時をかける少女


ご注意!!
あったかもしれない未来、というコンセプトで打っています。
「そんなの許せない!」と思われる方はブラウザバックでお願いします。






「・・・おい、真琴!これ、一体なんなんだよ!?」

一面の銀世界を前に、千昭が目を丸くして声をあげた。

「はあ?何って、雪に決まってんじゃん。いっくら温暖化ってたって、雪見たことくらいあるでしょ!」
「雪!これが雪か!?つーか、めちゃくちゃさみぃんだけど!!」
「千昭ぃ、あんたいったいどこの国から転校して来たのよ?」
「なんでこんなさみいんだよ!?だいたいここ、日本なのか!?」
「おいおい・・・"国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。"・・・って現国でやっただろ!」
「あぁ!?知らねーよ、そんなの」
「知ってる!あれでしょ、芥川なんとか・・・」
「川端康成だろ!お前ら、授業中に寝てばっかいるんじゃねーよ!」

功介があたしと千昭の頭をぐしゃっと撫でて「どうしようもねえ奴ら」って笑った。




The world of the snow





「しっかし、俺、こんなことしてていいのか?模試あったってのに・・・」
「功介?もう言わないんじゃなかった?」
「そーだよ、今しか経験できねーことなんだろ?楽しもうぜ」
「せんせー宜しく」
「インストラクター!頼むぜ!」
「・・・金取るぞ」

模試があった功介に頼み込んで、3人で日帰りボードをしに来た。
クラスの男子がボードの話をしていて、あたしが見てた雑誌を千昭が不思議そうに覗き込んでいた。
『これ、どうなってるんだ?』
ゲレンデを写したその雑誌を見て、『俺、雪見たことがない』って言った。
あれ、マジだったんだ!?

「おい、これ、手に落ちるとすぐなくなるぞ!すげえ、本当なんだな。」

まるで幼稚園児のように雪にはしゃぐ千昭は、だけどすぐに「つめてぇ!」って大声上げて震えてる。

「お子ちゃまだなあ」
「おい、お子ちゃまにお子ちゃまって言われたくねーよ」
「お前らさ、レンタルだろ?準備出来次第、ゴンドラの前集合でいいか?」
「うん」

一式持ってる功介と違って、あたしと千昭はウェアーとかボード一式をレンタルしなくちゃいけなくて、二人で並んでウェアを選んだり靴の大きさを合わせたりした。
お店のおねーさんが、あたしと千昭があれこれ選ぶのを「仲いいんだね」ってくすくす笑う。

「なんか可愛いなあ。ね、二人高校生?付き合ってどれくらい?」
「え!?あー4月からだから・・・10ヶ月にはまだなんないよな」
「いっ!?」
「今が一番楽しい時だねぇ」
「ちょっ、おねーさん、あたしら付き合ってないし!」
「なんだよ、真琴、照れんなよ!冗談だろ、何トマトになってんだよ!」
「うるさいっ!」
「え、違うの?てっきり付き合ってるのかと思った」
「誰がこんな奴と!」
「こんな色気ねーやつお断り!」

店員さんが「勘違いしたお詫びにペア割引してあげるから」とくすくす笑ってる。
千昭が「おねーさんありがとう!」と明るい声を上げている。
ふん!だ。
「真琴、払っておくぞ」って千昭の声を無視して、あたしはさっさと借りたウェアを掴んでロッカールームに向かった。


色気なくて悪かったね!
頭の中で千昭に言い返してみる。
なんでこんな悔しい気持ちになるんだろ?



