お待たせしました・・・相棒。
続きです・・・。




ルーツ−2−




城の扉を開けると、そこにはぼくらの愛しい奥さんたちが楽しそうに料理をテーブルに並べているところだった。
「あら、おかえりなさい。早く終わったのね、視察。」
扉を閉めて、振り返るとソフィーがエプロンで手を拭きながら駆け寄ってきた。
サリマンは、と振り返れば、さすが年の功というのだろうか?
柔和な笑顔でレティーに歩み寄り、額にキスを落としている。
扉を開ける前まで考えていた、ぼくの思考回路はソフィーの笑顔で麻痺してしまった。
ソフィーには知られたくない、なのに、ソフィーの笑顔に縋ってしまいたい自分に驚いた。
「・・・?どうしたの?あんた顔色が悪いわ。」
ソフィーは不意に顔を曇らせ、ぼくの顔を覗き込むように背伸びをした。
ふと視線を感じてそちらを見ると、カルシファーとサリマンが心配そうに見つめていた。
━━大丈夫だよ。
ぼくは肩を竦めて、笑ってみせる。
「それはソフィーにただいまのキスをしてないからさ!ただいま!ぼくの愛しい人。」
腕の中にすっぽりと納まるソフィーを思い切り抱きしめ、呆気に取られる大きな瞳の直ぐ際にキスを落とす。
「お腹がぺこぺこだよ、とてもいい匂いだ!君たちが作ったのかい?」
ぼくは腕にソフィーを閉じ込めたまま、呆れたようにぼくらを見つめる妹たちに訊ねた。
「ほとんど・・・というより全部ソフィー姉さんが作ったのよ。」
「私たちは盛り付けたり皿を選んだだけ」
バツが悪そうに二人は目を合わせ、くすりと笑った。
「ちょっと・・・!ハウル!苦しいから離してちょうだい!」
じたばたと暴れるソフィーをもう一度思い切り抱きしめる。
もう、ぼくはちゃんと笑えているかな?
あんたに見抜かれないように、ちゃんと。
「ハウルっ!」
ばしん、と背中をこぶしで叩くソフィーに「ごめんね」と呟いて腕を解いた。
「ただいま帰りました!ああ、いい匂い、僕もうお腹がすいて・・・!」
何か言いたげだったソフィーは、戻ってきた弟子に苦笑して「おかえりなさい、マイケル」と言って笑った。
駆け寄ったマーサに頬にキスされて真っ赤になり、マイケルは皆が勢ぞろいしていることに驚いた様子で声をあげた。
「何かあったんですか?うわっ!凄いご馳走ですね・・・!何かお祝いですか?」
「マイケルの帰りを待っていたのよ。あんた昨日から大変だったでしょう?お疲れ様。」
ソフィーの声を遮るように、ぼくは声を張りあげた。
「ああ、なんたる絶望!ソフィーは夫のぼくではなくて、弟子の為にご馳走を作ったなんて・・・!」
「煩いわよ!もちろん、みんなで食べるためよ!ごちゃごちゃ言わないで、温かいうちにいただきましょうよ。レティー取り皿をお願いね。マーサ、スープ皿を持ってきて。カルシファー、もう一度温め直してもいいかしら?ああ、ハウルとベン、それにマイケルは手を洗ってきてちょうだいね!」
ソフィーは矢継ぎ早に言うと、くるりと振り向いてぼくに少し怒ったような笑顔を向けた。
「ちゃんと、綺麗にしてくるのよ?あんた向こうに行くと必ず風邪をもらってくるんだから!」
「・・・うん、わかったよ・・・・ソフィー」
ああ、ソフィーはわかってるんだ・・・。
ぼくが向こうへ行ってきたって。
涙が出そうなほどの安堵感を、どうしてソフィーはこうやって簡単にぼくに与えるんだろう?
先程まで胸の中で渦巻いていた感情は、ソフィーの言葉で流されていく。
ぼくの居場所はここなんだって、そう言ってくれてるみたいだ。
サリマンがぼくの肩を労わるように叩いた。
「サリマンぼくは、神さまなんて信じちゃいないんだけど・・・」

救われる。
ぼくの女神は、いつだってぼくの味方なんだ・・・。

「私だって、こんな美しい女神たちに許されるとは・・・思ってもみなかったよ。」
そう言ってぼくらが笑うと、マイケルが不思議そうに首を傾げた。
「女神がどうかしたんですか?」
その問いに、ぼくらは思わず破顔した。
「女神様、憐れな子羊を救いたまえ!」
ぼくがそう呟くと、マイケルはますます混乱した顔で「なんなんですか〜!?」と頭をかきむしっている。
「ぼくらは世界一シアワセな子羊だってことさ!」



「それじゃあ姉さん、ごちそうさま。とっても美味しかったわ。」
「今度は私の屋敷にも遊びにおいで。」
サリマンはレティーの肩を抱きながら、送ってもらう為にマイケルの隣に並んだマーサにそう言って、「ごちそうさま」とソフィーに笑顔を向けた。
ソフィーは少し心配そうに首を傾げ、「ベン、あなたもゆっくり眠ってね。今日は疲れたでしょう?」と苦笑した。
ぼくの女神はみんなに優しい。
「あ、ちょっと待って!」
ぼくはすっかり忘れていた物を思い出し、指を鳴らして手の上に出すと義理の妹へ差し出した。
「なに?義兄さん?」
レティーは美しい顔を不思議そうに曇らせ、サリマンを見上げた。
「屋敷に戻ったら使ってみて?きっといいことがあるから。」
「なんなの?」
ソフィーも不思議そうに首を傾げる。
ぼくは詮索を避けるように、花屋へ続く廊下へマイケルを押して行き告げる。
「それじゃあ、マイケル。ちゃんとマーサを送り届けておいで。あ、サリマンも明日は会議だから・・・」
「遅れるなよ?ハウル殿。」
先に言われてぼくが舌打ちすると、サリマンはくすっと笑った。
「私たちが何をすべきか、ちゃんと明日話し合おう。」
「ああ」
「それじゃ、おやすみなさい」
見送るぼくの隣に、ソフィーが立って訊ねた。
「それで?あれは何が入っていたの?あれ、向こうのものよね?」
知りたがりの瞳で訊ね、ソフィーはぼくににじり寄った。
「あはは、あれは向こうの洋服だよ!本当はあんたに着てもらおうかと思って買ってきたんだけど。」
あの服を着たレティーを見たあとのサリマンを少し想像してみた。
「どんな服?」
「サリマンが嫌なことも忘れてときめくような服さ!」
「・・・ベンも気の毒に・・・あんたの趣味じゃ・・・最悪だわね。」
「酷いじゃないか!ソフィー!なんなら、あんたにも同じもの用意するよ?」
「・・・いいわ、遠慮しておく・・・」
言い合いながらも、暖炉の前のソファーに並んで座った。

わかってるよ、ソフィー。
あんたは、ぼくが眠るまで・・・こうして傍に居てくれるんだね。
ぼくの見えない傷を・・・しっかり塞いでしまうように・・・。

ぼくをここに繋ぎとめる、唯一つの存在。





end







セット商品「隠し味は?」ルーツです。
さて、どんな衣装だったのでしょうか・・・サリマン教えて(笑)