強靱なリズムとタッチの強い太い音が大迫力だ。次の5.「A Woman Like You」はバートのソロ作品「Birthday Blues」 1969 S6 にも収録されたが、このライブでは彼の独演。ホールのエコーによる自然な音の広がりがDチューニングのギターのドローン・サウンドを一層際立たせている。バートの緊張気味のボーカルがとても印象的。「ラブソングと黒魔術が一緒になった感じ」とコメントされているように、耽美的な美しさとエキゾチックな怪しさを持った曲。6.「Goodbye Pork Pie Hat」は「Bert & John」1966 P1での鮮烈な印象はなく非常にクールで落ちついた演奏。途中リズムセクションが加わると俄然ジャズ調の乗りとなる。

7.「Three Dances: Brensle Gay, La Rotta, The Earl Of Solisbury」はジョンによる14〜16世紀の中世ダンス曲の小品集。テリーがグロッケンスピエル(携帯鉄きん)で伴奏をつけている。これらの作品のスタジオ録音が収録されている彼の傑作ソロアルバム「Sir John Alot Of ..」 1968 (7.c)「The Lady And The Unicorn」 1970 (7.ab)は、ペンタングルとしてのグループ活動と並行して作られたことになる。当時の彼の創造力がいかに凄いものであったかわかる。8.「Watch The Stars」はジョンお気に入りのアメリカのクリスマスソング。ボーカルはジャッキーとの2重唱。9.「So Early In The Spring」はジャッキーの無伴奏ソロ。20年後のペンタングルによる同曲の伴奏付バージョン P16 と比較すると面白い。10.「No Exit」はバートとジョンのふたりだけの緊張感ある演奏。11.「The Time Has Come」は「Bert & John」1966 P1 と異なりジャッキーがボーカルを担当し、しなやかなリズムセクションが曲に彩りを添える。このライブ録音はデビューアルバム P2 に収録されていた12.「Bruton Town」で幕を閉じる。

本作2枚目のスタジオ盤は8チャンネルで録音されたため、4チャンネルのファースト・アルバムよりも厚みのある音になった。迫力ある1枚目と傑作である3枚目の間に挟まっていまひとつ印象が薄い気がするが、おいしい曲もしっかりあるぞ。13.「Sweet Child」はバートとジャッキーのデュエットによるモダンな印象の曲。ジョンのリード・ギターが見本の様に良い出来。14.「I Loved A Lass」は誰もが一度は耳にしたことがあるメロディーのスコットランド民謡。15.「Three-Part Thing」はバート、ジョン、ダニーによるインスト。最初はバロック調の対位法から始まり途中テンポを上げてジョンのダンス調のソロが入り最後はテーマに戻って終わる、3人の息がぴったり合った快演。16.「Sovay」は恋人の愛を試すために男装して恋人を襲い、愛の証の指輪を取り上げようとする勇ましい娘の話。ジャッキーが低めのキーで歌っている。17.「In Time」は少しハードなジャズワルツで、ここでもチョーキングやビブラートを多用したジョンのず太い音のリード・ギターは圧倒的。珍しくバートが弦をビシビシ言わせながらソロを取る。

18.「In Your Mind」はバートがメインを歌い、ジャッキーがハミング、ジョンがコーラスを歌う少しエキセントリックな雰囲気の曲。19.「I've Got A Feeling」は60年代初頭のマイルス・デイビスでも出てきそうな(実際のところ彼の「All Blues」のモチーフを借用している)クールなジャズ・ワルツ調のブルースで、ジャッキーの低めに抑えた伸びのある声が魅力的。20.「The Trees They Do Grow High」は印象的なメロディーと歌詞のトラッドで、政略結婚のため10歳も年下の少年と一緒になった娘が主人公。結婚当時14才の夫は16才で死んでしまい、彼女は生まれた息子に残りの人生をかける。ギターはジョン1本で演奏されていて、バートは参加していない。ちなみにジョンのソロアルバム「The Lady And The Unicorn」1970 で素晴らしいインスト・バージョンを聴くことができる。21.「Moon Dog」は、テリーコックスのパーカッションとボーカルだけの曲。ヒッピー風の容貌と特異な音楽性でカリスマ的な人気のあった盲目のジャズ・パーカッショニスト、ルイス・ハーディンに捧げたもので、途中のソロが聞き物。22.「Hole In My Coal」はイワン・マッコールの作品をインストにしたもの、バートとダニーのベースが奏でるリフに、テリーのパーカッションが絡み、ジョンがアドリブを展開、ダニーのベース単独ソロの後にテーマに戻る。ペンタングルのシリアスなインスト作品が収録されるのは本アルバムが最後となった。


[サンクチュアリー・レコーズからのリイシュー盤について]
1988年にドイツのレーベルから再発されたCD盤では、CD1枚に収めるため、6, 21, 22の3曲がカットされたが、その後全曲収録された完全盤が発売され、さらに2001年サンクテュアリから発売された2枚組には多くのボーナストラックが収録された。

