まひるさんのお誕生日プレゼント〜!
うーん・・・ジブリじゃないなんて、ごめんね><
いつも優しいまひるさんへ!本当におめでとう〜!






眠れぬ夜は、君を想う。





作業台にまるで投げ出すような恰好で、ハウルは突っ伏していた。
何度も頭の中で繰り返される言葉。
『あんたって、本当に厄介な性格なのねえ!』
『でも。・・・だからあんたはあたしを見つけられたんだわ。ひっそり隠れるようにしてたあたしに、あんた気づいてくれたもの』
あかがね色の三つ編みを揺らし、振り向きざまに告げた言葉。瞳は可笑しそうに輝いていた。
それは、ほんの5分前。



黒い取っ手に合わされた扉から、ハウルとソフィーは城に戻った。
そう、今までいた場所はウェールズ。
ミーガンに『ソフィーを一度ディナーに連れてくるように』と言われていたことを 当日のほんの5分前に告げられて、ソフィーは怒り狂いながらそれでも恋人の姉に笑顔を向けた。
・・・楽しい夕食会になったとは云い難いが、ソフィーはすっかりマリに懐かれミーガンの鋭い視線から逃げ回ることが出来てほっとしていた。ミーガンの気持ちがわからないでもないソフィーは、慣れないながらも後片付けを手伝い、ミーガンに悪くない印象を与えてリヴェンデルの家を後にした。
そうして。
城に戻ったソフィーが言った一言は。
「あんたって、本当に厄介な性格なのねえ!」
急速にハウルとソフィーの周りを城にある色が全部取り囲み、ソフィーのスカートの丈はくるぶしまでのいつもの長さになり、ハウルのよれよれの服は青と銀の服に変わった。
そんな様子を目を見開いて眺めるソフィーは、星空を見上げる子どものように瞳がキラキラと輝いていて。
ハウルは抱きしめたらすっぽりと腕の中におさまってしまう恋人の後ろ姿を怪訝そうに見つめ、あかがね色の三つ編みをつんと引っ張る。
「どういう意味だい?ソフィー。」
ソフィーは振り向いてハウルを見上げると、左手でハウルのひらひらした袖口を引っ張り、まじまじとそれを見つめ、そして笑い出した。
「何が可笑しいの?」
「だって!あんたってば、あっちではよろよろのボロみたいな服ばっかり着てるのに・・・。」
ソフィーはそれでも笑いをかみ殺そうと、必死で真面目な顔をしようと努力している。
そんなソフィーを珍しそうに眺めつつも、なんだか居心地の悪い気持ちになってハウルは手をひらひらと振った。
「ああ、もういいよ!ソフィー。どうせあんたに言ってもわかんないだろうけど、あっちでは特にあれがよろよろってわけじゃないんだから!それに、あのトレーナーは僕の輝かしい・・・」
ハウルが誇らしげに話し出しても、ソフィーは・・・笑っている。
「あたしが言ってるのは、そう云うことじゃないわ。」
いつものソフィーであれば、フン!と鼻をならすだろうに、今日はどこまでも笑顔で。
いつもと違う反応にハウルは後ろからソフィーを抱きしめて、耳元で囁いてみる。

きっと、真っ赤になって腕から抜けだそうとするんだから!

「じゃあなに?僕なにか可笑しなことしたかい?」
ハウルはソフィーが真っ赤になって、暴れだしても逃がさないように指を絡めて覗き込む。
しかし、そんなハウルの予想は大きく外れた。
見上げたソフィーと目が合って、ハウルの方がどきんと胸を高鳴らせた。
「ねえ、あんたはあたしにこう言ったわね?」
ソフィーはとても大人びた笑顔を見せると、するりとハウルの腕の中から逃げ出し手を差し出す。
「大丈夫だよ、臆病な灰色ネズミちゃん!・・・もう、忘れちゃったかしら?」
そう言って、ハウルのきょとんとした顔を見てまた笑い出す。
「ハウエル・ジェンキンス!あんたって、ウェールズではまるで昔のあたしみたい!きっと誰にも見つかりませんように、って思い願いながら生きていたでしょう!?」
ソフィーがどう?と首を傾げる。
「ここにきて、反動が出たの?それとも今が本当のあんた?」
ハウルは言葉に詰まる。

そうさ、ぼくは、誰にも見つかりたくなかったんだ。

初めてハウルが口ごもるのを(ミーガンの前以外で)ソフィーはちょっぴり勝ち誇ったような気持ちで眺めた。
「本当はどっちが好き?ウェールズのあのよれよれ?でも、やっぱりひらひらキラキラしてるほうがいいのかしら?」
ソフィーの瞳は好奇心に溢れていて、ハウルは何だか悪戯のバレた少年のようないたたまれない気持ちになった。
「どっちって・・・じゃあ、あんたはどっちが好きなんだい?」
ソフィーは大きな瞳をくるんとまわして、視線を微妙に逸らしたままのハウルを覗き込んだ。
「そうねえ、あたしにとっては・・・あんたはあんただから。」
くすっと笑って、ソフィーはハウルに背を向けると小さく囁いた。
「どんな姿でも好きだと思うわ。」
だから、無駄遣いしないでね?
また向き直り、ほんのりと頬を赤らめるソフィーにハウルは腕を伸ばして腕の中に抱こうとした。
「ソフィー!」
ソフィーはひらりと身をかわし、両手を後ろにまわして手を掴むと眩しい笑顔で告げた。
「でも。・・・だからあんたはあたしを見つけられたんだわ。ひっそり隠れるようにしてたあたしに、あんた気づいてくれたもの」
じゃあ、おやすみ!
そう言って、ソフィーは恥ずかしそうに自分の寝室に消えた。
カルシファーが、可笑しそうにハウルの上を漂う。
「どうしたい?色男!ちゃんと本当の事言ったらどうだい?"ぼくは見境なく声をかけてました"って!」
「うるさいっ!」
「それにしても。あのハウルが本当に好きになった相手には、キスの一つもできないとはね!」
これまた痛いところを突かれて、ハウルはぐっと言葉に詰まる。
カルシファーは嬉しそうにフライパンの歌を口ずさみながら、煙突の中へと消えていった。



ソフィーの言葉が胸に広がり、ハウルはくすぐったいような胸のうずきに溜め息をついた。

本当に、ソフィー。
あんたが無意識にくれる言葉や表情は・・・ぼくに新しい感情を芽生えさせる・・・

「今夜も・・・眠れそうにないよ・・・!」
眠れぬ夜は、君を想う。
 





end