柔らかな曲線





「このぬるぬるうなぎっ!」
ソフィーの声が城中に響くと、マイケルとカルシファーはこそこそ忍び足で逃げ出すんだ。
「呆れちゃうよ。僕がいつ、うなぎになったのさ?僕はれっきとした王室付き魔法使いなんだけど?あんたが望んだ通りのね!」
僕は僕の周りが硬質な空気で包まれていくのを息苦しく思いながら、あんたから目を逸らす。

この手の喧嘩は、3回に一度は、目を逸らすだけでソフィーも鼻を鳴らして終わりにしてくれるんだけど。

「あたしが望んだ?いつ望んだかしら?あんたが何をしてようが、あたしには関係ないことよ」
腕を組んで、横を向く彼女はどうやらまだ続けたいみたいだ。
ますます空気が硬くなる。

はああ。苦しいんだよね。
僕はこんなのは嫌いなんですよ。

大体何が原因かもわかりゃしない。
癇癪持ちのこの娘さんは始終怒ってばっかりだからさ。

「ソフィー、もう終わりにしようよ。はいはい、僕が悪かったよ」
何に怒ってるのかわかんなくなるってのは、多分僕にとってはどうでもいいことだろう。こだわる必要もないこと。
そう、例えば、風呂の棚の包みが増えたとか、がらくた山に物が増えたとか。
「何よ!その気のない返事!あんたのその性格どうにかならないのっ?」

ますます怒らせてしまったみたい。
もう限界。
苦しいよ、僕をそんなに追い詰めて高山病にしちゃうつもり?

酸素が薄くて死んじゃいそう。

「この性格じゃなきゃ、あんたに会えなかったんだけど。」
ぽつりと僕が呟くと、あんた、真っ赤になっちゃって。

ほら、あんたのその身体に纏う空気が和らいでく。
その柔らかな曲線に沿って。
僕にとって、この世で一番オイシイ空気に変わるんだ。
その空気はまるでふんわかケーキのスポンジのように。
まあるく。まあるく。
僕をたまらなく幸せにする。

イヤになっちゃうくらい。
あんたを抱きしめたくなっちゃうんだよね。

僕がたまらず抱きしめると、あんたはまた怒鳴り声をあげた。
「〜!!だからっ!さっきから、何度抱きついてくるのよ!」

あらら。原因はコレだったの?
だけどね、ソフィー。仕方ないだろう?

「僕にとって、あんたは大事な生命維持装置なんだから。」
抱きしめてないと、酸素が吸えないでしょ。
腕にすっぽりと治まる、その小さな体の柔らかな曲線に沿ってキスを落とす。

ソフィーが発するこの空気が、僕を狂わせちゃうんだよ。

だからこのまま。

柔らかな酸素を僕に送り込んでいて。







end