まずは、オリジナル盤で1枚目を構成していたロイヤル・フェスティバル・ホールのライヴのアウトテイクが7曲(23.〜29.)も! これは昔からこのライブ盤を愛聴していたファンにとって生唾ごっくんの興奮ものだ。23.をはじめほとんどの曲が前作 P2に収録されていたもので、LPの場合は1枚両面で50分位が限度という収録時間の関係と、前作との重複を避けるためにカットされたもの。これらの曲でのダニーのベースの動きが独創的だ。バートが「これは警告の歌です」と言って始まる24.は、ジャッキーの決然とした歌声が心に響く。25. 27.はオリジナルのライブ盤には収録されていなかったアップテンポのジャズ・インストルメンタルで、レンボーンがエレキギターを使用しているため、サウンドはよりジャジーかつブルージー。バートのギターがフィーチャーされる部分や、ベース、ドラムソロなど緊密なインタープレイが楽しめる。 特にベースソロはP2のスタジオ録音よりもずっといい。26.はバートの紹介によると「酔っ払って車を運転するイメージ」だそうだ。シングルカットされオリジナルアルバム未収録だった曲で、CD化はO4、またはサンクチュアリーから発売されたベスト盤「Light Flight(Anthology)」で入手可能。28.はスタジオ盤よりも少しテンポを落としてじっくり演奏される。29.はジョンの弾き語りだ。当該ボーナストラックを追加するにあたり、LP盤において12.の終了後長々と入っていた拍手が短めにカットされ、23.へ自然につながるように修正された。なお2007年に発売されたペンタングルのボックスセットには、当該ライブ音源が収録されたが、ボックスセットでは曲数は同じものの、聴衆の拍手、バートやジョンによる曲の解説、チューニングノイズがカットされ、曲順も全く異なるものに並べ替えられた。詳細はP10を参照してください。本ボックスセットの発売、および2007年2月のラジオ番組 「BBC Radio2 Folk Awards」でのリユニオンなどをきっかけとして再評価の機運が高まり、2008年6月29日に同じ場所で、再結成ペンタングルによる40周年記念コンサートが開催され、さらに7〜8月に英国12都市でコンサートが行われた。そしてバートとジョンの死後 2016年にライブアルバム「Finale」 P20が発売された。

30.〜33.はスタジオ録音のアウトテイク。30.におけるジョンのリードギターソロは全く違っていて、ここではシタールのようなオリエンタルなスケールによるインプロヴィゼイションだ。このバージョンではダニーのベースソロはなく、2分30秒で終わってしまう(22は5分を超える演奏時間)。31.はオリジナルの20.とほぼ同じ内容だ。32はオリジナルではライブ盤に収録されていたダニーのベース・ソロのスタジオ録音版だ。テーマに続く部分テリーの部ラッシュ・ワークによるサポートがしばらく続き、ダニーひとりの演奏になるところが少し異なっている。33.もジャズ調のインストで、残されたペンタングル録音にはこの手の演奏が少なかったので大歓迎です。ちなみに30, 33の両方について、オリジナル版と異なり、リミックスの操作によりギターやベースのソロが左右のチャンネルを行ったり来たりしないので、より落ち着いて聞くことができる。


 
P4 Basket Of Light (1969) Transatlantic TRA205 
 



Bert Jansch: Vocal, Guitar, Banjo (9)
John Renbourn: Guitar, Sitar (2,9), Vocal
Jacqui McShee: Vocal
Danny Thompson: Bass
Terry Cox: Drums, Glockenspiel

A Shel Talmy Production
Damon Lyon-Shaw: Engineer
John Pantry: Engineer
Peter Smith: Photograph
Diogenic Attempts Ltd.: Album Design

[Side A]
1. Light Flight (Theme From 'Take Three Girls') [Pentangle]  P8 P8 P9 P11 P20 P21 P21 P21 P21 P22
2. Once I Had A Sweetheart  S7 P20
3. Springtime Promises [Pentangle]  P9
4. Lyke-Wake Dirge   P9
5. Train Song [Pentangle]  S1 S36 S36 P8 P9 P11P21 P21 P22

[Side B]
6. Hunting Song [Pentangle]  P8 P8 P12 P20
7. Sally Go Round The Roses [Sanders, Stevens]  P4 P4 P9 P10
8. The Cuckoo  P8
9. House Carpenter  P8 P9 P11 P20

[Bonus Trucks from Sanctuary CD 2001 CMRCD207]
10. Sally Go Round The Roses (Alternate Version)  P4 P4 P9 P10
11. Sally Go Round The Roses (Alternate Version)   P4 P4 P9 P10
(12. Cold Mountain)
(13. I Saw An Angel) 


注)12,13はシングルB面曲。本書ではO4に掲載したため、ここでは重複曲としてかっこ表示にした
  特記ない場合、トラディショナル

 

このアルバムのふたつ折りジャケットの中開きに「All the instruments played on this album are acoustic」と書かれていてるが、現代のアンプラグド・ブームを予感させるコメントは、当時のロックブームの中での彼らの自負みたいなものを感じる。これは文句なしの傑作だ。イギリス本国では1969年10月の発売後大ヒットし、ニュー・ミュージカル・エクスプレス誌の7位にランクされ、ニュージーランドでは何と1位になったそうだ。アルバムを聴いて感じるのは録音・ミキシングが良くなったことで、特に彼ら特有の弦を弾く音やシンバルの繊細な音が、透明感ある音場のなかでとても生々しくソリッドに捉えられている。演奏にかける意気込みも相当なもので、バンドの創造力がピークであったことは明らか。

1.「Light Flight」はBBCのテレビドラマ「Take Three Girls」 (「その他音源・映像」参照)のテーマとして作られた曲を改作したもので、シングル・リリースされた。変拍子によるアップテンポの曲でバートのギター・リフとリズムセクションが大活躍する。ダニーのウッドベースによる強靱なリズムとテリーの複雑かつ繊細なジャズ・ドラミングは、アコースティックでありながら極めてハードなドライブ感があり、このグループに唯一無比の特徴をもたらしたことがよくわかる。2.「Once I Had A Sweetheart」はおなじみのメロディーのアメリカン・トラッドでジョーン・バエズの歌でも有名。ここでもテリーの演奏は光っていて、アイリッシュ調のパーカッションとグロッケンシュピエルの音がこの曲に透明感と深みを与えている。なおここでは長調のメロディーだが、原曲のひとつであるイギリスのトラッド「As Sylvie Was Walking」のマイナー調のメロディー(バートのソロ作「Rosemary Lane」S7に収録)と比較すると面白い。3.「Springtime Promises」はバートのリードボーカルでダニーのベースの存在感はさすが。4.「Lyke-Wake Dirge」はテリー、ジャッキー、ジョンによるほとんどアカペラに近いスコットランド方言による宗教歌。歌詞に「キリスト」の名が出てくるが、キリスト教以前の原始宗教の歌がルーツで、死者にむけて歌われる通夜の曲である。死後に魂が生前の善行によって裁きをうける話で、ハリエニシダにさされたり火に焼かれる様は地獄のイメージである。5.「Train Song」はダークなラブソングで、1.と同様すさまじいリズムに乗ってバートが歌うとても印象的な曲。後年発掘されたS1で歌われているとおり、かなり昔からバートがレパートリーにしていたことが分かる。

