どっちにする?-原作said-





ある日の出来事。

荒地に広がる花畑。点在する泉ののほとり、インガリー一の魔法使いとその妻が長閑な時間を過ごしていた。
魔法使いは妻の膝枕に頭を預け、幸せそうに・・・にやにやとしている。
妻の方は・・・そのにやにや笑いとは正反対で、何とも恥ずかしそうに落ち着かない様子だ。

「ねえ、もういいでしょう?あたし、まだ掃除の途中なんだけど」
妻は膝の上にある夫の頭を両手で持ち上げようとする。
「酷いよ!ソフィー!徹夜続きの仕事を、やーっと(サリマンに押し付けて)終わらせて帰ってきたって言うのに!」
夫は金髪を駄々っ子のように振り、両手で妻の細い腰にしがみつく。
「3日もあんたと一緒に眠れなかったんだからね?」
だから、絶対、まだ、ダメ!夫はそう言うときゅっと目を瞑る。

このオトコは本当に27歳なんだろうか?

陽だまりの中、子猫のようにソフィーの心地よい感触を独り占めして、夫はまたにやにやと笑う。
「・・・だけどね?ハウル。もう1時間もこうしてるのよ?お店だってマイケル一人じゃ忙しい時間だわ。」
妻はめずらしく用心深く諭す。
妻だって、夫の帰宅が待ち遠しかったし、こうして膝枕をして過ごすのも悪くないと思っていた。
久しぶりに・・・疲れて帰ってきた夫に癇癪をぶつけたくはない。
「それに、今日はレティーがパイのレシピを聞きに来るのよ。さっきも言ったでしょう?」
妻の話など聞くつもりのない夫は「ソフィーの膝枕は最高だ」などと聞いてもいないことばかり口にする。
そろそろ・・・妻の顔がひきつってきているが、この夫はそんな表情(むしろ喜怒哀楽が隠せない)の妻も
愛しくて仕方がないのだ。

「怒った顔のソフィーって、ぞくぞくするよ」
思わず口に出してしまったものだから・・・・
「〜!いい加減にしなさい!ハウル!!」
妻は思い切り、夫の体を突き飛ばした。
「うあっ!!」
-ばしゃん!!
あまりに水際だったため、夫はそのまま泉に転がり落ちた。
「きゃー!!ハウル!」
妻は慌てて泉を覗き込んだ。







*****************







「ちょっと!ハウル大丈夫?」
そんなに深いとは思わないのだが・・・揺れる水面に、ぶくぶくと気泡があがる。
「やだ、ハウル!!あんた金槌なの?!」
ソフィーは立ち上がり、ハウルを助ける為、泉に入ろうと一歩踏み出す。

すると、水面が金色に輝き盛り上がる。
「なっ・・・!?」
ソフィーは口に手をあて突然の出来事に言葉を失う。

輝く水面に美しい・・・女性が立っている。
その女性は鈴を鳴らすような美しい声でソフィーに話しかける。
「どうしましたか?可愛らしい人。-私はこの泉に棲む精霊・・・。何かお困りかしら?」
きらきらと水を滴らせ、艶然と微笑む。
ソフィーはその美しさに見惚れていたが、弾かれるように精霊に告げる。
「あたしの夫が、ハウルがこの泉に落ちてしまったのです。どうか助けてくださいませんか?」
ソフィーは泉の中に入らんばかりの勢いで、精霊に懇願する。
精霊はふわりと微笑み、両手を天秤のように掲げる。
「あなたの落とした夫はどっち?」
「はっ・・・?」

再び水面が揺れ、精霊の両脇に・・・・静かにハウルが2人現れた。
-一人は金髪の・・・もう一人は黒髪の・・・どちらもソフィーの知っているハウル。

「あなたのハウルはどっち?」

・・・・・・・・・・・!

ソフィーは口の端をきゅっと結んで、泉の中に入り込む。精霊はぎょっとした表情を浮かべる。

思ったとおり!全然深くないじゃない!

「ちょっ・・・!!」
エプロンドレスの裾を膝まで持ち上げ、ずいっと精霊の前まで歩み寄ると・・・・

ぐいっ!

ソフィーは精霊の腕を掴み、ついに癇癪を起こした。
「なんてことしてるの!風邪ひいちゃうでしょう!!あんたが風邪を引いたら、もっと手が負えなくなるんだから!」
ソフィーはためらいなく精霊の手を引くと、ざぶざぶと岸に向かう。振り返ろうともせず岸に上がり、城へ向かってずんずん歩く。
「・・・ソフィー・・・どうしてわかったの?」
いつのまにか・・・ソフィーの引いている手は、ハウルのものに戻っていた。
城の扉の前で、ソフィーはようやく振り向くと、バツの悪そうなハウルを見上げる。
悪戯を叱られる、こどものような表情にソフィーは癇癪が治まっていくのを感じる。

まったく、仕方のない人。

ソフィーは溜め息をつく。
「どっちも本当のあんたでしょう?選びようがないじゃない。それに・・・」
ぽたぽたと水滴の落ちるハウルの髪を掻き上げ、両頬を包むと碧眼を覗き込み微笑む。
「あたしをどきどきさせるのは、いつだってハウル・・・あんた自身だもの。」







****************







インガリー一の魔法使いは、妻を抱き寄せ「ああ、ソフィー愛してるよ!!」
そう言って、あかがね色の髪に顔を埋める。
「ちょっと、濡れちゃうでしょう!!」
妻は大声で訴えるが、夫はにやりと笑った。
「一緒にお風呂に入らなくちゃね!!」


原作ハウル・・・結局おいしいとこどりv






end