恋愛談義 ハッター姉妹の場合
昼下がりのカフェで、レティーは紅茶を口に含むと突然話し出しました。
「私は・・・恋はするものじゃなくて、落ちるものだと思うの。」
がやがや町の若者がこぞって求愛した麗しのレティーは、今や王室付き魔法使いの弟子になり、その堅物で有名な魔法使いに夢中になっていることをソフィーもマーサもよく知っていました。今までどれほどの男性が言葉を尽くし、あの手この手でレティーを口説こうが、そうあの悪名高き魔法使いハウルでさえレティーを落とせなかったのです。その気高きレティーが頬を染めて急にそう言い出したので、ソフィーとマーサは一瞬カップを落としそうになりました。
恋の力って偉大だわ!
ソフィーは不思議なものを見るように、まじまじとレティーを見つめます。恋する妹の表情はひどく艶かしく師に恋心を抱く苦悩を滲ませ、ソフィーの目からもその美しさに磨きがかかって思えました。
「私・・・恋がこんなにどうしようもないくらい、心をかき乱すものだなんて知らなかったのよ・・・・先生の一言一言に一喜一憂してしまうの。自分の気持ちを抑えきれず、勉強に支障がでるほどよ・・・・!止められないの。どんどん好きになる。深みに落ちていくの。どうしたらいいのかわからなくなるのよ・・・。」
レティーが溜め息をカップの中に落とすと、周囲にいた若者たちからも溜め息が漏れました。
「あたし恋はインスピレーションだと思う。」
ここのところ少女特有の儚い美しさと健康的な可愛らしさを兼ね備えたマーサがはっきりと言いました。しゃんと背筋を伸ばし、なんとも自信たっぷりです。
「あったそのときにビビビっとくるものがあるのよ。マイケルと出会った時に感じたの!ああ、私この人と結婚するのね!って。」
マーサはソフィーを見つめてにっこりと笑うと、カワイらしい笑顔を見せました。まるでマーサにとって、それ以外の真実はこの世に存在しないとばかりに揺るぎない想いがほとばしります。若い二人にとってこれから育んでいく恋はまさにインスピレーションで始まったのでしょう。ソフィーは、城でマーサのことを褒めちぎるマイケルを思い浮かべ微笑みました。
「「で、ソフィー姉さんはどうなの?」」
妹たちは、期待に満ちた顔で姉を覗き込んできます。姉妹で一番奥手だったソフィーが、あの魔法使いハウルと結婚することになるとはレティーもマーサも考えていなかったのです。性格はともかく、美しさと魔法にかけてはインガリーで右に出るものはいないでしょう。そんな義兄を持つことになる妹たちは、ソフィーの恋についての解釈を期待を持って尋ねました。
「恋・・・!?」
ソフィーは、カワイらしい瞳を向けてくる妹たちの、好奇心に満ちた瞳に苦笑しました。こんな時の妹たちは、納得行く答えを聞きだすまでは梃子でも動かないことをソフィーはよく知っています。ソフィーは眉間に皺を寄せ、一生懸命考えました。恋と自覚したのはつい最近です。自覚して間もなくプロポーズされて・・・今にいたるのです。
「恋は・・・」
あかがね色の髪と同じに頬を染めて、ソフィーは顔をしかめました。レティーとマーサは身を乗り出してソフィーの言葉を待ちます。誰よりも美しいのに、それを隠すかのように生きてきた大好きな姉を、攫っていったハウルへのちょっとした嫉妬も忘れています。
「・・・恋は・・・罠・・・・?」
ソフィーがそう呟くと、レティーとマーサは同時に呟いたのでした。
「姉さん、・・・嵌められたわね」
end
某小説の台詞(笑)