6.「Hunting Song」はトラッド調の美しいメロディーで歌われる魔法の角をめぐる話。7.「Sally Go Round The Roses 」は鬼才フィル・スペクターがプロデュースしたジャイネッツというグループの曲で、60年代を感じさせる歌詞とメロディーと軽やかなリズムが印象的。ボーカルはジョンとジャッキーの掛け合い。ジョンのリードギターが聞き物。8.「The Cuckoo」はバートがサセックスの隣人の子供に習ったというトラッド。男に捨てられた娘の嘆きが切々と歌われる。最後はアメリカのトラッド9.「House Carpenter」で、原曲は悪魔に変装した恋人の話であるイギリスの「The Demon Lover」。大工の妻が男と駆け落ちをするが、乗った船が暴風雨に遭い船は沈没し女は死んでしまう。捨てた子供を思い苦しむ母親、死に直面した時の後悔と地獄行きを観念する女の心情がやるせない。なおこの曲はジョーン・バエズも歌っているし、ボブ・ディランの1964年録音の未発表テイクが「Bootleg Series」に収録された。演奏面ではジョンによるシタールの演奏が効果的で興味深い。

従来の作品と異なりインスト曲が全くないのに演奏面、特にリズム・セクションの存在感がはるかに強烈であることが面白く、グループとしての音楽的なまとまり、一体感、パワーという意味で当時の充実振りを物語っている。

[サンクチュアリー・レコーズからのリイシュー盤について]
2001年に発売されたリイシュー盤には、4曲のボーナストラックが収録された。うち12,13 の2曲は、当時発売されたシングル盤のB面で、オリジナルLPには未収録だったもの。いろんな会社がペンタングルのベスト盤を製作しているが、これらの曲が含まれたものはあまりなく、1992年にドイツのDemonが発売した「People On The Highway」が初出 (詳細はO4を参照ください)。その後2007年のボックスセット「The Come Has Come」 P10 に収められた。

私にとって目玉は7.の別テイクである10,11の2曲だ。この曲は速いテンポで演奏されるレンボーン主導の曲で、途中フィーチャーされる彼のリードギターが売り物の曲だ。このふたつの別テイクで彼のインプロヴィゼイションの妙をたっぷり楽しむことができる。


 
P5 Cruel Sister(1969) Transatlantic TRA228 
 

Bert Jansch: Vocal, Guitar, Recorder, Dulcimer (1), Concertina (3)
John Renbourn: Guitar, Sitar, Recorder, Vocal
Jacqui McShee: Vocal
Danny Thompson: Bass
Terry Cox: Drums, Tamborine, Vocal

Bill Leader: Producer
John Boys: Engineer

[Side A]
1. A Maid That's Deep In Love  P9 P20 
2. When I Was In My Prime  P19
3. Lord Franklin    P9   
4. Cruel Sister   P19 P20 P21

[Side B]
5. Jack Orion  S4

すべてトラディショナル
歌詞付き
2.はバート不参加

 

ジャケットの中世風の版画が厳粛な雰囲気を醸し出すうこの作品は、トラッド好きのファンにとっては、香り高く品のある最高の作品となるだろうし、よりモダンなサウンドを好む人は、リズム・セクションの動きが少なく、バートとジョンのギターも地味で見せ場がほとんどない単調な音作りと思うだろう。そういう意味で賛否両論の作品である。

以下1曲づつ解説してゆきたい。1.「A Maid That's Deep In Love」は恋する男を追うために男装して船員になった娘の話で、男と信じて「お前が女だったらなあ」とぼやく船長を尻目に、目的地に到着するとさっさと女装に着替えて陸に下りてしまい、その後恋に落ちた船長が残されるという話が、魅力的な語り口で展開される。ただしジョンのエレキギターのオブリガードを含む演奏はペンタングルとしては地味。控えめで品の良い演奏とも言えるかな。バートによる始めてのダルシマー演奏が興味深い。2.「When I Was In My Prime」は、「Sweet Child」 P3 の「So Early In The Spring」に続くジャッキーの無伴奏ソロ作品の2曲目。男の誘惑に心を乱され傷つく娘の話で、淡々として感情を押し殺した彼女のボーカルには品性を感じる。ジョンのボーカルによる 3.「Lord Franklin」は、ジョンのスリーフィンガーとエレキギターのオーバーダビング、バートのコンサーティーナ(ピアニカのような音)、ジャッキーのハミング・ボーカルをバックにジョンが訥々と歌い、素晴らしい出来。1975年頃オーク出版から発売された楽譜集「John Renbourn Songs For Guitar」における彼のコメントから。「『フランクリン婦人の嘆き』という名前でも知られるこの曲は、1845年にジョン・フランクリン卿によって行われた北極探検についての物語である。探検は北西航路を発見し成功を収めたが、彼と乗員はそのために命を落としたのである。」単なるフランクリン卿への思いだけでなく夢を追いかけた人間に対する畏敬と憧れが込められた佳曲で、その歌詞と印象的なメロディーは何度聴いても胸にしみるものがある。ジョンのボーカルも線が細いが味があっていい。ボブ・ディランは英国滞在中にこの曲のメロディーと歌詞をマーチン・キャシーから教わり、後に一部を借用して「Bob Dylan's Dream」という人生をやり直す夢を語る曲を作った(2枚目のアルバム「Freewheelin'」1963に収録)。

