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「カルシファー、今日は花屋を休みたいってマイケルに伝えてくれる?」
まだ日が昇り始めたばかりの城の中で、ソフィーは暖炉で眠るカルシファーに話し掛ける。カルシファーはのろのろと瞳をほんの少し開けると怪訝そうにパチッと火の粉を散らす。
「なんだよ?珍しいじゃないか?ソフィー。」
言葉とは裏腹に興味なさそうな火の悪魔に薪をくべ、ソフィーは憤慨した表情をますます曇らせる。寝ぼけ眼で眺めていたカルシファーは、ようやくソフィーがかなり怒っていることがわかる。唇を噛み締め、あかがね色の髪が本当に燃え盛って見えるほどソフィーの表情は険しかった。
「どうしたんだよ!?またケンカでもしたのか!?」
昨夜城の外で星たちと語らっていたカルシファーは、夜中になにがあったのかあれこれ考えてみるが、思い当たることばかりで絞りきれずソフィーの反応を待つ。苦々しげに眉をしかめると、ソフィーは鼻をならし、ふいっと横を向く。
「とにかく、マイケルに伝えてね!」
そう言うとくるりと背を向け、流しに向かって歩き出す。ぶつぶつ呟きながらも、手際よく野菜を刻み鍋に放りこんでいく。
「あんたがいるんだから、自分で伝えろよ!」
ソフィーの元に漂ってきながら、カルシファーは顔を覗き込む。
乱雑なナイフさばきで鍋をいっぱいにすると、水を加えてずいっとカルシファーに突き出す。
「今から居なくなるの!さ、これを煮込んでちょうだい!そして起きてきたマイケルに温かいスープを飲ませてあげて!」
ソフィーの勢いに負けたカルシファーは鍋に追い立てられるように暖炉に戻る。
「で、あんたはいったいいつ戻るつもりなんだ?」
カルシファーの上に鍋が載せられソフィーは調味料を加えると、再びふん!と鼻をならす。
「知るもんですか!あの臆病で不正直な魔法使いがあたしの話をわかってくれるまでは帰ってこないわ!」
ソフィーの瞳にきらりと輝くものが見えるが、火の悪魔は気がつかないフリをする。この気の強いお嬢さんが負けず嫌いだと知ってるから。
「じゃあね!」と扉の取っ手をキングズベリーに合わせると、ソフィーはどしどしと足音を響かせて出て行った。
「今度は何をやらかしたんだよ・・・」
鍋の下で火力を調節しながら、カルシファーは溜め息をつく。
すると、2階からハウルの大きな叫び声が響き、城全体が震える。
「ソフィー!!!!!!!!」
バタン、どすん!騒音を巻き起こしハウルは寝室から飛び出して、階段を駆け下りる。
「ソフィー!ソフィー!!」
あれほどの乱雑さで鍋に放りこまれ、味見もせずに入れられたはずの調味料であったのに、スープは美味しそうな匂いを漂わせる。ハウルは寝間着のまま手に紙切れを握り締め・・・何故か嬉しそうににこにこしている。
「ソフィーなら出て行ったぜ。あんたのこと怒ってたみたいだけど?なんであんたは能天気に笑ってる?」
怪訝そうにくぐもった声を出すと、ハウルは握っていた紙切れをカルシファーに見せる。
「だってさ!これ!見てよ!ソフィーてばこんなカワイイメッセージを枕元に置いてくんだよ!?」
カルシファーがちらりと紙を見る。

『ハウルなんてダイキライ!』

カルシファーはますます怪訝な声でにこにこするハウルを見上げる。
「あんた、これ読めないのか?」
「やだなー、カルシファー!ちゃんと読めるさ!だってさ、こんなカワイらしいメッセージを枕元に残して行く奥さんっているかい?いつまでも寝かせなかった僕が悪いんだけどさ。こんなメッセージもらったの初めてだよ!ああ、今すぐ抱きしめてキスしたいのに!僕のカワイイ子ねずみちゃん!」
「だから、どのへんがカワイイメッセージなんだよ?」
火の悪魔は、指を鳴らして寝間着から着替えキングズべリーに向かうハウルを見送りながら、火力を弱めて呟いた。







        end