「別れましょう」の続きで。へタレ嫌いな方は読まないでね!





どうしようもない 






僕は眠れずに、時折小さく震えるソフィーをそっと抱きしめる。気づかれないように、逃がさないように。
噛み付かれた唇がいつまでもズキズキと疼く。
もう悲しい夜は明ける。愛しいあんたのを見つめて、髪に口付け、神聖な儀式のように何度も願いを込めて。それでも、あんたにした酷い仕打ちをなかったことになんて出来ないから・・・・。

目覚めたあんたに拒絶されたらどうしよう

怖くて怖くて仕方がない。僕は臆病者だから。酷いことをしなければいいと判っていても、子ども染みた僕の嗜虐心はあんたの愛を求めて愚かな行為を繰り返す。何年も空っぽだった心は貪欲にソフィーを求める。あんたが愛情を注いでも注いでも、僕の心はあんたの愛を求める。満たされてると感じてもすぐに不安になる。乾いた砂のように。

『本当に愛されてる?』

そんな乾いた僕の心は、いつだって確かめていたくて。
それがあんたを傷つけて。あんたも不安にさせて。そんなあんたを見て、僕は安心する。

『ああ、やっぱり愛されてる!』

どうして唯一愛する人を試して試して、何よりもかけがえのないこの人を悲しませてまで・・・繰り返す愚かな行為。
そうして・・・ソフィーを失って・・・?

ぞくりと背筋が凍る。

僕は腕の中のソフィーを見つめて恐る恐る瞼に触れる。
この瞳が僕を見つめてくれなくなるなんて・・・考えられない。
この唇が僕の名前を呼んでくれないなんて、イヤだ!この柔らかな髪も、滑らかな肌も。笑顔も怒った顔も。今更失うなんて、耐えられない。
あんたを形成する全ては僕のもの。心も身体も、吐く息さえ、僕だけのもの。

酷い悪夢にうなされるかのように、あんたがまた小さく震える。
「・・・ん・・・」
無意識に伸ばされた腕が、僕の背中に廻される。それは、いつものことで・・・今日は特別なこと。
「・・・!ソフィー・・・!」
嬉しくて・・・思わず強く抱きしめて、あんたの無意識に伸ばされた腕に涙がこみ上げる。
「ソフィー、許して・・・!」
囁くように吐き出すように。目覚めてあんたが拒絶するのを思い浮かべながら、それに震えながら、それでも抱きしめていたくて。子どものように、ただしがみ付いて泣くしかできない僕を・・・呆れても、幻滅しても、いいから。
「僕を見捨てないで・・・・」




緩やかに覚醒する意識に、いつものように腕を絡める。愛しくてどうしようもない、あんたに。
あんたは、一瞬身体をびくりと震わせ、あたしの名を呼び抱きしめる。

・・・・・!!!!

冷たい陶磁器のようなあんたの肌に包み込まれて、あたしは、はっとする。

・・・あたしったら、何で・・・・!!
あんなに酷いことをされて、あたしは何でここに・・・ハウルの腕の中にいるの!?

あたしはハウルの背中に廻してしまった腕を慌てて引こうとして、肩に落とされた涙に体が強張る。
その涙が魔法の雫のように、あんたの言葉と一緒に・・・あたしの心の奥に染み込んでいく。

ああ!どうして!あたしはわかってしまうんだろう!この酷いオトコの気持ちを。
試さずにいられない、あんたの弱さ・・・。
わかってなんてあげたくない。そんなことで、許してなんてやらないわ!

どんなに強く思っても、あたしの肌に触れるあんたのすべてが、自分に馴染んでしまっているのを・・・あたしが一番わかってる。大事そうに、悲痛な思いを込めたその指先があたしを抱きしめる。そこから溢れる感情はただ『愛しい』と訴える。

弱虫で臆病で、愛情を推し量ることでしか気持ちを確かめられず・・・信じることに不器用な魔法使い・・・・!
許したくない!こんな酷い仕打ちをしたこのオトコを。
それなのに、あたしを抱きしめて涙を流すこのオトコを・・・どうして・・・振り切ることができないの!?
あたしの気持ちをズタズタに切り裂いて、あたしの気持ちを無視して抱いて。あたしの心に無断で入り込んで!!
このオトコの狂気に振り回されるのはもうイヤだと思うのに・・・。
・・・悔しい。なんで愛しさがこみ上げてくるんだろう?

虚しさと愛しさがごちゃまぜになって、あたしの気持ちを混乱させる。突き飛ばしてやる!と頭の中で思っても・・・・気持ちとは裏腹に・・・・廻した腕に力がこもる。

泣きじゃくるあんたをどうして突き放せる?結局、あたし以外あんたを愛せるオンナなんていやしないのよ!?

自惚れでなく、本能で感じる。このどうしようもない事実。
悔しい。こんなに酷いオトコをまだ愛してるなんて!
とことんまで付き合ってやろうなんて・・・あたしもどうかしてるのね・・・。




「ソフィー・・・ソフィー・・・ごめんね」
愛しさの裏側に潜む狂気はどこまでも僕を狂わせる。ただ愛しいだけなのに。
ふと、僕を抱きしめるあんたの指先に力がこもるのを感じて、慌てて顔を覗き込む。
閉じられた瞳が震えてる。
「・・・・ソ・・フィ・・・」
胸を締め上げる愛しさに苦しくなる。
「ごめんね・・・ソフィー・・・許して・・・!」
キツク抱きしめて許しを請う。

ねえ、あんたはなんて答えるの?聞きたくて聞きたくない。終わりの言葉なら、永遠に聞きたくない!

「・・・許さないわ・・・!」

静寂がイタイ。
このまま心臓が止まった方が幸せな気がする。いっそ止めてしまおうか・・・。

あんたはぐいっと僕の髪をつかんで、引き寄せると・・・ゆっくり瞳を開ける。
あんたの瞳の中に情けない僕の顔が映る。

「許さない・・・!許してなんてやらない・・・!当分・・・一緒に寝てなんてやらない!」
あんたはそう言うと泣き笑いな顔をして見せ、僕の頬を思い切りつねる。
「どうしようもないオトコ!」

ああ、ソフィー!僕はどうしようもないほど、あんたに溺れてるんだ!!






        end






へタレ勝ち・・・・;んな馬鹿な!どうしようもないのは私だよ!