カイルの受難

 懺悔です。

 ようするに馬鹿みたいな失敗談。なんでこんなことになってしまったのか。
 ううっ。私がうっかり八兵衛なのが悪いのね。

 ふっ、人間なんて、間違える生き物さ。そうやって失敗を重ねて、成長していくのさ。(本当か?)そうは思っても、こんな馬鹿なうっかりをする人、私だけかも。
 私としては、カイルによかれと思ってはじめたことなのだが…。まさかこんなことになるとは…。
 ま、まあ、これを読んだ人は、こんなうっかりをしないに違いない。(読まなくてもしないか。)おばかな失敗談を読んで、教訓にしとくれ。
 これは、私のついうっかり洗礼を受けてしまった、カイルの受難の記録である。

 ことが起こったのは、寒い一月の、時折小雪の舞う日であった。

 私は、里のメイク教室を受けるつもりにしていたので、カイルを京都まで連れて行くつもりだった。だが、あそこは天使教の総本山。オーナー自慢の凝りに凝ったドレスを着せられたSDたちが、集まる場所ではないか。
 しかし、かねてより人形だけでもいっぱいいっぱいの私に、人間様用よりも高額のディーラー様制作服を買えるはずもない。せいいっぱいチマチマと作った服を着せてやるぐらいが関の山。里でエステなどしてやれるはずもない。

 自分で出来ることは自分でやる。貧乏人は、マメでないとね。

 そこで私は、カイルに自宅エステ&コーティングをしてやることにしたのだった。
 ちょうどその前に、珊瑚(ミュウ)のエステを終わらせていた私。いわばカイルをいじる前に、ミュウちゃんを実験台にしたようなもの。(すまない珊瑚。)
 ならば経験者ではないか。かわいいカイル君が黄変するのはいやだったので、UVコートを用意。その前から手の指のあたりとかが気になっていた私は、カイルをばらばらにした。そいでもって、段差を削り、やすりがけをした。
 そこまではよかった。多少、自分の手がくたびれたほかは、「問題ない。」

 さてお次は、コーティングであった。塗料の匂いを部屋の中にさせたくなかった私は、ベランダで作業をすることにした。天気は、どんより曇り空。下に新聞紙をしき、パーツをつるせるように針金を用意し、準備はOK。早速、作業にとりかかった。
 コーティング初挑戦だったため、どのていどかけるものなのかは、やってみないとわからない。そのため、なるべく目立たないようなところからはじめることにした。そして、実際、調子は良かった。良すぎるくらいだ。楽勝、楽勝。時折、小雪がちらつきはじめたが、気になるほどではなかったため、さっさと終わらせてしまいたい私は、作業を続行。またたくまに、ボディのパーツへのコーティングを終えた。
 最後は、ヘッド。

 ここまで読めば、だいたい予測がついたと思う。そのとおり。

 ヘッド、落としました。

 下には、新聞紙。コーティング剤をかけたばかりなので、顔に黒い色がつくのは当たり前。
 なんで、なんで、よりによって顔に!

 あわてた私。その動転具合も半端じゃなかった。

 水、かけました。

 水かけてから、さらに泡くった…。

 ヘッドが、白い。しかも、模様付き。

 落ち着いて考えれば、そのまま乾かして、汚くなったところをまたペーパーで削ればよかったのだった。でも、あんまりにもパニクってたもんで、とんでもないことになってしまったわけ。馬鹿だねえ。馬鹿です。

 カイルは、MAYURAさんメイクのワンオフ君。そのまま里帰りさせてデフォルト状態に直してもらうとすれば、確かそれだけで四万くらいかかるはず…。そんなの、無理。限定君なら、もっと安くメイクしてもらえるが、ワンオフにキャプテンメイクを頼めるはずもなく、私に残された道は、あと二つ。自分でメイクをやり直す、もしくは、できる限りきれいになるように自分で直すしかない。

 カイルをすっぴんに?

 そこまで度胸、ない。
 その前に珊瑚のメイクをしていて、自分の腕のほどはわかっていたし、ワンオフ君をすっぴん状態にするなど、そんな勇気は、無い。腕はない、エアブラシもない、のないないずくし。
 それでは、自分で出来うる限りのことをするしかない。というわけで、うすめ液やスポンジなど、あるもので白くなったところをとってやることとなったわけ。もう、泣きそうでしたよ。本当。
 それでも、一生懸命やっていたら、ある程度直せたので、ほっとした。このままどうなっちゃうのかと思ってたから。

 よい子はコーティングのあとに、水をかけてはいけない。(教訓)

 さて、そんなこんなで、自分ひとりであたふたと大騒ぎをやらかしていたわけだが、さらに問題は、あった。
 コーティング経験者なら、文の初めのほうで、すぐにわかったことと思う。
 わかった人は偉いね。

 正解は、天気がよくなかった。

 あとになって知ったことだが、天気が悪いとコーティングは白っぽくなるらしい。実際、そのとおり。
 カイルは、全体的に白くなった。まあこれは、たいしたことではなかった。それ以上の事件を起こしていたので。
 ボディーのコーティングなど、あとでいくらでも直せばいいことさ。カイルは色白君。問題ない。
 だいたい、私の住んでいるあたりで、冬にすっきり快晴、なんて日は一日もないからね。東京みたいに、朝からおもいっきり布団干してもOKてとこじゃないから。日本海側の気候は、いつもどどーんと曇り空。太宰の性格が悪いのも、日本海側の気候のせいだよ。(またいいかげんなことを。)一日のうちをだいたいがどんより灰色の曇り空がおおい、時々、薄日が差す。と思ったら空から雪が…。なんて調子で、天候の話だけを聞いていると、まるでイギリスみたいだが、おかげで人格形成にはこの上ない影響を及ぼしてくれる。(と自分では思っている。)

 なにはともあれ、コーティングは晴れた日に。(教訓)

 てことは、春までおあずけだね。その間、カイルは美白君もどき。ま、それはいいさ。

 

 それからしばらくして、カイルはさらに洗礼を受けた。

 前に直しをしたわけだが、それでもやはり、まだ白いところが残っていたわけだ。おまけに、目のまわりもコーティングのせいで色あいが薄くなっている。上から白い膜をかぶせたような状態だからな。
 前に直しをして、けっこう直せたものだから、私は気をよくしていた。直しの経験者、それが自分。(それがいかんのだ。)
 私は、綿棒に薄め液をふくませ、目のまわりをさらにふき取ることにした。そして案の定、やってしまった。

 薄め液でメイクが落ちるのは、当たり前。(教訓)

 はい、案の定です。おかげで、目じりにちょいちょい、と細工をせねばならなかった。よく見ると、左右、色が違うのがわかる。よく見なくても、わかるか。おまけに、おでこの白い段差をとるためにペーパーかけたせいで、てかってます。それでなくても顔がでかくておでこが広めなのに…。

 これは、そのうち本格的にすっぴんからメイクせねばならない運命にあったと見たね。(誰のせいだ!)

 その前に、修行せねば。そうとう修行せねばなるまい。

 本当に、すまん、カイル。不憫な子ほど可愛い、とは、この子のためにある言葉だった。

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