おやすみなさい。
静かな空気が城を包む夜半過ぎ。
体温が重なるベットの中で。
しなやかな指先があたしの髪を優しく梳く。
何度も何度も。
おかしいわね、あたしの髪はひどいくせっ毛でブラシで梳くのもやっとなのに。
さらさら、さらさら。
あたしが眠りにつくその瞬間まで、何度も何度も。
ただの一度も絡まらず。
優しく流れるその指先に、きっと呪いが掛けてあるんだわ。
おやすみ、いとしいひと。
その想いが心地よく、あたしの髪を通りぬける。
くすぐったくて、温かくて。
体中の力が抜けていく。
まるでそうしなければ、あたしが眠らないとでも思っているかのように。
それは儀式に似てる。
一日の終わりに、言葉で紡がれない世界で一番優しい告白。
あしたもぼくだけを愛してね。
まどろむあたしの耳元で囁いて、あんたは髪に口付ける。
口を開くのももどかしいほど、あたしは夢の世界に足を踏み入れて。
「ん・・・」
伸ばした指先に触れたあんたの髪を握り締めるのが精一杯。
くすっと笑みを零して、あんたの気配が甘く甘く変化する。
そして、また静かにゆっくりと指先が髪を梳く。
頭皮に伝わるあんたの指先が、どんなに心地よいかあんたは知ってるのかしら?
あんたのことだから、計算づくかしら?
満ち足りた眠りに誘われ、あたしはあんたの腕の中で、幸せな夢を見る。
今日よりも明日。
今よりもっと愛しいあんたが、あたしを抱いて眠る朝まで。
おやすみ、いとしいひと。
おやすみなさい、いとしい旦那さま。
end