フリー暑中見舞い終了いたしました。
「to know love」のハウソフィサイドとなっております。
目を閉じて、キスをしよう。
昼間のうだるような暑さとは違い、柔らかな闇色に包まれた丘には心地よい風が吹いていた。
青々とした草の上に、どこからか取り出したシートを広げハウルは夜空を見上げて寝転んだ。
「ほら、見てご覧!今日はネオンも抑えられてるから、ここでも星が見えるよ!」
そう言って。
彼の隣で困ったように立っている、愛しい妻に声をかける。
「ソフィー?そんなとこで立っていないで、あんたも早くお座りよ?」
「・・・ねえ、ハウル?やっぱり今日は帰りましょう?レティーやベンに何だか悪いわ。」
ソフィーの言葉にお構いなしで、ハウルは指先を少し動かし何事か呟く。すると風が舞い起こり、ソフィーは「きゃ!」と慌ててスカートの端を押さえて座り込んだ。
「あんたって!なんて幼稚な・・・!」
「ベンにはちゃんと薬を渡したよ。僕で実証済み。あれを飲めばすぐによくなるよ。」
真っ赤になって抗議するソフィーの手首を持ってぐいっと引寄せると、ハウルは自分の心臓の上にソフィーの顔を押し付けるように抱きしめる。
「それにね、サリマンはあんたの妹にメロメロなんだから!愛するレティーのためなら何だってしそうだろう?」
あんたに何だってしてあげたい僕と同じさ!
ハウルは額に口付けると、愛しいソフィーの匂いを胸いっぱいに吸い込んだ。
夏の太陽の下でとびきりの笑顔をふりまくソフィーをようやく独り占めできることに、ハウルは嬉しそうに口元を綻ばせる。
ソフィーはと言えば、手足をばたつかせ、何とか腕から逃れようと必死に腕を突っ張っていた。
「だって・・・あんたの風邪が伝染ったんでしょう?そりゃ、ベンはレティーを悲しませるようなことはしないだろうけど・・・」
「あんた、楽しみにしてたじゃないか。今日は妹夫婦のことは忘れようよ?」
真っ赤になった顔の火照りを冷まそうと、ソフィーはようやく緩んだハウルの腕から抜け出すと、暴れて苦しい胸を押さえて丘を見渡した。
「ここは、どこ?ウェールズじゃないのね?」
「そう。違う国。ウェールズから遠く離れた国だよ。」
闇の中で小さな色とりどりの光りが見える。
やや離れた場所から陽気な音楽が聞こえてくるが、ハウルとソフィーの周りには虫たちの鳴く声だけが響いていた。
ちらりとハウルを盗み見て、ソフィーは小さく溜め息をつく。
「・・・あんたは、本当にもう大丈夫なの?」
昨日まで、あんなに熱にうなされていたでしょう?
膝を抱えて座るソフィーの呟きに、ハウルは驚いて小さな背中を見つめる。
きっちりと編みこまれた三つ編みが細いうなじで袂を分かち、俯いてそこだけが強調されるうなじが、暗闇にぼうっと浮かび上がる。
その首筋が赤く染まっていて、ハウルの胸に温かなものが拡がっていった。
「ソフィーったら!」
僕の体調を心配していたの?
寝込んでいた間、どんなに甘えてもぴしゃりと跳ね返されていたハウルは、ソフィーの言葉にジリリと胸が熱くなる。
思わず飛び起きて、ソフィーを後ろから閉じ込めるように抱きしめると、可愛らしく染まったうなじに口付ける。
びくっと身体を硬くするソフィーにふりほどかれないように、ハウルは腕にぎゅうっと力をこめる。
なんて素直じゃない、カワイイ奥さんなの!
くすくすと背中で笑うと、少し怒ったソフィーの声が背中越しにくぐもって聞こえる。
「あんたが風邪を引くと、城中が迷惑なのよ?」
特にあたしは仕事にならないんだもの!
ふん!と鼻をならすその姿さえ愛しくて、ハウルは「うん」と言いながら頬を摺り寄せる。
−しゅっ!
空気を切るような音に、ソフィーは思わず後ろのハウルにしがみ付く。
ハウルは大丈夫、と優しく抱きしめて暗闇に上っていく光りに視線を向ける。
ドン!という大音響と共に・・・目の前に、大きく開く光りの花。
「まあ・・・!」
「どう?奥さん。気に入った?」
「凄いわ!ハウル!どうなっているの?・・・わあ!次々に花が開いていくわ!」
ソフィーは大きな光りの花に手を伸ばしたり、開いたと思ったらすぐに闇に溶けていく・・・花火に感嘆の声を漏らす。
腕の中で子どものようにはしゃぐソフィーに、ハウルは微笑む。
あんたのその顔が見たかったからね。
「ソフィー、目を閉じて。」
言われるままに、まるで疑いもせずに瞳を閉じるソフィーにハウルはゆっくりと口付ける。
びくっと瞼を震わせて、それでもソフィーは瞳を開けられなかった。
その瞼の裏に、恋の花火が打ちあがっていたから。
end