大好きな凛さんへ
ピュアでモーガンでハウソフィを!
無茶苦茶でしたね・・・;;
はらぺこ天使
大きなベットの真ん中で、お日様の匂いのするベットカバーにくるまって、小さな天使が可愛らしい寝息をたてる。
小さな手のひらは、ぎゅうっと大きな指を握り締めて。
枕元には絵本とぬいぐるみ。何故か食べかけのクッキーまでころがっている。そしてこの天使が宝物にしている、不思議な色の小石が小さな手から落ちたのだろう。顔の周りに散らばっている。
薄いぴんく色の柔らかな頬をつつき、ハウルはくすっと笑う。
「今日もモーガンにベットを占領されちゃったよ。」
寝室の扉の前で、腰に手をあてて苦笑しているソフィーに目配せすると、ハウルはゆっくりとモーガンの指をとく。
「あんたたちは、寝息が聞こえるほんの数秒前までベットの上で大はしゃぎしてるんだから・・・!」
ソフィーは小石をモーガンの秘密の(本人はそう思っている)小箱に入れながら、呆れた口調とは裏腹の優しい視線をモーガンに向ける。
「だってモーガンがせがむから、絵本の中の魔法使いに負けないように頑張っちゃうんだよ!」
指をくるくると回すと、パン!と風船が割れたような音とともに星の欠片のような光が四方に飛び散る。
ソフィーはまばゆい光の中で、悪戯好きな少年のように笑うハウルに内心、どきんとする。
それでも、そんな自分が悔しくて、ベットから腕を伸ばすハウルから逃げるように廊下に向かう。
「きっとモーガンもあんたのように、片付けの苦手な子になるわ。」
ちょっと待ってよ!というハウルの慌てた様子の声を背中に聞きながら、ソフィーは階段を下りる。
「せっかくモーガンを寝かしつけたのに、お礼はなしかい?奥さんはちっとも喜んでくれない!」
ハウルのいじけた様な声が追いかけてきて、ソフィーのすぐ後ろに張り付く。
「せめて眠る前のベットにクッキーは持ち込まないでほしいわね!」
「ああ、そうか。掃除好きで口うるさい奥さんを選べばいいわけだ!モーガンも!」
そう言いながら、ね?僕っていいこと思いつくよね?なんて呟いてみせる。
ソフィーは振り返らずに、ソファーまで歩くと繕いかけのハウルのジャケットを手にとり、すとんと腰掛ける。
「モーガンは・・・ベンのような誠実な人に育って欲しいと思うわ!」
ソフィーは義弟の生真面目な顔を思い浮かべて、針を手にする。
「そりゃないよ!ソフィー!モーガンをあんな可愛げのないオトコに育てたいだって!?確かに僕は不誠実という看板を背負って生きてきたようなオトコだけどね?あんたにプロポーズしたあの時から、僕は不誠実の看板は降ろしたはずなんだけど!」
ハウルは酷く憤慨した様子でソフィーの隣に少しばかり空いているソファーに無理やり座ると、ソフィーにずいっと詰め寄る。
「あ、危ないわよ!」
針を持つ手を慌てて引っ込めながら、ソフィーはむっとしてハウルを見上げる。
ハウルはその腕を握り締めると細めた瞳でソフィーの瞳を捕まえる。ハウルのエメラルドのような瞳には、ソフィーの心を一瞬にして麻痺させる魔力が宿っているかのようで・・・。ソフィーはそれでも最後の抵抗を試みる。
「マイケルに似てくれてもいいわね!優しくて、気が利いて。いつでも穏やかな気持ちでいられるわよ!」
じりりとにじり寄り、ソフィーの三つ編みを掴むとリボンをほどく。その髪をすくと、髪の先を一房握り締め、静かな怒りを潜ませるともう片方の三つ編みもほどく。ゆるやかにカーブを描くあかがね色の髪が広がり、ハウルの口端が少しあがる。
「マイケル!?あんたモーガンの力がどれほどかわかって言ってるの?あんたはまるで、父親である僕が悪い見本だって言いたいわけ?」
「あんたのようなぬるぬるうなぎで、臆病で、自意識過剰な人間がこれ以上増えてもらっちゃ困るわよ!それでなくても、モーガンはあんたにそっくりだってのに!」
ソファーに押し倒されて、針を持つ手が緊張する。ソフィーは、針先に神経を集中させながら、言葉を続ける。
「モーガンの瞳はあんたにそっくりよ!見つめる相手を虜にするような碧眼!加えてあんたそっくりの顔立ち!あたしがいくら悪戯されて怒っても、結局許してしまうのは、あんたに似てるからだわ!最近は話し方まであんたの真似をして!」
ハウルはソフィーが言葉を紡ぐたびに、ぱあっと美しい笑顔を嬉しそうに輝かせていたのだが、ソフィーは針の先を刺してはいけないと指先を見つめている。
「頑固なところもあるじゃないか!あれはソフィー譲りだね!一度言い出したら聞かないんだ!それにさ、何でも知りたがる!僕の指先の魔法に食入るように見てる顔ったら!あんたにソッックリさ!ソフィー」
「あら!」
ソフィーは思い切り横にずれて起き上がると、上半身を勢いよく起こし顔をしかめて見せる。
「モーガンは大事な事はしっかりやる子よ!そんなとこまであんたにそっくり!」
くすくすと思わず笑うと、ハウルが優しく腕を回し自分の胸にソフィーの頭を引寄せる。
「ソフィーに似てお節介で!迷子の子猫を抱えて、親猫を探し回ったよね!自分が迷子になって大泣きしただろう?」
ソフィーの指先から針を抜き取ると、ハウルはそっと頬に口付ける。ソフィーははっとしてハウルを見つめ・・・一振りで針が元あった針山にくるりと戻っていくのを眺める。
「僕らの天使は、今どんな夢を見てるのかな?」
「そうね・・・きっと大魔法使いハウルが・・・指を一振りして・・・素敵な小石を見つけてくれる夢かしら?」
「ねえ、カル?」
すっかり日が昇りきった城の中。ソファーに二人仲良く並んで眠る両親を前に、モーガンはカルシファーに尋ねる。
「おとーたんと、おかーたん、どして、ベットで寝ないの?」
カルシファーは、やれやれと溜め息をつくと、モーガンの不思議そうに覗き込むエメラルドの瞳に苦笑する。
「あんまりお前がカワイイから、食べちゃわないようにじゃないか?」
「???」
モーガンは小首を傾げ、難しそうに眉を寄せてから、にこっと笑って駆け出して。
ハウルとソフィーの真ん中に割り込み大きな声をあげた。
「おなかすいた!おとーたん、おかーたん、食べちゃうお〜!」
はらぺこ天使は、二人の頬をぱくりと食べた。
end