そっと、そっと。
カサカサと薄い白い袋を手渡され、マイケルは師匠であるハウルを見上げ不安そうに手の中を覗き込む。
「・・・なんですか?これ?」
ハウルはにっと笑うと、さあ開けて見て、と椅子に座りながら告げる。
「心配しなくていいよ。僕からのプレゼント。」
ますます表情を曇らせて、マイケルは恐る恐る袋の中を覗き込む。いやにすべすべとした袋は乾いた薄い掠れる音を立てる。
こちらの世界のものではないことは、この白い袋を見ればわかる。袋の中からは赤や桃色の長い棒が見えていて、ちょっと前にハウルの手伝いで、王様の注文に答えた時に嗅いだ匂いがした。
あの時の嫌な気持ちを思い出して、ちょっと暗い気持ちになるがハウルはまったく表情を変えず、どこか浮かれた調子でマイケルの様子を伺っている。
「これは?」
「ああ、今夜は風もさほどないし、ちょうどいいじゃないか。」
ハウルは窓に目を向け一人頷き、再びマイケルに笑いかけると満足そうに足を組んだ。
「だから、一体・・・」
「ああ、カルシファーを連れて行ったほうがいいよ?マーサには至急長姉の下へ来るようにって手紙を飛ばしておいたから。」
「マーサがここに!?」
話が見えないマイケルは、不安で仕方なくそんな場所にマーサが来るなんて、とんでもない!とばかりに目を剥いた。
「ハウルさん!!」
「マイケル、バケツに水を用意した方がいいわよ。」
先ほどから姿の見えなかったソフィーが、店先からバケツを持って現れる。
「ソフィーさん!?」
こんな時、必ずハウルの行動に釘をさしてくれるソフィーが、今日はやけに嬉しそうに微笑んで、ぽかんとするマイケルにバケツを差し出した。
「きっとあの子も喜ぶわよ?」
「お二人とも・・・!なんのことなんですかっ?」
マイケルは片手にバケツ、片手に白い袋の取っ手を掴みながら、じゃあ僕たちは二人きりで何をしようか?とソフィーの手を握るハウルとそんなハウルに真っ赤になって手を振り上げるソフィーに、思わず声を荒げる。
二人はソファーに倒れこんで、きょとんとマイケルを見上げると、お互いに顔を見合わせる。
「ねえ、ハウル?ちゃんと説明した?」
「ソフィー、まだ話してなかったの?」
互いに呆れた!と呟いて、再びじゃれあうかのようにソファーのクッションを押し付けあう。
「ソフィーが『マーサとマイケルにも見せたい』って言ったのに?なのに黙っていたの?」
「あんたが『それなら僕に任せて!』って買いに行ったのよ!?あたし、使い方知らないのに言えないわよ!」
「何言ってるの!ソフィーとも昨日やったでしょ!あんた言っていたじゃないか!この花火はマイケルみたいだって!」
いつもの口論をいつものようにやりあって。
しまいにはくすくすと笑いあう師匠夫婦に痺れを切らし、マイケルは大きな声でハウルとソフィーに問い正した。
「ハウルさんっ!何してるんですかっ!これ、一体なんなんですかっ!?」
いつの間にか、ソフィーを組み敷いて怪しい雰囲気を醸し出していたハウルに泣きつくように、マイケルは白い袋を差し出した。
ソフィーは真っ赤になって、ハウルの顎をぐいっと押し上げると、ハウルの腕から抜け出して肩で息をしながらマイケルに向き直る。
ハウルは面白くなさそうに髪をかきあげ、椅子から立ち上がり暖炉から抜け出そうと煙突に入りかけたカルシファーを呼び止める。
「カルシファー、お前がいなくちゃ始まらないよ!」
「なんのことだよ!?つくづく、お前は悪魔使いが荒いんだな!」
「あら!カルシファーも楽しいと思うわよ!」
あたしたちが見たものよりは、随分小さいってことだけど。
ソフィーに言われて、カルシファーはやれやれとマイケルの近くに飛んでくる。
「ああ、あんまり近づいちゃダメだよ。カルシファー?これはね、花火だよ。手に持って楽しめるんだ。」
「あたしたちが昨晩見たものは打ち上げ花火だったけど、これは手に持って楽しむものなんだって。・・・ああ、あんたの花火もそりゃ綺麗だけどね?カルシファー。」
怪訝そうなカルシファーにソフィーが微笑むと、そうか?と明らかに嬉しそうにしてカルシファーはソフィーの隣に漂う。
「あんたが居なくちゃ、せっかくの花火も楽しめないものね。カルシファー、頼んだわよ?」
「しょうがないな!」
ハウルはちらりと冷たい視線をカルシファーに向けるが、さらに冷たいマイケルの視線に気がつき、慌てて袋から花火を取り出し棒の先についている赤い紙を指差す。
「いいかい?ここに火を点けるんだよ?そうすると不思議なものが見れるから。」
「姉さん!?何があったのよ!?」
ばたん!!と扉が開き、マーサが真っ青になりながら駆け込んで来た。
城の住人たちは、皆驚いてマーサを見つめる。
髪はぐちゃぐちゃ、まだチェザーリの制服のまま。
「・・・って、姉さん!?なんでもないの?」
急に力が抜けたようにその場に座り込むマーサにマイケルが慌てて駆け寄った。
「ハウル!?あんた一体どんな手紙を送ったのよ!?」
「ソフィーが大変って書いただけさ!実際、今日は忙しくて大変大変って言っていただろう?」
ソフィーは言い返してやろうと大きく息を吸い込むが、一瞬早くハウルがマーサに謝った。
「悪かったね。慌てさせてしまって。でも、こんな手紙じゃなきゃ、今夜急にここになんて来れなかったでしょ?」
さすがに、店じまい後に夜道を出歩くなんてことは、チェザーリのおかみさんは許してくれないだろう。
「・・・確かに、この手紙は有効だったわ、ハウル義兄さん!」
義兄をちょっと睨み付けると、しかしすぐにふふふと嬉しそうに笑い、すまなそうにしているマイケルの顔を覗き込んだ。
「でも。ねえ、何が始まるの!?マイケル、教えて!」
「さあ、小さな恋人たちにも素敵な夜を!カルシファーが保護者だからね!?」
「なんだよ!それ!」
不満そうな悪魔の声は無視して、ハウルは忘れてた!とポケットから小さな細い紐のような束を取り出し、マイケルに渡す。
「きっとマイケルなら、これを最後まで落とすことなく楽しめるだろうね。」
「?これも花火ですか?」
「そうだよ。でも、これは繊細だから。マーサ、よく見ておいでよ。きっと小さな花がマイケルの手の下で生まれるから。」
ハウルはくすっと笑って、ソフィーに、ね?と抱きつく。
ソフィーは頷いて、ハウルの腕をつねりながらマーサに微笑む。
「あたしもハウルもすぐに落ちちゃったもの。だから、マイケルの偉大さがよくわかると思うわ。」
どれほど忍耐強いか、ようくわかると思うから。
・・・でも、さすがハウルね。
何だかかんだと、マイケルの得意なものをちゃんと用意していたのね。
嬉しそうに手を繋ぎ、カルシファーを先頭に荒地へと繰り出して行ったマイケルたちを見送りながら、ソフィーはハウルの背中に微笑む。
線香花火がおまけだったことは・・・ソフィーは知らなかったのだ。
end
と、いうわけで(え?)マイケル編でした。
おかしいな?マイマーのはずが、ハウソフィですよねえ・・・?
リクくださったるっぴさん、いかがでしょう?