時間差攻撃!
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原作アンソロの原稿後に打ったため、その後日談・・・。
真実と噂の時間差
思いはいつか、届くはず。
あんたはまだ気づいていないけれど、ぼくはもうあんたなしじゃ生きていけそうにない。
息を吸い込むたびに、その感情が高まって。
切なくなるくらい、愛しくてしかたがない。
あんたが思うように優しくもできないし、大人な態度もできやしない。
ぼくの抱えるものは重く暗い。
それすら浄化してしまいそうなその笑顔に救われる。
だから。
泣かせるつもりなんてなかったんだ。
あんまり愛しすぎて、思いをぶつけ合うことが嬉しくて。
困らせた顔や怒った顔をぼくの為にしてくれることが嬉しくて。
まだ何が一番傷付くのかを理解できない間柄であることを忘れて。
声を荒げた。
売り言葉に買い言葉。
多分、それは途中までは余裕でかわしていたんだけど。
「もういい加減にしよう!あんたには所詮理解できないよ!ぼくはこれでも一生懸命やってるんだ!」
「理解ですって!?じゃあ、あんたはあたしの何を理解できているの?そんなのお互い様でしょう!」
ソフィーは真っ赤になってふんと鼻をならすと、腕組をした。
「お互い様!?ぼくはいつだって、あんたの言いなり!ぼくには自由はないのかい?なんてことだ!」
「自由が欲しいの?あたしが居たら自由はないっていうのね?」
ソフィーは噛み付いてきそうな勢いでぼくに言い返してきたから。
イライラを募らせて、あんたから目を逸らした。
「そうだね、あんたって一から十まで何でも知ってなきゃ気がすまいんだ!ぼくの気持ちなんてお構いなし!こんな、監視されたような生活まっぴらごめんさ!」
ぼくは冷めた笑い声を響かせた。
「ああ可笑しい!こんな恋人って!あんた、ぼくのなんなんだい?まさかまだ魔術師ジェンキンの母親のつもり?」
「ハウル、おまえ言い過ぎだよ!」
カルシファーがぼくの髪の上をすれすれに漂って、ほら!と目配せする。
「・・・。」
むしゃくしゃする気持ちにまかせて、言葉をぶつけたその後は。
なんとも後味の悪い静寂。
そして。
「・・・ソフィー?」
俯いて、エプロンの端を握り締めるソフィーはふるふると震えて。
「泣いてるの?」
恐る恐るソフィーに手を伸ばすぼくの指先を擦り抜けるようにして。
「泣いてなんかいない!誰があんたの母親なんて!あんたの母親役なんて、二度としないってあの時肝に銘じたもの!」
大粒の涙が頬を伝って。
「ソ・・・!」
ぼくはその涙に固まってしまう。
ソフィーはキッとぼくを睨みつけるように見ると、テーブルの上の焼き立てのパイをぼくの一張羅に向かって投げつけた。
「あっつ!!!!何するんだよ!ソフィー!」
「あんたなんか、知らない!」
慌ててパイを手で払うぼくの足をブーツ越しに思いきり踏みつけて、ソフィーは店先へと駆け出した。
「ハウルさん?ソフィーさん、どうかしたんですか?うわ!折角のパイが・・・・!」
マイケルは事情がわからず、大きな鉢を抱えてハウルを見つめる。
「なんでもないよっ。」
呟くぼくの後ろで、カルシファーがケケケと笑う。
「なんだい、あんたとっても美味そうだぜ!」
「黙れ!青びょうたん!」
ぼくはもう何がなんだかわからずに、椅子に座ると暗い気持ちに襲われる。
「ちょっと、ハウルさん!闇の精霊を呼び出すのはやめてくださいよ!?」
マイケルは足元に鉢を置くと、タオルを持って駆け寄る。
「・・・どうして、こんなに後味が悪いんだろう。」
ソフィーったら思い切り踏んづけるんだから・・・足はジンジン痛むし一張羅がパイでベトベト・・・それなのに、それなのに。
怒りよりも寂しさが先行する。
「・・・カルシファー、なんでソフィーは・・・怒ったんだろう?」
言葉にした途端、弱々しい自分の声に驚く。
さっきソフィーと言い合っていたときには、あんなに声が通っていたのに。
「さあな。あんたが自分が子どもっぽいのを棚にあげて『母親のつもり』なんて言うからじゃないのか?」
カルシファーは大きな口をあけて、無残な姿になったパイを頬張る。
「どこだろう?ソフィーが言い返さないで黙ってしまったのは・・・・何があんなふうにソフィーを黙らせたんだろう?」
ぼくがぶつぶつと呟き、頭を掻きむしっているとマイケルは床をごしごしと擦り、割れた皿を集めながら、そういえば、とぼくを振り仰ぐ。
「なんだかちょっと前のハウルさんみたいな人がいるんですね。随分酷いやり口でご婦人を誘うらしいですよ?
どこから流れてきた噂かも定かじゃないんですけど。
どうやら華美な衣装の目立つ青年らしいです。ね、なんだかどこかで聞いた話でしょう?
ソフィーさん、なんだか真剣にその話を聞いてましたよ。やっぱり気になるんでしょうか?ハウルさんはもうそんなことしていないんですけどね。」
マイケルは無邪気に笑うと、もう喧嘩するのやめてくださいね、とぶつぶつ言いながら手を動かす。
「・・・心あたりがない・・・ってわけじゃないだろ?
まあ噂が今頃がやがや街に届いたってことさ。でも。ソフィーはどう想ったかな?」
カルシファーが意味深にちらりとぼくを見て、こそこそと耳元で呟く。
全身の血が逆流するような感覚に、ぼくは自分が蒼白になるのがわかる。
「ええと、カルシファー。ぼく、一人になりたいようなこと言った?」
「言ったね。自由がないだの、監視されてるだの」
「で、でもさ、ぼくがソフィーをどんなに好きか、ちゃんと伝わるような、そんな言い方だったよね?」
「と・ん・で・も・な・い!」
高らかに宣言するカルシファーの前で、マイケルは皿の欠片を集めると、作業台に載せ「まだ残っていたかな?」と呪い粉の棚を開けている。
「それどころか、恋人といえないだの、挙句の果てには母親のつもり?とか言ってなかったか?」
「そもそも・・・ぼくらなんで喧嘩してたんだっけ?」
「おまえが衝動買いしてきた、そのひらひらした服のことじゃなかったのかよ!」
「あのさ」
確かめるのも怖くなり、そっと訊ねるとカルシファーは急に悪魔らしい顔つきになって、はっきり告げる。
「絶対、ソフィー勘違いしたね。」
ぼくは思い切り立ち上がると、倒した椅子を飛び越えるようにしてソフィーの後を追いかける。
思いはいつか、届くはず。
勝手な言い分だけど。
あんたはまだ気づいていないけれど、ぼくはもうあんたなしじゃ生きていけそうにない。
息を吸い込むたびに、その感情が高まって。
切なくなるくらい、愛しくてしかたがない。
あんたが思うように優しくもできないし、大人な態度もできやしない。
ぼくの抱えるものは重く暗い。
それすら浄化してしまいそうなその笑顔に救われる。
だから。
泣かせるつもりなんてなかったんだ。
ねえ、ソフィー。
酷いこと言ってごめんよ!
跪いて許しを請うから。
ぼくのところに帰ってきて・・・!
end
ソフィーsaidはこちら
「真実と噂の温度差」
そしてラスト
「温度の伝わる時間」