you're precious
「今日の午後はお店を閉めましょう!」
ソフィーさんがめずらしく仕事を休むと言うので、僕はびっくりした。
今日は五月祭、きっとお店を開けていれば、女性にプレゼントする花を求め、客足が絶えないと思うけど。
僕がそう考えているとソフィーさんはいたずらぽく笑って「 ハウルとウェールズに行くの。」とウィンクをした。
喧嘩ばっかりしてるけれど、見ているこっちの方が恥ずかしくなるくらい、仲がいいんだ。
午前中から店はかなり忙しく、昨晩遅くまで王宮に引き止められていたハウルさんも起きてきて、店に出る。
でも、どうやらソフィーさんを誘いにくる男性客を牽制するためだったみたい。
そわそわとソフィーさんを盗み見る男性客は少なくない。
ハウルさんは、さり気なくソフィーさんの近くから離れない。
ソフィーさんには内緒だけど、店のあちこちに≪虫除けの呪い≫が隠されてるんだから。
それでも、まったく男性客を寄せ付けないなんてソフィーさんに怪しまれるから、強い呪いはできなくて。
だから、ハウルさんはべったり離れない。
今日はソフィーさん、ハウルさんと出かけるからすごく機嫌がいいから、いつもの何倍も笑顔を振りまいてる。
「ソフィー、ちょっと男性客に優しすぎるよ!」
「ソフィー、あんた家の掃除でもしてなよ」
「ソフィー、僕が花束作るから!」
そうして、片っ端から邪魔している。
本当に、ソフィーさんと出会う前のハウルさんからは考えられない。
「手伝いに来たの?邪魔しに来たの?」
なんてソフィーさんを怒らせては、「ソフィーの怒った顔も可愛いね」って、ハウルさんは喜んでる。
「ソフィーの怒った顔を見れるのは、僕の特権さ。」
・・・・確かに、ソフィーさんをあんなに怒らせることができるのは、ハウルさん以外いませんよ・・・。
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「 じゃあ、行ってくるわね!」
「マイケル、君も祭りを楽しんでおいで!」
お二人が行ってしまうと、昼寝をしていたカルシファーまで、「おいら、祭りを見てくる!」と出掛けてしまった。
静まり返った城。
いつもはうるさいくらい賑やかなのに。
「呪いの課題でもしようかな」
そう呟く僕の声が、ソフィーさんの磨きこんだ床にぶつかって響く。
・・・・・・・今日は僕の誕生日。
寂しくなんてないけど・・・まだ誰からも「おめでとう」って言われてない。
母さんが生きていたときは、朝起きるとすぐに「おめでとう」って言ってくれたな・・・。
「カルシファーがお祝いしてくれたこともあったな。」
あのあとソフィーさんが転がり込んで来たんだ。それからは、この城の『お母さん』みたいになって。
「マーサに会いたいな。」
今日はチェザーリは忙しい。マーサは快く僕に応じてくれるだろう。でも、仕事中にずっと話してなんていられない。
町中お祭りに浮かれてると思うと、ちょっぴり・・・
「寂しいな」
僕は頭を振って、呪いに必要な材料を揃えることにした。
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日も傾きかけた頃、僕は二度目の爆発を起こした。
「うまくいかないな・・・どこで調合を間違ったんだろう」
もう、今日はやめやめ!ハウルさんが帰って来たら聞いてみよう。
僕は、ガラス瓶や乳鉢を片付けて暗くなりはじめた室内に明かりを灯す。
もうそろそろ、マーサも仕事を終える頃だ。
マーサに「おめでとう」って言ってもらいたくて、僕は城を出て、チェザーリの店に向かった。
店に続く広場は祭りの盛り上がりを見せている。
僕はその人ごみを掻き分けて、お客でごったがえす店の中に別け入る。
いつもなら、カウンターでテキパキと仕事をこなす可愛らしい姿が見えるのに、今日は・・・・いない?
「あの、マーサは?」
カウンターで忙しそうにパイを袋に入れる顔見知りの店員に尋ねると、顔をあげ
「今日はもう交代しましたよ」と教えてくれた。
僕は、押し出されるように店の外に出た。
寮にも顔をだしたが、出かけた後だったようでマーサは居なかった。
しばらく、祭りの人ごみをマーサを探して歩いたけど・・・・どこかで待ち合わせをしていない限り・・・・
「無理・・・だな」
マーサは仲のよい徒弟さんたちと祭りを楽しんでいるんだろう。
「・・・・城に戻ろう・・・」
神さま、今日は僕あなたを恨んでしまいたい気分です・・・・・。
*************
「ただいま帰りました・・・・。」
まだ誰も帰っていないかもしれない城の扉を閉めて、僕は溜め息をついた。
「お帰り、マイケル」
「おかえりなさい」
「遅かったじゃないかー」
「マイケル、お邪魔してるわ」
4人の声が同時に響き、瞬間、僕の萎みきった心が膨らんでいく気がした。
「えっ?」
俯いていた視線を城の中に移すと、僕の前にマーサが立っていて。
「マイケル、お誕生日おめでとう!!」と、僕の頬に優しくキスをする。
カルシファーが「マイケル、今年も盛大にいくぜ!」と言うと、煙突からどんどおんと青い花火を打ち上げて、
驚いている僕に、ソフィーさんが小さな包みを渡しながら微笑む。
「これ、ウェールズで見つけたの。使ってちょうだい!」
僕の後ろで扉が開き、サリマンさんとレティーさんが息を弾ませている。
「遅れてすまない!!」「もう、はじまっちゃった?あら、マイケル!はい、プレゼント!」
レティーさんがキングズベリーの魔法用具専門店の包みを差し出す。
「これからさ!さあ、マイケルパーティーを始めようか!」
とハウルさんが朗らかに答えて。
困惑する僕の顔を見て、
「・・・マーサがね、提案したんだよ?『家族で誕生日をお祝いしたい』ってね!」
姉妹で料理を並べている方に視線を送りながら、サリマンさんが微笑む。
「これは、僕とサリマンから。早く一人前になって、マーサを迎えにいかなくちゃね」
ハウルさんが両手いっぱいの魔法書を僕に手渡し、悪戯っぽく笑う。
「準備ができたみたいだぜ!今夜はおいらもご馳走だ!!」
カルシファーが大声で叫ぶと、ソフィーさんが、母さんと同じ笑顔で言った。
「マイケル!お誕生日おめでとう!」
マーサの嬉しそうな笑顔と目が合うと、僕は嬉しくて、幸せで、涙が零れた。
―神さま、僕・・・・この家族に、マーサに出会えた事を
感謝します
end