Vanilla
「ねえ、ハウル?それなあに?」
ハウルが紙袋から見慣れない小さな容器を取り出し作業台に並べるのを 取り込んだ洗濯物を両手に抱えながらソフィーは不思議そうに眺める。
うん?と嬉しそうに顔をあげ、ハウルが可愛らしく笑顔を向ける。
その笑顔は初夏の風ようにソフィーの胸をざわつかせ、目を惹きつける。
思わず見とれるソフィーに気がつき、ハウルは微笑んで洗濯物をソフィーの腕から受け取ると素早く頬に口付ける。
「ハウ・・・!」
思わず照れ隠しから睨みつけるが、にっこりと笑うハウルにソフィーは頬を染め言葉を失う。
「アイスクリーム。溶けちゃうから食べて?」
ハウルはそのまま暖炉前に洗濯物を運んで行くと、そのまま肘掛け椅子の上に放り投げる。
「皺になっちゃうじゃない!」
思わず抗議の声をあげると、ハウルは不思議そうに答える。
「だあれも気にしないよ。それに皺なんて魔法ですぐに伸ばせちゃうんだからね?」
「せっかくキレイに乾いたのよ?魔法を使わなくたって、気持ちよく過ごせるのよ?」
ソフィーは憤慨して鼻をならす。
そんなソフィーにハウルはむっとしたように表情を崩すが、頭を振って腕を組む。
「あんたの気持ちはわかったけどさ、ソフィーそれ早く食べないとどろどろのねばねばになっちゃうんだよね。」
ハウルの言葉に、ソフィーはびくりとしてその容器を見つめて後ずさる。
「やだ、あんた、こんなとこに・・・ねばねばを詰め込んだわけ!?」
そんなソフィーの反応に、ハウルはにやりと口端を上げると、先程まで言い争った洗濯物に向かって指を一振りする。洗濯物はまるでつむじ風にあったようにその場でくるくると舞いぱたぱたと自ら畳まれていく。
ソフィーはというと、小さな容器に慄き真っ青になって壁際に貼りついて、キレイに畳まれた洗濯物に気がつかない。
「何よ!?それを食べろですっって?」
信じられない!と声をあげて、容器とスプーンを片手に近寄るハウルにソフィーは両手をまっすぐに伸ばし、イヤイヤと頭を振る。
ハウルは意地悪く微笑むと、容器の蓋を開けてスプーンを突き立てる。
「さあ、ソフィー。味見して?」
「ハウル!?・・・どういこと!?何でそんなもの・・・」
恐怖のあまり瞳を見開くソフィーに、ハウルはやれやれと肩をすくめ自分の口にアイスを入れる。もう一口、とスプーンを口に運ぶと、ソフィーは慌ててハウルの腕を掴んで止めようとする。
ハウルはそのまま容器を持ったほうの腕でソフィーの腰を絡めとり、素早く唇を奪うと舌先でソフィーの口内に冷たく甘いものを押し込む。
「んんんん!!!!」
ハウルはそのまま嬉しそうに口付けを楽しみ、溶けたバニラの香りがソフィーを包む。ハウルはようやく唇を離すと、驚いているソフィーにスプーンに載せたアイスを頬ばらせる。柔らかな食感の冷たいそれは、口の中で甘さが広がり、雪のように溶ける。
「ね?おいしいだろう?」
そう満足気に囁くハウルに、ソフィーは真っ赤になりながら悔しそうに鼻をならす。ハウルは何食わぬ顔でアイスを食べながら椅子に座る。
「嘘をついたわね!」
「とんでもないね!あんたが勝手に勘違いしたんだ。」
まあ、その勘違いのお陰で、キスできたんだけど。
「とにかく、たまにはゆっくり休んで僕の話を聞いて欲しいもんだね!さあソフィー、溶けちゃう前にどうぞ?それとも、やっぱり口移しがいい?」
にやり、と笑うハウルを睨みつけ、ソフィーはアイスの容器を受け取り
「どろどろはお断り!」
と大きな声をあげた。
end