ナイショ話



「まーったく、王様の呼び出しがこうしょっちゅうかかるのが嫌で、王室付き魔法使いなんてものになりたくなかったんだ」
金髪が顔にかかるのを優雅に払いながら、インガリー1と噂される美貌の魔法使いがため息をつく。

かれこれ、王様に呼び出されて一時間ほどたっただろうか?

分厚い<魔法考察・応用編>と書かれた紫色の表紙越しに、ハウルを見てサリマンはくすくすと笑う。
この美貌の魔法使いがイライラしている本当の理由がおもしろいほどわかるのだ。

「せっかくソフィーとゆっくりできると思ったのに?」

サリマンは本を閉じて笑いを抑えた。

今日は久しぶりに休暇の筈だったから。

ハウルは何気ない風を装い「まあね。でもそのありがたくない仕事を賜ったのもソフィーのおかげさ」と目を閉じる。
ふてくされたような彼の姿からは、あの恐ろしい荒地の魔女を倒したなんて信じられない感じだ。
あまつさえ、自分にかけられた呪いを解いたのも彼。
「そうそう、レティーから聞いたよ。マリッジリングをプレゼントしたんだって?」

レティーはソフィーのリングにとても興味を持ったようで熱心に話した。
『角度によって輝く色が違うんです』
『七色に輝く文字で何か呪文のようなものが刻まれていましたの。あちらの世界ではロマンチックな証をたてるのですね!』
夢見る乙女の眼差しでレティーはサリマンを見つめた。

「リングに<読めない文字>で何か書いてあったようだけど?なんて刻んだんだい?」
サリマンはハウルが「ん!?・・・それは・・・ほら、向こうで誓う言葉だよ」と、突然歯切れが悪くなったことで、
そうではないと確信する。
「<永遠に愛を>とか?だったらレティーは呪文なんて言わないな。彼女はちゃんと魔力を感じたようだったが?」
サリマンは、この年下の同郷の偉大なる魔法使いを弟のように感じていた。
特にソフィーが絡むと普段の尊大さとのギャップが可愛いほどだ。つい苛めたくなってしまう。
吹き出したい気持ちを抑え、「何か、もっとべつの言葉・・・まあ、今度伺った時にでも見せていただくよ」と優雅に微笑む。
「私の知っている言葉だと思うからね?」
ハウルはバツが悪そうにうつむき・・・小さな声で呟く。

「・・・・・A bad insect is not attached・・・」

・・・・・・・・・・・・。
―しばしの沈黙。
「ハ、ハウル!?」そういうとサリマンはこらえきれずに吹き出してしまった。

−悪い虫がつきませんようにー

リングに刻まれた切なる願い。

普段、生真面目な先輩である王室付き魔法使いの笑い声に、美貌の魔法使いは大きなため息をもらした。


・・・ただ、もう少しあと、この先輩魔法使いも同じようなリングを用意しようと焦るのだが・・・
それはまた別のお話。




        end