KYLE

 SDの世界と出会ったのは、つい最近のことだ。
 もっと早く出会っていれば、と何度もそう思った。

 きっかけは、本屋さんで雑誌「ドリードリー」を手に取った時のこと。
 そこに、掲載されていた南条君とアナイスは、私の目を釘付けにしてくれた。

 「きれいな人形。」

 はっきり言って、人形は顔が命だ。自分好みの顔をした人形なんて、滅多に会えるものではない。だから、本屋さんの立ち読みでも、しっかり心に残った。
 けれども同時に、その人形の値段にも驚いた。気軽に買えるような金額ではなかったもんね。昔、デュエル(だったっけ?)という人形があって、それもその時はけっこう高いなあ、と思った(そう思いつつ、うちにいるデュエル。)ものだが、SDの値段は、ちょっとした市松人形や雛人形が買える値段だ。自分にとっては、一桁違っていないかと思うような値段だった。
 それでもインターネットで「スーパードルフィー」を検索する気になったのは、やっぱり人形が好きだったからだろう。

 都市部に住んでいたのなら、店へもすぐに行けるだろうし、イヴェントにも参加できる。けれども、いくら県庁所在地とはいえ田舎では、石を投げればパチンコが趣味という人に当たっても、人形好きの人など滅多に当たることはない。少なくとも私の周囲はそうだ。
 だから、クリック一つでたくさんの情報が得られるネットは、田舎在住者には大変ありがたいツール。28番君や29番君、ルカクリにお教室君、とすぐにある程度の事情通になれてしまう。
 おかげで、うちから一番近いのは、広島の天すみ、と出たね。

 それから一週間後、私は広島へ。(早い?早いよね、やっぱり。)

 こんなことでもなければ、広島なんて、この先何年も足を踏み入れることもなかったかもしれない。なにしろ、一番近いとは言っても、うちから広島へ出かけるには車で四時間かかるのだ!往復で八時間だよ。慣れない土地なので、駐車場一つ見つけるのだって大変。こちら側にもSR、作って欲しいよ。

 すでに頭の中では、28番系、29番系との出会いができあがっていた私。
 ルカクリ系とセシル。どちらも好き。最初は、控えめに一体買ってみようか、という気持ちが、たった一週間で両方欲しいぞ、に変わっていた。(そのうち、それどころじゃなくなっていったけどね。ほんと、あと一体ならなんとか買える、に変化してしまうSD道の恐ろしさ。「天使のすみか」という店の名が、本当は「悪魔のすみか」じゃないのか、と思える今日この頃。苦々々。)

 店のぐるりはショーウインドーをかねた仕切りで囲まれていて、中の様子が簡単にうかがえないようになっていた。ショーウインドーには、黒いコートを着て、長い金髪、赤い目のルカがいた。

「ルカがいる。」

 初めて見るルカに感動する私。他にはどんな子がいるのかと思って、中へ入っていくと、真ん中にワンオフの入った大きなウインドーがあって、そこに、遠夜、眠り目の子、セシルなどがいた。全部で八体ぐらいのワンオフがいたのかな?そのうち、予約になっていたのが二、三体だったか。
 お店の中をぐるりと一回りして、私はもう、ルカとセシルの両方を連れて帰る気でいた。ところが…。

 ルカは、売り物ではなかった。

 これにはやられたよ。一発ガーンときた。
 お店に何度も来ているような人なら、すぐにわかっただろうが、SD知って一週間の私には、ウインドーに飾られていて、なおかつプライスカードまでつけられている人形をなぜ売ってもらえないのか、事情がその時飲み込めなかった。(しっかり非売品マークをつけといてほしかった。)要するに、そのルカは、お店の展示品だったわけ。
 それではセシルのほうは、どうなのか?
 ルカでガツンと一発くらった私は、今度は恐る恐るセシルのことを尋ねた。

 セシルは即日お持ち帰りOKだった。

 どうやら先月ぶんのワンオフ君だったのに、誰もお迎えする人がおらず、売れ残っていたらしい。都会のほうじゃ絶対ありえんことだよ。私にとっては、まさに残り物には福がある状態。
 その時のカイルの格好は、赤毛に王子服のような、チロルの山奥でヨーデル歌っているような、よくわからん格好だった。しかも、かつらをわざと斜めにつけられ、片目がかくれるようにしてあった。まさに鬼太郎状態。デフォ服は、最初の二日くらいですぐに私の手作り服に取り替えられた。(服を作った人、すまん)

 あとになって、ワンオフとの出会いが、本当に運命の出会いがなければ会えないものらしいことがわかってきて、自分の最初のSDがカイルだったのも、何かの縁だったのだなあ、と思うようになった。
 だが、おかげでルカ系への執着もしっかりここで培われたのも確かだった。

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