4.「Cruel Sister」は嫉妬のために妹を殺した残酷な姉の話で、妹の亡骸を見つけた吟遊詩人がその骨と髪で竪琴を作り、その竪琴が真実を語るという筋のバラッド。19番の歌詞のあい間毎に「草で箒を作りなさい…… ファラララララララララ」という囃子言葉が入る。これは踊り歌の形式でリーダーが歌い、周りの人々が囃すかたちの掛け合いを模したものだそうだ。聴いているうちに何時の間にか居住まいを正しているような曲だ。LPのB面全部を占める 5.「Jack Orion」の進行について。冒頭のフィドル弾きジャックの紹介はバートのソロ・ギターとボーカル。ダニーのベースが加わりテリーのハーモニー・ボーカル。次にジョンのエレキギターのオブリガードが加わり、ボーカルがジャッキーに交代する。最後にドラムが入って全員のコーラスとなり、娘がジャックと逢引きの約束をするあたりは大いに盛り上がる。娘とジャックに成りすました下男との逢引きの会話ではメロディーとリズムが変わる。その後男の仕業に気づいた娘が自殺するところで間奏となるが、ジャックの激しい悲しみと怒りがバートの執拗なギター・リフとジョンのエレキギターのソロで表現され、狂おしい感情の迸りがよく出ていて、本曲最大の山場だ。バートのソロアルバム・バージョンと異なり、ジャックは悪い下男の首をはねた後、自らの命を絶つところでお終いとなる。

本作が好きか否かは、リスナーの音楽志向によるものなので、作品の良し悪しの問題ではないようだ。是非自分で確かめてみてください。


 
P6 Reflection (1971) Transatlantic TRA240 
 

Bert Jansch: Vocal, Guitar, Banjo (1,5)
John Renbourn: Guitar, Sitar (5), Piano (5), Harmonica (3,8), Vocal
Jacqui McShee: Vocal
Danny Thompson: Bass
Terry Cox: Drums, Piano (7), Vocal

Bill Leader: Producer
Nic Kinsey: Engineer

[Side A]         
1. Wedding Dress  P20 O6
2. Omie Wise  S30 P11
3. Will The Circle Be Unbroken  P9 P11 P20 O6
4. When I Get Home [Pentangle]  S10 P11 P11  
5. Rain And Snow  P10 P11  

[Side B]
6. Helping Hand [Pentangle]         
7. So Clear [Pentangle]  P10 P11 P11 O6
8. Reflection  [Pentangle]  P18 P20 P20 O6

特記ない場合、トラディショナル

 

この時期のペンタングルのメンバーは度重なるコンサートやラジオ、テレビ出演に疲れ果て、メンバーの人間関係にひびが入りつつあった頃で、二日酔い、スタジオへの遅刻などが相次ぎ、プロデューサーのビル・リーダーはそのとりなしに相当苦労したらしい。ただしその緊張感が淡々とした雰囲気ながら、モダンな雰囲気に溢れ、それなりに良い作品を生み出した。ジャケットは中折りと合わせて計82枚に及ぶメンバーのスナップ写真がセンス良く配置されている。それらはコンサート、リハーサル、スタジオ風景や宣伝用スナップ等色々な表情のものがあり、数少ない彼らの写真が大量に入手できたことで有り難い贈り物であった。

トラッドの1.「Wedding Dress」はバートのバンジョーとダニーの弓弾きベースによる個性的なサウンド。ジャッキーのリードボーカルにテリーがハーモニーを付ける。2.「Omie Wise」はドック・ワトソンの1963年の初ソロ・アルバムのバージョンとほとんど同じ歌詞。ジョン・ルイスがオミー・ワイズを誘惑し殺してしまう殺人のバラッドで、トラッド独特の磨き上げられた語り口で事件の顛末を語っている。ボーカルはバート。3.「Will The Circle Be Unbroken」の邦題は「永遠の絆」で、カーター・ファミリーの名演でお馴染みのもの。愛する人を見送る葬送の歌で、死後の天上の世界に思いをはせるアメリカのトラッドの名曲。ここでは正攻法のアレンジであるが、アメリカ人の泥臭い演奏とは一風異なる透明感溢れる名演となった。ボーカルはジャッキーで、ジョンがハーモニーを付ける。4.「When I Get Home」はA面では唯一のペンタングルのオリジナルで、バートが酒びたりの生活を肯定的に描いたもの。ゆるやかで小気味良いリズムから急転直下激しく変化し、またもとに戻るというしなやかで柔軟なリズム隊が素晴らしい。ジョンのエレキ・ギターのオブリガードも渋くて最高。5.「Rain And Snow」は人生に疲れた男が「冷たい雨と雪の降る地に埋めてくれ」と訴えるトラッド曲で、バートのバンジョーとジョンのシタールのからみが面白い。この曲もジャッキーのボーカルにテリーのハーモニーが付く。本アルバムではテリーのハーモニー・ボーカルが大活躍する。珍しくピアノの音が聞こえるが、ジョンが演奏している。

