darling





柔らかなぬくもりが腕の中にないことに気づき、ハウルはゆっくりと瞳を開ける。
落とされた明かりに愛しい妻のシルエットが浮かぶ。
ベットの端に座り、小さな宝物を・・・慈しむように抱きながら子守唄を口ずさむ。
ハウルはもそもそと起き出し、ベットカバーを引きずりソフィーを後ろから抱きしめる。
甘いミルクの匂いがする。

「起こしちゃった?」
ソフィーは肩に頭を預ける夫に微笑む。
「泣いたの?」
「ええ、おなかがすいたのね。今たくさん飲んだから気持ちいいのよ」
「ソフィーの胸の中が安心するんだよ。柔らかくて心地好いから。」
ハウルはソフィーを丸ごと抱きしめながら、気持ちよさそうに腕の中におさまるモーガンの頬をつつく。
モーガンは一瞬顔をくしゃっと歪め、ソフィーの胸元に顔をすり寄せるとまた気持ちよさそうに息をつく。
そんな反応を新米パパとママの2人は、くすっと笑う。
小さな指はしっかりと握られ、時折ぴくりと開き、また閉じる。

幸せなひととき。
愛しい存在を抱きしめて、温もりを与え合って。

「ねえ、ハウル?」
ソフィーは身体をハウルに預け、寄りかかりながらそっと囁く。
「ん?」
ハウルは幸福感に満たされながら、ソフィーを覗き込む。
「今日は・・・あんたの誕生日ね。」
「そうだった?忙しくしていて、すっかり忘れていた」
ハウルは、ぐいっとソフィーの細い腰をベットの中央に引き上げ、冷たくなった足に毛布をかける。
「忘れていたの?」
そんな一連の動作に、ソフィーは腕の中のモーガンが起きはしないかと確認する。
モーガンはますますソフィーの胸にすり寄り、ふにゃっと笑う
「何かプレゼントしてくれるのかい?奥さん」
ソフィーとモーガンに一つずつキスを落とし、碧眼を悪戯っぽく輝かせる。
「何か欲しいものでもあるの?」
聞き返されて、ハウルは「うーん」と考える。

果てない望みは『ずっとこうしていること』。
愛する人と、愛する子どもと。
共に生きて、喧嘩して、笑って。

それは作っていくものだから。
「ソフィーが居てくれるなら、何もいらない。・・・・そうだ、ウェールズに一緒に行ってくれるかい?」

ソフィーはちょっと驚いた顔をして「どうしちゃったの?」と尋ねる。
ハウルが無茶なことを言ってくると想像していたから。
「モーガンが生まれて・・・わかったんだ。僕の誕生日は、母さんが一番大変な思いをした日だったんだなって。
僕の誕生日であり、生んでくれたことを・・・感謝する日でもあるんだって」

そうわかった今・・・母さんは居ない。

「悲しい思い出ばかりでも・・・生んでもらえなかったら、ソフィーに出会えなかった」
ソフィーは片手でハウルの左手を握ると、モーガンの胸に当てさせ、その上から包み込むように手を重ねる。
「そうしたら、モーガンも抱きしめられなかったわね」
ハウルは小さく上下する胸と柔らかな温もりを左手に感じ、そっと目を閉じる。
「あたしも、あんたのご両親に感謝してる。あんたに出会えない人生なんて、きっと色あせた、つまらない
・・・帽子が話し相手の生活だったでしょうね。」
ハウルは急に、がばっとソフィーに向き直り、重ねられた手をきつく握る。
「そうして、誰かと結婚して?冗談じゃない!僕以外の男と結婚するあんたなんて、想像しただけで腹がたつ。」
「でも、あたしたちは出会った。恋をして、結婚して、かけがえのない命を授かったわ。」
ソフィーは柔らかく微笑み、ハウルを見つめる。
「ハウル、お誕生日おめでとう。あんたに出会えて嬉しい。その出会いをくれたあんたの母さんに感謝する。
・・・・朝になったらウェールズに一緒に行きましょう。あんたの母さんは、なんの花が好きだったの?」

そうして、あんたと一緒にあんたを生んでくれたことを感謝する。孫の成長も毎年知らせましょう?

ハウルは泣きたくなるくらいの幸せな気持ちに包まれる。
「こんな素敵な誕生日があるかい?ソフィー愛しているよ。これから先・・・ずっと一緒に歳を重ねていこうね」

Happy Birthday!・・・My darling!






        end







ハウルさん!お誕生日おめでとう!!