5万打祝いにいただいたイラストを挿絵にいただきました。
相棒ありがとう!!





little moon





ふと目覚め、傍らで眠る僕を・・・確かめるように・・・あんたは僕の指を軽く握る。
優しく、力を込め握り返すと・・・ほっとしたように眠りにつく。
こんな仕草、以前はあったかな?
一晩に何度も繰り返される、無意識の仕草。
それはすべて、あんたが隠した寂しさ。
そんなあんたを見ていると、求められる喜びと、与えてしまった苦しみに・・・板挟みになる。



「イヤよ。お願い、傍に居させて!」
めったに涙を見せない君が涙を流す。
その唇から、悲痛な叫びがあがる。
「 離れるのはイヤよ。何があっても、あんたの傍に居る!」
切ない願いは僕の手で遮断される。
…涙が幾重にも僕を包み、やがて遠ざかる。
それでも、ジンとの戦いの最中も響き続ける・・・叫び・・・願い。

ツライ、苦しい、悲しい。こんなにも愛しい気持ちを引き裂くなんて!臆病なあんたが、自分自身を盾にするなんて!
嬉しくて悲しい。あたしだって、あんたを守りたいのに、守られて残されるなんて、まっぴらよ!
ねえ、ハウル!届いている?死ぬなんて許さない!おなかの赤ちゃんの為にも、許さないわよ!?



ジンから城を取り返し、一週間。ほっと一息ついた頃。

あんたは毎晩うなされた。

全身に冷や汗をかき、唇を噛み締め…涙を流す。
いくら僕が声をかけても、ゆすっても目覚めない。
普段、涙を見せないあんたが、嗚咽を漏らす。
夢を見ているのだと判っていても、僕の心臓を抉りとる。
「ソフィー」
僕はしっかりと抱き締める。悪夢を追い出そうと。

あの時は、ああするよりほかなかった。愛しい妻を危険にさらすわけにも、ましてモーガンを巻き込むことも。
ソフィーもそれをわかっているから。

・・・あの時、ひとりでモーガンを産んだことも
「おかげでお産も軽くすんだわ」なんて明るく話す。

自分のツライ気持ちを押し殺して・・・悪夢を繰り返す。
それなのに、ジンニーだった僕を気付けなかったことまで、苦しんで。

ハウルは自分の願いをちゃんと聞いて、傍にいてくれたのに!って。

持ち前の責任感がソフィーを押し潰そうとする。
・・・でも、ソフィーは潰されて終わる人じゃないから。
結果、精神力の及ばない夢へと苦しみを蓄積してしまう。

「ソフィー、ごめんね。・・・あんたの手を僕から振り払うなんて!」
震えるソフィーの体を強く強く、抱き締める。
頬を伝う涙が、僕の胸を濡らす。

あの時、傍にいてあげられなかったから、せめて・・・夢の中では救ってあげたいのに。

「君は夢にまで鍵をかけて」

ハウルは悪くない、誰も悪くない。あのジンだって、仕方なかったのよ。・・・もう終わったことよ。

夢の中でまであんたは我慢するんだ。
僕は、こうして抱き締めるだけ。

ソフィー、ソフィー、もう決してあんたを一人にしないから、あんたの夢の中に入れておくれ?
たった一人で泣くのはやめて。

「愛してるよ。ソフィー。」

ついばむようなキスを幾度も落とす。
魔法をかける。
この頑丈な鍵を溶かす魔法。
毎晩、毎晩・・・・繰り返す魔法。
この悪夢からは、僕が助けだすんだ。今度こそ、あんたを一人にしないから・・・・。



今は・・・悪夢にうなされることはなくなったけれど。
あんたは今も僕を探す。
あんたが僕の手を求めた時に、かならず握り返してやりたくて。

「ソフィー、もう・・・あんたの手を放したりしないよ」
だから、安心しておやすみ?

モーガンも協力してくれてるしね。

くすっと、昼間は手が付けられないほど泣き喚く、小さな愛しい同志に微笑む。
ソフィーに寄り添って眠るナイト君。一緒に悪夢を追い出そう?

窓の外から覗く小さな月が、僕らを照らす。
切なさを愛しさに変えて。



朝、あんたはいつもと同じに僕を起こす。
「なんてお寝坊さんなの!もうみんな朝食を食べてるのよ!?」
「今日もキレイだよ、愛しい奥さん!」
そう言と、あんたは困った顔をして、頬におはようのキスを落とすんだ。







end