Kiss endurance race
ハウルが急にわめき出した原因は、いつも通りの子どもじみた我侭。
絶対に振り回されるもんですか!と鼻息荒く迎え撃つソフィーは、腰に手をあてベットの上で嘆き悲しむハウルを睨みつける。
「とにかく、もう起きてちょうだい!今日はシーツを洗いたいの!せっかくのよい天気なのよ?」
「あのさ、ソフィー。僕はまだ眠いんだけど。王様が気まぐれにくださったお休みを有効に使わせてくれないかな?でも・・・そうだなぁ・・・」
ベットカバーにくるまって、ソフィーに背を向けるその後姿に・・・どこか楽しそうな雰囲気が漂う。
あんたの狙いはわかってるのよ!?どうせ次にこう言うのよ。
「ああ、ソフィー!あんたがキスしてくれたら起きられる気がする!」
・・・やっぱりね・・・
くるりとソフィーに向き直り、両手を広げて満面の笑顔を向けるハウルに、ソフィーは鼻をならす。
「そう言うと思ったわ!でもね、ハウエル・ジェンキンス!偶にはあんたが朝食の前に起きてきて、『おはよう』って言って欲しいものだわ。キスしなきゃ起きれないだなんて。今までのあたしって、なんてあんたを甘やかしていたのかしら!」
ソフィーがキスに応じてくれない事に、ハウルの嘆き悲しむ台詞が続く。
「ああ、なんて僕って不幸なんだろう。愛しい奥さんは朝のキスすらしてくれない!ゆっくりベットで寝転ぶ楽しさも奪おうとして、それなのにキス一つしてくれないなんて!」
朝食よりもソフィーが食べたいだとか、なんとか、まくし立てる言葉は尽きない様子であったがソフィーは耳を塞いで睨みつける。
今日はその手に乗らないわ!いっつもそんなあんたに乗せられて、結局あんたの思うツボなんですもの!
「ねえ?ハウル。そんなに毎日キスしなくても、あんたを思う気持ちに揺らぎはないんだけど?あんたはキスの数で想いまで計る気なのかしら?」
おはようのキス如きでムキになるソフィーは、結局この魔法使いに勝てた例がないのだが・・・・。
「あんたはキスにこめられた深い意味合いを無視する気?口から伝わる媚薬に似た力はどんな愛の囁きにも勝るんだよ!」
「朝からそんな媚薬に翻弄されるなんて、まっぴらよ!」
「その愛の力が魔法には深く関係しているんだよ!?古来より、愛する人の口付けがどんな強力な魔法も打ち破ってきたことをあんたは忘れたの?僕はソフィーの口付けがなきゃ、生きて行けない!そんな性質の悪い呪いに掛かってるんだ・・・!」
珍しく髪の呪いを掛けていないせいで、ソフィーは一瞬真実めいた響きに頷きかけ、慌てて首を振る。
「性質が悪いのはあんたのその性格だと思うわ。何度もキスしたはずだけど、その性質の悪さが善くなったとは思わない!大体、いつもそんなことを言って、一日に何回キスしてると思ってるの?」
ソフィーが真っ赤になってまくし立てると、ハウルはにこりと笑って指を折る。
「そうだね、昨日はおはようのキスが一回。あ、その後すぐにお返しのキスもしたね。王室に行く前にもした。軽いキスが3回。ねえ、ソフィー唇にキスした回数だよね?昨日は帰ってきたのが遅かったけど、ただいまのキスの後、寝室で・・・」
「きゃああああ!もう、いいわ!ハウル!!」
優雅に折られていく指先を見つめ、ソフィーが悲鳴を上げる。
「何言ってるの!ソフィーが言ったんじゃないか。それでベットの上では・・・ああ、もう数え切れないな。でも30回は下らないよね?」
黒髪から覗く碧眼がきらりとひかり、甘やかな微笑をして半身を起こす。ソフィーが真っ赤になって口をぱくぱくさせているのを可笑しそうに見つめると、「でも少ないほうだよね?」と小首を傾げる。
「・・・!!少ないもんですか!・・・あたしは一回でも十分過ぎるほどだと思うわ!」
ようやく言葉を搾り出し、ソフィーは身体をぶるぶると震わせる。
「一回!!ソフィー!たった一回で僕への愛を済まそうって言うの!?なんて酷い奥さんだろう!あんたの愛はそれっぽっちかもしれないけど、僕のあんたへの愛しい気持ちは、たった一回で抑えられるほど少なくはないんだよ!?」
ハウルは腕を伸ばし、ソフィーを引き寄せると腕の中に包み込み溜め息をつく。
「それでも、どうしても一回にして欲しいなら・・・・」
ハウルの呟きに悪戯な響きを感じ取り、ソフィーはしまった!とばかりに足掻きだす。
ああ、あたしってなんでいっつも考えが足りないのかしら!
ややこしくすればするほど、あたしに勝ち目はないっていうのに!!
「ソフィー、僕の一回に濃縮されたキス、試してみる?」
横抱きに抱え込まれたままハウルの唇が迫り、ソフィーは顔を逸らして逃げようとする。
「な・・・ちょ・・・ハウル・・・!!」
かわした口付けが耳元に落とされ、甘噛みされるとソフィーは混乱し始める。ハウルは気をよくして他にも唇以外にキスを落とし、くすくすと笑う。
「これは唇にしてないからカウントされないよね?」
「・・・!ズルイ・・・!」
「あんたが逃げるからだよ。たった一回しかできないとなると、僕のありったけの愛を込めたキスにしなくちゃ!」
ハウルは嬉々としてソフィーを抱きしめると、顎を掴み上向かせカタチのよい滑らかな唇をソフィーの唇に重ねる。
「んんんっ!」
触れるだけのキスをしっかり押さえ込まれたまま続けられ、息苦しさに思わず身を捩り小さく唇を開くと、深い口付けに変わる。
何度も抵抗して背中を叩いたり胸を押してみるが、その度に強まるハウルからの攻撃にソフィーの抵抗もだんだん弱まっていく。
体中が痺れるような感覚にソフィーがぐったりしだすと、ハウルはソフィーの三つ編みをほどき、指で梳く。
ソフィー、僕って不正直極まりないヤツだって知ってるよね?
ハウルは心底嬉しそうに、楽しそうに、目を細めソフィーの反応を楽しんでいる。
・・・結局、ハウルの思うツボ・・・。
ソフィーは上手く思考がまとまらない頭の中で、悔しさと対抗心を燃やした自分の浅はかさを呪う。
ハウル曰く『口から伝わる媚薬』に、ソフィーはまんままと翻弄させられる。
たった一回のキスであれ、本気になった魔法使いには勝てはしないと・・・遅すぎる結論をはじき出して。
ハウルを起こしに行ったきり、降りてこないソフィーの代わりに洗濯物を干し終えたマイケルは、2階を見上げて溜め息をつく。
「マイケル、昼は外で食べたほうがいいみたいだぜ?」
「そうみたいだね・・・」
明日から、ソフィーは必ずキスでハウルを起こすようになると思う。
カルシファーとマイケルは同じ事を考えながら、城を後にした。
二人のキスは、いつまで続いたのか!?それは二人だけしか知らない・・・・。
end
ハウルとソフィーは一体何回キスするか?というチャからでたお題でした「キス耐久レース」笑