有効期限





肌にダイレクトな人の温もりを感じて、ソフィーは驚いて瞳を開けた。
そして、目の前に胸板があるのに思わず舌打ちした。
自分がその胸の中で安心して眠っていたことに頬を染め、次いで自分も何も身につけていないことに思い当たって、頭の先から爪先まで真っ赤になるような恥ずかしさを感じて、ベットカバーを手繰り寄せた。

この男は!!

ソフィーは「うーん」と小さく伸びをして、その淡いグリーンの瞳が開きかけていることに慌ててベットから降り、床に放り投げられた服をかき集めた。

「おはよう、奥さん。こんな早くからもう掃除かい?」

くすくすと面白そうに背中から声がかかり、ソフィーは悔しそうに振り返るとかき集めた服で胸元を覆い、きっと睨みつけた。
ハウルはやばい!という顔で、何事か慌てて呟き「夜まで!」と付け加える。
同時にソフィーが城中に響き渡るような大きな声で叫んだ。

「あたしに半径2ヤード近づかないで!」

肩で息をするソフィーは、今や髪の色より真っ赤に染まっている。
すぐにでもキスをしたいハウルにとって、ソフィーの言葉は冗談にしてもとても聞き入れるわけにはいかない。

「何言ってるの!?それじゃあ、おはようのキスもできないじゃないか!」

ハウルはベットカバーを剥ぐように起き上がると、後ずさるソフィーに手を伸ばした。

「きゃああああああああああ!馬鹿!馬鹿!こっちにこないで!なんか着なさいよ!!」
「今更何を恥ずかしがってるのさ?ぼくたちはもう身体の隅々まで━━・・・」

真っ赤になり顔を逸らし片手でハウルを遮ろうとするソフィーの反応に、笑いを堪えながら近づくハウルが伸ばした指にばちっと静電気に似た衝撃が走った。

「イタっ!」

驚いて指を引いたハウルは、まじまじとソフィーを見つめ、再度ゆっくりとその愛しい身体に指を伸ばす。
ばちっ!
激しい衝撃が体中に走り、ハウルは真っ青になって声を張り上げる。

「ソフィー!」
あんたやっぱり呪いをかけたね!?

ソフィーは顔をあげ、瞳に涙を湛えてハウルを見て唇を噛み締めた。

「もうイヤって・・・・何度も言ったのに・・・・!あんたなんて大っ嫌いよ・・・・!もうあたしに近づかないで!」
「ソフィーあんなに喜んでっ」
「うるさいっ!あたしに2ヤード以上近づかないで!」

ハウルの言葉を遮りソフィーは悔しそうに睨み付けると、持っていた服をハウルの顔目掛けて投げつけた。
今すぐにでも指先でなぞりたいような滑らかなラインの背中をハウルに向けて、ソフィーはクローゼットを開けて最初に掴んだ灰色のワンピースを頭から被った。

「ソフィー!」
「あんたのいうことなんて、聞かないんだからねっ!」

いーーっだ!と舌を突き出し、髪をなびかせながらドアを閉めたソフィーに、ハウルはベットに座り込み片手で顔を覆って・・・笑い出した。

「・・・ほんとっ可愛いんだから。ぼくの奥さんは!」

でも、困ったね。2ヤードの呪いはぼくには拷問だ。
ハウルは温もりの残るベットに倒れこむと、瞳に静かな火を灯し口元に妖艶な笑みを浮かべて呟いた。

「呪いの効力は・・・夜まで。」

ソフィーが呪いをかける一瞬前。
ハウルは反対魔法を発動させた。

ソフィーの呪いの効力は「夜まで」。

「焦らしたぶん・・・ソフィーには覚悟願おう。」

ベットカバーを引き上げて、ハウルは瞳を閉じた。

「今朝はたっぷり眠れそう!ソフィーはぼくのベットカバーを引き剥がせないしね!」
2ヤードの呪いもこんな時にはいいかもね!この呪いの有効期限をめいっぱい楽しもうかな!





end








マイケルは起こしにくると思いますよ。ハウルさん。