こちさんへの捧げ物 お題は「贈り物」です。
タイトルからどきどきされた皆さん、期待外れですよ!?






with you - ソフィーの決心 -





何度来てもまっすぐ辿りついた例のない王宮までの道のり。ソフィーは花束を抱え何度も道を尋ね、ようやく宮殿の大階段の前まで辿りつくことができた。ちらり、と空を見ると太陽は真上で、正午の交代の鐘が鳴り響き、階段脇から一列に並び兵士たちが行進してくる。

ああ、よかった。間に合ったわね。

ソフィーは両手いっぱいの花をよいしょっと持ち直すと、大階段の上を見つめる。




「ああ、ソフィー!あんたに頼みたいことがあるんだ!」
出掛けに王室付き魔法使いは彼の妻にキスすると、目を輝かせて肩をつかんだ。
「何よ?いってらっしゃいのキスは今のでお終いよ?」
ソフィーがそう言うと、ハウルは苦虫を噛み潰したような表情をして碧眼を細める。
「そんな事・・・わざわざ確認しないで奪うから安心して!?そうじゃなくて・・・・!」
慌てて両手で唇を覆いソフィーがきっと睨みつけると、ハウルはよろよろとソフィーの肩に寄りかかる。
「あのさ、頼むから僕の話をちゃんと聞いてくれないかな?」
ハウルの溜め息交じりの声を耳元で聞き、ソフィーはどきんと胸が跳ね上がる。
「・・・!だって、あんたの頼みごとなんていっつもそんなもんじゃない!」
「あのね、今日はヴァレリア王女の誕生日なんだよ。だから正午に僕もご挨拶に伺うんだけどさ、その時に花束を持って来てもらいたいんだ!」
ソフィーはほっと胸を撫で下ろすと、自分の早とちりを誤魔化して鼻をならす。ハウルはソフィーのそんな仕草に必死に笑いを堪えて、魅惑的な視線を送る。恥ずかしさから視線を泳がせていたソフィーは、ハウルのその視線にぶつかり、渋々頷く。
「どんな花がよいの?まだ2歳よね?」
何故か老婆の姿の時から懐かれている王女を思い出し、ソフィーは頭の中に荒地に咲き乱れる花の中から王女に似合うものをチョイスしだす。

ホントに、くるくる表情の変わる奥さんなんだから。

すでに王女のことしか頭にないソフィーをちょっぴり恨めしそうに見つめ、ハウルはそうそう、と付け加える。
「正午の鐘が鳴ったら大階段の前で待ってて?ああ、もちろんソフィーが僕の凛々しく公務をこなす姿を見たいっていうなら別だけど?」
なんとかソフィーの瞳に自分を移そうと覗き込み、にっこり微笑む。
「いやよ。あの階段を上るのも、あんたの執務室に辿りつくまでに何人もの役人や大臣に挨拶されるのも!それにどこがどこか、さっぱりわかりゃしないんだもの!」
ソフィーが憤慨してハウルを見ると、だと思った!と破顔している。それが何とも憎らしい。
「だからね、正午の鐘に合わせて僕が階段下まで行くから、ソフィーに届けて欲しいんだ。いい?」
「ちゃんと時間を守ってよ?あそこに居るといろんな人に挨拶されたりして煩わしいし。」
以前、同じようにハウルに忘れ物を届けに行って兵士たちに囲まれてしまい、このヤキモチ妬きの機嫌が訳もなく悪くなったことを思い出し、頭を振る。
「もちろんだよ!奥さん。本当はランチを誘いたいところなんだけど・・・」
「そんなこと気にしないでちょうだい!さあ、今から花を摘みに行ってこなくちゃ!あんたもささっと出掛けて・・・!」
ソフィーが忙しなく言うと、ハウルはぐいっと腰を抱き寄せ二度目のキスをせしめる。
「・・・ハウ・・・!」
「それじゃあ、行ってくるね!正午に王宮で!」




「・・・正午の鐘に合わせるって言ったのに!」
ソフィーは噴水の前で楽しそうに語らう侍女たちの姿を横目に、いささか大きすぎたと反省した花束を抱えなおし、大階段の上を見つめる。休憩中の兵士が何人か声をかけてきたが、「夫を待ってますから」とにこやかに返し、たいていはハウルの名を出すと慌てて遠のいた。ソフィーは何か悪い噂でもあるのか?と不安になったり、何かとんでもない失態をしたのか、など取り止めのないことを考えたりして待つ。
階段に等間隔に並んでソフィーをちらちら見ている兵士たちの視線も痛く感じてきた。

いっそこの花をハウルに渡すように頼んで、帰ろうか・・・・。

ソフィーはおずおずと兵士に歩み寄ると、とびきりの営業スマイルを貼り付けて深呼吸する。

そうよ!あんな時間にルーズなオトコ、もう知らないんだから!