B面は彼らのオリジナルで、当時流行した比較的抽象的で難解な歌詞。6.「Helping Hand」はテリーのリードボーカルで、ジャッキーがハーモニーを担当。しがらみや悩みを捨ててリラックスして愛する人と自由に生きようと諭す哲学的な歌。メロディーはジャズ的でリズムもモダンな感じ。7.「So Clear」はペンタングル作とあるが、ジョン中心の曲で彼のソングブックに収められた。アコースティック・ギターとエレキ・ギターのアンサンブルが印象的な静かな歌だが、ジョンのボーカルは内に炎を秘めており、うまいとはいえないがとても味わいがある。この曲ではエレキ、アコギいずれもジョンが弾いており、バートは不参加。 ピアノはテリーが弾いている。 8.「Reflection」は11分を超える大作で、プログレッシブ・ロック的な歌詞とサウンドで、テリー好みの曲。変拍子のクールなサウンドをバックにジャッキーが鏡面の様な声で歌う。ジョンによるブルース・ハープの伴奏が効果的。ダニーのベースはこの曲にプログレッシブなサウンドを与えることに大いに貢献している。最後のヴァースはまたもやテリーのハーモニー・ボーカルが加わる。

全体的にクールなサウンド。演奏面で興味深いのはジョンのリードギターで、本作はすべてエレキ・ギターによる演奏だが、抑制のきいた伴奏やソロは初期の頃のアコースティックによる豪胆なサウンドと比較すると対象的である。トラッドは正統的なアレンジ(ただし楽器はバンジョーやシタール等で工夫)である一方、オリジナルは思い切りモダンで歌詞も難解、めりはりのきいた面白い出来上がりとなった。当時流行のプログレッシヴ・ロック等の格調高い音楽を彼らなりに目指した個性的な意欲作。

本作は長らくCD化されなかったが、2004年サンクチュアリ・レコードから発売された。ただしCDのジャケットサイズで、オリジナル盤のようにたくさんの写真を配することは難しいためかジャケットデザインは、メンバーの写真による新しいものに差し替えられた。


P7 Solomon's Seal (1972) Reprise K44197 

 

Bert Jansch: Vocal, Guitar, Banjo (4,9), Dulcimer (6)
John Renbourn: Guitar, Sitar (3), Vocal, Recorder (3,4), Harmonica (9)
Jacqui McShee: Vocal
Danny Thompson: Bass
Terry Cox: Drums, Vocal

John Wood & Pentangle: Producer
John Wood : Engineer
Chris Ayliffe : Cover Design

[Side A]
1. Sally Free And Easy [Tawney]  S36 S36 P10 P19 P20 P21 P22 O27
2. The Cherry Tree Carol  P8
3. The Snows [Pentangle]  S36 P20 P22  
4. High Germany  P18
5. People On The Highway [Pentangle]  P8 P20 P21 P21 P22 O6

[Side B]
6. Willy O'Winsbury  P10 P18 P22 O6 O27
7. No Love Is Sorrow [Pentangle]  P8 P10 O6
8. Jump Baby Jump [Pentangle]  P8
9. Lady Of Carlisle  P8 P9

特記ない場合、トラディショナル

 

「ソロモンの封印:三角形の辺を互い違いに入り組ませた五角ないし六角の星型の印で神秘的で魔除けの力があるとされた。」初期ペンタングルの最後に相応しい神秘的なアルバム・タイトルである。表紙はその五角形・六角形の印のなかに収録曲のイメージが描かれたシンプルで品格のあるデザインである。この作品では初期の録音で感じられたメンバー間の濃密な一体感は感じられず、皆淡々と演奏しているように聞こえる。前作「Reflection」1971 P6での気負った姿勢はなく、ナチュラルな歌詞と音作りで深みがある。演奏は地味だが良い曲もあり、なかなかの出来と思う。リプリーズ・レコード(日本盤はワーナーパイオニア)は早々に廃盤になり、マスターテープが誤って廃棄(紛失?)されたため長らくCD化されなかったが、後にレンボーンの自宅でテープが発見され、2004年にSancutuaryよりめでたくCD化された。

1.「Sally Free And Easy」はシリル・トーニー作の娘に恋した船乗りの歌で、バートのリードボーカルとジャッキーのハミング。ダニーのベースが強力な効果を上げ、モダンなサウンドを生み出している。3.「The Snows」は「雪はじき溶ける、風がうたいはじめれば... 」という出だしの季節感溢れるトラッド調の歌詞をバートが歌う。ジョンのシタールの演奏がいい雰囲気。5.「People On The Highway」は印象的なメロディーと人生を感じさせる歌詞、完璧なアレンジと余裕のある演奏でペンタングルのオリジナル諸作品中で最高の出来のひとつとなった。7.「No Loves Is Sorrow」は典型的なバート・スタイルのストイックなラブソング。8.「Jump Baby Jump」はギリシャ神話のイカルスの飛翔を連想させる歌詞で、独特の浮遊感のある佳曲。これら3つのオリジナル曲はバートとジャッキーのデュエットで、とても味のあるボーカルである。

次はトラッド曲にかんする解説。2.「The Cherry Tree Carol」は、レンボーンの楽譜集では「Joseph And Mary」というタイトルで紹介されている。そこからの引用。「これは『Joseph And Mary 』という伝承のキャロルの曲と、『The Cherry Tree 』キャロルのふたつの異なるバージョンの歌詞を合わせたもの。ヨセフとマリアの会話はベツレヘムへの旅の途中のもので、15世紀の宗教劇『奇跡の誕生と助産婦』に記録された。」サクランボの木をめぐって腹中のイエスが起こした奇跡についての歌。4.「High Germany」は悲惨な敗戦とそれに翻弄される女達の嘆きの歌。「高地ドイツ」とは南ドイツのこと。