「真琴、どうだ?」
椅子に座ってスキー靴よりは幾分楽な靴を履き終えると、背後から声をかけられて振り返った。
ボードを片手に妙に様になってる千昭に、思わずドキッとしてしまう。

「結構、イケテるよな?」
「・・・どこが?」
「なんか俺、超うまそうじゃねえ?」
「それで転んでばっかだと引くよね」

立ち上がったあたしがボードを掴むと、くくくって千昭が笑い声を堪えてる。

「何!?」
「いや、なんか、うん、まあ」
「何、それ?」
「真琴、小学生みてー」
「ムカー!」

さっきドキっとした自分の頬を引っ叩いてやりたい。
あたしがぎろりと睨みつけて歩き出すと「なんだよ!?」とまだ笑いながら、あたしの後ろを追いかけて来る。

「怒ってんの?」
「怒ってません」
「褒め言葉なのに」
「どこが!?」
「あー・・・・」
「・・・?何!?」

本当に千昭国語力0だと思う。
あの会話で褒められたと思う人間がいるかっての!

見えてきたゴンドラ乗り場には、一足早く準備を終えて待っていた功介が「おい、こっち!」と手を振ってる。
「おー!」とあたしも手をあげて答えると、背後から千昭の小さな声が聞こえた。

「・・から、可愛いって言ってんだよ」
「へ?」

振り返ると、真っ赤な顔をした千昭。

「ななななななに!?」
「うぉっ・・・聞こえたのかよっ」
「千昭、今、なんて・・・?」
「なんでもねーよっ」
「お前ら、二人でなに真っ赤になってんだよ!?」

不意打ちだったあたしは、グローブで口元を隠した千昭を見上げてしまう。
千昭はちらりと功介を見て「なんでもねーよ」とあたしを追い越した。
「ほら、置いてくぞ」
功介の声に、あたしは慌てて二人を追いかける。
キャップから見える千昭の耳はまだ赤くて、あたしは胸の奥がなんだかムズムズする気がした。


なんなの!
なんなの!
なんなの〜!?


ムズムズとドキドキで頭の中が混乱するあたしは「真琴!そのまま帰るのか!?」という功介の声に慌ててゴンドラから降りた。
「ぼーっとしてんなよ!」
鈍くせーと笑う千昭の声に「う、うるさい」とどもりながら、ボードを抱えてゲレンデに降り立った。

「おーーーーー真っ白!!」
「雪質いいな。」

功介に教えてもらいながら、恐る恐るボードに片足を乗せたあたしは、空を見上げたまま言葉の出ない様子の千昭を見た。

「・・・マジで雪初めて?」
「ああ、初めて。」

駅と一体型のこのスキー場には温泉もある。

「もしかして、温泉も?初めて」
「お湯が湧き出てるんだっけ?すげえ楽しみ!」

はしゃぐ千昭を見ていると、なんだかあんまりにも可愛くて、思わず噴出してしまった。

「小学生はどっちよ?」

そう呟いたあたしの前で、千昭は雪が舞い落ちる空を見上げ続ける。
両手を広げて。

「・・・すげえな・・・」

そう呟いた千昭が、真っ白な雪の中に消えていくような気がして。

「千昭?」

あたしは慌てて、千昭に向かって手を伸ばした。
千昭が急に、居なくなりそうで。

「え!?わっ!ぎゃーーーーーーー!」
「真琴!?」

気がついたら、あたしはボード毎滑り出していて。

て、ちょっと、待って!
あたし!

「どーやって止まるのっ!?」

ボードどころか

「真琴、お前滑れんの〜?」

スキーだってやったことないのに!

そんな千昭の声に、あたしは「止めて〜!」と大声で助けを求める。
経験者は功介だけ。

「真琴、転べ!」

唯一の頼みの綱の功介の声に、あたしは泣きながら「無理ーーーー!」と叫んだ。



「真琴、お前怖いもの知らず」
「なあ、雪だるまってコレのこと?」


呆れたような功介の声と好奇心いっぱいの千昭の声が聞こえて、ああ、あたし助かったんだって思った。







2008,1,23





千昭の世界では、もちろん雪はないだろうなあ・・・と。
あっても見たことないかな?とか。
ただ3人でドタバタしてる感じになってしまいました。
千昭x真琴要素もなく・・・すみません(笑)
リクエストありがとうございました!




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