ソフィーは一番手前の若い兵士に声をかけると、嬉しいような困ったような表情を浮かべられる。
「なんでしょう?ジェンキンス夫人。」
「・・・・あの・・・・今、正午からどれくらいたちましたか?」
王室付き魔法使いにコレを届けてください!と言うつもりが、口を突いて出た言葉にソフィーは自分でがっかりする。

まだ、待つつもりなの!?

「あ、ええと・・・」
兵士は胸ポケットから懐中時計を取り出すとにこやかに「一時間ほどたちました」と答える。
「・・・・ありがとうございます」
ソフィーが頭を下げると、兵士は日焼けした顔から白い歯を覗かせて微笑む。
「あんたたちも、もう少しの辛抱よ?王女に会うまでは可愛らしく咲いていてちょうだいね?」
ソフィーは花たちを励ますように、何度も声をかける。ハウルに言ってやりたいことは山ほどあるが、仕事なのだから仕方ない。ハウルも今頃ヤキモキしている、そう半分諦めながら階段上を再び仰ぎ見ると・・・・・
「ハウル!!!!」
そこには金髪を煩そうに掻きあげ、何人かの女性たちに囲まれる王室付き魔法使いの姿がある。ハウルは、ソフィーの声を聞きつけるとあっという間に長い階段を飛び降りてくる。
「ソフィー!!!」
花束毎抱きしめて、ハウルは嬉しそうにソフィーの頬に口付ける。
「ごめんね、ちょっと遅くなっちゃっ・・・・」
「そうね!ほんのちょっと、一時間くらい待たせてもらったわ!さあ、ヴァレリア王女に渡してちょうだい!くれぐれも宜しく伝えて。あたしは、もう帰るわ。マイケルにまかせっきりで来てるの。」
ソフィーは大きな花束を渡すと、くるりと背を向け歩き出す。無償に腹が立って殴ってやりたい衝動に駆られるのに、涙が零れそうだったから。ハウルは花束を受け取ると、しまった!と云う顔で立ち尽くしていた。




「ソフィーさん、大丈夫ですか?」
夕食を終え後片付けを手伝いながら、マイケルは恐る恐るソフィーに尋ねる。正午の約束で出掛けて行ったはずなのに、戻ったのは2時過ぎでどうやら何かあったらしい、と察しはついたが、癇癪を起こすでもなく妙に落ち着いたソフィーの態度がやけに恐ろしい。
「後は、僕が・・・・」
マイケルがそう言いかけると、静かに扉のとってが回りカルシファーが遠慮がちに「ハウルだぜ」と告げる。ハウルは少し間を置いて扉を開ける。中に入るとまっすぐソフィーの元まで歩み寄り、ぎゅっと抱きしめる。
「今日は、ごめん!休憩に入ったら侍女たちに捕まってしまって・・・・!すっかり時間を忘れていて・・・!」
ソフィーはエプロンを握り締め、俯いている。
「あんたのお陰で、ヴァレリア王女はご機嫌だったよ!王様もたいそう喜んで。」
ハウルはぎゅうぎゅうとますますキツク抱きしめて、ソフィーを腕の中に閉じ込める。
「ハウル・・・・」
ソフィーの静かな呼びかけに、ハウルの臆病な心臓が跳ね上がる。
「な・・・に?」
「・・・・おかえりなさい・・・・。そして、これ・・・・」
ソフィーは握り締めていたエプロンのポケットから小さな小箱を取り出すと、ハウルに突き出す。てっきり酷い癇癪をぶつけられると思っていたハウルは内心驚き困惑している。
「?ただいま・・・・これ、僕に・・・?何?」
ハウルはどぎまぎした顔で包みを受け取ると、リボンを解き箱を開ける。
「これ・・・・!」
「懐中時計よ。あたしからあんたに。」
ソフィーは真っ赤になってそっぽを向く。ハウルは苦笑して、懐中時計を目の前にぶら下げてみる。
「これで時間を守れるわね?」
「ソフィー、これって・・・今日のことの厭味のつもり・・・?」

それでも、嬉しいけどさ!

ハウルがそう言うと、ソフィーは顔をあげてふん!と鼻をならす。
「あたしの決意表明よ!これからも、あんたと同じ時を刻んで行くんだって云うね!」
ハウルは一瞬息を呑み、ぱあっと花のほころぶような笑顔を見せソフィーを抱き上げると意気揚々と階段に向かう。
「ちょっと!ハウル、夕食、食べないの!?片付けが残ってるのよ!?」
ソフィーが腕の中でじたばた暴れると、ハウルは鼻先にキスを落としとろけそうな笑顔で告げる。
「ソフィー!そんな求愛されたら、今すぐ返事をしなくちゃ、だろう!?」
そして懐中時計をソフィーの胸に乗せ、口付けると嬉しそうに宣言した。
「この鼓動が時を刻むのを止めるまで、ずうっと一緒だよ!」
マイケルとカルシファーがぽかんと見送る中、二人は寝室に消えたのだった。





        end







無駄に長くなりました!こちさん、どうぞ(笑)