6.「Willy O'Winsbury」は王様の娘と結ばれた若者が、貴族にして領土を与えようとする王の誘いを振り切って、「女を純白の馬に乗せ自分は灰色の馬に跨がり、彼女を長い夏の日の大地を駆け抜ける自由な貴婦人にした」というバラッド。歌詞とメロディーの美しさと爽やかなアレンジのために、日頃の束縛から開放されたカタルシスを感じる素晴らしい出来上がり。最後の曲 9.「Lady Of Carlisle」はジョーン・バエズも歌っていたアメリカのトラッドで、カーライルに住んでいた貴婦人が中尉と船長の二人から求愛を受けたが、真実の愛を確かめるためにライオンの穴に扇を投げ入れて、取り戻した人に総てを捧げると言う。中尉は「愛のために自分の命を賭けることはしない」と断ったが、船長は勇敢にも穴に入り無事に扇を取り戻して貴婦人の愛を獲得する。なんか教訓めいた寓話のようなお話である。ここではジャッキーを中心にジョンとテリーがボーカルを担当している。ジョンのハーモニカがブルースの味を出して、なかなかうまいのに驚かされる。

全体的な印象では、オリジナルはバートの音楽性が中心で、トラッドではレンボーンがリーダーシップをとっているようだ。ともあれこの二人が組んだ最後の作品となった。


 
P8  Live At The BBC (1995) Windsong BIJCD013 
 



Bert Jansch : Vocal, Guitar
John Renbourn: Guitar
Jacqui McShee: Vocal
Danny Thompson: Bass
Terry Cox: Drums, Percussion, Vocal
             
[(Probably) Top Gear Recorded  69/8/17]
1. Cuckoo Song   P4
2. Hunting Song [Pentangle]  P4 P8 P12 P20
3. Light Flight [Pentangle]  P4 P8 P9 P11 P20 P21 P21 P21 P21 P22
[Sound Of The Seventies  72/6/19]
4. People On The Highway [Pentangle]  P7 P20 P21 P21 P22 O6
5. No Love Is Sorrow [Pentangle] P7 P10 O6
6. Cherry Tree Carol  P7
7. Jump Baby Jump [Pentangle]  P7
8. Lady Of Carlisle [Trad.]   P7 P9
[Pentangle On Concert `Sing The Pentangle' BBC TV  70/6/20] 
9. Train Song [Pentangle]  S1 S36 S36 P4 P9 P11 P21 P21P22
10. Hunting Song [Pentangle]  P4 P8 P12 P20
11. Light Flight [Pentangle]  P4 P8 P9 P11 P20 P21 P21 P21 P21 P22
12. In Time  [Pentangle]  P3 P3 P20 O5
13. House Carpenter   P4 P9 P11 P20
14. I've Got A Feeling [Pentangle]  S10 S36 P3 P9 P11 P12 P20 P21 P21 P21 P21 P22 O27


特記ない場合、トラディショナル

写真上: オリジナル・ジャケットデザイン
写真下: リイシュー盤・ジャケットデザイン

 

当時のBBC放送音源のCD化は、ビートルズの公式盤の発売によってピークを迎えたようだ。 BBCもので個人的にもっとも愛着を感じる音源は、60年代末〜70年代初の録音で、その後日本でも何度かFM放送されたジェームス・テイラーとジョニ・ミッチェルの初期ジョイント・コンサートである。1993年にバートの「BBC Radio 1 Live In Concert」 S19 が発売されたとき、よっしゃ!今度はペンタングルのも出るかもしれないぞ。とつぶやいて待つこと2年、長くした首がのびきった感の95年秋、レコードコレクター誌で本作の広告をみて、それは興奮しまして、あわてて異なる店から2枚も買ってしまいましたね。

本作は3つのセッションから成り、うちふたつが「Basket Of Light」 1969 P4 の頃、ひとつが「Solomon's Seal」1972 P7 のころの録音。既発売のライブが「Sweet Child」P3 における1968年の初期の録音であることを考えると、ペンタングルのファンにとっては正に国宝クラスの発掘だった。

1969年8月17日録音とある1.〜3.は聴衆なしのスタジオ・ライブ。当CD全体について言えることだが録音の良さは驚異的で、このセッションではテリーの繊細なドラムスと迫力あるダニーのベースはもちろん、バートとジョンのアコースティック・ギターの音が自然にかつ生々しく収録されている。そして適度かつ自然なリバーブがサウンドを包み、特にジャッキーのボーカルには浮揚感がある。「Basket Of Light」 P4 のレパートリーをライブで聴くのは初めてで、レコードにおけるあの緊張感あふれる演奏はどうなるのか大いに楽しみであったのだが、彼らの生演奏の水準の高さに全く驚いてしまった。あの「Sweet Child」P3 でのライブをはるかに超える内容で、1969年という時代にこの様な演奏が展開されていたとはちょっと信じ難い。特にテリーとダニーのリズムセクションの強さ。ひとつの楽器からの音ではないかと思うほどベースとドラムのタイミングがぴったりと合っており、当時のロックの常識を超えている。それにバート、ジョンの跳ねる様なフィンガーピッキングによるアルベジオ、ブルース調のリフが絡み合って、おおきなうねりを生み出している。それに乗ってジャッキーのボーカルが舞うのである。まさにライブ録音ならではの音楽が生み出す至福の一瞬がここにはある。1.「Cuckoo Song」、2. 「Hunting Song」のテリーによるグロッケン(鉄琴の一種)のピュアな響き、3. 「Light Flight」のジャッキーのメインボーカルとテリーのスキャットボーカルの新鮮な響きがとても印象的。

72年 6月19日録音の4.〜8.はうって変わって解散前の頃の演奏。ここでのスタジオライブは、ナチュラルな音作りでエコーも控えめ。5曲全てが「Solomon's Seal」P7 の収録曲で後述の「Captured Live」O6 と同様、異様に淡々としたクールな雰囲気が漂っている。リズムセクションの動きも少なく歌声も少し疲れ気味ではあるが、音の密度は相変わらず高く、奥深さを感じるこの演奏の方を評価する人もいるだろう。4.「People On The Highway」、5.「No Love Is Sorrow」、7.「Jump Baby Jump」がバートお好みのモダンサウンド(曲、アレンジ、演奏ともに最高!)、6.「Cherry Tree Carol」、8.「Lady Of Carlisle」がジョン主導のトラッド。

