相棒!お誕生日おめでとう^^
偶には違う相方との絡みを。
相棒宅の絵板の二人、そして、あのおふざけへの布石捏造。
An oath as a partner
「殿下!この任命書はなんなんだ・・・!?」
扉を小姓が開けるのももどかしいと云うように中に入ると、魔法使いサリマンは王弟ジャスティン殿下の座る革張りの椅子までズカズカと歩み寄りながら、大きな声で詰め寄る。
今まさに、国王の間に出向いていたジャスティン殿下の前に立つと、立派な革表紙の任命書を開いてその鼻先に押し付けるように差し出す。
驚いたような視線を感じ、サリマンは珍しく舌打ちをしてジャスティンから一歩離れる。王弟付き召使いの存在を思い出し、サリマンは大きく息をついた。
普段、もう一人の王室付き魔法使いと違って、この魔法使いは冷静沈着で王子だけでなく王の信頼も厚いのだ。召使が驚くのも無理はない。
そんな親友の姿を『予想通りの反応だ』とくすっと笑い、ジャスティンは周囲の召使いを下がらせた。
「で、何が不満だって!?」
きっちりと留められていた詰襟を外すと、面倒くさそうに椅子に身体を投げる。
サリマンは腕組してそんな姿を眺めていたが、ゆっくりとジャスティンへ近づくと表紙を開いた任命書の任命欄を指差し、ずいっと差し出す。
「ここにサインされてるのは、おまえの署名ではないのか?」
ジャスティンは革表紙のそれを受け取り、まじまじと見つめる。
こんな紙切れ一枚で、簡単に人の運命が変えられてしまうんだぞ!?
兄は・・・その重みを知っているのだろうか?
その羊皮紙の上に書かれた文字は確かに、自分の筆跡で・・・・間違えようもないのだが。
なんせ、彼が書いて、大臣に運ばせたのは半刻ほど前のことだ。
「何故私が外される?いや、ハウルも外されたのはなんでだ?」
サリマンは珍しくもひどく不愉快そうに顔をしかめて、目の前の机に両手をバンとつく。
その瞳は明らかに不安そうで、自分のことを心配していることが長い付き合いのジャスティンにはよくわかった。
「なんのことだ?俺はただ、お前には名誉職のひとつも与えていいんじゃないかって思ったまでさ。お前とハウルが・・・まだ出て来る必要はない。戦場に、愛しい奥さんは連れて行けないだろう?」
おどけて見せるその表情に、サリマンは痛いほどの優しさを感じて溜め息をつく。
「・・・お前はなんで、そうやって自分を盾にする?そんな必要はないだろう?」
いつだって、人に任せられる立場であるのに。
王弟でありながら、なんでこうも不器用なんだろう?
私のような、半端な存在である者も分け隔てなく。
切り捨てていけばよいのに。
安全な場所で、見物していたっていいんだ。
「私やハウルは、そのためにいるんだ。私たちはよくわかっているつもりだ。この仕事を引き受けた時に。」
もちろん、自分が引き受けた時には、こんなにも心を傾ける愛しい存在が出来るとは思っていなかったのだが。
サリマンが苦しそうに眉をひそめると、ジャスティンは困ったように唸り、搾り出すように言葉を紡ぐ。
「兄は厄介払いできたと喜ぶさ。・・・・・まあでも・・・何だかんだと俺の将軍としての力量を認めてるのは王だからな。」
思わず自嘲気味に笑うと、整えられた銀髪をぐしゃぐしゃにする。
そうして、ようやく息が出来るというように大きく息を吸い込む。
「まだ・・・もっと・・・魔法の力が必要になるまでは、ここの守りを固めておいたほうがいいんだ。後方が心配じゃあ、偵察だって
できやしないだろう?それに・・・」
静かに親友を見上げ、思わず微笑んでしまう。
「奥方のつわりがひどいって聞いたぞ?遅くなったが、おめでとう。お前が父親になる日が来るなんて。いや、お前はいい父親になるだろうな。」
くすっと笑うと、ああでも、と付け加える。
「愛しいレティーが心配だからと、ハウルのように頻繁に家に帰ったり、休んだりはしないでくれよ?」
茶目っ気たっぷりに瞳を輝かせると、もう一度「おめでとう」と呟く。
「・・・・・こんな状況じゃなければ、もっと心から喜べただろうに。すまないな、サリマン。」
情けなくなって、思わず目を伏せる。弱気な態度は心を許せる相手だから。
ハウルにしても、サリマンにしても。
最愛の女性に新しい命が宿った時に。
よりによって、戦争に駆りだされるなんて。
兄上も酷な事を考えるものだ。
前線でなければ、ここに留まりさえすれば、あるいは戦争などという物騒なきな臭さは気づかずにいられるだろう。
それが、ほんの少しの時間稼ぎにしかならなくても。
「ジャスティン・・・・しかし、昨日までの閣議決定では私かハウルかが・・・」
「俺が任命されたんだ。お前には、後方を・・・固めてもらいたい。それが、将軍としての俺の采配だ。」
にやりと笑うその顔には、将軍としての自信を覗かせて。
「ハウルもお前も、まだ道具になる必要はないさ。いずれ引きずり出されるその時まで、奥さんを大事にするといい。ああ、俺は、気楽なもんさ!せいぜい、国王がおかしな策を練らないことを祈っててくれ。」
サリマンはこの王子が一度言い出したら聞かない性格だとよく知っている。そして、人を動かすことよりも自らが行動するタイプであることも。
だから、諦めたように苦笑して、そして革表紙をそっと閉じ恭しく頭を垂れるとまっすぐに立ち、低い声で宣誓する。
「ジャスティン、私はこの任務を引き受けよう。しかし、いざという時は呼んで欲しい。王弟としてでなく、親友として誓う。いいか?危険な時は、必要な時は必ず・・・・。」
そう云ってもこの男は呼びはしないのだろうと思いながらも。
「わかった。その時は、助けを呼ぼう。」
二人は握手して、どちらからともなく笑った。
「しかし、なんでこんな役職を?」
サリマンが不思議そうに尋ねると、ジャスティンは悪戯っぽくウィンクした。
「おまえが照れながらも、真面目に答える姿が目に浮かぶからさ。」
end
何の名誉職かは、私のおふざけ設定・・・;ははは。