「有効期限」の続き・・・というリクをいただいたので、続きです。


とばっちり



「ソフィーさん?顔が赤いですよ?」
荒地に花を摘みに行く時間を過ぎて起きてきたソフィーに━━言いなれた台詞ではあったが━━マイケルはいつものようにソフィーの身体を心配して声を掛けた。
肩で息をして階段を駆け下りてきた様子から考えれば、体調が悪いとは言えないだろ!と火の悪魔はマイケルに視線を送っていたのだが。
「なんでもないのよ、マイケル。」
苦笑しながらエプロンの背中の紐を器用に結ぶソフィーは、火の悪魔のからかうような視線を感じてコホンと咳払いを一つした。
「さあ、マイケル。花を摘みに行きましょう。」
所在なさそうに慌てて籠を抱えたソフィーは、キッと二階を睨み付けると乱暴に扉を開け、荒地へと飛び出した。
「・・・またハウルさんかあ・・・」
ようやく事情が飲み込めたマイケルは、お前鈍いぞ!と笑うカルシファーに溜め息をついた。
「だってさ、カルシファー。あのハウルさんがだよ?こんなに女の人にしつこ・・・執着するとは思わなかったんだ。そりゃ、ご婦人が夢中になるまでのハウルさんは、呆れるくらい追いかけまわしていたけどね。」
カルシファーは暖炉の中で青い炎を大きくすると、マイケルのどこか幸せそうに困った顔を見て笑った。
「あの馬鹿はさ、初めての恋をしてるお前と一緒なんだよ。」
そういうカルシファーの炎は呆れた口調とは裏腹な、どこか柔らかな色合いを見せていた。
「初めての恋・・・あのハウルさんが、誰かに心奪われるなんてね・・・」

ソフィーが来る前のハウルは、刹那的に感じた。
面白おかしく話をしてくれても、夢も希望も語られることはなかった。
感情をオーバーに表現したり、みどりのねばねばを出されても、ガラス玉のような瞳には、本当の心が映し出されはしなかった。
まさか心臓をカルシファーに預けていたなんて、知らなかったけど。

マイケルは老婆のソフィーが転がり込んで来る前のハウルを思い出して、目を細めた。
今のハウルが、どんなにイキイキしているか考えて、しかし、そのことでもたらされるちょっとしたトラブルを思って肩を落とした。
「マーサとぼくの可愛い恋愛とはちょっと違うと思うけど。」
「今日は荒れるぞ。ソフィーの呪いを感じるからな!」
カルシファーのどこまでも楽しそうな声を背中に聞きながら、マイケルは大きな溜め息を吐いて桶を抱えて荒地へ向かった。



「起きてきませんね、ハウルさん。お仕事間に合うんでしょうか?」
花を摘み終えて、朝食の仕度にかかるソフィーをちらりと見て、マイケルはおずおずと訊ねた。
ソフィーはその背中からでも表情が読み取れそうなほど、怒りを含ませて「マイケル、あの人を起こしてきて」と呟いた。
背中から殺気が漂い、ソフィーを見上げていたカルシファーが青い顔をますます青くした。




「ハウルさーん、起きてくださいっ。朝食できてますよ・・・!」
寝室のドアを叩いても返事はなく、マイケルはすごすごと廊下を引き上げだしたが、「中に入っていいから、しっかり起こして頂戴!!」という階下からソフィーの声が響き、慌てて踵を返した。
寝室のドアを開け、ベットで気持ちよさそうにベットカバーに包まっているハウルを揺り動かしながら、マイケルは「起きてくださいっ!ハウルさん!」と必死に起こした。このままソフィーの機嫌が悪いのは、心臓によろしくないのだ。あまつさえ、明日のマーサとのデートに差し障りがあってはたまらない。
「・・・・もう少し寝かせてよ、マイケル。」
ハウルはうるさそうに眉根を寄せて、カバーを引寄せ頭から被ろうとする。
「ダメですよっ!ソフィーさんが、ちゃんと起こすようにって・・・!」
心地よいベットの中に潜り込まれては、任務遂行は難しいだろう。
マイケルは負けじとベットカバーを握り締め、剥ぎ取りにかかった。
「やめなさいっ!・・・っっっ・・・・!くっ・・・・・・!マイケルっ、師匠の言うことが聞けないのかい!?」
「聞けませんっ・・・!早く起きてくださいっ!」
「課題を増やすよ!?」
「嬉しいですよっ・・・!さあ、起きてくださいっ!」
マイケルのベットカバーを引く力が強くなり、ハウルは慌てて叫ぶ。
「まっ・・・!こらこらマイケル。ぼくの裸が見たいの!?」
「ひぇっ!」
ひったくられるようにしてベットカバーはハウルの手を離れ、間抜けな声をあげて、真っ赤になったマイケルは倒れこんだ。
ばさりとカバーはマイケルの上に覆いかぶさり、ハウルはカバーの中でわたわたとするマイケルを笑った。
「そんなに見たかったら、言ってくれればいいのに。遠慮しなくていいんだよ?」
からかうように言いながら、ハウルがマイケルのもがく手を引き上げようとしたその時。
「あんた・・・・っ、マイケルにまでっ・・・・!」
空気を震わすような地を這う声に、ハウルが振り向くと、真っ赤な髪を怒りのオーラで立ち上がらせたソフィーが立っていた。
射るようなその視線の先にある自ら━━全裸である━━と、床に倒れこんだ息を乱したマイケルを見て、ハウルはソフィーに手を伸ばす。
「ソフィー・・・?」
「このけだものっ!」



「酷いじゃないかっ!お前の所為でソフィーってば、変な勘違いして出て行ったじゃないかっ!!」
「酷いですよっ!明日のデートが台無しになったらどうするんですかっ!!!!」
「あの忌々しい2ヤードの呪いだって、今夜までなのに!ソフィーが帰って来なかったらどうすんのさ!!」
「ハウルさんの所為で、マーサに誤解されたら・・・!とんだとばっちりですよっ!」
言い合う二人の前で、暖炉の中のカルシファーは呆れたように苦笑した。




end








ということで、ふじさきさん20万HITリクありがとうでした^^
え?こういうことじゃないって?(笑)