最後の9.〜14.は70年6月20日録音の聴衆を前にしたBBCテレビ番組でのライブで、やはり熱気の様なものを感じる。特に9.「Train Song」では、もともとスタジオ録音でも驚異であった演奏が、このライブにおいて、より一層の迫力で再現されており奇跡的。12. 「In Time」 は「Rare Performances」 V8で収録された映像と全く同じ演奏。当初に、「ということは、他の5曲についても、BBCの倉庫のなかにビデオテープが眠っているということだ!!! ペンタングルの映像は極めて少ないので、いつか将来正式発売されることを願いたい」と書きましたが、2006年になってこれらの映像を観ることができました。詳細は「その他音源・映像」の部をご参照ください。

その後2004年に発売された「The Lost Broadcasts」 P9 で現存するラジオ放送音源が網羅され、上記の曲も重複して収録されたが収録時間のためか、6.とテレビ放送音源の9.〜14.はP9には収録されていない。


 
P9  The Lost Broadcasts 1968-1972 (2004) HUX049  


 

[CD 1] 
Bert Jansch: Vocal (3,5,8,14,15,16,19,21), Guitar,
Jacqui McShee: Vocal
John Renbourn: Vocal (2,15,18,20), Guitar
Terry Cox: Drums, Percussion
Danny Thompson: Bass
        
[(Probaby) Country Meets Folk  68/12/7]
1. Hear My Call [Staple Singers] ▲  P2 P2 P3 P13
[Top Gear  68/1/29]
2. Turn Your Money Green [Fury Lewis] ▲#   P3 P13
3. Travelling Song [Pentangle]▲   S30 P3 P13 O4 O5
4. Let No Man Steal Your Thyme▲   P2 P3 P19 P20 P21 P21 O5
5. Soho [Jansch] ▲   S36 P1
[Top Gear  68/7/2]
6. No More My Load ▲   P3 P20
7. Every Night When The Sun Goes In [McShee, Renbourn] ▲# P12
8. I Am Lonely [Jasch] ▲   S1 S6 S18 P9 P11
9. Forty-Eight  [Cox, Renbourn] ▲# *
10. Orlando [Jansch, Renbourn]  ▲ *   P1
11. Three Dances ▲# *   
   Bransle Gay [Gervaise]  P3
   La Rotta  P3
   The Earle Of Salisbury [Byrd]  P3
[(Probaby) Country Meets Folk  68/8/7]
12. The Time Has Come [Briggs] ▲   S36 P1 P3 P13 P20
[Top Gear  68/9/23]
13. I've Got A Feeling [Pentangle] ▲  S10 S36 P3 P8 P11 P12 P20 P21 P21 P21 P21 P22 O27
14. Sweet Child [Pentangle] ▲   P3 P10 P21  
15. In Your Mind [Pentangle]  P3
16. I Loved A Lass   S36 P3
17. Sovay   S16 S19 P3 P21 P21 O16
[Top Gear  69/5/12]
18. Sally Go Round The Roses [Sanders, Stevens]   P4 P4 P4 P18
19. Bruton Town   S36 P2 P2 P3 P11 P13 P16 P19 P20 P21 P21 P21 P21 P22 P22
[Radio 1 Club  69/6/19]
20. Cold Mountain #   O4
21 I Am Lonely [Jansch]   S1 S6 S18 P9 P11
[(Probably) Top Gear Recorded  69/8/17]
(22 The Cuckoo)
(23 Light Flight)

注)#はバート不参加、▲はラジオのエアーチェック
22, 23はP8と同一録音のため、重複曲として括弧書きとした。

[CD 2]         
Bert Jansch: Vocal (5,6,10), Guitar, Banjo (3), Dulcimer (13)
Jacqui McShee: Vocal
John Renbourn: Vocal (7,8,15), Guitar, Sitar (3)
Terry Cox: Drums, Percussion, Vocal (4,9,13)
Danny Thompson: Bass

[(Probably) Top Gear Recorded  69/8/17]
(1. Hunting Song)
[Pentangle's Own Series Recorded  69/12]
2. Moondog (Cox) ▲   P3 P11 
  
3. House Carpenter ▲   P4 P8 P11 P20
4. Name Of The Game [Pentangle] ▲
5. Train Song [Pentangle] ▲  S1 S36 S36 P4 P8 P11P21 P21 P22
6. Springtime Promises [Pentangle] ▲   P4
7. Coutnry Blues ▲#  S25
8. The Trees They Do Grow High▲#  P3 P3 P17 P19 O27
9. Lyke Wake Dirge ▲#  P4     
10. Reynardine ▲   S7 S33 P16 P19
[(Probably) Network Session  70/2]
11. Light Flight [Pentangle]  P4 P8 P8 P11 P20 P21 P21 P21 P21 P22
[Folk On One 70/3/9]
12. A Maid That's Deep In Love  P5 P20
13. Will The Circle Be Unbroken ?   P6 P11 P11 P20 O6
[Sound Of The Seventies  71/11/5]
14. Lord Franklin #   P5
15. Lady Of Carlisle   P7 P8
[Sound Of The Seventies  72/6/19]
(16. People On The Highway)   
(17. No Love Is Sorrow)
(18. Jump Baby Jump)
(19. Cherry Tree Carol)

注)#はバート不参加、▲はラジオのエアーチェック
1, 16, 17, 18, 19は P8と同一録音のため、重複曲として括弧表示とした。

赤字は本作のみでしか聞けない曲(2.はP3にもあるが、まったく異なるバージョン)
特記ない場合、トラディショナル

 

35年ぶりにBBC放送録音が発掘された。CD2枚組に全42曲たっぷり収録されているが、曲目一覧にあるとおり、うち6曲は95年発売の P8と重複している。本作は今回新たに発見された放送録音と、デイブ・ムーアというファンによるラジオのエアー・チェックからなる。後者は当然音質が悪く、ひと昔の海賊版のようなサウンドだが、録音されたテープの保存状態は良かったようで、CD化に際して音質の改善がなされたこともあり、ラジオ放送を聞いているんだと割り切ればそれなりに聞ける。ということで入門者には不適と思うが、未発表曲やレコードと異なるアレンジの演奏もありファンにはたまらない贈り物。

[CD 1] 
1〜4, 6, 11, 12 ,19は初期のレパートリーで、別のライブ録音をP3で聴くことができるが、ここでは二人のギター、特にジョンのリードギターがギブソンJ-50による生音で録音されている。ラジオからのエアーチェックなので、音に奥行きがなく平面的なサウンドだが、ベースを含む各楽器の音はしっかり聞こえるし、テープの傷みによる回転ムラも感じない。5.「Soho」はジョンとバート二人による演奏で、共演盤 P1のライブバージョンとして聞き物だ。7.「Every Night When The Sun Goes In」は 2.と同じタイプの、ジョンとジャッキーによるブルース曲のデュエットでバートは非参加。一方 21.「I Am Lonely」はバートのソロで、S6で発表されたメロディーのきれいな曲。典型的なバートのスリーフィンガー・サウンドが楽しめる。9.「Forty-Eight」、11.「Three Dances」はジョンのソロアルバムからのインスト曲で、バートはP1がオリジナルの10.「Orlando」でジョンと共演する。解説によると、6.〜11.が録音された1968年7月2日はダニーが手を怪我してベースが弾けなかったために、このようないつもとは異なるソロ、デュエットによる選曲になったそうだ。道理で6.「No More My Load」を聞いて何か違うなあと思ったのは、ベースの音が入っていないからだった。

13.〜17.はP3ではスタジオ録音で収録されていたもので、ライブでの演奏は珍しい。13.「I've Got A Feeling」はジャズワルツの好アレンジで、ダニーのベースのソロが大活躍する。いつもはフルートのように高く囀るジャッキーが時たま見せる低い声もいいもんだ。14.「Sweet Child」はジョンのリードギター・オブリガードいっぱいのお得曲。これらのトラックは、68年9月放送の「Top Gear」からの演奏だが、何故か15.「In Your Mind」から音が俄然良くなる。ジョンのリードギターのアタックが生々しく響く。アップテンポの18.「Sally Go Round The Roses」はこのバンドの抜群の演奏能力を示すものだ。リズム感の切れ味が当時の演奏水準を超えている。ジョンのリードギターのソロもスタジオ録音のものと異なり、さすがだ。20.「Cold Mountain」はシングルのB面のみで発表されたため知名度が低い曲で、ジョン主導の軽めの演奏。続く22. 23.とCD2の 1.については、P8と重複曲のため、説明を省略します。

[CD 2] 
2.〜10.は、1969年12月に放送された4つのパートからなるペンタングル特集番組からで、珍しい曲が多い。2.「Moondog」はオリジナルのP3ではテリー・コックスのボーカルとパーカッションによるソロだったが、何と!ここではジャッキーのボーカルによるバンド・アレンジなのだ。3.「House Carpenter」ではバートのバンジョーとジョンのシタールのライブ演奏が楽しめる。4.「Name Of The Game」は映画「Tam Lin」のサウンドトラック P21 として作曲されたが、映画の中で聴けるのはほんの僅かで、今まで未発表曲としてファンの間で語り草になっていたという幻の曲で、本作の目玉のひとつ。曲中に少し雑音が入るが貴重な曲なので許しちゃう!P6の表題曲や「Helping Hand」に似たテリー好みのモダンな曲で、ジャッキーのボーカルにテリーがハーモニーを付けている。6.「Springtime Promises」、9.「Lyke Wake Dirge」はP4でスタジオ録音されたライブとしては珍しい曲で、スタジオ録音より少しテンポを落としたリラックスした演奏。ジョンのバンジョー風ギターが鮮やかな7.「Coutnry Blues」や、ジョンお好みのトラッド8.「The Trees They Do Grow High」や宗教音楽風の9.はバート不参加と思われる。10.「Reynardine」はS7に収録されたバートの弾き語りの傑作で、貴重なライブ演奏だ。

11.「Light Flight」から70年の録音でペンタングル後期にあたる。この曲から録音がよくなる。トラッドの12.「A Maid That's Deep In Love」ではバートがダルシマーを弾く。アタックの強いジョンのリードギターが聞きものだ。13.「Will The Circle Be Unbroken ?」 でもジョンのギターは素晴らしい。途中から聞こえるハーモニカはいったい誰が吹いているのだろう? 14.「Lord Franklin」のライブが良い音質で聴けるなんて、幸せだな〜。あっとここはバートのディスコグラフィーだったけ。15.「Lady Of Carlisle」はP8の同曲と混同しかねないが、放送日も演奏も別だった。バートのバンジョーとジャッキーのボーカルのみで始まり、途中からベースとドラムスが加わる。ジョンのギターは僅かしか聞き取れない。一方P8のバージョンでは、左チャンネルのバンジョーに対し、右チャンネルのレンボーンのギターがフルに聞こえる。最も異なるのは、ダニーのベースで、本作のバージョンでは、指弾きであるのに対し、P8ではダニーのベースが全編弓弾き(アルコ奏法)で、その重低音が曲に異なる色合いを付加している。

コリン・ハーパー氏によるお馴染みの詳細な解説、グループのショット、ペンタングルおよびバートやジョンがセッションで出演した1968年2月から1973年7月までのラジオ放送の一覧リストが掲載されており、その良心的な態度には感心する。